タイトル:雪原の防衛戦マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/22 10:28

●オープニング本文



 グリーンランド東部。
 タシーラクからさらに北上した場所、海岸線に位置する山。
 その名前を『ギュンビョルン山』という。北極圏における最高峰である。
 この近辺では、ここ最近狼が多数観測されていた。といっても元々グリーンランドにはホッキョクオオカミと呼ばれる種類の狼がいたわけであるから、発見した人間も精々「バグアの攻撃で絶滅していなくてよかったな」程度の感想しか抱いていなかった。
「‥‥だからこそ、UPCは未だこの山に潜んでいるバグアの存在に気付いていない。ある意味でありがたいことだ」
 山の中腹に存在する洞窟。その奥でガウルはふと呟いた。
 ガウルは狼型キメラをヨリシロとしたバグアであり、その部下もすべて狼型キメラである。こういった場所に潜むには都合がよい。
 尤も、現在戦場は宇宙に移り変わっている。加えてグリーンランドにはもはや敵の大型拠点も無くなっている。注意が薄れるのも無理からぬことではあるが。
「だからこそ、ここらで一度仕掛けて我々の存在を誇示するべきではないでしょうか?」
 そういうのは狼型キメラの一匹。血気盛んなな若い狼というのはえてしてこういう無茶なことをいう傾向にある。
「『三匹』の調整もまだ済んでいない。仕掛けるにはもう少し時期をみるべきなのだが‥‥」
「ですが、こう何か月も潜んでいるだけでは我々の存在意義が‥‥」
 とはいえ、そう言った意見をひねりつぶしていてもしょうがない。ひたすら潜伏するだけではフラストレーションも溜まっていくことも確かだろう。どこかでそういった気分を発散させる必要があるのは確かだ。
「‥‥まぁ、輸送部隊の襲撃くらいならよかろう。許可しよう」
 ガウルは狼の意見を採択。本拠地の位置が割れないように細心の注意を払ったうえでの作戦行動を許可した。


 雪原を3台のトラックが走る。
 グリーンランドに鉄道が通ったことで、補給などに関してもずいぶんやりやすくなった。だが、それはあくまで鉄道の線路上にある町の話だ。場所によってはまだまだ車を使うなり空輸するなりが必要だ。
 というわけで、現在この3台は基地への物資補給の為に移動中というわけだ。
 空輸でもよかったのだが、戦線が宇宙に傾いている為空は逆に危ないのではないかという意見があったため陸路を取ることになった。護衛の為、能力者も同乗している。これが空になると護衛はKVになる。それは予算的にもちょっとあれだ。
 ‥‥哀しいことに、どこも予算不足はいかんともし難いのだ。
「‥‥ん?」
 こうして、変わり映えのしない雪原をひた走るトラック。その車内から外を見ていた能力者の一人が、目の端に黒い影を捉えた。
「‥‥うわっ!!」
 それと同時に、慌ててハンドルを切る運転手。先頭を走るトラック。その目の前の地面が吹き飛んだ。地雷‥‥などではない。恐らくなんらかの遠距離兵器による攻撃か。
 護衛兼積み下ろしの手伝いとして雇われていた能力者たちはすぐさまトラックから降り、迎撃態勢を取る。
 そんな彼らの前に立ちふさがった敵は、武装した複数の狼であった。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
ジャック・クレメンツ(gb8922
42歳・♂・SN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
タイサ=ルイエー(gc5074
15歳・♀・FC

