●リプレイ本文
●
強い光。
G5弾頭が爆発した光だ。
しかし、敵はその攻撃の影響を受けた様子は全くない。
『発射角を多少調整する程度じゃ直撃とはいかないね‥‥君達の機動を制限することにもなりかねないし、やはりG5弾頭は使わない方向で行こう』
「了解!」
クローカ・ルイシコフ(
gc7747)はそう言ってアヴローラとの通信を切る。
その心中は決して穏やかではない。
(アヴローラに砲撃型キメラ、か‥‥)
クローカにとってはあまり良い思い出が無い組み合わせである。
「そう何度も失敗してたまるもんか」
『そやね。まずは敵さんの方が上手だったみたいやけど、やられっぱなしはウチの性にも合わん』
クローカに同意するのは彼とペアを組んだ月見里 由香里(
gc6651)。
「汚名返上のためにも、ここは何としてもアヴローラを護りきらんとあきませんな」
この2人も含め、傭兵たちは2機1組を4組形成。各自相互補完しつつ敵を迎撃する作戦だ。
「油断してたね‥‥あんな簡単な罠に気づけないなんて‥‥」
『悔やんでも仕方ない。とにかく、今は時間を稼がないとな』
白鐘剣一郎(
ga0184)の機体は地上機の為常時ブースト状態。そして、宇宙機の中でも抜群の戦闘速度を誇るドレイクを駆る氷室美優(
gc8537)。
移動速度は参加者随一のコンビだ。
彼らは遊撃的に動き、一撃の大きな砲撃型キメラと、恐らくは指揮官を兼ねているであろうHWを優先し敵機の索敵を開始した。
「HWは前には出てきてない、か‥‥」
『速度面では私達のペアが優れています。見つけ次第打って出ましょう』
ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)は黒木 霧香(
gc8759)の通信に頷く。このペアもまたHWを優先して叩くつもりであった。が、突出して袋叩きにあってもしょうがない。無理に突破を行わず、まずは味方と足並みをそろえて敵の排除を行う算段だ。
「しかし黒の騎士団‥‥いかにもな名前にバグアは疑問を持たないのだろうカ‥‥」
『黒騎士‥‥佐渡の手駒か‥‥』
ラサ・ジェネシス(
gc2273)の言葉を聞いて、ふと言葉を漏らす赤崎羽矢子(
gb2140)。
「‥‥羽矢子お姉様?」
『ああ、大丈夫。気にしないで』
憧れの相手の少し考え込んだような言葉を心配するラサだが、羽矢子はすぐにいつも通りの様子に戻る。
(奴には言いたいことがあるんだ。ここでたくらみを潰して‥‥)
「すぐに引きずり出してやる‥‥!」
こうして4組はそれぞれ2機で連携しつつアヴローラの防衛にあたった。
この時点で敵戦力数は未だ不明である。
●
「さて、よろしくね、白鐘」
剣一郎・美優組はアヴローラを離れて行動する。
美優としては損傷の多いアヴローラ左舷を重点的に防衛したいところだったが、ここは剣一郎の方針に合わせる。
『ああ、こちらこそ‥‥早速見つけたぞ』
小隕石の陰に隠れながら移動する砲撃型キメラ。剣一郎はすぐさま突撃。
機体性能に加えブーストの加速力も合わさり、瞬時に肉薄するとアサルトライフルを連射。一瞬にしてキメラを葬り去る。
だが、敵は1体だけではない。デブリを縫って接近する小型キメラを多数発見。
「うじゃうじゃいるよ‥‥ったく、性懲りもなく‥‥」
うんざりした様子の美優はドレイクストームを発射。着弾と同時に放電するこのミサイルによって小型キメラを纏めて薙ぎ払っていく。
「黒騎士だかビショップだか知らないけど!」
さらに撃ち漏らした敵をレーザーキャノンで手当たり次第に砲撃していく。
「キメラが多いな‥‥しかもある程度統率がとれている」
剣一郎は同様バルカンやライフルで弾幕を張ってキメラを撃破しつつ考える。
(こうしてキメラが纏まって行動しているのはHWが指揮を執っているからだろう‥‥)
戦闘しつつレーダーを睨む剣一郎。由香里からの情報も頼りにしつつHWを‥‥
「‥‥見つけた、そこだ!」
小隕石の裏に隠れていた敵を発見、と同時に電磁加速砲を撃ちこむ。高威力の連装砲は隕石を吹き飛ばしその先の、中型HWにまでダメージを与える。
あわてた様子で態勢を立て直そうとするHW。だが‥‥
「これがあたしの間合い、ってね!」
剣一郎の動きに合わせ回り込んでいた美優。そのまま練機槍による突撃を敢行。
