タイトル:【RE】Re−appearマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/11 02:44

●オープニング本文


『準備は出来ましたか?』
 ――通信越しに聞こえたその声に、彼女は「はい」と短く肯く。
 その瞳には、高揚の色が滲んでいた。

 自身が主と慕う者ほどではないとはいえ、彼女は赤、という色に執着していた。
 血の赤に限定するならば、或いは主以上かもしれない。ただし主は、血さえも内包するモノ――破壊が描く『赤』を愛しているのだから、スケール的にはやはり劣る。
 ――だからこそ、これから行う行為で終始満足するのはおそらく主だけだけれど、彼女はそれでもよかった。
 もし主が満足しうる結果を手にすることが出来たなら。

 その次に手に入れられるのは自らが求める赤なのだから。

 ■

「緊急事態、とも呼べるだろうね」
 傭兵が集まるなり、ユネはそんな言葉で依頼説明を切りだした。
 つい先日、ナポリを解放すべく築き上げられ始めた補給ライン。
 傭兵たちの尽力により延ばされたそれは、軍によって更に南方へ――ジュリアーノ・イン・カンパーニアまで伸び、もう少しでナポリに手が届くところにまで至っていた。
 ところが、である。もう少しだ、と息巻いていたところに思わぬ横やりが入ったのだ。
 シチリアからのバグア軍勢。
 それは海上を縦断し、今やイタリア本土近くにまで接近しつつあった。
 数は決して――少なくとも先日地上で掃討したワームほどには――多くない。
 が、その種類が問題だった。
 強化された小型HW。これはまだいい。
 だがそこに、本星型HWの小型が三機、更にそれの中型が一機――その特殊能力により未だ傭兵が苦しめられることが多い連中が存在するのである。
 加えて、何故そんな情報がイタリア軍への襲撃前にもたらされたのかというと。
「――敵には一機有人機がいるらしい。ただ、イネースではないけどね」
 ユネはそんなことを言う。

 もとより、イネースに関する情報ではバグア側の人材の話はあまりない。
 過去には天秤座・カッシングとの鹵獲機体の融通などもありはしたものの、それはその時だけの繋がりに過ぎないようだった。グリーンランドでの戦役以降大規模作戦にも姿を見せようとしないイネース自身、他のバグアとの馴れ合いなど興味はないと思っているのかもしれない。その場合、嗜好が微妙に似通っている部分があると思われるユズは例外なのだろう。
 だがそんなイネースを主として慕うヨリシロも、確かにいる。
 名をレイチェル・トールガーという。
 そのヨリシロの情報を入手したのは去年の秋にまで遡るが、ここにきて再び動き始めたのである。
 もっともイネースたちの動向からして、これまでにも水面下で何かしらのアクションは起こしていたのだろうから、正確にいえば『表に出てきた』というべきだろうが。

「迫る部隊を指揮しているのは、言うまでもなく彼女――レイチェル・トールガーだ」
 ユネは説明を続ける。そのレイチェルが、わざわざUPCを挑発するかのようにイタリア軍への攻撃を宣言したのだと。
 その彼女は、おそらく本星型の中型に搭乗しているものと考えられている。
 指揮系統を握る彼女を倒せば、形勢は一気に傾く――が、そう簡単にはいかないだろう、ともユネは言う。
 モンドラゴーネからいち早く飛ばした偵察部隊が、敵の様子を映像に収めてきていたらしい。ディスプレイに、通信によって送られたその映像が表示される。
 さながら古典SFの円盤よろしく、本星型小型の周りを周回する小型HWの姿があった。周回しながらも、本星型を軸にして前方へ進んでいる。
 更に遥か後方にレーダーを向けると、そこでようやく更なる敵の気配を捉えた。
 ――つまりレイチェルが乗っていると思しき本星型中型は、後から来るのだ。

「――といっても、ラインの確立を邪魔されるわけにはいかない」
 補給ラインを確立するだけでナポリの解放が約束されるわけではない。
 しかし、その先のことも踏まえると必要不可欠なものなのである。こんなところで足止めを食らっている余裕はない。
「――エースとは呼ばないにしろ、意思持つ敵がいるって意味ではきついものもあるかもしれない。――だけど、頼んだよ」

