タイトル:【OF】爆撃機を叩けマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/29 22:33

●オープニング本文



 プチロフは奇妙な組織だ。ウラル周辺を中心に、旧ソビエト連邦内の多数の工場施設や研究施設が複合している連合体ゆえに仕方が無いことなのかもしれないが、その全体としての意思決定プロセスは極めて複雑で、当事者ですら責任の所在が判らなくなる事も多いという。あるいは、それが国の風土なのかもしれないが。
 その日、宇宙へと打ち上げられたSES式R−7ロケットの総数すら、当初は不明だった。その先端に据えられていたのが有人の新型KVであろう事、そして成層圏を越え、低軌道に達した付近でその全機が撃破された事は、同社ではなく世界中の天文観測施設からの光学観測の報告で、まず明らかになった。
 その意図が実験であれ、威力偵察、あるいは新型のデモンストレーションであれ、結果を見れば、明らかに失敗だ。その日、同社の内部で幾人の管理者が人知れず席を去ったのか、誰も知る事は無い。ただ、数時間後に公式の場に姿を現した同社幹部は、「前任者」の汚名を雪ぐべく情報公開に務めると共に、勇敢な死者たちを無駄にせぬよう、広く協力を呼びかける、といった。
 ――墜落した残骸の多くは、同社の影響力の強くない地域に散らばっていたのだから、当然の事やも知れない。


 全11機のHWが空を飛ぶ。うち3機は有人機である。
 これらのHWは、宇宙から落下した物質に関する命令を受けて行動していた。
 その中の一つ、高速爆撃型HWに乗っているのは、中でも凄腕の強化人間であり、この隊を指揮している。
 彼は飛行中、出撃前の上司との会話を思い出していた。

 ――問題なのは能力者たちが落ちた残骸を回収することだ。
 ――自分たちで回収する必要はない。
 ――周辺を爆撃でもして、残骸ごと吹き飛ばすってのも手だろう。
 ――周辺を爆撃でもして、残骸ごと‥‥
 ――周辺を爆撃‥‥
 ――爆撃‥‥
 
「爆撃」「爆撃」「爆撃」と、強化人間は頭の中で唱え続けた。
 言うまでもなく、命令は『残骸回収阻止』で『爆撃』ではなかったのだが、どうもその言葉が印象に残ったらしい。
 そう。この強化人間はHWの操縦技術という点では間違いなく凄腕であった。
 しかし、どこか大事な、決定的な何かが欠けていた。
 目標地点が近付いてくる。
「よし、隊を二つに分けるぞ。一隊は正面から、俺たちは迂回して逆方向から接近する!」

●参加者一覧

篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
佐賀繁紀(gc0126
39歳・♂・JG
カークウッド・五月雨(gc4556
21歳・♂・DF
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG

●リプレイ本文


 極北の空を8機のKVが飛ぶ。
 眼下には針葉樹林が広がり、その一角からは煙が立ち上っている。
「あの辺りに残骸が落ちたようだな」
 そう呟いたのはサイファーE「鬼払」を駆る追儺(gc5241)だ。
 宇宙を目指すためにも、その成果が見込まれる残骸は確実に保護したいところだ。
「試験器の回収をすれば、多少でも情報が得られるかもしれませんからね」
 それに関しては、イビルアイズ改「バロール」に乗る乾 幸香(ga8460)も同様だった。
「こういう場合だと敵は爆撃で一切の情報を与えないと言うプランをとってくるかもしれませんね」
 今までに学んできた戦術知識から、その可能性を口にしたのは緑川 めぐみ(ga8223)。その乗機フェイルノートIIだ。
 彼女の言ったことは尤もだ。能力者たちは周囲への索敵を強める。
 やがて、南方から迫る敵HW群をそのセンサーに捉えることになった。
「敵機は何としても近づけさせんぞ」
 そう言って意気込む佐賀繁紀(gc0126)は伊藤 毅(ga2610)、めぐみ、幸香とともに迎撃に向かった。
 一方、篠崎 公司(ga2413)は自身のコールサインと同じ名を持つウーフー2「フェンリル01」を空中で旋回させながらその空域に待機。
(一番恐れられるのは、増援により此方の隙を突かれること‥‥)
 そう考えた公司は後方で周囲の警戒をより強める。
「これより周辺警戒を実施する。オーバー」
 往年の名機S−01のCOP機を操るカークウッド・五月雨(gc4556)と追儺も同様に周囲への警戒を強める。
 アルテミス(gc6467)とその乗機ガンスリンガー「オリオン」は落下地点上空に位置。
(今のボクの実力だと、どれぐらい落とせるか試してみようっと♪)
 彼は接近してきた敵機を狙撃する腹積もりだ。しかし、まだまだ敵は遠方。出番はまだ先になりそうだった。


