タイトル:細氷、響くマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/26 23:44

●オープニング本文


 ドイツ北方、ロストック近郊にあるクルメタル社の工場。
 去年のうちに傭兵によるテストを終えた、シュテルンの派生系とも言える新型KV――ディアマントシュタオプの主生産ラインはそこに敷かれていた。

「生産は順調か?」
 視察に来た役員の問いに対し、「えぇ」生産ラインの最高責任者たる男は肯いた。
「このペースならそれほど時間を置くことなく傭兵向けにロールアウト出来そうです」
 ガラス越しに見下ろした視線の先のフロアでは、今も部品の組み上げが行われている。
 二人は暫く無言のまま、その様子を見守っていた。
 シュテルンの初期生産にも携わったことのある男にとっては、特にこの機体の完成は感慨深いものがある。
 役員はどうかわからない。傭兵発案の、といえばクノスペも発売したから、それほどでもないのかもしれないが――尋ねてみようか。
 ――工場中に警報が鳴り響いたのは、男がそんなことを考えた時だった。
『緊急事態です! 北――海からバグアの軍勢が此方に猛烈な勢いで接近してきています!』
 次いで、そんな連絡が入る。
「迎撃は?」
『行っていますが、今のところ全てかわされています。敵は大型のキメラが主力のようです』
 男の問いに、通信士はそう答えた。今いる場所から直接その光景は見えないが、言われてみれば確かに先程から床が断続的に微動し続けている。
 兵装も手がけている手前、その性能実験も必要になることも多い。工場ではその実験と、万一の場合に備えての迎撃装置として対空レーザーを設置していた。
 KV搭載の兵器とするにはまだコストや重量面で改良の余地がありすぎる為、販売にこぎつけるのは難しいが――性能はそれなりに自信があった。
 それを全部かわされているということは、敵の回避能力は此方の想像を越えているものらしい。
 く、と歯噛みする役員を横目に、男は通信士に指示を出す。
「――ちょうど工場を見学しに来ている傭兵がいるだろう? 彼らに迎撃を任せるんだ」
『そう仰ると思い、既に此方の現場側の独断で向かってもらっていま――』
 言葉を言い切る前に、それまでよりもはるかに大きな衝撃が床を――工場を襲った。
 被弾。工場そのもの、ではない。恐らくは迎撃装置だが――。
『――対空レーザーが一基破壊されました。復旧は間に合いません!』
 今度こそ男も動揺した。対空レーザーは残り一基。それを破壊されたらもう工場自体に防衛手段はない。
 早く、傭兵たちが空へ――男と役員に出来ることは、それを祈ることばかりだった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
高木・ヴィオラ(ga0755
24歳・♀・GP
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

「よーしいい子いい子。もう一基も潰しちゃえ!」
 中型HWのコックピットにて、搭乗している強化人間の少女は従えた翼竜に指示をする。
 眼下では工場に備え付けられたレーザーのうち一基が煙を上げており、キメラたちは彼女の命令の通りもう一基に向かって火弾を放っていた。百発百中というほどの命中率ではないが、それは球という形状と距離の問題であって特に憂慮すべきことではない。何せ、レーザーは今までまともに此方に当たっていないのだ。
「美味しい任務だよねー。無抵抗に等しい工場を潰すだけで人類の力を奪えるっていうんだから」
 海岸線に近い都市なら、洋上から隠密裏に迂回すれば人類側の警戒網を突破することも不可能ではない筈だが、普段正面からの攻勢が多いのはやはりバグア本来の性質のせいなのだろう。
 ともあれ――。少女は楽しげに口端を歪め、高らかに声を上げる。
「もう跡形も残んないくらいに燃やし尽くしちゃって!」
『――そうはさせん!』
「‥‥え?」
 その時になって初めて、少女は気付いた。
 潰したのも含む二基のレーザーからやや距離を置いた――発着場から、八機のKVが此方に向かって接近していることに。

