タイトル:【AH】楔と枷の境界線マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/19 01:32

●オープニング本文


「やはり来たか」
 もう顔見知り、といってもいいそのオペレーターの人は、わたし――アメリー・レオナールの顔を見てそんな言葉を漏らした。
 やはり、といったのは、本部に出ていた依頼の概要の説明のせいだと思う。
『打ち棄てられた親バグア組織拠点の跡地に巣食うキメラの討伐』
「――だって、アレじゃ関係あるって言ってるようなものだと思うよ」
 親バグア組織。
 キメラ。
 その二つのキーワードが繋がった時、どうしてもわたしはあの組織のことを思い出してしまう。
『Vie de letoile』――かつて孤児院として存在していたその組織の実態は、能力者としての適性を持つ子供をキメラの材料にすることだった。
 わたしもその材料にされかかったことがあるらしい。事件があった時わたしは殆ど眠っていたから、後になって聞いた話だけど。
 わたしの言葉を聞いたオペレーターは少し考えた後小さく肯いた。
「まぁ‥‥そうだろうな。
 ただ、今回の件は『Vie de letoile』絡みではないぞ」
「え?」
「ただ‥‥あながち君に関係がないとも言い切れない」
「え? え?」
 わけがわからなかった。
『Vie de letoile』には関係ないのに、わたしには関係がある――?
「どういうことかは後で説明を聞けばわかる」
 それきりオペレーターの人は何も言わなくて、わたしも他の能力者が来るのを待つしかなくなった。

 ■

「今回君たちに行ってもらうのは、『Regla』という親バグア組織の旧拠点だ」
 アメリーとの会話から暫くし、ある程度数が揃ったところでオペレーターは説明を始めた。
「組織自体がなくなった、という話は聞いてないが、ここのところの人類の反撃を見てか欧州からは撤退したらしい」
 アフリカにでも逃げ込んだのかもな、と付け加え、オペレーターはコンソールを叩いた。
「奴らは割と手広く色々やっていたらしい。
 拉致した人間の洗脳・教育、世界各地のバグア勢力域への人材輸送。
 キメラを利用した破壊行動もある。――というか、それに利用していたと思われるキメラを討伐するのが今回の目的だ」
 既に拠点のある地域は人類の勢力域になっている為、依頼が完了し次第施設は取り壊し、別の建造物を建てることになっている。
「何も知らずに入った一般人の業者が、それで命からがら逃げ帰ってきたんだが――確認されているキメラは五匹。
 うち四匹はライオンに似た猛獣タイプのキメラで、もう一匹は――文字通りの『合成獣<キマイラ>』だ。
 狼の頭や胴体に蛇の頭が手としてくっついていて、足は海月のように存在するらしい。言うまでもないが、攻撃手段は多様なようだ。
 メインとなるのはこの五匹だが、他にもいるようならそれも残さず討伐しろ、とのことだ」
 そこまで言ってから、オペレーターは一瞬だけアメリーの顔を見た。
「あぁ――それともう一つやることがある。これは大した危険を伴う話にはならない筈だが」
 すぐに視線を前に戻して、説明を続ける。
「どうやら連中、キメラ以外にも強化人間やヨリシロを何人か囲っているらしい。そいつらも当然拠点からは居なくなってるが。
 ――慌てて撤退したのか、施設内には資料が結構残っていたらしい。
 特にそいつらに関する資料が残っていれば、それも持ち帰ってきて欲しい」

