タイトル:【OF】後背からの刺客マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/17 22:58

●オープニング本文



 OF隊による強行偵察は、犠牲を出しながらも十分な成果を上げていた。
 迎撃衛星。その砲台の性能と、自己再性能。衛星を守護すべく存在する多大なワームとキメラからなる戦力。
 人類は、それら全てを打破する矛を必要としていた。その中核となるのが――ブリュンヒルデIIだ。同機体は、暫し改修作業の為に前線から離れていた。
 全ては、ソラへの足掛りを築くために。
 本来なら、宇宙用の戦力がより充実した時期に決行すべき作戦である。
 だが、北米から宇宙にあがったというギガワームの存在が決行を急がせた。看過すれば、軌道衛星迎撃網に加えギガワームが人類の頭上を押さえる事になるからだ。

 そうして今日、この日‥‥宇宙用の改修が施された同機を中心に、今回の作戦は設定された。

 軌道衛星を破壊するに当たり、障害が三つある。
 一つ、人類の動向に対応し高高度領域まで高度を下げてくる戦力。
 二つ、低軌道領域に存在する戦力。
 三つ、同要塞が保持する戦力。
 そのいずれも虎の子であるブリュンヒルデIIを十全に機能させるにあたり大きな障害であった。
 故に人類は、それぞれに対する矛を用意し、本作戦にあたる必要がある。
 どの段階でも、局地的な勝利を十全に約束されている訳ではない。
 危険は大きく、失敗は即ち、死に繋がる。
 それでも、本作戦の通達を受けたマウル・ロベル中佐はその任務を一分の恐れも見せる事無く受け入れた。

 元より、果たさねばならない作戦でもある。
 それに――これまでに流れてきた血と、そこに籠められていた想いを思えば、恐れを抱く道理も、無かった。


「後方から敵襲!?」
「はい、小型の攻撃衛星が接近してきています」
 ブリュンヒルデIIクルーである士官は頭を抱えた。
 現在ブリュンヒルデIIは大型の攻撃衛星へ攻撃を仕掛けようとしているところだ。Dレーザーの照準は無論正面を向いているし、G5弾頭も正面の衛星を攻略するために発射準備を整えている。
「ブリュンヒルデII自体を後方に差し向けることはできん。さて、どうするか‥‥」
 いや、実のところ手は決まっている。ブリュンヒルデII自体が攻撃できないなら、KV隊に攻撃してもらうしかない。
 作戦もそう難しくない。
 通常ブーストの移動力強化を利用して敵がブリュンヒルデIIを射程に入れる前に接近。
 あとはその位置から敵を進ませないようにしつつ殲滅してもらう。それだけだ。
(問題は、その戦力をどの程度割くか、だ‥‥)
 当然ながら全KVをそちらに回してしまうとブリュンヒルデIIの守りが薄くなり、結果的に落とされかねない。
 かといって、後方の敵を放置しておくという選択肢もあり得ない。
「敵戦力、判明しました!」
 考えがまとまらないところに、部下が新たな情報を持ってきた。それによると、敵は衛星とキメラのみらしい。キメラの数はそれなりのものだが、HWなどのワームは存在していない。
「‥‥ここは、傭兵に行ってもらうか‥‥」
 結局、士官はそう結論付けた。
 正規軍の機体は本命に温存しておきたい。加えて傭兵の機体は正規軍の物より強化されている場合が多い。多少機数的に厳しいとしてもなんとかなる。いや、何とかしてもらうしかない。
 そう決断した士官は、傭兵たちにブリーフィングルームに来てくれるよう連絡した。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文


