タイトル:【VU】合同意見調査会マスター:植田真

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/28 00:03

●オープニング本文



 ラスト―ホープ、UPC本部。
 発令されていたアメリカの大規模作戦もある程度の成果を上げ、慌ただしかったこの場所も少しずつ平時の落ち着きを取り戻しつつあった。
「はぁ‥‥」
 そんな中、珍しくため息をついて歩くのは、オペレーターのシルヴィア・久遠。
 その原因は、手元の3つの資料にあった。
 1つは奉天製KV「北斗」に関するもの。1つは英国製KV「フェンリル」に関するもの。そしてもう一つはカプロイア社製KV「ガネット」の物だ。
 実は、この3社とも、KV改良に関する意見調査会を行いたいとのことで本部に依頼を出してきたのだ。
 シルヴィアは資料に目を落としながら、これらの機体について考える。

 北斗は、価格に比べて良好な運動性能を中心としたバランスのよい電子戦KVだ。ジャミング中和カテゴリを切り替えることが出来るという特徴を持っており、電子戦機の穴埋めとしての役割も担うことが出来るだろう。
 欠点としては、搭載能力や生存性の低さなどだろうか。

 フェンリルは、対精鋭機用の高性能KV。知覚兵装を中心とした攻撃力が高く、固定兵装のグレイプニルは燃費効率に優れた比較的使いやすい装備と言えるだろう。
 この機体は高級機だけあってあまり弱点らしい弱点がない。あえて言うなら防御性能がやや低い、といった程度だろうか。

 ガネットは、スッチーことスチムソン博士が開発したハンドメイドに近いKV。基本性能は極めてバランスが優れている。ハンドメイド、というだけあって出回っている数が少ないのが最大の弱点であろうか。
(というより、この機体は依頼を出してまで改良する機体なのかしら‥‥)

 ‥‥などと考えたところで、シルヴィアは思考を止めた。
 斉天大聖と骸龍の改良の際にも担当者に言ったが、自分の意見にはあまり意味がない。決めるのは意見を言う人間と、意見をまとめる人間なのだから。
 さしあたって自分は提示された条件について考えることが先決だろう。尤も、その条件が意外と面倒なのだが。
「それにしても‥‥出来るだけ安く上げろ、か‥‥」
 もう一度、深いため息をついた。
 3社とも共通で出してきた条件が、この「安く上げろ」だった。
 改良は行わないと不味いが、費用は掛けたくない。その気持ちもわからないではない。だが、それなら意見を社の方に送ってもらうなど、費用をかけない方法はいくらでもあるだろうに‥‥
 まぁ、依頼として本部に提示することで人の目に触れさせてその機体の知名度上げる、等の効果があるのは確かなのだが‥‥
 何はともあれ、安く上げる方法を考えないといけない。といっても、調整が可能なのは「会場代」と「参加報酬」ぐらいだろうか。
「‥‥‥‥そうだ」
 ここで、シルヴィアはひらめいた。
「合同での意見聴取、とかにしたらどうかな‥‥」
 それなら会場代、参加報酬とも3分の1まで減らせる。
 我ながら名案を思いついたものだ、と。早速シルヴィアは各社の担当者に連絡を取り付けた。

●参加者一覧

/ 漸 王零(ga2930) / UNKNOWN(ga4276) / 時雨・奏(ga4779) / 守原有希(ga8582) / 夢守 ルキア(gb9436) / ジリオン・L・C(gc1321) / 犬坂 刀牙(gc5243