 ■

 それよりも少し前――襲撃が開始されたばかりの頃。
 傭兵たちはクルメタル社の役員たちとは別の場所でDSの生産ラインを見学していた。
「順調なのは何よりだ。シュテルンの時は正式採用まで気が抜けなかったからな」
 スタッフの話を聞き、白鐘剣一郎(ga0184)は微かに苦笑いを浮かべた。
 ――襲撃の報せが届いたのは、そのすぐ直後。
「人類の新たな力‥‥。そう易々と壊させはしません!」
「せっかくの新型のお披露目が遅くなるのは忍びないですからね、無粋な敵にはご退場願いましょうか」
 報せを聞き、ティーダ(ga7172)とヨハン・クルーゲ(gc3635)が言う。すぐさま傭兵たちは迎撃の為に自身のKVを停めてある発着場へと駆け出した。
 状況の把握が比較的早い段階で行われた為、傭兵たちは駆けながらも班分け、担当等を決める簡易ブリーフィングを行う。ちなみにDSの発案者でもあるフローラ・シュトリエ(gb6204)の兵装は今、試乗の為完成したDSに搭載されており、彼女はそのまま完成機で出撃することにした。
「絶対に損害を出させはしないわよ」
 フローラは唇を噛み締めるように呟き、
「ディアマントシュタオプ‥‥ダイヤモンドダスト――素敵な名前ね。
 バグアを一刻も早く地球から追い出すためには新型の力が必要。やらせないわ」
 高木・ヴィオラ(ga0755)も決意を固める。
 折角の機会を、こんなことで潰されたくはない――。

 ■

 傭兵たちもそれぞれの機体を駆り、空へ。ただし対空レーザーと翼竜の間には高度差があるのを踏まえ、彼らの最初の位置取りも敵群よりは低い。
 そんな状況のもと、真っ先に行動を起こしたのは水無月 魔諭邏(ga4928)だった。
「それでは皆様、参ります!!」
 対空レーザーに近い方から順番に五匹翼竜をロックオンした段階でそう叫び、ブレス・ノウを起動した上でK−02を全弾発射する。
 回避能力に優れているらしい翼竜たち相手にはK−02の命中率は決して良くはなく、多少なりとも被弾させ動きを止めていることが出来ているのは物量で攻めていることによるところが大きい。そしてその止まった動きを傭兵たちは見逃さなかった。
「不恰好なダンスで申し訳ないが、しばしお付き合いいただこうか!」
 ハンフリー(gc3092)がそう叫び、コンテナを下ろして身軽になっている愛機のクノスペからガトリング砲の弾丸を浴びせる。
 狙いは対空レーザーに最も近い翼竜。ダメージを与えるよりは弾幕で更に動きを封じる意味合いの強い攻撃は狙い通りの効果を成し、
「――さて、何体耐えられますか?」
 その翼竜を含め三匹に対し、ティーダはGプラズマミサイルを射出した。K−02のミサイルに注意を注いでいた翼竜たちはこれを避けきれず、良くても掠めて多少の傷を負った。
 二機の攻撃を両方とも浴びた翼竜はその場から無理に移動することを諦めたのか、首を振り回して火弾を吐き出す。
 標的は、一つはハンフリー機、もう一つは――対空レーザー。殆どの傭兵たちはK−02に合わせ初手に向け動いているところで、対応は間に合わない。
「――ちぃっ!」ハンフリーは舌打ちし、ブーストをかける。
 自機に向かっていた火弾は速度でかわしつつ、速度を緩めずに対空レーザーに向かっていた火弾に身を挺して立ち塞がった。熱を伴った衝撃に表情を歪めながらも、ハンフリー機はそのまま駆け抜ける。
 翼竜は再度――今度は両方とも対空レーザーめがけ火弾を吐き出そうとしたが、
「やらせない!」ハンフリーとは別方向から、DSを駆るフローラが狙いを定めていた。
 EBシステムを起動し上昇した能力で以て、UK−10AAEMを射出。もとより移動は止めていたこともあり、奇襲は成功し――更に、地上から突き上がるように白色のレーザーが翼竜の身体を貫く!
 翼竜の巨体が揺らぎ、一方で次に近いところにいた別の翼竜に対しヴィオラがAAMとAAEM――二種のミサイルを連続して射出していた。此方もK−02に加えティーダのミサイルを受けていたことがあり、AAMの方は掠める程度ではあったがAAEMは両方共に命中させることに成功する。
(やる事は防衛――変わりはしない。守り抜く、この工場を!)
 一方で先の大規模作戦のことを思い出してドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)はそう考えながら、更に別の翼竜に向かって短距離高速型AAMを放つ。
「敵機捕捉、ファイエル!」
 そして――愛機のファルコン・スナイプを起動したヨハンが200mm4連キャノン砲を、直前にヴィオラとドゥが狙った二匹の翼竜に向かってそれぞれ二連射する。
 それらが命中した頃になって、漸くミサイルの嵐は少しは静まり始める。
 その矢先――それまではK−02を避けるだけで済んでいた翼竜の一匹が、ちょうど傭兵たちの間に空いたスペースを――対空レーザーめがけ切り込もうとしていた。
 これに真っ先に反応したのはフローラ。反転してブーストをかけると、空を駆け下りる翼竜を追い抜いたところでもう一度反転した。
「行かせないって言ってるでしょ!」再度EBシステムを起動し、今度はプラズマライフルで狙い撃つ。必然的に距離が近くなっていた為に回避能力がどうとかに関係なくヒットした強烈な一撃で、翼竜はその場で絶叫を上げた。
「竜は気高き生き物のはず。それを歪めるのは赦せぬ所業ですわ」
 援護に入った魔諭邏が更にAAMをヒットさせ、たまらないと感じたのか翼竜がその場を逃げ出す。一旦難を逃れる格好になり、魔諭邏は元の役目――ドゥの援護に戻り、フローラは逃げた翼竜を追った。

