タイトル:【VL】限定未来の悪循環マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/29 22:07

●オープニング本文


 早川雄人はラスト・ホープ内にある病院を訪ねていた。
 というのも――先月請けた依頼を斡旋したオペレーターに、あることを教えられたからだ。

 あの時キメラ研究施設から救出した少女。
 依頼完遂の報告時に本部に預けた彼女が、今その病院で入院生活を送っているというのだ。

 診察の結果肋骨など数か所の骨が折れていることは分かったが、命に別状はないらしい。
 収容されてから早い段階で目を覚ました彼女は――今自分がラスト・ホープにいることを教えられ理解し、リハビリに励んでいるという。
 エミタ適性があるというのはウソではないらしく、退院し次第彼女もまた能力者としての道を歩むつもりだとまでは聞いた。

 ただ――彼女はまだ、自分がラスト・ホープに来るまでいた場所で何が行われていたかを知らない。
 能力者になれば、いずれ知る日が来ることになるかもしれない。
 否、それ以前に――先にあの孤児院からエミタ適性を見出された子供がいたとするならば。
 その子供のことを彼女が知っていたとするならば――。

 どうするべきか。彼女は、真実を知るべきなのだろうか。
 知るとして、それは雄人を含めた誰かの口から教えられるべきなのか。
 それとも唐突に現実を知ってしまうことが来るのを待つべきなのか。
 迷う思考とは裏腹に、雄人の足は「とりあえず一度会っておこう」と勝手にここまで動いていた。

「‥‥ここか」
 雄人は一般病棟のある部屋の前で足を止める。
 その部屋――個人用の病室の扉には『アメリー・レオナール』という名が書かれた札が掛かっていた。
「‥‥‥‥」
 横開きの扉の取っ手に手をかけた雄人だが――ここにきて、躊躇は更に大きくなった。
 今会って、彼女に何を言えばいいのだろう。
 そもそも彼女は病院に収容されるまで殆どの時間眠っていたから、自分の顔を分かっているかどうかも怪しい。
 分からせたら、逆に彼女の疑問と不安を煽らせてしまうのではないか――。

 ――雄人は、取っ手から手を離し。
 答えの出せない自分に感じた苛立ちを足取りで表現しながら、病院を去った。

 そしてUPC本部を訪れた彼の眼に飛び込んだのは――。

 ■

「今回もまた、君達にはキメラ研究施設の機能停止にあたってもらう」
 以前にも顔を合わせたオペレーターはそう話を切り出す。
 彼の手元や事務机には無数の資料がある――先月、例の組織の施設を機能停止に追いやった際に回収したものだ。
「幸か不幸か――事情は前とあまり変わりない。
 強いて言うなら研究施設は孤児院から離れた所にあることと、周辺地域の被害も散発的なものだということは救いともいえるかもしれないな。
 ――あと、この施設そのものではキメラの培養は行っていないらしい。あくまで、『いかに凶悪なキメラを生みだすか』ということを目的とした施設だ。
 同時に、既に存在するキメラを強化する研究も行っているようだがね」
 それが指し示すのは、二つのこと。
 ひとつは、前回に比べると数は兎も角個体の強さは増している可能性があること。
 もう一つは――そこには、まだキメラになっていない子供はいないということ。
「まあ、さっきも言ったとおりやることは前回と同じ。
 それ以上のこと――たとえば大っぴらに施設そのものを破壊したら、当の組織じゃなくても何事かと思うだろうからむしろやらない方がいいだろう。
 ――それ以上ではないが、それ以下ではあるかもな。子供がいないんだから。‥‥そういえば、例の子供にはあれから会ったかい?」
 と、オペレーターの視線が雄人に向く。雄人は苦い表情で首を横に振った。
「‥‥会いに行こうとはしたけど、会えなかった。
 というか、会ったところで何て言えばいいか分からなかった。あっちは俺たちの顔をちゃんと覚えてるかも怪しいしな」
「――そんなことだろうとは思ったが」
 オペレーターもやれやれ、とばかりに首を横に振ってから、尋ねる。

