タイトル:あたしのお友達の救出マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/24 16:04

●オープニング本文


そこは旧市街地と市街地の狭間‥‥そんな場所だった。
「ねぇ、ここがその場所?」
「うん、カッコイイだろ!」
声が地下水路にこだましている。
「ここがぼくの秘密基地だ!」
そう入り口の前で大きく手を広げ、掲げるように少年は少女に見せていた。
少女は目を大きく見開き、そして次の瞬間に華のような笑みを浮かべた。

ピチャ‥‥ピチャ‥‥
足音と同時に水の音が響いた。
微かだけれど水が流れているようだった。それが彼らの足元に流れているようである。
「ねぇ。暗いよ? ここ‥‥」
微かに震える手に握られる胸元のぬいぐるみが少し窮屈にゆがんだ。
片側の手は前を歩く少年の上着のすそを少しながらも強くつかんでいた。
光は後方から射すだけだが、それももう小さくなってきていた。
進路方向を照らすのは少年に握られた小ぶりの懐中電灯のみである。
「へ、平気だい。も、もうちょっといったら‥‥」
そう少年が足元ではなく前方を照らした。
きらりと光に当たり光る部分があった。
「あ、あそこだ! もう着くぞぉ!」
そういうと、空いていた片方の手で少女の手をつかみ、先程とは一変した足取りで光の当たった方へと進んでいった。

そこには錆びれた取っ手がついており、どうやらドアのようであった。
ごくっ‥‥
一息飲むと少年はドアを開けた。
「うわぁ」
先程の水路とは違い、そこは小さな部屋になっていた。誰かが利用していたところなのか、そこにはくたびれてはいるものの机と椅子が存在している。
少年は得意そうに鼻を鳴らしていた。
そして少女はうれしそうにその机へと近づいて‥‥

「キャー!!」

机の影で何かがうごめいた。
「な、なんだ!?」
慌てて懐中電灯を机へと向ける。
そこには‥‥

「「でたぁ!!!」」

そう叫ぶと二人は一目散に部屋を飛び出し、来た道を戻っていった。
入り口近くまで来ると突然少女は足を止めた。
「どうした!」
掴んでいた手に引き戻されるように少年は振り向いた。
そこには半泣きになった少女が立ち尽くしている。
「‥‥が‥‥」
小さい声で少女は続けた。


「‥‥うさちゃんが‥‥」
「うさちゃんがいないの! あの子がいないと‥‥あたし寝れないのぉ!」

そう泣き叫ぶ少女に、少年は困りきった顔で座り込んでいた。

●参加者一覧

鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
的場・彩音(ga1084
23歳・♀・SN
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
雪子・レインフィールド(ga3371
20歳・♀・FT
銀崎 実幸(ga3631
22歳・♂・SN
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
宇佐見 香澄(ga4110
19歳・♀・ST
四条 巴(ga4246
20歳・♀・SN

●リプレイ本文

 依頼は少年が持ってきていた。
 近隣のULT支部の相談窓口にて今にも泣きそうな顔で話した後、そのそばにあるソファーに座り込んでしまった。
 本部では支部から回されてきた依頼に対し、早速近辺にいるものへと捜査以来を告げていた。
 依頼内容:友人の救出
 その言葉に我がと集った者たちは、
「あぁ、この優美な曲線冷たい手触りと輝き‥‥とても素敵な私の親友の一人ですわ」
 そう胸に日本刀をかい抱く少女、鷹司 小雛(ga1008)ほか、ぬいぐるみはお友達と共感する女性6人と男性2人だった。




「とりあえず、飴でもなめなされ」
 それは依頼元の支部に着いたときだった。ソファーに並んで座っている今にも泣き出しそうな少年と少女に雪子・レインフィールド(ga3371)は声をかけていた。
 優しい笑顔に飴を渡され少し緩んだ表情の少年に百瀬 香澄(ga4089)は状況を尋ねていく。思い出したのか、強張る少年に四条 巴(ga4246)は、
「大丈夫。お姉ちゃん達が絶対うさちゃんを助け出してあげるからね?」
 と声をかけた。
 依頼を受けた際に説明された事のほか、水路の細部について尋ね聞くと笑顔で、
「よく守ったな、お疲れ様だぞ少年。後はおねーさん達に任せなさい」
 と頭をなでていった。
 一緒に話を聞いてた愛輝(ga3159)も思わず顔を破綻させ声をかけていた。
「大人しく待ってろ。必ず探して来てやるからな」
「世のため人のため女の子の笑顔のため‥‥初仕事頑張りますか」
 むっと力を入れる百瀬の横で、
「みんな、宜しく頼む」
 とここで、うさちゃん救出チームが誕生したのであった。