『あーもう、こんなことなら最初に発着場潰しとくべきだった!』
 軽くヒスの混じった少女の叫びが、通信越しに響いてくる。
 ミサイルの嵐の中を駆け上がりながら、剣一郎は今まさにその少女が駆るHWへと向かっていく。少し後方には、4連キャノンを発射した後のヨハン機が此方もブーストをかけ追いかけてきている。
「頭を押さえれば手足の動きは自ずと鈍る。行くぞ!」
 更に上空へ――HWが構える高さへ舞い上がろうとする剣一郎機とヨハン機。だが、
『やれるもんならやってみなさいよ――ほら、こっちを援護なさい!』
 少女は叫び、自身は続いて剣一郎機に向かってプロトン砲を撃ち下ろす。
 そのタイミングで、対空レーザーとは距離があった為に唯一K−02を逃れた翼竜が側面から火弾を放っていた。プロトン砲は避けた剣一郎だったが、この動きは読みきることが出来ずに熱を浴びる。
 また別の翼竜――此方はK−02を掻い潜って戻ってきたものだ――はヨハン機に肉薄し――その翼で以て装甲を若干切り裂いた。ソードウィングのような硬度を持つことは、最初は確認されていなかったが、そもそも確認しようがない状況ではあった。
 表情を歪めながら、ヨハンは尚も剣一郎の後を追った。翼竜もまた軌道を修正し、高度を上げようとしたが――これをヴィオラがAAEMで遮った。彼女がそのまま上がってくるとでも思ったのか、翼竜は標的をヴィオラ機に変えたらしく、軌道を再度変える。
 ヴィオラとしてはHWの相手の邪魔をさせないようにしただけなので狙い通りとも言えた。再度AAEMを撃ち込み、完全にヨハン機から切り離す。
 他方、先ほど同様スペースを突いて別の翼竜が対空レーザーめがけ切り込もうとしていた。
 今度の対応はドゥだ。動きを読んで先回りし――エアロダンサーで変形しようとし、思い止まる。機剣が副兵装ではアグレッシブトルネードが使えない。代わりに迫り来る翼竜に向けロケット弾を放つ。
 距離が近かったこともあり、命中。それを見て今度はアサルトフォーミュラAを起動してAAMで狙い撃った。
 その時になって、最初に対空レーザーを浴びた翼竜が積み重なったダメージにより力を失って墜ちていった。そしてその対応に回っていたティーダとハンフリーがドゥの援護に入る。
「なかなか素早いようですが‥‥、これも避わせますか!?」
 ティーダは言いつつ、荷電粒子砲のトリガーを絞った。
 もとより見せ弾のつもりだった。避けられたのは想定済み、狙い通りの場所に誘き出したタイミングで再びトリガーを引く。今度は命中力には自信のあるプラズマライフルのものだった。
 自信通りにダメージを叩き込んだところで、更に地上から対空レーザーが伸びた。それで腹部を貫通された翼竜は、これもまた大地へ墜ちていく。ちなみに先ほど外した粒子砲は、ヴィオラが相手取っている翼竜に命中していた。これも狙い通り、同じ射線上にいたからである。
 その時、ドゥ機とティーダ機に思いがけない衝撃が起こった。大幅に迂回して飛び込んできた翼竜が二機に向かって火弾を吐き出したのである。
 だがその動きを読んでいる者もいた。
「そう言えばそもそも竜自体が存在するはずの無いモノでしたわね」
 魔諭邏である。穏やかな口調とは裏腹に挑発的な言葉を吐き捨て、AAMを翼竜に向かって射出する。
 二機のダメージから一瞬だけ遅れAAMは命中し、更にそこに
「これ以上近づいてもらうわけにはいかないのでな」
 援護に回ったハンフリーが弾幕を張るべく、ガトリングのトリガーを絞る――!

