タイトル:【RAL】忘れ得ぬ痛みマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/19 23:49

●オープニング本文


 先日傭兵たちの助力を得、バグアのワーム戦力を駆逐したモロッコ北東端の都市、ナドル。
 UPC軍は街へ降り、生き残った住民の捜索・救援を行う一方――都市の周辺に関しても、バグア関連の施設の有無の調査を行っていた。
 その最中に能力者でもある兵士が発見したのは、街の外れにある二階建ての建物だった。比較的新しい外観といい広さといい、おそらくはバグアの研究施設の類だろう。
 多少の危険も感じたが、兵士は単独で潜入してみた。いざ本当に危なくない状況になったら逃げ帰ればいい。
 中は薄暗かったが、入ってすぐのところに階段があった。上下の階層を結ぶということは、地下もあるらしい。
 地下への潜入を選んだのは、直感だった。
 それは正解でもあり――また正しくない手段でもあった。
 前者の意味は、下りたすぐそば二更に下の階層に繋がる階段もあったこと。
 後者は――地下は明かりがついており、
「誰だ!」
 丁度通路に出ていた施設の人間に見つかったことだ。
 すぐさま踵を返した兵士。その横を後方から放たれたダガーがすり抜け、壁に刺さる。
 踊り場では足を一回着けただけ。すぐに態勢を変え、一階への階段を登る足に――激痛が走った。
 大腿に何かが刺さったのだと見もせず判断したが――次の瞬間、予想だにしなかった事態が起きた。
「ぐあっ‥‥」
 刺さった箇所を中心に、一瞬にして電流が全身を駆け巡ったのだ。
 転げ落ちそうになったものの、気を抜けば飛びそうな意識を集中させて大腿に刺さったダガーを抜き捨てる。
 立ち直りの速さが予想外だったらしく、ちょうど踊り場にいた追撃者は投げ捨てられたダガーに意識が向いた。
 その一瞬の間に、力を振り絞って加速――。
 施設を抜け、影も見えなくなったところで漸く兵士は走るのをやめた。能力者でなければとうに死んでいる出血量では、流石に走れる距離にも限度はある。
「なんだったんだ‥‥あれ‥‥」
 足を引き摺りながら、拠点へと戻る。
 彼が『あれ』についての報告をし、その後のさらなる調査を経――その依頼は提示された。

「今回諸君に頼みたいのは、ナドル近郊で発見されたとある親バグア組織の本部への潜入だ」
 現地を取り仕切っている中佐は、自ら傭兵たちに説明し始めた。
「組織の名は確か――『Regla』といったか」
 その組織の名に、話を聞いていた一人の少女がぴくりと身体を震わせた。
「‥‥『Regla』?」
「――その名前がどうかしたのか?」
 逆に尋ねられ、少女――アメリー・レオナールは一旦俯いた。
「わたし、ヨーロッパにあった『Regla』の拠点に潜入したことがあるから‥‥」
 その話を聞いた中佐は目を一瞬見開き、平静を取り戻すと訊いた。
「それならあの組織で何をやっているかは分かるな?」
 アメリーは肯く。
 拉致した人間の洗脳・教育、世界各地のバグア勢力域への人材輸送。 キメラを利用した破壊行動――。
 このあたりは大抵の親バグア組織はやっていることだが、かの組織に関して言えば変わったこともやっていた。
 強化人間、或いはヨリシロ用の武装の開発である。実際アメリーは、所属していたと思しきヨリシロとなっていた妹が恐ろしい破壊力を持った指輪を使っていたのをこの目で見ている。
 その開発の話をしたところで、中佐もまた一つ肯いた。
「今回の諸君の主目的は、その開発の研究設備の破壊にある」
 といっても施設の全容は掴めていないし、潜んでいる戦力もどれだけいるか分からない。
 ただ安全を重視し慎重にやったところで、見つかってしまえば面倒なことになる。
 先のダガーの例のように、所属する敵は既に武装を持っている可能性も高いのだ。未知の能力に対し挑むのは今回の場合得策ではなく、巧遅よりは拙速が重視されることになるだろう。
 その未知の能力についてだが、軍としてもある程度考えるところがあった。
「――まぁ、本人自体はバグアとしてはそれほど強くないのだろう。
 だから武器に頼る、と考える線が妥当ではあるのだが‥‥」
「だが?」中佐が表情を曇らせたので、傭兵の一人が思わず聞き返す。
「『人類に感づかれた。至急ゲルト様に連絡を取れ』――。
 潜入した兵士は逃げ帰る直前に、連中がこう話しているのを耳にしたらしい」
 ゲルト――プロトスクエアの白虎を名乗る、医者をヨリシロとしたと思われるバグア。
 考えてみれば過去の報告では、彼が愛用する医療用メスはAU−KVの装甲もバターのように切り裂くほどの切れ味を持っているという話があったし、以前アルジェリアとリビアの国境線の防衛ラインに現れたときは本人曰く『特別製』の防弾チョッキでSES兵器の銃弾のダメージさえかなり抑えたということもあった。
 どちらにせよ、見かけの同じ人類の作ったものでは出来る芸当ではない。つまり、と士官は結論を口にした。
「ゲルトもまた、組織で作ったモノを使っていると見ていいだろう」
 尤もアレの場合は道具に頼らなくとも強力なバグアであることに変わりはないがな、と付け足すことも忘れない。