 現場は市街地からそんなに離れてはいないが、もう少し行くと旧市街地‥‥そんな場所にその水路はあった。
「これは結構でかいでござるな」
 水路の入り口に立つと思わず洩れるため息。ざっと見、大人4人が並べるくらいの広さであった。宇佐見 香澄(ga4110)は支部から用意してもらった水路の地図を見ながらこれからの確認を各自に促した。
「ここが問題の‥‥うさちゃんがいるらしい部屋ですから地図でいいますと200mくらいですかね」
 地図には少年からの情報が書き加えられていた。
 それではとおもむろに頭にヘッドライトを装着し、両手に懐中電灯の重装備をする宇佐見。
 ほかには四条や百瀬が片手に、愛輝は腰に懐中電灯を、銀崎 実幸(ga3631)にいたっては銃の先端にフラッシュライトを取り付け隙がなく構えるしだいだった。



「今、助けにいくでござるよ。うさちゃん殿!」
 レインフィールドの言葉がきっかけになり一同陣を組んで水路の中へと突入していった。



 水路の中は案の定暗く手元の明かりが水の中へと吸い込まれる‥‥そんな状況だった。
 前には鷹司・愛輝・百瀬、中央にレインフィールド・的場・彩音(ga1084)、後ろに四条・宇佐見・銀崎が続いた。3つの灯りをもつ宇佐見が後方ということで少々先よりも自らの部分が明るい、そんな状況下で、みな周囲を警戒しながら進んでいった。
「ほー、ドキドキするでござる」
「結構暗いですね‥‥道場の物置を思い出します」
 ぽつりぽつりと洩れる声、そんな中後ろからおぼつかない足取りで警戒体勢でいた宇佐見が‥‥
「うぅ‥‥気味が悪いです。ってきゃぅ?! 」
 次の瞬間いたたまれない水音と衝撃音が水路内にこだまする。
「‥‥お、おしりが冷たひ‥‥」
 可哀相な視線が水路内を行き交っていた。




 ある程度進むといくつか小部屋に続くらしい戸が見受けられるようになって来た。少年の話で場所は確定できていたため難なく問題の部屋は見当が付いた。
「っと、ここが少年の言ってた秘密基地か‥‥」
 地図と照らし合わせる。少年の話であると扉の部分に目印があるとのことだったが、
「そうですわね、少年の目印の‥‥この扉の取っ手も、話と一致するな」
「厳重警戒‥‥ここに目的あり‥‥だな」
 宇佐見の雰囲気が一変した。
「それじゃあ、いってみるでござるか?」
 一同うなづいた。
 そこから広がったのはこじんまりしつつも開かれた空間だった。
 居間一部屋に相当する部屋に置かれる椅子と机。
 すばやく灯りを部屋全体へと照らす。
 灯りは見受けられない。つけるところ自体無いようである。
 さっと確認したところだと少年の言っていたような物陰は見受けられなかった。
「ここは‥‥対象を‥‥」
 そういって目を走らせると丁度机の少し手前に白い塊があった。
「あ、うさちゃん発見」
 百瀬が発見しそこへと近寄ろうとしたときだった。
「!!」
 机の影から急に飛び出てきた黒い影。一同身に緊張を走らせ応戦体勢へと入る。
 1つ、2つ‥‥影は全部で4つ存在した。
「キメララットが4体‥‥場所的にはちょっと手狭ね」
「とりあえずうさちゃん確保に走らせていただきます」
「ドア近辺警戒よろしく、他の所から回ってくる恐れもあるぞ」
 愛輝の瞳が深紅へと変わる。銀崎はドア付近の警戒を強いるべく低い姿勢をとり、鋭い視線を飛ばした。
 ゆらっと刀先が揺らめく。冷たい光を放ち、キメララットの動きを見ていた。
 身の丈が小さくすばしっこい、まさしくねずみを少し大きくした程度‥‥
「誰か発明しないかなぁ。こう‥‥キメラ用ネズミホイホイ的な何かを」
 思わずそんな言葉がでるほどの小ささである。
「強さもねずみくらい‥‥でしょうが、いささか小さすぎるでござる。対象が取りにくいでござるよ」
 後方からの光を頼りにラットを追うものの小さすぎて命中がなかなか定まらなかった。
 それでも数振り回すたびかすりはしているようでだんだんと動きが鈍くなっているようである。
 戦いの間を縫うように百瀬はうさちゃん救出へと向かっていた。
 幸いなことに机の周辺では戦いは展開されず、うさちゃんに被害はない様子。
 すばやく掴み取るとドア近くで後方支援をしている宇佐見へと走りより、手渡すやナイフを展開させ再び最前線へと復帰する。
「大人しくチーズでもかじってろっての、出歯亀ネズミども」
 銀崎と宇佐見は、退路を確保しつつ後ろからの攻撃に対して警戒を強めていた。
 幸いにも数は多くなかった。部屋の外からの急襲もないようである。
 キメララットたちはそのすばやさや確たるものだったが次々とつけられる傷により体力が減少、そこへすかさず煌めく日本刀。鷹司の剣技が舞う。
 刀筋が綺麗に描かれるたび一匹、また一匹とその場に身を伏していった。
 最後の一匹‥‥
 そこに愛輝のファングが突き刺さり戦闘が終了した。



