タイトル:【RE】Re−chargeマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/12 05:04

●オープニング本文


「‥‥‥‥」
 白い――フランスにある本来の別荘のような色合いに染められた部屋。
 イネース・サイフェルはそこで、部屋には不釣り合いなサイズのディスプレイを眺めている。
 映し出されるのは、ここ数カ月のイタリア半島の情勢の変化。
 一度は自らのキャンパスと定めたその赤き領域は、徐々にではあるものの確実に狭くなり始めていた。
 他のゾディアックは次々と駆逐され、既に当初の数の半分以下になっている。
 自身は大きな傷を負ったことがないにしろ、その事実は認識している。
 それ故、決して敵の能力を侮ってはいないつもりだった。

 ――先日、本星型HWを駆り彼らの排除へ向かった部下が、返り討ちに遭って死に体で帰ってくるまでは。

(「‥‥認識を改めるべきですね」)
 その姿を見、イネースは思ったものだ。
 彼ら――UPC軍と傭兵たちは決して自身が生み出す芸術の素材の一部ではない。
 否、最終的にはそうすることが理想へと繋がるのだが――その為には、彼らをまず障害であると認めなければならない。
 それは彼女にとって、二つの意味で不愉快な事実だったが。

 さて、彼らをどう排除したものか――。
 思考を巡らせた末、彼女は立ちあがった。
『不愉快』を『愉快』に変える為に。

 ■

 イネースの部下・レイチェルの襲撃以降、シチリアに根を張るバグアの軍勢の動きは不思議な程に静かだった。
 そのおかげもあり、UPC軍は遂にナポリに到達したのだが――静かだった理由を、彼らはここで知ることになる。
 籠城。
 ナポリに存在するバグアの戦力は、以前傭兵たちがイタリア軍救出の為に向かった時よりも更に増えていた。
 北部からの反撃を見、イネースか、はたまたユズか――どちらかが手を回したのだろう。
 だが、敵は都市から動く様子はない。
 都市を包囲し、少しずつその網を狭めていけば、決して攻略できないことはない――筈だった。

 包囲網の原型が完成したその日、空から思わぬ来客があった。

『御機嫌よう』
 ナポリを包囲している軍全体が、その通信を傍受した。
 通信機上の送信元は不明。だがそのいやに澄んだ女の声を、軍の殆ど全ての人間は知っていた。
 ゾディアック乙女座、イネース・サイフェル――。
 思わず誰もが、シチリアのある南西の空に目を向ける。
 肉眼では捉えることは不可能だったが、KVを駆る兵卒のコックピットからは、黒い影を中心とした編隊が上空に小さく見えた。
『こうして私自身が挨拶するのは、久しぶりですね。
 ――その印しに一つ、プレゼントを用意しました』
 刹那、別の方角から敵影が出現したとの報告が軍に入った。
 爆撃機隊――。
 その単語とイネースという女の性質を以て、彼女の言葉の意味を理解した軍は戦慄した。
 ナポリは現在バグアに占領されているが、市民が生存しているとの報告もある。爆撃機に仕事をさせるということは即ち彼らの命が犠牲となり、更にそれはイネースにとっての芸術の一部となるということだった。
 だが同時に、考えてみれば当然の疑問が軍の人間の頭を過ぎる。
『あそこにいるワームは、どうせあの整備士の無人機ですから』
 その疑問に対する答えは、問う前に返ってきた。
 整備士――ユズのモノであるならば、壊した方が寧ろ本人は喜ぶ、という意味らしい。
『さて――都市のついでに、貴方達にも消えていただきます』
 その言葉を最後に、イネースからの通信は途切れた。

