タイトル:【AC】北と南の国からマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/23 21:18

●オープニング本文



 砂漠にいる生き物と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
 まぁポピュラーなものだと『ラクダ』
 植物だトゲトゲした針が特徴の『サボテン』
 虫だと『サソリ』等だろう。

 だが、補給物資の輸送中である俺たちが見たのは、それらとは別世界の生き物たちだ。
 最初その存在が信じられなかった俺は輸送トラックから降り、双眼鏡を覗きなおした。
 ‥‥うん。やっぱり、いるよな。
「そ、曹長‥‥目の前にいるあれは‥…」
 横にいた軍曹は軽く目を見開きながら俺に言った。
 そうか軍曹。お前にも見えると言う事は、あれは俺だけが見ている蜃気楼の類ではないと言う事だな。
 それにしても、まさかこんな砂漠のど真ん中に‥‥

『白熊』と『ペンギン』

 がいるとは‥‥

 軍服の袖で汗を拭いつつ、もう一度よく確認してみる。
 まず白熊。やつは砂丘の頂点で空を仰いでいる。顔にはなぜかサングラス。これに葉巻でも咥えさせたら、さながら南の国にバカンスに来たどこぞの富豪のように見えることだろう。いささか毛深すぎるかもしれないが。
 その周囲にはよちよちと歩き回るペンギン。数は‥‥10匹ほどか。動きがどことなく可愛くてなんだか和む。しかし、顔には黒光りするサングラス。なぜサングラスなんだ?
「や、やつら‥‥地球温暖化に対応したのか‥‥!」
 ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。伍長、お前の思考はいつも斜め上だな。仮に地球温暖化に対応したからと言って、あんな生物がそうそう砂漠にいてたまるか。あれがキメラであることは間違いない。
 
 それにしても‥‥バグアはなぜ砂漠にこんなキメラを連れてきたんだ?なんの意味があるのかさっぱりわからん。
 大体何故白熊とペンギン?
 せめて南か北をはっきりさせようとは考えなかったのか?
 あるいは「なぜか」と俺たちに考えさせることで混乱させようとでもいうのか‥‥
 ‥‥いかん。なんか考え過ぎて頭痛くなってきた。クソッ、バグアめ!

 とにかく、キメラどもを放置しておくわけにもいかない。
 あの緩慢な動きを見るからに、こちらには気づいていないようだ。しかし、だからと言って無視して通り過ぎたところを後ろから襲われても面倒だ。こっちには一般兵も多いわけだし。
 
 俺達だけじゃどうにもならなかったかもしれない。だが、幸いなことに今回の物資輸送には、護衛役としてラストホープの傭兵たちが参加してくれている。彼らなら、あの程度のキメラなんてことはないだろう。
 輸送ルート上の安全確保を行う意味でも、あのキメラたちを倒してもらうとしよう。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
綾世 真仁(gc7350
15歳・♂・DF
アリーチェ・ガスコ(gc7453
17歳・♀・DG
本郷 勤(gc7613
22歳・♂・CA

●リプレイ本文


「必ず護って見せますから、安心して下さいね♪」
 セラ・ヘイムダル(gc6766)がそう言いながら兵士たちを安心させている。こういった言葉の裏に隠された目的が好感度を上げるためだとは、誰も気付かないだろう。大した猫被りぶりである。
 こうしてセラとともに軍曹が一般兵を車両に戻している間、他の能力者たちはそのキメラたちを眺めている。
 奴らはまだ気づいていないのか。あるいは気づいていても放っているのかはわからない。
 まぁ、とりあえずは掛かって来ないようだし、こちらの態勢が整うまではそのままの方がいいだろう。

