タイトル:【AH】命の支柱マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/02 22:33

●オープニング本文


 廃屋の地下。
 フロア全体が一つの部屋となっているその部屋の中心に、アメリー・レオナールは一人佇んでいる。
 数年は放置されているらしく、空間全体が誇りっぽい。ただ空間の隅の至るところには資材やドラム缶等が打ち棄てられており、細かな障害物には困らない。

「――先に来てたんだー」
 待ち始めてから暫くし、地下室に別の少女が足を踏み入れてきた。空間の広さも相俟って、その声は若干反響を伴ってアメリーの耳に届く。
「‥‥コレット」
 アメリーは少女の名を呟く。実際には相手の『入れ物』の名であることは理解しているが、肝心の『中身』を知らない以上その名で呼ぶしかない。
「あんな手紙を出されたら、来ないわけにはいかないじゃない」
「そうだよねー。姉さんも『能力者』だもんねー」
 険しい表情を浮かべるアメリーとは対照的に、コレットは愉しげに笑う。
「で、来た以上は分かってるよねー? あたしがこれから姉さんをどうするつもりなのか」
 言われ、アメリーは以前コレットと対峙した際に言われたことを思い出す。

『せっかく能力者になっちゃったんだもん。キメラにするには素材としては惜しいじゃないー?
 無理やり連れてって洗脳して、バグアの手先にするの』

 ■

 遡ること五日前。
 アメリーが入っている孤児院に、一通の手紙が届いた。
 内容は、とある廃屋への呼び出し。一人で来て、とのこと。
 廃屋の周囲に人気はなく、それ以前に呼び出し場所は地下である為周りに気付かれることはないだろう。
 差出人の名は書かれていなかったが、自分に宛てられたその手紙を読んだアメリーはすぐにそれが誰かを理解した。

「で、今度はちゃんとULTに持っていったわけか」
「だって‥‥前はそれで皆に心配かけちゃったし」
 もはや顔見知りとなったオペレーターの部屋で、実質的な今回の依頼者ともなったアメリーは申し訳なさそうに肩を縮める。
 以前にもコレットからの手紙が届き、胸中が揺れている最中でもあったアメリーは誰に相談することもせず単身彼女に会いに行ったことがある。
 けれど、今は違う。
 自分が今こうして能力者として在るのは、何の為、誰の為――それを彼女なりに理解しているから、一人で先走ったりはしない。
「で、だ」
 アメリーとの会話を打ち切り、オペレーターは説明を始める。
「この子――アメリーを呼び出したのは、ヨリシロと化しているこの子の妹だ。
 ただヨリシロと言っても、付け入る隙はある。厳密にいえば、先日それを作ることに成功した、と言った方が正しいが」
 というのは、先日の依頼でコレットの武器についての資料も手に入ったからなのだ。
 オペレーターはコレットの武器――鎖で繋がれたいくつもの指輪の図解をディスプレイに映し出す。
「この彼女の指輪を繋いでいる鎖は、エネルギーの伝送機能を持っているらしい。
 つまりそこを壊せば指輪同士の連結は解かれ、まだ電流を放てるにしても思うような威力は出ないだろう」
 コレットは今のところその武器に頼る場面が多い。つまり素手での戦闘能力は未知数だ。
 頼っていることが多いというのは素手では大したことがない可能性も示すが、実力を隠している可能性もゼロではない。
 故に、今回のミッションはあくまで『指輪の破壊』である。
 鎖さえ破壊してしまえば本来の威力は出ない。それからなら、全てではないにしても武器として無力化するほどに破壊することは可能だと想定されている。
「勿論彼女がヨリシロである以上、身体能力は半端じゃない。部位狙いが必然的に要求されるから、簡単にいくわけがないだろう。
 ――ただ彼女にはもう一つ付け入る隙があってだな。それが、この子だ」
 そう言ってオペレーターはアメリーの頭を撫でる。
「彼女の中のバグアは余程人の感情で遊ぶのが楽しいのか、アメリーに対して執着心に近いものを見せている。
 だからこそ今回も手紙を送ってきていたのだろうが――この子がいれば、必ずこの子に注意が向くタイミングは生まれる筈だ」
 そこで、とオペレーターは説明する言葉を止め、アメリーを見る。
 彼女は一つ肯き、口を開いた。
「時間まで決められて呼び出されてるけど、先に行っててもおかしくないよね?
 ――だから、待ち伏せしたいの。勿論わたしがいることが分からないと待ち伏せにもならないから、わたしは普通にいるしかないけど」