 ■

 説明が終わった後も、わたしはまだオペレーターの部屋に残っていた。
「‥‥コレットもそこにいたっていうことだよね」
 そう告げると、オペレーターは渋い顔で「あぁ」と肯いた。
「さっき言った一般人が何とか数枚資料を持ち帰ってきていて、その中に彼女の名前があった。
『Vie de letoile』が無くなった後の後ろ盾にしているようだ――いや」
 オペレーターは首を横に振った。
「或いは、最初から『Regla』に属していて『Vie de letoile』には一時的に身を置いていただけなのかもしれない」
「どうして?」
 間髪いれずに尋ねた私の顔をまたちらりと見、オペレーターは言う。
「彼女の武器は、どこで手に入れたものだと思う?」
「――!」
 キメラを生成することに一生懸命だった『Vie de letoile』には作れるとは思えない、恐ろしい威力を持つ指輪。
 前に会った時は、それが更に強力になっていたっけ。
「‥‥バグアの技術を再現できる可能性はゼロに等しい。けれど、資料があるなら欠点が読み取ることは不可能じゃない。
 事実、そうやって人類はこれまで何度もバグアとの戦いに勝利しているのだから」
 オペレーターはそう言って、わたしに背を向けた。
「‥‥それより、そもそもここに来た、ということは君には覚悟が出来ているのか?
 ――万一コレットと遭遇した時、戦う覚悟が」
「違うよ」
 わたしは即座にそう答えた。
 この数カ月、関係ない依頼もちょっとずつ重ねながらずっと考えていたことを告げる。
「わたしが戦うのは、自分だと思う。
 コレットの中にいるのは、コレットじゃない。見た目に誤魔化されないでいられるかどうかっていうのは、自分との戦いでしょ?
 ――それなら、決めてきたよ」
 負けない。負けたくない。
 そういう気持ちを込めた言葉を聞いた後、オペレーターは言った。
「‥‥行きなさい。他の能力者も待っている」
「うん」
 わたしは一つ肯いて、駆けだした。

 ――ほんとは少し怖いけれど。
 でも、その気持ちを重荷にはしたくない。
 それはわたしのためでも、みんなのためでも、コレットのためでもあるんだから。

●参加者一覧

遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
アリス・レクシュア(gc3163
16歳・♀・FC

●リプレイ本文

●それぞれの思惑
 九人の能力者は、拠点であった建物の前に立った。
「ここがそうみたいね‥‥」
 風代 律子(ga7966)は平屋建ての建物の周辺を見回してから、小さく溜息を吐く。
 正直なところ、今回の目的の一つ――キメラを討伐することについては気が重かった。
 その理由は彼女なりの思想にある。律子の横顔を一瞥するアリス・レクシュア(gc3163)は、その彼女の思想に若干の興味を抱いていた。
「洗脳だなんて‥‥」
 沖田 護(gc0208)は、『Regla』という組織が持つ別の側面について憤慨を抱いていた。
 守りたかった筈の家族が洗脳され、それに襲われる。そんなことがもし起こりえようものなら、その現象は自分が戦死してしまうことよりも恐ろしく思え――。
「そんな現実、絶対に、許せません」
 自然、握る拳に力が籠った。
「キメラ討伐はもちろん、Reglaについて知りたいわね。被害を広げないためにも」
「情報は武器、ということですね。何か役立つ情報があれば良いですが‥‥」
 遠石 一千風(ga3970)の言葉に、ナンナ・オンスロート(gb5838)が肯く。
 有益な情報はどれだけあるか分からない。
 それでも、微かな手掛かりでも欲しい、と一千風は思う。
 それは純粋に親バグア組織が許せないからでもあるが――今回に関して言えば、もう一つ。
 ちらりと視線を向けた先には、アメリーの姿がある。
 彼女を取り巻く因縁について聞けば、許せないという気持ちは更に強くなるのも当然の話ではあった。
「アメリー、久しぶり。あんたも色々と背負ってて大変そうね」
 愛梨(gb5765)はそう、アメリーに声をかける。
「ま、あたしで良ければ今回も力になるわよ」
「‥‥ありがと」
 決して自分一人の問題ではない。
 それでもそう言って貰えたことが嬉しかったのか、アメリーははにかんで礼を述べた。
「――行こう、アメリー」
 リオン=ヴァルツァー(ga8388)はそう言って、アメリーに向け手を伸ばす。
「僕たちの知らないところで‥‥コレットが、何をしていたのか。
 ほんの少しでもいいから――手がかりを、見つけるために」
「――うん」
 アメリーもまた、その手を取り、握った。
「そろそろ入るッスよ」
 植松・カルマ(ga8288)がそう切り出して、玄関の扉に手をかけた。

