タイトル:【GR】無尽蔵の敵意マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/13 06:32

●オープニング本文


●GR鉄道計画
 その計画は、カンパネラ学園の関係者を集め、チューレ基地跡を利用する形で、行われる事になった。
 残骸と化した基地は、言い換えれば資材の宝庫でもある。そして、上手い具合に空いた土地を放って置くのも勿体無いだろうと言う事で、話はまとまっていた。
 しかし、かの地にはまだ、敵も多い。
 莫大な資金のかかる事業に、極北と言う観点から工事を請け負ったのは、かつてシベリアに鉄道を通したプチロフ。
 その代表マルスコイ・ボーブルは、作業員達の安全確保を、その条件に求めた。
 さもありなんと頷いた学園側の総責任者は、ウォルター・マクスウェル卿。
 加えて、会長でもある龍堂院聖那、技術部門の責任者はキャスター・プロイセン准将と、それぞれの関係者が、それぞれの役目を持って、再び極北の地へと赴く事になる。

 グリーンランドに鉄道を。

 基地を作り、街を作り、それを結ぶ。絆と‥‥共に。


「くそっ、どうなってるんだ!」
 周辺に敵影無し。念のためKVの使用も許可されていた。
 やることは簡単。ただ線路敷設作業の護衛をするだけ。そんな簡単な絶対に安全な任務だったはず。それなのに‥‥
『隊長! 取りつかれてます!』
 一瞬に思考の隙。そこを付いたキメラがすぐさま隊長の乗るロジーナの脚部にまとわりつく。
 舌打ちをしつつ、隊長は自機の足に向けて発砲。
 ガトリング砲による衝撃が機体に走る。多少のダメージ。しかし、その攻撃でまとわりついていたキメラはただの肉塊となり果てた。
 敵の戦力自体は大したことないのだ。ガトリング砲の弾が一発でも当たればそれだけで吹き飛ばされ、二発当たれば絶命は必至だ。
 しかし、問題は敵の数。
『おい、お前何匹倒した?』
『16匹までは数えてたが、その先は覚えてない‥‥』
 隊員たちのそんな会話が無線から聞こえてくる。
 隊長自身もすでに何匹のキメラを倒したかわからない。
 だが、一向に敵の数は減らない。
 さすがにこれはおかしい。こんなに敵が潜伏していて気付かないはずがないのだ。
(あるいは‥‥近くにキメラプラントでも残っていたのか?)
 この辺りは元々バグアの勢力圏だったところだ。撤退の際キメラプラントを放置。それがなんらかの拍子で作動。制御する人員もいないだろうからそのまま暴走して現在に至る、と。
 多少強引だが筋は通っている気がしないでもない。
 隊長は計器を覗く。練力、弾薬とも底を尽きかけている。
「どちらにせよ、一度後退しなければ駄目か‥‥」
 最低限の補給を行った後、空からキメラの出所を抑える。それしか状況を打破する手立てはないだろう。
 少なくとも、現状ではそれしかないように思えた。
 その場合、問題はそれまでの間作業ポイントを防衛できるか否か。
(だが‥‥)
 ちらりと隊長は自分たちのはるか後方を見る。数機のKVが視界に入る。
 自分たちの後ろを守るのはラストホープの傭兵達。彼らは精鋭だ。何とかしてもらうしかないだろう。
「よし、我々は一時後退するぞ!」
 隊長はガトリング砲にこめられた最後の弾丸をバラまきつつ周囲の隊員に撤退命令を出した。 

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
明神坂 アリス(gc6119
15歳・♀・ST
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文


