●リプレイ本文
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「三月の日付は既に二ヶ月過ぎたのですが、行進曲の状況としては似合いですかね」
番場論子(
gb4628)は目標となる地点を見据え、そんなことをつぶやいた。
全部で12ある施設。この依頼ではその1つを破壊する。課せられた責任は決して軽くは無い。
「ミサイル攻撃なども予想される。直衛隊は艦へダメージがいかないように注意してくれ!」
『了解! 言われなくてもそれが俺たちの仕事だからな!』
榊 兵衛(
ga0388)はアヴローラの直衛部隊にそう告げる。
戦闘は今回だけではないわけだし、アヴローラの被害を抑えるに越したことはないのだ。
「無事に成功するのかしら‥‥」
この依頼が初依頼となる天堂 亜由子(
gc8936)はどこか不安げにそう呟く。そしてこの依頼で計るつもりだ。自身が傭兵として活動する基本的な部分が出来るかどうか‥‥
そんな真面目な考えを巡らせるメンバーがいる一方、どこかコメディノリな2人も。
「浮気じゃない、浮気じゃないから! グレーゾーンだから!」
『分かった分かった! だから、後でゆっくりお話ししような?』
恋人であるビリティス・カニンガム(
gc6900)の、恐らくはこれ以上ない笑顔から放たれたであろう言葉は、通信を介してでもなお村雨 紫狼(
gc7632)の背筋を凍らせた。
といっても、原因は紫狼のあれやこれにあるのだから仕方ない。
「‥‥」
そんなやり取りを、ドクター・ウェスト(
ga0241)はただ無言で聞いていた。
その心中は穏やかではないが、とりあえずこの依頼においては仲間である。依頼をやり遂げることが出来ると信頼はする。が‥‥
(いつ裏切られるのか‥‥)
過去の依頼における出来事から、能力者に対する信用を持てなくなったドクターは、しかし依頼に打ち込もうと前を向く。
『KV部隊、攻撃開始!』
「ろじゃー(了解)です! 入間機、び…beat a march!! ですっ!」
アレクセイからの攻撃命令。
それに伴い、入間 来栖(
gc8854)が誰かに教わった掛け声とともに簡易ブーストを起動して戦闘態勢へ。
こうして、月面での巨大施設をめぐる戦端は切って落とされた。
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陽動班は敵の攻撃を、文字通り陽動するために行動を開始した。
「アヴローラの攻撃を成功させるためにも‥‥」
兵衛は遠距離からミサイルポッドによる弾幕を形成。
「‥‥邪魔者は始末しておかねばな」
敵の動きを抑制したところを高速ミサイルで狙い撃ち、キメラを容易く落とす。
そのまま兵衛はブーストを使用し続けながら敵対空網の有効範囲ギリギリにまで潜り込み攻撃をしかける。
文字通りの、陽動。大した知能も持っていないキメラはそれにつられわらわらと迫ってくる。
「よし、こっちも派手に行くぜ!」
キメラが兵衛に寄っている隙にビリティスは施設上空に陣取りロケット弾を連射。雪崩の名に恥じない火力でもって地施設に攻撃が突き刺さる。
とはいえ、ロケット弾が届く範囲は敵の攻撃が届く範囲でもあった。対空砲がビリティスに向けて連射。かなり精度は高いと見える。恐らくは躱せない。
「そんな豆鉄砲にこの鏖殺の大公がやられるか!」
否、躱す必要などない。ビリティス機は機斧で対空砲を受け切る。重装甲KVの名は伊達ではない。
ビリティスはそのまま、対空砲の出所を確認。
この情報は飛行形態で施設情報に接近し、敵地上戦力の一を確認していた来栖の情報と合わせて強襲班に伝達される。
その来栖は、しかしビリティス程敵施設に接近はしない。兵衛同様対空砲の射程範囲を出入りしつつ敵をおびき寄せ迎撃する。
どちらかというと突出しているビリティス、その後背を守るのが目的だ。
「後ろはこちらでカバーします、存分にやってくださいっ!」
『了解、背中は任せるぜ!』
来栖の言葉に、ビリティスはそう答え、より一層攻勢を強める。
ここまでのやり取りで分かるように、通信状況は非常に良好である。先に伝えられた情報も十全に強襲班へ伝わっているだろう。これには、直衛部隊とともにアヴローラの防衛を買って出た亜由子が情報の把握と伝達に勤めていた点も良い方に影響していた。
陽動班が敵の防衛キメラやヘルメットワームと激しい戦闘を繰り広げている中‥‥
強襲班はその間隙を縫って月表面をなぞるように飛行。目標とされる巨大施設に接近していく。
「上手く当たってくれたらよいのだがね〜」
ドクターは、亜由子を通じて送られてきた情報とレーダー反応を照らし合わせながら、防衛装置の位置を特定。ミサイルポッドを斉射。
「照準最適化機能、起動。着実に破壊します」
その攻撃に続くように論子はガンランチャーを連射。照準最適化機能によって命中力を高めた攻撃は過たず命中し、対空砲を破壊していく。
ドクターはそのまま変形し、月面に着地。
「このまま近接戦で破壊するよ〜」
そういうが早いか、ドクターは単騎で対空砲に向かい突撃していく。声の調子とは裏腹に、その突撃の勢いたるや鬼気迫るものがあった。
「くそっ‥‥」
その様子を見ていたピエール・アルタニアン(
gc8617)は苦々しく呟く。
ピエールは、作戦開始前にドクターと些細なことで口論となった。
――バグアへの憎悪しか信じるものはないのだ。
その時の言葉をピエールはかみしめる。
(俺じゃ、頼りにならないっていうのかっ!?)