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●西南西
 ナポリ付近から見れば、西南西の方角。
「この班は、俺以外全員女性か。両手に華とはまさにこの事ですかねっと!」
 戦闘開始間際、魔宗・琢磨(ga8475)は軽口をそう叩いたついでに、
「――こりゃ絶対に全員揃って生きて帰還しねぇとだな‥‥」
 呟く。どちらかというと此方が本音だった。
(「これは再会も近い、かな?」)
 同班の御崎緋音(ga8646)は胸中でそんなことを思う。
 ここで軍勢を倒せばイネースを再び戦いの場に引きずり出すことも、そう遠い日のことではないかもしれない。
 そこまで考えた刹那――緋音は気づいた。
「来ましたっ!」
 敵の先制攻撃の存在に、だ。これはかわさざるを得ない。
 が、先制されたのはある意味都合がよかった。
 真直ぐにしか射出されないプロトン砲の射線は、つまり敵機体の高さを示す。
「わたくしたちは『剣の盾』、この先は通せんぼですの!」
 そう叫んだノーマ・ビブリオ(gb4948)のフェイルノートが、プロトン砲の射線よりも高いところまで舞い上がった。
 そして射程距離に入り、
「ブレイク・ブリッツですの!」
 ――相手よりも高い位置から攻撃を振りまけば、敵編隊の高低差など意味を成さない。
 K−02のミサイルの嵐は、敵編隊を呑みこみ――嵐が晴れぬ間に、残りの仲間たちもまた動き出す。
 緋音のヘルヴォルがブーストで接近を図り、
「私は本星型HWとの経験不足ゆえ御崎機のフォローに回る。宜しくッ」
 三島玲奈(ga3848)の雷電が言葉通りヘルヴォルに追従する。接近の最中、二種のスナイパーライフルを立て続けに放つ。それらはHW群への牽制となり、動きが一瞬止まった。そこへ更にノーマの放った誘導弾、琢磨の試作型スラスターライフル――丁度最前列にいたHWに、次々と弾撃が叩きこまれていく。どうやらK−02が的確にヒットしていたらしいこともあり、件のHWは既に満身創痍といった態になっていた。
 だが、緋音の接近も僅かに間に合わず、それなりの被害を出しつつも嵐を切り抜けたHW群は次の行動を開始する。満身創痍だったHWが高度を変えつつ後ろに下がり、同じように後方左側にいたHWが前に出てくる。そして今度は本星型も含めた全機でミサイルを一斉掃射――その殆どの狙いとなるのは当然緋音だったが、彼女はこれに耐えきった。
 やがて訪れる、再度の反撃の機。
「行きます――!」
 その時最前衛にいた小型HWをソードウィングで斬りつけつつ、緋音はそのまま陣形の奥へと踏み込む。前衛のHWは当然妨害しようとするものの、玲奈が遮った。D−02で妨害阻止に成功すると、ブースト。
 更に試作型リニア砲をやはり最前衛に叩きこむと、琢磨とノーマも続いた。琢磨も接近を図った後に射程ぎりぎりから引き金を引き、ノーマはエネルギー集積砲を撃ち放つ。これで撃墜、とまではいかなかったが、二機目の満身創痍を生み出し――ヘルヴォルは、本星型HWの懐に入ることに成功する。
 こうなると――特に強化小型HWはただ旋回するわけにもいかないのだが、下手に狙って本星型HWに当てるのも拙いのも事実だった。結局強化小型HWに出来るのは、それまでと同様射撃を繰り返すことだけ。次に近い玲奈機に多少の損耗を与えたものの、趨勢を変えるほどには至らない。
 一方、本星型HWには遠慮がない。
 全力で攻撃を仕掛ける本星型に対し、緋音は超電導アクチュエータを駆使し回避に専念する。
 プロトン砲を撃ってこなかったことも幸いし、まだまだ動ける状態でヘルヴォルは被弾を乗り切った。
 そして――全撃破に向けての攻勢が始まる。
 まず撃墜されたのは、再度前に出ることになってしまった満身創痍のHW、一機目。
 撃墜されたことで、陣形に風穴が開く。
「おっしゃあ! 援護は任せろッ!」
 そこへ玲奈が飛び込み、緋音がスラスターライフルを放ち続けるのと同様にライフルを強化FFに叩きこむ。
 本星型は、と言えば、防御中は強化FFを発生し続けざるをえない状況になっていた。消耗が増し――やがて、維持出来なくなる。
 それと時を同じくして、琢磨とノーマも残り二機の強化小型HWの撃墜に成功し、接近しようとしていた。
 ――勝敗を決するのに、それからさほど時間を要しなかった。