 北方から近づいてくるのは8機のHW。
 対し迎撃に出るの能力者側の機体は4機。
 その距離は徐々に詰まっていく。基本的に敵の持つ武器の方が射程の面で優秀だ。ただ近づいていくだけでは先制攻撃を受けてしまうだろう。
「突撃しますので、後はよろしくお願いします!」
 だから、というわけではないだろうが、先に動いたのは能力者側、めぐみだった。
 めぐみはブーストを起動し、一気に射程まで接近。
「ツインブーツトアタッケ、クードロア起動確認‥‥」
 めぐみはその搭乗機体、フェイルノートIIの力をいかんなく発揮。目標を照準に捉える。 
 狙いは前衛のHW4機。どうやら旧式の小型HWのようだ。本当は後方のHWも1機位照準に入れたかったが、射程外だ。まずは目の前に敵から落とす。
「‥‥目標マルチロック、K−02一斉発射!」
 かけ声とともに、搭載されたミサイルコンテナから合計500発の小型ミサイルを放出。
 無数のミサイルは荘厳な軌跡を描きながら飛び、その全てがHWに直撃する。無数の爆発とともに爆煙が舞いあがる。
 ‥‥が、煙が晴れた先にはいまだ健在のHWが。表面装甲には無数の焦げ跡が付いている。通常のHWだったら、今の攻撃で半壊位までは持ちこめただろうか。しかし、この敵はどうも他と比べて多少装甲が厚いらしい。
 もちろん敵もやられっぱなしではない。4機のHWが一斉にプロトン砲を放つ。
 射程内にいるのは幸香、毅。そして、攻撃の為に最初にブーストを使用しためぐみ。4本の光柱が能力者たちを襲う。
 しかし、小型から放たれたプロトン砲はめぐみの傍をかすめた程度で、他の2人には絣すらしなかった。
「ロックオンキャンセラー、起動しました」
 幸香の駆るバロールが対バグアロックオンキャンセラーを使用したお陰で、敵の照準精度が著しく落ちたのだ。回避に成功した3人、そして移動力の問題でやや遅れていた繁紀もブーストを使用してノーヴィ・ロジーナbis「疾風」を加速。4人はそのまま攻撃態勢に。
 毅はフェニックスA3型の速度を上げ、めぐみの攻撃で態勢をくずした敵の小型HWを突破。それらは他の味方に任せて後方のHWを狙う。装備を見る限り、あれが爆撃型だろう。
「ターゲットロック、ドラゴン1、FOX2!」
 毅はホーミングミサイルDM−10を使用して牽制。爆発に揺らぐ爆撃型HWを射程内に納めつつライフルを掃射。弾丸がHWの装甲を削り取るが、まだまだ健在だ。
「こいつも装甲を強化してるのか。堅いな」
 毅はFCSに爆撃型HWをターゲットとして登録しつつ、苦戦を予感していた。
 幸香はロックオンキャンセラーを維持しながら正面の小型HWに接近。AAMを連射。一発目のAAMがHWの装甲を抉り取る。続けて撃たれたもう一発がその装甲の隙間に潜り込む。内部で小爆発が数度起こった後、小型HWは推力を無くし墜落して行った。
 戦列に追いついた繁紀はロケットランチャーで別の小型HWを攻撃。横合いからは幸香がAAMで支援を行う。幸香のAAMは装甲の厚い部分に当たったようでHWに損傷を与えられなかった。だが、そのお陰でHWは態勢を崩す。
「敵機を近づかせる訳にはいかんな」
 そこに繁紀の放った、合計16発のロケット弾は吸い込まれるようにHWに命中。多少の損害を与えた。
 この隙を逃すわけにはいかない。
 めぐみはガトリング砲で牽制しながら突撃。
「格闘戦も頑張らないと‥‥!」
 ブレードウィングでの一撃離脱を試みる‥‥が、これはHWの装甲に弾かれてしまった。
 この時点で、小型HWは3機、爆撃型は4機が健在である。
 戦闘はまだまだこれからだ。