 ■

『この間のようには行かないんで、イネースさんも思い切り楽しんじゃってください』
 出立する前、ユズがそんなことを言っていたことをイネースは思い出す。
 何が、というと、ユズの言うところの『戦術を唯一度外視出来るチート装備』のことだ。レイチェルはそれのせいで随分と酷い目に遭ったようで、対策を施したらしい。
 思い返すイネースが駆る機体の名は、リリス。
 かつてのKVとしての名はアンジェリカ。昨夏にカタンザーロを陥れた忌まわしき悪魔の女王の名を冠するそれは、しかしその時とは装備からして異なっていた。
 明らかに、軽い。その独自の能力による負担軽減を差し引いても、装甲が薄いことは否めないだろう。勿論、それには理由があるのだが。
 周りを囲う機体についてもそれは同様だ。もっとも、もとより装甲などないに等しいCWもいるのだが。
 そしてリリスの直ぐ周りに佇むのは、これもまたかつてはウーフーであった三機の鹵獲改造KV――その名を、ガーディアンと呼ぶ。元々は四機あったが、一機は以前ブリンディシで墜とされている。
『必要だと思うので強化しておきました』
 ユズはこうも言っていた。ガーディアンの動きに合わせて、周遊しているCWも同様に動く――といった能力については、前に曝け出す機会がなかっただけで元からついているものなのだが。
 強化されたことが軽くなったこととどう関わるかを知っているイネースは、思わず含み笑いを漏らした。

 自分たちとていつまでも同じものに胡坐をかいているつもりはないのだ。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
美空(gb1906
13歳・♀・HD
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP

●リプレイ本文

●再会の乙女座
 戦線は、二五〇ものミサイルの華が空に咲き乱れたところから始まった――
 ――かのように見えたが、実は最初の動きはそれではなかった。

「んん‥‥」
 愛機・PixieからK−02を放ったレティ・クリムゾン(ga8679)が、その瞬間までこらえていた痛み――頭痛に表情を歪ませる。
 ――疾い。
 全ての敵が、傭兵たちの想像を遥かに超える速さで此方へ接近してきていた。その為、彼女がミサイルを放つ寸前には既にCWによるジャミングの射程圏内に入ってしまっている。敵の軽装の意味は、とりあえずここにあるらしい。
 ジャミングが効いている為、案の定ミサイルの殲滅効率は非常に悪い。レティのK−02に紛れる形でアルヴァイム(ga5051)がトリガーを引いたD−013は、その命中精度もあり敵の最前衛であるHWのうちの一機に命中したものの、比較的大きな被害を受けたのはかのHWだけ。残りの機体は急激な接近の後は速度を緩め、それぞれに攻撃態勢に入ったようだった。
 空が一度静かになり、レティは自身の攻撃の効果を改めて確かめた後にレーダーにおけるHWの先の敵影を見据える。
「あれがガーディアン、それにリリスか。厄介そうな相手だが――」
 その視線の先は、再びHWへ。
「今は此方に集中しよう」
 既に頭痛に襲われ始めてはいるが――目的を果たす勝利の為、二度も遅れをとるつもりはない。