●リプレイ本文


「なんで」「こんなところに」「屋台が?」
 それが会議室に入ってきた3社、奉天・英国・カプロイアのVU担当者が最初に抱いた感想である。
「経費節減らしいですが‥‥別に自腹で作ってしまっても構わんのでしょう?」
 そういって料理をふるまっているのは守原有希(ga8582) だ。
 銀に輝く屋台でかけて、守れ食卓青信号。
 というわけで、予算不足の意見聴取会に花を添えるために食べ物を持ってきてくれたのだ。
「あ、皆は、肉無しシチューで許してねー!」
 夢守 ルキア(gb9436)はそう言いながらビーフシチューをよそっている。自分の分だけ肉たっぷりである。
 まぁこれも傭兵らしいな、と担当者が思っているところにあいさつに来た青年‥‥
「とーぅ!俺様は!ジリオン!ラヴ!クラフトゥ!未来の勇者だ!!」
 撤回する。少年ではなく未来の勇者、ジリオン・L・C(gc1321) が挨拶に来た。
「この度は俺様の超!魁!未来勇者号!のバージョンアップと聞いてやって来たぞ!!」
 そういうと、クククと笑いながらおやじはどこだ! 礼が言いたいぞ! と騒ぎ出した。
「おやじ? とはどなたのことで‥‥」
「おお。ガネットを作ったスッチーのことだ!」
「あぁ‥‥スッチーは今日は来てませんよ?」
 そういうと、ジリオンは「そ、そうか‥‥」と、肩を落とし有希の屋台の方に向かった。
「どうもー。そろそろ機体交換したところやし、個人的に勉強の為にも参加させてもらうわ」
 そう挨拶に来たのは時雨・奏(ga4779) だ。長期契約でしばらくラストホープから離れていたが、ようやくこちらに戻ってくることが出来たそうだ。
「今回はよろしく頼む。ガネット納入1番機の所持者として意見させてもらうよ」
「うむ。ガネットはいい機体だよ、な。もう少し遊び心が欲しいところ、だが」
 漸 王零(ga2930)とUNKNOWN(ga4276)そして先程のジリオンは3人とも数少ないガネット所持者だ。ラストホープに4人しかいない所持者のつい3人が揃うというのはなかなか機会がないだろう。
「それじゃ、そろそろはじめよーよ」
 そういえば、会場の貸出時間も限られているのだった。犬坂 刀牙(gc5243)に促される形で、意見聴取会は始まることになった。


「まず北斗のバージョンアップに関してとなります」
 前に出たのは奉天の担当者。参加者に資料を配りつつ、簡単に基礎スペックについて述べる。
「‥‥それでは、改良内容に関して意見を伺いたく思います」
「そうだな‥‥私は乗ったことはないが‥‥」
 まず意見を述べたのはUNKNOWN。ダンディズムが立って歩いてるようなこの男性が述べたのはまず、副兵装や装備品の搭載枠増加。これらはドローム社でも改良の難しい部分であるから、意見としてはまず妥当なものになるだろう。
「性能は回避、防御、耐久力あたり‥‥岩龍みたいなもんは二度と作るなよ? 作るなよ?」
 大事なことだったのか、作るなよを二度言った奏。
 ハハハ、と苦笑しつつ担当者は言葉を濁した。
 なお、岩龍の名誉の為に付け加えるが、その価格が極めて安いこともあって、KVの販売数等からみれば岩龍は圧倒的。兵器需要としては極めて高いものだった。
 ‥‥まぁ、その分性能はお察しではあるが。
「この機体のバージョンアップには2つの方向性があるとうちは考えます」
 有希は戦場に居座るのが電子機の任務としつつ、得意の回避、脆目の抵抗の底上げ等防御強化型。兵装搭載枠と搭載能力の増加による自衛力強化型。この2つを提示した。
「個人的には後者を支持します。現状ミサイルと銃を積むと折角の乱波や煙幕等が積めません。取回しに幅が出て対応力が増すかと」
 続いて発言したのはルキア。
「私は、北斗っていうのは前線に耐えれる電子戦機って考えてるんだよね」
 そう言うルキアは有希の意見に賛同するかのように兵装搭載可能枠と搭載能力の増加。加えて機体の生存性向上を挙げた。特に、副兵装が増えると、自衛の他に味方の援護に手数を割けることから兵装搭載枠の向上は強く望んでいるようだ。
「逆探知や、効果範囲向上も欲しいケド、一番は戦闘力。超限界稼働の切り札があるから、出来るだけ戦闘力を上げたい」
 この辺りは奏とはだいぶ違う考え方であるように思えた。
「あのよ‥‥何を考えて超限界稼働を実装したん?」
 戦術的に味方ありきの電子戦用KVが何が悲しくて博打をしなければならないのか。落ちずに生き延びて味方支援してナンボの機体だろう、と。これが奏の考えである。
「費用がどうこう言うならまずコレ外して副兵装とかもっと積めるようにならへんの?」
 その意見に対しては、担当者は難しいと返した。
 まず、取り外しただけならカテゴリAとBを行ったり来たり出来るだけのただの電子戦機に成り下がり、戦闘に耐えうる電子戦機としてのアイデンティティがなくなってしまう。さらに、その能力を取り外すことにも資金が必要。そして何より、ルキアのようにその能力に価値を見出している人間もいるという点からだ。
「特殊能力なんやけどな。オタクらの西王母の神盾とか流用できへんかね。既存品やし金かからんで済むのと違うか?」
「‥‥ちょっと難しいですね。元々艦隊用のイージスシステムを簡略化して、あの巨体に積んでるわけですし」
 北斗のスペックでは搭載したとしてもかなり劣化したものになるのは間違いない。
「後は、特殊電子波長装置の性能向上、だね」
 前線に出るというなら限られた範囲でいいので効果力向上か威力向上が効果的だろうか。と男は述べる。どちらかというとワイズマンのような扱いが近いだろうか。
「それとコンバータで空いているカテゴリーに自動変換、とかも面白いと思うが」
 しかし、それは難しいかもしれない。現状でも練力を使用することでカテゴリを切り替
えているため、自動変換にすると常時練力消費が発生する可能性もある。
 この他にUNKNOWNは練力向上や超限界稼働の時間を長くする、といった意見を挙げた。
「機体名称に関しては、そうだね‥‥北斗七星とか北斗神剣とか‥‥あと南斗とか」
 どうにも世紀末な香りがする名前だったので、これらは却下された。
「ほくとさんはねー。なんとさんだったんだよー! なんとぉ!?」
 残像でも発生させて回避できそうなセリフで北斗に関する意見聴取は終了した。


