タイトル:【HD】早川少年の事件簿マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 13 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/14 23:17

●オープニング本文


※このシナリオはハロウィンドリームシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません

 気がついたら日本へ向かう飛行艇の中にいた。
「‥‥あれ、何でだっけな」
 思わず呟いた俺――早川雄人はその時、手を突っ込んでいたジーンズのポケットにかさついた手触りを覚えた。
 くしゃくしゃになった紙――手紙だ。
 あぁ‥‥そうだ、親から「たまには帰ってこい」っていう手紙が来たんだっけ。
 正直面倒くさいんだが、よく考えたら一年以上帰ってない。
 そんなわけで気乗りはしないまま準備を始めたんだっけ。

 気がついたら『HAYAKAWA』と書かれた表札の前に立っていた。
「‥‥‥‥」
 正直どういう道筋で来たかも覚えてないのだが、まぁぼんやりしていたのだろう。気にしないことにした。
 とりあえず、一年ちょっとぶりの実家である。
 門をくぐった途端、違和感を覚えた。
 別にイイトコの身分ではないんだが、うちの庭はそれなりに広い。
 その庭が全部畑になっていた。
 ‥‥親父に畑仕事なんて趣味あっただろうか。

 家の中に入ってますます首を傾げることになった。
「‥‥何やってんだ? 親父」
 リビングで親父ががっくりと項垂れていた。顔文字風に表すなら『orz』な感じだった。
「あぁ、雄人か‥‥帰ってきたのか」親父はのろのろと顔を上げた。
「帰ってこいって手紙送ってきたのはあんただろーが。で、どうした」
 尋ね直した途端、親父は女々しく顔を両手で覆った。
「お前も見ただろう? 家の前の南瓜畑を」
「いや全部南瓜なのかよアレ。まぁそれはいいとして‥‥見たけどそれが何か」
「あの中の一角に、育てても滅多に採れない稀少種『ゴールデン★カボス』があったんだが‥‥今年唯一採れたそれを、母さんに取られてしまったんだ」
 カボチャなのかカボスなのかはっきりしろよ、という突っ込みは飲み込んでおいた。
「取られた、って‥‥なんでまた」
「窓の外を見るがいい」
 言われた通りに窓の外に目を向けた。

 なんか巨大なカボチャのオブジェがあった。
 大きさ‥‥や、そんなもの想像したくもないレベルだ。

「なんだあれ」
「胡瓜魔王の城だ」
 今度はキュウリかよ。漢字の瓜しか共通点ねーぞ。
「アレが現れてからというもの、母さんはすっかりウリボウ教にのめりこんでしまってな‥‥供え物とするつもりなんだそうだ」
 もはやうりはうりでも食べ物ですらねーぞ、と突っ込む気力もない。
 俺は一つ溜息をついて、親父に尋ねた。
「‥‥とりあえずそのゴールデン何たらを母さんから取り返して、ついでに母さんを正気に戻せば万事解決だよな。
 母さんはどこにいるんだ?」
「二階の寝室だよ」
 
 で、二階の寝室に行くと――。
「‥‥母さん?」
 部屋の中央に無数の南瓜が積み上げられていて、その下から人の腕だけがかろうじて伸びて見えていた。
 指先は窓の外のカボチャ城(仮名)を指差していたけど、そこは気にしないことにする。
 とりあえず南瓜をどかしてみると――
『犯人は●ス』
 というわかりやすいダイイングメッセージが書かれた紙の下に、白目を向いている母さんの姿があった。つうか、このメッセージ書いたの母さんじゃないだろ?
 あと何か、南瓜っぽいデザインの鍔がついた剣と、西瓜っぽい柄の盾が置かれていたけど――どうすんだよ、これ。

 投げやりに窓の外へ視線を投げた俺の目に、空飛ぶ南瓜の馬車が見えた。

●参加者一覧

/ 終夜・無月(ga3084) / 旭(ga6764) / 夜十字・信人(ga8235) / 百地・悠季(ga8270) / 紅月・焔(gb1386) / 矢神小雪(gb3650) / 崔 美鈴(gb3983) / 諌山美雲(gb5758) / ソウマ(gc0505) / 守剣 京助(gc0920) / 姫川桜乃(gc1374) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / 守者(gc5280

●リプレイ本文

●序章 まーくん襲来!
「あれ、僕は一体‥‥」
 何故か路頭に倒れていた旭(ga6764)は痛む後頭部をさすりながら起き上がった。
 気がついたそこは南瓜畑の間の道で、自分が倒れていたすぐそばにはすっかり実った南瓜が転がっている。どうやら南瓜が後頭部にぶつかって気を失ったらしい。後頭部なので見えないが、明らかに漫画チックなたんこぶが出来てるのが手触りで分かって悲しかった。
 痛みと悲しみに暮れていると――
「ヒーホー!」
 どこからか高笑いが聞こえ、彼の目の前に男が降り立った。紳士っぽいマスクの上から更にジャック・オー・ランタンのマスクを被っている。
「ヒーホー! オイラ、マスクランタンの紳士マスクこと中の人さっ!
 プリーズ・コールミー・まーくんホー!」
 それ自己紹介でいいのか。報告官は姿を想像するとき「全身黒タイツな変態っぽいなあ」などと思っていたのだが。ということで変態かどうかはさておき彼は全身黒タイツである。ごめん。
「え、えーと‥‥いったい何しに?」
 呆然としている旭の前で、マスクランタンの紳士マスクこと中の人ことまーくんは大仰に胸を張ってみせる。
「どーせ夢の中だし、旭君こと本体を乗っ取ってネタに走ろうかと思うヒホ!」
「駄目」呆然としていた割にそこは即答だった。
「え、駄目? いけずー」
 まーくんはそんな風に言って首を傾げてから、腕を広げた。

