タイトル:宝の守護者が砕く空マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/10 23:20

●オープニング本文


 ヨーロッパ攻防戦終結後、それまで半ばバグアに侵略されていたイタリアはその全土が人類の元に戻った。
 とはいえ、それでイタリアという国そのものに平穏な時が訪れるかと問われれば――答えは、否。

 地中海。
 その狭き海に浮かぶ島々は、再占領こそされていないものの――。
 相も変わらずアフリカから襲来するバグアを迎え撃つ最前線の一か所でもある。

「グリフォン?」
「そう、それに似せられたキメラが全部で五匹」
 自らの言葉を聞き返した能力者に対し、ユネは肯く。
 グリフォン――鷲の翼と上半身、そしてライオンの下半身を持つ伝説上の生物である。
「実際現れた数はもっと多いんだけどね。残りはUPC欧州軍――最前線で頑張ってる人たちが引きつけて何とかするらしい。
 とりあえず、少なくともその五匹を倒すことが前提になるかな」
 ユネがコンソールを叩くと、空を舞うグリフォンたちを撮影した映像が映し出された。ただし地上から撮影したものらしく、映った姿は小さい。
「この映像だと分かりにくいけど、実際の一匹一匹の体長はKV並にあるよ。ワイバーンくらいだと考えれば妥当なところ。
 それでもって、と」
 再度コンソールを叩くと、若干ながら映像がズームアップされた。相変わらず体躯に関しては実感の湧かない距離だが、キメラ一匹一匹の姿は鮮明になる。
 四匹は白地に模様が走った鷲の体と黄金色のライオンの体。
 しかし一匹だけ、全身を漆黒に染め上げたものがいる。
「この黒いのがどうやら彼らのボスらしい。他の四匹はこのキメラの統率に従って最前線で戦っているみたいだ」
「こいつを叩けばどうにかなるってこと?」
「だと思うけど、正直これだけをっていうのは難しいと思う」
 三度映像が変わる。
 飛行タイプの戦闘機――搭乗者は能力者ではないらしく、KVではない――十数機がかりで五体のキメラに立ち向かうものだ。映像の発信源は、そのうちの一機。
 映像で見ても、どれも例外なく動きは俊敏だ。しかしそれ自体は決して追えないものではないし、射撃をヒットさせることが出来ないこともない。
 だが――。
 映像の端で、白く長い残像が一瞬横切る。更にその一瞬後爆発音が轟き、残像が消え行った先にわずかながら炎が見えた。
 映像には映し出されていないが、何が起こったかは考えるまでもない。
 ――残像は突進の軌跡。あれをまともにくらったらKVとて只事では済みそうにない。
 その後も戦闘は続いたが――結局キメラにまともな傷をつけられぬまま、敗走。そこで映像は終了する。
 間近だからこそ五体全ての姿をとらえることはほとんどなかった。が、映像を見ているうちに集った能力者全員が気づいていた。
「‥‥ボスを護ってる?」
 見たところ、常に漆黒のグリフォンの周囲には二体ほどのグリフォンが舞っていた。
 漆黒のグリフォンも動く上に、それの周りを手下が旋回しているからボスにはすぐには手が届きそうもない。
 ユネは小さく肯いてから説明を続ける。
「しかもボスも他と同じくらいには素早い上に――もう一つの攻撃方法でもある足の爪での攻撃力は他と比較にならないよ。
 映像では映らなかったけど、それを数回食らっただけで散った機体もあるそうだから」
 先ほどの映像も時折激しい衝撃に揺さぶられた。あれは他のキメラに爪で攻撃されたということか。
「隙があるとすれば――ボスを護るグリフォンは突進しないことが一つ。だからこっちから接近しない限りは攻撃してこない。
 一応足の爪は衝撃波も生みだすけど、射程はそんなに長くないらしい。
 もう一つは――突進の後、かな。自滅って言い方をするのもあれだけど、突進した対象にぶつかった直後は多少バランスを取るのに時間をかけるらしい。
 もっとも見ての通り、戦闘機では傷をつけることすらままならない程度の時間なんだけど、さ」
「KVでの射撃なら‥‥ってこと?」
「そういうこと」
 ユネはそれから「そうそう」思い出したように一本指を立てた。
「戦場はシチリア島の上空。今の欧州戦線の最前線の一角だ。だからこそさっきも言ったとおり他にも敵がいるんだけど。
 ――まあ君たちなら倒せない敵ではないと思うし、だからこそちゃちゃっと戦闘を終わらせて援護に行ってくれるとあっちの人も助かると思うよ」

