●リプレイ本文
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キメラプラントがあると言われている坑道前。
今まさに、能力者たちがその坑道に踏み込もうとしていた。
「プラントを止めた者、か」
「敵の狙いは何なんでしょう?」
敵の姿や目的を考察しているはケイ・リヒャルト(
ga0598)と鐘依 透(
ga6282)。2人は親しい友人だ。
「強化人間や、ヨリシロなんかにも注意が必要かもしれないわねね」
「プラントを止めた理由も気にかかりますね」
大神 直人(
gb1865)は相手が話の理解できる奴なら直接聞くのも一つの手か、等と考えている。
「ヨリシロに強化人間‥‥もしかしたらこれも、俺の身の丈を超えた任務かもしれないが‥‥まぁ、やってみるさ」
ケイ達の言葉に軽くため息をつくのは高坂 永斗(
gc7801) だ。とはいえ、厄介だからと投げ出せないのが傭兵の辛いところ。防寒対策のコートをしっかりと着込み準備を整える。
同じように、防寒用としてマフラーを巻いているのはD‐58(
gc7846) だ。
(‥‥温かい)
尤も、彼女の場合このマフラーはただの防寒具以上の意味を持っているようだが。
「ランタンの準備も良し、と‥‥それじゃ、そろそろ行くか」
麻宮 光(
ga9696)がそう言って皆を促した。確かに、ここで止まっていてもしょうがない。今は一刻も早くキメラプラントを破壊することだ。
「こっちも準備いいわ‥‥しかし、こんな重いものを持つ羽目になるとは、人生はわからないわね‥‥」
ロシャーデ・ルーク(
gc1391)が持つのは1mを超えるアンチマテリアルライフルだ。彼女の経歴から考えると、確かにこんなものを持つことになるなど考えもしかなったことだろう。だが、対物用のこのライフルならプラント破壊に役立ってくれるはずだ。
「この前は嫌ンなるくらいのキメラの大群だったからね。またあれだけの数とやりあうのはめんどくさいことこのうえないし‥‥さっさといって、全部ぶっとばーす!」
明神坂 アリス(
gc6119)も気合十分といったところだ。こうして能力者たちは坑道内へ歩を進めていった。
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能力者は、3つのルートのうち正規軍が通ったAルートを全員で進むことを選択した。
キメラプラントの破壊だけを目標とするのであれば、分散しての行動も手としてはありだった。が、中にはKVを撃破できるほどの戦闘力を持った敵がいると考えられる。であればこの判断も妥当と言えるだろう。
ケイ、透は暗視スコープを装備して暗闇に対応する。尤も、今回はランタンやAUKVのライトなど、光源が豊富にある。その為、少なくとも視界に入る範囲では光は確保できていた。
能力者たちは直人とアリスを戦闘に坑道内を進む。特に直人は探査の目を使用。罠の可能性などを警戒する。
「とりあえず敵はいないみたいだ」
「でも、油断しない方がいいわね」
直人の言葉に対し、ケイはそういって警戒を促す。敵は狼だろうとは予測されているが、その戦力は未知数だ。
ウォォォン―――
さらに奥に進んでいくと、やがて狼の遠吠えのようなものが聞こえた。
「敵‥‥予想より早い登場だな」
永斗がそういうと同時に、ほぼ全員が敵の接近を知覚した。
決して強くはない光の先に、3つの動く生物が見える。それらは走ってこちらに向かってきているようだ。
「来たわね。まずは敵の足を止めるわ」
そういうとケイはガトリング砲を掃射。永斗も援護射撃を行う。
銃撃を受けて、キメラたちはパッと広がる。その姿はやはり狼、それが3匹だ。
直人は攻撃を受けても大丈夫なように防御を固めつつ、キメラの動きに隙がないかを探る。
「これで、どうだぁっ!」
対照的にアリスは覚醒の証である4枚の羽根を展開。敵に飛び込みつつ機械剣を振るう。
しかし、狼キメラは軽く後方に飛びずさりそれを回避‥‥するだけではない。その横から別の狼キメラが飛び込み体当たりをくらわす。
透は体当たりをした狼が着地する瞬間を狙う。
放たれたのは散弾。瞬間的に散った弾丸は回避が難しく、ほとんどをその身に受け態勢を崩したキメラ。
畳み掛けるように直人がエネルギーガンを撃つと、今度は別の狼キメラが「倒れたキメラ」に体当たり。これにより攻撃が外れた、いや、外された。
「この動き‥‥注意しろ、ただのキメラじゃない!」
目の前にいる狼キメラは、たった3匹だ。だが、キメラとしてはあり得ないほどに連携がうまい。
