●リプレイ本文
●誰が為に拳を握る?
「あなたが幸せなら、私はそれが一番嬉しい」
――だからこそナレイン・フェルド(
ga0506)は今、友の前に立ちふさがる。
鬼道・麗那(
gb1939)ことレイナは、普段はごく普通の少女だけれど――ひとたび悪が現れれば、聖なる衣『猫』の鎧を身に纏いそれを滅すために戦う美少女聖戦士である。
そんな彼女にだって、聖戦士の使命抜きにして護りたい、と思うものはある。
たとえば、平穏な日々。
たとえば――破魔矢に貫かれてしまった、友達以上恋人未満という微妙な間柄の青年。
青年――雄人のことだが――を救う方法はただ一つ。
日付が変わるまでに、十二支の迷宮の最上階にいる大僧正を倒すこと。
その十二支宮の一つ――猛虎神社に赴いたレイナの前に立ちはだかったのは、大切な友人であるナレインだった。
「今のあなたにかなう相手じゃないわ‥‥命を無駄にするつもり?」
ナレインはあえて、冷たい視線を投げる。
引きとめようとしている。それは分かる。
でも――。
「それでも、行かないわけにはいかないの」
だから。
「私に勝てなきゃ、神社に向かうのを諦めてもらうわ!」
全力をもって、拳を交える。
――実力は拮抗。
けれど戦いの最中、護りたいものを想うレイナの力が、硬い殻を破って――。
「ええ、それでいい‥‥今のあなたなら‥‥心配する事は、もう何もない」
戦いに敗れ膝をつきながらも、ナレインはそう言って微笑んだ。
■
改めて、レイナは神社へ向かう――。
『敵』――神社を護る屈強かつ高潔な聖戦士が待っていたのは、神社の境内にある大広間だった。
静まりかえった空気――それを切り裂き、レイナは猛然と駆けだす。
――が。
「かはっ」
敵が繰り出した光速の拳の連打を避けることが出来ず、広間の壁まで吹っ飛ばされる。
予想以上の力の差。
一度膝をついたレイナだったが――その視線は、前へ。
「貴様は確かに強い――しかし私は負ける訳にはいかない!」
起きあがり、再び駆けだす。
だが、先ほどのナレインとの戦いの消耗もあって、レイナの傷は決して浅いものではない。
次の一撃を貰ったら終わる。
そう分かっていた、拳が――
レイナに直撃する前に、横から影が飛び出した。
「ナレイン!?」
自分を突き飛ばし、代わりにダメージを負った友の名を叫ぶ。
先ほどの自分同様吹っ飛ばされたナレインに駆けより、倒れ伏した身体を抱き起こす。
「友よ‥‥アナタはそんなカラダになっても私を護ろうというのね」
「当たり前じゃない‥‥」
ナレインは息も絶え絶えながら、告げる。
「いつまでも、私はあなたを支えるから‥‥」
――何かのため、誰かのために戦う、あなたを。
そう言って気を失ったナレインを安全な場所に残し、レイナは再び敵と対峙する。
ただ――先ほどまでとは一つ、大きく違う点がある。
「――例え私が屍になろうとも、友が必ずや志を紡いでくれる」
ナレインが最後に告げた言葉――それは、レイナにあるものを気づかせていた。
全てを思いやる気持ち。
そしてそれは勿論、大切な友人にも――否、大切だからこそ、友情という言葉だけでは片づけられない。
「友情を超えた友情、それは愛‥‥」
曇りなき気持ち――明鏡止水。
それに目覚め、呟いたレイナの身体を眩い光が包み込み――おさまった後、彼女の姿は黄金の獅子を思わせるものになっていた。
数瞬後――紅蓮の炎を纏ったレイナの拳が、敵の胴体を貫き。
「ナレイン‥‥」
気を失ったまま――それでも穏やかな眠りに入ったナレインを、レイナはそっと抱き締めた。
■
「静かに熱いな‥‥」
雄人は呟く。
コンソールをテキトーに操作していたらそうなっただけなのだが。