●リプレイ本文


「うー、寒いというより冷たいな。ヒリヒリする‥‥」
 タイサ=ルイエー(gc5074)は体をさすりながらそう呟いた。何しろここはグリーンランドの雪原。寒くて当然と言えば当然だ。尤も、車の中は幾分温かかったから、その反動もあるのだろうが。
「指揮を執るなんて初めてよ」
 そう言いつつクレミア・ストレイカー(gb7450)は車上に立つ。見渡すとロケットランチャーを装備した狼が複数確認できる。
 彼らは今まさに敵の襲撃を受けているところだった。
 尤も、敵の配置は多少の勾配があるため地上からではその姿を見落とす可能性もあったが、上からみればその位置は一目瞭然である。
「ロケット弾は、頼むわよ?」
「あぁ。依頼は二年ぶりだが車列護衛なら慣れた仕事だ。任せろ」
 ジャック・クレメンツ(gb8922)も同様に車上に上がり、煙草の煙を燻らせながら大型のスナイパーライフルを構えた。
 一方、雪上では能力者たちが手早く戦闘準備を進める。
「雪原に狼、か‥‥普通なら似合いのとこなんだが‥‥」
 御守 剣清(gb6210)は抜刀しつつそう呟く。グリーンランドにも当然野生の狼は存在しているだろう。だが、今回の狼たちは明確な敵だ。
「時折狼に縁があるけど‥‥」
 この国の狼は気性が激しそう。と、そんなことを心中で思うのはドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。彼も装飾を排した機械剣を手に戦闘準備は万全だ。
「いきなり爆発したから強化人間でも来たのかと思ったら‥‥犬公か」
「かといって、たまたま居合わせた野良キメラ、という感じではないな。気を引き締めていった方がいいだろう」
 足元に積もる雪の状態を確認しながら呟く空言 凛(gc4106)にハンフリー(gc3092)が注意するよう言葉を投げる。
「俺は、完全に囲まれる前に敵集団に仕掛けます」
 この間に終夜・無月(ga3084)は探査の眼を発動させつつ、そう言うと一人集団を離れ独自行動を取る。
「了解‥‥敵は4方から接近してきてるわ。それぞれ守りについて」
 それ以外の面々はクレミアの指示に従い守りについた。


 車上のクレミアから指示を受けながら、トラックを囲むように防御を固める能力者たち。
 各々の位置はいまいちはっきりしていないが、そのあたりは指揮担当のクレミアが敵位置を見ながらバランスよく振り分ける。
 その間、無月だけは一人遊撃の為に前に出る。
 一人突出した無月は狼たちにとっては絶好のカモだ。1組が無月を囲もうと向かってくる。
 ‥‥だが、この動きは無月に好機を与えることになる。
「真の狼を訓えよう‥‥!」
 自身に向かってくる狼たち‥‥ではなく、地面にたたきつけられた白銀の剣。その場所から走る十字の衝撃波。
 無月の十字撃だ。
 衝撃波は狼たちを飲み込み、吹き飛ばす。
 そして、同時に発生する爆発。恐らくは狼たちが背負っていたロケットランチャーが誘爆したのだろう。
 数瞬の後、爆煙の中から這い出てきた狼3匹。そのいずれもかなりの痛手を負っているようだが、撃破には至っていない。
(いける‥‥)
 無月はそう確信し、瞬天速を使用。高速で間合いを詰め、もう一撃集団に向かい十字撃を叩き込む。
 が、二度は無かった。狼たちは先の一撃を学習したか、無月のアクションを見てすぐさま散開。
 衝撃波が止むと同時に無月の死角から飛びかかる。
 無月はそれを感知、剣で受け止める。が、逆方向からさらに突っ込んできたキメラの爪により多少の手傷を負う。
 3対1の状況は極めて厄介だ。特に無月は遠距離に攻撃する手段を持たない。必中を狙うにしても、近づかねばならず、敵に間合いを取られ、剣を振った隙を狙われる。
「一筋縄ではいかない、か‥‥」
 無月は聖剣をしっかりと握りなおすとともに、気を引き締める。
 苦戦を強いられてはいるが、このように遊撃として突出した無月が1組を押さえている為、トラック周辺は若干守りやすくなっていた。


