タイトル:ココロツナグモノマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/22 23:23

●オープニング本文


 離れていても繋がっている。
 それは思い込みなんかじゃない。それは彼の方から教えてくれたこと。

 ――でも、どうしてだろう。
 声が聞きたい時に限って聞けないというだけで、こんなにも不安な気持ちになるのは――。

 ■

「‥‥あれ?」
 ユネの待つ部屋に足を踏み入れた能力者たちは――そこで彼のそばにもう一人、女性が立っていることに気がついた。二十代前半と思しき若い日本人女性だ。
 あまり元気がない様子の彼女にどう反応していいものか迷う能力者たちの中には、以前に一度彼女と顔を会わせたことがある者もいる。
 確か――その時の依頼に同行した男性能力者の思い人が彼女ではなかったか。能力者たちの後押しがあり、二人はようやく想いを通じ合ったはずだ。
 その彼女が、今暗い表情で目の前にいる。これはいったいどうしたものか。
「‥‥まあ、とりあえず話を聞いてよ」
 困惑気味の一同に、ユネはそう言った。

「彼女の名前は松藤アマネ。
 もしかしたら知っている人もいるかもしれないけど、君達と同じ傭兵として生活している遊佐ケイイチという恋人がいるんだ」
 一度知っている以上、資料は見るまでもないらしい。能力者たちとアマネを交互に見遣りながらユネは説明を始める。
「みんなもそうだから分かってるだろうけど、傭兵は依頼を受けたら世界中どこだって飛んでいくよね。生まれた国なんて関係なく」
「それがどうかしたの?」
「うーん‥‥」
 ユネは少し説明しにくそうに頭を掻いた。正直、彼にも困惑があるのかもしれない。
「その恋人であるケイイチ君なんだけど、実は今まで日本での依頼しか受けたことがなかったそうなんだ。
 偶然か、本人がそう狙ったのかは本人に訊かないと分からないけど――それは兎も角として、そんな彼は今、ヨーロッパにいるんだよ」
 その言葉で、一人の女性能力者があることに気がついた。まだ浮かない表情のアマネを見、確信したように肯く。
「‥‥ああ、それで寂しいってわけね」
「流石に同性は察しつくのが早いね」
 その通りみたいだよ、とユネは苦笑した。
「二人は幼馴染で付き合いも長いのに、ケイイチ君の方がなかなか素直になれなかったものだから恋人として通じ合ったのはほんの二か月くらい前の話なんだよね。
 で、彼は一か月くらい前にヨーロッパに依頼で向かって、それからはまだ日本に戻って彼女と会ったりしていない、と」
「生きているのは分かってるの。電話もしてるし」
 アマネがようやく口を開いた。
「ただ――その電話っていうのが、ケイイチの方からかけてきたものからじゃないと繋がらないの」
 連絡先を間違っているわけでもないのに、受話器の向こうから聞こえてくるのはいつも無機質なツー、ツー、という機械音。
 一方的にしかつかない連絡――。
 それが不安でたまらない。
「あたしが変に考え過ぎてるんじゃないかっていうのも、もちろん分かってる。
 でも、それでも――」
 長年思い合い、ようやくそれが実ったばかりだからこそ――今それが壊れる可能性を考えてしまうのだという。
 能力者たちは今にも泣き出しそうな様子で俯いたアマネから、ユネへと視線を戻す。
「‥‥で、私たちは何をすればいいわけ?」
「単純な話だよ。彼女の不安を取り除けばいい」
 ユネは簡単そうに言う。
「方法は問わないよ。ただその取る手段によって、彼女の不安がどれだけ払拭されるかは変わるだろうけどね」
 要するに、あちらから連絡があるのを待つのではなくこちらからコンタクトないし何らかのアクションを起こせればいいわけだ。
「電話がつながれば一番手っ取り早いんだろうけど、それができてないからこうやって彼女は不安なわけで‥‥」
「彼女をヨーロッパに連れて行って会わせるのは?」
「別にかまわないし、それが一番いい方法だと僕も思う。けど問題は、ケイイチ君が今飛ばされてる場所っていうのがバグアの勢力圏の割と近くだっていうことかな」
 具体的に言えばフランス。侵攻されている南西部ではないが、決して一般人にとって安全といえる場所ではないようだ。
 ケイイチに接触しなければどうしようもないため、彼の滞在先への地図はアマネの同行如何に関わらず貸し出されるが――彼女を護りながら向かうとすればそれ相応の作戦が必要となるだろう。

