タイトル:孤高の老人−世直道中記マスター:雨龍一

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/16 00:37

●オープニング本文


「ふむ、手紙かのぉ」
 ミハイル・セバラブルは、いつものように白衣に身を通し届けられていた物達に目を通していた。
 中には彼のドリンク剤を注文する物、ちょっと変わった発明を見てくれと頼む物など、内容は実に飛んでいる。ただ、その中で一つ、とても気になるものが紛れていた。
「ん? これは‥‥」
 それは、小包であった。
 差出人はLHに住む、傭兵の一人からである。確か、何度か顔を合わせたことのある‥‥そんな間柄でしかないはずだった。
「こやつ、わしの実験体にもなったことが無いというのに‥‥いったい何を届けてきおったのだろうかのぉ」
 とりあえず、彼の家に届けられたという事は爆発物のチェックも無事通ったと言うことであろう。まぁ、ひとまずは安心しても良いはずである。
「まぁ、よい‥‥開けてみるかのぉ」
 貼ってあったテープをはがし、中に入っていた梱包材を取り除く。
 そこに入っていたのは、クリアケースに入った一枚のDVDだった。
 それとは別に、ピンクの可愛い便箋が一枚。猫をあしらっているものの、これを出してきた人物が面白可笑しく仕込んできたことは確かである。何せ、彼はネタをこよなく愛す人なのだから‥‥
「どれどれ?」


――拝啓 ミハイル博士

  いきなりの手紙でごめんね! でも、是非これを見て欲しかったんだ。
  こんな事、頼めるのは貴方しかいないと思ってね。
  どうだろうか‥‥例の話、考えてくれ   ――


 どうやら、このDVDさえ見れば全てのなぞは解ける‥‥そういっているようであった。
「仕方ないのぉ。どれ、ちょっと見てみるとするか」
 そういって、彼は階下にある研究室のPCでそれを見始めたのだった。



++++++++++++++++++

――1時間後

「こ、これはやらねば!!」
 そういって、ミハイルは大急ぎでULTの方に依頼を提出していた。


 『世直し道中記参加のお願い』と、なにやら怪しげな文をしたためて‥‥

●参加者一覧

/ 神無月 紫翠(ga0243) / ナレイン・フェルド(ga0506) / シャレム・グラン(ga6298) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 夜十字・信人(ga8235) / 芹架・セロリ(ga8801) / ミスティ・グラムランド(ga9164) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / 神無月 るな(ga9580) / イスル・イェーガー(gb0925) / 赤崎羽矢子(gb2140) / キリル・シューキン(gb2765

●リプレイ本文

 遠くから、水を打つ音が聞こえる。軽く響き渡る音。獅子嚇しだろうか。
「お蘭、そこに居るかの?」
「はい、老中‥‥」
「やつが動く‥‥様子を」
「‥‥わかりました」

 影が揺らいだ。涼やかな音だけ残して。
 部屋に残された男は一人、軽やかな音色を耳に静かに笑みを浮かべていた。


◆その舞台、またれぇい

 そこはとある宿だった。名前は『紫雲亭』どうやら、かなり古くから建っているらしく外見は少々みすぼらしく感じる。まぁ、それだけではないのであろう。それは、宿の横においてある、桶一つでも伺えていた。
「さぁて、今日も頑張るわよ」
 そういって、店から出てきた女がいた。銀色の髪をゆったりと纏め上げ、素朴ではあるものの、中々目鼻立ちの目立つ娘である。
「青や、今日は結構な人数が来るから後で市へ行かなければいけないからね」
 宿の入り口で男が一人、声をかける。陣内、この宿の亭主である。
「わかったわ、お父さん」
 そうにっこり笑い返す青の顔を見て、陣内は目を細めていた。

 そんな宿から少し離れた先に、お地蔵様が祀られていた。もちろん、それは綺麗にべべを着せ、前にはお供えが‥‥
「腹‥‥減った‥‥」
 女がお地蔵様の所で立ってていた。そして、目を開けると、そこには素晴らしきお供え‥‥いや、彼女にとっては食物があるのだ!
「天からのお目こぼし‥‥」
 そう思い込むと、彼女はそのまま手を伸ばし、口に‥‥していた。
 そして‥‥
「あれ‥‥急にお腹の調子が‥‥、やっぱり腹が減ってるからってお供え物の饅頭食べたのが不味かったのかな」
 そう呟くと、女は倒れこむように地面へと接触したのだった。