 一方こちらは車列前方。
 こちらに来たキメラ、そのうち一匹はすでにロケット弾を持っていない。最初の攻撃の際使用したのだろうか。
「二時の方向、お願い!」
「おう、了解した」
 ロケット弾を発射しようとしていた狼キメラを捕捉したクレミアはすぐさまジャックに狙撃を指示。
 車上に伏せたジャックはスナイパーライフルでロケット弾の弾頭を狙って‥‥撃つ!
 狙い撃った弾丸は過たずロケット弾を貫く。同時に起こる爆発で怯んだキメラ。
「畜生どもが、やらせんせんぞ!」
 その隙を狙い、タイサは迅雷を使用して駆ける。間合いまで踏み込んだタイサはそのまま体をひねるように回転。遠心力を活かした一撃をキメラの脇腹に向かって叩き込む。
 だが、この攻撃は浅い。食い込んだ爪を素早く引き抜くことを念頭に置いていたためだが、それ故に次の行動も早い。
「そんな攻撃‥‥当たらなければどうということはない」
 連携行動を取る狼たち、その一匹がタイサの攻撃後の隙を狙いその爪を振り下ろすが、回避。
 タイサは刹那を利用し防御不可能の蹴りをキメラの顔面へ繰り出す。
 しかし、これは失敗か。SESを介さない蹴りはFFによって容易に弾かれてしまう。
「っと‥‥なるほど、しっかり躾けられてるみたいだな」
 カウンターの体当たりを受けて吹き飛ばされるタイサを受け止める凛。
『左の狼よ!』
 同時に飛ぶクレミアの指示。狼がまさにロケット弾を撃とうとしていた。
 凛はすぐさま瞬天速を使用。北海道育ちの凛はこの程度の雪には慣れっこだ。動きが軽い。
「撃たれる前に‥‥潰す!」
 瞬時に狼に肉薄した凛は、足元の雪を巻き上げるように蹴り上げる。ダメージを目的としたものではない。狼の視界を奪うのが目的だ。
 目標を見失った狼は、一瞬撃つのを躊躇する。その隙を逃さず、打ち下ろし気味に右ストレート。
 顔面にめり込んだ拳は、そのまま狼を地面にたたきつける。
「‥‥やば!」
 その衝撃は、ロケット弾にも伝わり、誤爆。
 察知した凛はすぐさま飛び退くが、爆風で多少の傷を負う。ロケット弾持ちへの格闘攻撃はやはりこの辺りが怖い。
 その隙をついて別のキメラが飛びかかってくるが、今度はタイサが迅雷を使用しこの攻撃に割って入る。
 ロケット弾が無くなったからだろうか。動きが先程とは見違えるほど早い。
 爆風から這い出てきた狼も同様だろう。
「重りが無くなって、ちっとは動きが良くなったか‥‥?」
「とはいえ、ロケット弾がなければあとは接近戦のみだ。守りきるぞ」
 タイサの言葉通り、この方面から接近した狼はすでにロケット弾を持っていなかった。


「こいつが吹き飛ぶと全体にも影響が出そうですね」
「ええ。前方が少し心配ですが‥‥ここをまずは死守しましょう」
 最後列、弾薬の満載したトラック。その方面に接近する敵に対して守りを固めるのはの剣清とドゥの2人だ。
「僕が前に出て押さえます!」
「了解。それじゃこちらは援護に回ります」
 2人とも、最優先で狙うのはやはりロケットランチャー。
 クレミアに目標の指示を受け、前に出るドゥ。それに合わせ剣清は銃を構え前に出るドゥを援護。刀ではまだ間合いが遠い。
 剣清の銃撃をキメラは容易くかわすが、そこに走りこんできたドゥ。
「火遊びは危険だって、分かってるのか?」
 そのまま機械剣での刺突。しゃがみ込むようにかわすキメラだが、狙いはロケット弾。機械剣が弾頭を貫く。
「うわっっ!」
 当然爆発。爆風で後方に吹き飛ばされるドゥ。何度も言うが爆発物持ちに近接攻撃は自身も非常に危険だ。
 吹き飛び立ち上がるドゥ。その隙を狙い、歯をむき出しに飛び込むキメラ。
「‥‥ちょいと行ってきますかね」
 その様子を見た剣清が迅雷を使用して飛び込む。
 ドゥの首に向かって食いついた牙は、飛び込んできた剣清の腕に止められる。
「やっぱ痛ぇな、コンチクショウ!」
 その痛みは想定内。そのまま抑え込むと、剣清は装着していた超機械を0距離で使用。エネルギー弾が連続してキメラに撃ち込まれる。
 このままじゃまずいと慌てて飛び退くキメラ。
「逃がしはしない!」
 その前に立ちふさがったのは態勢を立て直したドゥ。キメラ側面を流れるように機械剣で斬撃。
 同時に後方から剣清はエアスマッシュを使用。衝撃波がキメラに撃ち放たれ、それを受けたキメラは動かなくなった。
「よし‥‥っと、まだいるか」
 ようやく1匹を撃破した。が、まだ2匹残っている。うち一匹がトラック方面に走り出している。
 剣清はすぐさま迅雷を使用しトラック方面に。守りを固めるつもりだ。
 その間ドゥはもう一匹のキメラの動きを観察。突撃してくるならすぐに対応できるような態勢を整えた。