「キメラの動きを捕捉‥‥情報通り、かなりの数の敵ですね」
 里見・さやか(ga0153)はウーフー2「Spenta Armaiti」のECCMをフル稼働させ、敵の動きを捉える。
 その情報はさやかから即座に他の機体に伝えられる。
「なにあの数、キメラの分際で赤軍の真似するつもり?」
 冬の故郷を思い出し懐郷に浸っていたクローカ・ルイシコフ(gc7747)はそんな気分を邪魔され、かなり不機嫌になっている。
「うへぇ、数えるのも馬鹿らしくなるくらい敵さんうじゃうじゃいるわ」
 明神坂 アリス(gc6119)はリッジウェイ改「タイタン」のコクピット上で頭を抱える。敵の数が今接近しているものだけならまだましだが、先に相手をしていた正規軍の話だと増援がどんどん来ているということだから問題だ。
「普段は強力な個体相手ほとんどだが、確かに小型キメラでもこれだけの数が集まれば侮りがたいものがあるな」
 榊 兵衛(ga0388)は武者鎧を着込んだかのような塗装を施した愛機、雷電改2「忠勝」のコクピットから前方を見据え思う。窮鼠に追い詰められて、無様な敗北を喫するのも癪に障る話だ、と。
「ここは時間を稼ぐのではなく全滅させるくらいのつもりで挑むこととしよう」
『その通りですな。私自身もああいった有象無象どもの相手は望むところ、ですし』
 通信でそう語りかけてきたのはディアブロ改を駆る飯島 修司(ga7951)だ。 
「もう来たか」
 兵衛同様、前衛に位置する狭間 久志(ga9021)はハヤブサ改「紫電」に装備したスパークワイヤーを使用したトラップを張ってキメラを迎撃する算段だった。だが、思いのほかキメラの接近が早かったため、その設置を断念した。もっとも、スパークワイヤーもSES搭載武器。手元から離した場所に設置すればその効力は薄れることだろう。罠としての効果はあまり期待できなかったかもしれない。
(数頼みの敵ですか‥‥)
 御崎 緋音(ga8646)は雷電改「ヘルヴォル」のコクピットで厄介な敵だと考える。
「とはいえ榊さんや飯島さん、里見さんら頼れる仲間もいます。最後まで油断せずに集中して作業員の方たちを守りきりましょう!」
 そう決意する緋音の言葉を聞きながら、美紅・ラング(gb9880)はただ淡々と作業をこなすだけのように、ストロングホークII「天目一個」に装備した榴弾砲の照準を敵が攻めてくる方角に向けた。
「害虫駆除、殲滅開始、である」
 敵が射程内に入った。