「それでは、続いてフェンリルのバージョンアップに関して意見を伺いたいと思います」
 奉天の担当者と入れ替わるように前に出た英国の担当者は、そう言いながらフェンリルの資料を参加者に配っていった。
「この機体は私は持っていないからね。どういう使い方がいいか‥‥」
 そう言いつつUNKWNONが提案するのは北斗同様、兵装および装備品の搭載枠増加。この辺はやはり鉄板らしい。加えて移動力の向上などを挙げた。
「防御がスフィーダ等より少し上程、と‥‥意外と脆いですね」
 有希は担当者から配られた資料に目を通しつつ、耐久性を中心に強化するのが順当でしょうと述べる。
「ただ、装備力も不足気味に感じます。枠の割に少なめです」
 また、装備の傾向としてゼロディフェンダー辺りで軽量高性能品が減ってるという点を挙げ、良い装備で短所の補填や長所の強化をやるにも不足していると続ける。最終的には搭載能力と耐久性のを軸にするのがよいだろうということだ。
 ルキアが推すのも有希同様、搭載能力と耐久性向上。
 機動性が高いフェンリルではあるが、入り込むと回避し辛いだろうし入り込んで攻撃を受けても耐えられる生命力が欲しい、という事だ。
「特に現状で問題点ないんやし、もっと役割強調したらええんとちゃう?」
 というのは奏。彼は装甲などよりは知覚性能や積載能力を上昇させるべきと主張する。「わふっ、僕もこれだけはちゃんと調べてきたんだよ!」
 奏に続いた刀牙は、攻撃をデチューンして知覚の上昇を提案する。
「いぎりすさんの昔のKVにおんなじようなのがあったんだよー。だからね、ふぇんりるにもおんなじような改修をしてほしいんだよー!」
 確かに、フェンリルの知覚性能はVU後のロビンと比べると、カタログスペック上は劣ることになる。
「んっとね、ロビンと同じだと、おんなじ工房でおんなじ知覚系統最新機のVUとしては物足りないと思うんだよ? やっぱり、いちばんじゃないと、なんだよ!」
 刀牙の言うことは尤もだろう。担当者はこれに関しては相談してみるとした。
 続けて、刀牙は特殊能力に関しても意見を述べた。
「アリスシステムの知覚マイナスを減らしてほしいかなー? もうちょっと効率を上げて欲しいんだよー」
 刀牙が提示した数値は知覚性能減少を30%ダウンさせること。これはどうだろうか。アリスシステムはドローム社でも強化を行うことが出来ない特殊能力だ。その能力の効率をここまで上げられるものか。とにかく、これは持ち帰って検討してみるしかないだろう。
「特殊能力の話やったら、個人的にコイツにパンプチャリオッツつけるのも面白いと思うけどな。4足の方が加速できそうやし」
 なるほど。地上戦における4足の利を生かす案としては面白いかもしれない。が‥‥
「あの能力は専用の機構が必要になってきますからね。後付となるとやはり難しいです」
 案は面白いと思うんですが‥‥と、担当者は申し訳なさそうに言った。
「あと、牙をねー! にゅいーん! ってかっこよーくしてほしいんだよー!」
「‥‥にゅーん?」
「ふむ‥‥つまり、こういうことかな」
 刀牙の表現を理解しきれなかった担当者の為にUNKNOWNが通訳してくれた。
 それによるとつまり、消費練力を抑えるか。それが出来なければ消費をこのままにしつつ威力を向上させてくれ、と。こういうことらしい。
 なるほど、と。担当者は納得しつつ‥‥
「強化に関しては、申し訳ありませんが確約はできません。何分現状でも可能な限り強化した結果の物となっていますので‥‥」
 ただ、とにかく社に持ち帰って相談してみる。といったところで話を打ち切った。