 車列中央。
「撃たせるわけにはいかんな」
 ハンフリーはそう言って扇形の超機械を振る。巻き起こる竜巻が狼の眼をくらまし、ロケット弾をあさっての方向に飛ばさせる。
 逆側からもキメラが迫っていたが、それは突出した無月がキッチリ押さえていた。
 とはいえ、逆側の守りもハンフリーだけ。車上からの援護はあるものの、なかなか気を抜けない状況だ。
「とはいえ、ここは守り切ってみせるさ‥‥」
 扇を振り竜巻を巻き起こして敵の動きを制限するとともに近寄らせない。このパターンを狼が見切ってきたら、その振る動作を囮にして敵の思考を攪乱すると。
 だが、それにも限界がある。一体に向かって起こした竜巻。その横合いから飛び出た狼。発生の直後を狙って放たれたロケット弾が、トラックに向かって飛び‥‥爆発。
「‥‥ギリギリだったか」
 だが、その攻撃はトラックには直撃していなかった。ハンフリーが身代わりとなって攻撃を受けていたのだ。
 無論かなりのダメージを受けているが、ハンフリーは直撃と同時に練成治療を自身に施し、なんとか事なきを得ていた。
 しかしその隙を見逃すキメラではない。動きの鈍ったハンフリーに向かって突撃する。
 そうはさせじと車上からクレミアが牽制攻撃。同時にジャックも狙撃。キメラの足を止める。
 この時までに、残されたロケット弾持ちのキメラはジャックの行動を観察。その武器が1射毎にリロードが必要なのを把握していた。
 つまり、キメラの足止めのために撃った一射。この直後は隙になる。放たれるロケット弾。
「おっと、そいつは甘いんじゃないか?」
 が、キメラの予測は外れた。ジャックは尋常ならざる速度でリロードを行うと、即射撃。
 ロケット弾の出鼻を撃ちぬく。同時に発生する爆発。
 これで、敵の持つロケット弾はすべて失われた。


 クレミアは、状況を見て考える。
 車列前方、後方は多少の余裕があるが‥‥中央、ハンフリーは少し苦戦しているか。
 双眼鏡で無月の方を確認。3匹を相手にして上手く引き付けてはいるが、多少怪我が嵩んでいるか。
 このまま戦闘が長引けば練力も怪しくなり、トラックにも思わぬ被害が出る可能性がある。
「退くかい?」
 引き金を引きながら声をかけるジャック。
 言う通りだ。目的はトラックの防衛であり敵の殲滅ではない。
 圧倒的に優勢でも、最後尾のトラック。その中身である弾薬に不要な衝撃が加えられて爆発するようなことがあったら台無しだ。
『みんな、トラックに戻って! 撤退するわよ!』
 無線でクレミアから連絡。同時にトラックが急発進する。
「撤退か。ここまでだな」
「じゃあな犬公!」
 前方のタイサ、凛は相手にしていた狼を殴り飛ばした後、移動スキルですぐさま車に。
 ハンフリーも同様、一際大きな竜巻を起こして雪を巻き上げ、目をくらませている間に車に飛び乗る。
「ここは引き付けます。そっちは先に車に」
「了解です!」
 後方の剣清はドゥを先に車に戻らせ、自身もそれを追いかけつつ銃と超機械で牽制。
 ある程度距離を取ったところで迅雷を使用し、車に飛び乗る。
 無月も同様瞬天速を利用して車に戻ってくる。
 この間無月は追って迫る狼を、間合いが詰まる好機とばかりに一匹斬り捨てているあたり、さすがに歴戦の能力者といったところか。
 全員が乗り込んだところでトラックは最大加速。
 狼たちは遠距離に対する攻撃手段をすでに持っておらず、また車上からジャック、クレミアの射撃を受けて追いかける足も鈍り、その姿はすぐに見えなくなった。

 こうして、能力者たちの活躍により、物資はすべて無事に前線へと届けられた。
 多少怪我を負ったものもいたが、到着後の治療で事足りるレベルである。
 作戦は、文句なしの大成功に終わった。