●リプレイ本文
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試験開始、と同時にそれぞれの目標に向かって散っていく試験生たち。
「レーダー反応‥‥ありませんね」
比良坂 和泉(
ga6549)は周囲の索敵とともに計器の反応に注意。幻龍の逆探知能力はアクティブセンサー方式だ。使えばこちらにもなんらかの兆候があるはずなのだが‥‥
『埒が明かない‥‥空中から索敵を行う』
そう言って仮染 勇輝(
gb1239)はブーストを起動してジャンプ。そのまま低空を飛行しながら周囲を確認していく。
『‥‥ここから南に200。1番機を発見。2番機はみつからない』
10秒も経たず、勇輝からそう報告が入る。
『えと、1番機はこちらでも補足できています。このまま追跡にはいりますっ!』
巨大なスナイパーライフルを抱えたヨグ=ニグラス(
gb1949)は別行動を取る。ブーストを起動させて瓦礫の山を登り、周囲が見渡せる位置について狙撃するつもりだ。とりあえず1番機はヨグに任せることにした。
『上空から見つからないということは、おそらく屋内に潜んでいるんでしょう』
日野 竜彦(
gb6596)はそう言いつつ、事前にマップ確認を行ったうえでKVが隠れられそうな建物をピックアップ。
練力がぎりぎりになって地上に戻ってきた勇輝と和泉。それにリック・オルコット(
gc4548)を合わせて、4人でそれらをしらみつぶしに探すことになった。
一方フィールド中央。大きな交差点のど真ん中には一機のスフィーダ。
剣を地面に突き立てその上に手を重ね置き仁王立ち。背中では赤いマントがたなびく。
それに対峙するのはメアリー・エッセンバル(
ga0194)、夏目 リョウ(
gb2267)ルリム・シャイコース(
gc4543)の3人。彼らの目的は3番機との一騎打ちであった。
『来たね。試験生諸君』
3番機からの通信。その声からは自分の予測通りそのパイロットがナイト・ゴールドだったことを確認。
即座にメアリーは交渉を開始しようとする。
「騎士、ゴールドナイトっ!陸戦部隊【ガーデン】総隊長のメアリー・エッセンバルと申します。あなたの1対1勝負を‥‥」
『皆まで言わなくていい。全て承知している』
だが、その言葉を遮るように言い放つナイト・ゴールド。その次の言葉に、メアリーは驚愕させられることになる。
『つまり、メアリー君が最初の挑戦者。そういうことだね‥‥』
「え、いや違‥‥」
完全に認識がずれている。そのずれを正そうとするメアリーだが伯‥‥ナイト・ゴールドはお構いなしに喋り続ける。
『最初の相手が名だたるガーデンの総隊長とは‥‥相手にとって不足無し!』
「ちょっ! ちょっと待‥‥」
『最早語ることは無い! 後は武で語るとしよう!』
地面に刺さった機剣を引き抜くと同時にスフィーダは加速。メテオブーストだ。
直接の戦闘に関してはほとんど想定を行っていなかったメアリー。突進するスフィーダの斬撃に対応することが出来ず連撃を受け、機体の生命力を一気に9割以上持って行かれる。
『そんなものかい? これで終わり‥‥むっ!?』
止めを刺そうとした3番機を遮ったのは横から撃ち込まれたルリムのガトリング砲。
交渉決裂後即座に戦闘に入れるよう準備をしていたルリムは突撃した3番機に即座に反応できた。
数発を受けた3番機だが、簡易ブーストの力を借りてすぐさま態勢を立て直すとともにルリムの方に向き直る。
『なるほど。次の相手は君というわけだね‥‥いざ!』
再度メテオブーストを使用する3番機は盾を構え、ルリムに向かって吶喊。
(中々ないからな‥‥このような機会は)
そう心中で呟きつつルリムはガトリング砲を掃射。
3番機はガトリング砲の弾雨にも構わず突っ込んでくる。そこでルリムは、なんとガトリング砲そのものを投げつける。
