タイトル:【QA】目には目をマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/29 20:48

●オープニング本文



 擬似とはいえ重力のあるカンパネラから離れ、高軌道に移った艦内は宇宙らしい無重力空間となっていた。軍人とは不思議なものだ。宇宙酔いで死にそうな状態でも、任務に関する話題が来れば頭だけはしゃきっとする。なので、指示書を回された男も、混乱する三半規管はとりあえず忘れてそれを読むわけだが。
「宇宙に監視所がいるって? なんでさ」
 地上にいた軍人なら誰でも思うようなことを、彼も思った。なにせ、宇宙といえば見渡す限り地平線もない。どこまででもレンズを向ければ見えるんじゃないか、と口に出した疑問には、そうではないから俺たちがここにいる、と低い声で上司が答えた。
「まず第一に、連中の拠点は光学迷彩完備だ。ワームやらキメラはそうでもないが、細かい動向はここから見てるだけではつかめん」
 結局、人の目に頼らざるを得ない。バグアのアンチジャミング下では、高度な電子機器はそうながく持たないのだから仕方が無かった。それに、封鎖網のある低軌道を抜け高軌道まで上がったとしても、カンパネラ学園から見えるのは地球の半分以下だ。白羽の矢が立ったのは、高速輸送艦だ。輸送艦と行っても、リギルケンタウルス級のような大型艦ではなく、せいぜい8機程度のKVを配達する艦種。そこからKVを積むコンテナ2つのうち1つを居住ブロックに積み替え、もう1つを観測デッキに変えれば、簡易監視所のできあがり、というわけだった。
「一回の出張はだいたい1週間。その間、この小船でのんびりお外を眺めてればいい。ジャングルでうろうろするのに比べれば簡単な仕事じゃないか」
「ああ。緊急事態を知らせれば、騎兵隊が飛んできてくれるらしいしな」
 乾いた笑顔を見せてから、男たちはするべき事をする為に、動き出した。


「これは少し‥‥不味いかな」
 アヴローラ内CIC。先日大尉に昇進したアレクセイ・ウラノフ艦長は前方のモニターを見つめ、小さく呟いた
「‥‥? 何か気になることでも?」
 その声を聞き逃さなかった副長が小声で話しかける。
 アヴローラは現在バグア戦艦を追撃中だった。この宙域に宇宙ステーションを設置する。その為に邪魔となるものを排除せよとの命令を受けていたからだ。
 アヴローラは先日の戦闘での損傷が若干残っていた。そのあたりを考慮して直衛機の数も増やしているが、やはり不安はある。
 だが、実際ふたを開けてみると戦況はどちらかといえばこちらに有利に推移し、敵艦は後退を始めていた。
「いや、敵艦の撤退方向がね‥‥少し気にかかって」
 そう言ってモニターを見るように促す。そこには敵艦と、その周囲にある無数の小隕石等が映っている。
 このまま敵艦を追うと、戦闘区域は広域宙域から障害宙域に移っていくことになるだろう。尤も、多少の障害程度では航行に支障が出るということは無い。が、アレクセイが気にしているのはそこじゃない。
「大体、ここまでが上手くいきすぎていると思わないかい?」
 つまり、この後退が敵の擬態ではないか、と。アレクセイはそう言っているのだ。
 小隕石が多数ある、ということはだ。そこにキメラなりを伏せておけば、艦が入り込んできたところを十字砲火、あるいは挟撃状態に持っていき殲滅することが可能になる。
「少なくとも、僕ならそうする。アヴローラに限らずエクスカリバー級ってやつは正面火力には優れているけど‥‥」
「確かに、側面火力となるとよろしくないですね‥‥では、ここらで追撃を止めておきますか?」
 納得したような表情を浮かべた副長はそう提案したが、アレクセイは首を横に振った。
 ここで攻撃をやめれば後顧に憂いを残すことになる。どうあってもここで殲滅すべきだ。
「となれば、先に一つ手を打っておくかな‥‥上手くすれば敵がやろうとしてることをこっちがやり返すこもできるだろうし」
 そう考えたアレクセイは、直衛についてる傭兵に指示を出した。
『アヴローラに先行して障害空域を進み、アヴローラの障害となる敵を排除せよ』と。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
レティア・アレテイア(gc0284
24歳・♀・ER
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文