●南西
(「――あぁ、成る程。この胸に沸く感情は所謂憧憬か」)
 戦闘開始までの僅かな間。
 御影・朔夜(ga0240)の思考ベクトルは既に、敵編隊の後ろに控える存在――レイチェルへと向けられている。
 主従関係であれ、『彼女』の傍に居られることへの憧憬。それが下らない嫉妬であることも自覚していた。
 それから少しだけ、思考を切り替える。
 レイチェルは生前、自身の故郷の村では英雄だったと聞く。その名声を遺し死に、今の彼女のような立場に在れることには惹かれるものもあった。
 ――が、それはあくまで『死んでからの選択肢』。
 生きている内はしがらみがあり、それ以前に簡単に立場を変えられるほど自分は出来た人間ではない――。
 そんなことを考えながら、朔夜はその時を待った。
 そして、レーダーに四つの敵機反応が発生する。
「‥‥来ましたね」
 終夜・無月(ga3084)がそう告げる。
「――さて、他の班の為にも一刻も早く目の前の敵を打ち破る事としようか」
 榊兵衛(ga0388)の言葉。幾ら自分の周りが名だたる歴戦の勇者たちと言えど、感慨にふける暇もないのは当然理解していた。

 編隊との戦闘は緊急回避などひやっとした事態もありつつも、ほぼ一方的な展開となった。
 兵衛の忠勝、漸 王零(ga2930)の闇天雷がHWの攻撃をひきつけている間に、左右に展開した朔夜のノクスと無月の白皇が敵を挟み込む形からの連携で次々と強化小型HWを墜としていく。また二人だけの連携だけでなく、王零や兵衛も加えての連携――
 残された本星型に対しても、それは変わらない。違うのは流石に敵からの一撃の被害が強化小型の時のそれよりも大きかったことと、西南西同様敵の練力が尽きるまで撃墜を諦めざるを得なかったこと程度だった。
 
 戦闘の後、現状を把握する時間的余裕が僅かながらあった。
「此方には来ていないようだな」
 王零が呟く。レーダーにはレイチェルが搭乗している機体の反応はない。
「敵有人機が接近、応援を頼む」
 ――南南西のヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)から全機へ向けての無線連絡が入ったのは、正にその直後だった。

●南南西
「私の機体‥‥、受けに回ると脆い‥‥。だから――、お願い」
 敵の接近をレーダーが告げる中、瑞浪 時雨(ga5130)のそんな言葉が前衛を張る二人――ヴァレスと皇 流叶(gb6275)に向けられる。自機の強み、そして弱点を認識しているからこそ、彼女は自分がどう動くべきか理解していた。
「無茶はしない、‥‥それだけは互いに守るとしよう?」
 流叶は恋人であるヴァレスに言う。「勿論だ」――覚醒状態に入り冷静になっているヴァレスから返ってきた言葉は、短く簡潔なものだった。
 例によって戦闘の開始を告げるのは複数のプロトン砲の光だった。それらをやり過ごした後、ヴァレスはK−02を放つ。
 悪魔的ともいえる二百五十のミサイルに対し、迎撃という行動は実施するのがたった四機ではあまりに儚い。避けるかやり過ごすしかなく、どちらにせよ結果として生み出すのは動きの静止、陣形の乱れ。高所に居たHWは被害が少なかったようだが、それにしてもそこで生まれた隙を突かない手はない。
 まず狙うは真っ先に嵐を抜け出した最前衛のHW。
 リア・フローレンス(gb4312)がUK−10AAMを叩きこんだかと思えば、何とか体勢を立て直そうとしたところには、
「遅い‥‥切裂け皇騎‥‥!」
 流叶が接近している。ソードウィングで斬り裂かれた機体は爆発し、流叶はそのままようやく落ち着きを取り戻しかけていた別のHWにも接近する。
 盾役を買って出ている以上、仲間に――特にヴァレスに及ぶ被害を、少しでも抑える為に。
 果敢に敵陣に踏み込んでいった彼女の果たした役割は大きく、結果として強化小型HWを撃墜するまでの時間は三班の中で最も短かった。

