タイトル:【AC】過去からの襲撃マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/12 20:27

●オープニング本文



 ―――チャリオット
 古代エジプトの戦争において使用された戦車のことだ。無論それは、現代の様な大砲とキャタピラのついた鉄の塊ではない。2輪の台車を馬に引かせる、どちらかといえば戦闘用の馬車といったところだろう。
 これに御者を一名乗せ、もう一人が弓、あるいは槍などの長物で敵を攻撃する、というのが当時は一般的であったようだ。
 だが、この戦車は構造が非常に脆いものであり、やがて時代が進むにつれて戦場から消えていった。

 ‥‥はずだった。


 アフリカ大陸北部。
 広大な砂漠が広がる大陸には、いくつかのオアシスが点在している。この中継拠点も、そんなオアシスの一つに設置されたものだ。
 前線と後方を繋ぐこの場所は、戦略的に重要な場所である。だが、前線から相応の距離があるからか、敵襲もこれといって無い。全体の状況と位置から考えると、少なくとも現段階ではあまり危険はなく、まさに平和そのものであった。

「‥‥ん?」
 炎天下、周辺の見回りを行っていた兵士は妙な事に気付いた。風が無いにもかかわらず、砂煙が舞っているのだ。距離的にそう遠くはなさそうだが、肉眼では原因がよくわからない。手で汗をぬぐいつつ双眼鏡を取り出し、その方向を確認した。

「なんだ、あれは?」

 砂煙で未だはっきりとは見えないが、それはどうも馬のようだ。しかもその馬、甲冑を着込んでいるようである。馬がいるという時点で状況は不可思議極まりない。その上、恰好もおかしいときた。
 さらに馬は近づいてくる。すると、砂煙に隠れていた部分が双眼鏡越しに視認できるようになってきた。数は計4頭。2頭ずつで、何かを引いている。
 ‥‥馬車だろうか。2頭立ての馬車。そしてその上には御者の役割を果たす人間(?)が乗っている。その人間も、全身を甲冑で包んでいた。

 この時点で、兵士は判断を誤っていると言わざるを得ない。
本来「なんだ」と思った時には報告を入れておくべきである。それが出来なかったのは、暑さで頭がやられていた為か、ある程度確保されていた安全故に気を緩ませていた為か‥‥


『て、敵襲! 敵襲でs――』
 無線から敵襲報告が入るが、それは途中で途切れた。同時に起こる悲鳴。2台の馬車が、まさしく疾風怒濤の速度で拠点に乗りこんできたのだ。
 迎撃態勢を整える間もない。あるものは馬型キメラに踏みつぶされ、あるものは人型キメラに首を刎ねられ、あるものは高速回転する馬車の車輪に引き込まれ、引き裂かれた。

 このままでは、拠点は壊滅的な打撃を被り、前線への物資供給が十全に行えなくなる可能性がある。
だが、不幸中の幸いというべきだろうか。この拠点には補給隊の護衛と物資搬入を行う為に、LHの能力者たちが滞在していた。
 彼らは拠点指揮官から言われるまでも無く、キメラを食い止める為武器を取っていた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN

●リプレイ本文


「随分と古典的なものを使ってくるものだな」
「ですね。古代史まで研究しているとは‥‥バグアの研究者恐るべし‥‥」
 榊 兵衛(ga0388)と住吉(gc6879)はそれぞれの感想を述べた。
 彼らはA班。突っ込んできた敵が2セットだったので、こちらも2手に分かれようと言う腹だ。これが吉と出るか凶と出るか。すでに敵は拠点内に入り込んでいる。
「‥‥チャリオットは‥‥確かに優れた兵法ではあります‥‥ですが‥‥」
 それは兵種を揃えてこそ。そう言外に含みつつ呟いたリズレット・ベイヤール(gc4816)は、隠密潜行を使用。そのままその場を離れた。自身の得物を生かす事の出来るポイントに移動したのだ。
「‥‥コレ、ハ、狩リ、デス‥‥」
 ムーグ・リード(gc0402)はそう言って銃を構える。彼が胸に抱くのは後悔の念。初動の遅さが致命的となった。失われたものに挽回は効かない。だからせめて、この狼藉者たちに罰を。ムーグの持つ小銃ケルベロスから放たれた銃声。自身の思いを、そして意思をキメラたちに伝えるかのように、周囲に鳴り響いた。