 無効化はしていないにしろ、強烈なジャミングがかかっている今、二発目を撃っても恐らく効果は薄い。
 だからレティは二発目のK−02を放たなかった。代わりに、ガーディアンやCWを相手取らんとする傭兵たちが敵前衛のHWの間や横をかいくぐりにかかる。
 当然、HWによる迎撃がある――回避の余裕を奪われている以上、KV群は悉くその被害を受けざるを得なかったが、損傷自体はそれほど大きなものではない。
 しかし。
「――どこまで」
 素早いのか。
 HWが此方の正面へ回り込むように動いてきたことに気づいた南部 祐希(ga4390)の呟きが、僅かに漏れる。刹那、後方から飛来したホーミングミサイルが目の前のHWを掠めた。同様に他のKVの前に再度立ちはだかったHWにも攻撃が飛んだが、CWのおかげで被害が薄いせいなのか、HWは後退する様子をまだ見せない。どうやらHWはただの前衛だというだけでなく、それを含めて後方の群へ向かうKVを遮る為の存在であるらしい。
 それでも、傭兵たちとHWの後方にいるバグアとの距離は少なからず迫っていた。ただでさえバグアが高速で移動していたのに対し傭兵たちも動いたのだから当然と言えば当然のことではある。
『派手な挨拶ですね』
 中心――イネースは、まるで褒めたたえるかのように言う。
「いよいよ出てきましたね――待ちわびていましたよ、この時を」
 御崎 緋音(ga8646)は、今はまだ小さきリリスの姿を睨むように目を細める。
「健勝そうで何よりだよ、イネース。英雄殿からの伝言は受け取って貰えたかな」
 御影・朔夜(ga0240)が放ったその挨拶に、イネースは『‥‥ええ』と僅かな間をおいて応えた。
『ご希望通り、来て差し上げました――あぁ、今度は私が貴方がたに同じ台詞を返す為でもありますが』
「そうはいくかッ!」
 そう声を張り上げたのは魔宗・琢磨(ga8475)だった。
「一年と半年‥‥お前を追い続けた、皆の分まで――イネース! お前は必ずぶっ飛ばすッ!」
『――前にも同じようなことを言われた記憶がありますね』
 それまでより声音がやや低くなると同時、傭兵たちがそれぞれの標的に照準を向け始めたのと同様にガーディアンがそれぞれに狙いを定め始める。
『ですから、同じ言葉で返してあげましょう――出来るものなら、どうぞ?』
 言い放ったイネースが駆るリリスから、三条の光線が放たれる。
 狙いは――ソード(ga6675)のフレイア。
『そう何度も同じ手を出させる程、私は手緩くないので』
 傭兵たちにとっての誤算の一つに『イネースが最初から自ら手を下してきた』ことがあったのは、この光を見た誰もが確信するところだった。フレイアもK−02を装備しているのは見るからに明らかだったが、Pixieではなくフレイアが狙われたのは単に彼我の距離の問題なのだろう。最初からHWを相手取るつもりでいたPixieは、リリスから見ると最も遠い距離にいる。
 リリスだけではなく、フレイアから見てリリスの手前にあたる中央のガーディアンからも同様にミサイルが飛来する。CWのジャミングから逃れるには、あまりに距離が無さ過ぎる。これもまた被弾せざるを得なかった。
 イネースが最初から手を出してくる以上、傭兵たちも陣形を早々と動かさざるを得ない。アルヴァイムの駆る字、緋音のヘルヴォル、そして柳凪 蓮夢(gb8883)の紅弁慶――三機のKVが、先ほどの傭兵同様にHWをかいくぐり――リリスの足止めをせんと動き出す。
 無論、やはりHWは邪魔をしてきたが――下手な鉄砲も何とやら、というのは、ことこういった場面にこそ当てはまる。
「じれったい‥‥でも、必ず機は訪れる‥‥」
 ジャミングの影響もあって命中精度だけでなく攻撃性能まで下げられつつも、瑞浪 時雨(ga5130)が駆るエレクトラはHWに向けるUK−10AAEMによる攻撃の手を止めることはない。
 あくまでも援護――それに応えられるタイミングは、思いのほか早く訪れた。
 レティのG放電装置、続いて琢磨の放ったUK−10AAMが立て続けに直撃したのだ。正面のHWが墜ち、ガーディアンやCWの掃討に向かうソードと美空(gb1906)、それにリリスの足止めに向かう先の三機の動きが自由になった。
 美空の阿修羅・聖堂がホールディングミサイルの照準を正面のCWに定める。全身に緊張感が伝うのを感じながら放ったミサイルは、未だ強いジャミングによって照準が逸れた故に何もない空中へと消えていった。
 だが、何も効果がなかったわけでもない。
「撃たれてばかりではいられませんからね‥‥」
 漸く反撃に転じたフレイアが、スナイパーライフルを構えていた。ソードが引き金を引いた刹那に起こったのは、ホールディングミサイルを避けようと右方向へ動いたCWからの爆発。次いで再度美空が放ったホールディングミサイルが今度は命中し、直後、傭兵たちを苛んでいた頭痛が少しだけ和らいだ。
 ガーディアン、そしてリリスからの反撃。これも今はまだ甘んじて受けるほかない。陣形のほころびが生じたのは未だ正面だけであるが故に、尚更。
 その間に、足止めに向かう三機はガーディアンを通過してリリスへと向かっていった。背後からの追撃は、ない。ガーディアンの攻撃はあくまでもフレイアと阿修羅・聖堂に向いている。
 ヘルヴォルがリリスの前に立ちはだかり、続いて字と紅弁慶が牽制の射撃を放つ。
 使い魔を呼び出すまでもなくそれらの射撃がまだ当たる精度には至っていないことに余裕を感じているらしく、リリスは攻撃の狙いを三機より奥のソードや美空から変更する様子はない。
 そうしてまたリリスがレーザー砲を構えた時、
「これ以上は‥‥させないっ」
 緋音が声を上げた。ヘルヴォルがトリガーを引き絞ったスラスターライフルはやはりリリスに命中することはなかったが――回避挙動を取ったのか、背後からの被害報告は伝わってこなかった。
『――‥‥』
 直後、本人は何も口にしてはいない筈なのだが、通信越しのイネースの気配が強まったような気がした。
 ――圧力。
 その予感が当たっていることを示すかのように、リリスの砲身の向きが明らかに三機の方へと変わる。
「‥‥この子に冠した名に懸けて――そう簡単には、通さないよ」
 またそれに立ち向かわんと、蓮夢が声を上げた。