●悲劇の象徴
「それ程広くない此処で組織は何をしてたのか‥‥」
 一千風が呟いたその言葉は、人気のないその建物の中で反響した。
 能力者たちは二手に分かれており、先行する班には一千風の他にカルマ、リオン、愛梨がいる。そこから少し後方に、後続班となる他の能力者がついてきていた。
 少なくとも一階の電気は死んでいないらしく、壁の天井近くのところで蛍光灯が灯っていた。ただしその光は今にも切れそうなほどに弱く、故に建物は全体的に薄暗い。

 玄関から入って最初の分岐を右に曲がる。
 まだキメラの姿は見えなかったが――やや遠くで、無音の空気を鈍く切り裂く、呻くような声が響いた。
 両横にある扉の先にもキメラの姿はない。
 となると、今いる通路の突きあたりの右側か、或いは左の扉を入って曲がった先か。
 いずれにせよ、油断は出来ない。
 死角を突かれぬよう互いに警戒し合いながら、能力者たちは慎重に歩を進める――。

 ◇

 望まれぬ戦いを強いられているという意味では、キメラとてこの長い戦いの被害者である。
 律子はそう考えていた。
 無論、キメラの『完成品』自体は戦いを、他者に暴力を振るうことを前提として作られている。
 ただしその素材――動物や人間はそうではない。
 それが律子の心を締めつける。自分には彼らの命を奪うことは出来ない、と。
 けれども、そんな思いが正しくないことも理解していた。

 命を奪わないとまた無関係な人々が傷つけられるのだ。

「――そこっ!」
 だから彼女は、自分たちが通路の奥に進んだ後に左後方の扉から現れたライオン型に、接近を許すまいと牽制の射撃を加える。

 ◆

 すぐさま護が後続班の前面、キメラの攻撃を防がんと立ちはだかった。
 その間に接近していたキメラはその爪を振りかざす。その軌道は護の盾に弾かれることで大きく後方へ流れたが、構うことかとそのまま盾を噛み砕くべくキメラは頭を振り上げた。
 が、そこからキメラは思うように動くことは出来なかった。
 キメラの動作が流れるうちに横に回り込んだアメリーがヴァジュラでキメラの胴体を横に薙ぎ、それで敵の力が抜けた一瞬をついてナンナが壱式の真っ赤な刀身を縦一文字に斬り裂く。
 深々と切り刻まれた傷から鮮血が舞い、キメラは数歩後ずさる。
 それでも再度接近を図ろうとしたキメラの足元を、律子の弾丸が穿った。

 ◇

 律子にとってキメラは不殺対象。
 アリスにとってキメラは研究と興味の対象。
 ――ナンナにとっては、そのどちらでもない。己の身を護るにあたっての障害以上でも以下でもなかった。
 護とは比較的経歴は近いが、その護とも決定的に異なる考えがある。
 自分さえも護ることが難しい。
 全てを救えると思うほど傲慢には生きられない――。
 ――そう考えるに至ったのは、諦めを経て実利を取ったから。
 諦めが根本にあることで生まれる精神の弱さは、論理という名の樹脂で固める。
 そうすることで強固な論理思考が成立している故に――。

 自分を護る為の彼女の弾丸には、躊躇というものは存在しない。

 ◆

 足を止めたキメラの胴体をナンナがスノードロップで数度撃ち抜く。
 その後もキメラは何度も、時には護以外にも爪を振るったが、最終的に一度も何かを噛み砕くことなく斃れ――己が思想から律子が放たなかった終焉は、代わりにナンナが放った。
 とはいえ、戦闘そのものはまだ終息していなかった。
 資料をまだ手にしていない、かつ近くに障害物がない状態で戦闘に入ったことは、ある意味幸いでも不幸でもあった。
 幸運なのは、周りを気にする必要がない。
 不幸なのは、音がより響くこと――。
 後続班の戦闘開始直後、戻り加勢に出ようとした先行班は揃って踏鞴を踏んでいた。
 もうすぐ曲がろうとしていた突きあたりの奥から、いくつもの生物の特徴を繋ぎ合せた合成獣<キマイラ>が姿を見せたのだ。戦闘の音につられてきたのだろう。
 つまり、奇しくも――つい先程ライオン型が斃されるまで、挟撃された格好になっていた。先行班がライオン型に向かわなかったのはそういった理由がある。
 キマイラの腕――蛇の頭、そこから伸びた舌を一千風は身体を横に逸らしてかわす。
 そこから自身に接近を図る一千風をよそに、キマイラは突きだした蛇の頭から炎を吐きだした。
「させないっ」
 後衛で援護に徹していた愛梨が盾でそれを防ぐ。資料がないので燃え移る心配はなかったが、厄介な攻撃手段であることに変わりはない。
 それが気に食わなかったらしく盾を絡め取ろうとする為か伸ばしたその舌を、カルマが切り払った。同時に放たれていたもう一方の腕もリオンが受け止めている。
 その隙に一千風はまずデュミナスソードで『嫌いな』多足をまとめて斬り払い――続けてキマイラの両目を潰すように、体勢を崩して倒れ往く顔面を薙ぎ払った。
 