「宇宙、かぁ‥‥本格的な戦闘は初めてなのよね」
 ま、やることは変わらないけどさ、と。楽観的な鷹代 由稀(ga1601)。
『宇宙というのは。まあ、複雑に見えて単純。まだ人が判っていないだけで、ね』
 その言葉を、どちらかというと肯定するかのようにUNKNOWN(ga4276)が言った。
 一方、作戦に関して考える能力者たちもいた。
「追われる自分を餌にこちらを罠に嵌めるといったところか」
『こないに障害物があったら、伏兵を置くんにぴったりやしね。確かに艦長はんが言われることも尤もですわ』
 白鐘剣一郎(ga0184)の言葉に月見里 由香里(gc6651)は機内にて納得したように頷く。であれば、艦の安全の為にも潜んでいる敵を早急に発見する必要がある。
 そして、あわよくばそのまま敵艦まで迂回して奇襲することが出来ればベストだろう。
(ただ、何処まで頑張ればいいのか? 奇襲側のタイミングは?)
 レティア・アレテイア(gc0284)はそう疑問点を提示した。が、実際この辺りの細かい摺合せは行われなかったようだ。
(アヴローラを傷だらけにするなんて‥‥)
 クローカ・ルイシコフ(gc7747)は艦の損傷を見て溜息を吐く。
『まぁとにかく、今回の戦闘で評価を向上させないと、な』
 リック・オルコット(gc4548)はそんなクローカの様子を感じ取ったのか、そう声をかけた。
「‥‥そうだね。先日のような無様を曝すわけにはいかない」
 クローカはそう言って気合を入れなおす。
 そうこうしている間にも敵艦は逃亡を続けている。アヴローラは敵艦を追わなければならない。
「早く終らせてみんなでお茶にしましょう」
 レイミア(gb4209)に促される形で、能力者たちは作戦の為に散開していった。


「では、大掃除を始めようか」
 艦の左舷方向の警戒を担当するのは剣一郎と由稀。
 由稀は幻龍の特殊能力である蓮華の結界輪の逆探知機能を利用して敵を探す。しかし‥‥
「ん〜、反応は確かにあるんだけど‥‥はっきりしないわね」
 周囲にあるのは多数の隕石。反応はあれどそれらに探知が邪魔され特定するには至らない。
『こち‥‥得‥れ‥‥報を転送し‥‥』
 ここで、レイミアからロータスクイーンで得られた情報が送られてきた。ジャミングの影響で音声は途切れ途切れだが、データには特に問題はない。といってもこちらも大凡の情報しか計測されていないようだ。
 だが、これなら幻龍のデータと合わせることで正確性はかなり増す。
 それによってはじき出された敵の数は、左舷方向だけで10匹程度。
 レイミアが取得したデータは右舷方向、UNKNOWNと由香里のペアにも送られている。こちらもやはり10。総数20匹程度のキメラが存在しているようだ。バグア戦艦から放出される
『UNKNOWNさん、その隕石の裏ですわ』
 レーダーに反応。由香里は敵に感知されないようにするため、すぐさまレーダーを一時停止させてUNKNOWNに注意をする。
「‥‥ふむ、そこかな?」
 隕石の裏に回り込むUNKNOWNのK−111改。そこには確かにキメラが存在していた。だがこちらにはまだ気づいていないのか、アヴローラがいる方角を向いたまま動こうとしない。
 となれば、それを放っておく手は無い。UNKNOWNは飛行形態のままライフルを連射。
 高威力かつ高精度の弾丸がキメラを撃ちぬいた。
「よし、次はどこだろうか?」
『左40度上方の隕石付近におるようや』
 この調子で2人はサクサクとキメラを見つけ、叩いていく。
 一方、左舷方向でも戦闘が行われていた。
「カバーするわ。一気に踏み込んで!」
『了解、討って出る。ペガサス、エンゲージオフェンシブ!』
 由稀の逆探知能力で発見した敵キメラに対し剣一郎が突撃していく。
 距離に応じて適宜武装を変更しながら、キメラを攻撃する剣一郎。それを後方から、歩行形態に変形した由稀が狙撃により支援する。理想的前衛後衛と言えるだろう。
 こうして左右両翼に分かれた能力者たちは順調にキメラを発見、撃破していった。
 だが‥‥