 キメラ群の接近に対し、能力者たちは陣形をとる。
 前衛前列を守るのは兵衛と久志。
 その後ろ、前衛後列。中衛といってもいいかもしれない。そこを守るのはラング、修司、緋音の3人。
 この5人は逆W型の陣形をとりキメラを待ち構える。
 その後方にはさやかが中央、左翼をクローカ、右翼をアリスとした後衛。
 この3層の隊列で敵を確実にしとめる腹積もりだろう。
「敵は‥‥正面からまっすぐ向かってくるようです、迎撃を!」
 さやかはじめ能力者たちは迂回なども警戒したが、敵はキメラ。そこまで頭は回らないと見える。愚直に突っ込んでくるようだ。しかし、その数だけは脅威足りえる。
「さてさて、この数相手に一匹も通すな、ですか‥‥やれと言われればやるしかないのが傭兵のつらいところですな」
「まるで虫のような奴らである。であるならば、虫のように殺すまでである」
「砲撃班のクローカ、敵群戦闘を目視確認。主砲掃射用意‥‥状況を開始します!」
 敵の接近に対し、まず3機が砲撃を行う。
 いち早く敵に砲弾を撃ち込んだのは修司。高初速で放たれた砲弾は、キメラの前衛に喰らい付き、吹き飛ばす。単発の砲弾でありながら、その高い威力は周囲のキメラを数匹巻き込んでいく。
 それに続く形で、クローカも長距離砲を撃ち込む。連続して放たれた砲弾は地面をえぐり、横一列に並ぶ穴を形成していく。
 初動で最も効力を上げたのはラングの榴弾砲だ。射程の長さを生かし、修司やクローカと比べるとやや後方に撃ち込み範囲内のキメラをまとめて焼き払おうとする。大型自走砲の主砲として開発されていた300mm榴弾はその思惑通りに放たれ、その思惑通りにキメラを焼く。たった2発の砲撃で、100近いキメラが葬られた。
 3人の砲撃で、敵前衛のおよそ半数が撃破。そして、この砲撃の効果はそれだけではない。
 砲撃によって、地面には大なり小なり穴が開く。大型キメラなら、そんな穴ぐらい容易に飛び越えてくるところだが、小型となるとそうはいかない。敵の足は確実に鈍っている。しかし、その総数はまだまだ多い。
「次から次へとキリがない‥‥これだからネズミは大っ嫌い!」
 そう言いつつクローカは長距離砲を打ち続ける。
 砲撃によって数が減らされ、出足が鈍ったとはいえ、キメラの数はまだまだ多い。
 その前衛が味方前衛と接触する。
「一騎当千の強者が揃っている以上、ここで醜態を晒すのは恥以外の何物でもないしな」
 兵衛はそう言って長距離バルカンを起動。広範囲に掃射することで敵の侵攻を抑える。が、それだけがこの攻撃の目的ではない。弾幕にあえて隙を作り、そこに敵を誘導する。
「敵が多すぎて雪原が見えないね‥‥」
 こんな状況での戦闘は初めてだ、と半ば呆れつつ対応を行うのは久志だ。彼は兵衛の作り上げた敵の密集地点に対しグレネードを撃ち込む。密集した敵群はその一発で一気に焼き払われる。
「遠慮するな、グレネードはまだあるぞ!」
 兵衛も続いてグレネードを使用。やはり小物に範囲攻撃は有効と見える。敵の大部分が焼かれている。
「今ですね‥‥弾幕を張って掃討します!」
「了解! ここから先は絶対にいかせないぞっ!」
 残った敵も、中衛の緋音によるスラスターライフル、後衛のアリスによる機関砲によって殲滅される。
 砲撃班の攻撃による損害も手伝ってか、敵の第一陣は完全に殲滅された。
「とりあえずは、凌いだかな‥‥?」
『‥‥いえ、まだ来ます! 先ほどと同数以上の敵です!』
 一息つけると安心する間もない。さやかが通信で新たな敵の襲来を告げる。まだまだ戦いは終わらない。