「なら、こっちで機会を作っておこうか?」

「‥‥どういうことだ?」
「君たちが自分をラスト・ホープに連れてきたということを、彼女に――アメリー・レオナールに話しておくんだ。
 そうすれば今回の任務が終わった後にでも、彼女に会う理由は作れるだろうさ。
 ――もっとも、無理にとは言わない。君たちがまだ会うべきでも、真実を告げるべきでもないと判断するならそれでもいい。
 ただ会うということも、選択肢の一つとしてあることを覚えておいてくれ」

 淡々としたオペレーターの説明が終わり。
(「どうすればいいんだ‥‥」)
 任務そのものよりもアメリーのことを思い、雄人はただ苦渋の表情を浮かべることしかできなかった。

●参加者一覧

クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
ルイス・ウェイン(ga6973
18歳・♂・PN
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
マリオン・コーダンテ(ga8411
17歳・♀・GD
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
ルーシー・クリムゾン(gb1439
18歳・♀・SN
御巫 ハル(gb2178
23歳・♀・SN

●リプレイ本文

●澄んでいた筈の青き空
 アメリー・レオナールの病室に五人の能力者が訪れることになっていたのは、青の絵具を薄く溶いたような色の空が見える日だった。

 数日前に看護師を通じて来訪予定を知らされた時、アメリーはただ純粋に嬉しかった。
 実のところ彼女には、ラスト・ホープに向かうべく孤児院の職員と移動艇に乗り込んでからの記憶がほとんどない。
 職員の姿もないので不思議に思って問うと、何でも移動艇の中でアメリーが眠ってしまってから事故があり――移動艇は太平洋上に墜落。
 その後怪我を負ったアメリーだけを、能力者たちが救助に成功したらしい。

 事故にあった皆が無事であればいいと願っている。
 けれど同時に、ここに至るまでに唯一ぼんやり残っている記憶が彼女に疑問を与えるのだ。

 薄暗い部屋の中、穏やかな様子で自分に話しかける女性の声――。
 あの声は誰だったのだろう。自分を救助してくれた人なのか。

 そんなことを考えた時、病室の扉がノックされ。
 どうぞ、と彼女にいつも付き添ってくれている看護師が促すと、ゆっくりと扉を開いて『彼ら』は病室に入ってきた。

 ■

「初めまして、アメリー。自分はクラークと言います」
 病室を訪れた能力者たちのうち、まずそう自分の名を告げたクラーク・エアハルト(ga4961)は――持参していたものを、アメリーに差し出す。
「これは君へのプレゼントなんだけど、良ければ貰ってくれるかな?」
 それ――こねこのぬいぐるみを見て、アメリーは表情を輝かせながら肯き、受けとっては抱きしめる。
「あの‥‥これも、あげる」
 続いてややたどたどしい口調でリオン=ヴァルツァー(ga8388)が差し出した子ライオンのぬいぐるみも、アメリーは喜んで受け取る。
 同じように、
「これもどうぞ」
 ルーシー・クリムゾン(gb1439)が言葉少なにロシアンティーと手製のクッキーを差し出すと、アメリーは少し驚いたような表情を浮かべた。
「‥‥どうしたの?」
「もしかして、前にわたしに話しかけた人‥‥?」
 今度はルーシーが驚く番だった。
 アメリー自身も自信がなさそうではあったが、あの時自分が声をかけたことをこの少女は覚えていたのだ。ルーシーは少しの間をおいてから、小さく肯く。
「さってと‥‥いいですよね?」
 空閑 ハバキ(ga5172)が、そう看護師に確認を取る。
 看護師は彼らがここに来た理由を知っている。やや神妙な様子で首を縦に振った。
 それを見、秘色(ga8202)は――能力者たちにとっては最初から決めていたことを、提案する。
「さて――早速じゃが、少し外で話をせんか?
 他の仲間も庭で待っているものでの」