「このままだと、人も物資もひとたまりもない。迅速に対処しないと‥‥」
 こちらはB班。まず幡多野 克(ga0444)が敵を引きつけようとキメラに対し銃で攻撃を仕掛ける。しかし、敵の動きは速い。すぐに射程外に逃れてしまう。
「敵が向かってきてる、すぐにそこから離れなさい!」
「そっちいったらキメラが突っ込んでくるって! もっと広い方に!」
 だが、この間篠崎 公司(ga2413)とクラフト・J・アルビス(gc7360)が一般兵に支持を出す。
 いくら速いと言っても、キメラの速度は音よりは遅い。そして、兵士は普段命令を聞き慣れている。キメラを目の当たりにして脚を竦ませていた兵士たちも、その言葉にすぐに反応し行動を起こす。
 が、反応出来ても動きが付いていかない場合も。この辺りは能力者と一般兵の差であると言える。逃げ遅れた兵士が今まさに、馬型キメラの蹄に踏み砕かれようとしていた。
「危ない!」
 しかし、間一髪。淡い光を纏った巫女服の少女、猫屋敷 猫(gb4526)が飛び込み、兵士を救った。
(これ以上、犠牲者は出さない!)
 もちろん、その決意だけで人は救えない。的確な敵進路予測、そしてスキルも組み合わせた全速力。ここまでやって初めて成しえた芸当だ。
 この間にキメラは旋回。克の射撃による牽制が功を奏したのか、こちらに進路を変え向かってこようとしていた。


 A班。こちらもムーグの銃撃や、住吉の放った制圧射撃によって、キメラの注意を引くことに成功していた。しかし、この際キメラの移動ルート付近にいた、兵士たちが多少被害を受けてしまった。
 本来であれば各自の判断で動きようもあったはずだが、これも混乱の最中故の仕方ないことだったと言える。あるいはB班同様少しでも声をかけてやれば多少はましだっただろうか‥‥
 しかし、今それを考えている余裕はない。
「こんどは逃がしません、スピード違反は取り締まりますよ!」
 強烈なドリフトを行いながら戻ってくるキメラ。それをSMGの射程内に納めた住吉は再度弾幕を張る。
 サイエンティスト故の攻撃力の低さも相まって、キメラにはダメージを与えている様子はない。しかし、そのぶ厚い弾幕は、確かにキメラの動きを抑制することに成功したように見える。
 鈍ったキメラの前に躍り出たのは兵衛。その姿は見る者を畏怖させるに十分ではあったが、キメラはお構いなしに突っ込んでくる。
「まずはその機動力、削がせてもらおう!」
 動きは鈍ったとはいえ、その速度はすさまじい。タイミングを計る。
――今だ!
 瞬間、キメラの前から兵衛の姿が消えた。
少なくともキメラにはそう見えた。兵衛はこの時、迅雷、疾風、2つのスキルを使いこなして、異常な速度でキメラの側面に回り込んでいたのだ。この時、人型キメラの手綱を持っている手の方へ回り込むあたり抜け目が無い。さすがは歴戦の兵である。
 そのまま、キメラの乗る馬車、その車輪に槍での一撃。キメラの突撃を回避する際の動きをそのまま利用した、華麗な流し切りだ。鋭い刃で斬りつけられた車輪は全壊とはいかないまでも、かなりの損傷を追う。
 時を同じくして、反対側では破裂音が鳴る。兵衛の回り込んだ方とは逆側のキメラ。そのキメラの脚が打ち抜かれ、肉が爆ぜた音。
「速い‥‥でも無駄ですね‥‥」
 攻撃は遠方から。リズレットによる狙撃だ。そのままたて続けに二射、三射。リズレットの背丈に比して長大なライフルから放たれた銃弾が、狙いをたがわず命中していく。
「あははっ!次はどこを撃ちましょうか‥‥?」
 覚醒による影響だろうか。普段の印象とはだいぶ違う。まるで破壊を楽しんでいるかのように放たれた銃弾は、キメラの肉を削ぎ取る。
 2人の攻撃により、キメラはもはや正常に走ることが出来なくなった。それまで走ってきた勢いに引きずられるかのように前進していく。
そしてその先には、行く手を阻むかのように立つムーグの姿が。
「‥‥Beat、me‥‥!」
 キメラと接触しようかという刹那、轟音が響く。ムーグが脚爪を地面に叩きつけたのだ。
 同時に、足元から十字の衝撃波が走る。キメラたちはムーグを中心に噴出した衝撃によって大きく上空に吹き飛んだ。
「成功、シマシタ、カ‥‥」
 十字撃と天地撃の同時使用による攻撃。突撃してくるキメラにその攻撃を合わせるのは至難の技だった。だが、仲間の攻撃で動きが鈍っていた事に加え、自身の技量がこの攻撃を成功させた。
 吹き飛んだキメラは、長身であるムーグを飛び越えその後方に無様に叩きつけられた。この時点で馬型キメラの片割れは絶命している。
「暇は与えん、一気に叩く!」
 落着点には、すでに兵衛が走り込んでいる。赤銀の穂先が、まだかろうじて息のあった馬型キメラに止めをさした。これで残ったのは、馬車から落ち今やっと動き出そうとしている人型キメラだけとなった。