 ■

「させないよ」
 コレットの問いに対し、アメリーは強い口調でそう答えた。
「わたしが今こうして生きているのは自分の為でもあるけど、皆の為でもある。その皆の中には勿論、パパやママ、コレットも含まれてる。
 けれど――能力者としてわたしがここに居るのは、コレットを『入れ物』にしているバグアの為じゃない!」
 アメリーは生まれて初めて、コレットに敵意の眼差しを向けた。
 それが入れ物でしかないと分かっていても、と思う気持ちは勿論ある。
 でも分かっているからこそ、今は――。

 瞳に決意を込めたまま、アメリーは腰に提げた鞘に手を当てた。

●参加者一覧

風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
ヨーク(gb6300
30歳・♂・ST
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

「へぇ‥‥」
 自分に対して険しい眼差しを向けているアメリーに対し、コレットは嗤う。
「姉さん、変わったね。きっと前の姉さんだったら『どうしよう』っておろおろしていたのに」
「――能力者になってから色々あったしね」
 鞘に手をあてたまま、アメリーは応えた。
「モンペリエで昔孤児院にいた友達に会った時は、わたしが能力者になったことを驚いていたけど、それ以上に喜んでくれた。
 多分あの組織がやっていたことを後で知ったから、わたしが能力者として生きていることに安心してくれたんだと思う」
 あとはね、とアメリーは付け加える。
「‥‥変な言い方だけど、わたしは別に特別じゃないんだって思うの。
 世界中に孤児はいるし、その中には能力者って人も、わたし以外にもいる」
(‥‥アメリー)
 アメリー以外の能力者たちは、各々障害物の陰に身を潜めている。
 今のところコレットに気付かれた様子はないが――その中の一人、リオン=ヴァルツァー(ga8388)はアメリーの言葉に、人知れず目を見開いた。
 アメリーがこれまでどれだけの能力者と関わってきたか正確には分からない。
 けれどアメリーが言う人間の一人に、間違いなくリオンも含まれている。
 アメリーは少しだけ、表情を緩める。
「もっと言っちゃえば、孤児にだって大切な人はいるんだよ?
 孤児院で一緒に育った子は――わたしにとっては、キメラにされちゃった子も含めて――皆友達で家族でもあるし、能力者として一緒に依頼に行く人たちとも、仲間だったり、友達になれたり‥‥」
 そこまで言って、彼女は再び表情を引き締めた。同時に、今度こそ剣の柄を掴む。
「――だから思うんだ。
 わたしは確かに孤児だけど、一人なんかじゃないって!」
 ――それは彼女の意志であると同時に、合図の言葉。

 少し離れた場所に隠れているリオンが、自分に向けてハンドシグナルを出したのを確認し――。
(ハン、見てろよ――狙撃兵の真骨頂、見せてやる)
 秋月 九蔵(gb1711)はスナイパーライフルの引き金を引いた。
 サプレッサーを装着している故命中精度は多少落ちていることもあり、一発目はコレットの足元に着弾する。
 ただそれを確認する前に、即射ですぐに再装填を果たしていた九蔵は次の弾丸の引き金を引いている。
 二発目、コレットの肩を掠める。ここにきて、視界の端でリオンが遮蔽物の陰で得物を振りかぶっているのが見えた。
 構わず三発目。
 ――『仲間を呼んでいた』というアメリーの変化に戸惑っていたのか、コレットが最初に防御じみた行動を取ったのはこれが初めてだった。続けざまに放った四発目ともども、FFに弾かれる。
 だが、彼女が隙を見せる瞬間を作れれば今はそれで十分でもある。三発目と四発目の間にリオンは既に、手の中にあったものをアメリーとコレットの中間地点に放っている。
 次の刹那、空間を閃光が迸った。