「まぁ駄目でも乗っ取るんだけどホー!」
「う、うわぁぁぁぁあ!?」
 旭の意識はそこで再び、途切れた。

●第一章 勇者ご一行の旅立ち?
 雄人が暫し途方に暮れていると、やがて窓の外で雨雲が広がり始めた。
 そして瞬く間に雨が降り始める――が、そこまで強い雨ではない。
 とりあえずどこかに寝かせたほうがいいか、などと考え、雄人が母親の手を引っ張ろうとしたその瞬間、

 ピンポーン♪ オキャクサンダヨ♪ オキャクサンダヨ♪

 鸚鵡っぽいノリのチャイムが鳴った。
 雄人は母親の身体を見下ろして、
「‥‥まぁ、死んでるわけじゃないし大丈夫か」
 微妙に薄情なことをのたまってから階下へ降りた。

 玄関の扉を開いて顔が強張ったのを自覚する。
「えへ☆ 来ちゃった‥‥迷惑だった、かな‥‥?」
 崔 美鈴(gb3983)のその言葉の後半、彼女はちょっと悲しそうな顔をしていた。実際雄人が出るまでピンポンダッシュが繰り返されていたためある意味では迷惑ではあったのだが、仮にも女の子相手にそこを突っ込む気にはなれない雄人だった。
 だから、
「い、いや、別に‥‥」そう答えざるを得なかったのだが、
「本当?」途端に美鈴が表情を輝かせ、「お邪魔しまーす」と玄関から中に入り込んでいく。止める暇はなかった。
 ちなみにこの場に来たのは彼女だけではなかった。矢神小雪(gb3650)、春夏秋冬 立花(gc3009)、守者(gc5280)、そして何故か道化服を身に纏ったソウマ(gc0505)。ばったり会ってそのまま一緒に来たらしい面々が、次々と上がりこんでいく。
 家に上がった面々は、割とすぐに雄人母の異常に気がついた。
「お義母様! 大丈夫ですか?」
 美鈴が抱き起こすが意識がないようだ。仕方なく、守者が蘇生を試みる。
 何度か試したところで漸く息を吹き返した母は、その後は意外と元気に色々語り始めた。ウリボウ教のこと、何で自分が倒れていたのか、などなど――これらの話がある人物に思いもよらぬ影響を与えることなど、このときは誰も知る由もなかった。
 一通り話が終わったとき――例のカボチャ型の城から、高笑いが聞こえてきた。
『私は、このウリボウ教の五反田支部・パンプモニウムの頂上で、お前たちを待っているぞ。勇者たちよ』
 魔王の宣告らしくちゃんと聞こえた声の主は夜十字・信人(ga8235)である。いや、既に何人か気づいてるし。
「‥‥とりあえずゴールデン何たらは取り返さないとな」
 その雄人の一言で、一行は一路パンプモニウムを目指すことになった。ただし美鈴だけは雄人母の介抱をしていくので遅れるらしい。
 ちなみに倒れた母の傍においてあった剣と盾は、守者がどうするか悩んでいたものの、結局放置されることになった。

 雄人の家を出た一行の目の前に、唐突に影が降り立った。
「トリック・オア・トリート! 付いていくための大事な儀式だホ!」
 まーくんはそう言って手を差し出す。お菓子くれ、の合図だ。
 そもそもついてきてとも一言も言ってないのだが、まぁ慣習には従うものだろう。右手でポケットを探り始めた雄人に対し、
「‥‥ま、お菓子くれても悪戯はするけどね!」まーくんは言う。
「パーティーの内の誰か一人、体がカボチャになる呪いをかけるヒーホー!」
 そんなことを付け加えたので雄人は右手でお菓子を放りつつ左手で殴った。
「冗談ヒホー‥‥」まーくんは割と素直に謝り、
「道案内はまーくんにお任せホー!」
 そう言って奇妙なステップで先導し始めた。

 歩き始めてから少し経って、林に入った頃――突如、先導するまーくんと続く雄人の間に人影が降り立った。
「!?」
「御命頂きます‥‥」
 雄人に向け終夜・無月(ga3084)はそう言って、大刀で彼に斬りかかる。
 雄人は手甲でそれを受け反撃を試みるも、かわされた。
 同じようなやり取りを数度、瞬く間に繰り返した後――
「一旦ここは引きます‥‥。首を洗って待っていなさい‥‥」
 唐突に戦闘を切り上げたかと思うと、無月は林の中に姿を消した。
「何だ‥‥?」
 その問に答えられる者は、その場にはいなかった。

 一方その頃、一人早川家に残り雄人母を介抱していた美鈴は――
「雄人さんと結婚を前提にお付き合いしております、崔 美鈴です♪」
 ちゃっかり雄人の両親に挨拶を済ませていた。

