タイトル:サンスクミマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/02 03:43

●オープニング本文



3匹のキメラはそれぞれの意思で動いていた。
各々のやるべきこと、すなわち人間たちを襲う。ただそれを遂行するために。
故に、これは全くもって偶然の出来事だといえる。

「「「‥‥‥‥!」」」

キメラたちは出会い。そして硬直した。


『町で大型のキメラ3匹が暴れている』
との連絡を受けたUPCは、すぐさま傭兵に出撃を依頼。
その依頼を受けて、急ぎ現場に着いた傭兵たちは、そこで奇妙な状況に遭遇した。
住人からの情報通り、確かに町の様子は酷いものだ。
家は崩壊し、街路樹は倒れ、そこら中にパーツの足りない死体が転がっていた。
だが、それらは全て過去形である。現在進行形で壊される家も倒される木々もない。正確には、そのような気配を感じない。
キメラが去ったなどという話は聞いていない。しかし、悲鳴も銃声も聞こえない。そう、キメラがまだいるはずなのに、この町は静かすぎる。

怪訝に思いつつ、傭兵たちは町の中心まで足を運んだ。
そこで、傭兵たちは見た。
『ヘビ』
『カエル』
『ナメクジ』
3匹の巨大なキメラが微動だにせず、互いに向かい合っている姿を。
元になった生物の本能までもが、キメラに継承されるのか定かではない。しかし、この光景を見るとそう思わずにはいられない。
好物を狙いつつも天敵を警戒する×3。このせいでお互い下手に動けなくなっている。まさに三すくみの状態である。

キメラたちが何を考えているのかはわからない。だが、大きな目玉で睨むように互いを見つめ、まるで額に汗でも浮かべているのではないかというような、険しい表情をしている。傭兵たちにはそう見えたような気がした。

町の住人は誰一人言葉を発さず、その場から動かない。この緊迫した均衡が、何を引鉄に破られるのか。それは誰にもわからない。しかし、この三匹がまた暴れだしたら、どんな結果になるか。考えるのは容易なことである。
まぁともあれ、町の破壊活動は一時的にではあるが止まっている。
とりあえず傭兵たちは周囲の住人をこの場から遠ざけ、今後の対策を検討するのであった。

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
フォア・グラ(gc0718
30歳・♂・ST
火霧里 星威(gc3597
10歳・♂・HA
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
ルミネラ・チャギム(gc7384
18歳・♂・SN
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文


 町中央の広場。そこには未だ3匹のキメラがいた。
「本当に動きませんねぇ‥‥」
 セラ・ヘイムダル(gc6766)はそれらのキメラを見上げて呟く。先ほど住人の退去を済ませてきたところだが、その間もキメラたちは動こうとはしなかった。
「3びきのオバケがにらっめっこー♪ ふっしぎー!」
 セラと同様に、キメラを見上げた火霧里 星威(gc3597)はそう評した。
 確かに、互いに互いを睨みつけ、動こうとしない様子はにらめっこに見えなくはないだろう。
「とりあえず写真写真♪」
 エレナ・ミッシェル(gc7490)はよほどこの状況が珍しいのだろうか、携帯での写真撮影に余念がない。
「なんだか大事に見えないのですよねぇ」
 それに対し、宇加美 煉(gc6845)はやや呆れ気味だ。当初は大型キメラ3体と聞いてこれは大事だと考えていた。実際大事ではあるのだが、この3すくみの状況に加えて周囲の仲間たちの反応から、あまり危機感が感じられないようだ。
「‥‥これ、放っておいたら如何なるのでしょうね‥‥」
 セシリア・D・篠畑(ga0475)は独り言のようにぽつりとつぶやく。そんなことを言いつつ、少なくとも外見上はそれ自体にまったく興味がなさそうだが。