「うさちゃんは‥‥たいした傷は負ってませんね」
 戦闘終了後宇佐見はぬいぐるみの損傷を確認していた。汚れてはいるものの、大きな損傷はないようだった。しかし、キメララットがいただけあってか、ところどころ噛み跡がある。かがれば済むぐらいではあるが、少々いびつな形になりそうであった。
「ところで‥‥他の部屋ですけれども‥‥」
 鷹司が切り出した。うっとりした様子で日本刀に付いたキメララットの返り血を拭っていた。
「ついでにしてみるか?」
 愛輝がみなに尋ねた。キメララットの戦いには少々時間を要したものの、誰も目立っての傷はなく余力は十分であるようだ。
「まぁ、ここまでの部屋はドアすら開きませんでしたが‥‥」
 念のため、と進む中ほかの部屋を一つ一つ開けようとしていた銀崎が状況を告げた。
 開く扉はこの部屋だけだった。それを知った少年は少女と一緒に秘密基地として利用しようという気になったのかもしれない。
「開かない扉を無理に開けても仕方ないし、今回は見送ろう」
「そうね、無理する必要はないわけだし」
「それじゃあ、少年たちにうさちゃんを届けようか」
「そうだね」
 一同納得し、これ以上の探索は止める事になった。
「キメラの死体は掃除しておきませんとね」
 まだ使われるかもしれない少年たちの秘密の基地のために‥‥ささやかながら部屋を綺麗にしてあげようということになった。
 掃除が終わり、水路を一同は後にした。
 うさちゃんを宇佐見から受け取った的場は手際よく取り出したソーイングセットで修復に当たっていた。
「うう、臭いが気になる‥‥」
 そんなこといいつつもするすると修復されていくうさぎのぬいぐるみ。
 昼間に入ったはずの地下水路前では、沈みかけた夕焼けがやけに眩しい情景だった。





「おつかれさまでした」
 支部に帰ると係員がソファーへと促した。そこにはいまかいまかと待ちわびていた少年と少女がいた。二人のちからいっぱいの顔がどこかほほえましい。
「はい、お友達。これからは離れないように気をつけてね」
 的場はそういうと真剣な顔をしていた少女にうさぎを手渡した。ふと綻んだ顔を浮かべる少女のあたまを優しくなでる。
「おねえちゃん、ありがとう」
 満面の笑みで返されるお礼。
「女の子を危ない目に合わせちゃダメだぞ」
 そう少年に言ったのは銀崎だった。その言葉に少し体をこわばらせつつも
「わかったやい! 今度は大丈夫だもん」
 そんな口答えする少年にちょっと強く額を突っついてみた。
 後ろでは四条が暖かく少年たちを見守っていた。何がしら小さく拳を握って念じているようだ。
「よかったね。うさちゃん戻ってきて」
 そうつぶやくとなお瞳に力をやどしていた。
「うさちゃんが無事に帰ってきて良かったですねぇー。キミも大きくなったら強くなって、この子を護れるようになってくださいねっ」
 宇佐見がにこやかに少年と少女を交互に見比べていた。
「おねえちゃんたち、ありがとう!」
 少年と少女が頭を下げる。
 少女の胸にはきつく抱かれたうさちゃんのぬいぐるみ。もう手放さない‥‥そんな気持ちが伝わってくるような力の入れ方だった。
 何度も何度も、振り返りつつもお礼にと手を振る少年たちに一同は依頼の達成を実感していた。
 そんな彼らが見えなくなる頃‥‥
 この依頼を通して出会った彼女たちは自然と円を作っていた。


「みんな、おつかれ」
 愛輝の一言でさわやかな笑顔が生まれる。
 今宵は依頼達成によって得られただろう少女の安らぎを感じて‥‥


END