 変わってB班。突撃してくるキメラに対し、克、公司が迎撃を行う。
「まずはその機動力から削ぎましょう。自分は左の馬を狙います」
「了解、では俺は右の馬を‥‥」
 2人はそれぞれ別々に馬型キメラを狙って攻撃。どちらの攻撃も正確だ。馬型キメラも甲冑によって防御力を高めているとはいえ無傷では済まない。しかし、それでキメラも止まるわけにはいかない。元より戦車とは突撃するのが仕事だ。そのまま突っ込んでくる。
 キメラと2人がすれ違う。
 まず公司は回避しながら弓を引き絞り馬の後ろ脚を狙う。
「蹴り足を殺されれば、それだけダッシュ力が低下しますからね」
 すれ違いざまの隙を付いた一射。しかも狙いは急所。それが過たず命中する。
 逆側、克も横飛びで回避。同様に馬型キメラの隙を付いた射撃が馬を貫く。しかし、この時克は位置が悪かった。車上の人型キメラの剣を持つ手側にその身はあったのだ。
 薙ぐように振られる大剣が眼前に迫る。そして‥‥
「っ‥‥危なかった‥‥」
 目の前すれすれを大剣は通過した。敵の攻撃は基本的に回避する、と念頭に置いていた事も幸いし、間一髪回避成功。
 そのままキメラは突進を続ける。が、ある程度距離を取ったところでドリフトするように旋回。まだまだ戦う気は満々のようだ。
 しかし、その動きは命取り。
「これは、チャンスかな?」
 瞬天速を使ったクラフトがこの機をついて一気に接近していた。彼の目的は人型を引きずり降ろすこと。突進状態では例え瞬天速を使ったとしても追い切れないだろうが、この速度が一気に落ちている時なら別だ。もちろん、敵。特に人型キメラはクラフトの動きを追っていた。大剣を振りかざし迎撃の構えを取る。
「爆発します、みなさん注意してです!」
 しかし、そうそう反撃なんてさせる能力者たちではない。
猫がタイミングを測って投げた閃光手榴弾がキメラたちの旋回タイミングに合わせて爆発。強烈な光が発生する。馬型キメラは当然目を覆う手をもってはおらず、その目をくらませる。人型キメラは思わず目を庇う。
 手綱を持っていた方の手で。
「猫屋敷さん、ナイス!」
 この時武器を手放さなかったのは戦闘キメラとしての本能からかもしれない。しかし、それはクラフトにとっての好機となる。
 クラフトはそのまま馬車に飛び乗る。無論その行動を妨害しようと大剣を振るうキメラ。しかし、クラフトはそれをかわしキメラの懐に。そのまま瞬即撃を使い、妨害する手をすりぬけ人型キメラの首根っこを掴み‥‥
「さぁ、いつまでもそんなのに乗ってないで、降りてこいよ!」
 ズンッ、という地響きが甲冑の重さを物語っている。人型キメラは地面に降ろされた。手綱を操るものがいれば、光に目がくらんだ馬型キメラも秩序を取り戻せたかもしれないが、それも叶わぬ望みとなった。


 A班。残ったのは人型キメラだけとなった。
「今度は強風警報発令ですね。横風に十分注意しょうましょうね〜」
 キメラの残りは1匹。しかも、動きは速くない。もはや制圧射撃を使う必要もないだろう。
 住吉は武器を扇型超機械に持ち替え、それを振るった。人型キメラの周りに強烈な風が巻き起こる。先の制圧射撃とは訳が違う。その威力は電波増幅によって強化され、確実にキメラの生命力を削ぎ取る。
「モウ、逃ゲラレ、マセン、ヨ‥‥」
 ムーグも人型キメラを狙う。馬型キメラ以上に固いはずの装甲が、ケルベロスの一発一発で砕け飛ぶ。その攻撃力はキメラどころか味方の火力をも圧倒してるように見える。
 だが、それにもまして容赦の無かったのはリズレットだ。
 彼女は冷たい笑みを浮かべながら、キメラを狙撃する。その狙いはある意味で正確。急所となる場所は全て避けているのだ。まるでキメラの命を弄ぶかのように。
 もはや、四肢を撃ち抜かれ満身創痍のキメラ。
「‥‥鬼ごっこはおしまい‥‥もっと楽しませて欲しかったんですけどね‥‥ふふ‥‥」
 リズレットが蔑むような笑いとともに撃った最期の銃弾は、人型キメラの眉間を撃ちぬいた。