 一見誰がどうみても上手くいきそうな間柄でも、波の一つや二つはあるもので。
 自分自身の恋愛沙汰には興味が薄いからか、難儀なものだね、とユネは肩を竦めた。

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

●確かなモノを確かめに
 ラスト・ホープ内――UPC本部の高速移動艇発着場。
 その待合室に、六人の能力者と一人の一般人の姿はあった。

「傭兵で真相を探るので、ラスト・ホープで待て」
 リュイン・カミーユ(ga3871)はそう言い、一般人女性――松藤アマネの肩を叩く。
 アマネはその言葉を素直に信じている様子だったが、相も変わらず表情から不安は消えていない。
「アマネ君、ケイイチ君に伝える事は何か御座いますか?」
 ジェイ・ガーランド(ga9899)の問いに、アマネは何かを言いたげに口を開いた。
 しかしその口は幾度か開閉するだけで、言葉は紡がれない。何を言えばいいのか、分からないのだ。
 分からないのは、彼女が手にしている文書のせいでもあるだろう。
「あなたたち、まだ付き合い始めたばかりなんだから、しっかり気持ちをしたためるのよ?」
 そうシュブニグラス(ga9903)に言われしたためた、ケイイチへの手紙――そこに今の彼女の思いの丈が詰め込められているのだから、それとは別に何か、となるとすぐには思いつかなかったに違いない。
 その手紙を受け取ったシュブニグラスは
「ちゃんと見てくるから、ちょっと待っててね?」
 アマネの顔を覗きこみながら、安心させるように努めて優しく囁いた。

 そして能力者のうち四人が、高速移動艇に乗って空へと飛び立つ――。
 その姿が彼方に消えるまで、アマネは縋るような眼差しで見つめていた。

●届けられたモノ
 ケイイチのいる街から十キロ離れた地点に降り立った能力者たちは、街に着くまでにキメラに不意を打たれることのないよう警戒しながら歩み始めた。
「アマネさんのお気持ちも分かりますけれど、同じ能力者として依頼に従事中のケイイチさんの立場も理解出来ますから、悩ましい所ですわね」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)はため息交じりにそう漏らす。
 実のところ彼女とシュブニグラス、ジェイは以前、ケイイチとアマネが付き合うに至るまでの橋渡しを行っている。
 その二人が直面した、傭兵と一般人の恋愛の現実――今回の依頼を受けたのは、その試練を乗り越える助力をしたいと思うところが大きい。
 メアリー・エッセンバル(ga0194)には、それ以外にも思うところがあった。
 自分を取り巻く現状と二人の今に似たものを感じ、二人のために自分に出来ることをする――そのためにも、まずはケイイチに会わなくてはならない。

 街への道中、一度だけはぐれキメラと遭遇したものの――瞬殺。
 それきり何のトラブルにも見舞われぬまま、能力者たちは街へと辿りついた。

「問題なく入れた。一見したらほんとに普通の街だわ。ここからはしばらく連絡できないけれどアマネさんの事おねがいね」
 アマネの傍に残っている仲間たちにシュブニグラスがそう連絡を入れてから、四人は再度行動を開始する。
 ケイイチへの接触を図るために、メアリー、ジェイ、シュブニグラスは花屋に偽装するための準備を始めた。配送車両らしきものを本部から借りることは出来なかったので、レンタカーを使うことにする。
 服装は出発時からすでに一般人に見えるようにしてあるので、花屋でメアリーが幾ばくかの花を買って準備は万端。
 地図を頼りに、能力者たちはケイイチが滞在している仮の住まいへと向かった。

 ケイイチの仮住まいはアパート。ただし寮に似て、外部の人間は大家を介さないと住人との面会や家屋への立ち入りが出来ないようになっていた。ケイイチが潜伏しているという親バグア派の関連施設ならば、そのような一種の警戒態勢を敷くのも理解できない話ではない。能力者側も念のため、クラリッサがアパート近くの建物の陰に隠れてバックアップ要員となっている。
 武装は車の中に置き、民間人の振りをした能力者たちが疑われることはなかった。花のお届けです、とメアリーが簡潔に用件を告げると、大家は管理人室から電話でケイイチを呼び出す。