 最後に残っていた本星型も攻略法は既に決まっている。兎に角強化FFによる練力消費を煽るべく、全力で攻撃を叩きこむ。敵の反撃も当然あったが、かわし、或いは防ぎ――リアに至ってはロックオンキャンセラーを発動させたりもし、やり過ごす。
 そうしていよいよ追い詰めたところで――突如新たな敵反応が生まれ、その次の刹那には彼方の空からプロトン砲が襲いかかった。
『流石にこれだけじゃ崩れてはくれないみたいね』
 言葉に反して愉悦交じりの声が通信越しに届く。ヴァレスはそれに聞く耳を持たず他の班に通信を入れた。
 時間稼ぎを行うことを察したか、レイチェルはつまらなそうに鼻を鳴らす。
『本命が他にいるってことかしら? それならそれで手はあるのだけど』
 言葉の後半、目に見えて声音に冷酷な色が交ざったのは新たな敵の襲来を察したからか。
 レイチェルは側面から接近する南西班に向け旋回すると、思わぬ攻撃に出た。
 無数のミサイルの雨――否、嵐。
 K−02に酷似した性能をもつそれは南西班に容赦なく襲いかかった。
 だが、南南西班も黙ってそれを見ていたわけではない。敵の本命が自分たちに横っ腹を向けている今が此方のリズムを掴むチャンスでもある。
 残っていた無人の方の本星型は、レイチェルの攻撃の矛先が再度此方に向く前に強化FFを維持出来なくなった。それを横目に、時雨はSESエンハンサーをオンにした状態でG放電装置を発射、狙い違わずレイチェル機の側面を襲いかかったそれに続いて、DR−2荷電粒子加速砲で畳みかける。
『‥‥舐めた真似を』
 流石に油断したことを後悔したか、強化FFを張って防御したレイチェルが忌々しげに呟いた。
 そこに――嵐を抜け出てきた南西班が、今度こそ合流する。
 それを告げたのは闇天雷が放ったM−12強化型帯電粒子加速砲の光だった。避ける間もなかったが故に強化FFを張るレイチェルが目にしていることを予測して、無月もM−12の砲首を上げる。が、撃たない。彼女に練力消費を促すためのフェイクにすぎなかった。
 レイチェルの攻勢。プロトン砲は流石にもう撃つつもりはないのか、放ってきたのは高分子レーザー砲にも似たレーザーだった。
 違うのは、一度に放たれた三本のレーザーの標的がそれぞれ異なるように設定できること。元々の本星型の性能もあり避けるのが難しいだけに、此方は八機いるとは言え、それを連打されては油断も隙も作れない。狙いが比較的南西班に集中したのは救いと言えば救いだが、代わりに無月は自身で設定したブーストの使用回数上限に到達してしまった。
 再度傭兵の攻勢へ。この段階で満身創痍だった無人の本星型は南南西班によって早々と撃墜され、南西班が編隊戦時と同様に、朔夜と無月の連携を中心にした攻撃をレイチェルに対し繰り出していく。どうにか強化FFを使うのを避けたいレイチェルは有人機ならではの機動でこれをかわそうとし、かわしきれぬ攻撃は防御するより被弾することを選んだ。
 後は強化FFを使わせればいいのだが――南西班の作戦にはある盲点があった。
 M−12の冷却が完了したタイミングで、無月と王零は再度件の砲首を本星型に向ける。今度は無月だけでなく王零の方もフェイクのつもりだった。
 ――が、
『残念だけど、そんなポーズに何度も騙されなきゃいけないほど単純でも遅くもないわ』
 二人がほぼ同じ行為で練力の消費を煽ろうとしたのが仇になった。加えて彼女がヨリシロとしている身体は元々能力者だった、つまり兵装自体についての知識もあったからかもしれない。
 砲首を上げたことで逆に隙を見せる格好になってしまった白皇と闇天雷だけを標的に、再度ミサイルの嵐が叩きこまれる。
 標的が減った分、一機当たりの被弾数が増す。まして元々最初のレイチェルの迎撃で四機中一番大きな被害を受けていた白皇はそれに耐えられず、墜ちていく。
「‥‥今です‥‥」
 だが、墜ちながらも無月は不敵にそう告げた。
 レイチェルは一つ見落としもしていたのである。
 ――傭兵たちは今まで居た八機だけではないということ。それを思い知らせるように、レイチェルにとっては全くノーマークだった方向からミサイルやらレーザーが一気に襲いかかる。威力の如何はともかくとして、これには今度こそ強化FFを発生させざるを得なかった。
「‥‥アンタに寄生したバグアは絶対に許さない――あの村の人達の為にも、ステラさんの為にも、英雄レイチェルの為にもな‥‥ッ!」
 合流した西南西班――琢磨はそんなことを言う。村とは生前のレイチェルが住んでいた場所のことで、ステラとは――この身体と瓜二つの姿を持ち、一時はレイチェルを騙った者。バグアは混乱から立ち直ると最初にそう記憶を掘り起こした。琢磨はその事情を知っているが故に、そこにも怒りを抱いていたのである。
 一機は墜ち、また闇天雷も流石に問題なく戦える状態ではなくなってしまったが、それにしたって十一対一であることに変わりはない。
 また、傭兵たちは既に敵の手の内をほぼ把握している――避けられることもあるにせよ、後は数の暴力で追いつめて追いつめて、強化FFを消耗させてしまえばいい。
 
