タイトル:【崩月】雪原の争奪戦マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/12 23:18

●オープニング本文



「ラグランジュ2へ資材集積拠点を設営に向かっていた分艦隊が消息を絶った。状況から、おそらくは通信妨害を併用した奇襲。予想以上の戦力が存在した物と推測される」
 月と地球、カンパネラやバグア本星などの配された作戦図を背に立つUPC士官は、そこまで語ってから傭兵達の様子を伺うように言葉を切った。見つめ返してくる視線に、頷いてから説明を続ける。
「予想会敵地点は、連絡途絶のタイミングからこの範囲。月の裏側であるために確認は出来ないが、おそらく間違いないだろう」
 スクリーンに、艦隊の予測進路と攻撃を受けた予想地点が表示され、そこから無数の矢印が延びた。そのうち幾つかは地球の重力に囚われ、大気圏へ突入する進路を描いている。そのうち幾つかは、既に地上に落ちた後のようだ。
「圧倒的な奇襲を受けた艦隊は、おそらく何らかの情報を我々に託そうとしたであろう。これらの可能性の中から、回収確率の高い物に急ぎ、向かってもらいたい。艦では間に合わん」
 最善は宇宙で回収することだが、危険が伴う。また、地上に落ちた物のうち幾つかはバグアの勢力地域へ強襲が必要だ。
「時間はそう多くは遺されていない。危険は伴うが、傭兵諸君の協力に期待する」


 グリーンランド、ゴッドホープ。
 ここでも地上に落下したカプセルの存在は確認されていた。
「そこで、君たちにはその回収に当たってもらいたいのだが‥‥」
 問題が一つ。それは落下地点周辺の気象状態だ。
「落下したのは北部の雪原だが、この近辺では現在吹雪が観測されている」
 その為、カプセルの観測状況が不安定であり、正確な位置が判明していないという事だ。
「そこで、君たちにはKVで現地に向かってカプセルを捜索、回収してもらいたい」
 現在バグアの機動兵器は観測されていない。
 が、KVの動きを感知すればHWなどが出撃してくる可能性も否定できない。そういう意味ではKVの姿を覆い隠してくれる吹雪は好都合と言える。
「ただし、あんまり派手なことをするとカプセルが破損したり敵が出撃してきたりする可能性がある」
 特にカプセルは大気圏突入を経ている。慎重に扱う必要があるだろう。
「どちらにせよ、カプセル落下から相応に時間が経っている。すぐに出撃してくれ」


 時を同じく、グリーンランド東部。
 タシーラク北、ギュンビョルン山。狼型キメラを率いるバグア、ガウルの本拠地である。
「‥‥来たか、アトス」
 今、そのガウルの前には1匹、ただし他とは明らかに体格の違う、狼型キメラがいた。
 背中には4足の身でどう扱うのか、大剣と盾を背負っている。
「お呼びと聞いて参上しました。ご用件は?」
「地上に落ちたカプセルの話は聞いているな? 貴様にはそれを奪取してもらいたい」
 ガウルはそう言うと部下に指示し、二つの装置を用意した。
 1つはジャミング装置。CWの物を忠実に再現したものだが、能力者に対する大きな影響は発生させられない。あくまでKVの機器等を狂わせる効果があるのみ。
 そして、もう1つはデコイ。落下中のカプセルから発せられた波長を分析してデータを入力してある。
「これもKVの目は騙せるもしれないが、能力者自身の目を騙せるかどうかは分からん‥‥まぁ気休め程度に思っておけ」
「承知しました‥‥では出撃します」
「待て、一つ厳命しておくが‥‥今回は強化状態の調整も兼ねている。不必要な戦闘は避けるように」
「承知しました」
 そう言うとアトスはふっ、と瞬間移動でもするかのようにガウルの目の前から消えた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ジョー・マロウ(ga8570
30歳・♂・EP
神名田 少太郎(gc3155
12歳・♂・CA

