タイトル:【AS】挑戦者飛ぶマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/19 17:27

●オープニング本文



「スフィーダの生産ラインは順調に稼働しています。今月中には販売までこぎつけられそうです」
 社員は興奮の色を隠さず会議でそう告げた。
 
『KSF-001 スフィーダ』
 
 カプロイア社で開発した宇宙用KVのことである。
 その攻撃性能はオウガに匹敵する‥‥だけではなく、非物理攻撃性能も同レベルを維持している。
 先日輸送中に襲われるというアクシデントが発生したものの、その際カプ‥‥ナイト・ゴールド始め3機が出撃、傭兵たちと協力し戦果を挙げている。
 まぁその分防御性能はこれでもかというほど削られてはいるのだが、さすがに奉天の骸龍ほど、というわけではないしな。多分傭兵連中も納得してくれるとは思う。というのが社員たちの見解である。
「時に、アメリカの方はどうなっているんだ?」
「‥‥人類側の方が若干不利な状況ではあるようですね」
 別の社員が資料をパラパラとめくりつつそう答える。
 アメリカでは現在大規模作戦が進行中である。が、戦況は思わしくない。
 特に宇宙ではギガワームを撃墜することが出来なかったため、さらに厳しい戦闘が続くと思われる。
「そうか‥‥」
 深刻そうな声色の呟き。
 カプロイア社の本社は言うまでもなくイタリアに存在している。であればアメリカの戦況はすぐさま危機に直結するという事は無いはずである。
 だが、カプロイア社はそれとは別に、今宇宙に上がっているカンパネラとの繋がりがそれなりに深くもあるわけで。
 その話を聞いていたカプロイア伯爵は、ふと社員に質問を投げかけた。
「‥‥そういえば、スフィーダの試作機はどれぐらい残っていたかな?」
 

 カンパネラ学園に向かって、数機のKVが打ち上げられた。
 カプロイア伯爵の指示により多少数に余裕があった試作機を増援として派遣したのだ。
 搭乗するパイロットはラストホープの傭兵に依頼した。
 あえてパイロットを傭兵にしたのには理由がある。
 カンパネラ学園にたどり着くまでの障害として宇宙用キメラの存在は無視できない。
「だから、試作機には傭兵に乗ってもらい、ついでに露払いもしてもらおう」
 とのカプロイア伯爵の意見があったからだ。
 
 カンパネラ学園が遠く視界に映ったころ、レーダーに反応。
 宇宙用キメラの集団だ。
 比較的大型のそれらは、砲撃態勢をとりこちらを狙っているようだ。
 「露払い」も依頼内容に含まれている。傭兵たちはKVの簡易ブーストを起動し、戦闘速度に移行していった。

●参加者一覧

フィオ・フィリアネス(ga0124
15歳・♀・GP
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER

●リプレイ本文


 カンパネラに向かう8機のKV。そのKVの名は「スフィーダ」
 カプロイア社の開発した最新鋭機である。
「宇宙戦闘デビューが最新鋭機だなんて幸せー♪」
 フィオ・フィリアネス(ga0124)その言葉通り初の宇宙戦。それが最新型で、ということからか、テンションが高い。
「クッ‥‥やはりGがきついですね‥‥」
 逆に櫻小路・なでしこ(ga3607)はかなりきつそうな表情。この前の依頼においてうけた傷がまだ癒えていないのが原因だ。
「無理をするな、櫻小路氏! 安全なところから援護してくれればそれでいい!」
 孫六 兼元(gb5331)はなでしこを気遣うようにそう声をかける。そんな兼元の愛機はオウガ。それに匹敵するほどの攻撃力を持つ新型がどれほどの物か興味があっての参加だ。
「ハヤテが蝶のように舞い蜂のように刺すってなら、スフィーダは先手必勝一撃必殺的な感じ? にゃは。そーゆー浪漫たっぷりなの、あたし嫌いじゃないんだよねっ♪」
 美崎 瑠璃(gb0339)のテンションはフィオに近いか。試作機が気に入って様でなによりである。
「‥‥スペックを見る限りでは悪い機体やないんやろうけど、攻撃面に尖りすぎとんが少々気になりますな」
 瑠璃とは逆に、その尖り方が気になる様子なのは月見里 由香里(gc6651)。攻撃に特化した分防御が疎かになるのは仕方ないことではあるが、やはり一撃もらうとすぐ落ちるようでは不味かろうという事か。
「カプロイアの新型か‥‥こいつは無事にカンパネラまで‥‥」
「ええ、一機も欠くことなく、配送先にこの機体を届けたいですね」
 ヘイル(gc4085)とリア・フローレンス(gb4312)がそう通信で話した時、レーダーに反応。
 その眼前には10体の宇宙用キメラが迫っていた。


