タイトル:【LP】少女が見た戦場マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/06 01:12

●オープニング本文


 中国は広い。この広大な土地の一箇所で大きく勝利したとしても、残る場所でも勝たなければ大勢は動かない。戦争の勝利だけではなく、補給拠点の維持や市民の不安の解消と、UPCの為すべき事は多岐に渡っている。
「‥‥で、手が足りない、‥‥と言う事ですか」
 状況を確認した孫少尉がため息をつく。穴埋めや何でも屋として使われる孫少尉の隊を当ててもなお、数自体が不足する事も多々あった。
「ラストホープへ連絡してください。手は早いうちに打たないといけない」
 今は、攻めるべき時。力の出し惜しみをする余裕は、無い。

 ■

「うわ‥‥」
 アメリー・レオナールは砂が風に巻き上げられる様を見、思わず目を手で覆う。ゴーグルを着けているので目に入ることはないのだが、こういった環境に慣れていない為反射的に手が出てしまった。
 彼女が居るのは、モンゴルの南端――ゴビ砂漠。
 ここに当面維持する基地を造営することとなり、今は多くの兵士がその作業に明け暮れている。
 無論バグアの妨害も入りかねないことを考慮し、傭兵も幾ばくかこの地に送られている。アメリーもその一人だった。
 傭兵の中には設営作業を手伝ったりしている者もいるようだが――正直今のアメリーにすべきことはなかった。完全に手持ち無沙汰である。
 無理もない。
 彼女がエミタを埋め込まれた傭兵であるからこそここにいるのは彼女を見た誰もが知るところだろうが、それとは別問題で、齢十二の少女にそういった作業をさせるのは兵士としては気が引ける部分があるのだろう。
 兵士によっては、傭兵への猜疑心と少女であることへ嘲りも混ざり、悪意に近い感情を向けている者もいるかもしれない。それを判別出来るほどアメリーは大人ではなかったが、そう思われても仕方ないことは分かっている。
 だからアメリーは、最終的にただ見守ることにした。せめて邪魔だと思われないように。
「――はぁ」
 それでも溜息は漏れてしまうが――その時、近くに建っていた通信塔からノイズが聞こえた。
 この辺りはまだバグアのジャミングも効いているから、何か通信する度にノイズが混ざる。
 今度は何だろう――そう思っていると、
『基地に‥‥傭兵で手の空い‥‥――者は、至急会議室に‥‥』
 ノイズ交じりだが、何を言っているのかは理解できた。
 仕事が出来た。自分にも、出来ることが。
 アメリーはそう考え、会議室に向かって駆け出した。

 至急、というくらいだから緊急性は高い。
 会議室に赴いたアメリーはそれを知ることになる。
 まだ未完成の基地には、資材も足りない。
 それを輸送していた部隊が、バグアのワーム群に襲われたのだという。
 資材を積んだ三台の武装トラックは散り散りになって逃げた為まだ壊滅していないが、敵にはサンドワーム以外にも陸戦型HWが居る為追い回される格好となっており、このままでは基地に命からがら、ということすら難しい状況らしい。
 行ってくれるな。
 指揮官が放ったその言葉に、他の傭兵たちに続いてアメリーも肯く。
 ここに来た以上、その覚悟は出来ていた。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
斎(gc4127
12歳・♂・SF
結路帷子(gc5283
18歳・♂・FC

●リプレイ本文

●初陣
「キングスサイド・キャスリング。今日のキングは輸送トラックかしらね」
 依頼内容を把握した後、ロシャーデ・ルーク(gc1391)は今回の依頼をそう評す。
「事態は急を要するか。すぐに出撃する」
 白鐘剣一郎(ga0184)は言った後――アメリーの表情がやや強張っているのに気が付いた。
「アメリー、KVでの近接戦闘経験は?」
「シミュレータではあるけど‥‥実戦では全然」
 首を横に振るアメリー。先ほどの表情は傭兵としての決意と緊張が入り混じった故のものなのだろう、と剣一郎は推測した。
「緊張しているか?」
 榊 兵衛(ga0388)に問われたことで、漸くアメリー自身も硬い表情を自覚したようだ。一度目を丸くした後、「‥‥うん」やや俯き加減になりながら肯定する。
 兵衛はそんなアメリーの頭にそっと手を置いた。
「誰だって初陣はある。
 大丈夫。俺達は一人で戦っている訳じゃない。仲間同士助け合ってやって来たんだ。
 仲間を信じろ!」
「いざとなれば私を含めて皆様がしっかりとフォローして下さいます」
 だからお互い頑張りましょう、と、兵衛に続いて櫻小路・なでしこ(ga3607)が言った言葉に、今度ははっきりと肯きを返した。