「――まぁ何にせよだ。アレが出張ってこないにしても気をつけて行ってくれ。
 施設さえ潰してしまえば武装を増産することも出来なくなるだろうしな」

●参加者一覧

風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

「バグアの武装研究施設か‥‥この依頼を完遂すれば少しは情勢をマシにできるかもね」
 施設の前に十一人の傭兵が集ったところで、鳳覚羅(gb3095)は言う。
 施設の周囲は静かだった。警戒を危惧する者もいたが、杞憂だったらしい。
「今回、ハ、ヨロシク、デス‥‥」
 ムーグ・リード(gc0402)は狭間 久志(ga9021)に声をかけた。
 久志はといえば一度目を見開き、
「日本語‥‥? お上手ですね。ありがとう、宜しくお願いしますよ」
 ややあって、肯きつつ挨拶を返す。
 二人ともに、思うところはあった。
 以前ゲルトと相対しているムーグは『敵自身が有象無象でも油断ならない』という警戒心と、この施設がここにあることに復興への遠さの実感が湧いている。
 久志は、大規模作戦等を経て命のやり取りや戦う理由に多少過敏になっているのを自覚している。それでも悩んで行動出来ないのは駄目だ、と自らに言い聞かせ、今この大地に来ていた。
 それにしても暑いね、と手をひらひらさせながら、久志はキア・ブロッサム(gb1240)の方を見た。
「その頭の‥‥落ちたりしないの?」
 頭の、というのは彼女が被っているミニハットである。疑問に対しキアは満面の笑みを浮かべ、
「‥‥触れてはいけない事もありますよ、ね」
 答えた。言葉のせいか笑みが若干怖い。
「ここで‥‥の、タイム‥‥リミット、は‥‥死。早々に――カタを、つけます‥‥」
 一方、ラナ・ヴェクサー(gc1748)は薬を飲み込む。
 効果時間は三十分。それを過ぎて全身が痙攣、となってしまう前に決着をつけたい。
 ――そんな自己暗示は、神楽 菖蒲(gb8448)の目には若干無理しているようにも見えて。
「私があなたを守る。あなたが私を守る。深呼吸」
 肩を叩き、緊張を解すようにそう言い聞かせた。
 尤も、早く決着をつけてしまいたいというのは他の傭兵も同じである。
(まだ、あの時の事が尾を引いているのね‥‥)
(――あの子の関わっていたものは、まだどこかで息づいている‥‥)
 風代 律子(ga7966)とリオン=ヴァルツァー(ga8388)はアメリーにそれぞれ視線を投げながら、そんなことを思う。
「久しぶりね、アメリーちゃん。貴女がどの位成長したのか見させてもらうわよ」
「うん」
 律子が気さくに挨拶してみたところ――彼女としては硬くさせないようにしたつもりだったが、どうやらそれ以前から緊張していたらしく、返事は少しばかり硬さを孕んでいた。
 無理もない、と思った。彼女にとって『Regla』は因縁の深い組織である。
 潰すしかない、とリオンは自分に言い聞かせる。
(――でないと、アメリーの笑顔が‥‥また陰っちゃいそうな‥‥そんな気がするから‥‥)

