タイトル:【RAL】JackKnifeマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/04 18:03

●オープニング本文


※このシナリオは【Roller for African Liberty】アフリカ北西部解放連動の一環となっています

「だから言わんこっちゃねー」
 現在のアフリカにおける人類の勢力圏拡大についての報告を受け、ゲルトは机に足を乗せふんぞり返る。
「口では警戒を示してても、未だ心のどっかでバグアの優越感に浸ってるからこうなるんだろーが。
 ブライトンの爺がそう主張したのがどんだけ前で、それから世界全体でどんだけの勢力圏を人類に奪われたと思ってんだ」
 正直な話、彼にしてみれば未だにそのブライトンの主張に寄りかかるバグアはロートル以外の何者でもなかった。
 事を荒立てるつもりはないので口にはしないが、ゼオン・ジハイド等目上のバグアでも同様だ。例外はプロトスクエアの他のメンバーくらいなもので、思考回路はどうあれ、同じ人物を慕っているから、という理由である。
(‥‥いや、僕自身もロートルなのかもしれねーけどな)
 考え、唸る。
 少なくとも人類と直接相対する時は準備をしていくし、そういう意味では油断はしていないと言える自信はある。
 だが、アルジェリアとリビアの国境線付近の戦いでは失敗した。準備をしていなければ命に関わる負傷を負うところだった。
 原因は単純といえば単純だ。流石に無傷に近い傭兵大勢相手に一人では分が悪い。
 一人で行ったことは、或いはロートルだと蔑視する連中がやっていることと同じように見えるのではないか――?

「‥‥好みじゃねえ手段だが、ちったぁなりふり構わずやってみるかー」
 しばし考えた末、ゲルトはため息混じりにそう吐き出した。

 ■

「――思わぬ事態になった」
 と説明を始めたのは、ナドルにきていた中佐のうちの一人。
 本来ならば今頃、ナドルと首都ラバトの間にある――都市がないという意味での――空白地域での大規模なキメラ掃討の司令官を務めている筈の男だった。
 そんな人物が何故未だナドルにいるかというと――。
「プロトスクエアのゲルトに、足止めを食らわされている」
 ――厳密に言えば未だいるのではなく、舞い戻らざるを得なかったのだが、つまりはそういうことだ。

 先日、中佐の部隊が当該地域に向かったときの事だ。
 空に突然、濃灰色の煙――雲というにはあまりに異質だった――が広範囲にわたって立ち込め始め、あっという間にその煙に巻き込まれた空軍部隊の反応が途絶えた。
 その直後、煙の中で相次いで爆発音が響いた。
 音は全部で七回――中佐の乗っていたガリーニンは煙に巻き込まれなかったが、前方で護衛をしていたKVのうち一機を除く全てが撃墜されたことになる。
 そして――暫くし、その唯一の生き残りは力ない動きで煙の中から舞い戻ってきた。
 ゲルトが出現したというのは、その生き残りである兵士から伝えられた情報だ。相変わらず何を思ってかは分からないが丁寧に正体を明かしてきたという。
 加えてもたらされた情報は――煙の中にはHWも潜んでいること。
(これはゲルトが明言したわけではないが)絶え間なく頭痛が続いたことからCWも大量に潜んでいるだろうということ。
 そして――彼の駆る白いタロスが『機剣の一振りでKVを撃墜させるだけの』攻撃力を持っているということだった。

「煙は今もなお広がりを見せており、これ以上広げられるとこの方角からの西への侵攻が不可能になる可能性もある」
 一刻も早くあの煙を振り払うには諸君の協力が必要だ――。
 中佐はそう言って、傭兵たちに助力を請うた。

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この依頼は通常の依頼と比べ極めて難易度が高く設定されており、所持金・機体・機体アイテムの没収や、場合によっては再起不能・死亡判定が下される可能性があります。
再起不能・死亡したキャラクターは継続使用することはできず、ログイン及びコンテンツへのアクセスが制限されます。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD

