タイトル:轢殺★ストロベリーマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/19 01:26

●オープニング本文


 イチゴ農園を営むその男はある日の朝、いつも通り栽培しているイチゴの様子を見に家の外へ出た。
 彼はイチゴをビニールハウスで栽培している。もうすぐ収穫の時期だが、だからといって様子見を欠かすことはない。これからでも何かあったら大変だというのもあるが、それ以上に彼はイチゴを愛する妻のように大切に思っているからである。ちなみに三十五歳の彼に人の妻はいない。イチゴのハーレムがあればそれでいいというのが彼の理想であり、現実である。
 白い息を吐きながら、自分のビニールハウスへと向かう田舎道を急ぎ足で歩いていた男は――足元の異変に気付いてぎょっとする。
「‥‥種?」
 アスファルトの上に、イチゴの種子が無数にばら撒かれていたのである。車は農家のトラックくらいしか通らないが、迷惑なことに変わりはない。
 ばら撒かれた種子は一定のルートを辿っている。男が種子の存在に気付いたのは、すぐ横にある林からそのルートが出来ていたからだ。しかも林は林で、何だか荒れ方が不自然だった。別に切り倒されているとかそういうわけではないが、低木や草花が折れたり潰されたりと酷い有様になっている。
 男は怪訝な表情を浮かべ、種子がばら撒かれている道を辿っていく。
 途中から、段々嫌な予感がし始めた。今歩いている道は、普段自分がハウスに行くために往く道と同じなのだ。

 そして種子の道を最後まで辿ることなく、嫌な予感は的中したことを知る。
 周囲の景色が開けている農道。
 その先に見え始めた男の愛する妻が居るはずのハウスは、遠目に見ても無残な姿になっていた。
 ついでに言うとその変わり果てたハウスの中には、赤く巨大な影が蠢いている。
 形は何故か、彼の愛する妻にとてもよく似ていた。ただしその頭はハウスの屋根の残骸に届きそうだ。小さく愛らしい姿の妻とは似ても似つかない。
(「俺の愛が足りなかったのか!?」)
 などと妄想にふける男。もちろんそういう問題ではない。
 ともあれ、あの姿では栽培どころではない。
 それからかくかくしかじかあって、ULTにイチゴの形をしたキメラの討伐依頼が入ったのだった。

●参加者一覧

内藤新(ga3460
20歳・♂・ST
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
豊田そあら(ga4645
21歳・♀・BM
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
岡村啓太(ga6215
23歳・♂・FT
ハルトマン(ga6603
14歳・♀・JG
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
霧島 黎人(ga7796
23歳・♂・FT

●リプレイ本文

●平和な村の奇妙な光景
 ぽかぽか陽気に、美味しい空気。穏やかに吹く風とのどかな村の風景。
 これでキメラなどが現れなかったら、どんなに平和なことだったろう。
「はぁ、ま〜た妙なキメラが現れただか。バグアも何考えているんだか」
 内藤新(ga3460)はそう言いながら、自身の親指ほどの大きさの種を指先で空に弾き、落ちてくるそれをキャッチする。種は依頼主の男に貸してもらったもので、男曰くキメラはこれを落としていったらしい。
「この弾の大きさだと、下手するとスイカも粉々に砕きそうだべ」
「これがトマトならしっくりくるんだが‥‥いやそれは蛇足か」
 バグアが何を考えているのか分からないという新の意見に同意らしく、ザン・エフティング(ga5141)は溜息をつく。
「それはともかく、愛するものをぐちゃぐちゃにされた依頼主さんの無念、我々が晴らすのですっ」
 レーゲン・シュナイダー(ga4458)は握り拳を作って声を上げる。一部の能力者には、その目が何かに燃えているように見えた。

 現場であるビニールハウスは最初依頼主がキメラを発見した時同様、遠目に見てもすぐにそれと分かった。赤く巨大な異物が蠢いていたからだ。
 半透明のビニールはいたるところが破けており、破けた隙間からは異物の正体――今回の討伐対象であるキメラの姿が垣間見える。加え、それより小ぶりなため輪郭しか分からない異物の姿もいくつか。話に聞いていた小さいほうのキメラだろう。
 奇襲をかけるのが今回の最初の狙い。まだキメラには気付かれていないようだったが、能力者たちは一旦道に隣接する林に隠れた。
「すげ‥‥圧巻だな」
 霧島 黎人(ga7796)が軽く息を呑んだ一方で、
「さて、今日はキメラに此処に生まれてきた事を後悔させてあげるのです」
 腰に掛けていた銃を取り出し指でくるくると回しながら、ハルトマン(ga6603)は言ってのける。
 それから各々覚醒を済ませた。これで準備は完了だ。
「さァて‥‥悪戯が過ぎる奴らにお仕置きに行くとしようかねェ」
 髪の色とともにキャラまで変わったレーゲンの言葉を合図に、能力者たちは林を飛び出し駆け始めた。