 キメラたちが一斉にプロトン砲を発射。禍々しい光が一直線にKVたちへ向かう。
「来ますよ、各機散開!」
 しかし、能力者たちは瓜生 巴(ga5119)の指示で一気に散開。2方向に分かれその初撃を回避する。
 左翼方向に向かうのはヘイル、フィオ、リア、瑠璃の4機。
「思った通り、敵の方が射程は上、か‥‥やだなぁ」
 スフィーダの装甲はフィオの乗るR−01と比べると若干劣る。やはり落ち着かないようだ。しかし、敵がいる以上そうも言っていられない。フィオは簡易ブーストを通常ブーストに切り替え。同時にメテオブーストを使用。出し惜しみの余裕はないと一気に加速する。
「仕掛けるか。ではこちらも‥‥メテオ・ブースト機動!」
 これに追従するのはヘイル。同じく通常ブーストからメテオブーストを使用。ブーストを利用した疑似慣性制御により、横スライドと急上下移動を巧みに使用。これに機体のロールを加えながら回避していく。
 2人は最右翼のキメラをその射程内にとらえる。
「まずはG放電装置だね。いっけー!!」
「目標補足‥‥沈め!」
 連続で放たれたG放電装置。メテオ・ブーストによって得られた加速による命中精度はキメラを正確にとらえ、増大した出力によってその威力を高められた放電効果は対象となったキメラを数発で焼き尽くした。
 その2人を後方から追いかけるリアと瑠璃。
 リアはメテオ・ブーストを起動。照準内にはフィオとヘイルを狙おうとするキメラを補足している。
「敵の数は‥‥できる限り減らしていかないと‥‥」
 自機に注意を向けていない敵に直撃させるのは容易い。覚醒により集中力を増したリアは、G放電装置を連射して確実にダメージを与える。
 しかし、敵の方が数が多い。当然ながらリアを狙おうとするキメラも存在する。攻撃後は少なからず隙が生じる。
「っと‥‥砲撃なんかさせないよっ♪」
 これをカバーするのは瑠璃。リアの隙を埋めるようにキメラに対しG放電装置で牽制をかける。これによりキメラの砲撃は照準にぶれが生じる。
「そう簡単にあたるわけにはいかない、回避させてもらいます」
 加えてリアはヘイルと似た、疑似慣性制御を利用した複雑な機動により敵の攻撃を回避する。
 このままリアは瑠璃に背中を預け、さらにキメラに接近していく。
 ブーストとメテオ・ブーストという奥の手を使い切ったフィオは、同様に突っ込んできていたヘイルを支援。とはいえ、ヘイル機もメテオ・ブーストを使用済みで練力に余裕はないが。
「G放電装置の次はライフルで。効果はどんなものだ‥‥?」
 ヘイルは先ほどG放電装置を使ったので、今度はライフルで近場の敵を狙う。ブースト無しでも攻撃に関わる性能は飛び抜けた機体だ。砲撃態勢のキメラでは早々避けることができず、確実にダメージを与える。
 キメラに対し効果が高い方をメインで使う予定だったが、ダメージはそう大差ないようだ。これにはG放電装置の方が威力が低いという事も影響しているのかもしれないが。
 ともあれライフル弾を当てたキメラは虫の息。それを後方から支援するフィオが確実に仕留める。
 懐に飛び込んだリアはライフルで着実に敵にダメージを与えていく。が、懐に飛び込んだからこそ敵に狙われる場面も多い。
 しかし、リアは射線軸に敵が入るような機動をとることで敵の攻撃頻度を抑える。
 瑠璃はそんなリアをライフルで支援しつつ切り札を使うタイミングをうかがう。
(ゴールド団長みたく縦横無尽に、とはいかないかもしれないけど‥‥)
 この機体の性能を、少しでも引き出したい。そう考える瑠璃の視界に入ったのは、味方もろともリアを撃ちぬこうとプロトン砲の発射態勢に入っているキメラ。しかし、その状態は隙だらけ。
 やるなら‥‥今!
「ブースト・オン! 行っけぇ! 必殺、瑠璃色流星アターック!」
 切り札のメテオ・ブースト。瑠璃は加速しつつライフルでキメラを撃ちぬくと、止めのG放電装置をお見舞い。当たり所が悪かったか、キメラは瞬時に撃破された。
 こうして左翼班は当初予定通り2機1組を維持しつつ、早期に敵の数を減らすことに成功し、戦闘を極めて有利に進めた。
 