「そんなに血の赤が好きなら、その心臓にナイフでも突き立てればいい‥‥」
 やがて狙い通りレイチェル機も強化FFを失い――最終的に決着をつけたのは、時雨だった。
「これが私の全力‥‥。自らの赤に溺れて沈め‥‥!」
 レイチェルに対しては最初にも見せた、エンハンサー付きでのDR−2。
 ただしそれに抗う術を、今のレイチェルは持ち合わせていなかった――粒子の光がHWの真中を貫き、爆発が起きる。
 このまま死ぬつもりではないだろう。そう見越した朔夜は声を上げた。
「此度は君の負けだ。大人しく引けよ、レイチェル・トールガー」
『くっ‥‥』
 レイチェルの苦渋の声が漏れた直後、HWから脱出艇が射出されたのが見えた。とはいえその小さな姿を攻撃で捉えることはできそうにもない。
 だからこそ朔夜は続けて声をかけた。
「――あぁ、それと。君の主によろしく伝えておいてくれ」
 そう言って、機体に描かれた紋章を、脱出艇に見せつける。
『‥‥っ』
 何かを言い掛けた荒い息は、結局変化を遂げることなく。

 ――次の刹那、脱出艇は煙を突き破り。
 その後もブーストを続け、瞬く間に彼方の空へ姿を消していった。

「――無事、約束を守れた、‥‥かな?」
「そうだな」
 流叶とヴァレスはそんなことを言う。
 その横で、時雨は口を開く。
 紡がれたのは、護り抜くことに成功したイタリアの歌曲。専門はドイツ歌曲だが、こんな時くらいいいだろう、と思う。

 ――穏やかかつ伸びやかな歌声が空に響く。
 その穏やかさがイタリアそのものの平穏となる予感を、傭兵たちは少なからず感じていた。