タイトル:【RR】牙獣の急襲マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/20 15:01

●オープニング本文



 UPCロシア軍が管理する前線基地。
 バグア軍の鉱山基地攻撃時などには物資の補給などに従事するなど、作戦成功への貢献度は決して低くは無い。
 だが、先日の作戦成功でバグア軍の前線は大きくバイコヌール方面へ後退した。そうなるとここから前線への距離も遠くなるためその重要度は大きく低下した。
 そのため、近々基地から司令部を移動させる必要が生じていた。
 事件が起きたのは、司令官が次の基地になるべき場所への視察へ向かった、そんな折だった。
 突然響いた地響きと警報。
 それが敵、地面の下からの奇襲だと基地内に行き渡るまでそうそう時間はかからなかった。
「サンドワームによる地下からの奇襲、か‥‥気付けなかったこちらの落ち度だね」
 そういって、基地司令を代行していたアレクセイ・ウラノフ大尉は大きなため息を吐いた。
 とはいえ、急ごしらえの前線基地だ。そういった備えが甘かったのも致し方ないのかもしれない。
「敵の出所は?」
「KV格納庫と正面ホールの2か所です」
「では、手の空いてる戦闘員は正面ホールに集結。可能な範囲で足止めをしてもらおう。非戦闘員の退避勧告も忘れずに」
 問題なのは兵力差か。現在基地の主力である能力者は周辺の偵察や視察へのお供で出払っている。残っているのは先ほど基地に到着した傭兵と、アレクセイの部下ぐらいのものだ。
「‥‥しょうがない、僕も出よう」
 しばらく防衛指示を行っていたアレクセイだったが、意を決して腰から愛用のトンファーを取り出す。
「僕が出てからは入り口を閉じて、戦闘終了まで誰も入れないように。他に能力者がいない以上入り込まれたらアウトだからね」
「りょ、了解しました‥‥ところで、KV格納庫の方は‥‥」
「そっちは心配しなくていい。そこにいる人間が対処するさ」
 アレクセイはそれだけ言うと、小走りに司令室を飛び出していく。
(といっても、僕も戦闘はあまり得意じゃないしなぁ‥‥)
 若干の不安もあるのか、視線を落として走るアレクセイ。司令室から正面ホールまでは一本道。能力者であるアレクセイならばすぐにたどり着ける‥‥はずだった。
「‥‥何だ!?」
 前に視線を向けた瞬間、不意に視界に飛び込んできた刃。それを反射的にトンファーで受け止める。
 武器同士がぶつかる金属音。同時にアレクセイは、その衝撃に耐えかねるように後ろに弾き飛ばされる。
「今の攻撃を‥‥良く受けた‥‥やる‥‥な」
「‥‥まぐれだよ」
 気付くと、アレクセイの目の前には敵‥‥剣を持った人狼が立っていた。
 一本道の通路、とは言ったが多少の障害物が無いわけではない。だが、そこに隠れていて奇襲してきた、という感じでもない。
(どちらかというと瞬間移動してきた、みたいな感じ‥‥まるで瞬天速でも使ったみたいだ)
「我が名は‥‥アトス。我が主、ガウル様の命により‥‥貴様たちを‥‥ここで始末する」
 ガウル、という名前には聞き覚えがあった。確かグリーンランドに残っているバグアだったはずだ。
「ずいぶん堅い言い回しだね。それも君の主人の趣味かな?」
 余裕ぶって話すアレクセイだが、内心非常に焦っている。
「趣‥‥味‥‥? その言葉の意味は‥‥よくわからない‥‥人の言葉は‥‥難しいものだ‥‥な」
 そう言って口角を吊り上げるこのアトスとかいう‥‥多分キメラなのだろう。こいつの戦闘力は自分より上であることが分かっているからだ。
(司令室に行かせるわけにはいかないんだけど‥‥これは死んだかな?)
 頬を伝う汗の冷たさが、やけに鮮明に感じ取れた。