「距離、約400。敵艦からキメラが出てきてます」
 レイミアから小型キメラの情報が伝達される。
「さて、仕事だ。報酬の為にも頑張るかね」
 リックを始めレティア、クローカは機体を歩行形態に変形させる。
 ちなみに、障害空域においては飛行形態は障害物の多さゆえその速度をいかんなく発揮することは出来ないため、移動速度は飛行形態、歩行形態とも大体同じくらいだ。であれば敵の攻撃を受けることの出来る歩行形態の方が若干有利だろうか。
「どんどん撃ち込んできな」
 レティアは照準最適化機能を起動させてから機関砲で接近するキメラを攻撃。動きの速い小型キメラではあるが、照準最適化機能によって精度を上げた攻撃を回避するには若干不足。数発の弾丸を受け撃破される。
「こいつら、大したことないね」
 クローカも同様、機関砲を斉射しつつそんな感想を持った。だが、アヴローラの損傷をこれ以上広げさせたくない。一匹たりともキメラを通さないように徹底的に撃破していく。
(待ち伏せがあるとすれば、艦が隕石帯に入り込んで容易に抜け出せないような位置か‥‥少なくとももう少し奥だろうな)
 リックは周囲の警戒を密にしつつ接近してきたキメラにライフルを撃ち込んで撃破していく。
 正面に立つ3機、そして直衛のラスヴィエート4機が余裕を持ってキメラを撃破していく中、一人機内で余裕なく働いているのはレイミアだ。
 接近してくる小型キメラの位置を特定しつつ、周辺からの奇襲の警戒。さらに左右両翼に分かれた味方の索敵の補助と‥‥仕事は尽きない。
(コーヒーでも飲みながら一度休憩したいわね‥‥)
 などと心中で呟きつつ、レイミアは黙々と作業を続けた。
 敵は延々と湧いてくるとはいえ散発的で、そこまで数が多いわけでもない。はっきり言って、苦戦などしようがない。
 アヴローラの護衛についた能力者たちはレイミアからの支援を受けキメラたちを掃討していく。
 計7機、レイミアを入れると8機のKVから守られたアヴローラは極めて安全な状態で敵艦を追っていく。その様子はアレクセイが「これは防衛戦力が過剰な気もするな」と思うほどだった。
 だからこそ‥‥ そこに、油断が無かったとは言い切れない。
『ア‥‥ーラ‥‥敵が‥‥‥‥‥かっ‥‥る!』
『左舷、何か来ます!』
 恐らくは由稀、そしてレイミアが通信でそう叫んだ時にはもう遅い。前進するアヴローラに左方向からプロトン砲が放たれ、直撃を受けた。