 本来ならイタリアよりも東方、コーカサス山脈に棲まうとされるグリフォン。
 その役割の一つに、欲にまみれた人間を処罰する宝の守護者となるということがある。
 はたして――地中海の空は人類とバグア、どちらにとっての宝なのだろうか。
 ヨーロッパ攻防戦を経てもなお答えが出ないその問いが、また一つの争いを導いた――。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
アンジュ・アルベール(ga8834
15歳・♀・DF
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 ラスト・ホープから地中海は遠い。
 そのためそれぞれのパートナーであるKVを駆る能力者たちは一度、最前線近くの基地に降り立つ。

 バグアとの戦闘に備えた急ごしらえのものだからか、基地全体があまり広くない。
 離陸場はといえば、補給のために十機のKVが降り立っただけで他の戦闘機が出撃出来ないほどに狭い。
 だが、今はそれでも構わない。
 通常の戦闘機では歯が立たないキメラが相手でも、今基地にいるこの十機はそうやすやすと負けることはない。
 ――たとえそれが、今回の戦闘が愛機の初陣となる者が多くとも、だ。

(「これから私の翼になってくれる雷電の初陣‥‥」)
 基地在任の整備員による補給の様子を視界の端に捉えながら、御崎緋音(ga8646)は飛行形体の雷電――その下部にそっと触れる。
 ちょうど彼女の背後には婚約者であるレイアーティ(ga7618)が駆る、白一色に染め上げられたディアブロが停まっている。
 攻めと護り――攻防一体、二機で一対の翼。けれどその一対の力は計り知れないものがある。
 ずっとその形を保ち、隣で飛んでいられるように――この戦いは、彼女にとっての新たな戦いの始まりの場とも言えるかもしれない。
 その、手始めは。
「――小隊の名にかけても負けられません。一匹残らず落ちてもらいます。
 ‥‥いっそあのボスはトロフィーにして兵舎に飾りましょうか」
 いつの間にやらすぐ後ろに立っていたレイアーティはそう言って、微かに口の端をつりあげる。
 彼の挑戦的な――力強い言葉に、緋音も応えるように肯く。
「レイさん、行きましょう。私たちの名を穢す輩は許せません!」

「相変わらず――ファンタジーが好きだな‥‥オイ‥‥‥‥」
 今回の敵がいるであろう方角の空を一瞥してから、玖堂 暁恒(ga6985)は愛機に目を遣った。
「さて‥‥テスト以来だが――お前の力‥‥‥‥見せて貰うぜ‥‥」
 真新しいウーフー。今回からの、彼の相棒。
 暁恒は無表情ながら、どこか愉しげに――新しい相棒の装甲に握り拳を打ち付けた。

 ■

 大規模作戦ではなく、依頼でKVを駆るという意味では――今回が初陣となるのは、二人。
(「折角取り戻した故郷の空を守らなきゃっ」)
 クラウディア・マリウス(ga6559)は気合いのこもった眼差しで、岩龍に変わる新たな愛機となったウーフーを見上げる。
 電子戦の最新鋭機・ウーフー。その能力があれば自分は更に空で戦えるようになるはずだと彼女は思う。それは同時に、彼女の能力次第でウーフーの能力をいくらでも引き出し、引きあげることができるということを指している。
 そのクラウディアの背後では、補給の間もコックピットに乗り込んだままのアンジュ・アルベール(ga8834)が四苦八苦していた。
「えと‥‥○ボタンが確かレーザー、△が放電装置です。――あらら? 逆です?」
 真新しいアンジェリカのコックピットのあちらこちらには、○やら×やらの記号が記されたメモが貼ってある。そのすぐ傍にあるボタンと、それを押下することで放たれる武装を記憶しようとしているのだろう。
 アンジェリカだけでなく自身も初めてのKVに搭乗しての戦いとなるアンジュは緊張し、戸惑い、それでも何とか操作方法を頭に叩きこんでいく。