●リプレイ本文

「来たかー」
 高高空の、煙の範囲外。
 HWから送られてきたレーダーデータの中の幾つかの反応を見、ゲルトは肯いた。
 タロスとてHWと双方が煙の中では、通信環境はあまりよくない。
 ただし人類側と違うのは、どちらかが煙の外に居れば普通に通信も出来るし、中からでも煙外のレーダー反応は捉えられるということだ。
「‥‥少ないなー、もう中にいるのか」適度に細い顎に手を当て、ゲルトは呟く。
 既に傭兵は行動を開始しているのだろう。表示範囲――煙の外の反応は三つしかなかった。
「――いい度胸なのか、単なる無謀なのか。確かめさせてもらおうか」
 愉しげに口角を歪め、ゲルトはタロスを煙の中に突入させた。

 ■

 煙の中に突入してしまえば通信は行えない。
 故に事前のブリーフィングはいつもより綿密に行われていた。
「まいっちゃったなぁ」
 その席でバグア側の戦略について感想を漏らしたのはソーニャ(gb5824)である。
「ヨリシロなんてみんなでよってたかって互角なのに、こんな手でくるなんて。
 ゲルトっていじめっこ体質だね」
「有利な状況下に於いて態々正体を明かすとは、ゲルトらしいです」
 以前にも生身で二度ゲルトと相対している神棟星嵐(gc1022)もまた、思うところを口にした。
「――と、感心している場合ではありませんね。なんとか退けないと」
 そうね、と言葉を引き取ったのはフローラ・シュトリエ(gb6204)だった。
「位置確認が困難になる煙に加え強敵ねー‥‥気を引き締めていきましょう」

「とはいえ、あそこに入る前から頭の痛いお話です‥‥」
 時間は経過し、戦域――空に広がる煙を目の当たりにして、抹竹(gb1405)はそう零した。以前も似たような状況に立ち向かったことがあるものの、今回のそれはより性質が悪い。
 正直今回の策はかなりの賭けであることを、抹竹は自覚していた。
 その作戦とは、兎に角ブーストをかけ続け、最短距離で煙の発生源であるキメラがいるであろう南西まで突っ切ること。
「無理をせずに、だ。無事に帰るのが大事だよ」
 とは、同じ作戦をとるUNKNOWN(ga4276)の言。フローラやソーニャもまた、方針は同じだ。
 四機よりやや後方に夢守 ルキア(gb9436)の骸龍の姿があった。
 広がりつつある煙もルキア機を巻き込むまでには少し時間がある。
 その間に――ルキアはその煙の様子や広がりを観察する。
「東・北も満遍なく広がってる?
 だとしたら、中のキメラも満遍なく位置取りしてると思う」
 ――風圧以外では大して動かないのか、煙は今は僅かに左右に揺れるだけだ。
 それ以上は分からず、また煙も近づいていた為――五機はタイミングを合わせ、煙に突入した。

 最終的に煙外を主戦場としたのは、ケイ・リヒャルト(ga0598)とユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)、それに星嵐。
 うちケイ機と星嵐機は共に高高空、煙ぎりぎりのところを飛来していた。
 西へ進みながら、二人がかりで頭痛がより酷い――CWが密集している方向を割り出し、バルカンで掃射を試みる。
 敵影は完全に煙の中に隠れていたが少しは効果があったらしく、頭痛が酷い時ほど掃射を行った後はそれが緩和されるのが実感できた。
 CWは少しずつながら減らせている一方で、HWは姿を見せていない。
「今のうちに何度か突入してみましょう」
 煙の広がりも勘案し、星嵐はそう言ってブーストをかけつつ煙の中に突入した。
 先程同様頭痛の強さからCWが大勢いる方向を割り出し、今度はミサイルポッドからの攻撃を放つ。
 すると風圧で思わぬ成果を目にし、即座に煙から離脱した。
「HWがきてますね。あの位置、ここからなら落せそうです」
 言うが早いか、煙の中からプロトン砲の光が襲い掛かってきた。
 二人ともにそれを避けると、まずケイ機がバルカンで迎撃する。その間にHWも煙外に姿を見せ、星嵐機がバルカンで与えた損傷部にスラスターライフルの銃弾を叩き込む――。
 攻撃力は高いという話だが、それ以外はさほどでもないようだ。
 間もなく撃墜した後、二人は先程同様に索敵を開始した。