 傭兵たちはそれから、三班に別れ行動を開始するべく急ぎ準備に入る。
「ワイズマンなら強化通信機能もついてるからな、ただ戦闘力は低いからしっかり守ってやれよ、嬢ちゃん」
 出撃直前、ワイズマン乗りの斎(gc4127)がいる班に所属するアメリーに、龍深城・我斬(ga8283)がそう声をかけてきた。
 続いて、「お互い、最善を尽くしましょ」と、同じ班にしてアメリー同様後方支援にあたる結路帷子(gc5283)にも言葉をかけられ、
(皆の励ましに応えられるように頑張らなきゃ)
 肯きを返しながらアメリーは思う。ただしそこには、気負いはあっても最初のような緊張はそれほどなかった。
 皆がいるから。

●救援
 ただそれでもやはり彼女がKVに不慣れであることに対しての不安は、残る。
(アメリー、KV戦の経験はほとんどないって言ってたけど‥‥だいじょうぶ、かな‥‥?)
 行動開始後、『Leo』と名付けた阿修羅改のコックピットからちらりとアメリーが所属する班の方向へ視線を送りながら、リオン=ヴァルツァー(ga8388)は思う。
 彼にとってはアメリーは単なる仲間と言うだけでは語れない存在であり、以前から抱えていた「言いたいこと」もあったのだが――久しぶりに顔を合わす機会であった今回も、まだ言えずにいる。正確に言えば言いかけたのだが、そのタイミングで傭兵の招集がかかったのだから「気をつけて」としか言いようがない。それがまた歯痒いと同時に、今の気がかりの起因要素でもあった。
 が、リオンのその思考時間もそれほど長くは取れないようだった。
 視界が悪い為、目視ではトラックやそれを追い回している敵の捜索の当てにならない。故に斎機がいるアルファ班以外の各機は、予めトラックの現在位置や通信バンドを把握した斎機から送られてくる情報と自機のレーダーを元に捜索を続けていたのだが――レーダー上の前方に、反応が生じたのだ。
 レーダー上を蛇行する点と、都度軌道を修正しながらそれを追い回す点。今目に見える敵は一機だけのようだ。
「こちらチャーリー。トラックと敵影一機を発見、これからトラックの援護に入るわ」ロシャーデはジャミングの効いている環境下で唯一正常に通信を行える斎機に向かってそう連絡を投げる。
 トラックが此方に接近気味だったこともあり、敵影――HWも三機のKVに気付くのは早かった。そして一旦動きを止め、進行方向を此方に変える。 追い回すだけでいずれは潰せるトラックよりも、障害の排除を優先したらしい――。それを察し、ちょうど自機を屈ませ地殻変化観測器をセットし終えたヒューイ・焔(ga8434)は機体が立ち上がると即座にブーストをかけ、此方からも接近を図った。同時にロシャーデ機がトラックの側へ直衛に向かう。
 接近したヒューイ機はHWが照準を定める前に肉薄、機刀「建御雷」での斬撃を見舞う。衝撃で吹っ飛ばされたHWはすぐに態勢を立て直し、今度こそ照準をヒューイ機に定めて反撃に転じようとする。が、その動きはリオン機が放ったガトリング砲による弾幕により遮られた。
 そのリオンはガトリングを仕舞うと今度はブーストをかけ、ヒューイ機と入れ替わる形で再度蹈鞴を踏んだHWに接近、ライト・ディフェンダーでHWの装甲の一部を叩き割った。その叩き割った部分にサンダーテイルを挿入し、電磁パルスをHWに流し込む!
 HWは反撃とばかりに至近距離でバルカンを撃ち放ちこれを振り払うと、金属が軋む気持ちの悪い音を立てて十数メートル後退の動きを見せる。本来ならもう少し後退しようとしたのだろうが、ロシャーデ機がトリガーを絞ったML−3レーザーライフルのレーザーがその脚部を損壊させたことで動きが止まった。
 そんな一連の流れの合間にもトラックは走り続け、ロシャーデ機と、リオン機のHW接近に合わせて後退したヒューイ機がその護衛、リオン機も基本はHWとの戦闘を行いつつも、仲間との距離を離さぬよう後退を続けている。
 内部機構のリカバリーが終わったのか、後退を諦めたのか――再度HWは接近を開始する。しかも、それまでよりも速い。リオンがトラックに近づけないように再び接近戦に持ち込もうとしたとき、
「こちらα班の斎。通信による支援行動を行います」チャーリー班全員に斎からの通信が届いた。
「計測器の南東にサンドワームらしき反応が出ました。かなり近いので、警戒を」
 最初にヒューイが仕掛けた計測器の情報を伝えたものだったが、それを聞いた三人は一様にぎょっとした。
「南東って、おい」
「思い切り進行方向じゃない!」互いに通信が届かない環境にありながらヒューイとロシャーデは言葉を発し――異変はすぐその後に来た。
 進行方向――それも目の前の地面が急に隆起し、刹那、サンドワームが飛び出す。トラックの前に立ちはだかるようにしていたロシャーデ機は、それこそ一瞬足を止めるのが遅かったら拙いことになるところだった。それほど近い場所にいたのだからサンドワームが触手で絡め取ろうとするのも不思議なことではなかったが、そうはならなかった。
 ロシャーデ機自身は流石に一瞬怯んで反応が遅れたものの、やや距離があったために即座に我に返ったヒューイ機がそれをカバーした。最悪身代わりとして奪われても構わないつもりでロシャーデ機が高く構えたレイピアの下を潜るようにして通過すると、伸ばされた触手を建御雷で切り払う。
 その間にライト・ディフェンダーとクラッシュテイルの連続攻撃で以ってHWを吹っ飛ばしたリオンが班二個目の地殻変化計測器を仕掛ける。トラックを送るべき基地まではまだやや距離がある。ここから再び足を動かすのに、早めに仕掛けておいて損はない。
 リオンが計測器を仕掛け終わる前にHWは態勢を立て直しプロトン砲で攻撃してきたが、これはトラック真横に戻ったヒューイ機が牽制し――それからは、幾度となくリオンとヒューイから攻撃を浴びて漸くHWが破壊されるまで、その場での応戦が続いた。サンドワームがトラックを狙った時のみ全力で移動したが、それ以外のサンドワームの動きは――多少の損壊は出しつつも――ロシャーデ機とヒューイ機でやり過ごす。
 HWがいなくなってからは再度全力で移動を開始し、斎機からサンドワームの情報が定期的に送られてくることもあり、何とか彼らはトラックを基地に送り届けることに成功した。
 