 突入――。
 一階は事前情報通り、薄暗い。
 尤も入口付近は陽光のお陰でよく見える。そしてその視界の範囲内に、上下に繋がる階段はあった。
 最初の分岐。久志、ムーグ、キアだけが地上に残り、他のメンバーは地下へ下る。一人、グロウランス(gb6145)だけは双方のメンバーに回復が行き届くよう地下一階へと続く階段の踊り場に留まった。
 久志は周囲を見渡した。
 階段までで他の部屋に続く扉が二つ、奥まったところにもう二つの扉がある。
 迎撃はまだない。三人は若干拍子抜け感――と、違和感を覚えていた。
 その違和感は、すぐに形となって三人の目の前に現れる。
 不意に入口側の扉が一つ開き――奥から敵が見える瞬間に、久志は外套をそちらへ放り投げる。
 通路に出かけた敵の足が止まったその一瞬の間に、今度はキアが制圧射撃を行った。
 その合間に迅雷で接近した久志が、扉のところで立ちすくむ敵に一閃を浴びせようとし――
「危ナイ‥‥ッ!」
「――!?」
 銃声が響いた刹那、久志の目前を稲妻に似た何かが横切った。蹈鞴を踏みかけ、余計に危ないと判断し再加速。立ち直りつつあった敵に斬撃を浴びせ、久志自身は身体を入口の方へ流す。
 合間にも再度銃撃が響いており、久志が振り返ったその瞬間に先程の稲妻がキアに襲い掛かっていたところだった。呻いたところで、すかさず、
「おいおい、無茶してくれるなよ」グロウランスから回復の練力が施され、傷は最小限で済んだが。
 襲い掛かった扉の、通路を挟んで反対側の扉が開かれており――そこに棒状の武器を手にした強化人間が一人立っている。
 久志の目には、薄闇の奥にある残りの二つの扉も開かれようとしているのが見えた。
「後ろの扉からも来るっ!」二人に警告してから、歯噛みする。
 敵の狙いは、突入者が数を減らした時に一気に畳み掛けることにあったのだ。
 これで二階からも敵が来るようなら状況は絶望的になる。一刻も早く挟撃された状況を打破する必要があった。
「その部屋に‥‥!」キアが久志に指示を飛ばす。
 久志は肯き、すぐ傍の扉の部屋に滑り込む。斬撃で吹っ飛ばした敵が起き上がろうとしていたが、容赦なく再び一閃を見舞った。
 そして他の部屋から攻撃を受けないよう、すぐに壁に身を寄せる。常に動くその視線に一瞬だけ、隣――奥の部屋へと続く扉が見えた。
 残った二人はといえば、キアが制圧射撃を行って敵の一人の動きを止め、残りをムーグが迎撃――という形を取りながら久志のいる部屋へと少しずつ接近していた。奥の扉から出てきた二人は両方とも近接タイプの武装をしており、ムーグはキアを庇う形で応戦している。一方で手前側の扉の敵は、キアの射撃により手から武器を弾き落とされた状態が続いており身動きがとれずにいた。
 後退する格好ながら、ムーグとキアも久志がいる部屋に飛び込んだ。その頃には久志は部屋の敵とタイマンを繰り広げていたが、ムーグが扉に鍵をかけた為に三対一の格好になる。
「感謝‥‥しませんから、ね‥‥。先日の礼とだけ‥‥」
 一瞬生まれた余裕の間に、ムーグのフォローに対しキアは驚きを隠しながら告げる。
 肯いたムーグは一度に二人――両方とも武器こそ殺傷力が高いだけのダガーだったが、以前のゲルト同様の防弾チョッキを仕込んでいた――を相手にしていた為、グロウランスにより度々練成治療が行われていたとは言っても三人の中では消耗が最も激しい。今は活性化で、傷をより和らげようとしていた。

 部屋にいた敵の武器は鞭。その攻撃は切り裂くことに特化しており、キアが制圧射撃で武器を叩き落すまでに久志も裂傷を負った。
 武器を手にさせさえしなければ、三対一の状況なら楽だ。久志の切り込みとムーグの決定打となる一撃で敵の意識を奪うと、一階が途端に静かになった。
「グロウランスさんは‥‥?」
「私たちが退いたタイミングで‥‥一旦地下側へ退避した筈です‥‥」
 久志の問いにキアが答えた矢先、
「いきなり分断とはな」
 一階が静かになったことで敵がいないと判断したのか、もう一つの扉の向こうからグロウランスが姿を見せた。地下班は既に地下二階に下り、回復を届けようにも視認出来なくなったのだ。
「上に行く足音も聞こえたな‥‥」
 というグロウランスの言葉から、残りの敵は二階へ向かったのだと推測する。
 それならそれで考えるところはある。敵の存在など無視し、四人は一階の他の部屋の探索に当たり始めた。