◆一同集合、話はここから


「楓丸様、もうすぐお宿に到着しますからね?」
「うん‥‥」
 お付の神月ルーナに手を引かれ、楓丸は少々疲れ気味の顔をしていた。
「ふぉっふぉっふぉ。楓丸はもう疲れたのかのぉ」
 少し後ろを歩いていた男――まぁご老公なのだが――は、杖を片手ににこやかにその様子を眺めていた。
「大丈夫、大丈夫! 宿について美味しいもの食べたら、元気いっぱいダヨ☆」
 キャッキャッと笑いながら、九兵衛は大福を口に運びながら一堂についていく。
 その様子をチラッと視界に入れる楓丸。その様子に紅屋ぐらは慌てた調子で止めに入った。
「きゅ、九兵衛さん! 楓丸様の前でそのような行動は‥‥うぅ、ごめんなさいぃ」
 止めに入るものの、何故だか謝るその様子を遠くで見つめるものが居た。

「やれやれ、若にあんな護衛だけじゃ、ちっとも教養が身に付きそうにないねぇ」
 くぃっと笠を上げ、様子を流し見るお香。その姿は旅芸人の姿、そのものであった。


◆さてさて、どうなる? 最初の一歩


「何もありませんが、ごゆっくりして行って下さい」
 それから数刻、陣内はご老公一行を『紫雲亭』で迎える事となった。
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いいたします」
 丁寧に答える神月に、楓丸は疲れた面持ちで、紅屋に手を引かれていた。
「さぁ、青! 皆さんをご案内してあげてくれ」
「はーい、お父さん。皆さん、こちらになります〜」
 青の案内によって一同が部屋へと案内されると、一人、旅役者が暖簾をくぐった。お香だ。
「亭主、部屋空いているだろうか」
「ああ、はい。ただいまご用意いたしますね」
「すまない」

「お父さん。案内してきたわよ。ん? どうかしたのかしら」
「ん? いやなに‥‥この頃お前も桜に似てきたと思ってね。年頃のせいかな」
「やだ‥‥お父様ったら、私なんてまだまだお母様には及ばないわ」
 照れ隠しなのか、青は顔を朱に染め陣内の背中を叩いていた。
「ごふっ!」
 衝撃のあまり、むせ返る陣内。慌てて青は背中をさすり始める。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫? はい、お茶をどうぞ?」
 お茶を貰い、一息を付く陣内。その様子に、青はほっとした笑顔を浮かべた。


 そこに‥‥凄まじい勢いで扉を開ける男が居た。どうやら足で蹴り開けたらしく、扉がゆがんでいる。目が移ろいでおり、手には瓢箪が見える。酒が入っているのだろう。
 そして、男はゆっくりと青に近付き、ふぅっと酒くさい息を吹きかけつつその手を掴む。「っ!」
「おい亭主、借金の取立てに参った。今日こそ80両を返済してもらおうか」
「少しずつお返ししてます。何を‥‥金目の物など無いです」
 その足に陣内がすがりつく。
「借りた金を返せない‥‥そう仰る訳か? 署名が示すとおりあなたが同意して借りたのではないか」
 そういって借用書を取り出す。文章には大きめの文字で1年で5厘の利子と書いてあるが、書類の隅には気づかないほど小さく10日で1割と書いてある。そこを男は指を指して指摘し始めた。
「こ、こんなご無体な!」
「仕方なかろう、なに‥‥身体で払ってくれても」
 そういって男が陣内を足蹴りし、奥のほうへとぶっ飛ばした後、手を掴んでいた青を引き寄せた時、奥から現れた楓丸は一緒に来たルナとぐらに素早く命令をする。
「るなさん、ぐらさん‥‥こらしめt(以下検閲」
「「はいっ」」
 二人は、その命令と共に男へと向かっていく。それに気付いた男は、慌てて青を離し、そして亭主から証文をとると、入り口の方へと足早に逃げた。


「払えないのならよろしい、また後ほど金になりそうなものを頂きに来る」
 扉から出て行く直前で振り返り
「遠い国には『人生を生き抜く事は平地を横切るほど楽ではない』という言葉があるそうだ。この中の誰かが平地でない人生を歩むかも知れんな」
 そう捨て台詞をにやりとしながら残すと、去っていった。


◆ひろいもの?