割とそれっぽいものになったらしく、被弾することなく『友情』のゲージにはエネルギーが蓄積し――敵を一掃する一撃が放たれた。
そして、次の画面へ。
「‥‥は? 俺?」
雄人は口を開閉させる。
さっき出たのは名前だけだったから、まさか画面内に自分が出てくることになるとは思わなかった。
●プリン争奪戦
――と書かれた看板の下に、雄人と二人の女性は立っている。
ちなみにセンターポジションは雄人であり、女性たちは彼を挟んで火花を散らしながら――料理を作っていた。
いや、片方――お嬢様然とした方は、まだちゃんと肉じゃがを『料理』している。ちなみに現実世界で言うところの大槻 大慈(
gb2013)であり、今そこにいる女性としての名を慈(めぐみ)といった。
問題はもう片方。
上からボン、キュッ、ボンのないすぼでーなねーちゃんが、鍋に物凄い食い合わせの悪そうな食材をぶち込みまくっている。ちなみにこのねーちゃん、現実世界で言うところの美空(
gb1906)である。
うなぎ、豚肉、そして何故か栄養ドリンクが出汁。とりあえず精力がつけばいいらしい。
「ガサツな美空さんに、プリンさまを満足させるようなお料理が作れるのかしら? お〜っほっほっほ♪」
「材料が高ければいいってもんじゃないよ、なんたってあたしのには愛情が入っているんだから〜」
慈の挑発めいた言葉に、喧嘩を売り返すが如く挑戦的な態度で返す美空。
そして二人は雄人を挟んで火花を散らす。と思いきや、美空が慈の食材を奪って自分の鍋にぶち込み始めたものだからあーだこーだと言い争いが始まる。
二人の雄人は勿論呆然。
プリンさま、とは勿論この場合雄人のことだろう。何でプリンなのか現実の本人はまったく心当たりがないが――そんなことより、もっと気になることがある。
画面内の雄人が美空の鍋に、なんか壮絶なものを見る表情を浮かべていたことだ。
食えないことはないだろうが‥‥。
――と言いたげに。
多分画面を見つめる自分もそんな顔をしているだろうなと他人事のように雄人は思う。まぁ、他人事といえば他人事だけれど。
――ともあれ、料理終了。
いきなり始まっていたから分からなかったが、どうやら味で勝負ということらしい。
二人それぞれの料理を食す雄人。――現実に食さなくとも、バーチャル雄人の表情を見るだけで勝負の行方は明白だった。
――黙って、慈の片腕を上げる雄人。
「まぁ、美空さんはお料理も出来ないのですね、お〜っほっほ〜♪」
「くっそー、次だ次!」
叫んだその瞬間に、画面内の景色が――湯けむりに包まれた温泉へと変わった。
温泉に浸かりながら、一人佇むバーチャル雄人。
「まさか‥‥」
「プリンさまぁ、お背中をお流し致しましょうかぁ?」
そのまさかだった。
湯けむりの向こうから、湯浴み着を纏った慈が現れる。
――と思ったら、今の今まで気づかなかった先客がいた。
「こーんながりがりより、プリンは豊満なほうがいいんだよなー?」
もちろん美空である。
先に湯船に浸かっていたので湯をかき分け、雄人に抱きつく。
――覚醒しなければ割と冷静な雄人だって、十七歳である。
ボン、な胸を押し当てられては、のぼせてなくても顔が紅潮するのも無理はない。
「美空さんっ! そんなはしたない格好ではプリンさまに嫌われますわよっ!!」
「なんだぁ、だったらそのがりがりボディでプリンを誘惑してみろよー」
癇癪を起こす慈に対し、余裕を見せた笑みを浮かべる美空。
「うぅぅ、かくなる上はーっ」
とか言って一度温泉から離れた慈は、割とすぐに戻ってきた。
――裸の上にAU−KVを纏って。
なんというか――写真などでも滅多に見られない分、えっちい。
「おー、そうこなくっちゃなー!」