確かに、ピエールとドクターでは戦闘経験が段違いではある。だが、実際そういわれては悔しいどころの話ではない。
だが、同時にピエールはその事情というものも知っている。それゆえ、その感情の向ける先に迷っているようでもあった。
『自分の身体じゃね〜赤の他人なんか、信じたり愛したりするのはきついよな』
そんなピエールの様子を感じ取っていたか、紫狼が通信を送ってくる。
『でもそれは、しんどいけど楽しいぜ!』
コクピットの中で、頭上を見上げた紫狼は続ける。
「俺は、おっちゃんを信用も信頼もするぜ〜。というか‥‥」
そう通信に呼びかけつつ紫狼のタマモは加速する。
「誰かを信じる俺を信じてるだけだっ!」
数発、対空砲による被弾を受けながらもタマモはそのままロケット弾を連射する。
複数の爆発を起こし直撃していくロケット弾。そのまま紫狼は二天一流を思わせる二刀流スタイルで敵陣に躍り込む。
「そうか‥‥そうだな」
紫狼の言葉を100%鵜呑みにしたというわけではない。が、とにかく今は自分の力を信じ、自分の役目に徹するのみ。
紫狼に続いて月面に着陸したピエールは機槍の姿勢制御ブースターを利用。キメラの攻撃を躱しながら対空砲に接近し、強烈な月を浴びせ破壊していく。
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「射程ギリギリか‥‥」
艦橋で、アレクセイはつぶやいた。これ以上近づくと対空砲の射程に入って少なからず被害を受けることになるだろう。かといって、この距離で命中させられるとは限らないが‥‥
「出所を撃たれても拙いしね‥‥」
『G5弾頭、発射されました!』
キメラを迎撃しているのだろう。銃声混じりに届いた亜由子の通信。この言葉が、戦局の動いたことを告げる。
「了解した。これより弾頭護衛に入る」
それを聞いた兵衛は陽動を一時切り上げ弾頭の下に飛ぶ。
ブーストを利用した移動速度は非常に速く、キメラは追いつけない‥‥それ故、その矛先は近場の敵、ビリティスと来栖に向く。
「さすがに敵の数が多いぜ‥‥ぶっ放す、一度下がってくれ!」
『ろじゃーですっ!』
連携を意識した来栖は、ビリティスの意図を即座に察し機体を後退させる。
来栖機の離れるのを確認したビリティスはキメラからのフェザー砲を防御しつつ機関砲群を一斉起動。周囲に弾幕を張る飽和攻撃「ミチェーリ」が発動する。瞬時に発射された3000発もの弾幕が周囲を埋め尽くしキメラが一掃される。
撃破出来なかったキメラもその機動性を大きく減じられ、来栖の攻撃を回避しきれず撃破されていった。
「よし! この調子で‥‥」
『危ない!』
不意に、ビリティスの横に閃光が走る。ヘルメットワームのフェザー砲だ。
しかし、この攻撃は後方からバックアップをしていた来栖が庇うことで致命傷にはなりえなかったが。
「ちょっとはやるみたいだな‥‥」
『連携して撃破しましょうっ!』
そういって、ビリティスと来栖はヘルメットワームへの対応にあたる。
一方、弾頭護衛を行っている兵衛。
しかし、敵の攻勢も弱くは無い。特に対空砲火が激しい。強襲班も頑張っているが、その数は予想以上に多い。そして、それらを一人でカバーするほど兵衛の手は長くは無い。
『離れてください、直撃コースです!』
攻撃を、機体自体を壁にして防いでいた兵衛だが、亜由子からの警告を受け退避。
その判断は正しい。G5弾頭が爆発した時その周囲にいたなら、高い性能を誇る兵衛の忠勝でさえ致命傷は免れえないだろうから。
(たとえ失敗してしまっても、生きてさえいればチャンスはあります‥‥)
亜由子の考え通り、アヴローラにはまだ2発のG5弾頭が残されている。尤も、この考えは作戦自体に対するものだったのだろうが。
無音の空間、にも関わらず爆音が響いてくるかのような閃光。それが頭上で輝く。G5弾頭が迎撃されたようだ。