 リオンが投擲した閃光手榴弾の光が生じている間に、多くの能力者が動き出していた。
「――カバー! 今です‥‥!」
 炸裂とほぼ同時、資材の陰から姿を現したセレスタ・レネンティア(gb1731)が声を上げながらライフルの引き金を引く。
 視覚を惑わされたままながらもセレスタの方を向いたコレットの右手に命中する。ただ金属音は響かなかった辺り、指輪自体には命中していないようだ――その状況を把握しながら、セレスタは廃屋の柱の陰に移動する。その直後、つい先ほどまで隠れていた資材置き場に七色の電流が激突し、資材がけたたましい音を立てて散らばった。
 その合間にも能力者たちの行動は続いている。ちょうどコレットがセレスタの方に注意を向けた瞬間、コレットから見て斜め後方にいたヨーク(gb6300)が弱体の練力を彼女に浴びせる。
 セレスタの弾丸がコレットに命中した瞬間には――ヨークとは逆側の後方にいたヒューイ・焔(ga8434)がそのままの方角で突進。
 盾を構えたリオンが一旦アメリーを追い越しながらコレットの側面に。
 またアメリーもそのリオンの背を追いつつ、最後に微妙に方向転換してコレットの斜め後方に――それぞれ肉薄する。
「オラオラオラオラ!!」
 ヒューイが声を荒げながらカミツレで立て続けに斬撃を入れる。
 それに反応しようとしたコレットの身体をリオンが盾で押さえつけ、それで怯んだ一瞬の隙を以て今度は、
「‥‥っ!」
 アメリーがヴァジュラを振り払う。斬撃の軌跡が生んだコレットの右腕の傷は浅かったが、視界の回復しかかっているコレットが目を細めながらも驚きの表情でアメリーを見たのを、すぐ目の前にいたリオンははっきりと見た。
 ただそれも一瞬のこと。
 次の刹那には、接近していた三人に一斉に電撃が襲いかかった。アメリーをも巻き添えにするあたり、コレットも遂に本気になったのだろう。
 ヒューイに刻まれた背中の傷が痛むのか、三人を吹っ飛ばした後コレットは、
「――あんまり調子に乗らないでよッ!」
 初めて声を荒げた。
 ただ、叫んだ次の瞬間には、ヒューイとヨークの間にいた愛梨(gb5765)が竜の翼で接近している。
 まだコレットの視界は完全ではなく、リオンを振り払って攻撃する為に手は上に掲げられていた。それが下げられる一瞬前を狙って、薙刀を振るう。
「―――ッ!!?」コレットが鬼の形相で振り返った瞬間には、愛梨は既にその場を離脱している。薙刀が深々と刻んだコレットの右手の甲からは血が滴り落ち始める。
 そこへ動いたのは春夏秋冬 立花(gc3009)。コレットが自分に背を向けたその瞬間に接近を開始、ようやく視界が回復したらしい彼女が敵を探し始めた瞬間に攻撃を仕掛け、再度潜むべく離脱しようとする。
 そのタイミングでヨークが見つかってしまったのが運の悪いところだった。
 コレットが次に放った電撃はそのヨークと立花、ついでに少し離れたところにいたリオンとアメリーにも炸裂する。
「だいじょうぶ‥‥これぐらい‥‥なんとも、ない‥‥ッ!」
 リオンはアメリーが喰らう筈の分まで攻撃を受けていた。その分ダメージは重いのだが、そう強気の言葉を吐いた。
 今度はコレットは自由に動けてしまう。その為続くかと思われた電撃を遮ったのは九蔵の射撃だった。
 行動を阻害すべくわざと足元を狙ったその弾丸の出所は、射撃を終えた後再装填の為にすぐに隠れたおかげもあって未だコレットには知られていないらしい。九蔵の姿を探す為に一瞬電撃が止んだ。
 ここにきて、それまでずっと身を潜めていた風代 律子(ga7966)が動いた。瞬天速で一気にコレットの死角へ肉薄、疾風脚と限界突破をも駆使し、コレットの右手の指輪めがけてアーミーナイフを振るう。
 まずは指輪の鎖を断ち切り、次いで返す刃を中指の指輪に全力で突きたてた。
 指輪が音を立てて割れ、律子は形振り構わなかったコレットによって素手で吹っ飛ばされる。
 次の瞬間、愛梨がコレットの死角に接近していた。竜の爪を加味した一撃は今度は左手の甲を切り裂いたが、
「同じようには――」
 やらせない。コレットは斬撃の感触を覚えていたらしく、すぐさま愛梨の方へ振り返る。その視界の端に、再び牽制射撃を行おうとしていた九蔵の姿を今度こそ捉え、愛梨もろとも電撃の餌食にした。ただ、両手に指輪があった先ほどよりも威力は下がっているのを二人は身を以て感じていた。
 一瞬の静寂。突き破ったのは移動しつつリオンやアメリー、セレスタの回復を試みたヨークだったが――その瞬間をコレットが見逃すわけもなく。
 高く掲げた手、そこにつけられた指輪を中心に甲高い金属音が響いた。セレスタが放った弾丸が遂に指輪そのものを捉えたのだ。ただし一発で壊れてくれるような代物ではなかったらしく、衝撃が身体に伝播したらしいコレットの動きこそ一瞬止まったものの、指輪自体が壊れた様子はない。
 ただその伝播した隙をついてセレスタはコンバットナイフに持ち替え、接近を図る。それに気付いたコレットは再度指輪から電撃を放とうとしたが、一瞬でその手を下げて方向転換する。
「こいつが俺の全力だ、喰らいやがれ!!」
 スマッシュをも併用し思い切り振りおろされたヒューイの斬撃はFFに阻まれた。もし気づかれなかったら手首の一本は持っていけたろう。
 但し斬撃を防いだその瞬間には、今度はリオンが接近している。
 リオンは盾を構えながら、もう片方の手で小銃の引き金を引く。それはいち早く気付いたコレットのFFに阻まれたものの、リオンの陰に隠れていたアメリーが動き出したのには反応が一瞬遅れる。
「っ!」裂帛の気合を込めて放たれたアメリーの一閃はコレットの右腕に長い裂傷を刻んだ。
 その瞬間、
「2!」立花の叫びが廃屋に響いた。
 何を意味する叫びなのか分からなかったのはコレットだけ。彼女がそれを察したのは接近していたリオンやアメリーが同時に目を閉じた瞬間だが、その時にはもう遅い。