●陰惨たる深淵に鉄槌を
 遡ること、二日前――ヨーロッパのある街からやや離れた地点に、十一人の能力者の姿はあった。

 標的である施設の入口を目の前にしたところで、能力者たちは一度足を止める。
「ド外道共め‥‥。子供をキメラにするには飽き足らずさらには改造だと‥‥?
 くそ――人の命をなんだと思ってやがる‥‥」
 ルイス・ウェイン(ga6973)は、再度沸き立つ怒りに拳を震わせる。
「ここのキメラももしかしたら‥‥って、事だよな」
 想像すると、一気に煙草が不味くなった。
 ハバキは吸っていた煙草を放り捨て――気分通り不快そうに、力強く火を踏み消す。
「――胸糞悪ぃ話だぜ」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)は、親友であるハバキのそんな様子を見ながら毒づく。
 踏み潰される存在というのは――結局いつも、その時一番力のない存在だ。
 それを踏み潰さんとしようとする残虐性には、人間だのバグアだのという差は存在しない。それが無性に苛立たしかった。
「正義と邪悪――今まで二つは主観的な価値観であって区別できないものだと思っていたんだがな。絶対悪は存在するのか‥‥」
 日本酒を飲むのが任務前のルーチンワーク。今回もまたそれを行いながら、御巫 ハル(gb2178)は呟く。
「ならば――『悪は滅びろ』」

 ■

 突入開始――。
 能力者たちは入口のある右下の部屋から、まずは左に進路を取ることにした。
「この組織は一体いくつこのような施設を持っているのでしょうか‥‥」
 神無月 るな(ga9580)はそこまで言ったところで、覚醒を済ませる。
「――全部壊してあげる!」
 高らかに叫ぶ。他の能力者たちも同様に覚醒を行い――駆けだした。

 最初の扉を開け、ないも同然の長さである通路を抜けて次の扉を開く――。
 ――行きついた部屋には、無数のキメラが放し飼いにされていた。
 縦横それぞれ数十メートルはあろうかという広い部屋であるにも関わらず、次の部屋まで何者の影響も受けずに抜けることは不可能だろうということが容易に理解できるほどの数。
 それならば、路は作るまで。
 リオンとハバキが盾を構えつつ先頭に立ち、そのすぐ後ろをマリオン・コーダンテ(ga8411)、るな、ルーシーが続く。
 奥にある次の扉へとまっすぐ向かおうとする五人の前に、当然キメラが群がろうとした。
 それに対し、
「先は任せたぞえ」
 秘色が手にした銃をフルオートにすることで足止めを図る。またアンドレアスが先行班の面々それぞれに練成強化をかけたことで、突っ切ろうとする彼ら自身の破壊力も増した。
 一方、ふと体勢を崩したマリオンに、熊型キメラが剛腕を振るう――。しかし、
「残念でした♪ これはフェイクよ」
 彼女はそれをひらりと避ける。
 そのおかげもあり隙だらけになったキメラの脇にはリオンの姿があり――彼が盾を前に構えて突進すると、吹っ飛ばしたキメラの向こう側に次の扉が見えた。
「――っし、次行こうか!」
 少し離れた場所では、同じようにハバキを先頭にしてルーシーとるなもキメラの軍勢を突っ切っていた。
 五人が次の扉の向こうへ姿を消したのを見届け――残った者たちは、その場の全てのキメラの掃討を開始した。
 研究によって生み出されたばかりの、知恵も何もない烏合の衆――。手練の多い掃討班にとっては、敵ではない。
「此れ以上の悪夢は見るでない‥‥」
 秘色がそう言って蛍火で斬り捨て、
「――til himmel」
 アンドレアスはせめてもの手向けの言葉とともに、超機械の電磁波を浴びせ。

 彼らが立ち去った後の部屋に残るのは、ただキメラの残骸ばかりだった。

 そんなことを数度繰り返し、地下二階へ降りる階段のロックの解除も完了する。
 二階に降りるにあたり、今度は先行班もあまり前に出ず掃討班と共闘の態勢を取った。

 地下一階にいたものとは違い、二階の敵はまさに合成獣――キメラの名の由縁そのものといえる存在だった。
 虎の胴体、その背中から無数の針を伸ばした獣。
 尻尾が存在せず、無数の蛇が合体した――にも関わらずその意思は集合しているように見えるモノ、など。
 どれが研究成果として成功なのか。失敗なのか。
 そんなことはどうでもいい。それ以前に許されざる行為であるのだから。
 一階で多少深手を負わされた者もいるが――それでも今度は十一人全員での戦い。
 知恵を持ち連携という能力を誇る能力者たちが、少しずつ確実に戦況を覆していくことは、決して難しいことではなかった。

