タイトル:【RR】バイコヌール偵察マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/20 17:11

●オープニング本文



「それで、わざわざ地上まで僕を呼び戻したのはどういう理由があってのことでしょう?」
 アヴローラ艦長、アレクセイ・ウラノフ大尉は今任地である宇宙を離れ故郷であるロシアはヤクーツク基地にいた。
 加えて、巡洋艦の防衛部隊として配備されていたニェーバ4機とそのパイロットたちも地球に戻されている。 アヴローラは副長のボロディン少尉が一時的に預かっている。
「ふむ‥‥まずこれを見てほしい」
 そう言って、上官が出したのは世界地図。そしてその一部、赤で縁取られた範囲を示す。
 キーロフ基地からウランバートルの間、ロシアの中央部から中央アジア。ユーラシア大陸の3分の1程度が囲まれている。
「この範囲は、地上における最後の競合地域。つまり、ここの敵勢力を排除できれば‥‥」
「‥‥地上はその全てが人類側に帰する、と‥‥」
 先日、四国を占拠していた敵戦力もその全て、とはいかないまでの指揮官級が相次いで敗死したと聞く。上官が言った通り、ここが地上のバグア軍最後の砦となる‥‥
「ですが、それと僕がこちらまで戻された理由には直接関係は‥‥」
「これを見たまえ、見覚えはないかな?」
 なおも食い下がるアレクセイに、上官は2枚の写真を見せる。
 そこには2人の軍人が写っていた。
「‥‥そうですね‥‥見覚えはある気がします。ロシア軍の将官でしょうか?」
「諜報部の調べだと、その2人が今、地上のバグアを指揮している可能性が強いそうだ」
「なるほど‥‥」
 それで、ある程度アレクセイは納得がいった。
 ロシア軍の裏切り者は、ロシア軍で排除する。ようは尻拭いという事だ。
「その為に、僕を‥‥」
「宇宙での戦線は縮小傾向にあるのは言うまでもない。君や、君の部下たちの戦力を遊ばせておくことはできないのだよ。地上の敵を排除すればまた宇宙に戻ってもらうことになるだろうが、今はこの地でその手腕を振るってもらいたい」
「‥‥了解しました」
(まずは戦力の確認、か‥‥偵察部隊を手配しないとな)
 そう考えながら、アレクセイは上官の部屋を辞した。


 ロシア、ヤクーツク基地。
 その一室に傭兵たちが集められていた。例によって無表情なオペレーターが、そこで作戦について説明を行う。
「今回の依頼では、敵戦力の偵察を行ってもらいます。飛行ルートですが‥‥」
 そう言って地図を出す。
 提示されたルートは、このヤクーツク基地から出発。いまだバグア勢力下であるバイコヌール周辺を偵察後、最短ルートでヨーロッパ方面へ離脱する。
「このバイコヌールはロシアの打ち上げ基地です。その性質上地球上に残されたバグアが終結するならばここだろうという予測が立っています」
 地球から大挙して離脱するためにはやはり打ち上げ拠点が必要。その為にもバグア側の打ち上げ施設があるここに部隊が集結するのは至極当然と言える。そして、それ故にその戦力がどの程度まで膨れ上がるかは予測がつかない。
「また、ヤクーツクからバイコヌールの途上には、陸上戦艦が陣取っている可能性が指摘されています」
 この陸上戦艦の、存在自体は以前の大規模作戦‥‥丁度ダイヤモンドリング作戦のころには把握されていた。現在まで撃沈の報告が無いため、これらが存在する可能性は高い。
「その対空能力ははっきり言って未知数です。遠距離から存在が確認できればそれで構いませんので、決して上空へは近づかないでください」 
 そう言って、オペレーターは次の資料を提示する。それは、傭兵たちにとっては最早見慣れてしまった兵器、SJB(スクラムジェットブースター)について書かれている。
「移動にはSJBを使用していただきます」
 これなら敵勢力圏を超高速で駆け抜けることができる。敵に見つかっても追撃を受ける前に離脱が可能だろう。
 ただ、その場合高速で目標地点を飛び、撮影し離脱することになる。SJB装備中は戦闘が出来ないため、速度を落とすわけにもいかないのだ。それでは満足な情報が得られない可能性もある。
「その為、現地においてSJBをパージし、速度と高度を落としての偵察も許可されています。ただ‥‥」
 その場合、ある問題が生じる。それは‥‥練力だ。
 SJB使用中は考慮しなくてもいい。だが、パージ後はKV自身の練力で飛ぶ必要がある。バイコヌールから最短距離を飛んでも1000?以上。巡航速度で大体1時間半ほど飛ぶことになるか。
 だが、安全に離脱するならブーストを使用する必要があるだろう。戦闘を考慮しない速度でブーストを使用したとしても10秒間で15kmから、良くて17km弱移動できるかどうかといったところか。
 また、SJBをパージして速度を落とせば当然敵に捕捉される。捕捉されれば追われる。このような追手から逃げるためにもブーストは欠かせないが、練力を考えると常時ブーストを使って振り切る、というのも難しいだろう。
 戦闘にも練力を使うことを考慮すると、SJBをパージして偵察を行う場合は練力コントロールに気を使う必要があるだろう。
「‥‥地球上のバグア勢力が減少しているのは事実です」
 だが、だからこそ集結してきたバグアは窮鼠となって偵察部隊を撃墜しようとしてくるだろう。やり方によっては、この依頼の危険度は非常に高いものとなる。
「ですが、誰かがやらなければいけない任務です。皆さんの力を、お貸しください‥‥」
 そう言って、オペレーターは静かに頭を下げた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
佐賀 剛鉄(gb6897
17歳・♀・PN
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文