 少し近辺を見回ろうとルナは宿を出て道なりに歩いていく。っと、お地蔵様の前を通りかかった時、女を見つけた。
「‥‥大丈夫?」
 そう囁いてみるも、反応がない。
 ここに寝かしておくままでは流石に忍びないと、ルナは女を仕方ないので楓丸たちの待つ宿へと連れて行くことにしたのだった。


◆悪代官参上


「兄上、‥‥‥‥‥おなか減った」
 髪が伸びるかも!? と云われる日本人形を持ちつつ、その頭にかじりついている少女が部屋の片隅で兄と呼ぶ男の後ろに立っていた。その姿は‥‥愛らしいというよりも、まさに呪われそうである。
 男はというと、お店状態に服を広げてなにやら考え込んでいる。
「ふむ、この布地だと‥‥やはり彼女に似合いそうだなぁ。やっぱ劇ではなく、こう‥‥」
 そういいつつ、セーラー服や、メイド服を一枚とり、一枚とりと観賞していく。
「‥‥阿呆か」
 小さく呟くのは、先程の少女。若干素に戻りつつあるのは、いつも通りか。
「む、これは!!」
 突如男は唸り声を上げ、一枚のメイド服に手を伸ばした!
「ふむ、これは是非着せてみたいな! よし、あの手を入れていた宿の娘にでも‥‥」
「‥‥何言ってんの?」
「おい、越後屋を呼べ! 越後屋じゃー!!」
「うわぁ‥‥痛いの始まった‥‥」


 数刻後、一人の商人が男の前へと現れた。
「へへぇ、御代官様今宵は何用で」
「いやな、そちに頼んでおったあの宿なのだが」
「へへぇ、本日もすでに向かわせてございます」
「ふむ、そちの話ではたしか‥‥年頃の娘が居る、そう申しておったな」
「へへぇ、名前は青ともうしやして、中々気立てのいい娘のようで‥‥」
「ふふ、この服など‥‥どうだろうかと思ってなぁ」
「へへぇ、さすが御代官様、大層なご趣味で。あ、それとこれはいつもの‥‥」
 そういうと、越後屋は袖の下から紫色の包みを出すと、代官の前で広げて見せた。中身は白い紙の包みが20個。もちろん賄賂である。
「クックック、えっち、もとい、越後屋‥‥お主も悪よのう‥‥」
 薄暗い室内で交わされる会話を、すぐ真後ろで聞いていた少女は思わず呟いていた。
「お前、それがやりたかっただけだろ‥‥」
 っと。


◆助けた亀に連れられて〜


 そして、ルナに連れられて宿に身を置くことになったのが一人。
 先ほど倒れていた女、剣士・蛍火だった。目を覚ますと、そこは見知らぬ世界。
 手厚く看病を受けたのであろうか、額には固く絞られた手ぬぐいと、お日様の香りのした布団が、何故だか心温かい。
「気がつきましたか」
 部屋に入ってきた陣内を見て、蛍火は自分が助けられたのだということに気がついた。「どうもありがとうございます。あの時助けられなかったら、今頃どうなっていたか」
「ふふ、助けたのは旅のご一行です。私はただの宿の亭主です。ほら、あそこにいる方々ですよ」
 そう言うと、陣内はふすまの隙間から、ご老公たちの様子を見せる。
「あの方々が‥‥」
 そういうと、蛍火は目に力を宿すのだった。


◆とっておきの‥‥食後

「みなさんごめんなさいね」
 そう言って青は食べ終わった食器を片付けていた。といっても、なぜか九兵衛だけはいまだ茶碗を持ちつづけている。ほっぺたにいっぱいのご飯粒をくっつけながら。
「湯、気持ちよかった‥‥」
 ほんのり赤く染まりながら神月と紅屋は楓丸をつれ、濡れた髪で現れる。
 湯上りなのだろうか、上気した肌に楓丸は赤くなりつつうつむいている。
「ふふ、よかったわ〜。そしたら別の部屋の方にも告げてくるわ」
 そう言って部屋を後にする。
 襖の縁をノックすると中から短い返事の後、開かれる。そこにいたのはお香であった。
「よろしいかしら〜。後、お客様だけになったんだけれども‥‥」
「それはすまない‥‥最後か、一緒に入るか? 私の後なら余計遅くなるでしょうし」
「え!? い、いいの?」
「あぁ、同じ女だ。構わないだろう」
「わぁ! あたし、嬉しいわぁ♪」