 その頃、敵が突入してきていたKV格納庫。
 キメラたちの目の前には、4人の男が立っていた。
 手には各々武器を持ち、戦闘の準備は万端と言った感じだ。
「なるほど、奇襲ねぇ‥‥」
「いやぁまさか俺たちのいるところにわざわざ出てくるとは運が悪い‥‥いや、俺達にとっては運がいいのか?」
「で、どうしますか少尉殿? 『やっちまって』いいんですか? いいですよねぇ?」
「まぁ待て。やっちまうのは‥‥いつもお世話になっている整備士の方々の安全を確保してからだ。そうしたら‥‥煮ようが焼こうがお好きのままに、ってなぁ?」
 笑い声が高らかに響く。
 彼らはアレクセイと一緒に地上に降りてきていたアヴローラ防衛隊。OF4番隊から選出された精鋭であるが、元々の所属はUPCロシア軍。そのロシア軍から直々に高性能機であるニェーバを受領するなど、その腕は確かだ。
 そして何より‥‥全員腕っぷしに自信があり血の気の多いマッチョマンである。
 これこそがアレクセイが心配する必要が無いといった理由だった。 

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
ジョー・マロウ(ga8570
30歳・♂・EP
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
エドワード・マイヤーズ(gc5162
28歳・♂・GD
BLADE(gc6335
33歳・♂・SF

●リプレイ本文


「え、どういうことですか?」
「今言った通りなのだね〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)の言葉を、鐘依 透(ga6282)はつい聞き返していた。
「吾輩の『目』で確かめた感じだと、すでに敵が入り込んでるようだね〜。だから、ココは任せたまえ〜」
 見ると、すでにドクターの足元には覚醒紋章が浮かんでいた。先見の目によって周辺の状況を把握し、判断したことだ。
「‥‥分かりました。後は任せます」
 そう言って透は一人走り去る。
「こっちでは把握しきれなかった‥‥さすがですねドクター」
 ジョー・マロウ(ga8570)の方でも敵の痕跡を探すために探査の眼を使用していたが、敵の罠や待ち伏せなどの痕跡は見られなかった。
「となれば、俺は腕っぷしの方で貢献してくとするか」
 そう言ってジョーは小銃を構える。
「‥‥それにしても、まだこんな大がかりな襲撃をかけるバグアがいるなんて‥‥」
 照準の向かう先、その方向には遠石 一千風(ga3970)は呟きながらもすでに敵に向かって走り出していた。
「前に私が見たのとは違うタイプね。ランチャーを装備していない‥‥」
 クレミア・ストレイカー(gb7450)は以前、狼キメラと戦った時のことを思い出す。あの時は無事車両を守ることが出来た。今回も必ず‥‥
「敵の数が多いが‥‥護りきる!」
 一千風が声を上げた。クレミアも同様の想いだった。


「さぁ行くぞ野郎ども!」
「「「おおっ!」」」
 一方のKV格納庫。アヴローラ防衛隊の4名がそれぞれ大剣やら戦斧や大口径ガトリング砲やらを持って突っ込んでいく。
「やれやれ、賑やかなもんだな」
「まぁ士気が高くていいのではないかな‥‥僕は弾薬庫へのルートを防衛することにするよ」
「了解だ、エド。そちらの防衛はよろしく頼む」
「ああ、任せてくれたまえ」
 エドワード・マイヤーズ(gc5162)とBLADE(gc6335)はその様子を見ながらも簡単に打ち合わせ、行動を開始した。
「‥‥さて、まずは取り巻きの排除。デカブツは後回しだ」
 BLADEはそう言うと覚醒。覚醒の影響か、体の周りが不自然に揺らぐ。それはさながら、夏に起こる陽炎の様だ。BLADEは拡張練成強化を使用。アヴローラ防衛隊の強化を行い、戦闘を有利に運ぶ算段。
 その様子を見ていたか、狼がBLADEめがけて突っ込んでくる。
「ちっ、早速か‥‥」
 BLADEは向かってくる狼に超機械で風を起こして押しかえす。
 それで態勢を崩した狼を、防衛隊が攻撃、撃破する。
「大丈夫か!?」
「あぁ、自分の身ぐらいは自分で守るさ」
 この間、一部の狼キメラは格納庫から出て弾薬庫ないし、他の重要施設への攻撃を行おうとした。
「‥‥だが、悪いがね。こ こから先には一歩も行かせないよ」
 しかし、それをエドワードが阻む。
「こっちだよ、来たまえ!」
 剣を構えたエドワードの声。それとともに発せられた威圧感に引かれるように、狼はそちらに向かう。
 牙を立て突っ込んできた狼は待ち構えたエドワードの剣戟を受ける。だが、その間に逆方向から別の狼が攻撃を仕掛ける。
 それをエドワードは盾で受け止める。さらに、不動の盾を発動。狼を弾き飛ばし、その後ろから迫ってきていた狼に当てることで牽制。自身もすぐさま態勢を立て直す。
「向こうも優勢のようだね」
 視線の先では、仲間が3匹目の狼を切り倒していた。この調子でいけば全滅させるまでそう時間はかからないだろう。
「そうなると、問題はあのサンドワームか‥‥」
 サンドワームは穴から動く気配はないが、無論放置することはできない。
 今はBLADEが超機械で味方の援護ついでに牽制しているが、狼を倒したら、対処する必要があるだろう。