●第二章 新たなる仲間と裏切り
 パンプモニウムに向かって一行が本格的に冒険を始めた矢先、路肩にドラム缶が置かれているのが見えた。
 ただ、それをドラム缶だと判断するのには若干の時間を要した。
 そのドラム缶、何故かコーラペイントだったからである。
「はっはー! とりっく・おあ・コーラ!」
 一行が大分近づいたというタイミングで、そんな声を上げながらコーラ缶――否、ドラム缶の中から男が顔を出した。守剣 京助(gc0920)である。
「‥‥‥‥」
「っておい! 無視するなよ!?」
 一行は顔を見合わせることもなく、すたすたとその横を通り過ぎていく。京助は慌てて呼び止めた。
「‥‥何だよ」雄人が尋ねると、
「コーラをくれたら仲間になるぞ!」京助は缶の中で胸を張ってそう叫んだ。
 きび団子かよ――何となく雄人はそう思ったが、なんかほっとくのも面倒なのも確かだ。
 ちょうど手ごろなところに自販機があったので、コーラを買って「ほらよ」京助に渡す。
 仲間になることを決意したのだろう。その段になって京助はようやく缶から出た。
 そしてコーラの蓋を開け、いかにもおいしいと言いたげな表情を浮かべながら口をつける。
「やっぱり(ピーー!)コーラだよな!」
 そう嬉しそうに叫んでから、京助は首を傾げた。
「あれ、いまなんか変な音が入らなかったか?」
「‥‥」
「あ、待てよおい!」
 歩き去っていく一行を、京助は慌てて追いかけた。

 パンプモニウム自体は非常に分かりやすい場所にあるのだが、意外とその道中は障害となりそうなものが多かった。
 そのうちの一つ、森の中の分岐。雄人の記憶ではそんなところに森自体なかったのだが、まぁそこを気にしてはいけない。
 太陽の光も届きにくいほど深い森だ。一歩間違えればパンプモニウムに辿り着くどころか迷ってしまうだろう。
「どこだったか忘れたホー」まーくんは道案内とか言ってた割にここだけは忘れたらしい。
「籤引きでどこにいくか決めませんか?」そう提案したのは立花だった。京助もそれに同意を示し、自分が籤を作ると言い出す。
「あんまり横暴なこと書かないでくださいよ?」
「分かってるって。まぁ任せておけ」
 立花の要求に肯きつつ、細かくちぎった紙にさらさらと籤の内容を書き込んでいく。が、
「おいおい、籤の内容が見えて‥‥ひぃ!」作成した籤が表になっているのに気づいた立花が悲鳴を上げた。
 NMP(ないむねパワー)一択! なにこの偏った選択肢! なにこれ! 私はどうすればいいの!」
 別にセーラーなんちゃらに変身できるパワーでもなさそうだ。確かにこれは困る。
「NMPのお導きで一つ」
「ねーよそんなもん!」
 京助に対しての立花の突っ込みの反応速度、0.01秒。
 籤がまるで無意味なものになってしまい、
「どうするんだよ」守者が尋ね、
「どうしますかね」ジャグリングを披露しながらソウマが答える。誰が答えても同じ回答にしかならないのは仕様である。
 そんなわけで途方に暮れ始めたところ、
「こっちだよー」一行の耳に少女の声が届いた。一部の面子には聞き覚えがある声だった。
 声がした方を見ると、分岐のうちの一つの先に金髪の少女が立っていた。
「アメリー‥‥?」
 雄人は問いかけるように言葉を放つ。疑問形だったのは、少女の頭部には二本の黒い――猫耳が生えていたからである。
 名を呼ばれた少女――アメリーはそれにはただ小首を傾げただけで、次いですぐに一行に背を向けて走り出した。
「あ、おい、待てよ!」雄人の制止など聞く耳も持たないアメリーの姿はどんどん小さくなっていく。
「どうやらあの子についていけばいいみたいですね」
 彼女の様子に困惑しつつもソウマの言葉に各々肯き、一行はアメリーが消えた分岐の先へ駆け出した。

 ちなみにその様子を、遠くから眺めている女が一人。
「上手くいったら猫まんまを高級なのに格上げするからね」
 ローブに杖といういかにもな衣装に身を包んだ百地・悠季(ga8270)は呟く。
 声が届く先はアメリーが隠し持っている水晶玉だ。要するに、今のアメリーは彼女の使い魔なのだった。

 追いかける前に大分差は開いてしまっていたらしく、次のY字路分岐の先にアメリーの姿はなかった。
「見失っちゃったね〜」小雪が言う。
「こんなときこそ僕に任せるヒホー!」
 奇妙なステップを踏みつつ、まーくんがそう言って一行の前に立つ。名誉挽回のチャンス。
 記憶を辿っているのか、ステップを踏みつつ瞑目しているまーくんは気づいていなかった。
 分岐の一方から、音速を超えそうな速さで何かが迫っていたことに。