「どうしてここに‥‥寒冷地の生き物が‥‥」
 どこか遠くを見つめながら幡多野 克(ga0444)は呟いた。その声はどこか呆れてすらいるようだ。
「確かに、こんな糞暑い砂漠にペンギンと白熊とは‥‥バグアは何を考えているのか」
「このキメラ、絶対使いどころ間違えてるよね」
 その気持ちは大神 直人(gb1865)、御剣 薙(gc2904)も同様のようだ。
 ペンギン&白熊。
 そんな寒冷地にいそうなキメラ達をここに送り込んできたバグアの意図はまったくつかめない。意味があるとも思えない。そんな行動に呆れたような感情を抱くのも当然だろう。
「ま、見た目は何か面白い奴だけど‥‥」
 戦いを楽しめればそれでよし、とは綾世 真仁(gc7350)の談。しかし、キメラである以上放っておくことは出来ないとも。

 一方、アリーチェ・ガスコ(gc7453)は曹長に炸薬などを借りれないかと相談していた。しかし‥‥
「駄目ですか?」
「ん〜‥‥ちょっと厳しいな」
 曹長曰く、炸薬そのものはあるが、これは前線に送る為のもの。効果的な作戦に思われるので出来れば貸したいところではあるが、現場の判断で勝手に使う事は出来ないと言う事だ。
「ま、仕方ないです。使えるもので何とか頑張りましょう〜」
 住吉(gc6879)はそう言いながら戦闘準備。すでに兵士はトラック内に退避し終え、攻撃開始を待つのみとなっていた。
「車両の護衛は俺も手伝いますから、攻撃は皆さん頼みますよ」
 本郷 勤(gc7613)は他の能力者にそう声をかけた。暑さに辟易した表情をしているが、仕事はキッチリこなす男だ。後顧の憂いも無くなったと言っていいだろう。
「よし、攻撃を開始してくれ!」
 曹長の号令が響き、能力者たちは一斉に行動を開始した。


 能力者たちは、白熊とペンギン、それぞれに対応する為に分散した。
 白熊に向かうのは克、住吉、真仁の3人。ペンギンに対するのは直人、薙、セラ、アリーチェの4人だ。
 前述したように、勤は曹長、軍曹、伍長の3人とともに車両護衛に付く。なお、ペンギンに対するアリーチェも、どちらかといえば車両護衛に近い動きのようだ。
 
 白熊対応の克は敵に気付かれないように身を低くして砂丘を登るつもりだった。しかし敵はすでにこちらに気付いたのか、視線をこちらに‥‥いや、さらに後方に向けている?
「着装! アシュトルーパー、雷鳴のアシュイエロー推参!」
 見ると、アリーチェがトラックの上で変身ヒーローのごとくAUKVを装着していた。バックに爆発の演出等が似合いそうだ。
 これは目立つ‥‥だが、こういうシーンは大事なものだ。カッコいいは正義である。


 さて、こちらに気付いたキメラ達。
 相手の出方をうかがうようにどっしりと構える白熊に対し、ペンギン達は砂の中に、まるで海に飛び込むかのように潜り込んだ。
 そして、そこから砂を泳ぐかの如く移動を開始。
「ここは私の出番、ですね♪」
 そう言ったセラの周りには茶系統の淡い光が発せられる。
 バイブレーションセンサーを発動したのだ。
 これによって、キメラの動きは手に取るように分かる。
 加えて、ペンギン達はあまり深くまでは潜れないらしい。砂が若干盛り上っている。この2つの判断材料から、移動ルートは簡単に分析できる。しかしかなりのスピードだ。
 セラはその能力を使いペンギンの行き先を予測。狙いは‥‥大部分は自分たち能力者に向かってくるようだ。
「もしかして、これのお陰ですかね?」
 セラは手に持っていた冷刀「鮪」を見ながら言った。
 いや、さすがにそれはないだろう。さすがにキメラもそこまで間抜けでは無い。
 まぁ実際のところ砂の中では相手の位置を特定できない。それ故、移動していることで足音を立てている能力者を狙っていると言う事が正しいところだろう。
「向かってくるなら、好都合だな」
 直人は月詠を構えカウンターの構え。
 その装備は防砂用のゴーグルや直射日光避けのマントなど、砂漠戦に対する準備は怠りない。
「出ます!」
 セラの声、同時に直人は迅雷を発動。
 一閃!
 直人に向かい、砂から飛び出してきたペンギンは、一瞬にして真っ二つにされていた。
 迅雷の移動効果により、直人の位置はすでにペンギンの後方。恐らくペンギンは、直人の姿さえ見ることは出来なかっただろう。
 他方、薙の方にもペンギンが突撃。それに対し薙はエネルギーガンを構え、その砂の変化から位置をある程度予測し、狙い撃つ。
 砂を吹き飛ばし、エネルギーの弾丸がキメラを射抜く。ペンギンはたまらず飛び出した。砂中でなければ高速移動はできない。
「何でこんなのを作ったのかもわからない‥‥まぁ何にせよ、キメラなら蹴り砕くのみ!」
 薙は動きの鈍ったペンギンの目の前に踏み込み、一気に上方へ蹴りあげる。
「薙さん、もう一匹来てます!」
 セラが注意を呼び掛ける。しかし、この時薙は冷静だった。
「それなら‥‥」
 別のペンギンが砂中から飛び出してくるのと、先ほど蹴りあげたペンギンが落ちてくるのはほぼ同時。胸の前に浮かんだ竜の紋章が、赤く輝く。
「これで、どうだ!」
 同時に、強烈な回し蹴り。2匹のペンギンは薙の宣言通り、その一撃で蹴り砕かれた。
 
