タイトル:【FC】刹那の好機マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/29 09:40

●オープニング本文


●???の記憶
 ヨリシロの選定。それが今回の目的だった。
 だが、めぼしい軍人は死に、残ったのは非戦闘員のみ。
 使えそうな人間はいないだろうと、大して期待もしていなかった。
「ヨリシロならワタシがなってやる! だからこいつらには手を出すんじゃないよ!!」
 そんな私の考えを裏切ったのは、開口一番そう言って前に出てきた人間‥‥女だった。
 私がこの人間をヨリシロとする代わりに、それ以外の人間全員を解放することを約束した。
 周りの人間たちから「姐さん」と呼ばれたその女。
 この基地の整備班長を務めているらしく、特に能力者たちが扱うKVの知識が豊富らしい。
 だが、私が求めたのはその知識だけではない。
 敵を目の前にしても臆さず、あまつさえこちらに要求までしてくるその意志の強さ。
 ‥‥そして、その心の強さにそぐわない、全てを諦めている様な目付き。
 それが、私の興味をそそった。

●BF格納場所
「それでは、今回の作戦はお一人で?」
「ええ。ティターンの調整も終了してるし、単騎の方が動きやすいから」
 それ以上、ゲインは反対しなかった。
 四国の情勢は、ミスターSの敗走から圧倒的に人類側有利に傾いていた。
 現在人類側では、ミスターSの追撃準備を整えていることだろう。
 無論バグア側としては黙っているわけにはいかない。
 そこでゲインは一つの作戦を立てた。
 といっても、そう面倒なことではない。複数の基地に同時攻撃を仕掛け人類側の出撃を掣肘する。それだけでも十分効果はあるだろうとゲインは見込んでいた。
 ただ、これを実行するには一つ問題点があった。
 それは‥‥戦力だ。
 カケル旗下において最強であるティターンはすでに万全の状態となっている。
 しかし、ナンバー2であるゲインのTWは先日の戦闘で多大な損害を被っており、出撃は難しい状態。
 他の改造HWで攻勢に出たところで、ゼダ・アーシュ撃墜で士気の高まった人類側には対抗しきれるか不安が大きい。
 そこで、最終的にカケルが単独で行動したほうが最も安全かつ有効であるという結論に達したというわけだ。
「可能であれば、マメに補給に戻ってください」
「出来たらそうするつもり‥‥でも、そんな余裕はないでしょ?」
 確かに、ことは急を要する。早期に人類側へ混乱を起こさせられれば、それだけミスターSの撤退を援護することが出来るだろう。
「その為にも、いちいち補給に戻っている時間は無い」
「‥‥確かにその通りではありますが‥‥なんにせよ、お気をつけて」
(先日の戦闘で能力者に後れを取らなければ‥‥)
 そう歯噛みしつつ、ゲインはカケルを送り出した。
「‥‥さて、こっちもやることやらんとな‥‥」
 無論、戦闘に出ないからと言って寝ているわけにもいかない。
 なんにせよ四国から引き払うことになるのはほぼ確定しているのだ。ミスターSの援護をしながらも、先日の戦闘で減った戦力、武器弾薬の残量等も計算しておく必要があった。


 ぜダ・アーシュを落としたとはいえ、バグア側にも沖縄から転戦してきた3姉妹の駆るティターンなど、強力な力を持った敵は存在している。
「そのうちの一人、山城カケルの機体が確認された」
 士官は地図を広げ、その一点を指差す。
「奴はこの基地を襲撃した後、すぐさま移動。次はここ、その次はここと、次々に移動しながら戦闘を繰り返している」
 その目的は何か。士官はそれが陽動、傷ついたミスターSから視線をそらすための作戦であろうと予測していた。
「ここで一つ重要なことだが‥‥ティターンはこの間一度も補給に戻っていないようだ」