「‥‥‥‥――――ぁぁぁぁああああああッ!?」

 それは人だった。
 絶叫が耳に届いた頃には既に時遅く、哀れまーくんは激突、跳ね飛ばされる。飛んできた方――諌山美雲(gb5758)はといえばまーくんがクッションとなり、反動で少し反対側に吹っ飛ばされたものの加速は収まったようだった。双方とも大怪我でないのは夢の中だから。
「‥‥いったい何が‥‥」呆然としつつ守者が口を開く。
「パンプモニウムに行こうとしたら道間違っちゃって、しかもそこにあったトラップ踏んじゃったんですよー」
 美雲は立ち直りが早かった。あっさり立ち上がると事の顛末を報告する。
「それはさておき」美雲はこほんと咳をした後、
「トリック オア トリート! お腰につけたカボチャプリンをくれたら、お供をしますよっ!」
 またきび団子か。
 別に腰にはつけてなかったが、そういえば家を出る前に母親に渡されていたのを思い出した。もう拒否するのも面倒くさい雄人は何も考えずにカボチャプリンを美雲に渡す。
 一方、たまったもんじゃないのはまーくんだ。吹っ飛ばされた森の中から死に体で戻ってくると、
「おのれドジっ子! 敵にすると心強く、味方に居ると恐ろしいとはこのことホ!」
 そう叫び、つい先ほどまで死に掛けていたとは思えない軽やかな足取りでさっさと分岐の先へ。
「まーくん、まおー様の側に付くホー! またねー!」
 美雲と居たら体が持たないらしかった。まぁ、早速死に掛けたしね。
 追いかけることは容易だったはずだが、そうは出来なかった。
「きゃっ」
 後方で、短く立花の悲鳴が響いた。
「あーっと! 手が滑ったぁっ!」
 京助が、これ以上ないほどわざとらしい言葉とともに立花の体を横一文字に切り裂いていた。
「胸が無いからって、それは酷すぎますッッ!!」
「それ関係ないだろッ!?」
 斬られても意外と元気だった立花は美雲に突っ込みつつ、次は京助を睨む。
「馬鹿なぁ! 私はあなたの右腕ではぁ!」
「何を言う、余の右腕はここについているではないか。それに言ったな、俺はいつか裏切ると‥‥」
 三下感十分の言葉に対し、京助は至極当然とばかりに右腕をさすった。
 いや、そうじゃないだろ。そんな一行の視線も気にせず、京助はどこからか呼び出したバイクに乗り込む。
「それでは諸君、サラダバー!」
 報告官がファミレスに行きたくなるようなボケをかましつつ、京助は颯爽と走り去っていた。

 今度は追いかける前にやることがあった。斬られた立花のことだ――が。
 ぽんっ。
 炭酸の入ったペットボトルの蓋を開けたときのような音を立て、立花の体が煙に包まれたかと思うと――真っ黒な服を着た立花と、真っ白な服を着た立花に分裂したではないか。
 ついでに言うと背丈も半分こ。バストサイズは本人的には半分こ、見る人が見たら「半分にしても変わらない」というところだ。
 すると二人になった立花にある種の興奮を見せた者がいた。
「立花たんが増えただとぉー!」
 小雪だ。
「それなら小雪も増えるってかゲストを呼ぶよーー!
 黒雪カモーーーンッ!」
 合図と共に森の中から一人の少女がカメラを手にして現れた。
 髪の色が真っ黒であること以外は小雪と何もかもが同じなその少女――黒雪は、白い服を着た立花――白立花を視界に捉えると、爛々と目を輝かせる。ものっすごくアレな趣味を感じさせる目だった。アレが何かはそれぞれ脳内補完してほしい。少なくとも報告官はちょっと口ごもる。
 ただし当の白立花はそれに気づいていなかった。
「お菓子ー」
「はいはーい、小雪がお菓子を作るよ〜。秋の味覚を使って色々作るよ〜」
「あ、ちょっと」
 黒い服の立花――黒立花が小雪が作るお菓子の誘惑に負けてそっちに行こうとするのを制しにかかっていた。
 が、その手を黒雪ががっしり掴んだ。
「うふふ‥‥立花たーん、ちょっと二人きりにならないー?」
 黒雪の言葉はあくまで誘いだが、その手にはリリースする気がまったくなかった。
「ちょっ! 何をするんですか!」
「大丈夫痛くないよ〜着替えるだけだから‥‥はぁはぁ‥‥」
 興奮のあまり鼻血を垂れ流し始めた黒雪の手には、フリルエプロンやらメイド服【月夜】がある。小雪の携帯品からくすねたらしい。
「黒雪それ着替えちゃう、コスプレやっ」それに気づいた小雪は声を上げたが、黒雪は気にも留めず立花の手を引いてどこかへと歩き出した。
「きゃぁぁぁ――‥‥!」
 立花の声と姿が少しずつ遠くなっていく。
 下手に止めると何となく殺されそうな気がしたので、その場に居た全員はただただそれを見送るしかなかった。

 ■

(音声だけでお楽しみください) 