●リプレイ本文


 吹雪が吹き荒れる中、4機のKVが戦場に立っていた。
 宇宙からの贈り物。分艦隊から射出されたカプセルの一つがこの付近に落下したとの情報を得たためだった。
「吹雪か〜、スノーストームを思い出すね〜」
 柔らかい雪を踏み固めるように歩くワイバーン。それを駆るのはドクター・ウェスト(ga0241)だ。
 過去、自身の力を持って倒すことのできなかった極北の強敵、スノーストームのことを思い出しながら、ドクターは周囲の探索を行う。
「確かに、この吹雪は厄介ですね‥‥」
 ドクターとともに周囲の探索を行うのは白銀のミカガミ。終夜・無月(ga3084)の白皇だ。
 吹雪となると周囲の状況把握も非常に困難。目視による探索をしようにも、視界を埋め尽くすのはただただ白い光景。
 幾分かレーダー頼りになるのは仕方ないだろう。

「Boy、足は届くのかい?」
「こ、子供扱いしないでください! これでも来年は成人です!」
 一方ドクターや無月とは別行動を取る2人。
 今やすっかり珍しくなってしまったスカイスクレイパーを駆るのはジョー・マロウ(ga8570)。
 そして、そんな彼とペアを組むのはパラディンを操る神名田 少太郎(gc3155)だ。
「ハハ、ジョークだよ‥‥しかし視界が悪いな」
「まったくです‥‥」
 このように冗談をかわしながら、2人もまた雪原を進んでいった。


「む‥‥これはジャミングのようだね〜」
 作戦域に入ってからすぐに、ドクターのKVに異常が発生した。
 レーダーが正常に動作しない。微かにカプセルの反応自体はあるようだが‥‥
「そっちはどうだね?」
『こ‥‥も確認‥‥‥‥す。敵が‥開し‥‥‥よう‥‥‥』
 無月に確認を取るが、その反応は途切れ途切れ。
 頭痛などは無いことから、CWの類ではなさそうだ。
「これは、少し慎重に動かざるをえないかね〜‥‥」
 ドクターはKV内で電波増強を使用。自身の知覚力を高め、索敵を行う。
 同様に、無月は探査の眼にGooDLuckを添えて探索。とはいえコクピットからではその効果を十分発揮することは出来ない。
「仕方ない‥‥」
 無月はコクピットを空ける。
 雪がすごい勢いでコクピット内まで吹き込んでくる。恐らく気温はマイナス20度を下回っているだろう。
 尤も、防寒対策を行っている無月にとって寒さはそれほど苦ではなかったが。
「‥‥ん? なんだ?」
 ポッドの反応があった方へタクティカルゴーグルを向ける無月。その先には微かに黒いものが見える気がした。が、同時に自身の探査の眼に引っ掛かりを覚える。
「‥‥危ない!」
「ッ‥‥!」
 ドクターの声と、無月が、手に持った大剣を咄嗟に構えるのは同時。
 ガッという金属音が、狼の牙と剣がぶつかり合った音だと認識するのはさらに数瞬遅れての事だった。
「またあいつ等か‥‥」
 無月は剣を振り払って狼を追い払うとすぐにコクピットを閉じる。
 服についた雪を払いながら機体を操作。プラズマライフルで周囲に弾幕を張る。
 ドクターも同様、レーザーライフルを周囲に発射。
 とはいえ、レーダー反応も微弱であり、しかも目標が小さい。なかなか手ごたえが感じられない。
「‥‥そいつらは任せるよ〜」
 小物に手こずっていたら本命を取り逃す。
 ドクターは敵の対処を無月に任せ、レーダーを頼りにカプセルに向かう。
『探‥‥眼‥‥‥反応‥‥‥‥罠』
 だが、無月の断片的な通信が聞こえた。
 すでにカプセルの目の前まで来たドクターは、すぐさま飛び退く。
 4足KV故の不整地対応力が生きた。飛び退くと同時にカプセル‥‥いや、デコイは爆発を起こし周辺を吹き飛ばした。
 その間に無月は3匹の狼キメラを片付けていた。
「バグアが囮を展開しているようだね〜‥‥爆発に注意したまえ〜」
 憎きバグアの小細工に少し苛立ちながら、ドクターはそう無線に告げた。
 これが、もう片方の組に届けばいいのだが‥‥