 ――花?
 少しして能力者たちの前にケイイチが姿を見せた時、彼はそんな訝しげな表情を浮かべていた。
 しかし次の瞬間、その花束を持っているジェイと、その背後で待機するシュブニグラスの姿を認め、目を見開く。更に次にはどうして彼らが一般人に扮装しているのかも理解したらしく、その驚きの動作も最小限のものに留めた。
「こんにちは。お花の届け物に上がりました」
 何食わぬ顔でジェイがそう言い、花束を差し出すよう構えた。
 花束を彩るのは、白いアヤメとワスレナグサ。
 それぞれの花言葉は、『使者』『良い便りを待っています』、そして『私を忘れないで』――。ケイイチがそれを知っているかは分からないが、こうしてメッセージを伝えることに意味がある。
 続いてシュブニグラスが、「こちらにサインを」と差し出した伝票は――決して伝票ではなく。
『会える場所とゆっくり話せる時間帯を教えて』
 というメッセージが書かれていた。
 ケイイチは再度目を見開きながらも――大家にそれとばれないように短く、ペンを走らせる。

 仲間たちがアパートの外に出、ジェイの手に花束がないことを確かめたクラリッサは、
「もしもし――ええ、無事にコンタクトを取ることが出来たようですわ」
 近くの店で電話を借り、アマネの方にいる能力者たちに手短に連絡した。

●分かるからこそ言えること
「今ごろ会ってるかな、ケイイチくんと」
「そうだといいがな」
 一方、柿原ミズキ(ga9347)とリュインはそんなやり取りをかわす。もちろんアマネもその場にいるが、俯いたまま口を開こうとしない。
 アマネがラスト・ホープに滞在する間宿泊施設を利用すると聞いたリュインは自分の兵舎に来るか、と提案はしたものの
「こんな気分のあたしがいたら、兵舎にやってくる傭兵さんたちもゆっくり出来ないだろうから」
 とアマネは細々と遠慮の言葉を口にした。
 無理に連れて行くわけにもいかず、結局今三人はアマネが利用する宿泊施設の一室にいる。
 兎角、空気が重い。
「不安に思う事は、吐き出すのも良いと思うぞ?」
 溜め込むと悪循環に陥る――。
 状況を打破するべくリュインが一石を投じると、アマネがぽつりと
「分からないの」
 と呟いた。ミズキとリュインは顔を見合わせる。
 アマネは肩を静かに震わせ、口を開く。
「依頼する時オペレーターの人が言っていた通り、ケイイチとあたしは幼馴染で――付き合うまでにも結構長い時間一緒にいたし、その間に互いのことをどう考えてるかなんて分かってるつもりだった。
 ――不安なのは、怖いのは、どっちかっていうとケイイチが今何を考えてるかっていうより、あたし自身のこと。
 電話をしてくれるケイイチは変わっていないっていうのは分かってるのに、何で今こうして不安になっているんだろうって、自分が‥‥」
 紡がれたか細い声は、最後の方は言葉にならなかった。
 ――正確に言えば、言葉にしようとして感情が我慢しきれなかったのかもしれない。二人から表情が読み取れなくなるほどに俯いたアマネの顔の辺りから、雫がぽたり、ぽたりと滴り落ち始める。
 そのアマネの肩を、ミズキがぽんぽんと叩く。
「うらやましいな、そこまで考えちゃうほど好きな人がいるってさ」
 顔を上げたアマネに、ミズキはそう言って苦笑いを浮かべる。普段は男勝りな彼女には珍しく、弱気の色がその表情に混ざっていた。
「ボクなんかこんな性格だから、友達までは行くけどそこまでなんだよね。冗談だろうとかってさ。で、結局強がるからなおさら、でさ‥‥。
 それに憧れてる人なんてあんまり覚えて無くて、今生きてるのか死んでるのかだってわかんないしさ‥‥、ってゴメン何、暗い話してんだか」
 自分の頬を軽く叩いてから、再度アマネに向き直る。
「アマネも知ってるよね。ボクたちがどんなことしてるか。心配なのはたぶん解る。
 でも、それはアマネだけじゃないとボクは思うよ。ケイイチくんの方にいったみんなも同じ考えのはず」
「‥‥‥‥」
 アマネはミズキの顔を黙って見つめている。
 ミズキは尚も言葉を紡ぎ続ける。
「アマネの本当の気持ちなんて、ボクには分かりきれないかもしれない。
 だけどボクにだって心配で、いつも気にしてる弟がいるんだ。傭兵をしてるから簡単には帰れない――でも、その気持ちを押さえてるんだ。
 きっとそんなこと望んでないと思うから‥‥ケイイチくんだってたぶんそうなはずだよ」