●そのイチゴ、育ちすぎにつき
「いくぜッ!」
 ハウスの入口から正面きって飛び込みながら叫んだのは、ブレイズ・S・イーグル(ga7498)。ブレイズの後にレーゲンと、瞳孔が開いたハルトマンが続いて入口から中へ飛び込む。
 体中から黒いオーラを発しながら駆けていくブレイズの正面には、巨大なイチゴの形をしたキメラがいる。ついでにそれを取り囲むように、それより二回りほど小ぶりなイチゴが三つ。どれもこれもが天辺にヘタを生やしている立派なイチゴにしか見えない。食用でないことは事前にオペレーターに知らされているのに、それでも美味しそうに見えてしまうからキメラという生命体は怖い。ある意味で。
 襲い来る獲物の姿を捉えたイチゴキメラたちは、まずは至近距離に迫ろうとしているブレイズに向けて種子の弾丸を放つ。
 それはさながら散弾銃だ。後ろのレーゲンやハルトマンの方にもいくらか飛んでいったこともあり、自分に向けられた弾丸の半分以上をコンユンクシオで弾くことに成功するブレイズ。そこに、
「さァ、やっておしまいアンタ達!」
 とりあえず自分の被害も何のその、レーゲンの強化の練力が飛んでくる。更に彼女によって大イチゴに弱体の練力が付されると、心なしかキメラの色合いが不味そうなものになった。元気の証は色に出るのかもしれない。
 キメラがひるむ前に、大イチゴの至近距離にもぐりこんだブレイズの流れるような一撃が向け放たれる! レーゲンの練力だけでなくブレイズ自身の練力によって威力が増した斬撃は大イチゴに上手く入ったものの、ブレイズの表情は優れない。というのも、
「お、思ったより硬ぇなコイツ‥‥!」
 全く効かないわけではないが、思ったほどには手ごたえがなかったからだ。赤い装甲についた傷は、想定していたよりは大分小さい。レーゲンが弱体させなければもっと効いていなかっただろう。
 小イチゴたちは自分たちの間に割って入ったブレイズに集中砲火を加えようとしたが――その刹那、ボロボロになっていたハウスの側面のビニールが切り刻まれた。
 そしてそこから姿を現す、五人の能力者たち。
「さて、楽しい楽しいイチゴ狩りの始まりだ」
 瞳が金色に変わった黎人が言うと、
「知っているか? 俺は苺が大好きなんだ」
 ビニールを斬り払った張本人であるザンが刀を構えなおしながら笑う。ついでに小声で「‥‥食料としてな」と付け加えた。
「育ちすぎの規格外イチゴめ。お前は出荷できないから、地に還るだよ!」
 新は険しい表情でキメラたちに向かって指を突きつける。
 その一方で、
「イチゴだ〜♪」
 食べられないのは理解しているはずだが、テンション高めに声を弾ませる豊田そあら(ga4645)がいれば、
「うおっ!! マジで苺が動いてやがる。きもちわりぃ〜!!」
 岡村啓太(ga6215)のようにおぞましいものでも見たかのようなリアクションをする者もいる。
 ――まあ、怪異と呼ぶに相応しいイチゴを見たリアクションとして、一番もっともらしいのは啓太なのかもしれない。
 ともあれ加勢、もとい奇襲をかけた能力者たちは、躊躇わずに小イチゴたちに攻撃を開始した。
 黎人とザン――近接戦を決め込んだ二人は、ブレイズが大イチゴに与えたダメージを見てか小イチゴのうち一体に集中的に攻撃を浴びせ始める。そんな彼らにも体勢を立て直した小イチゴたちの種子の嵐が容赦なく迫るのだが、二人は構いはしなかった。
 ザンは手にした刀を受けに使って致命傷を避けながら、練力を流しこんだショットガンの弾撃を至近距離で浴びせ。
 黎人にいたっては小イチゴの攻撃など完全に無視、ただひたすらに一体の装甲に傷を刻んでいく。
 奇襲をかけた直後に新から練力による武器強化を受けていたこともあり、さして時間もかけずに小イチゴの一体を沈めることに成功する。一息つく間もなく次の標的に向かう彼らにレーゲンからの治癒の練力が送られた。
 一方残った二体のうち一体は、遠距離から攻撃してくる新やそあらを狙って種子を放つ。が、
「オレの後ろに隠れろ!!」
 その前に立ちはだかった啓太が、自身と振り回す槍を盾に二人を護る。槍への強化は防御には意味を成さなかったが、時折接近してくる小イチゴに対しては傷を与えていく。「わりぃ、何発か喰らっちまった。治してくれ」という彼の合図から間もなく癒しの練力が飛んだことも、彼が長い時間二人を護ることが出来た要因になったろう。
 そんな啓太でも護りきれない範囲からの射撃が新やそあらへと向かうと、
「ふ、不意打ちとは卑怯だべ! こうなったら、お前から先に潰してやるだよ!」
 キレだした新の超機械が反撃の電波をキメラにぶつける。続くようにそあらも。
 小イチゴ班の主な攻撃対象は黎人やザンが攻撃を与えているキメラだったが、もう一方が全く無傷だというわけではなかった。