 一方、地下。
 地下一階の通路に人気はない。既に地上での侵入について伝えられているのだろう。
 踊り場でグロウランスと別れた直後、ラナは地下の天井に監視カメラを見つけナイフを投擲、破壊する。
 まさかこんな浅い層には、と思いながらも各部屋を探索し――最後の一部屋で、三人の強化人間と遭遇する。
「くっそ‥‥」強化人間の一人が舌打ちする。同時に三人揃って得物を手にした。それぞれ、銃、手甲、ダガー。このダガーの持ち主が、恐らくは兵士の話にあった強化人間だろう。
 尤も、数的アドバンテージは傭兵の側にある――。
「派手に行くわよ」ラグエルからサプレッサーを外し、菖蒲は言う。直後にそのラグエルが銃声を轟かせ、刹那、ダガーが力なく床に落ちる。更に隠密潜行で気配を消していた柳凪 蓮夢(gb8883)がこの時になって味方の陰から現れ、ダガーを拾おうとした敵の胴を槍で貫いた。
 そのすぐ傍にいた敵が手甲を蓮夢に叩きつけようとしたが、
「やれやれ‥‥ここで開発された武装という奴かな?」
 その前に覚羅のバラキエルが火を吹いた。手甲のついた腕を衝撃で弾き飛ばすと、敵の銃も傭兵たちに向けられる。
 傭兵は数が多く、適当に撃っても当たると踏んだのだろう。銃弾はリオンとアメリーの間を掠め、直後、更にカウンターとなる律子の牽制射撃の間に二人は銃持ちに肉薄した。
 体格的には敵の方が勝る。銃身を振るってきたのでリオンが盾を構え防ぎ、その間に側面に回ったアメリーが一閃。うめき声を上げて力を抜いた敵に対し、正面からリオンが斬撃を見舞った。
 ――ここで作られた武器の一つ一つは凄まじい威力を持っているようだが。
 包囲さえしてしまえば、各個への被害も最小限に済んだ。
 
 地下ニ階。部屋の構造は地下一階と変わらず――上とは違う部屋で、やはり待ち構えていた敵との戦闘が発生した。
 同じように戦闘が終わり、この階にも何もないと結論づけた時――。
『こちら地上班、聞こえますか?』
 覚羅の無線機から応答を求める声があった。久志からの通信だ。
「聞こえるよ。何か?」覚羅が応じる。
『ニ階にこの施設の見取り図がありました。‥‥地下四階に目的の部屋があります』

 地下三階は監視カメラを壊しただけで探索は飛ばし、一気に地下四階に降りる。
 異質な階層であることが一目で分かった。久志の言う通り階段から見える扉は一切なく、階段を降り、通路を少し歩いた先にはそれまでにはなかった角があった。恐らくはその先に、目的の設備はある。
 菖蒲がシグナルミラーを用いてその角の壁に光を当てる。
 すると――角の向こう側で物音が聞こえた。しかも複数。攻撃しかけたのを敵の誰かが制したのだろう。
「‥‥私が行くよ」蓮夢が角の向こうに聞こえないように呟いた。
 どうやって。律子が尋ねると、蓮夢は角少し手前の側面の壁を指差した。
 迅雷での加速を用い、跳躍から壁を蹴り、三角飛び。天井付近からの襲来は想定していなかったらしく、角の向こう側で発生した銃声やら怒声は慌てているのが手に取るように判る。
 残った傭兵たちも角を曲がり、挟撃の格好になった。敵は蓮夢側に二人、他の傭兵側に三人。狭い通路に横並びになっており、いずれも銃を構えている。
 そして目的の設備への部屋への扉は、通路の中央――敵の真横にあった。
 ち、と誰かが舌打ちをした。その刹那に戦闘は動き出す。
 一斉に銃声が鳴り響く。敵の銃弾をリオンは盾で防ぎ、覚羅と律子は寸でのところでかわした。その間に菖蒲とアメリーがそれぞれ反対の壁を蹴り、菖蒲は先程同様武器の持ち手を、アメリーは低い姿勢から敵一人の足を狙って攻撃する。
 アメリーに足を抉られた敵が、背後の味方も巻き込んで倒れかける。その視界に、低い姿勢で着地したアメリーの上を跳躍した覚羅の姿が見えたかどうかは誰にも分からない。
 次の刹那には覚羅が敵を踏みつけ、菖蒲にもアメリーにも攻撃を受けなかった敵はといえばラナにやはり銃の持ち手を撃たれ、更にはリオンの追撃を受けていた。蓮夢はといえば、一人の腹を早々と槍で貫いた後、もう一人に撃たれかけたところで律子の援護が入っている。貫かれた方は直後に覚羅が踏んだ敵の下敷きになり、呻いた後動かなくなった。
「自分達の任務を遂行する事だけを考えて。貴方達の背中はお姉さんに任せなさい」
「こっちは抑えておくよ‥‥部屋の方はよろしくね」
 律子に続いて言いながら覚羅はそのままの姿勢から月詠と乙女桜を持ち替え、どちらがより効果があるか確かめた。最終的にそれだけで踏まれていた敵も意識を失い――。
 敵が状況に戦いたその一瞬で、アメリーが扉を開け放ち、律子と覚羅を除く全員がその中に身体を滑り込ませる。
「さて、任されたからには役割は果たさないとね?」
 扉のすぐ奥には菖蒲とリオン、アメリーが居るはずだったが、そこまで敵を行かせるつもりもなかった。