 予想外に(といっても、これは依頼の取り次ぎを行っていたシルヴィアの予想だが)意見が多く出たのはガネットの意見聴取の際だった。
「ガネェェットはパーフェクトだ!!」
 と、ここにきて急にテンションを上げて入ってきたのはジリオンだ。
「パーフェクト! ‥‥だから、特別不満もなく‥‥変えて欲しい所も‥‥なく‥‥」
 と思ったら急激にテンションが落ち着いてしまった。
「やはり普及率が残念ではあるが‥‥まぁそれは言っても仕方ない。とにかく意見を出させてもらうよ」
 それに続いたのは王零。この2人は今回ガネットのVUに対する意見に集中している。
「もっとこう、エフェクトを派手に出来たりとか」
 すでにジリオンは担当者に意見を始めていた、が‥‥
「現状でも戦闘兵器としてはかなり派手な部類なので‥‥」
「腕が飛ぶとか‥‥」
「使用後の回収など考えると‥‥バニシングナックルなどのそれ用の装備を使っていただいた方が効率が‥‥」
「バク転できたり‥‥とか‥‥」
「腕で何とかカバーしてください」
「あと、スーパーモードとか‥‥どうだ‥‥!!」
「どうだ、と言われても‥‥」
 といった感じでザクザク意見は切って捨てられていった。仕方ないね。
 ちなみにスーパーモードとは、ジリオン曰く、気合入れたら顔のパーツがかぱって割れたり、それによって機体もちょっとこう頑張れるようになって、ガネットオーラもちょっと長めに発動したりして‥‥
「そういう超必殺モードだ! バーサーカーモードとか、ビーストモードとかでもいいな!」
 ということだ。
 まぁスーパーモードを搭載する、というのは難しかろうが‥‥ガネットオーラを応用すれば、それっぽいことは可能かもしれない。あくまでそれっぽいこと、ではあるが。
「ガネットオーラは‥‥回数制限をなくせないだろうか?」
 王零からもこんな意見が出ている。オーラ自体は、スッチーことスチムソン博士がなんというだろうか。『必殺技がそう何度も使えるのはおかしいだろう』とでも言われそうな気がした。
 ただ、こう王零も述べていることだし、ガネットオーラ系統に関しては少し検討してみようかと考える担当者であった。
「おぉ、本当か! 俺様の必殺技がより輝くようになるぞ‥‥」
 とうとう担当者が頭で考えていることまで読むようになったこの勇者は、ドヤ顔でそん
なことを言っていた。
 さて、話は戻って基礎性能に関して。
 王零はガネットの納入1番機の所持者らしく、その意見にも熱が入っているようだ。
「スッチーが考えた機体というだけあって機体性能はかなり上等の機体ではある。手を入れるならやはり、装備力、練力、生存性の順で強化を入れてほしいかな」
「そうですね。ブースト連動型の能力は練力食いですし、やはり練力の上昇は必須でしょう」
 これに関しては有希や、ルキアなども賛成の様だ。
「確かに、もうちょっと燃料によゆーがあると動きによゆーがでてうれしーぞ!」
 けど、それ以外はやっぱり割合どうでも‥‥と、ジリオンは続けた。
「私としては、これは馬鹿ができるものがいい」
 そういうUNKNOWNが支持したのは先の2機同様の兵装や装備の搭載枠向上。ただ、ガネットは元々の装備枠がかなり多い部類に入る。
「ここらが、数少ない所持者が個々の使い方をするにはいいと思うのだがな」
 確かにその意見には同意できる部分があるが、実際その部分を強化するのは難しいだろうと担当者は返答した。
 この他にUNKNOWNは装備力に関しても伸ばした方がいいと意見した。大凡これと練力上昇がガネットの基礎性能に対する要望となりそうだ。
「ガネットツインブーストに関してなんだが‥‥これは練力消費に対して得られる効果が悲しいものだな。垂直離着陸は今のままでいいがBの方は、ツインブースト・OGRE/Bとメテオブースト並の補正を出せない物かな」
 王零のこの意見を聞いた担当者は申し訳なさそうに首を振った。そもそも、ガネットツインブースターは、その機動性の向上率云々よりも移動しながらも瞬時に旋回行動がとれるという点が優れている部分である。その旋回性能はブーストによる移動性能向上が合わさり圧倒的と言ってもいい。
「対練力効率を上げるか、練力消費そのものを多少ましにすることは可能かもしれませんが、そこまで劇的な改良は正直無理がありますね」
「そうか‥‥それでは、せめて固定兵装。ミサイルである以上弾数制限は仕方ないが‥‥せめて今の2か3倍は撃てるようにできないだろうか?」