 研究者たちにとっては、最奥の部屋に来る部外者の存在自体が誤算だったろう。
 護衛として裏で雇った能力者をつけてはいたが、数も能力も、機能停止を目的にここを訪れた能力者たちの方が上。
 ほとんど時間をかけずに、護衛を戦闘不能に追い込むことに成功した。

 施設の破壊とデータの収集は、前回同様徹底的に。
 今度は研究者を逃がすこともせず――臆病だった一人の研究者を、捕縛することに成功した。
 相手が臆病だろうと、
「殺されないだけ、マシだと思う事だ。どんな目に遭うかは知らないがね?」
 クラークがそんな殺伐とした言葉を放つのも当然の話である。

「俺たちは、あといくつこんな施設をつぶせばいいんだ‥‥?
 いくつ潰したら――二度とこんな目に会う子供たちを出さずにすむ‥‥?」
 施設を出た後に呟かれたルイスの言葉に、答えられる者はいない。
 ただし、今回はその手がかりは得た――これからがその答えを導き出し、実行する本番と言えた。

●涙は空を滲ませて
 病室にて。
 秘色の言葉に、アメリーはにこやかに肯いた。

 まだ足の調子が良くないアメリーはハバキにおんぶをしてもらうことになった。
 それを望んだアメリー自身にとって深い意味はあまりないのだろう――あるとしたら、孤児だけに人の温もりに焦がれていたか。
 むしろそうあってくれて助かった、ともいえる。
 これから彼女が直面するであろう事実に立ち向かうには、温もりくらいなければ――。
 ハバキだけでなく、その場にいた全員がそれを理解している。
 だから外へ向かう最中にも世間話でアメリーをまずは和ませようとする。
 彼女は事前に聞いていた通り明るく、人見知りもあまりしない性格のようで受け答えもしっかりとしていた。――ただ、
「早く友達に会いたい」
 ――その何気ない言葉だけは、能力者たちの心に暗い影を落としたが。

 病院の中庭には、他の能力者たちが待っていた。
 ハバキの背中にいる少女の姿を見つけたアンドレアスは彼女の頭を優しく撫で、またルイスは持参したレインボーローズを見舞いの品としてプレゼントする。
 それからそれぞれ、芝生の上に座る。広げたシートの上にはルーシーが持ってきた紅茶とお茶菓子があった。
 中心――誰の目にもつきやすいところにいるのは、もちろんアメリーである。そのすぐ傍にはハバキとリオンがいた。

 そして――覚悟はしていたものの、やはり切り出しにくい。

 誰もが自ずと口を閉ざしてしまった空気の重さを、流石に何も知らないアメリーも疑問に思ったようだった。
「? どうしたの?」
「唐突にこんなことを言うのもあれだが‥‥これから俺達が話すことを、ちゃんと聞いてくれよ」
 真剣な表情で切り出すハルに、アメリーは首を傾げる。
 ハルは、ゆっくりと口を開いた。

「――お前たちは皆、騙されていたんだ」

「‥‥え?」
 意味が分からず、アメリーは怪訝な表情を浮かべる。
 それもそうだろう。そもそも『皆』というのが誰のことを指しているのかも、すぐには理解し難い状態である。
 だから。
「アメリーは、エミタの適性がある、と言われたからここに来ようとしたんですよね?」
「うん」
 順を追って、話さなければならない。
 クラークの問いに、表情は変えずにアメリーは首肯する。
「もしかして、適性は‥‥」
「違います、そうじゃない。君には適性はある。ただ――」
 クラークは少しだけ逡巡してから、それを告げる。