「っと‥‥急がないとやばそうかな」
二振りの機刀。その一方で対空砲を、もう一方で隙をついて攻撃しようとしたキメラを受け流し、返す刃で切り刻んだ紫狼。その意識は、上方の爆発に向く。
上では最愛の人が戦っている。彼女は大丈夫だろうか‥‥
「‥‥ま、ビリィの方が攻撃力も高いし、大丈夫だよな!」
そうつぶやくと、紫狼は眼前の敵に向き直る。これもまた、信頼の証といえるのだろう。
その横ではピエールがディフェンダーで防衛に出てきたキメラを叩き斬りながら次の目標へ向かっていく。
(G5弾頭が迎撃された‥‥もう少し対空砲を減らさないとな‥‥)
そうしながらも、ピエールは巨大施設の正確な位置の探知に余念がない。
迷彩がかかっているが空間の揺らぎという形で発見できなくはないが、より正確な位置を知らせることは戦闘を有利に運ぶことに違いない。
「シンジェンソードォーッ!」
一方、ドクターは練機剣を使用。超重量、超火力の機剣は一振り一振りの破壊力が高く、確実に砲台を破壊していく。
それと同様、論子もマシンガンによる射撃攻撃からより効果の高い機拳による近接戦に移っている。
「これぐらい破壊すれば‥‥そろそろ‥‥」
4機の苛烈な攻撃は、気づくと砲台の数を当初から20分の1程度になるまで破壊しつくしている。
もはや施設の防空は穴だらけだ。
『今なら直撃できるはずです‥‥G5弾頭を!』
対空砲の攻撃にさらされるアヴローラ。しかし、この機を逃すわけにはいかない。
亜由子が言うが早いか、2発目のG5弾頭が発射。再び兵衛が直衛についたが、キメラの数も陽動班の働きによってほとんど数もなく‥‥
『G5弾頭、着弾しますっ!』
来栖の言葉と同時に広がる爆発。
同時に、迷彩で隠されていた姿を現した巨大施設。特徴的なエンジンノズルからわかるように、恐らくは巨大な推進器であろう。それらの姿がはっきりと確認された。
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対空防衛施設はそのほとんどが失われ、現在もなお強襲班による破壊活動が行われている。
そこに、敵キメラのほとんどを退けた陽動班が接近。
「駄目押しです! ロケット弾発射!」
来栖を始め、陽動班3機は対地攻撃。施設へのダメージが加速する。
さらにアヴローラは3発目、最後のG5弾頭の発射準備を整えた。勝敗は最早決していた。
「我輩にかまうな!」
この時突出していたドクターの機体が目に入る。このままでは誤射の恐れもある。
『アヴローラが最後のG5弾頭を使用します、離脱を!』
「‥‥了解だ」
能力者を未だ全面的には信じられないが‥‥亜由子からの通信を受けたドクターはすぐさま全装甲をパージ、機動性を大幅に高めてその場を離脱する。
強襲班が離脱していく背に、3度目の爆光が広がり、その後にはその機能を完全に停止させた施設のみが残された。
戦闘は終了し、アヴローラ周辺には味方だけが残った。
「ワインでも飲んで、落ち着きたいところなんだがな‥‥」
ピエールはコクピット内でそう呟いた。
‥‥が、落ち着くにはまだ早い。これよりアヴローラは崑崙‥‥ではなくカンパネラに直行する。
大規模作戦は未だ継続中であり、アヴローラへのおおもとの命令はカンパネラの防衛であるためだ。
『流石だなダイバード。それでこそ余の宿敵にふさわしい』
『‥‥そちらもな、テラドゥカス!』
アヴローラに戻る帰途。
貫禄ある男声とともにビリティス機から握手を求めるように差し出された手。それに、付き合うように紫狼機が握手を交わす。
『でも、盗撮に関しては帰ってからお仕置きな!』
不意にボイスチェンジャーが切られ、元に戻った恋人の声を聞いた紫狼機からは悲痛な叫び声が聞こえた‥‥ような気がした。