『前衛に通達、仰角好し、方位好し、選択弾種HE。これが最後の砲撃だよ! 副砲効力射、Огонь!』
 クローカの駆るスプートニクから、最後の滑空砲が放たれる。砲弾は最初期と同様敵集団に命中。何匹かを吹き飛ばす。しかし、これでクローカも砲撃の為の弾丸を打ち尽くした。
 すでに戦闘時間は10分以上経過している。弾薬に制限のある武装に関しては、そろそろ尽き始めていた。
「グレネードはもうないからな‥‥突撃して押し返す!」
『了解、援護の弾幕を張るぞ』
 ブーストを使用した久志は翼面超伝導とブーストを併用。兵衛の援護射撃を受けながら突撃。攻勢にでて押し返すつもりだろ。
「ソードウィング起動‥‥斬り裂けぇぇっ!」
 4基のブースターがフル稼働することで紫電は加速。久志は加速によるGに歯を食いしばりながら耐え、ソードウィングで突撃。その翼の軌跡に存在したキメラは等しくその体を両断される。兵衛の援護射撃も相まってかなりの敵を倒すことができたが、そこが隙になる。自身周囲への集中を一瞬だけではあるが、切ってしまった兵衛の周囲には今にも飛びつかれそうな距離までキメラが接近してきた。
「‥‥ちっ、接近されたか! ならば!!」
 だが、兵衛は機槍を常に使用可能な状態にしていた。即座に槍をとり、横薙ぎに振るう。過去を生きた歴戦の武者の如く、その槍はキメラたちを斬り、あるいは吹き飛ばした。
 こうして、前衛は近接戦闘に移行していく中、中衛でも‥‥
「榴弾砲も弾切れであるか‥‥接近戦に移行するのである」
 そう言うと、装輪走行に移行したラングが天目一個を加速させ、前衛が戦う敵陣に突っ込んでいく。
 徒手格闘が可能なコーティングを施した天目一個は周囲の敵を手当たり次第
 前衛の近接戦移行により、殲滅速度はにわかに上がったように見えるが、射程の問題からカバーしきれない敵が出てきていた。
「‥‥この状況では陣形の維持は無意味ですかね‥‥突破してきた敵の撃破に専念しましょう」
『了解です、一匹一匹はやはりそう強くないですし、確実に倒しましょう』
 ラングの位置をカバーするように修司、緋音はやや左翼側に移動しつつ、弾幕を張る。
 といっても、前衛が乱戦状態である。そのまま撃っては味方にも被害が出る。特に修司のディアブロ改は火力の点で異常といってもいいレベルだ。2人は誤射に気を付けつつも、抜けてきた敵だけを上手く狙っていく。
「これは‥‥結構神経を使いますね」
 そう呟く緋音。それは修司も同じ気持ちだった。
 その間、後衛も何もしなかったわけではない。
『ルイシコフさん、明神坂さん、この状況に乗じて敵が横から抜けてくる可能性があります。注意してください』
 そう指示を出しつつ自身はレーダーを注視。射程に入った敵へプラズマライフルをピンポイントで撃ち込みながら、警戒を絶やさない。
「そうそう簡単に‥‥抜かせるかっての!」
 アリスは機関砲を掃射。修司、緋音が撃ち漏らした敵を蜂の巣にしていく。敵が大量に迫ってきたら目の前の敵に集中せざるを得ないが、前衛中衛合わせて5機は優秀だ。その撃ち漏らしは多くない。
 それはクローカも同じ。
「砲撃はもう難しいけど‥‥まだまだ武器はあるからね」
 マシンガンではやや射程が足らないため、バルカンで援護射撃を行うが、その攻撃頻度は少ない。
 面倒なのは、固まって行動してたのが多少ばらけてこちらに向かってきているから見逃さないようにしなければいけないという点ぐらいだ。
 もっとも、さやかと「Spenta Armaiti」がこちらにいる限り、蟻の子一匹見逃すことはないだろうが。

● 
「こりゃ、激戦だったね‥‥」
 クローカはさやかが戦闘前にみんなに配った携帯食を頬張りながらあたりを見回した。
 周囲は雪原の白を留めていない。戦闘の余波で吹き飛び、えぐれた地面。キメラたちの残骸。
 近接戦闘を行った久志、兵衛、ラングの機体に関しては、キメラの血で真っ赤に染まってしまっている。
 まぁ元々兵衛の機体は朱漆色を基調とした塗装を行っているので目立たないといえば目立たないのだが。
 戦闘自体は、開始から15分程度でけりがついた。それ以後敵がやってこないのだ。
「正規軍の方がなんとかしてくれた‥‥ということでしょうか」
 だが、未だ報告は入って来ていない。警戒態勢を解くわけにはいかないだろう。さやかは現在もレーダーから目を離さない。
「‥‥考えようによっちゃ、少数精鋭で敵の大群を跳ね返すってシチュエーション、結構燃えるものがあるよね」
 アリスはそう言って、明るく笑った。
 始まった直後こそ、その状況から危機感しか感じられなかったが、ふたを開けると、各自に怪我人なし。機体の損傷もなし。まさしく圧勝である。
 ただ‥‥
「ある意味、エース相手にするより疲れたな」
「確かに、な‥‥」
 溜息をつきながらそう呟く久志に、兵衛が同意を示した。
「とはいえ、まだ敵が来るかもしれません。あまり気を抜かないようにしましょう」
 その修司の言葉に皆は気を引き締める。
 この後、帰還した正規軍兵から「とりあえずの」目標達成報告を聞くまで、能力者たちの緊張状態は続くことになったのだった。