 北方で小型HW、爆撃型HWと激しい戦いを繰り広げていた時、南方からも新たな敵が接近してきていた。
「当たって欲しくない予測ばかり当たってしまうのが悲しいですね‥‥迎撃しましょう」
「新たな敵‥‥我々が対応せねばならんか」
 北側の敵を迎撃に向かった味方がこちらに戻って来るまでにはかなり時間がかかるだろう。となれば、この敵は自分たちが相手にしなければならない。
 カークウッドはブーストを起動。戦場は残骸からある程度離れた位置に設定したい。速さが勝負だ。カークウッド一人では不利とみた公司もブーストを使いそれに追従。
 その後ろには追儺が付く。カークウッド、公司の2機を前の防御線とし、自分はその後ろ、後方の線を守る腹積もりだ。
 アルテミスはさらにその後方、回収ポイント上空で待機。DFバレットファストを起動して敵の接近に備える。
「守勢任務は狙撃屋さんにはうってつけだね。前はよろしくね」
 打って出た3機は敵の編成を遠目で確認。北方の敵と比べ数はかなり少ない。だが‥‥動きが速く、そして迷いが無い。恐らく有人機。それなりの腕を持ったパイロットが乗っていることだろう。
 ブーストを使用して接近していた公司、カークウッドがまず敵の射程内に入った。3機のうち2機。中型HWから強力なプロトン砲が放たれる。
 カークウッドは直撃。S−01COPの装甲が半分近く消し飛んだ。
「くっ‥‥やはり防御性能には難なり、か」
 それでもカークウッドは何とか機体を立て直し、中型‥‥は無視。中型の攻撃に紛れて突破しようとしたもう一機を狙う。
「この装備‥‥爆撃機か。爆弾なぞ落として森を焼くのはやめてもらいたいところだな」
 公司も自身に撃たれたプロトン砲を回避。カークウッドに倣い抜けようとした爆撃型HWを狙う。
 しかし、両者から撃たれた攻撃は、HWの鋭角的かつ素早い機動によって容易に回避されてしまった。
「こ、これは‥‥なんて速さですか」
 さしずめ高速爆撃型HWといったところだろうか。圧倒的速さで2機の横を駆け抜ける。 このままでは抜かれる‥‥
「誰一人としてここは抜かさん‥‥墜ちろ!」
 しかし、正面にはまだ追儺と、彼の操る鬼払がいた。
 追儺はライフルをばらまくように斉射。弾幕を張って進行を妨害する。
 高速爆撃型は再びその機動性を発揮して回避‥‥しようにも90発の弾を全て避けることは難しい。何発かその身に受ける。それだけで機体が揺らいでいる。
「なるほど。あの機動性は装甲を犠牲にして得たものらしいな」
 この機を逃すわけにはいかない。カークウッドと公司はブースト。疑似慣性制御によって高速旋回。HWの後ろを取る。
 HWの前方に位置する追儺も合わせ、三方向からの同時攻撃。
 追儺のライフルによって削ぎ取られる装甲部分を公司のAAMが直撃。傷を広げる。
「往年の名機‥‥その実力を見せてもらうぞ!」
 さらに、追従するカークウッドの空対空ミサイル「ラプター」が直撃。高速爆撃型HWは各部で小爆発を起こし満身創痍の状態。撃破までもう一息‥‥
 だが、追従する中型HWはそれを阻止しようと再びプロトン砲を発射する。
「来ますよ!」
 しかし、能力者側もそうそう何度も当たっていられない。
 公司の声に反応してカークウッドは操縦桿を切る。
 ブーストの効果も相まって、初撃は何とか回避。次弾は受けてしまうが、最初と比べて損傷は軽微で済んだ。
 公司は最初と同様に回避。が、このプロトン砲はその先に位置する追儺も射程に捉えていた。
 舌打ちしつつ回避行動を取る追儺。
 その隙に戦列を抜かれてしまう。
「しまった‥‥!」
 高速爆撃型HWはその速度を生かし、一気に目標に向かう。
 