「ナメクジ、苦手なんですけど‥‥」
 そうぼやくのはルミネラ・チャギム(gc7384)だ。彼は味方の支援・援護を目的として参加している。しかし、その言葉通り、ナメクジは本来見るのも嫌なようだ。
「ふぉあぐらも、ナメクジは食べたくないのねぇ‥‥」
 そんなルミネラに対しフォア・グラ(gc0718)が同意するように声を投げた。だが、その意図はルミネラとは違う。そもそも彼の目的からして、どうも他の能力者とは違うようだ。カエルやヘビを見て「じゅるり」と涎を飲みこんでいる。

 この様に、それぞれの思惑はあるものの‥‥
「でもボクたちニンゲンのテキなんだよね? やっつけないと!」
 そう星威が言う。その通りだ。このままキメラを野放しにしておくわけにはいかない。
 幸い敵が攻撃してくる様子はない。この間に攻略の為の作戦を練ることになった。
 

 とりあえず、能力者たちは3匹のキメラを順番に倒していくことにした。3匹それぞれに何人か振り分け、同時に攻撃すると言う手も有ったが、その場合1匹当たりを倒す時間が長くなり、その分町に被害が出る可能性もあった。この判断は妥当であろう。
 となると、問題なのは『どこから攻めるか』だ。
 この三すくみの状況が崩れた時、それぞれのキメラがとる行動は未知数。
 こちらを敵として認識し、3匹総出で襲いかかるか、別々に自分勝手に行動をとるのか。フリーになった2匹が互いに攻撃し合う、なんて流れが理想的だが、さすがにそれは希望的観測が過ぎるだろう。
「そうなると、先に潰すのは‥‥蛙だな」
 須佐 武流(ga1461)はそう断じた。
自由に動くようになった時、動きの素早いカエルは多少面倒になるだろう。そう言う意味で、この判断は正しいと言える
「そうですね、動けないうちに全力で倒してしまうのです♪」。
 同意するセラ。他の能力者たちも意見は同じだった。
 攻撃した後どうなるか、はそれぞれ考えがあるが、とにかく動かないことには始まらない。
 こうして、作戦は動き始めた。


「フォローに回ります、仕掛けて下さい」
 セシリアの練成弱体が攻撃開始の合図となった。同時に超機械を起動。覚醒によって赤くなった瞳がカエルに狙いを定め、狙撃する。
「均衡を崩したらどうなるか恐いですけどぉ‥‥」
 目の届くうちに倒してしまった方がいい。AUKVにその豊満な肢体を包んだ煉もまた超機械を起動。黒色の弾丸の後を追うように電磁波がカエルを襲う。
 他2匹のキメラに気を取られていたカエルは至近距離にもかかわらず奇襲を受けた格好となった。驚き、飛びのこうとするカエル。
 しかし、その動きはフォア、セラ、星威、エレナの苛烈な銃火によって遮られる。集中攻撃を受けたカエルは態勢を崩し、逃げることもままならない。
「よし、後は俺に任せときな!」
「了解。援護しますねぇ」
 態勢を崩したカエルに金色のオーラを纏った武流が圧倒的速度で迫る。
 カエルは苦し紛れに舌で武流を狙う。が、ルミネラの援護射撃がそれを許さない。青い両目で敵を見据えるルミエラ。その的確な射撃がカエルの舌先を捉え、武流に向かう前に撃ち落とす。さらに回避行動を取られないようにその先読みしてカエルの動きを完全に抑制する。
「喰らえっ!」
 隙を付いた武流はそのままジャンプ。空中から、まるでドリルのような回転を加えた飛び蹴りを浴びせる。
 直撃!‥‥と、同時にカエルを守っていたフォースフィールドが貫かれた。武流の脚の周囲には翼の紋章が舞っている。この蹴りには真燕貫突が付与されていたのだ。
 そして、そのまま相手を踏み台にして反転。
「The End!」
 同じ部分に連続で強烈な飛び蹴り。まさに一撃、いや、二撃必殺といったところか。武流の攻撃はキメラの肉を突き破り一瞬で絶命に追いやった。
 