●空に燃ゆる色
 残っていた左右のHWは、レティ、時雨、琢磨が牽制することで動きを止め――。
 傭兵たちは今度こそ、己が役目の為に動き出した。

「――なるほど、そういうことですか」
 左右正面、どの方面も『先にCWを潰す』ことを念頭に置いていたが――そのCWの動きの不自然さに、篠崎 公司(ga2413)が最初に気がついた。
 ただガーディアンの周囲を周遊するようになっているだけか――と考えていたのだが、どうやら本来ゼロに等しい筈であるCW自身の回避性能自体、上がっているらしい。或いは、ガーディアンの性能に依存している、と言った方が正しいか。公司が予め想定していた強化とは異なるものだが、ジャミングをなくす上で面倒なことに変わりはない。事実、最初にソードが叩き落とした一機以外はCWも――無論ガーディアンも未だ健在だった。
 しかし。
 行動軌道、そして性能さえ把握出来てしまえば後は傭兵の動きの問題だ。

「‥‥分かりました」
 公司からの無線連絡を受け、右側で純白のミカガミ――白皇を駆る終夜・無月(ga3084)はそう応じた。
 ガーディアンから飛来する射撃を、機体を垂直回転することでかわし、そのガーディアンの周囲を漂うCWに向け機関砲の砲身を向ける。
 トリガーを引く。CWとは思えない程の俊敏な軌道で標的はそれをかわした。即座に急旋回、ヒット&アウェイの要領でその場からの一時離脱を図った白皇だが、その前に逆方向に急旋回しながらも射撃を行ってきたガーディアンの攻撃を僅かながら被弾する。
 先程公司からの連絡を受けるまでの流れと同じ――ロッテを組んでいる朔夜のノクスも、白皇ほどの回数ではないがやはり被弾している。積もり始めた塵が、徐々に負担となり始めていた。
 だがCWが動いた刹那には既に、動いた先の空に向かって、無月の白皇とはCWを挟んだ真向かいにいるように動いていたノクスがスラスターライフルの引き金を引いていた。背後、という概念が存在するとは思えないCWだが、これは避けようがなかったらしくその体に爆発を生み出した。
 揺らぐフォーメーション、そして双方向からの追撃、痛撃。ガーディアンの横で一際大きな爆発が生じ、頭痛がまた和らぐ。
 ガーディアンの動きこそKV同様自由であるものの、CWはかのワームにしてはやたらと秀でている回避行動時以外、あくまでその周囲の円周を漂うしかない。そうなれば読むべきはガーディアンの軌道と、CWを狙うべきタイミングだけだった。
 二人はそれぞれ反対側からタイミングをずらして狙う戦法をとったが、左側は公司の援護射撃、正面はソードがエニセイで手数勝負を行うことで、それぞれ祐希のKA−01、美空のホールディングミサイルを避けようがないコースへとあぶり出した。その間も無論ガーディアンは移動と攻撃を繰り返し、公司やソードが距離を置いた分祐希や美空に攻撃が集中することも多かったが――遂に、CWの殲滅に成功する。
 次いで、CWを相手取っていた傭兵たちの後方で立て続けに二つ爆発が起きた。――レティたちが相手をしていたHWが、それぞれ爆散したのだ。