「視界がここまで悪いと、色々やり難いなぁ‥‥」
 単身、高高空の煙の外を飛ぶユーリは呟いた。
 彼が取った作戦は、星嵐のものと似ている。
 違うのは彼が単身であることと、狙いが最初からキメラにあることだが――。
「‥‥まだ全然遠いか」
 煙の中に突入しミサイルを撃てども撃てども、本命の影すら捉えられずにいる。
 代わりに頭痛が酷くなる度にCWはミサイルで掃討しているものの、狙った成果を生み出すには時間がかかりそうだった。

 ■

『お』
 高高空から高空に降下したゲルトは、煙が風圧で不自然に動いている――南西から北東に向かって流れているのを視界に捉えた。
 しかも結構な風圧が発生しているらしく、その流れは大きい。
 近い――。
 ゲルトはその流れの先頭を追い始めた。

 ■

 ブーストの加速が緩んだ刹那に、突如上から何かを叩きつけられるような衝撃が走った。
「な‥‥ッ」抹竹としては唖然とせざるを得なかった。
 一撃で装甲に大きな損壊を与える攻撃力――。
 計器類の損傷具合からいって次はない。たとえ自分より頑強な機体でも、何度も食らえば危険なのは間違いと直感した。
 そう必死に考えながら乱れた軌道を立て直した時には、抹竹の眼前には白いタロスが立ちはだかっていた。
『見ーっけた』
 KVの挙動で此方の驚愕を読み取ったのだろう。ノイズ交じりの通信がゲルトから届いた。
『大方狙いは後ろのキメラだろ? 発想は悪くなかったけどなー』
 言葉の合間にも抹竹は、人型のまま空中に浮かぶタロスの横をソードウィングを掠めさせながら通過しようとした。たとえ状況がベストでも自身がゲルトとかち合う事態は遠慮したかったのに、まだタスクを果たせていない状況での遭遇は辛すぎる。
 だがタロスは軽く機体を傾けて翼の一閃をかわすと、今しがた自分の横を横切っていった抹竹機の背を追い始めた。
 ――先に一瞬スピードを緩めざるを得なかったのは、抹竹機。それが全てだった。
 気付いたときには、ゲルト機はまた抹竹機のすぐ上にいて――機剣を振り被っていた。
『まぁ、風圧はいい目印だったぜ?
 加速すればするほど周囲への影響はデカくなるもんだしな』
 ――その言葉で抹竹は『何故今ゲルトのタロスがはっきり見えているか』という疑問に対する答えと、己のミスを悟った。
 自分だけではない。
 周囲をやはりキメラめがけて飛んでいるであろう僚機も――だがそれを伝える術はない。
『じゃあな』
 もはや考える間もなく、抹竹は反射的に脱出ポッドの射出スイッチを押していた。