 そうして視界を失った敵は、如何に多様な攻撃手段を持つとはいえ――。
 後続班も加わっての九人の手にかかっては、斃すのにそれほど苦労はしなかった。
 
●力の行先
 一階での戦闘が終息すると、アリスが錬力による怪我の治療に入った。
 耐えてみせたとはいえ、やや負傷の激しい護を中心に一通り傷を塞いでいく。
 それが終わった後――後続班を一階に残し、先行班は地下一階へ降りた。
 降りた直後に早速潜んでいたキメラのうちの一体に遭遇したが――もとより先行班は後続班に比べて経験を積んでいる者が多い。
 階段左側には植木鉢等がある。鍵が隠されている可能性もある為、戦闘位置には気を遣わざるを得なかったが――今度は敵の増援が間に合うことがなかったのも幸いし、大して労せずキメラを斃すことに成功した。
 残り二匹はまだ現れる様子はない。階段下に退路確保に努めるカルマを残し、三人は奥へ進んだ。

 鍵のかかっている方は一旦無視して、階段から見て左前方の通路を進んでいく。
 途中にある本棚には、その多くは地球上に存在する言語で書かれた、タイトルだけで社会批判じみた内容であることが分かるものだったが――中には何とも形容し難い文字で書きつづられたものもある。バグアが持ち込んだ、他の星のものかもしれない。
「鍵があったわ」
 一千風がそれを見つけたのは、丁度そんな本のすぐ横だった。

 それ以外に特にめぼしい資料等はなく、三人は最奥にある細長い部屋へ向かう。
 見取図からして一番資料が多そうなその部屋の奥に、この階二匹目のキメラは佇んでいた。

 ■

「‥‥ん?」
 カルマがそのことに気がついたのは、三人が奥へ入っていって暫く経ってからのことだった。
 階段から真直ぐ進んだ突きあたり。その少しだけ手前には奥行きのある本棚が設置されているのだが――その陰からゆっくりと、ライオンが動き出したのだ。これまで見えなかったのは――隠れるつもりだったのかは分からないが――身体の向きを変えていた為だろう。
 動き出したキメラの目が此方に向けられているのは、一瞬感じ取った敵意で分かった。
「‥‥マジッスかぁ?」
 予測の範疇とはいえ、実際そうなってみると冷や汗がカルマの背を伝った。

 カルマからの急ぎの通信を受けたのは二匹目を討伐してすぐのことだった。
 そこにあった棚の捜索はひとまず後回しにして、三人は急いでカルマの許へと戻る。
 階段のある通路へ行くと、高いところから振り下ろされた獣の爪をガラティーンで払うカルマ、という構図に出くわした。ただカルマとて防戦一方だったわけではなく、既にキメラの胴体には裂傷が刻み込まれている。
 キメラがもう一度爪を振りおろそうとしたタイミングで、一千風が牽制の射撃を放った。それでようやく敵の増援に気付いたか、キメラの注意が三人に向く。
「腹のガードがお留守ッスよぉ!」
 その胴体をすかさず、反撃に出たカルマが切り裂いた。
 至近距離からのノーガードの斬撃はキメラを吹っ飛ばすことにも繋がり、
「獅子の名を持つ者として‥‥お前みたいな出来損ないには、負けない‥‥!」
 もんどり打って倒れたキメラの腹に、リオンがとどめの一閃を入れた。