◆お楽しみ入浴タイム

 立ち上る湯気に、二つの影が映る。
 そこに映るは銀と赤の2色。程よく朱が入るほどに染まった肌が、自らの手によってかけられる湯を弾いていた。
 すっと伸ばすと、緩やかに伸びる腕がまた艶を帯ていた。
「ふふ、こうやって人と入るのって楽しいわぁ〜」
「青さん、綺麗なお肌ですね。男の人が放っておかないんじゃありません?」
 コロコロと鈴の音が響くように2つの影ははしゃいでいた。
 ふと、項へと垂れた髪を指で掬い上げ、纏めいる。指についていた雫が一筋の道を作り上げ、胸元へと落ちていった。

 そんな2つの影へと忍びよるものがいた。
 代官と、その妹だった。
 兄こと代官は岩場の影より鼻の下を伸ばしつつ忍び寄る。その後姿を、妹はひたすら日本人形の頭にかじりつきながら見守っていた。

 そして‥‥

 代官が岩場より顔を出そうとした時、一つの石がコロコロと影のほうへと転がり落ちてしまった。

 小さな水音が、静かな中響き渡る。

 その音を聞いた途端、2つの影は一斉に声を上げた!
「だ、だれ!?」
「鼠が掛かったか!」

 同時に投げつけられる桶と水。見事水は代官を濡らし、桶は顔面にヒット!!
 そのまま後へとお倒れになったのである。
「‥‥当然の結果だね」
 その様子を眺めていた妹はそんな台詞を投げかけ、黒い笑みを見せていた。
 口元には、何故か人形の髪だけがついていた。


◆人浚いタイム


「あれ? そこにいるのは‥‥」
 宿の買出しのために市場へ出かけた青は道の途中にある茶屋に見知った顔を見つけた。 現在宿に止まっている楓丸である。
 お供はどうしたのだろうか、一人団子をぱくついていた。
 その様子を見て、青はちょっと微笑ましく感じていた。
「何しているの? ご一緒しても良いかしら」
 そう言って楓丸の隣に座る。
「あ‥‥はい‥‥どうぞ‥‥」
 楓丸はというと、頬を赤らめ少し横へとつめる。その様子に青は静かに微笑んだ。
 そのまま2人は談笑しつつ、いっしょにお茶をすることに。
 なにやら、ほのぼのとした空気が流れていた。

「お楽しみ中のところ悪いが‥‥」
 そう声をかけられ楓丸が振り向くと腹部に鈍い衝撃を受けた。
「うっ!」
 その様子に、青は息を飲む。ふらっと、前に進み出る形になったところへ、すかさず男は首裏に手刀をいれる。そのまま地面へと崩れる様子を見ながら、衝撃に立ち尽くしている青の咽元に当るか当らないかの瀬戸際で小刀を突きつけた。それと同時に後へずばやくまわり、口を大きな手で覆う。
 突きつけられた小刀に青は、顔を青くしながら震えるだすと、男は静かに告げ始めた。
「動くな。別に恨みがあるわけでないが命令なのでな」
 そう言い放つと、逃げることが出来ないと思ったのか肩を落とす青に、男は素早く縄を巻きつけた。そして、横たわる楓丸の姿を見ると、
――金になるかもしれないな
 どこを見ても質のいい着物を着ている楓丸は、体のいい金づるにしか見えなかった。


◆影の人


「若!」
 その様子を遠くから見ていたお香は、気が気でなかった。
 しかし、若こと、楓丸には幼少時より常々言い聞かせてきたことだある。
――御身副将軍の孫として如何なる時も狙われていると考えよ
 この時こそ、その教えを体感するときである。
「若、どこまで学ばれたか、見させていただきます」
 そう呟き、お香は男の後をつけていくこととした。


◆着いたその先は


 はてさて、今度は代官の屋敷。
 お香に後をつけられていると知らない男、そろそろ名前を教えよう、雪の零人は2人を荷台へと載せ、屋敷へと到着した。
 その荷台から、零れ落ちるものがあった。
 草履だった。
 実は手刀を寸ででかわした楓丸が、自らの行方がわかるようにと身に付けているものを少しずつ落とし、着いてくるであろうお香への道しるべとしていたのだった。
「若‥‥立派に成長されて!」
 そう呟きながら追うお香は、代官の屋敷に入ったところを見ると取って返すように帰路へとついた。
 そう、一同の主の元へ報告に行くために‥‥