その姿を見た美空も美空で、勢いよく湯船から上がって姿を消し――やっぱりAU−KVを着て戻ってきた。
そして二人は――
「プリンさまのために負けるものですかっ」
「それはこっちも同じだ!」
――当のプリンさまをそっちのけで、湯の中でエキサイトするのだった。
■
「――なんつーか、ここまで争われるほどモテるのもなぁ‥‥」
現実の自分には、まぁない話だとは思うが――それでも雄人は何となく頭が痛くなった。
ところで「ここまで」と言わしめるほどの火花バチバチっぷりは、当然『恋敵』の赤いエネルギーをぐんぐん漲らせ――砲撃、発射。
ここまで二撃で大方の敵は粉砕したけれど、それほどの威力をもってしても
『ふはははッ、どうしたそれで終いかッ!』
――ボスは元気だった。
「あと一つか‥‥」
なんとなーく嫌な予感を感じつつ、雄人はコンソールを叩いた。
●四角関係の行く末
「お嬢様、私は貴女に仕えることが最大の喜びなのです」
夜十字・信人(
ga8235)――否、この世界においては信子ことエリザベスの言う至上の喜びは、お嬢様――どうやら良家のお嬢様という設定らしいアスナのもとでメイドとして働くことにある。
けれど最近、その喜びを邪魔する者が現れた。
「アスナさーん、遊びにきたよー♪」
勝手知ったるわが家とばかりに屋敷に度々訪れる、アスナの学友こと崔 美鈴(
gb3983)である。
「きぃー!! お嬢様とベタベタくっついて! わたしだって立場と言うものが無ければ‥‥!」
テラスで談笑するアスナと美鈴を茂みから見つめ、ハンカチをぎりぎりと噛むエリザベス。
「あの娘‥‥! お嬢様が好む下着の色も知らない分際で‥‥分際で‥‥!」
ぎりぎりぎりぎり。
そんな効果音など知る由もない二人は、テラスで何やら顔を近づけて内密な話をしているようだ。
その様子が、より美鈴に対する妬ましさを生む。
「お嬢様、私と言うものがありながらー!」
ぶっちん。布地が切れた。
時間は少し過ぎ、エリザベスはご近所の幼馴染兼弟分(という設定)の雄人を引き連れて美鈴の前に現れた。
「崔様、お嬢様のご学友とは言え、あまりにもベタベタしすぎではございませんか!? ‥‥ねえ! 雄人、貴方もそう思うでしょう!?」
「そこで何で俺に振る!?」
唐突に話を振られた雄人は当然ながら困った。が、まぁエリザベスの言わんとすることが納得できないわけでもないので、しぶしぶといった様子で肯く。
美鈴はその様子を一瞬悲しそうに見、すぐに鋭い視線をエリザベスに向けた後――唐突に二人に背を向ける。
勝った――エリザベスはそう思ったが、違った。
「あっすなさーん。一緒にお昼食べましょー♪」
「ええ、いいわよ」
少し離れた場所でのんびり読書を楽しんでいたアスナは、その誘いに満面の笑みで肯いた。
それから美鈴はエリザベスや雄人の視線も気にせず――いやむしろ、逆に見せびらかすかのように、アスナと歩き去って行った。
「うえーん! 雄人ぉ! ちょっと私を慰めつつ、パン買って来て〜」
「相変わらず滅茶苦茶な‥‥」
とか言いつつ、ひとっ走りする雄人。
ご近所の幼馴染兼弟分としては、何となく逆らえないのである。
けれど――。
「あの女‥‥雄人さんに色目を遣うなんて‥‥百と一年早いのよっ!!」
アスナとともに昼食を食べ、別れた後――美鈴は一人、怒りに燃える。
美鈴も美鈴で、エリザベスの知らないところ――電柱の陰から、エリザベスと雄人の様子を見ていたりするのだ。半端に一年ついている理由は彼女にしか分からないだろう。
彼女は手にしていた藁人形を地面に放り捨て、これでもかというくらいに踏みつける。何度も。何度も。何度も何度も何度も!