 ガーディアンはその名に相応しく、軽装な割に装甲は堅牢、またCWの力なくとも回避性能に優れているようだったが、肝となる部分はCWの強化にあったらしい。頭痛も無くなり、また完全に数の上で優位に立った傭兵たちにとっては、タフで機敏な壁以上の存在ではなかった。CWの時と同様に、片方がロッテを組んだ相手の攻撃軌道にあぶり出し、攻撃。ガーディアンからの攻撃を――これもまたCWが居なくなったお陰で出来る芸当だが――回避し、カウンターを浴びせる。
 CWの強化によって傭兵たちを散々苦しめたガーディアンは、それ自体あっけなく沈むことになった。
「さて――残るは、貴女だけだ」
 周囲の戦闘が終了したのを認識し、それまでリリスの足止めに徹していた蓮夢が口を開く。
 鹵獲機特有の異常なまでの機体強化。それはやはりリリスにも施されており、足止めに向かった三機は皆お世辞にも無事とは言い難い状態になっている。元の機体――アンジェリカのSESエンハンサーを用いることで硬い装甲をもぶち破っているリリスの知覚性能は、恐れるに値するものだった。
 当然彼らとて、何もせず壁になっていたわけではない。寧ろ彼らが――時に互いの援護をしながら――リリスの攻撃をひきつけたおかげで、それ以外の機体への被害は最小限に留まっている。HWの撃墜後攻撃をリリスに向けるようになったHW担当の三機が反撃を受けた程度で、いずれも直撃はしたものの撃墜には至っていない。
「あぁ、君にまた逢える日を、ずっと待ち望んでいた」
 自らが相手取っていた敵を片付け接近した朔夜が、そう口にする。
 戦いたい訳じゃない。逢いたかった――そう言い放ったことで、流石のイネースも怪訝に思ったらしく
『‥‥何故?』
 迫る十二の敵との距離を測るように牽制の射撃を放ちながら、問うてきた。
 射撃、ミサイル。ソードウィングによる近接戦――次々と繰り出される傭兵たちの攻撃は、しかしリリスが吐きだした使い魔に悉くかわされ、或いは受け止められる。
 自身もまたリリスを狙い撃ちながら、朔夜は答える。
「私と君の違いは立場程度のものだ。君の在り方に否定を挟むことなど出来ない。
 ――だからこそ、君という星に焦がれる一人の男として、君の前に立つことを――ね」
『‥‥面白いことを言いますね。――立場が違うだけ、というのには同意しますが』
 話が続く一方で、リリスは徐々に押され始めていた。自身の攻撃も確実にKVを損耗させてはいるものの、何せ使い魔の消耗が激しすぎる。
 ――そして動きが制限されるということは、死角に回り込まれる可能性も上がるということだ。
「ならば此処で狙い撃つまでです」
 言い放ったのは、リリスの背後上空にいた公司。狙撃が、遂にリリス本体を捉える。
『くっ‥‥』
 傭兵たちと対峙し始めて二年。初めて、イネースが苦悶の声を上げた。
 次なる狙撃も命中する。使い魔を使い果たしたのだ――それを機に一気に片をつけにかかろうとした傭兵たちだったが、
『ふふ‥‥ふふふ』
 とても追い込まれている状況とは思えない静かな笑い声をイネースが上げ、次の刹那にはブーストをかけたリリスは、公司の機体よりも更に奥にいた。
 撤退態勢に入ったのだ。
『そう――私と、バグアと争うことで結果的に戦争を引き起こしている貴方達との違いは、それだけ‥‥。
 ――ならば私も、認めましょう。認めた上で、染め上げる為に――』
 尚もブーストをかけ続けたリリスは、黒煙を立ち上らせつつも傭兵たちが追う暇も与えずに空の向こうへ姿を消していった。
「次の芸術はあなたの番‥‥。贖罪の時――自らの赤で贖いなさい‥‥!」
 赤に染め上がるのはイネース本人の方――。
 時雨の冷たい呟きが、リリスが飛び去った方向へ風に乗って響いていった。