 正面ホール。
 刀を構えた一千風は狼の群れに突撃。後ろの一般兵を守るためにも‥‥
「先に進ませるつもりはない!」
 高速機動を使用した一千風の機動力は狼単体を軽く凌駕する。その速度を殺さず、畳み掛けるような斬撃。瞬時に一匹を斬り倒す。しかし、敵中に飛び込んでの接近戦である。必然一千風に敵の攻撃は集中する。  
 尤も、敵の攻撃は装備からもわかるように‥‥近接攻撃のみ。
「対処自体はそう難しくはないわね。援護するわよ」
 クレミアは、一千風に殺到しようとする狼の足を止めるために銃撃。それを察知した狼は回避‥‥しかし弾丸は壁に跳ね返り回避した狼の後背を穿つ。屋内戦闘での跳弾はやはり有効だ。
「‥‥とはいえ、練力も考えると撃ちすぎは禁物ね」
 クレミアはさらに3発の弾丸を撃ち込む。それらもやはり跳弾を狙ったもの。もう一発撃つだけの練力は残されているが、今はこれで十分だ。これで、敵狼は混乱に陥った。
「連携が崩れたわ! 後は任せるわよ!」
 言いつつクレミアは武器をライフルに持ち替える。サンドワームへの牽制を行うためだ。
「言われるまでもないのだよ〜。吾輩は『地球が戦うための武器』である能力者なのだから〜」
 そう告げたドクターの足元に、再び覚醒紋章が広がる。それは憎悪の曼珠沙華。そして憎悪の対象となるのは、無論狼たち。その攻撃は尋常なものではない。
 ドクターは電波増強によって威力を高められたエネルギーガンを連射し、瞬時に狼にダメージを蓄積、撃破していく。
 しかも、先見の目で状況を把握。味方に伝達することでの援護も合わせて行っている。能力者数自体は格納庫方面と比べて少ないものの戦果は同等であるのは、ドクターの貢献によるところが大きいかもしれない。
 この間ジョーは電源施設方面への敵襲撃をカバー。
「お守りのお陰かな‥‥敵さんこっちは気にならないらしい」
 言葉通り、電源施設に向かおうとする敵はいなかった。ある意味運が良い。だからと言って、遊んでいるわけではない。敵から攻撃されない分思考にも余裕がある。
「普通にやってもキメラ相手に効果的なダメージは与えられないが‥‥戦力を集中してやれば、ってね」
 ジョーは、一般兵に援護の指示を与える。効率的な射撃により、弱い攻撃力でも高い効果を上げる。そうしながら、自身も小銃で援護射撃。一般兵に敵が向かわないように気を使うのも忘れない。
 こうして形成された弾幕で、狼は行動がかなり制限される。
 もちろん、それでも敵の数が多い。特に前衛で戦う一千風の負担は大きい。高速機動で高められた回避力でもすべてを回避できるわけではない。
 しかし、一千風は怯まない。
 全ては味方を守るために。決意の斬撃が、また一匹狼を倒す。
 サンドワームの方もクレミアの射撃で少なからぬ損耗を強いられている。その場から動かない分狙いもつけやすいか。射撃攻撃は相性がよさそうだ。
 こちらも、格納庫同様決着は近い。