「‥‥彼ら――世界中で君のような孤児を育てていた孤児院の人間たちは。
 エミタ適性のある孤児を、能力者ではなくキメラに変えていたんです」

 アメリーの表情が、固まる。
「‥‥キ、メラに?」
 クラークに向いていたアメリーの視線が、忙しなく他の能力者たちの間を移動し始める。
 嘘だ、冗談だと誰かに言ってほしい。そんな意思を感じる視線。
 けれど――その淡い期待に応えられる者は、なく。
「それで‥‥あなたも、同じようにキメラにされようとしていたんです」
 そのるなの言葉を受け、アメリーの縋るような視線がルーシーへ向く。
「そんな‥‥それじゃ、あの時‥‥」
「‥‥」
 ルーシーは何も答えず、ただ小さく肯く。
「‥‥もしかして、ソフィーもトマも‥‥わたしの友達、も?」
「‥‥少なくとも、ここに来てはいない。それと――」
 ハルはそこでいったん言葉を切り、仲間たちの意思を見渡す。
 すべてを告げるべきか、まだ話していないあることを包み隠すべきか。
 どちらの意見もあり、またその両方に筋は通っていた。
 ――しかしながら今隠しても、能力者となればいずれは知る時が来る。
 だからこそハルは、己が考えを信じて――口を開く。

「――お前を助ける前に、そうやってキメラにされた子供たちの一部を‥‥俺達は殺した」

 アメリーの表情が、動きが、今度こそ完全に凍りつく。

「殺さなきゃ、いけなかったんだ。
 もしお前がアンティーブにあるあの孤児院で育った、というなら、恐らくソフィーやトマも‥‥」
「わしらを許せとは申さぬが、どうか憎しみのみに染まらんでくれ‥‥」
 その秘色の懇願を最後に能力者たちの言葉が止み――。
 アメリーの中では憎しみがこみ上げるよりも早く、限界は訪れたらしい。
 彼女の身体が小刻みに震え出し、そして――
「――‥‥んなっ、そんなこと‥‥ないっ」
 かすれた声で、アメリーは叫んだ。手で顔を覆いながら、首を勢いよく横に振る。
「ソフィーもトマも、皆も、ここにいるっ、能力者になってる!
 いろんなものを壊したバグアに、もうそんなことさせないようにしてるっ‥‥」
 突きつけられた現実を必死に否定する言葉とは裏腹に、覆い隠されたその瞳からは大粒の涙が溢れ、頬を川のように伝って芝生の上に落ちていく――。
 震えが止まないその身体を、ハバキは後ろから抱きしめた。
 アメリーは顔から手を離して、泣き顔のまま彼の顔を見上げる。
「ごめん。――でも、無理しないで」
 ハバキはそう言ってアメリーの頭を撫でながらも、視線をつい、と横に向ける。
「‥‥リオンもね」
 ――アメリーと同じ境遇に育ち、同じ理由で能力者となったリオンにとっては、彼女のことは自分のことのように気がかりだった。
 こうして皆が真実を話している間、またアメリーが現実に直面した瞬間、苦しかった。
 でも、それでも――自分は、アメリーのためになら喜んで何かをしてあげたいともリオンは思う。
 だからたとえ口下手で、気持ちが上手く伝えられるか不安でも――
「僕は、アメリーと友だちになりたい‥‥。僕だけじゃなくて、ここにいる皆が、そう思ってるはずだよ‥‥」
 思っていることを、そのままに告げた。
 ――その言葉に異を唱えるつもりがある者は、最初からここにはいない。
 頭を撫でることも、プレゼントをすることも、こうしてここにいることも――そのためなのだから。
「泣きたいときは泣いていい。泣きたいときに泣けるのが本当の強さだ」
 ハルの言葉に。

 アメリーは、今度こそ顔を覆うことすらせずに大声を上げて泣き出した。

 ■

 それから暫くして、アメリーは泣き疲れて眠ってしまった。
 そのまま病室へと連れて帰り、看護師にアメリーのことを頼んで能力者たちは病院を去る。
「そういえば」
 帰り際、ハルは一つあることを思い出して雄人に尋ねた。
「聞けば一人で病院まで来たみたいじゃないか。‥‥伝えたいことがあったんじゃないのか?」
 雄人はそこで足を止め、病院の方を一度振り返る。
 少し思いにふける素振りを見せた後、また前へと歩き出しながら問いに答えた。
「‥‥あったけど、な。もう今更俺の口から言うことでもないさ。
 考えてたことは、皆一緒だったみたいだしな」