●リプレイ本文
●お散歩
窓を開くと澄み渡る青があった。
宙の真ん中から空を仰ぐのは、不思議な事なのかもしれない。彼女はふと思った。
浮島に季節のようなものがあるとして、実際それを季節と呼ぶのかは違うような気もする。
地上より高い場所から注ぐ光はやはり強いのだろうか? けれど今、考える必要はない。とりとめのない想いを浮かべ、たどり着いた扉には一枚の張り紙が張ってある。
持参した本を胸に抱き、ややずり下がったフレームを指で直しみつめると、レンズの奥、黒い瞳に文字が映る。
「ご来店の皆様へ、本日は公園にて開店します」
そこには、急ぎ書いたのだろう、乱暴に書きなぐった文字と共に地図が添えてあった。
「公園、か」
誰にでもなく、水上・未早(
ga0049)は呟いた。
陽射しが心地よい。
待ち合わせに少し遅れた彼女は、地図を見ながら通りを歩いていると、どこかで何かの鳴く声が聞こえた。
聞きなれたその声に思わず、彼女は駆け出していた。
風を切る間は、なぜか幸せな気がした。幸せというものが本当は何かなのか分からないとしても‥‥‥。
道の外れで泣いていたのは、子猫だった。
ここは希望の島のはずなのに、彼女はふとそう思う。
「いい子、いい子、ボクが誰かさがしてあげるから、泣かないで」
子猫はか弱く鳴いた。
ジーラ(
ga0077)は優しく撫でるとなぜか、ある街に住む少女を思い出した。
強いってのは、弱いってことだ。弱いってのは強いことだ。
人を威圧する何かの殻を被るものは、その殻によって自らを守っている。守る自体を本人が気づくか気づかないかが、問題ではないとしても。
人目につくのを彼女が恐れないのは、なぜなのだろう。その極彩色の刺繍を鎧にしなければ彼女は歩いていけない。それだけなのかもしれない。
「ふわぁーねむぅぃ‥‥‥いいてんきだなぁ、アイツ元気かなぁ、一緒に、いやぁ、いっか」
ブラッディ・ハウンド(
ga0089)は一つ欠伸をした。
散らばめられたタトゥーが煌く、きっとそれは彼女の心の鎧なのかもしれない。
道中、勢いよく綾峰・透華(
ga0469)はすっ転んだ。
「だー。こんなところに石ころトラップをおくなんてー誰、誰なの。そう! きっとバグアの陰謀だ。全部バグアのせいだ。なんで、女の子同士でクッキー焼かないとだめなの? 普通もらうほうでしょ、でも‥‥‥仕方無いじゃん、彼氏なんて生まれて16年間1回もできた事ないんだからさー!
‥‥‥というわけで、バレンタインの時に自分にプレゼントしたご褒美チョコのお返しを今から作りに行きます。みんな応援してね!
名づけて『セルフバレンタイン返し』かっこいー、私ってかっこいいよね、乙女の鏡だよね」
そういう性格が男を寄せ付けない一番の原因ではないだろうか? 彼女の言動を見た通行人たちは皆そう思った。
リュイン・カミーユ(
ga3871)はブレイズ・S・イーグル(
ga7498)を下僕‥‥‥ではなく、お供に散歩しつつ公園を目指している。
「我の料理が食べられるとは果報者だな、心して食せよ」
どこからそんな自信が沸いてくるのかは、かなり不明だ。
リュインは、兄貴拘束により料理が解禁されてから、今回で調理経験が四度目らしい。
きっと塩と砂糖を間違えたり、コーラと麺つゆを、素で間違えたりするのだろう。
さらに、なぜか味見もせず自信満々。それ、料理ブラックの王道。
最低、味見くらいはしてくれ。これは、きっとブレイズの心の声。
「死ぬ」
ブレイズは素直な感想を述べた。
「どの面を下げてそういう事を言うわけだ、みろ」
「だから、その、う、分かれよ、助けろよ、さつき」
助けを求められた雪村・さつき(
ga5400)は言った。
「がんばって! 経験だから、男の子は経験しないとね、早くおおきくなれよー」
助けを笑顔で一蹴したさつき、いいのかそれで? ブレイズは真っ赤で見るからに危険だ。
「馬鹿やろう!!!! おまえら覚えてろよ」
ブレイズはついに逃げた。どこに逃げるつもりか知らない。どちみち公園に来るだろう。
「もう、意気地なし、まだ修行が足りないのかな」
「これは、さらなる特訓が必要か? 指の一つ二つ失っても」
君達、明らかに楽しんでるよね。
ブレイズ君って、不幸。
「うーん、いいお天気でぃすね」
おひさまの温もりの中、少女は大きく背伸びをした。
小柄な彼女はちょこまかと動く姿は、どこか小動物にも似ている。
「ぱふぇ、かふぇ、ほーぷ♪」
歌を口ずさみながら歩く、お天気に誘われておひさまをみていると、急に視界が暗くなり、正面衝突。
「あうでぃす」
目の前に優しそうなお兄さんがにこにこしている。
「ごめん、大丈夫?」
「ごめんなさい。しまりす、よそ見してたでぃす」
