タイトル:【AS】挑戦者駆けるマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/05 09:28

●オープニング本文



 宇宙とは未知の戦場である。

 であれば、そこに向かう宇宙用KVとは何か。

 それは未知の恐怖に立ち向かう挑戦者であるといえるのではないだろうか。

 そんな機体を、我が社が率先して開発しないでどうするのか!


 グリーンランド上空。
 カンパネラ学園からヨーロッパの本社へ試作機を空輸する際、それは起きた。
「どうだ?」
「‥‥まぁ気づかれてるでしょうね。この距離では逃げようにも‥‥」
 この方面は以前の大規模作戦の影響などで安全面は他と比べて確保されているはずであった。しかし、そんなところにふっと湧いて出たかのように敵影が発見された。進路は、アメリカ方面か。
 現在アメリカ方面では大規模作戦が進行中だ。温存していた戦力を援軍に向かわせている、といったところだろう。
 この時点で救難信号はすでに出してある。が、敵との距離はそう遠くない。
「仕方ない、試作機に傷をつけたくはないが‥‥」
 この輸送機には、試作機以上に重要な「人物」が乗っている。救援が間に合わなかった時の為に試作機を出撃させ、輸送機の護衛にあたらせるのが良いだろう。
 それに、試作機の大気圏内における実戦テストになると思えば‥‥まぁ悪いことばかりでもない。
 そう考えた社員は試作機のテストパイロットに出撃を要請‥‥
「‥‥え? 一番機が出撃したそうです!」
「何? パイロットは誰だ!?」
 テストパイロットは全員ここにいる。能力者はここにいる3人だけのはずだから、他にKVを動かせるのは‥‥
 いや、一人いる。この状況下では絶対に出撃させてはいけない能力者が一人。
「ま、まさか‥‥伯爵!?」
『何を言っている! 私の名は‥‥ナイト・ゴールド!』
 通信から届いた声を聞き、社員は愕然とする。その声は想像した通り、カプロイア伯爵。いや、今はナイト・ゴールドのものだった。
『諸君の危機、この私が見事切り抜けて見せよう! 安心してくれたまえ!!』
「あ、ちょっと‥‥!」
 言うが早いか、試作機はHWを感知した方向へと飛んでいく。
 通信を送ろうにも、通信は切られて‥‥いや、これはジャミングの様だ。
 一瞬の自失。しかし伯爵のこういった行動には慣れっこの社員たちはすぐさま取るべき行動を取る。 
「とにかく、二番、三番機も出撃! 伯爵‥‥いや、ナイト・ゴールドを護るんだ!」
 先も述べたように、大規模作戦の最中でもある。出撃態勢をすぐにとれるようどこの基地でも準備しているだろうし、すぐに救援が来る‥‥はずだ。
 カプロ‥‥ナイト・ゴールドに遅れること数十秒、残り2機の試作機も出撃していく。
 出撃してしまった以上、それまで時間を稼いでもらうよりほかない。
 
 宇宙用KV「KSF-001 スフィーダ」
 
 「挑戦」の名を持つあの機体なら、きっと何とかしてくれる。
 カプロイア社社員は飛び去る試作機の姿を見つめ、そう信じた。
 信じるより他なかった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
ミク・ノイズ(gb1955
17歳・♀・HD
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
ユリア・ミフィーラル(gc4963
18歳・♀・JG