 加えて、随伴機は一機もなし。恐らくティターンに匹敵する継戦能力と、移動速度を兼ね備えた機体をバグア側は有していないのだろう。
 もちろん、補給の事は敵も気にしているのだろう。各基地への襲撃も、軽くちょっかいを出す程度。尤も、それでも敵と味方の被害を比べたら味方の方が圧倒的に大きいのだから何とも言えない。
 このことから「自分たちが呼ばれたのはこれらの基地を防衛するため」と能力者たちが考えるのは当然だろう。
「だが、それは違う。これを見てほしい」
 士官は、もう一枚の地図を取り出した。これは先日バグアとの小競り合いが起きたとある村の周辺地図だ。
「この時の戦闘後、バグアの撤退方向から敵拠点の割り出しを行った。といっても、範囲が広く特定には至っていない‥‥」 
 しかし、と士官は続ける。
「この辺りに敵拠点があるのならば、ティターンも最終的にはこのポイントに戻ってくるはずだ。君達にはその途上でティターンを討ってもらおうと、そういうわけだ」
 作戦は単純だ。
 拠点の位置がある程度割れている以上、その方向にティターンが向かっているところをブーストを利用しインターセプト。
 そのまま疲労の極みにあるであろうティターンを攻撃する。
 問題点としては、ティターンが拠点に向かっているという性質上、バグア側にもこちらの接近を察知されるのは間違いないという事だ。となれば当然増援が出てくる。この作戦は、ティターンとの戦いであるとともに時間との戦いでもあるのだ。
 最後に、士官は付け加えた。
「疲弊しているとはいえ、敵はエースだ。今後しばらく動けない程度の打撃を与えられれば十分だ‥‥だが、この作戦の実行には少なからず目を瞑った被害がある。そして、君たちの位置付けは対ティターン用の精鋭部隊だ。可能であれば、撃破を期待させてもらいたい」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文


「これは千載一遇のチャンスだな」
 榊 兵衛(ga0388)はそう表現した。
 ティターンは各地の基地を攻撃することでその弾薬、練力を消耗している。万全の状態ではないのは疑いない。
『追撃の撹乱に頑張ってるけど消耗しすぎだね』
 赤崎羽矢子(gb2140)がコクピット内で同意する。
『相手が厄介なエースなら、この機会に撃墜狙おうか』
「了解です。それにしても、対精鋭戦はいつ以来でしたかね。この緊張感も久しぶりです」
 新居・やすかず(ga1891)は戦闘前の緊張をどこか楽しんでいるかのようだ。
「沖縄で三姉妹らに負けた借り、ここで返させてもらいますわ」
 ミリハナク(gc4008)はそう言った。が、実際のところそれは建前。無論そう言う気持ちもあるにはあるのだろうが、何より強敵と戦えること。それ自体が彼女の喜びなのだ。
「山城カケル‥‥ね‥‥」
 そのミリハナクとどこか似た考えを持つのはソーニャ(gb5824)。彼女は基地内で検索して得たデータを頭の中で反芻する。
 彼女と山城カケル、その見た目は無論違う。だが、ソーニャはカケルと自分が、どこか似ていると感じていた。
 それなのに、今まで遭遇する機会には恵まれなかった。その分も‥‥
「思いっきり楽しもうよ」
 ティターンの撤退ルートが捕捉されると同時に加速するソーニャ機。それに合わせるように全機がブーストを使用する。
 目標は、山城カケルの搭乗しているであろうティターン。
 戦闘の火ぶたは切って落とされようとしていた。


「ロータスクイーン正常に起動。電子支援を開始します」
 ティターンを射程内に捉えるとともに、やすかずは各基地からの情報を統合。そのまま味方の後方につく。同時にヴィジョンアイを起動。射撃支援の可能な距離を測りながら敵行動の予測に専念する。
 やすかずの支援を受けながら先行するのはソーニャ、羽矢子のロッテ。