「しまりす?」
変った名前にお兄さんは、聞き返した。
「えーと、縞りす(
ga5241)自分をしまりすって呼ぶんでぃす」
「りすちゃん? でいいのかな」
「はいでぃす」
「そっか、これからどこに行くの?」
「公園のかふぇでぃす」
「じゃあ、気をつけていってらっしゃい」
お兄さんは、ぽふぽふした。
「はい、いってきまでぃす」
しまりすは、手を振って歩き出した。
世の中変った奴らが多すぎるな、うん。
地球の危機を救う前に、世界の秩序が崩壊しそうだ。
とにかくお散歩の時間は終わり、公園には、彼が待っている。
●かふぇ☆ほーぷ
時間もないので、さっさと開店しまーす。
『第一メインイベント』
【バグアパフェバトル OK? バトル GO!】
「未早 VS ジーラ」
「宿命の対決ですね、ジーラちゃん」
「ボクには、まだやらないと駄目なことがある。未早、きみには負けないよ」
宿命なんてあるの? まあいい。
ってことで、戦っている間にカウンターに視点を移しておこう。
「マスター、ホットドッグとコーク」
さつきがバトルを観戦しつつ注文した。
「お嬢ちゃんは参加しないのかい?」
「あたしは、次のサポートだからね、料理は結構出来るけどね、昔孤児院にいたから」
彼女の表情に軽く陰りが浮かぶ、気づいたマスター視線をやるが何も言わず。
「アイスフロートは奢りだ」
「フロートだと太るし、味濁るから」
「好意は、素直に受け取るものだ」
「押しつけられるのは嫌かな」
「歳を取ると頑固になるものさ」
しばらく迷った後、さつきは
「分かった、いただきます」
口に含んだコークは、いつもより甘かった。
さて、そろそろ完成する頃だろう。
「このヘルメットに添えた甘い輝き、今バグアパフェがステアーを越えた瞬間です!」
「ボクのやたらまぶしい彩り、化学合成っぽい強化バグアパフェの前にはどんな機体も勝てないよ」
いったいこの二人は何を作った?
「あの二人に比べたら、私なんてかわいいハートのクッキーを焼いてるのに、なぜ彼氏」
透華ちゃんは、良い子、可愛い可愛い、きっと彼氏ができる‥‥‥確定不能。
様子を眺めていたマスターは、
「あれを食べるらしいぞ」
さつきに向かって淡々と言った。
「見てくれ別として大丈夫じゃない。でも、胃腸薬あるよね?」
彼女は、なぜか空をみつめた。
『第ニメインイベント』
【クッキングレッスン OK? バトル GO!】
「リュイン VS ブレイズ (サポートさつき)」
「我の名はリュイン・カミーユ。汝、調理の前に滅せよ」
「あれは、石像。視線を合わせなければ、大丈夫」(面白ければそれでいいよね)
料理というより、格闘のごとき調理を始めた二人
どうやら、品目は肉じゃがらしい。しかし肉片や、野菜が周囲に散らばっているのはなぜだろう? 普通そこまで飛ばない気もする。いや、深く考えてはいけない。
二人&サポートは、おいて置いて、カウンターに視線を移そう。
「チョコォ、ケーキはどぅかなぁ」
刺青のおっきな女。ブラッディは、ちょっともごもごしつつマスターに聞いた。
「チョコ? ケーキかい?」
「だめかなぁ」
「いや、見かけによらず可愛いとこあるね、まあいい、教えてあげよう」
ということで、ブラッディがケーキを作るわけだが、意外と普通に作るので言う事がない。クリームふわふわなのは、空気とアイツのおかげさ、ハニー目指して、頑張って焼いてくれ。
「でぃす、ココアでぃす」
「ココアを飲みたいのか?」
こくりと頷く、しまりすが指差したのは、ココアマークは確かについているが、ココアはココアでも。
「ココアリキュールだが」
「のむでぃす」
なんとなく危険な感じもするが、リキュール。少しならば大丈夫だろう。
マスターは、ココアリキュールをミルクに数滴垂らして飲ませた。
「‥‥‥きゅーでぃす」
案の定倒れた。
「‥‥‥。酒がだめなら呑まなければいいものを」
しまりすは、ドジなのだ、ドジるのがステータスシンボル☆
『第三メインイベント』
【りすのお料理クッキング OK? GO!】
「でぃ‥‥‥す」
「りすっこ、よってるな」
それでは、僭越ながらますたーの脳内録画でお送りします。
【今日のレシピは胡桃餅】
材料は15人分でぃす
・白玉粉 50g
・上新粉 100g
・砂糖 100g
・しょうゆ 小さじ1
・くるみ 40g
・きな粉 適量
1:ボウルに白玉粉を入れ、水1カップの中から水大さじ5を加えて粒のないように溶き、砂糖、しょうゆ、残りの水を加えて混ぜ、上新粉を加えてダマのないように混ぜるでぃす。
2: (1)を耐熱皿に入れ、ラップフィルムをして電子レンジ600Wで6分加熱するでぃす。途中5分くらいでかき混ぜるでぃす。水分がなくなり、木べらですくっても下におちないくらいのかたさになったらできあがりでぃす。