「地球を奪還したとはいえ、まだまだ戦火は収まらんのじゃな」
「そうはいって、地上の完全解放も目前です。いよいよ本格的に先のことを考えないといけませんね」
「でも、予断は許しませんね。ロシアから中央アジアの一角まで。その範囲は広いです」
 格納庫で待機している美具・ザム・ツバイ(gc0857)と新居・やすかず(ga1891)、ユーリー・ミリオン(gc6691)が話す通り、この地域が地上におけるバグア最後の勢力圏。だが、その範囲は広大だ。
「だからこそ、今回の偵察が必要なんだろう。可能な限り、詳細な情報収集にあたることにしよう」
 榊 兵衛(ga0388)の言葉に、二人は頷く。正確な情報なしに作戦は立案できない。それを彼らは知っていた。
「フン、やっとロシアの掃除が始まったか」
 今までほったらかしだったくせに、と悪態を付くのはクローカ・ルイシコフ(gc7747)だ。クローカはロシア人だ。だからこそ、多少肩に力が入っているようにも思われた。
 その様子を見た赤崎羽矢子(gb2140)はクローカに声をかける。
 羽矢子はクローカと同じ小隊に所属しており、隊長と隊員の関係にあった。
「まぁまぁ‥‥とにかく、クローカの祖国でもあるし、この依頼成功させなきゃね」
「分かってるさ、隊長‥‥」

「え〜、駄目やの?」
 一方では、機体の前で佐賀 剛鉄(gb6897)の声が響く。
 剛鉄は索敵装置内に航空カメラを取りつけるように頼んでいたが、それが却下されたのだ。
 これには色々事情があった。
 サヴァーはプチロフ製としては非常に精密な機体であるため、現場レベルで下手に改修作業が行えなかったり、そもそも電子戦機にはカメラがついていたりといったことだ。
「また会えたね‥‥ほんと、ゾクゾクしちゃうよ」
 同じく格納庫ではSJB(スクラムジェットブースタ)が取り付けられた愛機を見上げるソーニャ(gb5824)の姿があった。非常に高い機動性を誇るKV。その機動性をさらに高めるこのSJB。その姿を見て気持ちが昂っているのだろう。
 彼女が待ちわびる出撃まで、そう時間がかかることはなかった。