◆はた迷惑な代官の行為


「ほぉ、これがこれが」
 無理やりに結われた髷が大層不恰好なものの、それも気にせず代官は連れられてきた青と楓丸を見ると、眼を輝かせた。
「命、しかと聞き届けた」
「うむ、ろり、褒美をやれ」
「お前がやれよ」
「む、仕方ないね。どうしてこうも反抗的になっちゃうんだろうか。いやね、これ、劇なんだからさ。ちょっとぐらい気持ちよくやらせてくれたっていいじゃないか」
「だまれ、よっちー。いいからさっさと次にいけ」
 妹、ろりに冷たくあしらわれつつも、目の前の楽しみには敵わない。そう無駄なことは忘れましょうな的な空気を作りつつ、よっちー、いや、代官は青の方へと忍び寄る。
「まったく‥‥ではでは」
 ごくりと咽を鳴らす姿は、まさしくお約束でしか見えなかった。
「こ、こないで!」
 うろたえる青をニヤニヤと眺めつつ、代官は進む足を止めない。じわり、じわりと近づいていく。
「良いではないか、良いではないか」
 少々鼻息が荒いのは気のせいだろうか。
 目だけが笑っていない。伸ばされる手。そして‥‥

「あ〜れ〜」
 くるくるくるくるくるくるくるくる‥‥‥‥‥

 反対にも?

 くるくるくるくるくるくるくるくる‥‥‥‥‥

 はらっと胸元が
「‥‥男? ‥‥ま、良いか! 良いではないか〜」

 一帯何重に巻かれていたのだろうか、帯が、エンドレスに舞わされていく。
 その様子を見ていたろりは、とうとう我慢が出来なくなって‥‥

「ド阿呆! 良い訳ねぇだろ!!」

 そういって、正拳突きを代官の腹へと決めていたのだった。


◆さて、一体一同どうするのか


「ご老公!」
 そう叫びながら走りこんできたのは、お香だった。
「おお、お香か。久しいのぉ」
 ポクポクといった調子が合いそうに、お茶をずずずいっと飲みながらご老公は微笑む。
「若が!」
「ふぉっふぉっふぉ。そちのことだから心配ござらんだろう」
「むっ。少しは心配してください!」
「嫌じゃ」
「ミハイル爺ちゃん、役壊しちゃだめナノッ!」
 すかさずツッコミが入るが、そんな事を気にするご老公ではなかった。
「ふぉっふぉっふぉ」
「そ、それで‥‥楓丸様はどこに?」
 こ、これでは‥‥明らかに場を壊すと判断したぐらがお香の方へと尋ねる。
「それが、この町の代官の屋敷に連れて行かれるのを見ました。そして、この宿の娘も‥‥」
「え、あ、青がですか!?」
 茶菓子を用意してきた陣内はお香のその言葉に身を打ちひしがれる。
「て、亭主‥‥聞いてらして‥‥」
 ルナは、その様子を見てしまったとばかりに口を覆い隠した。
「だ、代官はこの宿を狙っているんです! この間も脅しに来たのは‥‥くっ!」
 床に倒れこみ、妙に枝垂れかけた状態で陣内は一同に訴える。その横で持ってきたお茶菓子に手を伸ばす九兵衛。あなどれない‥‥
「て、亭主! 顔を上げてください。お嬢さんは大丈夫ですよ」
 慌てて助け起こそうとするルナに対し、陣内は首を振りつつ訴えていた。
「し、しかし」
「ふぉっふぉっふぉ。楓丸もいず、娘殿もつかまっとる。これは、どう思うかね? ルナさん、ぐらさんや」
 役を思い出したのか、ご老公は話をまとめる案を出してきた。
「ご老公、向われた方がいいかと」
「ふぉっふぉっふぉ。九さんや、ちと行こうかのぉ」
 口に運ぶ事に一生懸命の九兵衛に声を投げかけた。
「ん? どこに、カナ?」
「九兵衛、あなたまた聞いてなかったの‥‥」
 その様子に、ぐらは思わず額を押さえる。
「え? ‥‥あー、うっかり?」
 てへっとばかりに、九兵衛は笑顔を浮かべたのであった。