 再度炸裂する、閃光手榴弾。
 
 光の余韻でコレットの視界はぼやけている。
 ついでに足元も一瞬よろけたのを、今度こそ接近していたセレスタは見逃さなかった。身体全体に赤いオーラを立ち上らせつつ振るったナイフは左手の指輪を繋ぐ鎖に命中し――それを断ち切る。
「――!?」
 視界が回復する前に既に指輪の異変は察知していたらしい。コレットは誰もいない方向へと二、三回跳躍した後、またしても複数の能力者に向かって広範囲の電撃を放射した。
 既に回復の為の練力を使い果たしていたヨークはそれで戦闘不能に陥ったが――残りのメンバーは傷を負いながらも、耐えていた。
 喰らい慣れたから、ではない。電撃そのものが確かに先程までより弱っている。
 もう一撃――そんな思考がセレスタの脳裏を過ったが、やめて離脱にかかる。
 コレットの足元は既にしっかりしつつあったし、それが完全になる前に行われる反撃は既に放たれていた。
 だから、叫ぶ。
「今です、指輪を破壊して下さい!」
 その言葉に応えたのは愛梨だ。再度竜の爪を使いながら接近した彼女が振るった薙刀は、狙い通りにコレットの手や指ごと切断こそしなかったが――甲高い音が鳴り響いた後、左手人差し指の指輪が二つに割れて床に落ちた。