 一方最初にハウスに突入した三人は他のメンバーが小イチゴたちを殲滅するまでの間、大イチゴに対してどちらかというと防御を重視して戦闘を続けていた。ブレイズやハルトマンが牽制の斬撃、二連射撃を叩き込んで動きを止め、子分を倒そうとしている者たちの元へと向かわせない。ブレイズが少しでも深い傷を負うとすかさずレーゲンの練力が飛んだ。
 近距離で牽制してくるブレイズよりも遠くから射撃してくるハルトマンやレーゲンを先に仕留めることにしたらしい。大イチゴはブレイズの攻撃を一度するりとかわすと、二人の元へ移動を始めた。
 が、すぐに体勢を立て直したブレイズが再びキメラの前に立ちはだかる。キメラが動きを止めた間に後方の二人は再度距離を置いた。
「オイオイ、そっちを狙うのはナシだ――」
 笑みを浮かべたブレイズの言葉は最後まで続かなかった。
 こちらから接近した時まで立ちはだかる彼を邪魔に思ったのか。キメラは身体の先端を軸にし、そこを中心に円を描くかのように転がり出したのだ。
 移動とは違い、その様はまさに電光石火。至近距離ゆえ動きを捉え切れなかったブレイズは成す術もなく轢き逃げされる。
「ブレイズー!?」
 ハルトマンの絶叫が響く。弾き飛ばされてはいないのは確かなのだが、ブレイズの姿が見えない。
 声に呼応するかのように、大イチゴが転がった軌道の下の地面からブレイズの腕が上がった。どうやら地面に埋め込まれてしまったらしく、上げられた腕も痙攣しているのが傍目に見て取れる。地面がアスファルトだったら挟まれた圧力で全身の骨が砕けているところだろう。
「世話のやけるッ」
 レーゲンは苦々しい表情で彼に癒しの練力を投げた。
「や、やるじゃねぇかこの野郎!」
 癒しを受け猛然と立ち上がったブレイズは、再びレーゲンたちを追い回し始めたキメラの背中に向け斬りかかった。顔や身体にこびりついた土はその激しい動きで勝手に落ちていく。地面にはその土と、切り刻まれたキメラの赤い――皮の内側は白い――肉が多少落ちた。ブレイズの一撃は、硬い装甲を打ち破るほどに綺麗に決まったのだ。
 それを危機と取ったか、キメラは方向を変えた。向かう先は、まだ生き残っている二体の子分のうちの一体。
 子分イチゴのほうも誘われるように大イチゴの方へ向かった。啓太はそあらや新を弾丸から護るために後方にいたし、ザンや黎人は二匹目を倒すのに攻撃を集中させている。そあらや新が遠距離から足止めを試みるものの、ダメージを与えこそすれど子分の動きは止まらない。同じように大イチゴの方にもブレイズやハルトマンの追撃が加えられたが、こちらも子分に躊躇うことなく向かっていく。
 新たちの遠距離攻撃がギリギリまで子分を追い詰めたものの――倒しきれず、大イチゴと子分は接触してしまう。
 親分はその口を開き、子分を丸呑みした。
「げげっ!! 苺が苺を喰いやがった‥‥」
 その様子を見て啓太が呻く。
 するとその直後、キメラの周りにRPGの回復魔法よろしくな七色の光が舞い――
「‥‥なぁ、何か色が変わってねえべさ?」
「もっと美味しそうになった〜♪」
 新とそあらの言葉通り、大イチゴは先ほどよりも更に赤く熟し、瑞々しさを帯びたビジュアルになった。ついでにこれまでにつけた傷の大半が塞がっている。
「チッ、手間かけさせやがる‥‥」
 ブレイズは舌打ちしたが、結果的にこの共食いは裏目に出ることになる。
 更にその直後、ザンと黎人が残っていた子分イチゴを倒したのだ。
 そして斬撃、電波、射撃――大キメラに攻撃が集中する。
「これで終わりだぜッ!」
 回復する前以上に傷んだ赤い巨体に、ブレイズは横薙ぎの一閃を見舞う!
 装甲を完全に切り裂かれた大イチゴは、真っ二つになって崩れ落ちた。