●リプレイ本文


 抜けるような青い空の下、8機のKVが飛ぶ。
 正面方向、およそ2000mの地点ではすでに10機のHWと傭兵たちのものではないKVが3機、交戦状態に入っていた。
「あれがカプロイアの試作機? 相変わらずっゆーか流石ってゆーか‥‥」
 白銀に輝く機体を見て、実にらしいなと、美崎 瑠璃(gb0339)は苦笑する‥‥が、見とれている場合じゃないとすぐに気合を入れなおす。
 事前の情報で敵の動きはある程度キャッチできている。HWはCWを囲むように円陣を組んでいるらしい。
 そこで、能力者たちはまずHWに一撃を加え円陣を崩し、空いた穴から一部が突入しCWを殲滅する、という作戦を立てていた。
『さて、早々にお仕事を片付けてしまいましょう』
 通信機を通して響く櫻小路・なでしこ(ga3607)の声‥‥は、ジャミングによって途切れ途切れにしか各機に伝わらない。しかし、このタイミングでかけられる言葉は大体皆予測がつく。
 各機は作戦に従いブーストで加速。それぞれがCWのジャミングによる頭痛に耐えながら、役割に従い敵機に接近していく。
「カプロイアの新型ね‥‥毎度ながら尖ってそうだな」
 そうコクピットで呟いたミク・ノイズ(gb1955)。彼女だけは通常速度で移動を行う。他機の後ろから敵全体の動きを観察する算段だろう。
「CWを落とすにも、まずは邪魔なHWからだな‥‥速やかに殲滅するとしよう」
 最初に仕掛けたのは、能力者たちの中で最も早く敵を射程に入れた榊 兵衛(ga0388)の忠勝。
 超伝導アクチュエータを起動させた際の機動性は最早雷電と言っていいものなのか。そして、そこから放たれた小型ホーミングミサイルはCWのジャミング下であるにも関わらず、吸い込まれるように命中していく。
 この攻撃で、HW達の動きが乱される。
(予想通り。上手くいったな)
 HWは無数のミサイルを回避しようとし、しかし回避しきれず次々被弾していく。これでは陣形を維持するのが困難だろう。兵衛の攻撃はそこまで計算に入れた上での攻撃だった。
「足並みを合わせて‥‥こちらも仕掛けます!」
 その攻撃に続いたのは長射程ミサイルであるドゥオーモを持つなでしこ。爆発の代わりに放電を行うこのミサイルは、G放電装置の様な非物理兵器だ。CWのジャミング下ではその効果を大幅に減じる‥‥はずだった。
 しかし、なでしこはSESエンハンサーでそれをカバーする。兵衛のミサイルに続いて100発ものミサイル攻撃を受けたHWは、一瞬のうちに爆散した。
 兵衛達の攻撃に続くように、他の能力者も接近しつつ波状攻撃を仕掛ける。
「囮役も兼ねて派手にいきますよ!」
 守原有希(ga8582)はブースト状態からオーバーブーストを起動。スルトシステムに制御されたSES200エンジンがその力を解放する。
(動物も本能で使う堅固な陣。なら知恵も力も全力を‥‥!」)
 そんな意志を持って放たれるロケットランチャー。その威力は凄まじい。
「さすが‥‥と言ったところか。私も負けていられんな」
 後を追うように仕掛けるハンフリー(gc3092)。使うのはAAEM。兵衛のお陰で敵が混乱しているため、攻撃を当てること自体は容易い。
 しかし、CWがいる影響で非物理攻撃はなでしこ機ぐらいの高威力でなければ通りづらい。
 それならばと、ハンフリーはガトリング砲での追撃に切り替え。ミサイルと同レベルの有効射程を持つガトリング砲は、確実にHWの装甲を削り取っていく。
「ここで時間はかけられないからね。一気に行くよ!」
 4人がミサイルをはじめとした長射程武器で仕掛ける中、瑠璃とドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)、そしてユリア・ミフィーラル(gc4963)は乱れに乱れた敵陣へ飛ぶ。
 ユリアは宙空スタビライザーAを起動。飛躍的に増した機動性を活かし、敵陣に突撃。敵の注意をこちらに向けることが目的だ。
 無論ただ突っ込んでくるのを敵が見逃すはずもなく、攻撃の手をユリア達に向けようとする‥‥ことはなかった。敵はミサイルを避けるのに精いっぱいだったのだ。
 この間に瑠璃とドゥは敵中を駆け抜けCWに向かう。
「チャンスだね‥‥この一撃は、強烈だよ!」
 ガトリング砲で牽制しつつHWに接近したユリアは、スレイヤーの真骨頂である空中変形を行うとともにエアロサーカスを起動。空中にもかかわず放たれた剣閃は言葉のとおり強烈。一太刀でHWを切って捨てた。
 さらにミサイル、ロケット弾、ガトリング砲が立て続けに放たれる。
 HWはその攻勢に耐えきれず、次々と墜落していった。