実際のダメージで言うとガトリング砲を撃っていた方がまし。
だが、この行動は3番機の意表を突き、投げつけられたガトリング砲を不覚にも頭部で受ける。
態勢を立て直そうとしたところに、ルリムが両手をドリルと化し逆に突撃。左肩部に一撃をもらった3番機だが、機剣を切り上げるようにしてもう片方のドリルを弾き飛ばす。
(いい勝負だな‥‥)
その様子を見ているのはリョウ。
ルリムが一騎打ちを望んでいることを知っている彼は、とりあえずは順番待ちといったところだ。
一方メアリー。かなりのダメージを計上しているが、システム自体はまだ動かせる。
なので、タクティカルプレディレクションを起動。
「ん〜、なんか予定とはずいぶん違くなっちゃったけど‥‥とにかく頑張れ!」
ルリムをその能力で補助しつつ、コクピットから応援することにした。
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捜索開始から早くも1分が経過。ここで動きが出た。
『センサーに反応‥‥こっちだ!』
リックが通信でそう告げる。
やや大きめのビル、その内部から反応。KVを隠すには十分だろう。
だが、この声は相手にも伝わったらしい。
「レーダーが‥‥ジャミングを始めたみたいですね」
和泉がそう告げたように、各自のレーダー機器が若干狂っているようだ。
勿論、本来の幻龍の能力としてそういったジャミング能力は存在しない。模擬戦ゆえの設定だ。
それと同時に、ビルから飛び出してきた2番機幻龍。
リックはすぐさま防御態勢を取る。だが、幻龍は攻撃を仕掛けず、代わりに煙幕を周囲に放出。
視界を奪われたリックだが、すでに近くまで他の味方も来ている。
「逃がしません。最初から全開で行きますよ!」
ブーストで一気に接近してきていた和泉はシステム・テンペスタを使用。
煙幕で姿が見えないとはいえそこからいなくなるわけではない。ぶ厚い弾幕を張ることは効果的に作用する。
瞬時に発射されるM−MG60の弾雨は煙幕なんて無意味と言わんばかりに2番機に降り注いだ。
2番機は煙幕を張りつつその場から離脱。逆探知でこちらの位置を掴んで行動しているのだろう。ブーストを使いつつ、遮る者がいないほうへと逃げていく。
『こちらは通行止めですよ!』
だが、その先には竜彦が先回りしていた。スラスターライフルを連射し、動きを制する。
『敵機発見‥‥吶喊!』
さらに横合いから建物をぶち抜いて突っ込んできた勇輝。手に持つ日本刀で斬りかかる。
2番機は籠手で受け止めると性懲りもなく煙幕を展開する。実は2番機、最初から戦う気はない。見つかった場合は大量に搭載した煙幕により視界を奪いながら徹底的に逃げる姿勢だった。
「同じ手を何度やったところで‥‥」
追いついてきた和泉が再びシステム・テンペスタを使用。さらに竜彦もスラスターライフルで弾幕を張る。接近戦をしかけていた勇輝は味方に撃たれないようすぐさま飛び退くと、自身もレーザー砲で射撃攻撃。
さすがにこれほどの攻撃はかわし切れない。再びブーストを使って距離を取る2番機。
『逃がしはしないぜ‥‥このまま落とされてくれ』
だが、煙幕を抜けたところで攻撃を受ける。その方向は‥‥上空。
ブーストを使用してジャンプしたリックのグローム。空対地目標追尾システムを起動したスラスターライフルによる射撃は常より高い集弾性を持って2番機を撃ちぬく。
この攻撃で、2番機は撃墜判定。その動きを停止した。
『‥‥参った。さすがだね』
2番機から通信が入る。撃墜者であるリックはその声に聞き覚えがある。
「ウラノフ大尉かい? まさかこんなとこで会うことになるとはな」
『話は後の方がいいよ? まだ試験は終わっていないんだから』