◆悪代官、つきとめられる


「た、大変です!! 怪しい一行が現れました!!」
「なに! まだ時間が早いだろうが!」
「で、でも! 本当に現れたんですよ!」
「ふぉっふぉっふぉ。 その通りじゃ」
「知れもの達めが、我が若君を浚いし証拠、ここに突きつけて見せるぞ!」
「ええ!? な、なんか展開変わってないっすか?」
「気にしてはいけない! 何しろ降臨するネタが少なすぎて、書けないのだなど、気にしてはいけないのだ!」
「そこ! 監修都合にするな!! 事実ここはお任せなのだから、アドリブになっても仕方ないのだ!」
「えーっと‥‥それもどうかとぉ」
「ええい、しかたない。貴様ら、何用だぁ! 名を名乗れぇい!」
「ん? 単なるご一行サンだよ?」
「単なるじゃないから聞いているんだらろ。ほれ、それこそこれは不法侵入になってだね?」
「いいじゃありませんか、そんなこと。ほら、続きいきますよ? ――代官! 貴方の悪行は発覚しています! 即刻人質を解放しなさい!」
「人質? そんなもの、とってないぞ」
「いいえ、『紫雲亭』という、寂れた宿から娘と、その宿泊客の男の子を攫ったではありませんか!」
「だって、身代金目的じゃないから人質ではないよね? 誘拐だけど」
「誘拐認めたら同じですわ! 即刻、お縄としてしまいなさい!!」
「ちょ! 聞いたのは人質でしょ? 誘拐は別の容疑じゃないか!」
「いいえ、これによって悪は決定ですわ!」
「いや‥‥そもそも、俺、悪代官って名前に‥‥」
「聞いてませんわ!」
「ほら、楓丸様を帰すのです! 証拠はあがってるんですから! ‥‥‥ごめんなさぁい」
「そ、そこで謝られてもね? 俺、何もしてないからね?」
「そ、そんなことはいいんだってば! っで、貴方犯人、あたし達善人OK!?」
「「OK」」

◆あれ? ひとが‥‥

「ええい、狼藉者じゃ! 皆のもの、であぇぇい!」
「はっ」
「え、エキストラは?」
「予算の関係上、無理です」
「な、何の予算さ」
「出演費です」
「くっ、折角のかっこいいシーンが台無しじゃないか!」
「最初からないだろ」
「くっ、ろり‥‥後で覚えてなさいな」
「誰が覚えてるか」
「では、改めまして」



◆びっくり兄様、悪者ですか?



「であえ、であえぇ」
 悪代官の言葉により、屋敷中から人が集まってくる。
 その手には、長らく愛しているであろう刀を持っている。
 先程より、報酬を受け取り損ねていた雪の零人もそれに加わっていた。
「雇い主の命だ。その首、貰い受ける!」
 その様子を見たご老公は、脇に護るようにして構えているぐらさんとルナさんに素早く要件を言い渡した。
「御2人とも、御相手してあげなさい」
「「はい」」
 短く答えると、向かってくる者たちを軽くあしらっていく。
 悪代官が手を上げると庭から次々と男どもが現れてきた。
 そうすると、屋根からお香が現れ、撃退していく。
 そんな中、九兵衛はご老公の周りをうろつきつつも、見事敵の攻撃をかわしていた。
 そして‥‥
「このくらい軽いモンだよ」
 落としたおにぎりに気を取られてしゃがんだ所に、敵同士が切りあい砕けていく。まさに、運も実力のうちなのだろう。そこで威張るのはどうかと思うが。
 悪代官と対峙するのは蛍火であった。心配とばかりにご老公と一緒に来たのだ。互いに筋を読み、切り替えしていく。何か、太刀筋が似ていた。
 取って返す刃が、互いにぶつかり、火花を散らしていく。
「女、やるなぁ‥‥」
「代官‥‥貴様も文官ながらやるではないか」
「ふふ、俺を舐めてもらっちゃぁ困るぜ。‥‥あ、実際舐めたら汚いけどね」
「何を言ってる! 貴様ぁ!!」
 その言葉に少し力んできた蛍火の隙を、悪代官は見逃さなかった。
「くっ。これだから舐めてもらっちゃ困るんだ」
「あ‥‥しまったっ!」
 狙ったのか、いや、確実に狙ったであろう悪代官の刃が、剣士の胸元を切り捨てた。
 切られた前衣からはさらしが覗く、そして‥‥
 一本の櫛が落ちてきた。
「こ、これは‥‥」
 悪代官が、その櫛を見て動きが止まる。ちょろちょろとうまく回りの戦う大人達を交わしていたろりも、その櫛に目が止まった。
「あねさま?」
「‥‥妹だと? そんなのいたっけ」
「いいかげんにしろぉ!」
「うぐっ」
 ろりの拳が、再び悪代官の腹部に決まったのは、もはやいうまい。


◆うっかり! そして一件落着!!


