タイトル:【RAL】Overdriveマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/22 04:41

●オープニング本文


 ピエトロ・バリウス中将が没した後――。
 欧州−アフリカ周辺は国家間をまたぐ規模の混乱はなかったものの、UPC軍は中々アフリカに戦線を押し進められずにいた。
 理由は単純かつ明白。
 バリウス中将が就いていた軍団長という椅子に、新たに腰掛ける者がいなかったからである。

 ただし、だからといっていつまでものうのうとしていられる状況でもないのは事実。
 寧ろ【AA】作戦においてバグアのアフリカにおける勢力が弱まった今の状況こそ、アフリカに攻め入る絶好機なのだ。
 そんな折、ウルシ・サンズ少将に率いられた傭兵たちの活躍により、アルジェリアの北部にある都市・アンナーバが解放されるという変化が起きた。
 バグアとしては些細なことかもしれなかったが、それまで足踏みを続けていたUPC軍にとっては石を投げ入れられたようなものだった。

 ――故に、欧州軍は決断を下した。
 そうして、アンナーバとチュニジアのピエトロ・バリウス要塞を起点とし、戦線を西へ押し進め――現在競合地域と化しているアフリカ北西部を解放することを目的とする作戦が実行に移されることとなる。

 ■

「今回君たちにはアルジェリアのスーカラスという都市の上空に向かってもらうよ」
 ULTオペレーター、ユネは執務室に集った傭兵たちに対しそう告げる。
「アルジェリアに?」一人の傭兵から訝しげな声が漏れた。依頼としては特に大人数でもないのに大丈夫なのか、という意味だろう。
「まぁ、競合地域ではあるんだけどね」ユネはそう言ってからディスプレイに地図を映し出す。
 アンナーバ、要塞の順に地点が表示され――そしてスーカラスを示す点は、その二つの点を結ぶ線の中間に程近かった。競合地域といっても、既に人類勢力圏となっているチュニジアに大分近い都市なのである。
「これから攻勢を仕掛けていく前の、事前段階ともいえるかな」ユネはそんなことを言う。
 実際のところ、少将が乗り込んで解放したアンナーバは現在人類勢力圏の飛び地になっている状態であり、きちんと安全を確保するにはチュニジアまでの間を人類のものとする必要がある。
 アンナーバは海岸線沿いにあるので最低限海沿いルートだけ確保できればいいといえばいいのだが、やはり心もとない面もあった。その為、少しでも多く安全なルートを確保する為にもアンナーバからチュニジア寄りの範囲を予め確保しておくことになったのである。
 スーカラス周辺を確保するのも、そのうちの一環だ。
「戦域は今はもう人類勢力圏に近いということもあって、偵察もある程度済んでいるんだ。
 陸上にはキメラも含め殆どバグアの戦力はいないんだけど、空にちょっとHWが居る」
 確認された限りでは、中型が二機に小型が六機。他にもいるかもしれないが、少なくともHW以外の種類はいないという。
「ジャミングは多少入ってくるだろうけど、それ以外はたいした障害もないから油断さえしなければ大丈夫だとは思うよ」
 
「ちなみに都市自体は、アフリカでも大分北の方だっていうこともあってバグアも放置してる感じだね。ジャミング発生装置とHWの為の格納庫があるくらいで、強化人間もいないらしい」
 ユネは説明の最後にそう付け加えた。それは即ち、今回の依頼の成功が都市の解放にも繋がるということだ。
「戦いを始める皮切りに、まずはスーカラスに今も住んでいる人たちを安心させてほしい――それじゃ、頑張って」

●参加者一覧

秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
レオーネ・スキュータム(gc3244
21歳・♀・GD
斎(gc4127
12歳・♂・SF

●リプレイ本文

「『だから伝えたい 大丈夫って明日の君に』――」
 橘川 海(gb4179)は、友人でもある少女が以前このアフリカの地で作った曲を口ずさむ。
 そんな明日を紡ぐ今日の為に――彼女を含む八人の傭兵、八機のKVは今、アフリカの空を飛んでいる。