●ストロベリータイム
 覚醒を解いた能力者たちが任務完遂の旨を伝えた時、依頼主は戦場のすぐ近くにいた。戦場の周辺のハウスも依頼主のものだったため、傷つかないか気が気でなかったらしい。
 依頼主は周辺に被害が及んでいないことに安堵しながら、大量のイチゴが積まれた荷車を見せた。無事だった別のハウスで収穫したものだという。
「わ‥‥! 甘くておいし‥‥♪」
「やっぱりストロベリーは美味いな。良い物つくっているじゃねーか、これに懲りずに美味しいストロベリーを作ってくれよな」
 レーゲンやザン、ハルトマンは自然の甘さと程よい酸味をそのまま楽しみ、
「たっぷり掛けて一気にぱくっと食べると美味しいんだよね〜♪」
 そあらは言葉通りに練乳をたっぷりかけて口にし、幸せな笑顔を浮かべる。
「やっぱりイチゴには牛乳と砂糖だね」
 普通に食すイチゴの他に、新は皿に乗ったイチゴを用意してもらっていた。それに砂糖と牛乳をかけ、更にイチゴの果肉を潰してイチゴ果汁入りの牛乳の出来上がり。「甘いイチゴはおいしいだね」と、こちらも満足そうな顔をした。
 レーゲンやそあらがイチゴを持って帰りたいと言うと、依頼主は快く肯いてくれた。妻を育てる環境を護ってくれたことがそれほど嬉しかったのだろう。

 一方――。
「うまい!!」
 ブレイズや黎人の視線を浴びながら、啓太はあれだけ食べられないと言われていたイチゴキメラの肉を食していた。
 本当に美味しいのかどうかは本人以外知る由もない――はずだったが、
「いやマジにうまいんだってば。騙されたと思って食ってみろよ」
 視線を向けてきていた二人に、啓太はまるで押し付けるかのようにキメラの肉を差し出す。
 ブレイズと黎人は困ったと言いたげな顔を見合わせてから、揃って恐る恐る啓太が差し出した肉に手を出し、口に含む。
 黎人はすぐに吐き捨て、逃げるように普通のイチゴに舌鼓を打つ仲間たちの元へ向かった。
 一応食したブレイズだったが、こちらも「生暖かいのがちょっとな‥‥」とコメントする。つまりは美味しいと感じているのは啓太だけということだ。
 その時、
「二人もこっちでイチゴ食べましょうよー!」
 ブレイズと啓太の間に割って入るように、ハルトマンが駆けてきた。
 ハルトマンはそのままの勢いでブレイズに抱きつこうとしたが、元来女性に苦手意識を持つブレイズは本能的にこれを避ける。
 避けたのはいいのだが、バランスを崩して倒れ。
 倒れこんだ先には、キメラの死骸――というか肉の残骸が転がっていたりして。

 ある意味大惨事発生。

 この後ラスト・ホープに帰る頃までの間、ブレイズは体中からイチゴの香りを漂わせることになる。
 更に余談だが、非食用のキメラの肉を大量に食した啓太は帰還後、腹を下したとか下さなかったとか。