 ソーニャはフルブーストによる最高速状態を維持しながらミサイルを発射。機体をロールさせながら放たれたそれらは、螺旋の軌道を描きティターンに向かう。そのミサイルに追従するように、ソーニャはティターンに向かい突撃していく。
 ティターンはそれに対しライフルを一射。これをソーニャは回避し、そのままレーザーを撃ちながら駆け抜ける。
 ソーニャに続くのは、それを後ろから支援する羽矢子。ティターンはライフルをリロードしつつ回避行動を取るが、羽矢子はPRMを起動。攻撃命中に最適化された形態を取ったシュテルンから撃ちだされた弾丸は、ティターンに吸い込まれるように命中。が、ティターンにダメージは無い。
「これで逃げ隠れは出来ないよ!」
 当然だ。羽矢子が撃ったのはペイント弾。その目的は光学迷彩対策。
「このまま押していくとしよう‥‥仕掛ける!」
 2人に続くのは兵衛、ミリハナクのロッテ。
 兵衛もソーニャ同様ブーストを使用。疑似慣性制御によってティターンの動きに対応する。
(さしものカスタムティターンとはいえ、補給もないのでは万全の力を発揮することは叶うまい。だが‥‥)
 兵衛はそれで油断するような男ではない。ロケット弾を惜しみなく使用して、ティターンを攻撃。恐らくはすでに数が少なくなっているであろうジャミンググレネード。ミサイルを完全に無効化するあの兵器を使わせてしまうことで、ティターンの防御を剥いで行くつもりだ。
 だが、ティターンはライフルで迎撃しつつ回避。ジャミンググレネードを使うそぶりは見せない。 
 すでに手持ちの弾が無いのだろうか。いや、実際のところはそうではない。ロケット弾はミサイルと違い誘導装置が備わっていない。主に各種誘導機能を低下させることでミサイルを無力化するジャミンググレネードはロケット弾に対しては効果は薄く、搭乗者であるカケルが使用する必要はないと判断したのだ。
「それならそれで、このまま攻撃を続けるだけだ!」
 そのことに気付いた兵衛だったが、それでも攻撃の手は緩めない。間断ない攻撃で自己再生機能に負荷をかけることでその機能を停止させる狙いだ。
 まずは能力者たちの方が優勢か。対するティターンは、マルチロックミサイルを発射。前衛と化していた2つのロッテがそれを回避している間に、機体を急加速して突撃。
 その狙いは‥‥
「僕ですか‥‥」
 ティターンの行動を冷静に予測するやすかず。
 やすかずの機体はピュアホワイト。電子戦機である。
(当然、最初に狙ってくるか‥‥)
 ティターンも残された練力、弾薬等が少ないのは明らかだ。これ以上不利になる要素を残しておくつもりはない。
 加えて、やすかずはレーザー砲の最大射程から援護を試みるつもりだったが、空戦においてそれは一瞬で踏み込まれる間合いである。
 やすかずは牽制射撃を撃ちつつもここは逃げの一手。だが、ティターンの速度は尋常ではない。さらにその背には、100m級の巨大練翼が輝く。
「やっぱり、そう来ましたわね」
 だが、その動きはミリハナクには読まれていた。ミリハナクはその行動を妨害するためにラバグルートで狙撃。直撃を受けたティターンはその態勢を崩し、練翼も消失する。
 その間にやすかずもラージフレアを展開。加えて護衛についているシラヌイS型がブーストを使用してやすかずの前に出て射線をふさぐ。
 だが、ティターンもすぐさま態勢を整えると、再び突撃。
 今度はミリハナクからの攻撃も折り込み済みか、狙撃されるも機体をロールさせつつ回避し、再度輝く練翼。
 護衛のシラヌイS型が練翼によって斬り伏せられ、墜落していく中やすかずは距離を取りつつ回避行動。しかし、ヴィジョンアイの使用によってその機体性能はもとより著しく低下している。追従してきたティターンはその回避軌道上に置く形で練翼を振るう。
「くっ、避けきれませんか‥‥!」
 重要部位への直撃は避けようと、機体を制御するやすかず。だが、そんな努力をあざ笑うかのように、練翼は機体を両断した。