 能力者たちは事前の打ち合わせに沿って2班に分かれる。
 A班を構成するのはやすかず、ソーニャ、美具、ユーリ。
 対しB班は兵衛、羽矢子、クローカ、剛鉄だ。
「それじゃ、出撃しましょう」
 やすかずの声に従って、SJBを付けた8機のKVは空に上がる。
 そして、高空域に入った段階で一斉にSJBを起動。機体は一気に加速する。
「クッ‥‥やはり凄いGです‥‥」
 ユーリーがコクピットで呻くように呟く。それは他の者も同じ‥‥いや、一人ソーニャだけは違うか。
「君とのデートは最優先なんだけど‥‥なかなかチャンスがないよね」
 どこか楽しげに、そんなことをコクピット内で呟いた。
 他よりも高い緊迫感を持っていたのは美具。
 美具の姉妹は今回と同様に敵地への飛行偵察中に撃墜され帰らぬ人となった。今回の依頼もその時と似たシチュエーションだ。
「じゃが、同じことにはならん」
 命の危険を感じないではない。だが、それをねじ伏せるように美具は飛ぶ。
「そろそろ、敵勢力圏に入ります‥‥!」
 無線機を通じて発せられたユーリーの言葉はすぐに掻き消える。ジャミングが一気に濃くなった。
「後は勢力圏を脱出するまで通信は無理、か‥‥」
 羽矢子の呟き。それも無論誰かに通じることもない。無言の中での高速移動。
「ん、あれは‥‥」
 SJBでの移動も終盤というところで、兵衛始め8人ともがある存在に気付く。目算でも数キロ離れているが、巨大な戦車‥‥というよりも戦艦だろうか。
 さらに遠くにはもう一つ黒い点のようなもの。身体にかかるGに耐えつつ目を凝らしてみると、それも戦艦の様だった。
「あれが‥‥情報にあった地上戦艦っちゅうやつやろか」
 SJBで飛んでいる為、こちらから向こうに何かすることは出来ない。ルートからはやや離れている為、向こうから攻撃もしてこないだろう。とにかく、存在だけは確認できた。
「ハッ、地上戦艦ね‥‥図体ばかり大きな、時代遅れの老兵が何を今更」
 だが、その地上戦艦は情報によるとアグリッパも搭載しているという。今後ロシア掃討戦において障害となるのは間違いないだろう。
 戦艦はすぐに視界から消える。それとともに、A班とB班がそれぞれ分かれていく。
 A班はバイコヌール北部。B班はバイコヌール南部。
 SJBをパージした上で2手に分かれて偵察を行う策だ。多少リスクは高まるものの、この手は短時間でありながらある程度広範囲を偵察することが可能。良い手だろう。
 やがて、各機が基地付近まで到達。
 各自SJBをパージ。ここからが本番だ。


 10秒。それが離脱までの時間だった。
「今日はここまでだね。また楽しみましょう」
 パージされていくSJBを惜しむようにソーニャが行った。と、同時にブーストとマイクロブーストを同時に起動。
 低空に侵入しつつラージフレアを展開。さらにデコイとしてミサイルを発射することで敵の索敵網を混乱させる策だ。その速度は敵陣営に攻撃の隙を与えないほど凄まじいものだ。だが、一点。これだけの速度で行動しては偵察カメラでの撮影はあまり精度を保てないだろう。
 その代りに、高空にとどまった3機はその役割を十全にこなす。
 やすかずはピュアホワイトの重力探知を利用。分布と密度に絞って確認、記録を行う。
「位置の割り出しは‥‥さすがに短時間じゃ難しいですね」
 細かいところは後で軍の情報部にでも任せればいいだろう。今は、少しでも多くの情報を入手することが先決だ。
 その間ユーリーは索敵装備を利用して基地周辺を索敵しつつ、カメラで迎撃状況を撮影。
 こちらも、今はとにかく情報集め。分析は後回しだ。
 その2人を護衛するのは美具。僚機に合わせて速度を下げながら自身もカメラで索敵を行う。
 一方B班。
 剛鉄は再開したジャミング中和機能をフル稼働させながらも地上の偵察を行う。
「うーん、危険な写真撮影やねんなー」
 速度を下げ、高度を下げ‥‥その身を危険な領域に晒す。だが、攻撃は思いのほか少ない。
 兵衛が剛鉄機の周辺でラージフレアを展開して防衛に当たっているのも理由の一つ。
 だが、それ以上に羽矢子、クローカが低空域に降りることで囮になっているということがあげられる。
 特に羽矢子はシュテルンの垂直離着陸能力をフルに活かす。電撃的に低空に入ってきた羽矢子に敵防衛は対応しきれていないように思える。
 それに続く形でクローカも低空域に侵入。そのままロケット弾を発射する。強襲に見せかけることで電子戦機から敵の目をそらすのが目的だ。
 この間、敵からの攻撃はそう激しいものではない。敵領域に入ってからそれなりの時間が経っていたはずではあるのだが‥‥
「あるいは、迎撃を指揮できる指揮官がすでにいない、ということか?」
 兵衛はそんなことを考える。考えてみれば有力なバグアはすでにいないのだ。いたとしても‥‥先程確認した陸上戦艦あたりに乗っていてこちらへの対応が間に合っていない。
「‥‥その可能性は十分にあるか」
 そうこうしているうちに、10秒というタイムリミットはあっという間に過ぎる。
 A班、美具が低空域高空域両方に煙幕を展開。その間に電子戦機はブーストを起動、一気に逃げの態勢。
 ソーニャは低空飛行で敵の対空戦力の近距離を掠めることで照準する時間を与えない策をとっていた。だが、その低空域ではエルシアンの高速性能は活かし切れず、対空砲による攻撃を受ける。美具が煙幕弾を撃たなければもっと被弾は増えていただろう。
 ソーニャは煙幕に機体を隠す形で急上昇。敵航空戦力は上がってきていない。ならば逃げるが勝ちだ。美具と共にブーストを再使用し、一気に基地から離脱していく。
 B班も同様。
 撮影を打ち切った剛鉄がブーストを起動して離脱。
 低空に降りていた羽矢子もPRMで防御力を上げながら対空砲火に耐え、垂直離着陸能力を利用して急速に高空域へ。そして、すぐさまブーストを使用。
 だが、この時誤算があった。クローカの離脱が遅れたのだ。
 クローカは低空で敵の注意を引いていたが、離脱の際ブーストの使用を念頭に置いていなかった。
 一歩遅れたクローカに攻撃が集中する。
「く、迂闊だったか‥‥」
 対空攻撃が連続して機体をうがち、大きな損害を受けるクローカ。
 殿を務めるために上空で少し待った兵衛、そのミサイルによる援護が無ければ撃墜は必至であった。
「よし、撤退するぞ!」
 兵衛が無線にそう叫ぶ。尤も、その言葉も強いジャミングで届いてはいないのだが、意図は伝わっただろう。
 兵衛に続くようにクローカもブーストを起動。一気に基地から飛び去った。


