●リプレイ本文
「ゲソは俺だけかァァァ!?」
最寄りの軍港にて、這い寄る秩序(
ga4737)の雄叫びが海へと轟く。
そこから少し離れたところでは、
「ハーイ、貴方がいつも兵舎前で群れを求めている雄人君ね?
終わったらお茶にでも繰り出さない?」
藤田あやこ(
ga0204)が雄人に逆ナンをかけていたり、
「お互いビーストソウルで海に出るのは初めてだけど気合入れて頑張ろうね!」
今回の戦闘では雄人とペアを組むことになっているレミィ・バートン(
gb2575)がそう挨拶をしたりして――まぁ、きっとゲソは一人だけだ。
這い寄る秩序の叫びはなおも続く。
「機体性能の違いが、戦力の決定的差ではないことを教えてやる!
最終的に勝てば良いのだぁ。つまり‥‥皆仲良く段取り通りに、OK?」
OK。ちなみに今回の依頼参加者九人のうち、テンタクルス搭乗の彼を除く八人がビーストソウルだったりする。ちょっとだけ対抗意識っぽい台詞はそのせいだろう。
「魚を狙撃することは少ないから、いい経験になるわ」
一方、同じく海を見つめてそんなことを呟いた鬼非鬼 ふー(
gb3760)はそれから、雄人に絡んでいるあやこの背後に接近する。
こちらもペアを組む、というのが理由なのだが――別段打ち合わせ、というわけではない。
気配を消して極限まで近くに接近し、あやこの鼓動と呼吸のタイミングを把握する。
――が、接近したということはそれだけ自らの吐息も気づかれやすくなる。
というわけでふーは、
「ひゃっ」
「可愛いわね、貴女」
わざと耳に息を吹きかけて誤魔化した。
基地でのそんなやり取りは、
「帰って参りましたら、美味しい紅茶と珈琲を淹れさせて頂きますね」
鏡音・月海(
gb3956)が微笑をたたえながら告げたその一言で終わり――彼らは海へと潜る。
キメラが出没するとされる海域に接近。
――間もなく、レーダーに反応があった。
●赤い異物を撃ち落とせ
「うっわぁ‥‥」
その光景を目にした時にレミィの口から洩れた呟きである。
蒼の中では、真紅の個体は距離があっても浮かび上がる。
それが無数、もはや海中に出来た斑点といってもいいほどに存在する。それ故殊更に目立った。正直、ここまで来ると気持ち悪い。
――それは兎も角として、だ。
「テメェらがした事へのツケは払ってもらうぜッ!!」
被害に遭った船に乗っていた乗客のことを考え、怒りに震える天原大地(
gb5927)の叫びを合図に――戦闘、開始。
「撃って撃って撃ちまくって、減らして減らして減らしまくれ!」
這い寄る秩序が号令の如き叫びを上げた刹那、傭兵たちは一斉に武装を構える。
「いきますよ!」
真っ先に動いたのは、威龍(
ga3859)とクラーク・エアハルト(
ga4961)。
威龍の機体から射出された熱源感知型ホーミングミサイルが遠方の赤い斑点に向かい、狙い定めていたそのうちの一部に直撃、爆発が起こる。その余波を受けたかのように、その爆発を中心に更なる爆炎が広がった。クラークが放った対潜ミサイルの効果である。
魚雷とミサイルの嵐はまだ始まったばかりである――
「まだまだ行くぜッ!」
続けざまに雄人と大地、月海がそれぞれ対潜ミサイルを放ち。
レミィのDM5B4重量魚雷やら、あやこのスナイパーライフルD−06やら――海中に巻き起こる爆撃爆発の嵐はなかなか収まらない。這い寄る秩序とふーの熱源感知型ホーミングミサイルは嫌な意味でその特徴を出してしまい狙いとは違った的を当ててしまったが、そもそも敵はやたらめったに多い上にごく一部を除けば皆同じ個体。当ててしまえば何ら問題はないとも言えた。
その後も一気呵成、傭兵たちの遠距離攻撃は続く――が、少し嵐が収まったところで、
「――きたわね」
ふーがその様子を見て、尚も落ち着いた様子で呟く。
当然ながらキメラも黙ってはいないのだ。爆撃により流石に斑点の数は減ったが、まだまだなくなったというには程遠い数が存在する。
残ったキメラは接近を図り、その流れに押されまいと傭兵たちも距離を詰める。
戦局が変化しようとしていた。
●渦発生警報、発令
キメラとの距離を詰める間に、傭兵たちは陣形を固める――彼らが選んだ陣形は、二人一組、計四のペアを二列に配置し、その後方に残った一機を据えたものだった。
後方にいるのは這い寄る秩序、逆に最前衛にいるのは威龍とクラークのペア、雄人とレミィのペア。
(「どうやって戦うんだろ」)
実のところ、レミィは雄人の機体での戦いっぷりには興味津々だったりした。
ブルーファントムほど際立った存在ではないとは言え、傭兵の間で彼がちょっとした有名人であることには変わりないらしい。
傭兵たちに迫るにあたって、キメラたちは蛇のように細長い隊列で海を泳いできていた。
そのまま突っ込んでくるのか――と思いきや、傭兵たちの少し手前で二手に分かれた。
ちょうど、彼らの両脇を通り抜けるように――
「――そうはいくか!」
その意図を察知して最初に動いたのは威龍と雄人。ガウスガンのトリガーを引きっぱなしにしながらウツボの陣形を乱しにかかる。クラークとレミィも援護に続いた。
このままでは回り込まれる――即ち、囲まれる。
囲まれてしまうのはまずい。どのみち乱戦に持ち込むのが狙いとは言え、警戒すべきキメラの能力を発揮させてしまう可能性が大きく跳ね上がるからだ。