 圧倒的な火力で2機のKVを蹂躙したティターン。だが、やすかずは、回避を行う際に味方にティターンが隙をさらすように動くように意識していた。結果、その動きには大きな隙を伴った。
 そして、その隙を狙い背後から幸せを‥‥いや、バグアにとっては不幸を運ぶであろう青い鳥が迫る。
「このチャンス、逃がすわけにはいかない!」
 ミサイルポッドとレーザーを乱射しながら、ソーニャが突撃。目標はその背部練翼発生装置。数発がそのまま直撃する。
「援護は任せて! 増援が来る前に勝負を決めるよ!」
 高速で飛行するソーニャに羽矢子はギリギリで追い縋りながら、プラズマライフルを使用。こちらも同様に攻撃を集中させる。
 対するティターンは慣性制御を活かし回避するも、高速で迫るレーザーとミサイルを同時に回避するのは難しいと判断。ジャミンググレネードを放り投げる。爆発したグレネードからは銀粉と火球が広がり、ミサイルを明後日の方向に誘導する。
 これにより、レーザーだけに絞って回避が可能となった。だが、その間に逆方向からもう片方のロッテが接近する。
 こちらのロッテはやや距離を取っての攻撃。兵衛はライフルとロケット弾で攻撃し、距離が詰まったらスラスターライフルを使用。弾幕により着実にダメージを蓄積させる。
 パートナーであるミリハナクは初動と同様にラバグルートでの狙撃が中心。加えて、ティターンの攻撃タイミングに合わせてG放電装置を使用する。これにより、ティターンは正確に狙いを付けることもできず、能力者側の被弾率低下の一助となった。
 状況としては2つのロッテに取り囲まれている形。ライフルの精度は落ちているものの、散弾による攻撃はそこそこの効果を上げている。とはいえ不利な状況であるのに変わりないティターンは、この状況を打開するために三度練翼を展開。そのまま機体を回転させ、接近する能力者を薙ぎ払うつもりだ。
 だが、その行動は成功しなかった。不意に、練翼の光が掻き消えたのだ。
 練力が切れたのか、それともソーニャらの攻撃が功を奏したのかは分からないが、再びチャンスが巡ってきた。
「チャンスですわね。仕掛けますわ!」
『了解。こちらで援護する』
 練翼消失のタイミングを見計らっていたミリハナクは超伝導DC、オフェンスアクセラレータを使用しつつ突撃。兵衛のロケット弾による援護を受けるその両翼には人類の練翼たるエナジーウィングが輝く。
「‥‥あの子と同じように、堕ちなさい!」
 ティターンと交差する翼。
 すぐさまミリハナクはブーストによる疑似慣性制御により機体を急反転。
 近距離から荷電粒子砲をお見舞いしてやる‥‥つもりだった。
「っ!」
 だが、反転したミリハナクの目に飛び込んできたのティターンの姿ではなく、無数の弾丸だった。
 反転する瞬間をティターンに狙われたのだ。
 直撃による衝撃で、荷電粒子砲はティターンから逸れる。ミリハナクはすぐさま離脱を計るものの、至近からコクピットにショットガンを連射され操縦系統が機能停止。
 制御を失ったミリハナク機はそのまま地上に落下していった。
「‥‥まぁ‥‥今回はこれで‥‥良しとしますわ‥‥」
 コクピット内で血反吐を吐いたミリハナク。だがその攻撃は無駄ではなかった。その視界には自身の攻撃が成功した証。ティターンの片腕が持っていたライフルとともに落下していくのが映った。
 片腕が無くなったティターンの戦力は半減した。
 この機を逃すまいと、残された3機のKVはより攻勢を強める。
 ロッテの片割れを失った兵衛は支援に終始。片腕がふさがっていることから武器の持ち替えは困難だろうと判断し、螺旋弾頭ミサイルの使用を解禁して攻撃する。
 その攻撃をティターンは回避するものの、その隙をついてソーニャが突っ込んでくる。
(もうバグアも人も関係ない‥‥)