砲撃の余波から立ち直っていないHWは攻撃を回避することができず、機槍自体のスラスターによる加速も相まった高速の一撃によって貫かれた。
「よし‥‥まだいるようだな。練力は大丈夫か?」
『こっちは大丈夫!』
HWを1機倒しても終わりではない。レーダーには未だ反応が複数のこっている。
電磁加速砲のリロードを済ませた剣一郎はすぐさま次の敵へ。美優はそれを援護する。
遊撃的に動く彼らのお陰で敵の一部戦力は完全に足止めを食らっていた。だが、あくまで一部。
敵の数は多い。
●
由香里・クローカ組はアヴローラ周辺に待機。敵の深追いを避け、水際で敵を食い止める策だ。
「目標確認、大型キメラやね」
由香里の機体「禄存」は電子戦機である。戦域管制を行うならこのぐらいの位置がいいだろう。アヴローラ側ともデータのやり取りを行いながら、周辺の敵位置を割り出していく。
『了解。あの辺か‥‥』
通信に反応し、クローカは周辺を見回す。小型キメラ群の先、デブリに隠れていた大型キメラの位置を捕捉。砲撃形態をすでにとりつつあるようだ。
クローカは小型キメラを焼き払うかのようにロケット弾を斉射。爆発とともに消滅する小型キメラの先にいる大型キメラを狙撃する。
狙撃自体は命中するが、こちらの射線が通るという事は相手の射線も取っていることに他ならない。
クローカは攻撃に備えすぐさま変形。盾を構えながら距離を詰める。すると案の定、放たれたプロトン砲。
その攻撃をクローカは回避‥‥しない。射線上にはアヴローラがいる。避ければ当たる。
「クッ‥‥」
プロトン砲の直撃、しかしクローカは盾でしっかりとガードする。損傷は軽微。
この辺りが水際防衛の欠点か。無論防衛対象が近くにいる分守りやすいという大きなメリットもあるが。
「見たかい、ここは僕のルークが効いてるんだ。そして‥‥これで、チェックだ」
キメラが次弾を撃つ‥‥前に、クローカはその正面に詰め寄る。
そのまま機剣を振り下ろして砲塔部を切り裂き、胴体を突きキメラを撃破した。
「良し、次は‥‥」
『クローカさん、少し離れすぎや。一度態勢を整えんと』
防衛部隊と協力して小型キメラを排除していた由香里からの通信。
大型キメラは射程も長い。その分ある程度距離を取ってくる。こうして彼らを引き離し、その隙にHWなどで艦に乗り込む策かもしれない。
ただ、それを防ぐための水際防衛でもある。
クローカは由香里の射撃支援を受けつつアヴローラまで戻り、再び大型キメラの索敵を始めた。
●
「さて、どんな手合いやら。それにしても騎士か‥‥フフ」
『油断は禁物ですよ?』
どこか楽しげにつぶやいたドゥに、霧香から注意が飛ぶ。
2人はアヴローラから少し離れ由香里の索敵で位置の割れたHWを迎撃していた。
「了解‥‥それじゃ、お手並み拝見っと」
ドゥはHWを視界内に捕捉すると歩行形態で加速しつつアサルトライフルを連射。弾幕を張って敵の動きを制限する。
無論相手も黙っているわけではない。プロトン砲で迎撃を試みてくる。だが、反撃を当然の如く予想していたドゥは手近なデブリを盾に身をかわす。
「援護します」
その間に、ドゥのさらに後方からフォースアセンションを起動させた霧香機のライフル弾が飛ぶ。
一歩下がった位置から敵の動きを捕捉していた霧香にとって、ドゥの動きに気を取られたHWに対し直撃をとることはそう難しいことではない。
ライフル弾はHWの装甲を過たず、容易に穿ち貫く。
「‥‥調整も中途半端なのにすごい性能‥‥」
言葉通り、霧香のヴァダーナフは既存機に多少手が加えられた程度のものだ。
が、それでもこれだけの破壊力を生み出せるあたり、開発会社であるMSI社の本気が垣間見える。
(過保護も良いところだけど‥‥)
しかし、そのお陰で霧香は戦える。
「‥‥有難く、使わせてもらうわね」
脳裏に浮かんだ全ての人に感謝しつつ、霧香は再び引き金を引く。
その攻撃に合わせ飛び出したドゥ。
「騎士っていう割には甘いんじゃないかな!」
構えたのは十文字槍。霧香の狙撃で態勢の崩れたところに加速の乗った突き。
槍はHWを易々と貫き、そして撃墜した。
『その近くにまたHWの反応を確認しました。迎撃をお願いしますわ』
だが、息つく暇はない。由香里からあらたな敵情報が送られてきた。
「このHW、陽動などではありませんか?」