 部屋中の壁に張り巡らされた機械類。人類の技術では理解出来ないレベルの技術だろうが、これら全てが研究に関わるものなのだろう。
 部屋の奥には数人の白衣の男がいた。傭兵たちを見て恐慌状態に陥っているところを見ると、武器も持たない研究者らしい。
 彼らには構わないことにして小型の機械から物理的に破壊した後、
「下がれ、爆破する!」
 ――奥に並ぶ幾つかの大型の機械めがけ、ラナと蓮夢がそれぞれに着火した爆弾を投擲する。
 直後、部屋が揺れるほどの爆発が生じ――煙をかいくぐって、傭兵たちは部屋を出た。

 その頃地上班はニ階で戦闘を行っていた。久志が通信を行った後、居た部屋を出たところで六人もの敵に待ち構えられていたのだ。
 最初と同様に制圧射撃を駆使しながら奮戦していると、床が激しく揺れた。
「目的‥‥達したのでしたら御暇してしまっても‥‥?」
 揺れの意味を最初に把握したのはキアだった。そんなことを言うと、ムーグも久志も思わず苦笑する。
「‥‥オ帰り、デス、カ?」
「気持ち的には賛成だけど、信頼向けてくれる相手に背中は向けられないでしょっ」
「冗談‥‥位解って欲しいものですけれど、ね」
 本音はさておき、キアは溜息をつく。
 一方で未だ揺れに狼狽している敵を見、
「――Beatem、Down‥‥!」
 ムーグはブリッツストームを放った。

 追いすがる地下四階の敵は覚羅の閃光手榴弾でまき、やはり挟撃に現れた地下三階の敵に対しては勢いだけで突破した後、スブロフをテープで固定した閃光手榴弾を菖蒲が投げた。炸裂と同時に火があがり、その後追ってくる気配はなくなった。
 地下三階から二階へ戻る踊り場をターンした刹那、ラナの身体がその場に崩れ落ちかけた。
 特に傷を負ったわけではない――薬の時間が切れかけているのだ。
「‥‥仕事も、まとも‥‥に、できない‥‥なんて。最低な‥‥身体‥‥」
 震える手を壁につけ身体を支えながら、新たに薬を飲むラナ。その身体を、菖蒲が抱き上げた。
「いいから、騎士に任せなさい」

 地下ニ階まで登ってくると、途端に敵の気配が薄くなった。
 最初に遭遇した敵が舌打ちをした理由が、今になって分かる。
 敵は傭兵たちが研究設備を狙いにくるのを織り込み済みで、いざ撤退を図る際に挟撃を行おうとしたのだ。だから傭兵たちが地下に現れた時も能動的に排除を行わなかったのだ。
 その目論見は失敗し、傭兵たちは一階へ。ちょうど二階に向かっていた地上班も戻ってきていたところだった。ニ階から敵を引き連れているようだったが、後は直進するだけだ。

 合流したところで階段の上の敵にも一斉に攻撃を仕掛けた後、傭兵たちは火の手の上がる建物を後にするのだった。