 アンジュの記憶がひとまず終わったころ、KV全機体の補給整備もまた終了する。
「――さぁってKVの、それもひっさびさの空戦っ。ちょっと気合入れて頑張りますかっ」
 ヴァシュカ(ga7064)の意気高らかな宣言を合図に、次々とKVがイタリア・地中海の空に飛び立っていく――。

●空の守護者はどちらか
 寿 源次(ga3427)は操縦桿を巧みに操りながら、周りを飛んでいる僚機たちを見渡す。
 ミカガミ、雷電、ウーフー。周りには最新鋭機がずらりと並んでいるのに対し、自分が今駆っている機体はR−01改。
 それでも、自分の機体が劣っているとは源次は思わない。
「型落ちだロートルだと言われるがバグアの連中を一掃する、その想いは昔と変わらない。いっちょ頼むぜ、相棒」
 それにしても、だ。
「グリフォン、か。エンブレムでなら割と見掛けるんだけどな」
 と言った傍から彼の横にグリフォンのエンブレムが描かれた機体――レイアーティのディアブロが現れた。
 ほぼ同時に、反対側に緋音の雷電。こちらにもディアブロと同じエンブレム。
 それらを目にし、早速見たか、と源次は苦笑した。

 源次のすぐ背後には、シーヴ・フェルセン(ga5638)の岩龍がついている。
(「鷹の頭、翼に獅子の体――言っちゃ悪ぃですが、真正のキメラとも言えやがるですね」)
 キメラ、あるいはキマイラとも呼ぶそれの本来の意味は合成獣であることを踏まえると、確かに彼女の考えは当たっている。
(「神話やら何やらのモンは、得てしてそういうモンでありやがるですが――」)
「宝泥棒呼ばわりされる覚えはねぇんで、ちゃっちゃと倒して援護に行きやがるです」
 言葉の最後は意思の表れ。小さいながら声に出した。
 その直後だった。

 全機体のレーダーに反応が生じたのは。

 ■

「傭兵の心構えは一つ。受けた仕事は難度に関係なく全力を尽くす事。簡単な任務など無いわ」
 前衛に立っていたが故その『敵』の影を真っ先に捉えた藤田あやこ(ga0204)は、自らに言い聞かせるように呟いて操縦桿を握る手に今一度力を込める。
 ちょうどその時になって、五つの敵影の姿が少しずつ――しかしそれまでよりも明らかに速く、大きくなり始める。こちらに気づいたのだ。
 まだ、近づけさせるつもりはない。
 あやこの操るバイパーは暁恒のウーフーとアンジュのアンジェリカを背後にし――、
「――Shot!」
 短い叫びとともにあやこはコックピットの中の引き金を引く!
 一度に撃てるのは一発こっきりのスナイパーライフル。しかしそれだけに威力、そして『スナイパー』の名をもつだけに射程も長い――五匹のグリフォンのうち、遊撃に当たると思しき一匹の動作が若干揺らいだのは、命中の証。
 他の四匹のキメラは、各々の陣形を組んで十機のKVに迫り始める。狙撃された一匹も態勢を立て直し、やや遅れてその流れに乗った。
 ――しかし傭兵たちの陣形は、既に整えられている。
「我等であれば遊び相手に不足は無いだろう? 心行くまで、死ぬまで遊んでやろう!!」
 覚醒後の変化――高らかにそう宣言した暁恒がブーストを起動、一気に距離を詰めながら砲身から電気を放つ。
 抜群の精度を誇るそれは、向かってくるグリフォンに直撃――はしたのだが、敵の速度は揺るがない。
 暁恒も、スナイパーライフルを用いてからすぐ後につけたあやこも――その背後に白く長い残像が残っていることにもう一瞬早く気づいていれば、それを完璧にかわすことが出来たろう。
 その一瞬の遅れが、二機のKVに衝撃を生む。
 より残像を目にしやすい距離にいた暁恒は寸でのところでグリフォンの突撃を逃れた、が、それでも脳髄を直接揺さぶられたかのようにすら思える衝撃がコックピット全体に走る。
 彼の背後につける格好になった故更に一瞬判断が遅れたあやこに関しては、もう少し酷い事態になった。やはり真正面からの直撃は避けたものの、ほぼ横半分に直接被害を受けた機体が揺らぐ。
 衝撃が大きいだけあり、キメラの動きもまたあやこの機体の付近で止まっていた。
 このままではまずい――。
「――いき、ますっ!」
 未だ緊張の解けぬ指、それでもアンジュはボタンを押す。
 記憶の成果――更にはAIの援けもあり。的確に狙いを定めて放たれたレーザー砲が動きの止まっていたグリフォンを撃ち貫く。
 キメラの体がきりもみ回転しながら墜落する――が、その動きを立ち直ったグリフォンは自ら止め、再び上昇。
 しかしその時には既に三機のKVも態勢を立て直しており、暁恒がAAMを叩き込む。
 戦いはまだ始まったばかり――。
 