 一方、北方でも激しい戦いが続いていた。
 最初にプロトン砲を撃ってきた小型HWだが、距離が詰まって乱戦の様相を呈してきた状況では同士討ちの危険性があるのだろう。代わりに狙撃銃のようなもので攻撃。
 めぐみはその高い機動性で攻撃を回避していくが、避けそこなった一発がかなりの損傷を与える。
「くっ‥‥お返しですよ!」
 めぐみは操縦桿を引きながら機体を宙返り。途中で機体をロールさせることで機体高度をとりつつ旋回。敵を視界内に捉えたところでAAMを発射。牽制しながら接近し、再度ブレードウィングによる突撃を試みる。AAMによって生じた傷に翼の剣が直撃し、HWのボディを揺らした。
 対し、繁紀に向けて撃たれた攻撃は全弾命中。が、繁紀機の損傷は軽微。
「こんなものでどうにか出来ると思ったか‥‥?」 
 かなりの防御力だ。反撃のロケットランチャー三連射。一射目、ロケット弾8発が装甲を弾き飛ばす。その後に二射目、三射目が内部に打撃を与える。
 そのままHWは小爆発を起こしながら落下。地面に到達する前に爆発した。
 幸香はジャミングの恩恵もあってからかなり余裕を持って回避。
「こちらは大丈夫そうですね‥‥それでは、私は爆撃型の方を」
 小型の数が減ってきたため爆撃型の方に向かう。
 その頃毅は爆撃型から一斉攻撃を受けていた。4機の爆撃型から放たれた無数の拡散フェザー砲が毅に放たれる。
 だが、この時毅は冷静だった。
 フェニックスのスキルオーバーブーストを使用。操縦をロールさせながら降下。位置エネルギーを速度に転換する、所謂スプリットS気味に機体を制御、加速しながら攻撃を回避。
 運に助けられた部分もあるが、放たれたフェザー砲をほぼ全弾回避。
 毅はそのままオーバーブーストの恩恵を受けつつ機首を上げ、スラスターライフルで弾幕を張る。
「エネミーガンレンジ、ドラゴン1、FOX3!」
 この量の攻撃を回避される、と想定していなかったであろう 爆撃型HWはそのままハチの巣にされ爆発した。
 さらに幸香がAAMで援護を行う。
 まだ敵の数の方が多い状態であったが、戦局は明らかに能力者側に傾いていた。

 対し南方。
 ブーストをかけて追撃する3機。しかし高速爆撃型HWは早い。一気に上空まで到達‥‥いや、その前に奴がいた。
「いらっしゃい。待ちくたびれたよ♪」
 アルテミスとその愛機オリオンだ。彼の機体は狙撃に専念する為に、辛抱強くこの空域に待機。それが実るときが来たのだ。
「狙い撃つよ。狙撃屋さんは狙撃がお仕事♪」
 オリオンから放たれたアハト・アハトが向かってくる高速爆撃型HWに放たれる。
 高速爆撃型HWにはその圧倒的機動性により回避。
 そのまま爆撃態勢に移行しようとした。
 この時、高速爆撃型に乗った強化人間は油断していた。
 アハト・アハトは狙撃銃。一射撃ったらリロードする必要があることを知っていたからだ。その半端な知識が、この強化人間の命運を分けた。
「その動き‥‥迂闊だよ!」
 強化人間の予想に反して。オリオンからアハト・アハトによる狙撃は『瞬時に』放たれた。
 ガンスリンガーの特殊能力DFバレットファストにより、そのリロード時間は短縮されていたのだ。
 高速爆撃型HWは爆撃どころか、回避行動を取ることも出来ずアハト・アハトの直撃を受け、そのままふらふらと墜落して行った。
 この時点で、全体の戦況は決した。


「辛勝‥‥ですね」
 公司は今回の戦闘をそう評した。
 南方から向かってきた残り2機の中型HWは、高速爆撃型HWの撃墜を見るや素早く撤退に移った。
 そのお陰で南方にいた味方が北方の援護を行えるようになり、多少の時間を要したが、北方の敵は壊滅。
 結果だけ見ればなんの問題もなく状況は推移したように見える。
 だが、高速爆撃型には防衛ポイントの上空までの侵入を許してしまった。
 それまでに十分ダメージを与えていたからこそ、アルテミスの狙撃で撃墜することができたのだが、そのダメージも偶然発生した有利な位置取り等、運による部分も大きかった。
 それに、中型が逃げたから良かったものの‥‥このまま戦闘を続けていれ、負けないまでもかなりの損害が出ていた事だろう。
 北方のHW群も、動き自体は決して精密なものではなかった。多少装甲が厚かったようだが、もっと手早く処理する手立てもなくはなかったように思える。
 この辺りは、各機の連携に対する甘さが出てしまった結果なのかもしない。
『まぁ結果として回収部隊は守れたんだし、良しとしようよ』
 アルテミスが無線からそう呼び掛ける。
 その通りだ。何がともあれ敵に攻撃はさせなかった。残骸回収も滞りなく進んでいるようだ。
 この残骸から、多少なりとも宇宙の敵に関する情報が得られることだろう。
「宇宙か‥‥」
 機体から空を見上げて、追儺はふと呟いた。
 彼らの戦場が宇宙に移るのも、そう遠くはないのかもしれない。