2番機パイロット、ウラノフ大尉の言う通り。まだ1機撃墜したに過ぎない。
試験生たちは次の目標、1番機追跡の為に動き出した。
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その頃、1番機を優先目標としていたヨグは、廃ビルの上からワイバーンの姿を捉えていた。
1番機は周囲を気にしながら移動しているようだ。パイロットがあまりKVにはなれていないのかややたどたどしい動きに見える。
とはいえ障害物も多い。ヨグは冷静にタイミングを見計らい‥‥
「良し、おいしい学食‥‥頂きますっ!」
トリガーを引くと同時に発射される弾丸。複数の障害物を掠めながらも、無警戒だった1番機に直撃。機体がフラリとぐらついた。
もう一射を狙うが、1番機は態勢を立て直し高速移動を開始していた。狙撃された以上、留まるのは危険と判断したのだろう。
『こちらオルコット。2番機は撃破した、そっちはどうだ?』
ここで通信が入る。それを聞いたヨグはすぐさまレーダーで各自の位置を確認。
「えと、1番機は移動中。そちらになんとか誘導してみますっ!」
ヨグは1番機手前に着弾するように2発目のライフルを撃つ。やはり警戒されているからか、回避されるものの、1番機は逃走方向を変えた。
「成功です、僕もそちらに向かいますっ!」
そう言うとヨグはブーストを使用しながら移動を開始。とはいえ抱えたライフルがその動きを阻害する。到着まで少し時間がかかるだろう。
「こっちに向かってるみたいだぜ」
『了解。恐らくこの辺りを通ると思いますので、ここで囲いましょう』
竜彦は事前に確認していた周辺情報を基にポイントを設定する。
『了解。こちらは逆方向から回り込む』
勇輝はその指示に従い別行動。やり方は2番機を撃破したときとそう大差ない。囲んで十字砲火で撃破する。
逆探知能力を持つ幻龍よりも、ワイバーンの方がその状況に誘い込むのは簡単だろう。
予想通り、走りこんできた1番機。視認したその装備はかなり軽量。恐らく装備を可能な限り軽くすることで機動性を高め、逃げ足を早くしようという算段だったのだろう。
「だけど、囲まれたらそれも活かせませんね」
和泉の言葉通り、2番機同様に牽制射撃などで十字砲火地点まで誘導された1番機は、なすすべなく撃破された。
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地面に崩れ落ちるルリム機、グローム。
ドリルで剣劇を受け流しながらの戦闘は見事であった。その操縦技術はナイト・ゴールドに劣ることは無かったと言える。が、やはり一騎討ちとなると機体性能の差が激しかった。
頼みの綱であった斜め45度も作動せず、ルリムはここでリタイアとなる。だが、役目は十分に果たした。3番機は度重なるメテオブースト、ブーストの使用で練力はすでに簡易ブーストすら使用できない状態であった。
「さぁ、次は俺の出番だな」
ここまで戦況の推移を静観していたリョウはそう言うとナイトハルバードを3番機に向かって突き出す。
「特殊風紀委員の夏目リョウ。またの名を、学園突風スーパーカンパリオン! 理事長にもらったこのナイトの証に賭けて‥‥ナイトゴールド、お前を倒す!」
『よろしい。かかってきたまえ!』
機剣を構える3番機に突っ込んでいくリョウ。
振り下ろされた剣をアクティブアーマーで受け流しつつ、ホバー特有の滑るような動きで3番機の側面へ。
そして、システム・インヴィディア起動。ハルバードの刀身が輝く。
「くらえっ、スーパーカンパリオンファイナルクラッシュ!」
必殺の一撃が3番機の側面から遅い、直撃。そして‥‥
「‥‥あれ?」
無傷である。
同時に反撃の一刀がリヴァイアサンの脇腹に食い込むように打ち込まれる。