 援護を受け、瑠璃とドゥが敵の円陣を突破、CWまで駆け抜ける。
「CW補足! 仕掛けます!」
「射程内、撃ちぬくよ!」
 CWのジャミングにより当然の如く通信は聞かない。しかし、ここまで来たらやることは一つ。CWを叩き落とすのみ。
 2機のKVからほぼ同時に放たれたライフル弾がCWの柔らかい装甲を容易に撃ちぬく。そのジャミング能力は強力なCWだが、戦闘力は極めて低い。その攻撃を受けて飛行することが出来なくなったのか、緩々と落下していった。
 CWは2機。片方が落とされたのをみて、もう片方のCWは逃げようと機動を取る。
「逃がすと思ってるのか?」
 しかし、当然ながらそれを許すはずもない。味方の攻撃で防衛網はすでに穴しかない。
 敵の対応を確認していたミクがブーストを起動。CWの進路に割って入るように急接近。ブレスノウにより敵の動きを予測しつつ、ミサイルポッドを使用する。無数の小型Gプラズマミサイルによって、盛大な放電現象が発生する。しかし‥‥
「‥‥倒し切れないか」
 CWの数が一つ減ったといってもジャミングが消えたわけではない。そしてミクの使ったミサイル、GP−02Sは非物理兵器であり、同時にマルチロックオン機能の代償か威力が低い。かなりのダメージは与えられたはずだが、撃墜には至らない。
「まぁ、それならこれを使うだけだがな」
 ミクはすぐさま使用武器をショルダーキャノンに変更。
 ブーストによる慣性制御を利用した瑠璃、ドゥも攻撃を合わせる。
 当然ながら避けることは不可能。CWは銃弾、砲弾を受け粉みじんに吹き飛んだ。
 この時点でジャミングは消失。頭痛も掻き消える。同時に、試作機から通信が届く。
『援軍か。助かるよ』
「は、伯しゃ‥‥じゃなくてゴールド団長っ!?」
 伯しゃ‥‥ナイト・ゴールドと面識がある瑠璃は、その声の主が誰であるかすぐに分かった。これにより試作機のパイロットが誰か判明。それを知った面々の反応は様々だ。
 ハンフリーなどは「何故こんな所に伯しゃ‥‥ナイト・ゴールドが? 全く神出鬼没な御仁だな」と驚いた。ナイト・ゴールドと言い直すのは最早予定調和である。
 一方ミクは溜息混じりに「まぁ、大体予想通りだな‥‥」とつぶやいた。
 ともあれ、ナイト・ゴールドをそのまま戦闘に参加させておくのは危険だ。
「‥‥とにかく、団長! 瑠璃色の騎士・美崎瑠璃、援護させていただきますっ!」
「此方ワシントンより帰った傍客観者のトゥオマジア(使い魔)! 敵を排除し新機体を護衛します!」
 そういうと2機が護衛の為に動く。
『このままでは輸送機も危険です。ナイト・ゴールド様はそちらの離脱支援をお願いします』
 2発目のドゥオーモを放出しつつ、なでしこはそう指示を出した。
『ふむ、了解した‥‥だが、その必要はないかもしれないよ?』
 その通信と同時に、3機の試作機から無数の小型ミサイルが発射された。CWが撃墜されるまで温存していたのだ。
 そのミサイル総数は‥‥1500発。
 無数の爆発が空に轟く。そして爆煙が晴れた先には、息も絶え絶えのHWが5機。これはチャンスだ。
 兵衛はUK―11AAMの使用を解禁。敵はすでに瀕死の状態だが手心は加えず、確実に落としにかかる。
「この調子なら練力の心配はなさそうかな。一気に落としていくよ!」
 人型形態を維持し続けるユリアは、そのミサイルによる援護を受けながら、エアロサーカスを使用。接近し機剣での斬撃を与えていく。
「我が信念の如く超えて断ち切れ、Exceed Divider!」
 ここまで来たら遠慮は無用。有希も宙空変形スタビライザーを使用し、手近なHWにヒートディフェンダーで渾身の一撃を叩きこむ。
 他方、ミクはこの状況でも油断をせず、回避を中心とした立ち回りを心がける。とはいえ、敵の攻撃の手は緩い。損傷が甚大だからか、敵の方も回避を優先しているようだ。
「‥‥やれやれ、これじゃ話にならんな」
 そういうと、ミクはブレスノウを使用したホーミングミサイルを発射。CWのジャミングも無い状況だ。攻撃は容易に当たり、爆発を起こした。
「こいつで最後だな。我が牙の餌食となれ!」
 最後に残ったHWは逃げようとするが、ハンフリーはここまでの短い戦闘の中でも、敵の動きを十分に把握している。敵の撤退方向に回り込むと、アグレッシブファングにより出力を上昇させたリニア砲を使用。一撃で止めを刺した。
「‥‥騎士殿の言った通り、もう撤退支援は必要ないな」
 そう、兵衛は呟いた。この時点で敵部隊は全滅。能力者が接敵してから、まだ20秒が経過していなかった。