 最奥まで探し終えたこともあり、カルマ以外の三人は今度は鍵のついている扉の前まで行った。
 ただ――鍵が、合わない。
 それが分かった時、愛梨は不意に想定していたことを口にした。
「他に鍵があるか――もしかして、逆なんじゃない?」
「逆?」
「えーとつまり、この鍵は一階の鍵穴に使うモノなんじゃないの、っていうこと」
 
 ◆

 既に敵のいない一階では、不気味な静寂の中資料の捜索作業が始められていた。
 最初は見取図の右上にある部屋にかかっている鍵を捜索したものの、右下にある部屋で見つかった鍵は、鍵穴に合わなかった。
 これも後に、地下一階のものであることが判明し――それぞれの鍵の開けた先を確認すべく、能力者たちは今一度合流する。

 それまでに見つけた資料はと言えば、『Regla』の活動計画書やキメラの生成計画といったものが主なもの。
 それでも十分に今後の為の資料には成るが、『強化人間やヨリシロにまつわる資料』は存在していなかった。

「‥‥開けるわよ」
 愛梨が一階の鍵穴に鍵を差し込む。
 その先には二台のPCがあった。外部メモリは流石に残っていなかったが、プリンタは備え付けられている。
「これは‥‥」
 護が声を漏らす。
 PC内部のデータのプリントアウトを可能な限り済ませて突き合わせてみると、二台には同じデータが残っていることが分かった。
 それは、今回の目的とするところに当てはまっているものだった。
 組織に属する強化人間とヨリシロの一覧と、組織が把握している限りの当人の過去に関するデータ。
 全部で十数人分あるその資料のうち、
「あ‥‥」
 ある人物の項を見、アメリーが声を上げた。

『コレット・レオナール』。

 ――念の為参照した過去の資料、家族構成の項には、『アメリー・レオナール』の名も記述されている。
 そこまで確かめて、アメリーは呟いた。
「やっぱり‥‥そうだったんだ」
「――ヨリシロや強化人間の恐ろしさって、その強さもそうですけど、元は同じ地球人だったという部分にもあるんでしょうね」
 そんなアメリーの様子を横目にしながら、護は言う。
 戦うこと――その意味を探している最中にあっても、見えている気持ちはあった。
「大切な人と敵対して、もう話し合いも通じないことになったとしたら‥‥その時は、自分自身の手で決着をつけたい、ぼくはそう思います」

 ■

 コレットの分も含めた資料を、アリスが持っていたアタッシュケースに詰め――能力者たちは今度は地下一階へ降りる。
 ナンナが手にしていた鍵を鍵穴に差し込み、その先へ侵入する。
 ――入った部屋は今までの部屋よりも、研究室の色が強かった。といっても、広い部屋の中心部分だけの話だが。
 その中心部分には台座があり、その周囲を囲う機材がその色の主たる要因となっていた。いくつものコンソールパネルを持つそれを扱うことは、間違いなく容易なことではない。
「これは一体‥‥」
「キメラを作る、とかにしちゃあ台座が小さいッス」
 律子が投げかけた問いに、カルマがそう否定じみた推論を出す。
「あれ‥‥?」
 その時、台座と機材の土台となる部分に目を向けていたリオンは、それに取っ手がついていることに気がついた。
 多少躊躇してからそれを手前に引く。
 ――数枚の資料の横に、鞭らしき物体が置かれていた。
 鞭だけではない。
 剣、鎌、羽飾り――土台にいくつもついていた取っ手を開ければ開ける程、資料と付随する形でそういった武器や装飾品が見つかった。
 その中には、指輪もある。
 ――いくつも鎖で繋がったそれは、コレットが持つ七色の電撃を放つ指輪に似すぎていた。
「組織で造っていた武器とその資料、みたいですね‥‥」
 アリスがそう結論付ける。
 能力者たちが触れたり振るってもまるで反応を示すことのない武器そのものは、持って帰っても『敵の武器のスペアがなくなる』こと以外に利点は得られないだろう。もしくはここにあるものが失敗作だとしたならば、それこそ何のメリットもない。
 だが、資料はそうではない。
「この資料――ここに書かれた技術が、今後の役に立てばいいわね。
 壊しちゃいましょ‥‥。おかしな組織も、あんたを縛るものも、全部ね」
「――うん」
 愛梨が投げかけた言葉に、アメリーは力強く肯いてみせた。