 一方、右翼方向に向かった4機。
 巴は通常ブーストで1直線に加速しつつメテオ・ブーストを起動。敵はすでに1射目を放った。2射目が来る前に打撃を与えたい。
 初撃はライフル。増加した機体速度も合わさったか、高速の弾丸は過たずキメラに直撃。しかし、それで終わりではない。
 巴はキメラとすれ違いざま機首を下げ、機体を前転させるかのような機動をとる。大気圏内であれば失速ものだろうが、ここは宇宙。その上ブーストによる疑似慣性制御もある。機体は巴の思惑通り、キメラの後方を捉える。そこから放たれるG放電装置は、まさに必殺の一撃。キメラは瞬く間に撃墜された。
「おお、やるじゃないか瓜生氏! どれ、ワシも行くぞ!」
 巴に続くのは兼元。ブーストで敵集団に突っ込み乱戦状態を作り出す算段だ。
 ライフル弾をキメラに叩き込みつつ乱数加速で緩急をつけ突撃。さらに上昇下降にジグザグ機動と、なかなかに無茶な動き。この動きは回避だけが目的ではない。目立つ動きをすることで敵の注意を引き付ける狙いがある。
(敵がワシを注視すれば、仲間も攻め易かろうからな)
 その思惑通り、敵は目立った動きをする兼元を狙う。
「そっちだけ見とったらあかんな。隙だらけや」
 兼元に注意のいった敵に対し、由香里はメテオ・ブーストを使用して接近。向上した機動性を活かして資格を突きライフル弾を連射。
「こんな状態ですが‥‥なんとか援護位は‥‥!」
 由香里に続くように、なでしこも援護に入る。重体の身を押しての参戦だ。身体は加速のGで悲鳴を上げているが、1人だけ足手まといになるわけにもいかない。
 なでしこはG放電装置を射程ギリギリで放つと、簡易ブーストによる疑似慣性制御で即座に間合いを広げる。
 この2人の攻撃で、また1体キメラは撃墜される。
 しかし、いまだ敵の数の方が味方より多い。反撃してきたキメラのプロトン砲が由香里、そしてなでしこを狙う。
 巴はそれを見て即座に援護射撃。敵との相対距離をレーダーで確認。あとは敵の見た目で距離感はイメージできる。援護の為に放たれたG放電装置で敵の動きがぐらつく。
 射線がずれたプロトン砲を、メテオ・ブースターを使用中の由香里は難なく回避。
「なるほど。これくらいなら無難に避けられる機動性はちゃんとあるんやな」
 なでしこも同様に、回避のためにメテオ・ブースト起動。その加速はより一層なでしこの体を痛めつける。
 コクピットで苦悶の表情を浮かべながらも、なんとかプロトン砲を回避するなでしこ。だが、今の状態ではそう何度も避けられるか分からない。
「‥‥申し訳、ありません‥‥先に離脱します」
 悔しそうに歯噛みしつつも、試作機を落とされるわけにはいかないとなでしこはメテオ・ブーストの効力が残っている間にカンパネラ方面へ離脱した。
 キメラもその動きを捉えており、逃がしはしないとプロトン砲の照準をなでしこに向ける。
「ちっ‥‥仲間をやらせはせんぞ!」
 それを確認した兼元はとっておきだったメテオ・ブーストを起動。キメラに向かう。
 追撃をかけようとするキメラだが、兼元は加速して振り切る。加えて、巴と由香里がライフル、G放電装置で牽制し押しとどめる。
 なでしこにプロトン砲を放とうとしていたキメラは兼元の接近に気づき狙いを変更しようとするが、時すでに遅し。
「この1撃、受けてみるがいい!!」
 すれ違いざまにライフル射撃をキメラに打ち込むと、駆け抜けると同時に180度ターン。巴の機動と似ているが、こちらは横。ドリフトするようにターン。そのまま切り替えしていくように再び接近してライフル弾を撃ち込む。直撃を受けたキメラは爆発、四散した。
 この時点で敵の数は味方のほぼ半数。味方も練力をかなり消耗してはいたが、倍する数で倒せないほどの強さはキメラにはなく、それから20秒もたたずに敵は殲滅された。
 試作機であるスフィーダへの被弾もほとんどなく、予想できる最良の結果となった。
 