「くっ、血が足りなくなりそうだ‥‥」
「ひっ‥‥」
「カメラカメラ‥‥」

「い、いやですこんなの‥‥」

「黒雪フラッシュ!!」
「きゃああああっ!?」

 ■

「あ、戻ってきた」
 黒雪と白立花の姿に気づき、小雪が声を上げる。割と短い時間ではあったがやることはやったらしく、黒雪は涎を垂らして悦に浸っている。
「うぅ。汚された‥‥」一方の白立花はさめざめと涙を流しながらそんなことを口にする。純潔はどこへいったのだろう。
 悦に浸ったままの黒雪の懐から写真が一枚地面に落ちた。
 小雪はそれを拾い上げ、その写真に映っているものを見――
「――‥‥とりあえず焼き増ししてくれないかな‥‥」
 呟いた。何が映っていたのか書くとてらりん的にアレそうなのでやめておこう。
 その時、一行には別の意味での(寧ろ正しい意味での)危機が再び迫っていた。
 相変わらず森の中をパンプモニウムに向け歩いていたのだが――唐突に、最前列にいた雄人の前に影が降り立った。
「此処で倒れて下さい‥‥」
「またお前か!」
 降り立った影――無月は大刀を振るい、雄人は手甲をつけた拳でそれを払う。
 以前同様、誰かが間に入ることを許さぬ速さで何度かそれを繰り返した後――
「また仕留め損ないましたか‥‥」
 言葉ほど悔しそうな響きは口調からは感じなかったものの、それだけ言って無月は再び森の中に消えた。
「何だってんだ‥‥」
「ん〜? 誰かいるの〜?」
 言葉に反応したのは一行にはない声だった。
 次の瞬間、横道から一人の少女が現れた。姫川桜乃(gc1374)である。
 現れたのはいいが、その、なんだ、色々困るぞ。
 生まれたままの姿とか。
 そんなことは本人はまったく気にしていない様子で、白立花を見下ろして問う。
「なんで服着てないの?」
「着てるっちゅーねん!」
 即座に反論。まぁ白い服といってもレース生地なのでかなり薄いことは薄いのだが。
「だって、私だけ裸ってはずかしいじゃん」一応気にしていたらしい。
「お前は着ろ!」
「えっ! りっちゃんは着てないの?」
「だから着てるっちゅーねん! 姿が見えないからって適当言うな!」
『本来の』立花は確かにここにはいないが。
 突っ込み疲れて息を吐いた白立花は、
「あれ?」
 次の瞬間目を疑った。
 ついさっきまで一糸纏っていなかった桜乃が、いつの間にか裸エプロンになっていた。
「流石に裸のままじゃねえ」と口にしたのは小雪。どうやら彼女が仕掛けたらしい。
 が、裸エプロンだとアレ具合はあまり変わってない気がするのは報告官だけだろうか。アレが何かは例によって脳内補完でお願いしたい。
 というか、黒雪といい桜乃といい何だこの変態ばかりのインターネッツ、もとい夢の中。まぁ夢の中だからいいことにしておこう。

 そんなこんなで「伝説のパンツを捜し求める」桜乃をも仲間に加えつつ、一行はいよいよパンプモニウムに近づきつつあった。
 念のために言っておくが、間違ってもパンツモニウムではない。

●第三章 決戦! パンプモニウム!
 一方、パンプモニウムの頂上では――。
「こぉぉぉぉの展開、神だなぁぁああああ」
 信人こと胡瓜魔王はマッサージチェアに座り漫画を読むという快楽のひと時に浸っていた。
「お邪魔するわよ」
 不意に、部屋に悠季が入ってきた。雄人たちを振り切ったアメリーも彼女の後ろからとことことついてきている。
「何者だぁぁぁ、何しにきたぁぁぁ」
「ただのしがない賢者よ。勇者がここに迫ってきていることを教えに来たの」
 悠季はそう言って、地図を広げる。
「勇者連中はここからこう辿って、こう来ると‥‥。
 なのでちゃんと撃退しなさいよね」
 勇者――雄人たちが来るであろうルートを予言し、邪な笑みを浮かべて危機感を煽る悠季。
 が、魔王は予想に反して平気そうな表情を浮かべていた。
「なぁぁぁに、大丈夫だぁぁぁぁ」相変わらずマッサージチェアに座っていたため、魔王の声はブレブレだった。
「こっちにはぁぁぁ、量産化に成功した部下がいるからなぁぁあ」

「やっと着いたな」
「なんか思ったより疲れましたね‥‥」
 雄人の言葉に、ソウマがそんな感想を漏らす。
 目の前には、パンプモニウムの入り口。跳ね橋はご丁寧に既に下りていた。
 ちなみに疲れた原因は、これまでに報告してきたあれこれに加えて美雲のドジがあったことをここに付記しておく。味方に居ると恐ろしいという噂は正しかった。
 ともあれ、あとは侵入して胡瓜魔王を倒し、ゴールデン☆カボスを手に入れるだけである。
 が――次の瞬間目の前に現れたものに、一行は目を疑った。
 城の入り口からガスマスク装備の紅月・焔(gb1386)が『無数に』現れ、あっという間に跳ね橋を埋め尽くし始める。しかも雄人を視界に捉えることが出来る最前列は、何故かキング・オブ・ポップスばりのス●ラーダンスで迫ってきていた。
『友セフ情クタエパワハラエノキワーンペミージ!! ッアーーー!』
 焔の群れはそれぞれ同時に叫んだ。同時だからやかましいことこの上ない。ちなみに内訳は
「友情パワー!」
「フタ●ノキワミ! ッアーーー!」
「セクハランページ!」
 だ。混ざるとパワハラとかエノキとか別の単語が生まれる不思議。実にどうでもいい。どうでもいいついでに、一部伏せた理由は察してほしい。
 ともあれ、これを突き破らないことには始まらないようだ。
「‥‥しょうがない、やるか」
「任せてくださいッ!」先陣を切って立ち向かったのは美雲。
 が、数歩でずっこけた。
 それに足を引っ掛けて、最前列の焔数人(?)が次々と転倒する。ふぎゅ、という美雲の悲鳴が聞こえたが、まぁ倒れただけだしダメージはあんまりないだろう。
 それでも勢いを止めずに襲い掛かってくる焔の群れ。雄人たちは全員で立ち向かう羽目になった。
 中でも戦う気自体があまりないようにも見えたソウマに群れの動きは集中したが――
「道化師は逃げるのも踊りながらするものです」
 ひらりひらり逃げる度、跳ね橋から焔が落ちていく。
 また彼は不意に、美雲に引っかかって倒れたままの群れの山(ちなみに美雲は脱出済みである)の上に立つと、そこで余裕ぶって大道芸を披露し始めた。
「相手を楽しませる、それが道化師の誇りなんですよ」
 今の場合は仲間に余裕を持たせる意味合いの言葉だが、本音はといえば。
(今回は僕が楽しむ事を優先にさせてもらいますけどね)
 胸中で呟きにやりと笑ったところで、バランスを崩した。山の上から落ちそうになる。
 そこに迫る、一人の焔。
 ――それに対し、ソウマは急所に蹴りを入れ、その反動で自分は山の上に戻った。蹴られた焔は絶叫を上げつつ跳ね橋から落下。
「いつでもどこでも笑いを呼ぶ、それが超一流の道化師なんですよ」
 ソウマは片目を瞑って不敵な笑みを見せた。