 如月・菫(gb1886)は、ドラグーンとして能力者になってまだ日が浅い。それでも今まで、ヘルメットワームやゴーレムを相手にしてきた。
 だから、
(「きっと大丈夫。――でも、油断は禁物です」)
 自信と、それに伴う慢心を防ぐだけの自戒をもって戦うだけ。
 戦闘開始時点で既に、前衛で構えたヴァシュカのアンジェリカがAAMを使用しているが――念を押してとばかりに彼女がコックピット内のボタンを押下すると、自身が駆る翔幻だけでなく班を組んでいたクラウディアのウーフーやヴァシュカのアンジェリカさえも撹乱の霧の中へと包み込む。こちらに迫るもう一匹の遊撃グリフォンとはまだ距離を開けているためその霧が及ぶことはなく、一時的にせよ能力者たちにとってだけ明瞭な景色の空となる。
 菫は続いて、ロケット弾を放つための引き金を引く――射程は長くとも決して命中精度のよい兵器とは言えないそれ。霧の中から放たれたとは言えその霧とグリフォンとの間にはまだ距離があり、グリフォンは軽やかに空を回転してロケット弾の軌道を逃れる。そして相手より上空に立つことで姿が見えない不利をなくそうとしたのか、避けながらそのまま上空へ――。
 しかしそれすらも、最初から牽制のつもりでロケット弾を放った菫の計算のうちだ。
「逃がしませんっ」
 霧の中から再び――今度はクラウディアのウーフーから放たれたロケット弾が、上昇軌道にあったグリフォンを追う!
 死角を狙われる格好になったキメラは、それでも咄嗟の反応を見せ避けることには成功する――が、動きは、一瞬止まる。
「‥‥――よそ見してる暇なんて与えないんだからっ!」
 ブースト機構で一気に速度を上げてアンジェリカが霧の中から飛び出る。
「頼れる仲間が背中に居るから、ボクは前に出れる。きみ達にそんなの居るのかなっ」
 コックピットの中でヴァシュカはそう言い――直後にアンジェリカはその砲身を、ようやく動き出そうとしていた上空のグリフォンに向ける。
 逃がさない――。
 一瞬にして砲身から伸びた三本のレーザー光線は真っ直ぐグリフォンに届き、その四肢を貫く――!