 カンパネラに到着した能力者たちは先に向かっていたなでしこと合流。KV損傷に伴う怪我の治療を行った。といって、かすり傷程度であり、さほど治療に時間はかからなかった。
 その後能力者たちはカンパネラ学園の会議室に通される。試作機の簡単な感想などを聞かれた後、この機体に合った推奨装備について意見を頼まれた。
 フィオはある程度の範囲の空間を制圧できる兵装を推した。
「目くらまし程度の威力でいいから、今回みたいに迎撃態勢取ってる敵に近づく時に有効かなって」
 となると、K−02ミサイルやグレネード系統の装備になるのだろか。どちらにせよ有用性は高そうに思える。
 なでしこの提案するのは非物理射撃兵装。戦闘機時はライフル、人型時はポールウェポンとして使用するものだ。
「ライフル時は練力消費をしないカートリッジ式弾。ポールウェポン時は知覚系の刃を生成するといった感じですね」
 由香里は兵装スロットの少なさがこの機体の最大の欠点だと述べる。
「せやから、戦闘機形態の時には射程も長く装弾数の多い誘導弾を載せるんが、この機体の特性を生かす手や思いますわ」
「そうですね。後は、戦闘中に再装填可能な中〜長距離宇宙用兵器がまだ実弾兵器だけなので、レーザーライフルWR−01Cの宇宙版があれば、今回の試作機みたいに少ない兵装スロットでも多目的に運用し安く様になると思います」
 由香里に続いて意見するリア。
 なでしこや由香里、リアは提案する物こそ違えど、思考には大きな差は無いように思われた。やはりネックになるのは搭載できる兵装の少なさにあるのだろう。
 そういった継戦能力を重視した意見に対し、巴は逆の方向での意見を出す。
「性能的に、1発撃っては往復する雷撃的役割もアリじゃないでしょうか」
 彼女の出した案は、その名も穿孔爆雷「ディオランチャ(神槍)」
 1発限定短射程威力特化のミサイル兵器だ。
「私も、推奨装備案としては、敵艦や敵攻撃衛星攻撃用の大火力兵器はどうかなって」
 瑠璃も、弾数1発しかないが高威力のミサイルを提案。敵の砲火をメテオ・ブーストでかいくぐって肉薄、切り札のミサイルを叩き込んで離脱。といった運用は確かにスフィーダに合っていると思われる。
 これはヘイルも同様。高火力短期決戦を突き詰めるべきとの意見を出した。
「ただし、行動に支障をきたさないもので頼む」
 との意見が付け加えられてはいたが。
 最後に意見を出すのは兼元。
「やはり、カプロイアと言えばソードウィング系の装備が欲しいな!」
 ソードウィング‥‥整備士泣かせの装備である。兼元の述べる、装備負荷も少なく飛行・人型両面で格闘武器を使えるというのは確かにメリットにはなるだろうが‥‥宇宙では人型形態での戦闘も難しくない。少なくとも大気圏内と比べればその有用性は低くなるだろうと社員は推測した。
「‥‥ただ、伯爵は好きそうですし、提案はとかく上に挙げてみるとしましょう」
 最後に社員は念を押すように、必ずしもすべて採用できるとは限らない旨を伝え、この場は散会となった。
 
 こうして、カンパネラ学園に数機の増援が無事届けられたこととなる。
 これらは寡兵ではあるが、大規模作戦の趨勢を大きく左右することになる。


 ‥‥かもしれない。