 そんなソウマの活躍もあり、割と強引ではあったが焔の群れを突破することに成功した一行は遂に城内への侵入を開始した。
 ちょうどそのタイミングで、大分焔の数が減った跳ね橋の前に現れた影があった。
「雄人さん、もう少しでまた会えるからね!」
 美鈴である。雄人の両親に挨拶を済ませた後ここまで追いついてきたのだ。
 そして彼女は、数を減らしつつもなおも自分を邪魔しようとする焔の群れに対し――獣じみた視線を向ける。
「あああああああああ!!! もう!!!! 邪魔だって言ってるじゃない!!! さっさと道開けなさいよ!!」
 鉈をぶんぶんと振り回すそのさまはまさに鬼だった。
 全ては雄人の為の執念。怖い女の子に育ったものだ。親の顔が見てみたい。未来(彼女的予定)の義父母とかじゃなく。

 そんな恐るべき執念を見せた彼女は、それから瞬く間に雄人たちに追いついてみせた。
「えへへ♪ ご両親にご挨拶してきちゃった」
「何やってんだお前!?」愕然とする雄人。もう色々後に引けないではないか。
「ねえ、式はいつにする? やっぱり6月? ‥‥‥ねえ、聞いてる?」
 聞こえてるけど聞きたくない。でも答えないといけないのだろうか。
 色々葛藤していた雄人にとって、次に起こった出来事は返答のタイミングを逸させるという意味ではちょうどよかった。
 ひときわ目立つ扉の前に、見覚えのある影が二つ立っていた。
「はっはー! よく此処まで来たな」
「ぎゃー。人数増えてるしやっぱ怖いホー!」
 二人の裏切り者――京助とまーくんである。
「ってか立花、変になってね?」
「貴方のせいでしょう!?」
 白立花はすかさず突っ込む。黒立花は美雲に手を引かれて相変わらず「お菓子ー」とか言っていた。
 でもそれ以外に、今更裏切り者にかける言葉はない。というわけで、

 あっ。

 という間に京助はフルボッコにされドラム缶に詰められる。そしてごろんごろんと下り坂を落ちていった。
 残ったまーくんはと言えば、
「みんなが魔法を使えるようにするから許して欲しいホ!」
 命乞いの態である。
「魔法?」
「そーれ! ないむねぱわ‥‥」
 言葉の途中で美雲に斬られた。
「痛いヒホ! 何するホ!」 
「そういう魔法は、りっちゃんだけに使ってくださいッ!!」
「何で私だけ!?」
 白立花の突っ込みを、美雲はあえて無視。
「使えたら便利なのにホー」まーくんはいじいじと言い訳をする。
 ただ、小声で付け加えた言葉がまずかった。
「‥‥ただ、胸がぺたんこになって成長しなくなるだけだホ」
 また斬られた。あと白立花にもぼこられた。
「や、やめるホ! 争いは何も生まないホ!
 胸も育たな‥‥ヒーホー!!」
 余計なことを口走ろうとしたまーくんはとうとう断末魔の叫びを上げることとなった。