 戦闘の最中、そんなことを頭に浮かべるソーニャ。
 ソーニャの望むのは、この空のみ。
(君もそうでしょ? だから‥‥)
「舞い狂え! 咲き誇れ!」
 最後のミサイルポッドを吐き出す。ティターンはショットガンで迎撃するも、弾幕を張るのにはそもそも向かない兵装だ。複数の爆発が巻き起こる。
「この一瞬を、このボクを‥‥」
 爆煙が晴れたところにつっこんできたソーニャ。当然撃ち落とそうとティターンはショットガンを撃ち込む。だが、ソーニャは機体を急速にロールさせる。全弾とはいかないが、散弾のほとんどを躱し、レーザーを向ける。
「永遠に刻み付けろ!」
 レーザーを撃ちまくり、そのまま駆け抜ける。
 後方に抜けたソーニャをティターンは狙うが‥‥
「おっと、こっちも忘れないでよね!」
 ロッテは2人で1つ。パートナーである羽矢子がG放電装置を発射して態勢を崩す。
 チャンスと見た羽矢子はブーストを吹かしてソードウィングを使用。
 ミリハナクと同様に腕を‥‥とはいかなかったが、その武器であるショットガンを真っ二つにした。
 同時に飛来する螺旋弾頭ミサイル。
 ティターンは咄嗟にジャミンググレネードを使用する。
 だが、これが正真正銘最後。ティターンには今、武器もなく、エネルギーも恐らくは底をついているだろう。
「これで種切れだろうな。これまでの決着を付けさせてもらおう」
 それでも手を休めることは無い。3機は攻撃を継続する。


 能力者圧倒的有利の状況。だが、ここで思わぬ誤算が発生する。
 攻撃が、急に当たらなくなったのだ。
 すでに攻撃手段が無いティターン。
 それゆえティターンは、攻撃の全てを捨てて防御・回避を優先した行動を取っている。
 ‥‥能力者たちの戦果が、このような結果を生み出すとは、皮肉というより他ない。
「くっ‥‥これでどうだ!」
 羽矢子が残ったG放電装置を放出する。こういった高命中武器は直撃を取れる。あるいは弾幕を張る類の兵装であればダメージを与えられるものの、高威力の兵装は、それにあたりを付けて回避してくる。
 たった3機とはいえ、彼らは皆凄腕のパイロットである高性能機だ。
 どんな攻撃でも通常のHWクラスなら容易に撃破できるが、相手はエース級。自己再生能力を多少上回っているのか、ダメージが蓄積されているのは確認できている。だが、それでも決め手に欠くのは事実だ。
「‥‥まずい、敵の援軍を捕捉した」
 兵衛がそう告げる。
 ティターンもそれを捕捉したのだろう。最後の力を振り絞ってのものだろう、急加速してその方角へ飛ぶ。
 結局、能力者は攻めきれないままタイムアップとなった。
「あと一歩だったが‥‥押し切れなかったか」
『仕方ないね。とにかく撤退しよう』
 とはいえ、敵エース機をここまでずたぼろにできたのだから、結果としては悪くないはずだ。
 このまま敵の援軍と戦っても無駄に被害を増やすだけなのは明らかだ。
 能力者たちは撤退することとした。
「‥‥ボクとの殺し合いは楽しい?」
 撤退際、ソーニャは不意にそんなことを呟いた。
 空に執着する者同士、似ているところがある。そう思っている。
(お前ほど狂っちゃいないっていわれそうだけどね)
 そう思って、ソーニャは薄く笑った。



「ご無事ですか!?」
『とりあえず私は、大丈夫‥‥機体は駄目そうだけど』
「そうですか‥‥とにかく、カケル様が無事で何よりです」
 撤退しきたカケルを迎えるHWのパイロット、ゲイン・クロウ。
 ゲインが外から見ただけでも、ティターンの状態は最悪だった。明日明後日にすぐ使えるようになるとはいかないだろう。だが、それでも指揮官が健在ならまだ挽回のしようはあるはずだ。
 そう彼や、その部下たちは思っていた。
 だが、このすぐあと、彼らはミスターS戦死の報を聞くことになる。
 ここにきて、四国のバグア勢力は進退窮まることとなった。