タイトル:捜査官ポールの悩み3マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/04 02:28

●オープニング本文


「なぁ。どうも俺、難解な事件ばかり当ってる気がするんだが」
「ん?ポール、今ごろそんな事言ってるの?」

 ポール・アブディールは現在幼馴染兼友人のノーラ・シャムシエルに電話していた。
 理由は、ここ2か月自分の持ち場で発生している事件についてなのだが‥‥‥
「だいたいさぁ、ポールの周りって変なこと多いじゃない? ただでさえ左遷寸前なんだから、行動考えなきゃダメよ?」
「な、何でそんなことを知ってるんだ!?」
「ふふふ、あたしを甘く見ないほうがいいわねぇ」
「君じゃなくて、ナットーさんじゃないのか?」
「う、うるさい! そんなの関係ないじゃないの!!」
「いや‥‥充分関係あると思うんだけどなぁ」
「そ、そんなこと言うなら、もう手伝ってあげないわよ!」
「わわわ! う、嘘です! 手伝ってください!!」
「新作ケーキ、1週間!」
「う、人の給料をなんだと‥‥」
「あれぇ? それとも、事務所設定の料金払えるって言うのかしら」
「そ、そんな金額俺には無理だ!」
「ふふふ、それなら諦めなさい♪」
「ひでぇ‥‥だから男出来ないんだぜ‥‥」
「ん? なんかいったかしら?」
「いえ、いっておりません」
「まぁ、仕方ないわね。そちら側の詳細も手伝ってあげるわよ」
「ほ、ほんとうなのか?」
「ええ、だって本当は個人で雇ってはまずいんでしょ? なら、あたしが仲介に入ればまだ違うわよね‥‥立場的に」
「ああ、次ばれたら実際地方に‥‥」
「あ〜あ、どうせならいい男も捜さなくっちゃ」
「ちょ! またそんな事言ってるのか!」
「う、うるさいなぁ。だって結構いい男揃ってるわよ? 傭兵さんたちって」
「‥‥ノーラ、その発言どうかと思うが‥‥」
「いいじゃないのさ! 少しは夢みたっていいじゃないのさ!!」
「あぁ、面倒だけ起こさないでくれよな‥‥」
「すでに遅い! あたしに頼んだ時点で諦めなさい!」


「さて‥‥ノーラは手伝ってくれるといったもののどうやって調査するべきだろうか‥‥」

 集められた資料をポールは眺めた。
 数枚の写真、そして現場にあった物のリスト、様々なものが並べられている。
 証拠は明確であった。
 しかし‥‥

「やっぱ不自然なんだよな‥‥どうもおかしいと思うんだ」

 その証拠たちが語っている犯人と、ポールの直感では幾分食い違うことが多すぎるのだ。

「だって‥‥こいつら‥‥」

 そういって見たのは被害者の写真。
 ボードの横には詳細の情報が書き示されている。
 そして‥‥見つかった被害者の特定の部分がアップされた一枚も‥‥
 そこにみえたのは、ここ最近ポール自身を悩ませて仕方がないウロボロスの刺青が映し出されていたのだった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG

●リプレイ本文

<Strat>

 立場上から‥‥そんな理由でポールは動けないでいた。
 それは、上層部からのストップ。
 なにやら触れてはいけない部分へと触れてしまったらしい。
 しかし、無常にも事件は起こる。それも、何故自分の担当地区に‥‥と。
 幼馴染で探偵のノーラに手伝ってもらいはしたものの、最終的には自分が乗り出すしかないのはわかっていた。ただ、前回と同規模には人すら集められない。
 この街の夜が、これほど霧深いものだったなんて‥‥彼は今まで思ってもいなかった。
 ノーラがとりあえずした事は、ポールの介入を知られずに人を雇い、情報を仕入れること。
 外部参入を極端に嫌う古株たちは、斬新な方法で解決を望む彼を疎んでいるから。
 それをそっと助けることだけが、彼女にできることだった。

<Ready>

「‥‥『ウロボロスの刺青』にタロットカード、ね」
 事件のあらましを聞いたホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、小首をかしげるように情報を眺めていた。
 どうやらこの一件とかかわり深くなっている友人のアンドレアス・ラーセン(ga6523)や周防 誠(ga7131)と比べると、少し別の位置から情報を見ることができるのではあるが‥‥
――おや? 先の2件とは‥‥ちょっと違うのかな?
 揺らぐ紫煙が彼の気持ちを物語っているようである。