ガウスガンが数匹に命中しても、まだ蛇の列は終わらない。キメラの数は二十どころか百近くはいそうである。
「行かせるかよッ!」
声を荒げた雄人は列に突進したままガウスガンを収めると、代わりにレーザークローを構える。
斜め上から、列を断つように横断――ぶつかる瞬間に爪を立て、通過しようとしていたキメラを横殴りに引き裂く。
爆発が起こった時には雄人のビーストソウルはもう列の向こう側――そして同じように、また一匹爆発させながら戻ってくる。
「やるぅっ! 流石って所ね! でも――あたしだって!」
思いきった戦いを見せる雄人を見、レミィは対抗心を燃やす。
「デカブツが孤立しました!」
刹那、タイミング良く這い寄る秩序からの通信が入った。
雄人が二匹を撃破したことで生じた列の断片――そこにはちょうど、他のキメラよりひときわ大きいキメラが泳いでいたのだ。
勿論他にもキメラはいたが、
「三時の方向より敵接近、数は十、距離六よ」
「了解――いくわよ、コラボ攻撃。目には目を、群れには群れを!」
雄人とレミィのペアの後ろにいたあやことふーのペアがそれら全てを相手にしていた。
あやこはガウスガンを放ちながらも、挟撃を予防すべくいつでも余ったスナイパーライフルを放つ準備が出来ていたし、その背後で援護する形をとっているふーはスナイパーライフルの引き金を引くたびに精度を上げるためにエイムを修正している。
加えて通信の際にあやこと呼吸を合わせるようにもしていたために、二人での攻撃であるにも関わらずさながら波状攻撃の様相を見せていた。囲いこむことをやめ傭兵たちに真っ向からぶつかろうとし、数では圧倒的に有利であるにも関わらず、キメラは思うように彼女たちに接近出来ない。それでも最終的には接近を許したが――その頃には数も減り、被害も最小限に留めることに成功した。
そうやってひきつけている間に、這い寄る秩序の言うところの『デカブツ』は孤立――レミィはそれをめがけて動き出す。
列のもう一方はといえば――
「この水中での味方へなかなか辿り着く事さえ出来ないもどかしさは――戦闘以上に神経を磨り減らすぜ」
威龍が苦虫を噛潰したような表情で呟く。
こちらの列の『デカブツ』はかなり早い段階――それこそ雄人と威龍が動き出す前――で通過したのだが、どうやら此方側はそいつを中心に戦闘を展開するつもりらしく、ちょうどデカブツが射程圏内に入っていた大地と月海のペアの方に大勢固まっていったのだ。
威龍、クラークのペアと挟まれた二人を阻むその様は赤い壁。威龍たちは外側から崩そうとガウスガンやレーザークローで攻撃を加え続けて、やっと二機の姿が見えるようになってきた。
だが――苦戦する二機を援護しようとするあまり、二人は失念していた。
自分たちもその苦戦に巻き込まれる可能性があることを。
「大丈夫ですか?」
「何とかな‥‥ッ」
壁の中に挟まれる格好になった月海と大地。
もちろん無抵抗などではない。ガウスガンなどで迫りくる敵の応戦はしているし、仮に至近距離にまで接近されようものなら、
「力比べといこうぜっ!」
サーベイジで威力が強化されたレーザークローが猛威を振るっている。
だが、やはりいかんせん敵の数が多い。他に気をまわしている余裕などは到底――
「‥‥?」
月海は違和感を抱いた。
こんなに数の圧力があろうものなら、もっと追い込まれていてもいいはずだ。
そう考えて、気付く。
少し遠く――壁の向こうに引き離されていた威龍とクラークのペアの姿が最初よりもはっきりと見えてきたこと。
それと同時に、彼らの背後にキメラたちが不自然に集まり始めていたこと。
デカブツはまだ、自分たちに近いというのに。
「いけません――」
「開けたッ!」
一瞬遅れて大地もその異変に気がついた。遮る敵を引き裂いて叫ぶ。
「後ろ気をつけ――ッ」
ろ、とまで言いかけた刹那、
「グラビトンッ! アンカァァ――!!」
レミィの熱い叫びが響き、直後にそれまでより一際大きな悲鳴が轟いた。
一瞬その場にいる誰もが――キメラまでもが動きを止め、悲鳴が起こった方を見る。
雄人とレミィ、ふーとあやこ――四機がかりで、デカブツのうちの一匹を落としていた。
「――今がチャンスです!」
真っ先に我に帰ったのは這い寄る秩序。
もう一匹のデカブツの位置を慎重に狙い定めていた彼はここぞとばかりにホールディングミサイルを叩き込む!
また、デカブツを叩き落とした四人も威龍たちの背後で集まりつつあったキメラに気づき、応戦に向かう。更にそれにより当の二人も気づき、応戦。
最後にはそれまで月海、大地、這い寄る秩序の三人で時間を稼いでいたデカブツを、全員で殲滅した――。
●それから
「やはりビーストソウルの格は違った! 水中運動性の違いでゲソとこうも差が出るとは――ドローム社は早くゲソのアップデートをしないと七つの海はMSI社の物になってしまう!!」
海上に戻った這い寄る秩序の叫びは何だか嘆きめいていた。どうでもいいがゲソのアップデートというと妙に生モノっぽい気がしないでもない。
それはともあれお疲れ様。
互い違いに労う最中、他の依頼でも雄人にかかわりがあったクラークは彼に問う。
「早川さんって小隊に所属してませんよね?」
よかったらうちの小隊に来ないか――その提案に雄人は、
「考えとく」
そう答えた。
静かになった海。
その奥に蠢く闇はもう――ない。