「あ‥‥?」
 傷ついた手を掲げても電撃は発生しない――視界が回復してようやくその事実を認識したコレット。
 指輪を破壊した――。
 それを一気に倒すチャンスと見た者と、一旦退く機会と見た者。
 既にヨークは倒れており、素手であることを差し引いてもヨリシロ相手の回復が立花一人では間に合わないことは、先程吹っ飛ばされた律子を見て分かっていた。
 つまり結論から言って正しいのは後者だったのだが、その判断に能力者間でぶれが激しかったのは少しばかり拙かった。
「――」
 コレットの目つきがすっと細まり、その瞬間に空間の温度が数度下がったような悪寒が能力者たちの間を過る。
 その悪寒が紛れもなくコレットによるものだと分かった瞬間には、コレットはすぐに目に付いた立花の目前へ肉薄していた。
 立花としては障害物を破壊しつつ挑発するつもりでいたのだから、資材に伸ばした手を引くことが出来る筈もなく回し蹴りで吹っ飛ばされる。
 その位置を真っ先に把握したのは、九蔵とアメリー。
 九蔵はコレットの動きを止めるべく足を狙ったが、既に視界も十分であるコレットは難なくこれをかわしてみせた。そのかわした動きの後方に、アメリーが迫っている。
 コレットは振り返った後、一瞬攻撃を躊躇った。相手がアメリーだったからかもしれない。
 正確なところは分からないが、兎も角その一瞬の間にリオンが何とかアメリーとコレットの間に割って入った。放たれた手刀を盾で受け止めたリオンは壁まで吹っ飛んだが、ダメージは立花程ではない筈だ。攻撃の機を失ったアメリーはといえば、タイミングを押し測る為に一度後退している。
 運動能力は、指輪に頼っていた時よりも遥かに高い――。
 その事実を能力者たちは認識する。
 撤退を今度こそ誰もが考えた瞬間だった。既に最低限の目的は達せられている為、ここで撤退しても任務失敗にはならない。
 愛梨がヨークの身体を背負い、唯一扉から離れたところにいた立花に襲いかかろうとするコレットを律子と九蔵、二人がかりの牽制射撃で足止めする。ついでにすぐ傍にあった資材も崩れ、コレットはすぐには立花に接近出来なくなった。
 ――それを機に、能力者たちは何とか廃屋から撤退することに成功したのだった。

 ■

「アメリー」
 コレットを撒いて、本部へ戻る途中。
 愛梨はアメリーを呼びとめた。
「多分、次にコレットに会う時は――」
「‥‥分かってる」
 先程は躊躇いを見せたが、もうここまで来たらアメリー相手でも容赦なく攻撃してくるだろう。
 つまり、次も無事である為には、彼女を倒す以外に方法はない、ということになる。
「‥‥もし、その時が来たら――自分で、やれる?」
「――わかんない。
 やりたい、けど、やりたくない。やれると思うけど、やれないとも思っちゃうの」
 振り返ったアメリーは、笑顔を浮かべていた。ただし、今にも泣き出しそうな。
「笑っちゃうよね。本人の前ではあれだけ強気になっておいて、剣を向けた時なんかはまだ胸が痛いの。‥‥我慢するのに、必死だったよ」
「――それはそうだよ‥‥」
 隣でリオンが呟いた。
 ――たとえ今はヨリシロにされていたって、その身体は紛れもなくアメリーの本当の家族のものなのだから。
「‥‥ごめん、答えはその『次』まで待って。
 ――その時には、はっきりさせるから」
 そう言ってアメリーは、服の袖で目を覆った。

 ■

「どうしよっかなー‥‥」
 廃屋に取り残されたコレットは、指輪の残骸を見下ろして呟く。
「これはまあ、もういいとしても――流石にちょっと、むかっときちゃったかもー」
 当初の予定ではアメリーは出来る限り普通の状態のまま洗脳する予定だったが、どうやらそれはもう叶いそうにない。
 半殺し、或いは一旦殺してでも――『コレット』はそんなことを考え、舌なめずりをした。

『嫌いだけど、無事ではいてほしい』――。
 おそらく死ぬ間際に思っていたであろう、身体に残された最後の記憶など、まるで無視して。