 先ほどの薙の攻撃を見るに砂中では効果が薄い、とってもダメージが通らないということはないようだ。
「なら、こいつで‥‥やられる前にやってしまおう」
 直人も薙と同様エネルギーガンを構え攻撃。たまらずペンギンが飛び出す。
「私も負けてられませんね‥‥これでどうです?」
 セラは飛び出してきたペンギンに対し呪歌を使用する。
 痺れたように動かなくなったペンギンは薙によって再び蹴り砕かれる。
 このように3人は協力し、更もう3体のペンギンを葬った。しかし3人ではさすがに全敵を相手にすることは出来ない。周囲の敵を掃討後、セラはバイブレーションセンサーで再び位置を確認。
「3体車両の方に、1体は白熊の方に向かってます!」
 両者に、セラの警告が飛んだ。


「さぁ、来るならきやがれ! ここからは一歩も通さん!」
「ここは通しませんよ!」
 車両の方に向かってきたペンギン。しかし、トラックの上からはアリーチェがその動きを監視。砂上では曹長たちを後ろにし防御陣形をとった勤が待ち構えている。
 車両に向かってきたペンギン3匹は、どこぞの3連星の如く砂中から勤に向かって勢いよく飛び出した。
 が、キャバルリーの防御力は伊達ではない。キッチリ盾で防御した勤は、そのまま逆にペンギンを押し返す。
「よし、防御は俺に任せて‥‥援護射撃、よろしく」
「了解!」
 陣形の要である盾の役を担う勤は、装備重量の影響もあり、それ以上の行動を取ることが出来ない。その為攻撃は後衛の曹長たちに任せた。アサルトライフルによる弾幕でペンギン達は身動きが取れない。
「チャンス!」
 トラックの上からペンギンたちに向かってジャンプするアリーチェ。AUKVの頭部、腕部、脚部が激しくスパークする。
「必殺、カッツォッ・トゥナーレッ!」
 雷鳴の拳、と名付けられた必殺の一撃がペンギンに突きささる。一撃で胴体を貫かれたペンギンはそのまま絶命。
 残り2匹に対しても曹長たちが弾幕。
 ペンギンたちはそれでも諦めず車両に向かおうとする。しかし、この間、勤は油断せず防御陣形の維持に専念。敵を通さない。 
「じゃあの!」
 その隙にアリーチェが接近。再び拳での一撃をお見舞いしペンギンを粉砕。
 残り1匹は、曹長たちの弾幕に耐えきれず、その場に倒れ伏した。