『左ブロック損傷!』『消化急げ!』『けが人の救助が先だ!』
 艦内の状況は一変した。さらに右方向からも砲撃。長距離だ。
 左右両翼の能力者たちは次々にキメラを発見、撃墜していたがそのすべてを撃破するには至っていなかった。
 鍵になったのは手数。
 敵が艦をクロスファイヤポイントに引き込もうと画策していたのだったら、そこにたどり着くまでにその状況を崩すのが能力者たちのすべきことだった。左翼、右翼に分かれた能力者たちの行動は、その任に足るものだった。
 だが、全てのキメラを焙り出すには『手数』が不足。
 機動力の高い機体と逆探知可能な機体の組み合わせそのものも妥当であったが、逆探知は無論ピンポイントで標的を探り当てられる類のものではない。
 そして、戦場は小隕石帯。そこら中に逆探知を妨げるものが存在する。敵艦からのジャミングも合わさりレーダー状態も悪い。だからこそ、機動力が高い機体であっても敵を発見することに多少なりとも時間を削ぐことになる。
 そこに敵艦を追って前進してきたアヴローラが現れ、一斉に隠れていたキメラたちが飛び出して砲撃を行ったのだ。
「くっ、よくも‥‥!」
 思わず機内で呟く由香里。
 だが、これによって敵の位置はほぼ正確に特定できた。左右の幻龍がプロトン砲の射線等から敵の位置を割り出していく。
 後は高性能、そしてブーストを常時使用している剣一郎、UNKNOWNの機体であればすぐに接近し、撃破することが可能だろう。
 問題は、艦の方。
「艦長! 主砲Gブラスター砲、一門出力が上がりません!」
「そっきの砲撃か‥‥仕方ない、現在の出力で構わない。主砲斉射!」
 アレクセイの号令一下、放たれた閃光がバグア戦艦を撃ちぬいた。が‥‥
「‥‥敵艦健在! かなりのダメージを与えたと思われますが‥‥」
「やはり万全ではないと致命傷にはならない、か‥‥アヴローラ位置固定、主砲再充填、砲座各個に弾幕!」
 こうなったら、後は総力戦である。


 能力者たちは艦前衛および直衛の放流されるキメラの迎撃を優先した。
 敵艦が近づいたことで小型キメラの出現頻度が上がった。いや、ここまでが自重していただけだったのかもしれないが。
 とにかく艦の直衛についていた能力者たちの負荷が跳ね上がったのは間違いない。
「これじゃ奇襲も何もないじゃない‥‥近寄るな!」
 レティアはディフェンダーで小型キメラを切り払いつつ機関砲による弾幕を張る。
「またアヴローラに傷をつけることになるなんて‥‥」
 悔しそうな表情を機内で浮かべるクローカ。だが、そこで思考停止しているわけにはいかない。こうなってしまったからにはこれ以上被害を出さないことを考えるしかない。
 そう集中しなおしたクローカは機関砲で弾幕を張りながら水素カートリッジを使用し、リニア砲により敵を着実に撃破していく。
 レイミアもライフルで支援攻撃を行う。
 その間も、アヴローラは敵艦の砲撃に晒されながらもレーザー砲による弾幕を張りミサイル攻撃などを迎撃。主砲の充填完了を待つ。
 しかし、バグア戦艦は自己再生機能を持つ。しかもとびきり強力なものを。主砲を再び撃ったとして、そこで撃破できなければ向こうは回復しこちらの損害が増すばかり。状況は一気に不利になってきた。
「黙らせる‥‥っ!」
 瞬間、敵艦の砲台が次々に吹き飛ばされる。由稀が敵艦側面から攻撃を仕掛けたのだ。隕石に隠れれつつの狙撃は敵キメラのやったことの裏替えし。その効果を敵艦は身を持って知らされる。
「よし。最後まで気を抜かずに行こう」
 隕石の陰から飛び出した剣一郎は由稀の援護を受けつつ突撃。
 右、敵艦にとっては左翼方向からはUNKNOWNがK−02ミサイルを発射しつつ飛び込んでくる。
 両者の機体は宇宙対応機ではないが、性能自体は能力者の持つKVの中でも指折りである。戦艦を撃破するまで行かずとも、その回復を遅らせるには十分だ。
「Gブラスター砲、再充填完了!」
「綱渡りだったな‥‥主砲斉射! ミサイルもあるだけ撃ちこんでやれ!」
 砲台を潰され、攻撃手段もすでに無くなっていたバグア戦艦。アヴローラからの直撃を受けダメージが超過、爆発した。 


「酷いありさまだな、こりゃ‥‥」
 外側からアヴローラを見たリックの言葉通り。今回の戦闘における被害はかなりのものとなった。数値で表すと、前回の戦闘も合わせてアヴローラの損傷率は40%以上だ。
 敵艦を撃破したため、この宙域への憂いはとりあえず無くなったと言っていい。
 作戦は成功だ。
 だが、その代償に‥‥
「これは、しばらく作戦行動は難しいね‥‥」
 アレクセイが指揮座で呟いた通り、アヴローラはすぐさまドック入りを余儀なくされた。