 カエル撃破!残りは2体。 


 カエルを、文字通り瞬殺した能力者たちは次の目標に向かおうと残り2匹に目を向ける。
 すると、ナメクジは近くの建物を溶解液で溶かそうとしているところだったが、ヘビはというとその場からまるで逃げるように動き出していた。
「キメラとなっても天敵なのは変わらない、ということでしょうか‥‥?」
 さすがに仲間同士共食いしたりということは無かったようだ。
 だが、だからといって互いをフォローしたりすることもない。この辺り本能の残滓を感じられなくもない。まぁここは一斉に攻撃しようとして来なくて良かったと言ったところだろうか。
 しかし、どうしたものか。能力者たちの手はずでは次に狙うのはヘビ。だが、当のヘビは逃走を始めている。追わなければならないだろう。一方、ナメクジを放っておいたら被害が拡大する恐れがある。
「私がナメクジの足止めを行います‥‥」
「あ、私も行きます!」
 動いたのはセシリアとセラ。
 2人は撃退順序を念頭に置きつつも、ナメクジの行動への対策を視野に入れていたのだ。
「よし、あっちは任せるぞ」
「気をつけてね、おねぇちゃん達!」
 武流の声に、まず星威が反応し、他の能力者も続いた。


 ナメクジの対処に向かったセシリアとセラは、溶解液による攻撃に注意しつつ、一気に接近する。
 走りながら、黒い銃型超機械を構えたセシリア。その周りにはエレクトロリンカー特有の映像紋章が生じ、それらがめまぐるしく配列を変えている。
「ここは、一気に攻めます‥‥」
 射程内に入ったと同時に、セシリアは超機械の引き金を引く。電波増強によって強化された黒弾は一直線にナメクジに向かう。鈍重かつ、建物を溶かすことに集中していたナメクジには、それを回避するすべはない。着弾と同時に広がるエネルギーがナメクジの生命力を一気に削ぎ取った。
 痛み、があるのかはわからないが、それに耐えかねるようにナメクジはのたうちまわる。そして、セシリアの方に敵意を向けた。身構えるセシリア。だが、予想される抵抗は発生しなかった。その前にナメクジは動きを止めてしまったのだ。
「間一髪ですね。順番が来るまで、大人しく眠ってて下さい♪」
 そう、それはセシリア同様ナメクジの抑えに回ったセラが仕掛けた、子守唄の効果によるものだった。
 いびき等を立てる訳ではないので断言はできないが、おそらくは眠ってくれたのだろう。これで動きは止まった。
セシリア自身の方針としてはこのままガンガン攻めて一気に倒してしまう事だった。だが‥‥
(このまま他の方が来るのを待ちましょうか? 下手に起こして暴れられても被害が広がりますし)
 歌いながらのセラが視線で語るとおり、これなら味方がヘビを倒して戻って来るまで時間が稼げるかもしれない。
「そうですね‥‥分かりました」
 2人は油断なく注意をナメクジに向けつつ、味方が合流するのを待つことにした。