リョウが用いた武器、ナイトハルバードは宇宙用武器である。その為、宇宙キットを装備していない状態のリヴァイアサンでは使用することが出来なかったのだ。
こうなるとなす術がない。もう一つの武器であるライフルで応戦するも手数が圧倒的に足らず、最終的には押し負け、撃墜判定を喰らうことになった。
この時点で、時間は残り僅かだった。
だが、すでにメアリーからフィールド中央で戦闘を行っていると連絡を受けていた各機は3番機を取り囲んでいた。
『さぁ、次の相手は誰かな?』
そう問いかけてきたナイト・ゴールドに対する返答は、包囲した各機からの砲火だ。
「決闘は戦いの誉れだが‥‥手を抜くのは戦いにおいての無礼でしょう!」
竜彦はタマモの全特殊能力を使用、味方の銃弾を掻い潜って突撃し、双機刀で十字に斬りつける。
すでにここまでの戦闘でダメージが蓄積していた3番機は、さらに弾幕で動きを制限されており、回避することも受けることも出来ない。
この一撃を以て3番機は撃墜された。
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試験はこうして終了した。
時間ギリギリではあったが、目標とされた3機の撃破には成功。とりあえず落第点にはならなくて済みそうだ。
「それでは、評価に入ります‥‥この試験は操縦技術試験という名目ですが、それ以外の複数要素も見る試験でした」
それは目的達成能力。
目標となる3機のKVは性能強化が施されていたため1対1ではまず撃破できない。そういう風に設定されていた。
にも関わらず最初に目標を撃破した生徒のみにポイントが与えられると強調したのは生徒同士の協力態勢を崩そうという意図があったためだ。
尤も、試験生たちは最初からある程度以上の協力が行えており、この目論見は外れたといっていい。
今回特に評価されたのは勇輝の低空飛行による捜索。
これにより逃げる1番機の早期捕捉。加えて2番機が空から発見できない、イコール屋内に潜んでいる可能性に気づくことが出来た。
1番機、2番機は結果的にリックが、3番機は竜彦が撃破した。だが、こういった全体あるいは個々の優れた行動に関しては、正当に評価をしていると説明された。
逆に、あまりよくないと評価されたのは3番機に対するアプローチ。
目的達成が第一という中で一騎討ちをする余裕は普通無い。むしろ最初から8機で袋叩きにしてしまうのも一つの手だった。
尤も、メアリーの取ろうとした一騎討ちの交渉自体は、評価に値するものではあった。が、戦闘開始時点で試験生側はパイロットを知らされていない。いるかもわからない相手を最初から名指しするわけにもいかず、結果的に対峙してから交渉に入らざるを得なかったのが行動失敗の要因だろう。
その後は、試験官役のパイロットたちがそれぞれの所感を述べ、評価は終了。後程今日の動きを確認しながら細かい点数付けを行い、最終評価を発表するといったところで解散、となるはずだったが‥‥
「さて、時間もまだあるようだし‥‥私と一騎打ちしたい生徒がいる、ということだったね」
なんてことを言いだしたナイト・ゴールド。その言葉に従い幾人かの試験生がKVに。
メアリーが旗を振りつつ一騎討ちする連中の応援をしている中、リックは2番機パイロット、アレクセイと話をしていた。
「そうだこれ、艦の連中にも分けてやってくれ」
そう言ってウォッカを取り出したリック。アレクセイは礼を言いつつ一本を残して受け取る。
「ま、折角ですしこの後そいつで一杯といきましょうか」
そういえば、学生だとは思わなかった、なんて話をしつつ。KV同士が剣を打ち合う音をバックに2人は歩き出した。
●操縦技術試験評価報告
目標達成時間:
2分45秒(制限時間3分)
総合評価:
C+(もう少し頑張りましょう)
成績優秀者:
日野 竜彦
リック・オルコット
仮染 勇輝