『陽動‥‥やったかもしれんけど、こちらに奇襲をかけてきた敵は迎撃しとるから心配いらへんよ』
「そういうことであれば、了解しました」
この時点で2機の練力は未だ6割強を残しており、このまま敵機の迎撃へと向かった。
●
戦況は順調に運んでいた。だが、そう言う時こそ落とし穴があるものだ。
『アヴローラ左舷方向、高速で接近する敵機を確認!』
由香里から緊迫した通信が飛ぶ。霧香が危惧していた敵の奇襲だ。
しかし、その方面は羽矢子・ラサ組がしっかりとカバーしている。
「やっぱりこっちに来たか。行くよラサ!」
『了解、羽矢子お姉様!』
2人は捨て駒の様に突っ込んでくる小型キメラの処理を防衛部隊に任せ、やや後方から指揮をしていると思われる中型HWへ向かう。
ラサはレーザーとアサルトライフルを交互に使用。リロードの隙を少なくする策の1つだ。そのままHWを牽制している間に羽矢子はブーストを使用。
「その調子で援護頼むわ!」
加えて羽矢子はETPを利用して小刻みにその進路を変える。これによって敵の攻撃をうまく避けながら指揮官と思われるHWに肉薄する。
「あなたたち佐渡の手下らしいけど、今のうちに投降したほうが身のためなんじゃない?」
羽矢子は敵に聞こえるよう通信を行いつつ機拳をHWに突き出す。
しかし、その攻撃を慣性制御を利用して悠々とよけるHW。そのままプロトン砲の照準を合わせる。
‥‥瞬間、コロナの代名詞ともいえる兵器、光輪コロナの一撃がHWに突き刺さる。この時になってHWのパイロットは気づいた。先程の機拳による攻撃は囮であり、自分はまんまとそれに乗せられていたのだと。
「佐渡に伝えといて。『覚悟しとけ!』って!」
しかし、それは不可能だろう。
光輪によって態勢を崩されたところに、ラサの撃った電磁加速砲が直撃。瞬時に撃墜されたからだ。
「‥‥どうやら無理そうね」
HWが撃墜されるとともに、キメラの動きが徐々に乱れ始めている。
おそらく指揮系統が崩れてきたのだろう。
「っと、アヴローラには攻撃させないヨ!」
砲撃型キメラの攻撃を、レーザーシールドを張って防ぐラサ。アヴローラへ攻撃が流れることを恐れて一応防御したものの、その攻撃は精度を欠いたものだった。
『お姉様、これは‥‥』
「決着が近いかな。このまま押し切るよ!」
ラサからの通信に答えつつ、羽矢子は砲撃型キメラに返礼のアハトアハトを撃ち込む。
気づくと、周辺での戦闘による光がかなり少なくなってきていた。
●
『アヴローラの方はどうだ?』
「ああ、君たちのお陰で応急処置は完了した。すぐに出発しよう」
『了解した』
剣一郎からの通信に答えた後、アレクセイは大きく息をついた。
戦闘開始から5分を過ぎた頃には、周囲の敵はほぼ完全に掃討されていた。
一応奇襲などを警戒して周辺の哨戒を行っているが、敵発見報告、あるいは由香里の逆探知による反応も検知されていない。それはアヴローラの索敵網も同様だ。
アレクセイの予想では、恐らく10分近くは戦闘が継続するだろうと思っていた。だが、傭兵たちの連携は良くとられており、敵を確実に、しかも手早く撃破していった。
機体性能のお陰という見方も出来なくはないがそれだけでは上げられない戦果であるのは間違いない。
「凄いな。心からそう思うよ」
アレクセイは指揮座に腰を落ち着けると、どこか満足げに呟いた。
こうしてアヴローラは一路進路をカンパネラに向ける。
それを先導するのは練力補給を終えた剣一郎と美優。殿を務めるのは羽矢子とラサ。
他の者は周囲の警戒に付く。
アヴローラの損害をみればそう見えないだろう。実際一度は敵の奇策によりピンチの真っただ中にあったのだから。
だが、最終的に上がった戦果はというと 小型HWが6に中型が3。砲撃型キメラは10以上。小型キメラはその倍以上の撃破。
戦果は非常に大であると言える。
これでこの周辺のキメラも大部分は掃討されただろう。
作戦は、大成功である。
中型HWと、それに突き従う小型HWが2機。その視線はアヴローラの様子を捉えていた。
隙あらば攻撃を‥‥だが、そう何度も奇襲させてくれるような相手ではないことはその警戒体制からありありと伝わってくる。
「僧正、作戦は失敗です」
中型HWのパイロット。小隊長からその上官へ通信が送られたのは、アヴローラが完全に視界から消えてからの事だ。