 一方ヘビの方はというと、カエルほど動きが速いわけではない。
 まず瞬天速を使った星威が追いつき、巻物型超機械を構える。
「逃がさないよ‥‥雷神の術!いっけぇっ!」
 星威の掛け声とともに超機械が作動。ヘビの脳天に強力な電磁波が発生し、ダメージを与える。
 この攻撃で、こちらに敵意を持ったようだ。尤も、苦手とするナメクジからある程度距離が離れたと言うのもあるのだろうが。
 ヘビはこちらを向き、その視界に入った星威へ毒を吐きかける。だが、星威はこれをやすやす回避。武流には及ばないものの、なかなかの回避力だ。そのまま距離を取る。
「カエルもヘビもナメクジも、みんな嫌いなのね!早く倒れてほしいのね!」
 続いて、後方から追いついてきたフォアの二丁拳銃が、ヘビの巨体を正確に捉える。銃弾はヘビのフォースフィールドを貫きその肉に食い込む。
 だが、まだまだヘビは元気だ。この攻撃で意識がフォアに向いた。口から吐き出される毒。フォアはこれをジャンプして大きく後方に飛びのいて回避。装備しているうさぎのキグルミのせいか、随分ファンシーな光景に見える。
 しかし、この動きは読まれていた。ヘビの尻尾がその着地点を薙ぎ払うように振るわれる。大きな衝突音が響く。
「‥‥これぐらいの攻撃じゃ効きませんよぉ」
 その攻撃はフォアまでは届かなかった。煉が攻撃の間に入って防御してくれたのだ。エンジェルシールドに加え、バハムートの重装甲である。多少ダメージを受けたものの、致命傷には程遠い。
「た、助かったのねぇ」
 礼を言いつつ、態勢を整えるフォア。この時には、他の能力者もヘビを射程内に納めている。
「よし、さっさと決めちまおうぜ!」
 武流はそのまま接近戦へ。同時に、エミタから甲高い排気音が響く。高速機動が発動したのだ。強化されたAIの補助に加え、より一層鋭くなる。
 もちろんヘビも何もしてなかったわけではない。毒液を吐き牽制し、尻尾を振り能力者達を近付かせないようにする。
 しかし、ここでもルミネラの援護射撃が光った。ルミネラは武流の動きに気を配りながらも、ヘビの動きを冷静に観察。最も効果的な位置に、的確な位置に銃弾を撃ち込む。その援護を受けた武流は、ヘビを翻弄していく。
「よし、チャンス!」
 2人の連携により生じた隙を、スナイパーであるエレナの目は逃さない。十字の紋様が表れた青い右目でヘビの眉間に狙いを定める。
「逃がさないよ! あったれー!」
 銃声が間を開けず2度響く。敵の死角を付いた必殺の二連射だ。銃弾はヘビに吸い込まれるかのように飛び、命中する。しかも、装填されていたのは貫通弾だ。その威力はヘビの眉間を撃つにとどまらず、そのまま穿ち貫く。
 ヘビは一瞬ビクッと痙攣した後、そのまま音を立てて倒れ、そして動かなくなった。

 ヘビ撃破! 残りは1体。


 無難にヘビを倒した能力者たちは、ナメクジを監視していたセシリア、セラと合流。この時点でまだナメクジは眠ったままだ。
「とうとうナメクジだけに‥‥もう嫌だからさっさとやっちゃいましょう」
 ナメクジから顔を背けつつルミネラが言った。その通り、あとはナメクジだけだ。能力者たちは溶解液に注意し、距離をとった攻撃でナメクジを一気に攻める。
「動きの遅い子はいつの時代も狙われる運命なの!」
 初弾が命中した時点でナメクジの目は覚めていた。だがエレナの言葉通り、動きの鈍いナメクジにはその攻撃を避けるすべはない。
 超機械による電磁波がその表面を焼き、銃弾はその肉を削り取っていく。軟体であるが故、その防御力は高いナメクジであったが、最初に倒されたカエル同様、これだけの集中砲火を浴びてはひとたまりもない。反撃することも出来ず、ただただ攻撃を受け、やがてその動きを止めた。

 ナメクジ撃破!キメラ全滅!


「能力者として当然の事をしたまでです♪」
 セラは、キメラの全滅を町の人々に伝えた。
 その場で暴れ出したナメクジによる被害も予想されていた規模より小さい。これは能力者たちの適切な判断によるところが大きい。作戦は大成功と言っていいだろう。
 後処理を現場のUPCに任せ、キメラを倒した能力者たちは救急セットなどで治療しつつ、少しの休息を取った。

「〜♪〜♪」
「あれは何をやってるんだ?」 
そんな中、フォアがヘビとカエルの肉を一部回収しているところを武流は見た。
「何でも、焼いて齧ってみるとか‥‥」
 その疑問にはセシリアが答えた。なるほど、まぁキメラも元はちゃんとした生物なのだから、食べられないことは無いのだろう。
「カエルやヘビは鶏肉の様な味と聞くのですけどねぇ‥‥あ、私は食べる気はないのですよぉ?」
「ナメクジは食べられないの?」
 その様子を見て煉と星威が話している。煉曰く、ナメクジも食べられるには食べられるらしい。
「はぁ‥‥ナメクジはもう嫌です‥‥」
 それを聞いたルミネラは、心底嫌そうにため息をつくのだった。