 バイコヌール基地離脱から1時間半。
 最高速度で各機は飛行を続ける。
 この間数度の襲撃があった。尤も、それらは散発的なものであり、人類勢力圏に全速で飛ぶ能力者たちをどこまでも追撃しようというものでもなかった。
 だが、散発的だからこそ能力者たちは常に周囲に気を配る必要があり‥‥つまりは疲れるという事だ。
 機体の方も、練力量が多い場合はそれでもまだまだ余裕があるが、基本的にはブーストの連続使用で厳しくなっている。
 しかも、未だ通信が回復しない状況。
「今度は前から‥‥」
「気が抜けんな、まったく」
 ユーリー、剛鉄の索敵で正面から向かってくる機影が確認された。
 が、次の瞬間には各機のコクピットで能力者たちは安堵の表情を浮かべることになる。
『任務お疲れ! こちらはUPCだ!』
 見ると、正面から向かってきていたのは敵ではなく味方。KVの姿だった。
 通信も回復している。ようやく敵勢力圏を抜けたのだ。
「何とか、無事に終わったみたいじゃな」
 美具はそういって息をつく。脳裏にふと、今はもういない妹の姿が浮かんだ。あるいは彼女が守ってくれていたのか‥‥それはわからないが。
 といってもまだ安心は出来ない。特にクローカの機体は未だアラームが鳴りっぱなしのひどい状態だ。
「さぁ、あと少しだ。持ってくれよ‥‥」
 こうして、能力者たちは迎えに来たUPC部隊に守られ、バグア勢力圏を後にした。

 今回の偵察で得られた情報。
 陸上戦艦2隻を確認。加えてバイコヌールにバグア戦力が集結しつつあるということが間違いないものとなった。
 また、偵察を行っていた能力者たちの視界には打ち上げ施設。そしてそこに準備されていた大型のブースターが入っていた。
「あれはなんだったんでしょう‥‥」
「多分、BFに取り付けるんじゃないでしょうか」
 やすかずの疑問にユーリーが意見を述べる。
「なるほど、それを使って宇宙に戻ろうってことか‥‥」
 羽矢子が納得いったようにコクピットで頷く。
 その他、詳しい戦力状況、敵配置、地形の変動等々‥‥それらはこれからデータを分析していくことになる。
 とにもかくにも今回の偵察は大成功と言ってよいだろう。
 宇宙に戻ろうという敵を、ロシア軍はどうするのか。逃亡を許さず殲滅するのか、あえて逃がしロシア解放を優先するのか。
 それはまだこれからの作戦次第になるのだろう。