「爆発?」
 機動性の問題で煙の中を進む中では先頭にいたソーニャは、後方で起こったそれに気付いて眉を顰めた。
 ほぼ真横の空にはフローラ機、後方にはUNKNOWN機、抹竹機、それより更に少し遅れてルキア機がいる筈だが、爆発の近さからしてルキア機ではないと直感する。
 無論、ゲルト機でもないだろう。となると後方ニ機のうちのどちらかが墜とされたことに――。
「――ッ」
 CWのジャミングの影響下にあっても尚、下方から襲い掛かった無数の銃弾に反応出来たのは第六感、避けることに成功したのは機体の特性のおかげだろう。
 敵の正体はすぐに分かった。低空には誰も居ない為、必然的に傭兵がキメラを狙うと判断できたHWだ。
 それまで同様バレルロールを駆使し、突き上げられる銃弾の雨を掻い潜るソーニャ。
 だが掻い潜った末に待っていたのは、致命的な邂逅だった。
『フレンドリーファイアは大目に見てやんよ。こうして炙り出してくれたからな』
 突如届いた通信。周囲に目を向けた刹那――丁度視線を向けた右前方の煙の向こうから、若干装甲に傷のついたタロスが現れた。
「笑えないね」
 思わずソーニャは呟いていた。
 それでも通常のブーストに加え、マイクロブースターやアリスシステムも起動。AAEMで迎撃しながら、気付けばゲルトについて思っていたことを口にしていた。
「飛ぶためなら依頼を選ばないボクと、快楽のためなら結果を厭わない貴方――。
 似ているかもね」
『――そうかもな』ゲルトは哂ったようだった。
 攻撃しながらもタロスの横を横切った為、当たったかどうかは分からない。だがその余裕から、当たっていないか大した損壊を与えていないような気がしていた。
 マイクロブースターが切れ、その間に開いた距離もすぐに詰められる。
『だけど、今回はちょっとその翼もがせてもらうぜ』
 ――未だCWの影響が強い中では、ソーニャとてその刃からは逃げ切れなかった。

「――ふむ」
 UNKNOWNは思案する。
 前と横で一機ずつ堕ちた。煙の中に残るは、自らを含め三機――。
 短時間で二機を墜とした攻撃力は凄まじいものがある。
 となると、自分の役割は自ずと決まっていた。
 それまではかけずにいたブーストをかけ、一気に前にいる僚機との距離を詰める。
 すると、
『次はお前かな?』タロスが右前方に現れ、ゲルトからの通信が届いた。
 ただしUNKNOWNとしてはそれも計算の内だ。
 事前に他の傭兵には
「私かどうかはいい。動く物を撃て」
 と言い含めてあったのだ。
 その通りに後方のルキア機からスラスターライフルの銃弾が飛来し、実際は実弾ではなくペイント弾を仕込んでいた為にタロスの機体に蛍光色三色のマーキングがなされた。
 後は自分が出来るだけゲルトを釣っておく必要がある――と考えていた矢先、
『‥‥囮か。つまんねーこと考えやがって』
 吐き捨てられた言葉と同時、空中で跳躍するかのようにタロスは機体を躍らせ――ブーストをしたままのUNKNOWN機の装甲に一閃を浴びせる。
『――お前は後だ。まず前を潰しておかねーとな』
 その通信を最後に、タロスは交差に近い形でUNKNOWN機の上から離脱した。
 恐らく思ったよりも手応えが堅かったせいだろうが――
「む‥‥」
 唸る。何にしても、このまま行かせるのは拙い。
 前方の機体が狙われて墜とされた場合、次に狙われるのは自分ではなくルキア機だろう。
 その後は煙の外にいる機体か、自分か――どちらにしろ、煙を晴らしたとて不利な状況下に置かれることには変わりはない。
 それを食い止める為には今動くしかない。UNKNOWNは機体を旋回させ、追撃を図ろうとした――が。
 前方に、幾条もの光線が突き上げられた。下にいるHWが一斉にプロトン砲を放ったらしい。
 その光が消失した頃には、ゲルトが僅かに残していた移動の残滓もプロトン砲にかき消され分からなくなっていた。

 ソーニャ機が撃墜された段階で、フローラは自身が前方に孤立したことにすぐに気付いていた。
 だが、今の段階で周囲を確認するべく煙を払う行動に出ることには不安もあった。ゲルト機が近くにいる可能性が脳裏を過ぎったのだ。
 ――しかしながら、方針の転換も状況が許さなかった。
 ソーニャの時同様、銃撃が下から突き上げられたのだ。
 スキルを使いながら回避しつつも、フィロソフィーで迎撃に転ずる。が――
『次見っけ』
 ――その間に、追いつかれた。