 B班。
 こちらはまだ全てのキメラが健在だ。しかし、馬型キメラは未だ前後不覚な状態。
「よ〜し、一気に決めるのです!」
 猫は、公司の援護を受けながら迅雷を使い馬型に接近。
「この攻撃が見えますか!」
 懐に飛び込んだ、と思った瞬間馬型の断末魔の叫び声が聞こえる。刹那による一瞬の攻撃が、馬型キメラの生命を断ったのだ。もう一匹の馬型キメラは公司が正確に急所を撃ちぬき仕留めた。
 対し、人型キメラ。あまりの堅さにクラフトは手を焼いている。
「くっ、こいつは結構やばいかもなぁ」
 攻撃は持ち前の素早さで避けられるものの、こちらも致命傷を与えることは出来ていない。このままではじり貧だ‥‥
「これ以上は、やらせない‥‥!」
 しかし、ここで天の助け。克が月詠を抜いて応援に駆け付ける。腕の周囲には、すでにエースアサルトの特徴とも言うべき覚醒紋章が浮かび上がっている。
この一撃は受けたらまずい、そう感じたのだろう。人型キメラは盾を構えようとする。しかし‥‥
「おっと、そいつは使わせないよ」
「ここまで来たら全力で仕留めるだけです。やってしまって下さい」
 克に気を取られた隙に、人型キメラの後ろをとったクラフトが瞬即撃、態勢を崩す。そこに公司の矢がキメラの手を射抜き、盾を落とさせる。即席とはいえ綺麗な連携が決まる。
 盾を落としたキメラの目の前には、銀髪金眼の剣士。
「この攻撃‥‥かわさせはしないっ!!」
 克の覚醒紋章が一際輝き、圧倒的速度の連続攻撃を繰り出す。
 無数の残像が表れ、キメラを襲う。そして数瞬の後、残像とともに克の覚醒紋章も掻き消えた。
「‥‥蹂躙の代償は‥‥払ってもらったよ‥‥」
 納刀。
 同時に人型キメラが数切れの肉片となってその場に崩れ落ちる。
 こうして、拠点内に侵入したキメラは一匹残らず討伐されたのだった。


「ん〜‥‥これで限界ですね‥‥」
「お疲れ様です。もう治療を受けてない方はいないみたいです」
 練力をギリギリまで使って疲れた様子の住吉を猫がねぎらった。彼女は、練成治療で重傷の兵士たちの治療を行っていたのだ。
 戦闘終了後間もなく拠点内は秩序を取り戻し、被害状況の確認が行われた。
 それによると、最初の突撃による被害こそ、死者を数人出していた。しかし、能力者たちが投入された後に関しては、死亡者なし。多少重い怪我の人間も、こうして住吉らが練成治療を行うことで事なきをえた。
 物的被害も想定していたものよりずっと少ない。早い段階でキメラの注意を引き付けることができたからであろう。依頼は成功裏に終わったと言っていいだろう。

「乗りたかったなぁ‥‥」」
 クラフトは拠点を立て直す手伝いをしていた。その中にはキメラが乗っていた馬車‥‥の成れの果てを片づける作業も。こうまでぼろぼろになっていては乗ってる気分を味わうことも出来ないだろう。
「まぁ、またの機会を待つことですね」
「さ、早く立て直さないと‥‥」
 同じく片づけを手伝う公司と克。拠点機能自体は、ほぼ取り戻されてきていた。

「‥‥スイマセン、デシタ‥‥。安ラカ、ニ、眠ッテ、クダサイ‥‥」
 ムーグは一人静かに、散って行った英霊達に、祈りを捧げていた。
 そんなムーグの様子を、兵衛とリズレットの2人が、邪魔をしないよう遠くから眺めている。死んだ人間の命は戻らない。しかし、戦争が続く限り、こういった人の死は付いて回る。だからこそ‥‥
「だからこそ‥‥早く戦争を終わらせないとな‥‥」
 兵衛の呟きにリズレットは小さく頷いた。

 アフリカ奪還作戦は、まだ始まったばかりだ。