少し離れた位置で戦況を伺うロシャーデ。接近してきたらすぐさま脚甲での一撃を入れてやるつもりだが、敵はロシャーデのいる位置までは深入りしてこない。
(少し時間がかかるか‥‥)
観察する限り、確かに連携もうまく、機動力も高い。が、倒すのは不可能じゃないだろう。ただ、問題はキメラプラントの方。ここで時間をかけたせいで、破壊する前に稼働されたりしたら面倒なことになる。ロシャーデは声を張り上げる。
「もうプラントがある場所まではそう遠くないはず。先にそっちを!」
「そうね‥‥透、ここは私たちが押さえるから先に」
「了解。ケイさんも気を付けて!」
透と、ロシャーデ、アリス、光の4人は当初の予定に従い、プラント破壊を優先。移動補助スキルを利用して、一気にキメラの横を駆け抜ける。
当然キメラたちはそれを許そうとしない。立ちふさがるような動きを見せる。
「そうはさせない‥‥動きを止めさせてもらうぞ」
だが、永斗が援護射撃を以てキメラたちの動きを制する。その間に4人は奥へと走り去った。
「任務、敵の足止めを開始します‥‥」
そういうとD−58は双剣を手に迅雷を使用。
永斗、ケイ、直人の援護を受けつつ、敵キメラに飛び込み、双剣を振るう。
キメラは一振り目を躱すが、続けて放たれたもう片方の剣を避けきれない。ザクッという肉に剣が食い込む感触がD‐58に伝わる。が、覚醒によって機械人形のようになったD‐58は顔色一つ変えず連撃を加えていく。
もちろんキメラも黙っていない。D‐58に攻撃を受けているキメラを援護しようと別のキメラが突撃してくる。
「あら、こちらにも敵はいるのよ?」
しかし、ケイの攻撃がそれを阻む。弓に持ち替えて放たれた死点射が全矢キメラに突き刺さる。強烈な攻撃を受けて頭に来たのだろうか、キメラはケイに目標を変える。
一方直人も援護を怠らない。
3匹目のキメラにエネルギーガンで牽制し、他を援護しようとするキメラを自由にさせない。
この時点で、3匹の強固な連携は崩れ去っていた。
こうなるとあとは簡単だった。
「鉛の飴玉のお味はどう?」
ケイは持ち替えの際軽く爪の攻撃を受けたが、すぐさま反撃。
合計4発の銃撃により、キメラは喉元を打ち抜かれ絶命。
直人は大口を開けて飛びかかってきたキメラをあえて腕に噛みつかせる。この際自身障壁で防御力を高めておくのも忘れない。これにより機動力の高さという最大の武器を失ったキメラ。月詠によって首を落とすのは造作もなかった。
最後の一匹はD‐58と戦っていたが、戦況の不利を悟ったか、奥に向かって走り出そうとした。
「逃がすわけにはいかない!」
永斗の銃撃。逃げようとした先を撃たれるキメラ。それでも足を引きずりながらその場を離れようとする。
「敵性態、射程範囲外‥‥エアスマッシュを使用します」
双剣をクロスさせるように振りぬくD‐58。その際発生したエックス状の衝撃波がキメラに襲い掛かり、その息の根を止めた。
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先行した4人はすぐに坑道を抜け、広い空間に出た。3つのルートの集合地点だ。
そこには大型の、ただし銃撃を受けた後が多数残っている、キメラプラントがあった。そしてその前には‥‥
「あれは‥‥狼? でも今までの奴とは違うみたい」
「さっきのとは違うな。さしずめ群れのボスってところか」
アリスや光が言うように、プラントの前には比較的大型な一匹の狼がいた。
その頭には角がある。このことからこれがキメラだとわかる。
「思ったより早かったな。やはり三方に部下を敷いたのは失敗だったな。破壊を優先するなら分散するだろうと思ったのだが‥‥」
プラントの方から、若い女性の声が響く。
「‥‥あなたがプラントを止めた人? 隠れていないで出てきたらどう?」
ロシャーデは装備をこっそりライフルに持ち替えつつプラントの方に声をかける。
しかし、それに返ってきたのは予想していない返答だった。
「‥‥貴様らは何か勘違いしているな。ここには「私」しかいない」
その時4人は見た。声とともにあの狼キメラの口が動いていたのを。
「まさか、あの狼が喋ってるのか?」
思わず透が呟く。喋るキメラ、というのはあまり例がない。極めてレアな存在だ。
だが、実際その言葉は目の前にいる狼キメラから発せられているようだ。
そして、そういう例外は決まって‥‥強い。
「さて‥‥折角ここまで来たんだ。少し遊んで行け!」
そう言うとキメラは大口を開ける。光が口内に集束していくのが見て取れた。
「皆、避けるんだ!」