 格納庫、正面ホールの優勢に対し、司令室途上の通路は未だ一進一退の戦いが繰り広げられていた。
「ウォォォッ!!」
 雄叫び。あるいは遠吠えと共に振り下ろされる剣。透は爪を利用して攻撃を逸らし、そのままカウンター気味に剣を斜め上段から振り下ろす。
 対するアトスは盾でカバー。そのまま押し出すように弾く。
 態勢が崩れた透。その隙を逃さず、アトスの牙が透の喉元を狙う。しかし、その牙は透の肩口を浅く掠めただけ。透は迅雷を使用し、あえて前に出ることでその攻撃を躱していた。
「‥‥やる‥‥な‥‥」
 アトスの頬に新たな傷。避けながらも透は爪を振るい、傷を負わせていた。もう何度目かの応酬か。
(なんて戦いだ‥‥援護すらできないとはね‥‥)
 その場にはアレクセイもいた。しかし、透が駆けつける前に負った傷の影響と、何よりも自身と、戦う両者との戦力差が顕著であり激しい戦闘に入り込むことすらできない。なまじ手伝おうとすれば足手まといになるだけだ。
 この時優勢だったのはアトス。戦闘が長引くにつれて透の攻撃が読まれ始めているようだ。やはり単独で相手するには厳しい相手だ。
「戦いが楽しいと思うのは‥‥初めて‥‥だ‥‥だが‥‥」
 不意に、アトスの姿が消える。例の移動能力だ。
 瞬間移動の如き速さで、アトスが透の目の前に。
「終わりだ!」
 高速移動と共に放たれた高速の突き。それが透の体を捉え、刺し貫く。そして‥‥
「何!?」
 その姿が、掻き消える。透の奥の手、残像斬だ。
「どこに‥‥」
 この時、アトスは数瞬ではあるが、透の姿を完全に見失う。アトスの注意は上方に向かっていた。ここまで、透が上体への攻撃しか行っていなかったからだ。だからこそ、戦闘が長引くにつれてアトスは攻撃を避けやすくなっていたのだ。
 だがこの時透は姿勢を低く、盾側に回り込んでいた。
 盾の死角+心理的な誘導による死角を突いた透。
「ここまで、です‥‥!」
 その声をアトスが聞いたのは、自身が剣を持つ腕が高く斬り飛ばされた時だった。


「これで終わりよ!」
 クレミアが撃ちこんだライフル弾が、サンドワームを撃ちぬく。同時に飛びかかったドクターの機械剣がワームの胴体を切り裂いた。
 すでに狼の姿は無く、残されたサンドワームもこの攻撃で倒れる。
「よし、粗方片付いたみたいだし、私は格納庫の方に応援へ‥‥」
「いや、その必要は無い」
 動き出そうとしたクレミアを制止する声。視線を向けた先にはエドワード、BLADE達がいた。
「こちらの敵は、全部片づけたところだよ」
 エドワードの傷は多少深かった。サンドワームを引き付け戦ったせいだ。だが、その甲斐あって格納庫方面でも逃がすことなく敵を全滅させることが出来ていた。
「よ〜し、後はトオル君の方だけだね〜‥‥ん?」
 異変にドクターが気づくのと、一千風が動くのはほぼ同時だった。
 ガキッという金属音。それがアトスの盾と、一千風の刀がぶつかり合った音だと。気付くには数瞬の間が必要だった。
「速い‥‥な‥‥できれば手合せしたいが‥‥今は‥‥退かせてもらう」
「クッ‥‥!」
 アトスの接近を感知できたのは、同じ速さの領域にいたからこそか。しかし、前衛に立ち敵の攻撃を集めていた一千風のダメージと疲労は、アトスの力を押し返すには至らなかった。
 盾で一千風を弾き、駆けるアトス。その背に向かって能力者たちが銃撃を行う。攻撃は数発ならず命中するが、アトスを倒すには至らない。
 そのままアトスは基地の外へ走り去っていった。
「‥‥逃がしましたか」
 少し遅れて、透が司令室の方から走ってきた。片腕を落とされた状態で透と互角に戦うことは出来ないと悟ったアトスは、結局撤退を選択したと。そう言う事なのだろう。
「それにしても‥‥今の人狼、本当にキメラ?」
 部隊を率いるキメラがいることに一千風は驚きを隠せなかった。しかも、このキメラは人の言葉を話す。あるいは、強化人間の代わりなのだろうか。
「答えは、直接聞いてみるしかないかもしれないね」
 その声がした方に全員が振り向く。そこには応急処置を終えたアレクセイが立っていた。
「奴は自分の主がガウルだと言っていた。確かグリーンランドにいるバグアだったはずだね」
 その名前には透を始め聞き覚えのある人間もいた。
「‥‥やれやれ、地上も地上で、まだまだ厄介事だらけだな」
 ジョーがうんざり顔で呟く。
「ともあれ、当面の厄介事はこれで片付いた。今はそれでいいだろう」
 BLADEの言葉に皆は同意を示した。
 サンドワームの空けた穴の修復など、後日行うことは多い。だが、今はとりあえず休息と治療が先決だろう。

 こうして、基地を襲撃してきた敵は、その全てを撃退することに成功した。
 けが人は多かったものの、死者が出なかったのは能力者たちの功績が大であっただろう。