 ■

 アルファ班がその姿を発見したのは、斎が幾度目かの通信をチャーリー班に送った頃だった。
「あれがそうだな‥‥」真っ先に気付いたのは、一人前衛を張る剣一郎だった。正確に言えばレーダー上では少し前から捉えていたのだが、肉眼で確認して改めて状況を把握する。丁度正面方向で、トラックも、それを追い回すHWも右から左へ走行しているところだった。
 斎はすぐに地殻変化計測器を仕掛けに入った――が、セットした途端に顔をしかめた。
「もうトラックのすぐ近くにサンドワームがいます、進行方向です!」
「――援護を頼む!」
 返ってきたのは剣一郎の言葉だ。トラックの進行方向へブーストとVTOLを併用して剣一郎機は切り込む。斎の通信が届いているトラックも、慌ててハンドルを横に切り――、
 サンドワームが地中から出現するのと、それより少し手前でトラックが完全に左へカーブしたのが同時、更に一瞬遅れて剣一郎がサンドワームに獅子王の斬撃を叩き込む。それと同じタイミングで帷子機とアメリー機がトラックに追いすがるHWに照準を合わせてスナイパーライフルSG−01と高分子レーザー砲のトリガーを引いた。
 丁度ひときわ風が強く吹き、完全にHWの姿が視界から外れたために射撃した二人の手元が多少狂った。故に攻撃は命中こそしたものの、HWが損壊するには至らない。それでも奥へ吹っ飛んだHWとサンドワームは置いておいて、トラックは後方支援の三機の方向へ疾走する。が、
「――HWがもう一機追ってきます!」斎の通信が入り、サンドワームを相手にせざるを得ない剣一郎機以外の三機がHWに対する警戒を強め――これ以上トラックを単独で走らせると拙い、と咄嗟に判断した帷子はトラックを迎えにいくように少し前進した。
 トラックと敵がいるであろう方向の間に立ったと同時、トラックと進行方向を合わせながら盾を構え――そして次の刹那には、予想通りに盾に砲撃の衝撃がぶち当たる。
「こいつらに弾当てたきゃ、俺を殺してからにするんだな」
 そう吐き捨てる目の前を、レーザーが通過した。態勢を立て直した――最初に弾き飛ばしたHWをアメリーが再び狙撃したのだ。が、流石に一機の砲撃だけでは先ほどのように怯んでくれないらしく、すぐに横殴りの衝撃が帷子機を襲った。
「あっちもこっちも目を向けろってか。なかなかしんどいな」それでも帷子機はトラックが後方支援の後ろに回るまで盾を構えるのを止めはしなかった。サンドワームがすぐに地中に潜り、一旦反応すらも消えた為、剣一郎が最寄りのHWに斬りかかったおかげで時間を稼げたという事情もある。
 そう――トラックを護衛する態勢に入れさえすれば此方のものだ。
「基地への撤退を開始します」
 斎がそう合図を出すと、剣一郎機もHWに対しての戦闘態勢を解かないまま後退を開始した。