「オーダーは制空権確保ね。このエルシアンは制空型だからね、得意だよ」
「はい――アフリカの町の一つの開放に、斎の声が手助けになるのならば、いくらでも手伝いましょう。
 必要情報があれば言ってください。斎はその為にここにいるのだから」
「勢いに乗れるように、皮切りとなるここはキッチリ決めたいわねー」
 ソーニャ(gb5824)からの通信に斎(gc4127)が肯きを返しつつ応じ、更にそこへフローラ・シュトリエ(gb6204)が反応する。
 流石に半年前まではバグアに完全に占領されていた地帯だけありジャミングは強力だったが、斎と秋月 祐介(ga6378)が駆るワイズマンに関して言えばそのような状況など関係なく通信の送受を行うことが出来ていた。
「自分に使いこなせるか‥‥」その祐介はと言えば、自機のコックピットを見回していた。
 アンチジャミングはないが、通信は予想通りクリアに出来ている。
 後は、どう動くか――。
 思案を巡らせている間にも、クリアに聞こえる通信は続く。
「都市の解放などと意識し過ぎると失敗する性質でして。
 最初の一歩で躓いても難ですし、シンプルに行きましょう」
 続いてレオーネ・スキュータム(gc3244)が言い、
「さて、皆可愛い娘よね〜。一緒になれたのが嬉しいから、お姉ちゃん頑張っちゃうわよ〜♪」
 樹・籐子(gc0214)は言葉通り若干高いテンションで意気込みを口にする。
 妹が住むスイスがより安全になる為にも、戦線は南下してもらわないと困る――言葉の裏ではそんな思いもあった。
「ファリスには難しいことは判らないけど、敵が居るなら少しでも叩いておくべくだと思うの」
 ファリス(gb9339)は言う。
「ファリスが頑張れば、次の人が少しは楽が出来るの。だから頑張るの」
「――その頑張る時間が来たようですよ」口を開いたのは斎だ――レーダーに反応があったのだ。
「視認及びレーダー確認での、戦闘空域すべての機体の位置情報を送ります」
 通信越しに伝達した直後、各機にそれらのデータが送信される。
 事前通達されている二編隊の両方が確認できるものの、まだレーダーでもぎりぎり届くかどうかといったところらしく、時折片方の反応が消える。都市の位置から予測するに、反応が消えた時=編隊同士が離れている時、と考えてよさそうだった。
 どちらにしても彼我の距離はかなりある。自分たちの兵器も、恐らくはバグアの兵器もまだ届かない。
 だから彼らは短期決戦に臨むため――レーダーから片方の反応が消えた瞬間、それぞれにブーストをかけた。