 声を掛けられてから3日間、現場の情報としてもたらされたのは僅かであった。
 謎のバラバラ遺体。置かれた2の枚タロット。そして、新たなる犠牲者。そこに埋め込まれた最後のカード。
 事件の発端で見つかった2枚は大アルカナ『正義』と『悪魔』、そして最後の一枚は血塗られた小アルカナ『カップの5』。そのカードの意味するのはなんなのだろうか。
 まるで、誰かを誘っているような、そんな匂いがするようで。

「それでは‥‥これらの情報を元に我々は調査と警備にあたれ‥‥それでいいんでしょうか」
「ええ、そのようにお願いします。あくまでも、ポールは関わりになってないようにね」
「わかった。危険なんだって? 立場」
「はい‥‥やはり外部からの協力を仰いだのが原因のようで‥‥」
「追い込まれた‥‥そういうことでしょうか」
「はい」
「大丈夫だ、我々だってそんなに浅はかではない」
「ええ、信頼していますわ。ホアキンさん」
「それでは‥‥どのように考えていくか、かな?」

<Search>

 現状わかっている点を突き詰めていくと、犯人の拘束と捜査を行うこととなった。といっても、逮捕権があるわけではない。危険な状況でないことを確認後、通報となるといったぐらいだろう。予め、現場の方は手回しをして捜査員が立ち入らないようにしてあった。まだ事件が起きて数日だ、普通なら捜査員が入るのだが、そこはなにやら秘密のルートがあるらしい。つまり、その時点で怪しい人物以外入ることは無くなる訳なのだが、そのことにはどうも気付いてはいなかったようだ。



 周防とドリル(gb2538)は事務所へと潜入調査を行うこととした。もし人がいたら困ると、周防は隠密潜行を使い、事務所内へと入る。入り口周辺を確認すると、素早くドリルを招き入れることに成功した。
 ドリルはトイレや金庫を主に調査しようと、周防はデータの収集へと当たることにしていた。ドリルは中に入ると、そのまま近くにあるトイレへと素早く隠れる、そして、周防は監視カメラを避けながら事務所内部へと移動していった。
 人の気配は感じない、そう感じつつも監視カメラは動いているため周防は素早く動き捉えられる前に移動をする。書類は、各机に入っていたものは要領を得なかった。続いて、壁際に反対側を向いておかれているロッカーを調べてみる。鍵は‥‥管理しているのだろう、机の中から発見することが出来た。そこには、およそこの会社の情報のほとんどを記載したファイルが並んでいた。周防はその一つを手にとって調べてみる。
 今までの取り扱い品目、そして取引ある会社の資料、業務成績‥‥綺麗に個別に整理されていた。監視カメラを気にしつつ、手早く調べていく。そしてあらかた確認すると、今度は別の部屋、いわゆる社長室のような場所を目指す事にした。
 ドリルはというと、音や振動に注意を払いつつ違和感が無いかを探っていた。
――遺体の欠如部分がもしかしたら‥‥
 そんな事が頭に浮かぶ。2名の欠如部分、右足と内臓なのだが、もしかしたらこの事務所へと隠されているのかもしれない。その考えにより、トイレから始まった調査は内部の金庫室へと場所を移していた。




 ホアキンの頼みによりポールから提供された地図を片手にアンドレアスは愛車ファミラーゼにロジー・ビィ(ga1031)を乗せ、倉庫を中心に周囲を巡回していた。事件現場はといえばダストボックスの有った倉庫ともう一つの遺体発見場所である。倉庫と倉庫の間にはもちろんコンテナボックスや、置かれたままの作業用車、さらにトラックなどが見受けられる。1列に10台ほど並んでいる棟が4列あり、丁度場所的には倉庫街入り口近くに事務所があり、中では3列に並んでいるうち一番手前の列に第一の発生現場、3つ目の列に第2の発生現場がある状態だった。第2の遺体は荷物の乗っているトラックの荷台で発見されていた。荷台の上で四方に散りばめられ、血飛沫があちこちに散っている状態で発見され、上半身の腹部に当たる部分へとカードが埋まるようにして刺さっていたのだ。そして、その身元は現場に来る段階で判明していた。S&G製薬会社、そこの物流担当社員だったのだ。
「クソッ。あの会社に、何があるってんだよ」
 思わず握ったハンドルを叩いてしまう。周囲に気を払っていたロジーが不意の行動に驚いた。スマンとばかりに手を掲げると、互いにまた周囲への警戒を強めていく。