 基地への撤退の最中、剣一郎機の斬撃と後方支援三機の射撃でHWは二機とも破壊することに成功したが――基地が見えてくるまで、遂にサンドワームが再びアルファ班の前に見えてくることはなかった。
「こっちも‥‥出てきたのは最初のだけだったよ‥‥」チャーリー班に確認を取ると、リオンがそう答えた。
 となると――斎は残るブラボー班に通信を送る。
「気をつけてください、サンドワームは其方に二機向かったようです!」

 ■

 斎からその通信を受け取った時、ブラボー班は既にトラックとそれを追うHWを発見し、丁度我斬機がその間に割り込んだところだった。
 他の班との唯一の違いは、此方は最初から追い掛け回すHWが二機いたことだ。兵衛機がファランクス・アテナイと長距離バルカンで一機に対して弾幕を張っても、少し距離を置いているもう一機は効果範囲外だ。なので容赦なく兵衛機をプロトン砲で狙い打ったが、打った直後に今度はなでしこ機のレーザーガトリング砲で狙い打たれた。
 兵衛機の弾幕から立ち直った方のHWは、今度はトラックと我斬機がいる方向に向けプロトン砲を放ったが
「それくらい読んでるっての」――我斬はその言葉の通り、他機の一連の応酬の間に試作型AECを起動していた。そして自ら攻撃を機拳で受け、トラックには被害を及ぼさずに済ませる。
 その時、斎から再び通信が入った。
「サンドワームは二機でトラックの左右方向を挟み撃ちしようとしています!」
 護衛に入った直後に我斬がセットしておいた地殻変化計測器からの情報である。これには誰もが少々肝を冷やした。尤も、HWも二機いる以上兵衛もなでしこもトラックの動きに合わせて後退するのが精一杯だ。HWとトラックの間に割り込み、兵衛機が前、なでしこ機がやや後方に位置取りつつ、HWの攻撃をしのいでは反撃に出る。サンドワームに手を回す余裕は、ない。
 ――結果的に、我斬機がトラックのすぐ傍にいたのが幸いした。
 まず進行方向の右側から一機目のサンドワームが姿を現す。トラックを絡め取るべく伸ばした触手を、我斬は練鎌で切り払った。
 その刹那に二機目、今度は我斬機とトラックをまとめて飲み込もうとした、が――突如、そのサンドワームは衝撃に吹っ飛ばされた。トラックの進行方向に倒れたため、トラックと我斬機はサンドワームから遠ざかるように方向を変える。
「間に合ったか!」通信がブラボー班に届くことはなかったが、援軍としてやってきて二機目に斬撃を叩き込んだ剣一郎は思わず叫んでいた。
 もし斎がブラボー班への通信の後に「援軍に向かいましょう」と言わなかったら危なかった。それ以前に、二機対処は剣一郎も少々荷が重い。その意味では我斬機が一機目を対処したのは大きかった。

 触手を斬られたサンドワームは態勢を立て直すと、再び我斬機とトラックを追跡し始めた。
 が、丁度その頃になって兵衛となでしこはHWを撃墜する。これが、戦況を大きく変えた。
 トラックに追いすがるサンドワームに対して、なでしこ機がレーザーガトリング砲で足を止める。剣一郎以外のアルファ班の射撃もそれに続き、もう一機のサンドワームは剣一郎機と兵衛機が遠近両方の攻撃でトラックに近寄らせず、地中に逃がすこともしなかった。
 そうこうしている間に、最初に触手を斬られたサンドワームが弱り始めた。それでも最後の力を振り絞ってか、トラックに向け大口を開いたのを見――我斬機は拳を構えた。
「やらせねえっつったろ、手前らだけで地獄に落ちやがれ――剛拳爆砕!」
 超伝導アクチュエータを起動し、サンドワームの装甲の継ぎ目を狙って拳を叩き込む――!

●撤退
「なんとか終わったみたいね」
 残り一機になったサンドワームも撃退して帰還したアルファ班とブラボー班をロシャーデが迎える。
 他の二人は、というと、到着済みの二台のトラックの積荷を下ろす作業を手伝っていた。

 戦いの疲れを癒した後、それぞれKVの整備や設営の手伝いに入る。
 ――この基地が必要になる戦いは、これからが本番だった。