息を切らすほどに踏みつけある種の快感を味わった後、美鈴の頭のてっぺんで豆電球が閃いた。
「――雄人さんに相応しいのは私なの。思い知らせてやる!!」
「アスナさーん♪ 遊びましょ?」
「きゃっ!?」
ある日アスナが屋敷の外へ散歩に出たタイミングで、草むらの陰から現れた美鈴はそう言ってアスナに抱きついた。
アスナの色々なところを触る美鈴の手の動きの如何わしさときたら、まさにセクハラ親父のそれだ。
表情もにやけたものだったけれど――笑みの向く先はアスナの首筋ではなくエリザベスだったりする。
エリザベスは目の前にアスナがいる手前だからか何かを懸命に堪えた様子で、
「おやめください! お嬢様が困ってらっしゃるではありませんか!」
何とか抗弁してくるものの――
「使用人の分際でお嬢様の交友関係に口出しなんて、一億と二十五年早いのよっ!」
美鈴の口からはすぐに反撃が出来た。またしても半端に二十五年ついている理由はやっぱり彼女にしか分からない。
美鈴優勢。その証拠に彼女の笑みは崩れるどころか、長身のエリザベスを見下すような悪めいたものになり――。
「あ、雄人さんと金輪際口きかないっていうなら、考えてあげてもいいけど!」
「なっ‥‥!」
これだ。これが言いたかったのだ。
抗弁を一瞬躊躇ったエリザベスを見て、美鈴の気分はスカッと爽快。そのままますますエリザベスを追い込むべく、抱きついたままのアスナを強引に草むらの陰に連れ込んだ。
「まずはいちまーい♪」
美鈴のそんな楽しげな声とともに――草むらの影からつい先ほどまでアスナがコートの下に着ていたセーターが投げ出され、エリザベスの目の前に乾いた音を立てて落ちる。
「にまーい♪ アスナさん、今日は厚着だねー」
もう一枚、今度は厚手のブラウスがぱさり。
エリザベスは今朝のことを思い出す。確か今日アスナは下にもう一枚薄手のシャツを着ていて、そしてその下は――。
「ほらほら、お嬢様がトンでもないことになっちゃってるよ? いいのかなぁ?」
「ダメ――!」
何故なら美鈴にアスナの下着の色を知られてしまうから。叫びながら草むらに走り寄るエリザベス。
だけど時はちょっとだけ遅かった。
草むらに飛び込んだエリザベスの顔にちょうどよく、投げられた薄手の布地が被さる。
「あっ‥‥やっ‥‥」
空の下、茂みの中とはいえ一応野外で下着姿を晒し――恥ずかしがるアスナの声は、妙にエロティックだった。
ここから先は音声のみでお楽しみください。
「おやめください!」
「だーからー、雄人さんと口をきかないって言わないんなら聞かないってばー」
ふぁさ。
「あ‥‥」
「お、お嬢様、お嬢様、しっかりなさってください!」
もみもみ。
「アスナさんはまだ発育盛り、と♪」
「崔様、貴女という人はぁぁぁぁぁ――――ッ!」
■
絶叫するエリザベスの嫉妬パワーが一気に黒ゲージを極限まで高め、エネルギーがバグアっぽい敵に向け放出される――。
「‥‥うわあ」
木端微塵になる敵。それを見つめながら、雄人は頭を抱えた。
「なんかいろいろ間違ってないかこのゲーム‥‥」
ともあれ、プレイ終了。
頭を抱えながらポッドから出た雄人は――驚くべき光景を目の当たりにすることになる。
「雄人さんの為に頑張っちゃった☆ 褒めてくれる? 褒めてくれるよね!?」
尾けていたのだろうか――ポッドの前には美鈴が立っていたのである。
「そういうのはゲームの中だけにしてくれよっ!?」
数分後、街を逃げ回る雄人の姿がそこにはあったという。