 一方対白熊班。
「ふふふ‥‥私の風は凶暴ですよ〜♪」
 住吉は扇型超機械で攻撃。強い風が発生し、それはそのまま小さな砂嵐を形成する。
 輸送車両に接近されては面倒だ。電波増幅も使用し、一気に攻勢をかける。
 白熊キメラは砂嵐で目を塞がれ、その場に倒れ込む‥‥いや、倒れ込んだのではない。2足状態から4足状態に移行したのだ。2足移動の時と違い、4足移動時のダッシュ力は脅威。
 そのまま一気に加速。砂嵐を抜け、住吉に向かって突進する。
 住吉は扇を構え防御態勢。しかし、白熊の加速から繰り出される突進。その威力は小柄な住吉を一瞬で弾き飛ばす‥‥かに思えた。
「おっと、ここから先は通行止めだ」
 しかし、そこに真仁が割って入る。
 真仁は下段に構えた斧に力を集中。
「食らぇぇぇっ!」
 そのままカウンター気味に、白熊の顎を狙って振り上げる。赤黒い刃を持つ斧が、白熊に食い込み、頭を一気にはね上げる。
「もう一発!」
 再び力を溜めこんだ真仁。今度はキメラの胴体を狙った斧を振りぬく。住吉もそれに合わせ超機械で発生させた風を叩きこむ。
「よし、一気にたたみかけるよ‥‥」
 勢いよく後ろに倒れ込んだ白熊に対し、そのまま一足に踏み込む克。
 剣の紋章が浮かぶ。
「‥‥! 幡多野様、敵が来てますよ!」
 その時だった。白熊を援護しに来たのだろうか、すぐそこまで接近してきていたペンギンが勢いよく飛び出した。派手に戦っていたせいか、その動きに注意していた住吉以外は気づいていなかった。
 鋭いくちばしが克を狙う。しかし、克はそのまま白熊に向かって月詠を振り下ろした。剣の紋章が強く輝く。
 瞬間、克を中心にして四方へ強い衝撃波が発せられた。強刃とともに使用した必殺の十字撃。その攻撃はすさまじく、斬りつけた白熊を4つに分断するだけでなく、飛び込んできたペンギンすらも衝撃波で粉みじんにした。
「これを受けて、無事でいられるはずはないよ‥‥」
 そう呟き、克は刀を納めた。



 こうして能力者たちは、全てのキメラを撃滅することに成功した。
「これでこのルートの安全はある程度確保されたはずだ。ありがとう」
「まぁ、こっちも十分楽しめたし良かったよ」
「これも私達の仕事なのです! だから、お気になさらずに♪」
 曹長が礼をいうと、それに真仁とセラが答えた。

「一見ふざけた敵ですが、使い方によってはかなり効果的なキメラだったのかもしれませんね」
 車両の弱点は底部。ようは下からの攻撃に弱い。あのペンギンキメラがもっと深く地面に潜って攻撃してきたら危なかったかもしれない、とアリーチェは分析した。
「そうですね‥‥まぁそういう動きを取られなくて良かったですよ〜」
 住吉がそう返した。そんな中一つの疑問が浮かぶ。
「それにしても、なんであのキメラたちはサングラスなんてしてたんだろう‥‥」
「そういえば砂を潜ってから出てきた時もしっかりかけたまんまでしたね」
 薙のその疑問を聞いて、勤が思い出すように言った。それに回答を示したのは直人だ。
「遮光効果でもあるんだろう。砂漠は日差しが強いから有利に働くかもしれない」
 だが、その場合夜間戦闘時はどうするのか。直人は考え込んだ。
 尤も、考えても分からないだろう。何しろバグアのやることだ。意味があってやったのかもしれないし、ただの気まぐれだったのかもしれない。その答えは分からない。何しろ彼らはバグアと逆の立場に立つ者なのだから。

「動いて‥‥ますます暑くなった‥‥」
 そんな風に議論を交わす能力者達を眺めながら、ポツリと克は呟いた。
 できればキメラじゃなくて本物のペンギンを見に行きたい。克はそう思った。しかし、何をするにも仕事を終えてからだ。
 そう、まだ物資輸送はその道の途中。もうしばらくはこの暑さに能力者たちは付き合わなければならないのであった。