 同様にホアキンもジーザリオに白雪(gb2228)を乗せ、事務所を中心に巡回していた。自らも暗視スコープをつけ、捜索を怠らない。白雪は今回の事件には、まだ被害者が出ることを考慮に入れていた。それは、最後に齎された一枚のカード、『カップの5』が切っ掛けである。そのため、より慎重に周囲の動きを警戒していた。低速で巡らされる運転は、あくまでも見落としが無いように‥‥物陰に潜んでいるかもしれない、まだ見ぬ犯人への警戒だった。



 一通りの探索を終え、周防とドリルは事務所を出ようとしていた。ちょうど、ホアキンの車は2週目の第一現場を過ぎた辺り、アンドレアスの車は奥の方から事務所側へと向ってきていたところである。
 その異常に気付いたのは、ドリル。最初から音と振動に気を配っていたためであろう。事務所の裏手側よりなにやら変な気配を感じていたのだ。素早く周防へと目配せで知らせると、電源を切っていた周防に変わり、自ら無線機で連絡を知らせる。
――異常発生
 事務所周囲にははじめ何の違和感も存在しなかった。しかし、やはり数時間経過すると違うものである。警戒を、強めた。



 連絡を受けた巡回組は今まで落としていた速度を上げ、事務所へと向っていた。先に着いたのはアンドレアスとロジー組。素早く降りると、ドリルから受けた連絡の通りに裏手への警戒を強める。蒼く研ぎ澄まされた闘気を身に纏ったロジーは、刀を抜き、澄んだ顔で音を聞き済ます。そこに聞こえるのは、重低音の唸り声。相手は、恐らくかなりの大きさだ。時折聞こえる、地面と打ち合う爪の音がやけに耳に付く。息遣い、そして音からしてもどうやら複数いるのが手に取るようにわかる。アンドレアスに目配せをすると新たに力が満ちてくる。長く伸ばされた髪を片手で掻き揚げながら、裏手へとまわっていく。
 そして、ホアキンと白雪も到着をした。左手に長剣を、右手に銃を構えつつ降りてくるホアキンに、黒髪が白色へと変じた白雪が先の組とは別側から裏手へと回っていく。

 その裏に居たのは‥‥
 3匹の大きな獣型キメラといかにも不審な黒いコートに身を包んだ人がそこにはいたのだった。

<Battle>

 はじめに動いたのはホアキンだった。エネルギー銃をキメラに向け発砲する。そこで出来た隙を狙い、白雪がナイフを不審な人物の足元を目掛け投げつける。反対側でアンドレアスがロジーにフォローされつつキメラの周囲へと近付いていく。一定の距離に入ったとき、超機械を放つと、キメラは動きが若干鈍りを生じた。そこを狙い定め、ロジーは衝撃波で薙ぎ払っていった。続けて、他の2体へと切り込むアンドレアスとロジー。それをうけ、ホアキンはナイフによって足の腱を切られたと見られる人物の捕獲へと向っていた。向かい来るキメラを左手の長剣で払いつつ、白雪が足元を狙い動きを鈍らせていく。
「八葉流壱の型‥‥芽萌」
 蛍火が紅く揺らめくと同時にキメラの四肢に打ち付けられる。その衝撃に後退するものの、低い唸り声を上げ大きく鋭い牙を向けてきた。
 開いた口から覗かれる鋭い牙。まさに今、血塗られたのだろうかと思われる紅い液体が、溜まる唾液と共に零れ落ちてくる。気付くと、自らに力が漲ってくる。アンドレアスによる補助が入ったようだ。そのまま白雪は、2迅、3迅と繰り返していく。先の一撃よりも、それは重々しく、骨へと響き渡っていったようであった。
 素早く黒いコートの人物を手錠で補足すると、ホアキンは2・3撃を喰らわせ気絶をさせることに成功すると、翻すように白雪の援護へと向う。アンドレアスも、ロジーを補助し、援護攻撃を繰り出していた。