 能力者たち8名は、後方に発見された敵に向かいブーストを使用して接近、その足止めの為に動いていた。
「初の宇宙戦は敵大型衛星攻撃になると思っておりましたが‥‥」
『でも、このまま放っておいたらブリュンヒルデが危ないですからね』
 里見・さやか(ga0153)の呟きに、井出 一真(ga6977)が通信でそう答えた。敵の挟撃を防ぐのは戦術上も定石。それはさやかも当然の如く理解している。だからこそ「求められた勤めを果たしましょう」とさやかは気合を入れる。
「遂に来た‥‥この時が‥‥」
 気合が入るのは終夜・無月(ga3084)も同じようだ。初の宇宙戦だからというのもあるのだろうか。
「宇宙か‥‥まさかこのような場所で戦うことになろうとは‥‥」
「初めての宙間戦闘ですが、生きて任務を達成して見せます」
 同様、シャーリィ・アッシュ(gb1884)や番場論子(gb4628)も宇宙戦闘は初めての様だ。しかし、彼女たちも歴戦の傭兵である。未知の宇宙戦であってもきっと対応できることだろう。
「30秒程度しか戦えないシステム‥‥欠陥的な気がしますが‥‥物好きですね、私も‥‥」
 BEATRICE(gc6758)の駆る機体はロングボウ。宇宙用機体ではないため、やはり練力の面で不利なのは間違いない。しかし、それでもこの機体に乗る。それは物好きなのか、それとも愛ゆえか‥‥
「エルシアン、やっと宇宙まで来たね。君の宇宙用フレームもかっこいいよ」
 と、自分の機体を愛でるように言うのはソーニャ(gb5824)だ。彼女の機体もやはり宇宙用KVではない。
 しかし、こちらは特に不安に感じてる部分はないようだ。その点は無月も同じだろうが。
「とうとうここまで来たんだ。今更邪魔はさせてなるものか‥‥!」
 ヘイル(gc4085)は操縦桿を強く握りつつ、小さく呟いた。目標はすでに視界内に入っていた。