光の声に3人が反応、その場を飛び退く。同時にキメラから放たれた閃光が、地面を焦がしながら能力者たちのいた場所を薙ぎ払う。数瞬遅ければ一網打尽だっただろう。
「避けたか、いい反応だ。この体を慣らすのには丁度よさそうだな」
そう言うと同時に、キメラは能力者達に一直線に突っ込んでくる。その速度は先ほどの狼キメラとは比較にならない。
「ガァァッッッ!!」
咆哮を上げ、キメラはその爪を光に振り下ろす。が、光も歴戦の傭兵だ。とっさに身をかわし、瞬天速で距離を取る。
「こいつ‥!」
援護のために透が散弾を放つ。ルート上の狼はこれを回避しきれなかった。だが‥‥
ヒュッ―――
風切り音が聞こえた。そう知覚したときには目の前からキメラの姿が掻き消えていた。
「――後ろ!」
アリスの叫び声。同時に背後から強烈な殺気を感じた透は、咄嗟に抜刀。背後に向かい振りぬく。
ギィィン、という甲高い鋼と鋼がぶつかり合うような音。
かろうじて透はキメラの爪を受け止めた。
だが、キメラの力はかなり強い。このままでは押し負ける‥‥
「やらせないよ!」
AUKVの脚部をスパークさせ、アリスが飛び込み機械剣を突き出す。
透の方に意識が向いていた上での一撃だ。間一髪気付いてその場を離れようとしたキメラだが、かわし切れず多少皮膚を焦がす。
「私に当てられるのか。さすがと言ったところだな」
「いや、まだまだ!」
透は飛び退くキメラに追い打ちをかける。斜めからの打ち下ろしをかわしたキメラは再び爪を振り下ろす。が、それを透は爪で流す。崩れた態勢。
「――飛燕裂波!」
横に回り込みつつ刀と爪の二連撃。二閃の斬撃がキメラの皮膚を切り裂いた。
さらに光とアリスが追い打ちの一撃をくらわそうとするが、再び目の前から消えるキメラ。
テレポートの類ではない。
どちらかというとグラップラーの瞬天速に似た高速移動の様だ。
「‥‥やるじゃないか。だが、こちらも体が温まってきたところだ。もう少し全力で‥‥」
「いいえ、これで終わりよ!」
ロシャーデの声。彼女は3人とキメラが戦闘している間にライフルを設置。ライフルでプラントを攻撃していたのだ。
そして、キメラが制止する間もなく放たれた最後の弾丸が、プラントに直撃した。
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「ちっ‥‥我ながら悪い癖が出たな」
今の一発が致命傷だったのか。プラントが各部で小爆発を起こしている。恐らくはこのまま爆発して使い物にならなくなるだけだろう。
「やったか!」
走りこんでくる永斗達。向こうもケリが付いたようだ。
この時点でキメラ1匹に能力者8人。戦力的には圧倒的に能力者有利だ。
「‥‥まぁいい。ここでの目的はすでに達している」
「目的? お前の目的はなんだったんだ!」
キメラが喋るということに多少驚きつつ、直人がその真意を確かめようとした。
だが‥‥
「敵にそれを話すと思うか? まぁ、ここでの成果はそのうち貴様らも知ることができるだろう。その身を以てな」
そう言い捨てると、キメラは例の瞬天速の様な能力を使ったのだろう。その場から消えていた。
「私たちも撤退を。このままでは‥‥」
D‐58がマフラーを強く握りながらそう言った。KVが戦ってもどうということの無かった坑道だが、プラントの爆発は相当なものになるだろう。さすがにここがどうなるか分からない。能力者たちは急ぎその場から離脱した。
こうしてキメラプラントは無事破壊された。が、一つの懸念事項が残った。
それは、能力者たちが出会った喋るキメラ。このキメラ、後程データを照合してみた結果、正体が判明したのだ。
「ガウル?」
「ああ、資料に名前があった。ハーモニウムの一員だったようで、ロウと呼ばれる少年と行動を共にしているパターンが多かったようだ」
尤も、ロウ少年はすでに死亡。ガウルも行方不明になってたと聞くがと、重体から復帰した正規軍の隊長が教えてくれた。
さらに、資料によると実験用素体にされたのと推測されるとの報告もあった。
「実験用素体‥‥そういえば、体を慣らすのがどうとかいってたな」
戦闘を振り返り光がそう話す。
慣らす、ということはあれが全力ではないのだろう。
「それに、あのガウルがキメラプラントにいた理由もわかってませんしね‥‥」
直人の言葉通り理由は不明。ただ、ロクな理由ではないだろう。
ただ、ともあれプラントは破壊された。例の線路敷設地点とその周囲に、少なくとも野良キメラの類が現れることはもうないだろう。
「当面の危機が去ったことを今は喜ぼう」
正規軍の隊長のその言葉に、その通りだと頷く能力者たちであった。