「控えおろうっ! この方をどなたと心得るっ!」
 突如、ぐらさんの咆哮が木霊した。
「控えおろー」
「ん? 誰って、単なる爺さんだろ」
「だよなぁ」
 その他もろもろ、近所で雇われたエキストラ達はボロボロと与えられた台詞を棒読みしていく。
「この方は‥‥‥あ、なんだったっけ‥‥まぁ、とりあえず。とてつもなーく偉いお方なのだ。このお守りが、目に入らぬか!」
「痛くて入りませーん」
「実際に入れてはいけませーん」
 そう言って取り出されたのは、もろもろの都合上、ジョン・ブラスト博士のお守りだった!
 って‥‥
 あれ?
 もってないよ?
 あれ?
「お、おい九兵衛! 印籠をださぬか!」
「あ、はいはい‥‥ん? あれ? あれれれれ?」
「ど、どうした?」
「あ‥‥あー、うっかり?」
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「僕に預けるほうがうっかりなんダヨ!」
「こ、こんなこともあるかと‥‥若!」
「ん‥‥ごめん、寝てた‥‥」
 何気に大物、楓丸は一人参戦せずして柱に寄りかかって寝ていたのだった。
「ちょ! 寝てないで、印籠を出してください!」
「あ、‥‥‥はい」
 ごそごそと取り出した物をぐらへと渡す。それを受け取り、ぐらは、ようやく一安心をして、続きのセリフへと入った。
「この紋所が眼に入らぬかぁ!」
「おおーーー」
 なんとそこに現れたのは、見事なブラスト博士の顔写真入。
 みんな、大いにひれ伏すのであります。
 そんな、ひれ伏した中で一人探し物をしていた九兵衛は懐に入れていたおにぎり包みを 発見すると、食べようと‥‥
「あ、あった!」
 ご飯粒いっぱいの付いた印籠を発見したのでありました。
 めでたしめでたし。



 お わ り



◆うちあげ? のみあげ、つるしあげ?


「って、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「な、何で最後の俺達が取り締まられるところ映ってないんですか!」
「先生、あたしが悪代官一味を抹殺するところはカットなのですか?」
「「何で中途半端に終わっているんですか!」」
「ふぉっふぉっふぉ。単なる電池切れじゃ」
「で、電池切れって‥‥そういえば、何で映像試写会になっているんだ?」
「え、先生が研究用資料のためにDVD化するって‥‥」
「研究用資料?」
「ええ、先生はいつも研究なさってらっしゃいますし‥‥」
「‥‥‥‥これ、どこに売ったんですか?」
「はて、何のことじゃろうか」
「‥‥‥そういえば‥‥この依頼、報酬多かったよね?」
「うん、多かったよね」
「で、その出所は?」
「‥‥‥‥」
「お爺ちゃん! 全部吐きなさーい!!」

 逃げ出すミハイルの後を追いかける面々を、ナレインはチョコ付き柿ピーをのんびり食べていた。
 しかも、今回は2色! ホワイトチョコタイプもある。
「とっても楽しかったわね〜ミハイルさんも様になってたわ♪」
 のどかに過ごした、そんな一日であった。



◆成功報酬の2割カットせんげん、博士、貴方が一番の悪代官です。


 きゃすと

 老中・ご老公 ミハイル・セバラブル
 お蘭 シャレム・グラン(ga6298
 陣内 神無月 紫翠(ga0243
 青 ナレイン・フェルド(ga0506
 楓丸 イスル・イェーガー(gb0925
 九兵衛 ラウル・カミーユ(ga7242
 紅屋ぐら ミスティ・グラムランド(ga9164
 神月ルーナ 神無月 るな(ga9580
 お香 赤崎羽矢子(gb2140
 浪人:雪の雪の零人 キリル・シューキン(gb2765
 ろり 芹架・セロリ(ga8801
 女剣士 柿原ミズキ(ga9347

 越後屋 ミハイル氏の護衛


 悪代官 夜十字・信人(ga8235


 その他大勢の皆様でお送りしました。