●そして守護者は選ばれる
 自分たちの戦いが始まるには、まだ早い――。
 漆黒のグリフォンとそれを護るように舞う二匹のグリフォンに対し、残る四機のKVはひたすらに遠距離戦を挑んでいた。
「さぁて、鬼さんこちら‥‥っと」
 ガトリング砲を放ち、直後に転進、別の角度で距離を置く――。
 それぞれ使用する兵器こそ違うが、レイアーティ、緋音の行動も基本源次のそれと変わらない。
 ただし、シーヴだけは少し違った。
「シーヴの岩龍、甘くみやがるんじゃねぇです」
 他の機体に比べ動きの遅い岩龍では、回避に重きを置いても避けきれない可能性も高い。だからかシーヴは他の三機が回避重視にしていることもあって迎撃を重視した。
 自らが放つジャミングはそれすらもカバーする――距離により精度低下などお構いなしに、岩龍から放たれたスナイパーライフルD−02の弾丸はグリフォンを貫いた。
 と、岩龍のやや上空から漆黒のグリフォンが迫る。逆に下からはもう一体のグリフォンがやはり突撃してきていた。
 通常の移動力では避けられないと踏んだシーヴは咄嗟にブーストを起動、突進を逃れるついでにミサイルを放つ。
 二匹のグリフォンはその痛い置き土産を受け取らずに、なおもシーヴに追い縋る――が、突如として漆黒グリフォンの横っ腹に鋭い衝撃が走り、ボスの動揺を見て護るグリフォンも一度動きを止めた。
「飛んで火に入るなんとやら、です」
 シーヴに迫ったということは、それだけ他のKVにも接近したということ。
 漆黒と十字交差する形でソードウイングの一閃を浴びせたレイアーティはそう吐き捨てた。
 更に、その時になって戦況に大きな異変が生じた。
 最初はヴァシュカたちが戦っていたもの、次はあやこたちが戦っていたもの――次々と遊撃のグリフォンが力なく海へと墜落していったのである。
 十対三。
 それまで遊撃グリフォンと戦っていたKVも合流し、能力者たちは最後の仕上げに入る。
「緋音君、行きますよ!」
「はい!」
 二機で一対の翼――その真価を発揮するときが来た。
 レーザー砲を構え接近する緋音のウーフー。その光線を辛うじて避けたグリフォンの頭部を、白いディアブロから放たれたレーザー砲が撃ち貫く!
 それまでに蓄積されたダメージもあって墜落していくそれを尻目に、攻めと護りの翼は空を駆ける――。
 その軌道の先には、源次が引き寄せていたグリフォン。
 グリフォンは気づいていない。たった一機を執拗に追いかけている自分が、既に数機に追われていることを。
 気付いていないから、逆に源次のR−01改から放たれる攻撃には過敏に反応できるのだ、が、
「ふ、この攻撃に反応したな――今だ、やってくれ!」
 バルカンはフェイク。
 よけようとして軌道をそらしたところで、レイアーティ、緋音、クラウディア、菫の集中砲火を浴びて撃沈する。

 最後に残ったボス――漆黒のグリフォンは、ボスだけあり十機を相手にしても決して逃げようとはしなかった。
 しかしこまごまとしたダメージもあった上に、先ほどレイアーティから受けたソードウイングの一撃が後を引き、その速度は最初より目に見えて落ちている。
「ただのバイパーと思わないでよ! 機体が地上を離れた時からHW相手に全開戦闘が出来るんだよ!」
 あやこがそう叫んで、残っていた弾頭ミサイルを全弾発射する――漆黒は最初の二発ほどこそ避けたものの、残りは立て続けに喰らい、揺らぐ。
 もう、一撃。
 それを決めたのはシーヴだった。
「これで――Slutaでありやがる、です」
 文字通り終焉を告げるセリフとなった言葉とともに、静かに引き金を引いた。

「次は完璧にイタリアを取り返してやろう、用意するならもっとマシな番人を用意しておけ」
 海へ落下していく漆黒を見下ろしながら、暁恒がそう嘲笑し、
「これで終りじゃないものね。‥‥気を緩めちゃダメだよね」
 その一方で、ヴァシュカが言葉通り未だ真剣な眼差しを――最初補給を受けた基地ではない方角へ向ける。
 まだ、戦える。
 源次を中心に全員がそれを確かめ合うと、クラウディアが友軍に連絡を取った。

「――さて、残りの偽グリフォンも片付けましょう。攻めの翼の由来、たっぷり堪能してもらいますよ!」
 レイアーティの力強い言葉を合図に、十機のKVは未だ戦火収まらぬ地中海の空を疾り抜け――。

 それから任務を終えるまでに、更に四匹の『偽』グリフォンを叩き落として見せた。