 そうして、遂に魔王の間への扉は開かれた。
「来たかぁぁぁ勇者たちよぉぉぉ、‥‥っと」
 ぎりぎりまでマッサージチェアで寛いでいた胡瓜魔王だったが、漸く立ち上がった。
「悪いが、ここで倒れてもらうぞ。俺も引けない理由があるのでな‥‥野望のために」
「野望?」
 雄人が聞き返すと、魔王は遠くを見てやや頬を赤らめる。
「この世界を覆いつくす南瓜を掌握し、その後アスナとイチャつく‥‥」
 そこまで言ってから、魔王は再び雄人たちに向き直った。
「――その為には、ゴールデン☆カボスは誰にも渡すわけにはいかなごふッ」
 んなもん知ったこっちゃねえとばかりに、小雪と黒雪は魔王に先制攻撃を仕掛ける。
「さあ、私のカボスを返してもらいますっ!」続いて美雲も斬りかかった。
 もうRPGの常識も何もなくなっちゃったので、雄人たちもそれに乗じて攻撃し始めた。魔王はといえば、
「ぐふッ」
「なかなかやるな‥‥」
 などと言って攻撃を受けるばかりで、自分から攻撃を仕掛ける気はないようだった。というか魔王――信人的には、相手に桜乃がいたので攻撃出来ないという事情があったのだが。
 その桜乃も桜乃で勿論動いていた。魔王が大分ぼろぼろになった頃、
「ふふふふ‥‥このパンツ姫に勝てると思ったら大間違いよ。
 いけ! パンツ戦艦!」
 不意に叫んだ。すると部屋の壁を突き破って、リボン付のショーツっぽい形の戦艦(?)が姿を現した。
 そしてリボンの部分が収束し、一台の砲台の形になる。
「16インチ砲は伊達じゃないわよ‥‥」
 凄いぞパンツ戦艦。
 桜乃は次いで、白立花のところへ駆け寄る。
「ちょっと、りっちゃん〜」
「はい?」
「おんぶされて?」
「‥‥まぁ、いいですけど」
 訝しげながらも、白立花は促されるままに桜乃の背へ。
(ふっふっふ、これでエネルギーが充填されるはず‥‥)
 桜乃の考えるエネルギーとは、アレである。NMP。
 今更だが説明せねばなるまい。
 NMP――ないむねパワーとは、立花(白・黒含め)の見事までの絶壁の胸の無さが背中に当たることで充填されるエネルギーである。
 ――が、よくよく考えてみて桜乃はこのエネルギーのある重大な欠陥に気がついた。
(ん? 胸が無いのに背中に当たる‥‥? 当たりもしないような‥‥ひど)
 当たりもしないのにエネルギーなどたまるはずがない。
 そこである考えを巡らせた桜乃は、
「やっぱりやめた〜」
「え?」唖然とした白立花を振り落とし、ぼろぼろになっていた魔王の傍へ走った。
「こっちにつくー」
「姫姐さん! 頼みます!」ちょうどいい具合にピンチだった魔王――信人は、ここぞとばかりに魔王の座を桜乃に押し付けようとする。
 が、桜乃はその信人の首根っこを掴むと、まだ居たパンツ戦艦の砲身めがけ投げ放った。
 そして、叫ぶ。
「撃てーーーーーッ!」

「ふふふ‥‥罠に引っかかったわね! 騙すなら味方からってね」
 炸裂音と轟音が響いた後、桜乃は得意げに言い放った。
「パンツから生れたパンツ姫にただのパンツでは勝てはしないわよ!」
「けふ‥‥ッ」
 でも、信人は何とかまだ生きていた。煙を吐きながらも起き上がろうとする。
 その時、信人の懐から着信音。
『もうすぐ着きます。頑張ってパンプキンパイ作ったから一緒に食べましょ』
 呼び出していたらしいアスナからメールが届き、元気を取り戻した信人は勢いよく立ち上がった。
「悪い。俺、そろそろこの依頼に参加した本懐を遂げに行くよ!」
 そう爽やかな笑顔で言って、パンツ戦艦が突き破って壊れた壁から脱出を試みようとし――

 自分が仕掛けた地雷と落とし穴と電撃床の複合トラップ『踏ーミネーター』に引っかかって、城の外へ消えていった。

●第四章 主人公は胡瓜魔王
「あー‥‥これか」
 ようやっと色々片付くのか、といわんばかりに雄人は疲れた表情で玉座を見た。
『たからものは このした』――玉座の背もたれにそう書かれていてはばればれである。
 もう色々面倒になってきたので玉座を蹴り倒すと、見えた床には穴が空いていて――そこに黄金色に輝く物体があった。
 形はカボス。大きさは南瓜。まさにどっちなんだか謎である。
「よっと‥‥」穴から持ち上げ、雄人はそれを抱える。
 すると、それを見た美雲が怪訝な表情を浮かべた。
「そんなっ! まさか‥‥まさかあなたが‥‥!?」
「な、何だよ‥‥」
「‥‥何でそこにあるって分かったんですか?」
「え、だって分かりやすい目印あるじゃねーか‥‥」
 こちらも怪訝な表情を浮かべて雄人が答えると、美雲は表情を険しくして叫んだ。
「『たからもの』が本当にゴールデン☆カボスDXかどうかなんて分からないじゃないですかッ!」
 さりげなくDXがついていることなど突っ込む暇もなかった。雄人をずびっと指差し、
「みなさん! 惑わされてはいけませんっ! 彼こそが本当の大ボス、魔王かおすです!」
「どうしてそうなるんだよ!?」
 と反論を試みたものの、一行の雄人に対する姿勢は既に戦闘モードのそれだった。どうしてこうなった。
「どーして私に嘘ついたの!? どうして‥‥?」美鈴が問う。
「どうしても何も嘘とかついた覚えないんだが‥‥」困惑しながら答えると、美鈴は合点がいったとばかりに何度も肯いてみせた。
「‥‥そっか。魔王と人間じゃ結ばれないと思ったんだよね?
 ううん。私、雄人さんが魔王でもいいんだよ?」
「俺は自分がどっちでも嫌なんだが‥‥」
「どーして嫌がるの?」
 美鈴は悲しそうに目を伏せ――次に顔を上げたとき、その瞳には暗い輝きが灯っていた。
「‥‥ふふふ‥‥そっか、じゃあ死んで?
 私もすぐ行くから大丈夫だよ?
 ずっと一緒だよ? ねえ嬉しい? ねえ。ねえ」
 嬉しいより怖い。マジで怖い。
 どうしてこうなった。雄人の胸中でそのフレーズが何度も繰り返される。
 その瞬間、今度は天井からまた不穏な影が雄人の前に降り立った。
「だから‥‥こうなる前にと‥‥」
 そう、無月である。
「先程迄の貴方の侭‥‥倒れる事が貴方にとって幸せだった筈なのに‥‥」
 どうやらこうなることを予測していたらしい。
「と言われても、もう俺も何が何だか‥‥」
 そう口にするしかない雄人に対し、無月は「仕方ないですね‥‥」溜息をついて。