 キメラを中心とした敵集団は、こちらに気づいていないのか、攻撃の素振りを見せない。
 あるいは近づいて射程が狭まったところを一気に殲滅する腹なのかもしれないが、そんな暇を与えるつもりはない。速度を活かして一息に射程まで踏み込み、先手をとる。
「まずは質より量でご挨拶、というこうか」
『ですね。キメラを速やかに退治できれば衛星に回ることが出来る人も出るでしょうし‥‥いつでもどうぞ』
 ヘイルの言葉をうけ、BEATRICEがそう促す。
『了解、タイミング合わせ! コンテナ開放!』
 一真の合図とともに、BEATRICE、論子、ソーニャ、それぞれが、所持するマルチロックオン兵器を発射する。
 その発射されたミサイルの総数‥‥数えることも馬鹿らしい。それほど大量の攻撃。まさに宇宙に降る豪雨、あるいは吹雪といったところか。
 これといった迎撃手段を持たないキメラは、それでもその攻撃を回避しようとするが、勿論避けきれる筈もない。次々に被弾していく。
「避けようとしても無駄だ。仲間の邪魔はさせない‥‥!」
 さらにヘイルが時間差でミサイルを発射。キメラの被弾率はさらに加速していく。
 初撃に放たれたミサイルがあらかたその威力を発揮し終えた時点で、キメラの数は半数まで減っていた。
 衛星までの突入には十分すぎる。
「‥‥よし、突入しましょう」
 敵数減少により開いた穴から無月、シャーリィが突っ込む。キメラがその穴を埋めるために動きを見せた。
「そうはさせませんよ!」
 しかし、同様に突入を試みたさやかが牽制のミサイルを放ち、その動きを制する。これにキメラが怯んだ隙に3人は衛星に肉薄する。
「よし、衛星はあっちに任せて俺たちはキメラを‥‥!」
『了解した。援護は任せて貰おう、存分にやってくれ」
 そう言うが早いか、一真はヘイルの援護を受けつつキメラに接近。
 キメラはフェザー砲で反撃してくるが、一真の蒼天号はかなりの回避性能だ。そう簡単には当たらない。
「宙間戦闘は初めてだけど、やってみるだけだ!」
 間合いに踏み込んだ一真は蒼天号を変形させる。変形の瞬間は無視できないレベルの隙が発生したものの、そこは後方から支援するヘイル。
「なかなか無茶をやる‥‥だが、存分にやってくれと言ったのはこっちだしな」
 苦笑しつつもライフルを斉射。敵の動きを制するように撃ち、攻撃を許さない。
「こちらも援護に入ります」
 さらに、BEATRICEがミサイルポッドを使用。BEATRICE機は宇宙用KVではないためブーストに回す練力で他機と比べ戦闘可能時間が限られているが、その火力と命中力は無視できない。ミサイルによる弾幕で敵を自由にさせない。
 変形した一真は同時に装甲をすべてパージ。通常時でも敵の攻撃は命中しなかった。ならばパージしたことによって得られる手数を活かす。
 機動性を増した一真。ブースター、スラスターを制御。簡易ブースターの恩恵も得た立体的機動により、キメラの攻撃をかわしつつその死角に回り込み、ハルバードを振るう。
「そんな動きで! 蒼天号を捉えられると思うな!」
 その速度に対応しきれなかったキメラはその身を微塵に刻まれる。
 一真が攻撃した直後の隙を突くように、別のキメラがフェザー砲で狙う。
「よそ見は禁物、ってね」
 しかし、ヘイルがそれを許さない。彼のライフルによってキメラはハチの巣にされ、逆に撃破された。
 ソーニャは、キメラに向かい一気に突撃していく。宇宙用機体ではないソーニャのエルシアンだが、ブーストさえ使えばその差は無いに等しい。
「行け、エルシアン! 高速で駆け抜けろ!!」
 接近するソーニャを狙ったキメラの攻撃、フェザー砲だろう。しかし、エルシアンには当たらない。ブーストを活かした高速移動と機体のロール。これにより生み出された螺旋を描く機動により機体を射線から瞬時に外す。
「この攻撃からは逃げ切れないよ!」
 ソーニャは攻撃を回避しながらキメラに接近。G放電装置を撃ちだす。アリスシステムの影響で非物理性能が減少している、というのを感じさせない程の威力。さらに怯んだキメラに対して追い打ちのミサイル。
 周囲のキメラも巻き込んで爆発を引き起こす。
(ずっと、続いているんだ‥‥)
 ソーニャはブリュンヒルデに思い入れがある。ブリュンヒルデがまだIIではない時、その最期にも立ち会った。
 だから、ブリュンヒルデIIがその名と、思いを受け継ぎ飛ぶなら、それは嬉しいと感じる。
「だから! ボクに出来る精一杯を!」
 爆発から抜け出したソーニャは、疑似慣性制御により機体を急速反転。最初に攻撃を仕掛けたキメラの姿は視界の先にはすでにいない。他のキメラもエルシアンの姿を見失っているようだ。
 ミサイルはすでに無いが、まだG放電装置も、レーザーも残っている。
 ソーニャは、再び突撃を敢行した。
 その戦闘を、巧妙にキメラの射線上から逸れつつ観察する論子。ソーニャが撃ったミサイルはマルチロックオン機能を持つGP−7。最大対象は3。
(‥‥であれば、攻撃を受けたキメラはもう一匹いたはず)
 慎重にレーダーを確認する論子。敵影はすぐに見つかった。
 その姿を射程内に収めると、ミサイルを放ちキメラがソーニャを狙わないよう誘導しつつ、ライフルの照準を合わせる。スラスターで機体位置を微調整。
「目標確認、狙撃にて撃破します」
 放たれた弾丸は過たずキメラに直撃。態勢が崩されたところに数条の光が吸い込まれるようにキメラに命中する。ソーニャのレーザーだ。避ける間もなくその身を焼かれ崩れゆくキメラ。
「残り練力も乏しいですね‥‥撃ち尽くす気でいきます」
 残りの敵数はそう多くない。練力も少なくなってきたBEATRICEは残ったマルチロックオンミサイルを順次発射していく。ミサイルキャリアの名は伊達ではないようだ。
 キメラたちは逃げ回るので精一杯。いや、逃げてどうにかなる数ではない。攻撃はどんどん当たる。
「これは、キメラの方がかわいそうでしたかね‥‥」
 ミサイルの奔流が止んだとき、すでにレーダー内に感知されるキメラは存在していなかった。