 ■

『何やってんのよ、ったく!』
 援護の指示を下した翼竜一匹がヴィオラにつられて離れ、少女が舌打ちしたのが通信越しにも聞こえた。
 そんな中、もう一匹の火弾を時折浴びつつも剣一郎とヨハンは尚も上昇を続けていた。やがて剣一郎がHWを射程圏内に捉え、少し遅れてヨハンも後ろに追いつく。
 そしてヨハンはそれまで自分たちを狙い続けていた翼竜に対しショルダーキャノンを連射、当てることはなかったが翼竜を下の方へ追いやる。それは丁度ヴィオラやフローラがいる高さでもあり、どうやら二人の攻撃に巻き込まれたらしい翼竜はそれきり上がってくることはなかった。
 その間に、剣一郎も動く。
「ペガサス、エンゲージオフェンシブ!」
 まだ高度的に下にはいるが、殆ど命中率には影響しない程度だ。レーザーカノンを放ちながらそう宣言し、
『馬鹿にしないでよ!』
 あまり冷静なタイプではないらしい少女はそれに乗った。長距離バルカンで牽制をかけると、プロトン砲を放つ。
「直情的な行動は身を滅ぼしますよ」
 そう言ったのはヨハンだ。少女に気付かれぬ間に別の方向、HWと同じ高さに移動し、ファルコン・スナイプを起動した上で4連キャノンのトリガーを絞り続ける。
『――鬱陶しいのよッ!!』
 もはや逆上した少女が今度はヨハン機に照準を向ける。
 が、それは命取りの行動だ。
「隙を見せたな」
 攻撃をこらえた剣一郎がブーストをかけ一気に高度を上げる。すれ違い様にソードウィングで装甲に大きな裂傷を刻み込んだ。
『――ッ!?』少女の声にならない声が響くものの、もはや二人はそれに気を留めることはなかった。
 ヨハンがスナイパーライフルD−02で動きを止め。
 一度反転し、今度は高度を下げた剣一郎がもう一度ソードウィングでダメージを与える――。
『‥‥ッ!』
 最後に少女から漏れたのは、やはり声にならない絶叫だった。

 ■

 フローラは翼竜を追いまわす方向をうまく誘導し、ヴィオラ機と挟み撃ちにすることに成功していた。
 ヴィオラはといえば相手取っていた翼竜がティーダの粒子砲を浴びて動きを乱しているところで、実に丁度いいタイミングだった。が、フローラに追いかけられる翼竜はといえば勢いを殺すことなく、ヴィオラ機の装甲に傷をつけつつ通り過ぎた。
 通り過ぎたところを狙い澄ましたかのように、今度はドゥと魔諭邏がそれぞれ射撃体勢に入った。アサルトフォーミュラを発動させたドゥのAAMは当たったが、その直後に放った魔諭邏の方は避けられる。
 その直後、一気に三機――ドゥ機、魔諭邏機、ヴィオラ機に熱衝撃。粒子砲のダメージから立ち直ったものと、ヨハンにより下に追い込まれたもの――二匹の翼竜がタイミングを合わせ火弾を放ったのだ。
 だが、その状態も長くは続かない。
「この機体なら行けるわ!」
 HBフォルムによって一人回避に成功していたフローラがプラズマライフルで仕掛けたと同時、下の空で絶叫が響いてまた一匹キメラが墜ちていく。
 そして墜ちた翼竜を相手取っていたティーダとハンフリーが高度を上げてくる。ハンフリーがガトリングで翼竜の一匹の動きを止め、ティーダが再び粒子砲を放つ!
 本日二度目の粒子砲を浴びた翼竜は続いたプラズマライフルも浴び、動きが一気に緩慢になった。
 一方でヴィオラは機体を反転させ、先ほど自分の横を通り過ぎた翼竜にAAEMを放つ。
 それ自体は避けられたが、ドゥや魔諭邏が仕掛けたAAMのおかげもあって翼竜の移動を妨げることには成功した。火弾によるカウンターもヴィオラには及ばず、三対一で一気に畳み掛け、すぐに翼竜を墜とすに至った。反転したそのタイミングで、粒子砲を二発受けていた翼竜も止めの対空レーザーを受けてやはり斃れる。
 残り一匹。誰もが思ったその時、上空で爆発が起こった。
 傭兵たちが勝利を確信したのは、上から降りてきたのが剣一郎機とヨハン機だと分かった時だった。

 ■

 残り一匹は半ば袋叩きに近い形で倒し、傭兵たちは無事に工場へ戻った。
 結果的に彼らが空に出てからは工場は一発も被弾することなく、DSの生産には遅れは生じない筈だという。
 ほっと胸を撫で下ろすのがフローラだけではなかったのは、言うまでもなかった。