 そして‥‥足元に蹲る、3匹のキメラがそこに生まれていた。



 キメラを退治したこと、犯人と思しき人物を捕獲したことにより、ノーラへと連絡を取った。
――一度引き上げてきて
 その彼女の言葉に従い、一同は先に連絡を受けた場所へと向う。ノーラからポールへと連絡がいったのだろう、現場を後にし暫く走ると、すれ違いに警察の車が向っていくのがわかった。このままあのキメラの遺体は捕獲され、そしてこの事件の一応の終わりを告げられるだろう。気絶させ捕獲した人物は、そのまま近くの木へと縛り付けてきた。事務所内にあったロープを用い、捕獲時に使用した手錠はちゃっかり回収済みである。
 いったい、どこまで警察が動けるのだろうか。そこはわからない。これ以降、もしかしたら軍部が取り扱う‥‥そういう可能性を秘めていた。

<Result>

「どうもありがとう」
 微笑みながらノーラは一同に茶を出していた。話を聞くと、やはり現場へと向ったのはポールであったようだ。その後、すぐに取調べが行われるだろうと告げる。
「それで‥‥事務所を調べた結果ですが」
 周防とドリルの話を椅子に腰掛け聞き入っていた。
 報告によると事務所は、一見今までの事件の会社とは関わり無いように思えた。業務成績もそんなに突出したものではない。何よりも、一番気になったのは、
「これが‥‥遺体で発見された方々の個人データなのですが」
 そういって取り出されたのは一つのファイル。どうやら持ってきたらしい。そこに記されいた会社名に、一同は唸りをあげた。
『S&G製薬会社』
 これは、先に発見された2名の女性の履歴欄に記載されていたのだ。他にも、二人の共通点はいくつか見つかってくる。それは、これまでの事件の会社、そこに勤めていたという経緯。そして‥‥
「驚いたのは、これのほうですね」
 男性達の経歴には不審なものは見受けられなかった。唯、一つ違う事は‥‥『刑罰』が付いていた所だろうか。
「愉快犯‥‥ではなかったのでしょうか」
「どうやら、それなりに意味があった‥‥そういうことじゃないだろうか」
「だが、小アルカナの5はどうなるんだ?」
「埋められた‥‥カード」
「辻褄合わせなら、もう1人の犠牲者が?」
「だが、その前に打ち倒した」
「でも、キメラの口から落ちたのは‥‥」
「ああ、あれは間違いなく、血だった‥‥」
 意見が飛び交う中、どれも本当そうで、違うような‥‥そんな感じがしていた。
「クソッ! わかるどころか深まるだけだ!」
 頭を掻き毟るも、どうもすっきりしない。
「とりあえず、現状わかっていることは集めました。後は任せて‥‥いいんですね?」
 周防はノーラを試すかのように聞いてくる。それを、笑顔で受け止め交わす。
「ええ、ありがとう。後はこちらで動かせていただきます。」

<And Then >

「それで‥‥」
「これが、集めて来てくれた資料を基に作ったものよ」
 そういってノーラはポールに報告書を渡した。
 そこにはタロットカードによって作られた謎の解釈、傭兵達の手によって作られたものだった。
 『Justice』『The Devil』そして、『cups of the five』
 先の二枚は大アルカナ、被害者に当てはめると‥‥いや、これ自体で『相反する力同士の結合や結果的な奇跡』を、意味していると捉えられると‥‥これは、傭兵達からの意見が使われていた。しかし‥‥最後の一枚が、どうにもしっくりこないのである。
「ねぇ、遺体の欠如部分てどこだったの?」
「あぁ、それは‥‥」
 遺体の欠如部分、それは――『Uterus』流石にこれは、口に出来なかった。だが、傾いたカップと、カップ本来の現すもの――『水』、人間の身体的物を示すとしては十分だったのかもしれない。
「なるほど‥‥ね。流石に、そこまでは及ばなかったわ」
「ああ、だがこの一枚だけが意味を食い違えさせていたんだ」
「そうね、でも‥‥」
「そう、男女を襲うことによる矛盾、しかし結果奇跡が起きる。それが‥‥」
「失われた部分‥‥そういいたいのね」
「ああ、やはり何か作り出そうとしているんだろうな」
「‥‥まだ、調べるつもり?」
「ああ、例えこの職に変えても俺はこの事件を解き明かして見せる」
「わかった‥‥全体的サポートに回るわ」
「ノーラ‥‥」
「誤解しちゃダメよ? あくまでもこの事件に関して‥‥あたしの方でも動くといってるだけ」
「――危険になるぞ」
「ふふ、伊達に探偵事務所に勤めてないわよ」
「THANKS」

 深まっていく謎が、尻尾を見せ踊り狂う。
 まるで、こちらへ来いと言う様にいつまでも優美に振り構えているようだった。