 ■

 片方のHW群とは大分距離を詰めた。まだバグアからの攻撃はなく、先手を取ることが出来そうだ。
「新型複合式ミサイル誘導システム、起動っ!」
 すかさず海がロングボウの機体スキルを起動させ、同時にD−03ミサイルポッドを開放する。これに籐子もやはりミサイルポッドの連打で続いた。
 機体スキルを用いて射程ぎりぎりのところから放たれた無数のポッドは、編隊の一つへ向かっていく。
(あの中型と小型のHW、連携してるのかな‥‥?)
 そのミサイルと編隊の様子をソーニャは冷静に見つめる。
 それとも中型のオプションでひとつのシステムなのか。このミサイル群はそれを判断するための布石でもある。加えて言えば、この間に祐介と斎はそれぞれタクティカル・プレディレクションを起動させていた。
 最初に放たれた海のミサイルが、到達――命中、ゼロ。直後に続いた籐子機の連打ミサイルの初撃で、若干の被害があった程度だ。ECMなどを使った様子も見られず、純粋に上下移動で避けられたのだろう。もとよりD−03はミサイルポッドとしても集弾性は良くない。
 まだ全容は掴めないが、とりあえず正解は後者のようだ。個々で回避判断を行ったにしては回避率も高すぎる。
 ソーニャはそう判断すると、未だ籐子機のミサイルが放たれている間に己が役割を果たすべく――今度はマイクロブースターと併用しつつ再びブーストをかけた。
 結果的にHW群はそれ以後の籐子機のミサイルもほぼ全て回避し、その最中に紛れてきていたソーニャ機の存在を察知したようだった。かの機体が突撃しながら放出したUK−10AAEMが初めてまともに小型HWにヒットしたが、他の三機のHWは構わずにソーニャ機に砲口を向ける。その間にソーニャは高分子レーザー砲も同じHWに叩きこんだ後、自身が狙われたことに気づいて螺旋を描きながら回避行動を取り始めた。
 一機がバルカンで牽制の弾幕を張る。これは、流石に全ては避け切れなかったが、続いて追ってきたホーミングミサイルはやり過ごした。
 と思った刹那、
「ソーニャ君、右下方へ避けろ!」祐介から通信。
 嫌な予感を察して言われるままに急旋回――していなかったら危なかった。プロトン砲の紫光が、ミサイルを避け切って一瞬留まった地点を通過していた。誘導、らしい。
「やるね」完全に避け切れたわけではない。ソーニャは舌打ち交じりにそう言って、自機に続いてブーストで追いかけてきた味方の射角へ退避した。
「時間を掛ければ掛けるほどリスクが上がるから、速攻でいかせてもらうわよ」
 続いて攻撃を仕掛けたのはフローラだ。フィロソフィーから射出された牽制狙いのレーザーが先程ソーニャ機の捉えた小型HWへ向かって飛ぶが、態勢を整えた小型HWはこれを上下の動きで避ける――が、次の瞬間に被弾した。今度はファリス機がブレス・ノウを使用しつつ放った十六式螺旋弾頭ミサイルだった。続いてブラックハーツを起動しつつ射出されたレオーネ機のUK−10AAEMも、命中。
 一方、タクティカル・プレディレクションを起動している為自機の戦闘能力が落ちている祐介と斎は、フローラたちよりもやや後方に位置して支援に徹していた。
「クッ‥‥この情報量‥‥。だが、この程度なら‥‥まだ――見えるぞ、自分にも敵が見える!」
 祐介はスキルの影響で大量に機体コンピュータに送り込まれる情報量に苦心しながらも、叫ぶ。
 敵がシステムを用いているのは今までの攻撃で理解出来たが、まだ何かありそうだ。思った矢先、編隊は総員ターゲットをファリスに変更し、ソーニャの時と同様に牽制のバルカンと誘導のホーミングミサイルを放ってきた。
 これがパターンなら、次はプロトン砲。だが、祐介は膨大な情報量の中から見出した未来を予測して叫ぶ。
「ファリス君、ひたすら下に退避――本命はもう一発ミサイルが来た後だ!」
 刹那、ファリス機が退避行動を取った後にミサイルがそれを追い、構わず尚も逃げた機体は本命――プロトン砲もやり過ごした。
 これなら――いける。確信を抱いた祐介機の前を、一歩遅れてブーストをかけた海と籐子の機体が通過する。
「システム、リミッター解除っ!」海が高らかに叫び、D−03ミサイルポッドの射出口を全面開放する。
 今度は一発だけではない――といっても味方の攻撃補助を目的とする敵の行動阻害が狙いだが、
「でも、当たったらただじゃすまないんだからねっ!」
 敵四機それぞれに向け、射出。
 刹那、敵編隊の周囲にミサイルの雨が降り注いだ――攻撃としての効果は薄いが、それはそれで構わない。
「いくわよ〜♪」籐子がそう言って空対空誘導弾「飛竜」を放つ。D−03を避けた直後だったこともあり、ファリスらの射撃も受けた小型には簡単に命中した。海のミサイルは実際敵の動きを抑えられたという意味では陽動にもなっているのだ。
 狙われ続けた小型の損壊はいよいよ激しいものになっていた。そこに、再度ソーニャが迫る。
「伊達に制空戦闘機を名乗ってる訳じゃない」小さく呟いて、先程同様UK−10AAEMから高分子レーザー砲を叩きこむ――すると、遂に一機目が爆炎をあげて墜落し始めた。戦闘区域は都市上空からやや離れた場所を選択した為、都市に墜ちることはないだろう。
 一機墜ちたにも関わらず、編隊はターゲットを再びソーニャに変更して離脱するソーニャ機を追い掛けた。が、
「またそのパターン? その程度じゃ、当たらないよ」バルカンこそ掠めはしたが、今度は祐介の予測なしにプロトン砲までかわしきる。