「移動反応‥‥捕まえた!」
 一方のジョーと少太郎もすでにカプセルらしき反応をキャッチ。
 しかし、それらは移動しているようだ。
「も、もしかして誰かが先に回収しているかも‥‥急ぎましょう!」
 ジャミングにより聞こえてるかはわからないが、そう言うと少太郎は追撃を行う。
 実際ジョーにはその通信がとぎれとぎれでしか聞こえていなかったが、スカイスクレイパーは電子戦機だ。一般機が追っている反応を見落とすはずもない。
 2人はすぐさま目標に急行していく。
「良く見えねぇが‥‥あれは狼か? いや、さすがに不自然だな。キメラか!」
 吹雪でよく見えないが、ソリと、走る黒い物体を目にしたジョー。機体を車両形態に変形、その速度を活かして一気に正面に回り込もうと‥‥
「OH! 雪を噛みやがった!」
 ‥‥したが雪の上では車両形態では走りづらいようだ。歩行形態に変形しなおす。
『何‥‥‥るん‥‥か‥‥急ぎますよ!』
 そんな様子をしり目に、少太郎は先行。敵の移動方向に向けてガトリングによる牽制。
 吹き飛ぶ雪に動きが止まったところを追いつき、回り込む。
「喰らえ!」
 至近距離で機剣を振りかざし‥‥薙ぐ!
 ソリにつながった3匹の狼はその一刀を以て薙ぎ払われ絶命した。
 後に残されたのはソリと、その上に乗っていたジャミング装置。そして‥‥
「さっきのドタバタでどっか転がっちまったか?」
 ポッドらしきものは雪の上を転がってしまった。レーダーを頼りにジョーが探す。
 その間に少太郎は邪魔なジャミング装置をゲルヒルデで突き、破壊する。
「‥‥あったあったっと‥‥」
 少し離れた位置に転がっていたカプセルを発見するのと、その通信はほぼ同時だった。 
『‥‥‥‥囮を展開‥‥‥‥よう‥‥‥‥‥爆‥に注意し‥‥‥』
「え、爆発!?」
 ジャミング装置の破壊と、スカイスクレイパーによるジャミング中和のお陰で聞き取れた通信。
 咄嗟に回避オプションを起動させたジョー。
 爆発に巻き込まれる寸前に距離を取ることに成功し事なきを得る。
「危ない危ない‥‥この吹雪の中見つけられるなんてラッキーと思ったんだが、甘かったかな」 
 気を取り直して、2人もまた捜索を再開する。今度はデコイの可能性も十分考慮して、だ。 


 最初のデコイ発見から数十分が経過。
 2組はこの後合わせて3個のデコイを発見。またその途上においてソリに乗せられたジャミング装置を発見し、破壊していた。
 さらには付近にいた狼キメラも撃破。その数もまた10を超えていた。
『所長、そちらの収穫はどうですか?』
「駄目だね〜‥‥見つからないよ」
「参りましたね‥‥」
 今では各レーダー機器もクリアに作動しており、無線も十全に機能している。
 だが、肝心のカプセルの反応だけはどうにも出てこない。
『もう少し探してみます』
「了解‥‥デューク、俺達も」
「‥‥そうだね〜。立ち止まってても仕方ない〜」
 戦場にいた狼たち。それらの存在を加味するとひょっとしたら‥‥
(すでにポッドは奪われた後なのかもしれない)
 最悪の結末を頭から振り払い、4機はひたすらに捜索を続けた。


 吹雪の中、一匹の狼が‥‥文字通り立っていた。
 位置的にはすでに作戦域のかなり遠方。脇には地上に落下したカプセルを抱えている。
 この狼の名はアトス。ガウルが強化した特別なキメラ。
 その特徴は獣の姿から人、いわゆる獣人の姿に変異できることにあった。
(‥‥任務完了)
 頭の中でそう呟いたアトスは、カプセルを抱え主の下へ駆けだした。


 捜索は吹雪が止んでからも延々続けられた。
 吹雪が止んだあとは追加に歩兵部隊が投入された。
 だが、結果的にそれだけの人数を以てしてもカプセルを見つけることは出来ず、捜索は打ち切られることになった。


 能力者たちは知る由もなかったが、カプセル捜索に投入されていた狼たちはこのアトスも含めて6組。
 対して能力者たちは2人1組の2組で捜索を行った。捜索範囲に差が出てしまい、結果バグア側が先にポッドを捕捉できてしまうのは致し方ないことだったかもしれない。
 あるいはKVの性能をフルに活かし、ブースト機能などで戦場を駆ければあるいは捉えられたのかもしれない。
 だが、それらは全て終わった今となっては言っても仕方ないことだろう。