3:くるみは炒って粗みじん切りにしておくでぃす。
4: (2)に(3)を混ぜて、熱いので木べらで餅状になるまで混ぜるでぃす。
5: (4)を一口大に丸め、きな粉をまぶすでぃす。
「胡桃餅のできあがりーみんな美味しくいただくディス☆」
『明日は、胡桃入りチョコブラウニー』
──ただいま送料無料の年間レシピを記載したマスター監修のレシピ本を希望者にO名にもれなく贈呈、応募はこちら、○○号室──
しまった、オチをつける余裕が無くなった。ええい。
「おい、お前達。ここは宴会の会場じゃないぜ、料理教室だ。とくにそこの一人称我女。なぜ肉じゃがにチョコをいれようとしている? チョコはカレーだ。カレー。NG、さらにさっきから文学眼鏡少女作成、ヘルメットパフェを思わず食ってる皐月なネーちゃん。鷹のお兄さんを無事帰したいのなら、せめてなんとか作成物を食物レベルにしておかないと、逝くぞ」
ブレイズ感謝してくれ、救急セットと冷たい水だけ済みそうだ。
チョコジャガなんて死ぬぞ、ほんと、死ぬ。いや、ここは混入した料理を交換してリュインに食べさせるのも良い。しかし、もはや残り時間が少ない。
ブレイズの女性ナントカ症はまだ治っていない。このさい女風呂にでも投げ込むのを推奨しよう。
ともかく──。
「俺の店から死人を出したんじゃ洒落にならないからな」
マスターは、そう言った。
●閉店
相変わらず、このカフェにやってくるお客は変わり者が多いな。マスターはそう思いつつも、閉店の準備を始める。
夕暮れ時の公園は人気もまばらで、少し寂しい気持ちになるものだ。
「閉店だ」
その言葉を聞いた女は、目の前のバグアパフェをスプーンですくい、口に放り込むと
「甘ぃ。ねぇマスター、このケーキ、喜んでもらえるかぁな‥‥‥?」
「想いを込めてつくったのなら」
「好きってさぁ、なんだろぅねぇ」
「さあね、俺はただのカフェのマスター。あんたはお客、それだけだ」
「つめたぁい」
「帰りな、お仲間が待ってるぜ」
振り返ったブラッディの視線の前に、チョコソースを口の周りにつけている透華がいる。
「美味しかったあ、パフェの天国、天国」
明るい、確かに明るい、しかし明るさと色気というもの線引きは、ちょっと違うものである。
後からやって来た未早とジーラは、透華を見てチョコを拭いた。その後、未早はマスターに何か差し出す、
「余り物ですけれど、良かったら」
彼女達の焼いた、焼き菓子のようだ。マスターはしばらく考えていたが、
「俺よりも、あの男にやってくれ、散々な目にあったからな」
ブレイズへ渡すようマスターは言った。
それを聞いた未早は、ブレイズに不用意に接近した。
「味は保障できませんけれど」
「たまにはこういうのも悪くはねぇな‥‥‥!? うわ、俺、俺」
終了感に浸っていたブレイズを襲う悪夢? 未早を感知し、彼はパニックに陥り、やっぱり逃げた。
せっかく女の子からまともな食物をもらえる機会だったのに、つくづく不運体質。
「ごめんなさい、あたしが渡しておく」
お菓子はさつきが受け取った。
「やれやれ、これは柱に縛り付けて、特訓する必要があるな」
リュインはなぜか微笑んでいる。
やっぱり君達、楽しんでるよね。
ブレイズ君って、不幸。
「お開きだ。解散、みんな無事帰るように」
マスターが言った。
皆それぞれ帰路に着く、マスターも歩き始めころ、ジーラがやって来た。
「あの」
「なんだね、お嬢ちゃん」
「リディスって名前の人を知ってる?」
マスターはジーラの話を聞いたあと
「‥‥‥あの時の酔っ払い姉さんか、呑みすぎには注意するように伝えておいてくれ。ボトルはキープしてあるから、気が向いた時に来るといい」
「それと、これを」
ジーラが差し出したのは、
「猫? 飼い主は」
「捨てられてたから、分からない」
「俺に飼えと」
「だめかな?」
子猫は、か細く鳴いた。ジーラはマスターを見つめた。
「まあいい、名前はどうする?」
「ジーラちゃん帰るよー」
透華が遠くで手を振っている。
「任せる。可愛がってあげて」
去っていくジーラの後ろ姿を見送るとマスターは帰路を目指す。
「カフェに、猫か。まったく、厄介ごとばかり増えるな」
「でぃす‥‥‥おいし、でぃす」
彼の背で眠る、少女が寝言をつぶやいた。
「良い子は、無理をしないものだ、りすのお嬢ちゃん」
「ごめんでぃす」
「さて、帰るか」
「みゃー」
子猫が鳴いた。
見上げる空、染み入るような赤がゆっくりと広がっていった。
【カフェ☆ホープ】
営業時間不定・開店日はその日気分。
本日の営業は終了しました。
またのご来店、心よりお待ちしております。
閉店