 ブーストで突っ込んでいったことで敵の注意が逸れたのが良かったのか、あるいは初手のミサイルによって敵の態勢が崩されたからか。はたまた敵がそもそも弱かったのか。ともあれ試作機は無傷であった。
 だが、一歩間違えれば大変なことになっていた可能性もある。
「何もするなとは言わんが、立場をわきまえてもらいたいね。ドロームのようなゴタゴタは面倒すぎる」
 だからこそ、基地までの飛行の途で、ミクはそうナイト・ゴールドに言うわけだが‥‥
『私は一介の傭兵なのでね。だが、伯爵にはそう伝えておくよ』
 という具合である。この調子ではまた同じことをやらかしそうである。
「騎士殿が勇敢であることは分かった。だが、部下に任せるべきところは任せるのもまた大度だと思うのだがどうだろうか」
「ナイト・ゴールド様、皆様にご心配をおかけしない様にしてくださいね」
 兵衛となでしこは、あくまでナイト・ゴールドに対して、という体で意見を行う。これには『善処するとしよう』との返答が返ってきた。まぁ彼も人の上に立つ人物なのだから、大事なところはちゃんと弁えているはずだ。各々そう思うことにした。

「それにしても、この性能に外見‥‥さすがはカプロイアだね」
 基地についてから、ユリアはコクピットから銀色の試作機を眺め、そう感想を述べた。
 開発全社制覇を目指す有希なども興味があるようで、見学を申し込んだ。しかしそれは機密にかかわることだからか、輸送機に乗った社員の方からNGが出た。
「‥‥あ、団長!」
 ユリアらが残念がっていると、瑠璃が急に敬礼をした。その先には、いつからそこにいたのか、伯しゃ‥‥ナイト・ゴールドがいた。今回の戦闘での労をねぎらうために来たというナイト・ゴールドは、その時いくつか試作機について教えてくれた。
「言うまでもないが、これは宇宙対応KVだ。性能はさっきの戦闘で少し見れたかな? 攻撃性能に特化している。価格はそうだね‥‥大体ハヤテと同じくらいになるかな」
「ハヤテと同じ‥‥? カプロイアにも低価格機が作れたのか。低価格機を作れない星の下に生まれてきたのだとばかり思っていたぞ」
 冗談めかして言うハンフリーの言葉に一時の笑いが起きる。
 だが、同時に彼らはこうも思った。情報をあっさりと教えてくれるということは、それがどうせすぐに知れることだからだろう。つまり、この機体を傭兵が手に入れるようになるまで、そう遠くないという事を示しているのではないだろうか、と。
 帰り際、ドゥはナイト・ゴールドに握手を求めた。
「僕も新しいKVの案を考えているんです。案が完成したときは、ぜひ貴社に提供したく思います」
「その時を、楽しみにさせてもらうよ」
 そう言って二人は握手を交わしたのだった。