「UNセンセがいるといえばいるケド‥‥」
 ゲルト機が一旦UNKNOWN機との戦闘から離脱してから暫くしてもう一つ爆発が起きたのを把握し、UNKNOWNとの合流を試みながらルキアは零す。
「これじゃ埒が明かないね」
 これまででこうなった要因はいくつか分かった。
 数を揃えたとはいえ、やはり通信手段もなしで煙の中に突っ込むのは無謀すぎたこと。
 ゲルトが風圧で此方の居場所を察知したのも、前方にいるUNKNOWN機との邂逅を察知した際に確信した。HWも同様だろう。
 どちらにしてもリスクはあるが、低空か、分散するなどして煙の範囲外を往けば集中砲火を浴びることはなかった筈だ。
 だが、それを伝える術は――。
「――ッ」
 また下からの銃撃だ。絶え間ない頭痛のせいで思考も働かず、被弾する。
『自分から場所を教えてくれるたぁな』
 ――被弾は序に、猛烈に嫌な予感を感じさせる切っ掛けにもなっていた。

「拙いわね‥‥」
 立て続けに起こる爆発音を耳にしながら、ケイは呟く。
 彼女自身は、現状狙い通りに行動できている。今に至るまで被弾があまりないのはロッテを組んだ星嵐も同様だ。
 しかし、だ。煙中の音はいただけない。
 そもそも全員、煙が晴れない状況下では甚振られることになるのは分かっていたのだ。だからブーストをかけ最短距離で突っ切ろうとする者がいる一方で、ケイやユーリ、星嵐のように煙への突入は最低限にする者もいたのだが‥‥。
「また少し様子を見てきます」
 星嵐が言って、煙の中へ突入する。此方も焦燥感を滲ませてはいるが、やむをえないといったところか。
 だが――やがてその突入すら裏目になる状況になったことを、星嵐の数回目の突入の後、ケイは比較的近くで起きた爆発で知ることになる。

 幾度目かの突入を終え、ユーリは煙の外に出る。
「またか‥‥」
 前の爆発から若干の間を置いて起こったそれは、空域がそれまでとは明らかに異なっていた。
 墜ちたのがKVじゃなければいいんだけど、と考える。それでなくとも既に被害が甚大なのは、未だ晴れぬ煙が証明しているのだから。
 ユーリ自身は最初から同じ方法を貫き通しながら南西に向け前進している。煙突入の際にHWから飛んでくる射撃がたまに命中する程度でそれほど被害はないものの、未だキメラの姿は微塵たりとも捉えられずにいた。
「駄目よ、撤退しましょう」
 どうするべきか思考を巡らせていた折、ケイから通信が入った。
「星嵐が煙に突入したタイミングを狙われたわ。‥‥もう煙の中は‥‥」
 UNKNOWN機もまだ墜ちずにいたが、八機で煙を晴らすことが叶わなかった現状を三機で打破するのは無理がある。
 煙を晴らしたところで、待っているのは集中砲火――。
「‥‥分かった」
 ユーリは暫し考えた後、苦々しい表情を浮かべつつ肯いた。

『よーう。さっきはよくも邪魔してくれたなー』
 自機はまだ戦闘に耐えうる状況にある為、一機になっても飛行を続けていたUNKNOWN機の前に再びタロスが現れた。
『お礼に今度こそ真っ二つにしてやんよ、と言いたいところだが』
「――ん?」先程までと少しゲルトの様子が違う。UNKNOWNはエニセイのトリガーを引き続けながらも首を傾げた。
『生憎、お前の仲間は全員墜ちたかもう撤退したぜ。今ここにいんのはお前だけだ』
 CWが大勢残っている現状でも、距離が近いため射撃は幾らかは命中している。が、もはやゲルトはそんなことは気にしていないようだった。
 そこに垣間見えたのは、してやったりと言いたげな声音。
「――そうか、なら私も退くとしよう」
 UNKNOWNは呟くと、機体を右に急旋回させ――ブーストをかける。
 ゲルトは、追ってこなかった。