「それに加えて、軌道変更の入力回数が増やせたら面白いんじゃないでしょうか」
 重量は少し増えてもかまわないから、と言った王零に続いて固定兵装に関しては有希も意見を出す。この辺は担当者も有益だろうと考えるので、後でスッチーか、伯爵に相談してみることになるだろう。
 この他にも、ガネットに関しては多様な意見が出された。
「これは遊び心として、なのだが‥‥」
 UNKNOWNが提案するのは全体攻撃できるときや、攻撃が命中する瞬間。稲妻が敵機との間を走るようにする、というもの。無論効果音付きで。
 奏からはそれ以外に言うべきことは無いとばかりに‥‥
「効率とかええ、必殺技つけろ、以上」
 という意見が。固定兵装がミサイルであることにも奏、というより奏の男心が不満を感じているらしい。
「そんなん必殺技ちゃうわ。せめてブレイドかバスターを実装せい」
 確かに、スッチーが影響を受けたアニメ「蒼空のフロンティア」にはガネットブレイド、ガネットバスターなる装備も存在していた。担当者はこれらの詳細は実は把握していないのだが、名前的には確かに必殺技らしいものになりそうだ。
「あと、バージョンアップするなら最低限、色を変えるか翼とかを追加しろ」
 この辺りは見た目変わらないと強くなった気がしないから、ということだ。
 だが、これらのロマン溢れる意見は『予算』という超現実的な一言でバッサリと切り落とされていった。
「効果音やオーラは決め時に温存してこそ格好良いと思うんです」
 というのは有希。温存できればブラフ等実用法も見えるかと、ということだが、これは『仕様』という言葉によって却下された。いつでもガシャンガシャン言ってる方がスーパーロボっぽいのだ。
「技名叫ぶトカ、ロマンらしいし。ソニックフォン・ブラスターとかつけてみたら?」
 これはルキアの案だ。これは、拡声器もついてるからそれで間に合わせてもらおうということで意見がまとまった。
「あ、そうだ思い出したんだよー!」
 少し眠そうな顔で、飽きたから散歩してくると言い出した刀牙が思い出したように提案
した意見はこんなもの。
「あのね! あのね! やっぱり、がねっとおーらを使う時は、カッコいい音楽も流れて欲しいんだよー!」
 ようは、幻影に合わせて音を発生させる能力の追加して欲しいということだ。
「ヒーローの登場シーンに爆発音はぜったい必要なんだよー!」
 横の方でジリオンがうんうん頷いているのを見ながら、担当者は個人レベルでもそういう改造は不可能ではないだろうから、社としてわざわざ手を加える必要はないとした。
「あと、ネタっぽくてもいいから関連装備とかがおまけでついてくると面白いかもな!」
 そう言ったジリオンの眼に『マント』という字の幻を見た気がした担当者だったが、その幻覚を振り払いつつ、相談するだけはしてみるにとどめた。
「あれだな。せっかくの高性能機で、かつ手に入りにくい機体なのに、戦場が宇宙へ移りだして活躍の場が減る事が目に見えてきてしまった事が残念だな」
 そう、王零は最後に述べる。スッチーならどうにかしてくれるという希望があった、と王零は続けるが、宇宙対応に関してはやはりどうにもできない。構造からして違うのだ。そして、戦局がどう動いていくかまでは、スッチーは見通せない。
「ただ、ガネットがあったからこそ、当社のスフィーダなども開発に至っているわけです。まったく無駄という事はありませんでした」
 なので、是非とも宇宙用KVとしてスフィーダの購入を検討していただければ。というところでガネットに関する聴取は終了となった。


「それでは、これで本日の意見聴取会は終了となります。皆様ご協力ありがとうございま
した」
 そう言って3社の担当者が頭を下げ、散会となった。
「ハアーッハッハッハ!俺様の勇者街道はまだまだ続くぞ! 此度の強化でますます俺様の道行きに花が咲くであろう‥‥アディオス!」
 最後まで賑やかな人だ、と各担当者はジリオンを見送った。
 それに続くように去っていく参加者の中から一人、ルキアだけが奉天の担当者のところまでやってきて、一枚のメモを渡した。そこに書かれているのは、ルキアの乗る北斗のスペックデータ。
「私のムネモシュネ、意味は記憶‥‥出来るだけ、戦場を、セカイを記憶しようって、気持ちを込めたんだ。これ見たら私が優先してるモノが少しはわかるかなーって」
「‥‥この記憶も、北斗に遺せるように。活かせるように努力させていただきます。ありがとうございます」
 奉天の担当者はそう言ってそのメモを受け取った。