 5人がキメラを抑えてる間に、3人は衛星に肉薄していた。
 衛星は無数のフェザー砲を稼働させ、その接近を妨げようとする。しかし、接敵した能力者たちの動きはスムーズだ。
「そんな攻撃に当たってやるわけにはいかんな‥‥ラージフレアを展開する!」
 シャーリィはラージフレアを使用、衛星の重力波レーダーを攪乱することで攻撃を回避。そのまま敵衛星に接近していく。
(狙いは‥‥あの推進器)
 衛星の後方に回り込み、推進器と思しき個所を発見。当然衛星側も防御の為に弾幕を張る。
「まだ完全に調整が終わってない状態だが‥‥頼むぞ、アヴァロン!」
 シャーリィはミサイルポッドを射出。面制圧を企図し、ばら撒くように撃り、損傷を負った砲台を今度はライフルで撃ちぬいていく。
 他方、無月は各兵装の射程を維持し、距離を取って戦うことで敵の動作を確認する。
(狙いが粗いですね‥‥これなら踏み込む隙は十分にある)
 しかし無月は油断しない。まずは敵の戦力を削ぐために砲台を順次攻撃する。その火力は尋常ならざるもので、砲台を破壊するつもりで撃った攻撃が、そのまま内部への甚大なダメージへ直結するかのようだ。
「キメラの方は優勢のようですね。こちらも気を抜かず行きましょう」
 さやかはそう言いつつ、弾幕を掻い潜りながら接近。長距離ミサイルの狙いを定める。
(どこか弱点のような場所があればいいんですが‥‥)
 しかし、現状バグア衛星に関する情報は少ない。指揮所のような場所がどこにあるか、までは判断できない。ならば、やはり後方。推進部を破壊して機動力を削ぐのが適切だろう。
 接近、と同時に簡易ブーストによる疑似慣性制御で機体を反転させ、推進機関と思われる場所にミサイルを撃ち込み、反撃を受ける前に再び反転。距離をとる。
「これだけ撃ちこめば多少は‥‥」
『‥‥いや、あれは‥‥』
『傷が、修復しているようですね』
 先のミサイルでのダメージも決して小さいものとは言えない。
 しかし、衛星もただでは落ちてはくれないようだ。彼らには見えたのだ。衛星表面の装甲が徐々に回復していく様子が。
 尤も、それも完全とは言えないらしい。砲台も再生しきれていない部分が多い。
「ならば、接近戦で確実に破壊する!」
『確かに、それが早そうですね。援護は任せてください』
 さやかがミサイル、レーザーで後方から支援攻撃を行う中、無月とシャーリィは衛星表面に取りつかんとする。
 シャーリィは装甲をすべてパージ。機動力を高めつつ、再びラージフレアを展開。一気に加速して、推進機関に接近。
 残った砲台からフェザー砲が放たれるも、密度は先ほどまでと比べ物にならない。
「このぐらいで私とアヴァロンを落とせると思うな!」
 機体を変形させ、衛星表面、衛星推進器周辺に取りつく。
「宇宙でもこれをふれるとは、なんという僥倖‥‥受けろ、これが私の本気だっ!」
 シャーリィはその場でヒートディフェンダーを振り下ろす。
 剣は間違いなく衛星の表面を切り裂き、そこから小爆発を引き起こす。シャーリィはそのまま衛星の表面を滑るように移動しつつ砲台をどんどん破壊していく。
 他方、無月はG放電装置を使用し、取りつかんとする目標地点周辺を焼き、ある程度の安全を確保する。
「これならいけますね‥‥月狼の真の意味を訓えましょう‥‥」
 さやかの援護を受けつつ変形、衛星に取りついた無月は伝家の宝刀、練剣「雪村」を抜き放つ。
 一瞬放たれる強い閃光が、衛星の表面を焼き、内部まで突き刺さる。その場で爆発が発生。
『もう落ちそうです! 2人とも離脱してください!』
 さやかが発した警戒に従い、無月とシャーリィは衛星表面から変形しつつ離れ、飛び去る。
「これで終わりにしましょう‥‥」
 離脱する際、無月は止めとばかりに帯電粒子加速砲を放つ。
 それが引き金となったか、各部での小爆発やスパークの頻度が加速する。


 キメラを掃討した5人が衛星側への援護に向かおうとしたとき、一際大きな爆発が発生した。
 そして、その爆発を背にさやか、無月、シャーリィが戻ってきた。
『これは‥‥援護の必要はありませんでしたね』
 論子が通信でそう呼びかける。
 敵の戦力は決して弱いものではなかった。しかし、今回作戦に参加した能力者たちは誰しも優秀な能力を持つ、歴戦の勇士と呼ぶに相応しいメンバーだった。
 だからこそ、参加者全員の機体に目立った傷もなく敵を撃破することが出来たのだろう。
「これで後ろからブリュンヒルデが狙われることはなくなったわけだな」
『ええ。ブリュンヒルデの方も前の敵に集中できるようになったはずです』
 ヘイルの言葉に、さやかはそう返した。
 こうして、ブリュンヒルデIIに攻撃を仕掛けようとした、後方からの刺客は撃破された。
 無論ブリュンヒルデIIの戦いはこれからではある。
 しかし、後ろを気にせず、前の敵だけを見て戦えるようになったのだ。
 その功績は小さくはない。