 その間にフローラがレーザーライフルのトリガーを引いていたが、やはり当たり難い。と思えば――レーザーが陽動になっていたこともあるのだろうが――ファリス機が放った螺旋弾頭ミサイルは悉く命中し、被弾から体勢が整わなかったこともあり直後に襲いかかったレオーネ機のプラズマリボルバーの射撃も命中した。ブラックハーツを起動しながらだったこともあり威力は大きい。
 続いて海機と籐子機が先程同様にD−03と飛竜で牽制、攻撃に出、先程同様の効果が得られ、更に編隊がファリスにターゲットを変更したところで――
「分かった!」祐介は通信越しに全機に自らの推測を発信する。
 ホーミングミサイル以外の攻撃は、敵のシステムにより極めて高い確率での回避をプログラミングされていること。
 これは各人うすうす感じていたことでもあるが、もう一つあった。
「ソーニャ君が接近しつつ攻撃している時はソーニャ君を狙い、そうでないときは『ホーミングミサイルを一番多く撃ってくる』ファリス君を狙うようにプログラミングされている」――祐介はそう伝えた。
 飛竜もホーミングミサイルである為籐子も数の上では同じくらいだが、彼女は最初にホーミングミサイルではないD−03を放っている為確率でいえばファリスの方が上だ。
 つまりは距離と、ホーミングミサイルの使用頻度。それらの要素が、敵編隊のターゲッティングの基準となっているのである。
 相手の種が分かってしまえば話は早い。狙われる対象が分かるということは、本人はよりそれに注意を向ければいい。
 再び切り込み、それまで同様にUK−10AAEMを発射するソーニャ機。彼女が更に高分子レーザー砲を放つタイミングに合わせ、フローラがレーザーライフルのトリガーを引いた。
 今度はレーザーライフルも命中し、小型HWの二機目が墜ちる。それをよそにファリスが短距離高速型AAMを残った小型を狙って放ち、それが命中したところで尚もブラックハーツを起動させているレオーネがプラズマリボルバーを叩きこむ。
 その時――、
「――もう片方の編隊が来ました!」斎が敵の援軍を告げる。レーダーを見れば、既に二つ目の編隊は大分接近しつつあった。
 戦況が変わる。予測していた事態故、傭兵たちが態勢を変えるのは素早かった。海機、ファリス機、そして斎機が趨勢の傾きつつあった最初の編隊との戦闘から離れ、足止めに向かう。
「マルチロックオンシステム、正常起動っ! 邪魔なんてさせないんだからっ!」
 海は再度スキルを起動し、そのままK−02を射出――。
 ホーミングミサイルではあるが、流石に一機当たり数十発も食らってくれるほど敵も温くはなかった。それでも与えた被害と混乱は大きく、
「戦っているみんなの邪魔をさせないの!
 ファリスがここで抑えるの!」
 ファリス機が遠距離から放つUK−10AAMも同様に敵の足止めには十二分に役割を果たしていた。それに合わせて斎が放つ高分子レーザー砲も、スキル起動中の為威力は落ちているものの牽制の役割は果たしている。
 このまま一方の編隊が片付くまで足止めを続ければいい――と三人とも思っていたのだが、
「――避け」て、とまで斎も言う暇がなかった。足止め班は元の戦闘区域からやや距離を置いていた為反応が遅れたのもある。
 元の戦闘区域ではソーニャ機の攻撃で以て残っていた最後の小型HWも墜としたのだが、その直後から最後に残った中型HWの動きが変わったのだ。プロトン砲とともにHWに普通積載されているフェザー砲が――あたかもK−02のように拡散し、戦闘班はおろか足止め班までをも複数のレーザーが攻撃してきたのである。
「――これはこっちを落とす時は、中型は最後に残さない方がいいですね」被弾のダメージを計算しながら斎は苦々しく言う。
 拡散されているだけあって被害はそれほど大きくないが、流石にただでは倒させてはくれないらしかった。
 その後も足止めが続く一方、元の戦闘班の方は決着間近になっていた。
「ちょっと吃驚したけど‥‥反撃もここまでよ〜♪」籐子が飛竜を射出し、
「次に同じことをさせるつもりはありません――」レオーネがプラズマリボルバーのトリガーを絞る。同じことをさせる前にやってしまえ、という意味だ。
 最後に――、
「エルシアンは落ちない、常にそこにあり戦域を支配する」
「序章で躓いてはいられない、ってね」
 ソーニャ機とフローラ機の連携による攻撃を受け、中型HWは爆散した。

 種も分かっているし、中型の危険性も分かっている。
 ここまで来ると、もう片方の編隊を攻略するのは難しいことではなかった。
 ホーミングミサイル系統の兵装を軸に敵の回避行動を切り崩し、その間に火力の高い攻撃を集中的に叩きこむ。各個撃破。
 中型は最後には残さず、小型二機を墜とした段階で攻略――。
 どうやらシステムは全権を中型が握っていたらしい。最後に残された小型はそれまでのような機敏な回避行動も取れず、一方的に攻撃を浴びて沈むことになった。

 撃墜したHW群は一機もスーカラスに墜ちはしなかった。周辺に戦力がいないことが偵察で分かっている以上、少なくともこの都市の人々には平穏が戻ったことになる。
 だが――まだ全てが終わったわけではない。
「戦火は南へ南へ、ってね♪」籐子が言う。

『Roller for African Liberty』――アフリカの地図を白く塗り替える為の戦いは、まだ始まったばかりだった。