 あっ。

 という間に雄人は地面に倒れていた。ろくな抵抗も出来なかった。
「何なんだよこれ‥‥」呟く雄人をよそに、美雲が床に転がったゴールデン☆カボスを拾い上げようとしていた。
 が、その寸前にそれを守者が掠め取る。
「みんなすまない‥‥これはウリボウ教にささげるべきなんだ」
 どうやら雄人母の話を聞いている間に信奉心が芽生えてしまったらしかった。守者はそのまま、壊れた壁から脱出して走り去っていく。
「ちょ、待って!」
 美雲は追いかけようとしたが、
「大丈夫だよー」それを呼び止める声が、扉の方から響いた。

 ■

 その頃、とある別の所では。
「さあ、美味しい美味しい南瓜さん。
 今日の料理は煮物よー♪」
 悠季が上機嫌でキッチンに向かっていた。
 今居るのは彼女の本拠。そして彼女の手には、ゴールデン☆カボス。
 最初に魔王の部屋に行った時に摩り替えておいたのだ。つまり、守者が掻っ攫っていったのは偽物ということになる。
 まずは南瓜を切らないことには始まらない。
 包丁を入れた瞬間――。

 ちゅどーん。

 煙が晴れた後、悠季はその場にアメリーが居ないことに気がついた。
 まさか‥‥。
 その予想が当たっていることを示すかのように、爆風が晴れた後に一枚の紙が床に落ちた。
『猫まんまは飽きました』

 ■

「これが本物だからー」
 パンプモニウムで一行の前に現れたアメリーは、そう言って本物のゴールデン☆カボスを美雲に渡す。
 本物だからか。心なしか輝きが違う。
 ともあれ、少なくとも美雲の目的はこれでほぼ果たされたことになる。
 あとは調理して食べるだけなのだが――。
「じゃあ、台所どこ?」
 白立花がきょろきょろと辺りを見回す。すると、都合よく部屋の端にシステムキッチンが見えた。魔王は意外と家庭的だったようだ。
 美雲と白立花がキッチンに立ち、後ろでは無月とソウマが食卓の準備をしている。無月も食べてみたいらしい。
 桜乃はといえば、キッチンに立った二人の後ろ姿を見て、
「りっちゃんりっちゃん」白立花に声をかける。
「何ですか?」
「恋するの?」
「台所で! ってちがぁぁうッ!」突っ込みせざるを得ないだろうと思っていた為に脊髄反射で答えて、立花は速攻後悔する。
「へー」対する桜乃はしてやったりの表情。
 恋のキーアイテムは南瓜の煮付け。
 NMPで味付けされたら(その手の趣味の人は)いちころだろう。

 そんなこんなで、ゴールデン☆カボスの煮付けが出来上がる。
 試食者は美雲と無月。
 まずは一口――食べて、早速変化が起きた。
「うっ」揃ってうめいたかと思うと――
「うあああああッ!?」
 揃って金色のエネルギーを体の周囲に放出させた。ついでに髪は金色に染まり逆立っている。●●●人とか思ってはいけない。
 ぎゅいんぎゅいん、という効果音を伴いながらエネルギーを放出させたままの美雲はそこでもう一つの変化に気がついた。
「あ、胸‥‥っ」
 膨らんでいる。極端にではないが、確かに実感できるほどに膨らんでいる。
 が、すぐに隣の無月が『orz』の態でがっくりいっていることに気がついた。

「何故‥‥」
 無月の胸は美雲よりおっきくなっていた。
 何故だ。

「よう、お互い、辛いな」
 倒れたまま事態を見守ってた雄人の横に、いつの間にか信人が倒れていた。
「そうだな‥‥」
 もうどうにでもなれ。
 雄人は心から思って目を伏せた。

●終章 悪夢はまだ終わらない
 ここはラスト・ホープ。
 秋も深まる路上、兵舎が立ち並ぶ一角のベンチの上で、雄人はなんかうなされていた。何でうなされてるのかは今更言うまでもない。
「――あら」そこへ立花が通りがかった。分裂なんかしてない。胸は‥‥まぁ本人の名誉の為においておこう。少なくともNMPなるパワーだけはない。
 彼女は少し思案した後、段ボール箱に『安眠箱』と書いて雄人の頭に被せてから歩き去っていった。
 それから更に少し時間が経って――段ボール箱がもぞりと動いた。
「なんだこれ‥‥」安眠箱の下から、声。次いで隠れていない腕で箱をどかす。雄人のお目覚めである。
 ――と、いつからそこにいたのか、ベンチの空いたところに腰掛けた焔と目が合った。
 ガスマスクを被った焔は被っても居ない帽子を外す素振りを見せ、
「おや、また会いましたネ?」言う。
 どこでだよ。
 すぐに思い出せそうだけど思い出したくない気がした雄人だった。