 そこまで言った時、不意に部屋の電話が鳴った。

 手近な場所にいたリュインが受話器を取る。
 電話の相手は、彼女の話しぶりからするとケイイチの元に向かった仲間――おそらく、クラリッサだろう。
 数度言葉を交わし、受話器を置く。
「接触には成功したらしいぞ。ゆっくりと話せる時間も確保したらしい」
 その言葉に、ミズキがほっと安堵の息をついた。露骨な様子こそ見せないが、アマネの表情もいくらか落ち着いている。
 少なくとも話を聞いてくれる姿勢にはある――。
「我の話も少ししようか」
 腰を落ち着けたリュインは、アマネに向き直って口を開いた。
「我の恋人はUPC軍の中尉で、依頼でしか殆ど顔を合わせることがない」
 苦笑を浮かべ、語り続ける。
「その時は『指揮官と傭兵』の立場で、恋人でいられる時間はごく僅かでしかない。
 会えなくて不安、会っても不安、会いたくて――泣きそうな時もある」
 あの馬鹿、鈍いしな!
 ここぞとばかりにこっそり吐き捨ててから、リュインは「――だが」と、静かに言葉を紡ぐ。
「そういう今の立場、相手を選んだのは我だ。
 ――アマネも、そうではないか?」
「‥‥あたしは‥‥」
 問いかけられたその言葉に、アマネは少し考えてからきっぱりと肯く。その考えていた時間は答えに迷っているというより、その答えに素直に肯いていいものかどうか迷っていたもののように見える。
 ――しかし、こうして肯いたということは、だ。
 これから放つ言葉の真意が、多少なりとも伝わる感触をリュインは抱いた。
 そして、その言葉を告げる。
「傭兵は任務次第で簡単に連絡が取れなくなる。そんな中でも時間を作ろうとするケイイチは、信じて待って良し!
 ――汝が『帰る場所』になってやれ」
 微笑を浮かべそう言うリュインに――アマネはまだ少々不安な様子を見せつつも、小さく肯いてみせた。

●途切れない糸にするために
 最初の接触から数時間後、待機していた能力者たちの前にケイイチが姿を現した。
 ケイイチが指定した場所は近くの喫茶店だった。潜伏期間中、余暇はここで過ごすことが多いらしい。
 店員のうち数人は彼が能力者であることを知っており、彼がここを指定したのは、今日店にいるのがそういった人間ばかりだからだという。
 店員は口が堅いので、ここなら気兼ねなく落ち着いて話が出来ると。

「凄く不安がってるわ。確かに仕事だから我慢する必要もあるけれど、それでもアマネさんも女の子よ?」
 話の口火を切ったのはシュブニグラスだった。やっぱりそういうことか、とケイイチは小さく呟く。
「難しいかもしれないけれど、電話する回数を増やしてみるとか‥‥電話出れそうな時は出てあげるとか‥‥ちょっと考えてみて?
 あなた達がどうやって付き合うようになったか知ってるから‥‥私も人事じゃあないのよ」
 溜息をつくシュブニグラス。ケイイチは少し困った表情になり、なんとか頑張ってみる、とだけ答える。アパートの性質を考えると、彼の部屋にも監視を敷かれているのかもしれない。
 その時メアリーが、「あなたたち、私と似てる」と、口を開いた。
「私も好きな人とろくに連絡を取らないままにこうやって仕事をしているわ。だってそれが傭兵としての仕事だと思ってるから。
 私の好きな人も、同じくね」
 メアリーの瞳の奥に、さびしげな色が浮かぶ。
 しかし、それも一瞬のこと。再びケイイチの顔を直視した彼女は、普段通りの様子で。
「あなたは仕事という名目もあるから、頑張れる。でもアマネさんは、私達の仕事について知らない部分が多いでしょう?
 だから今、少し不安になっている。あなたが戻ったときに彼女が笑顔で迎えてくれるように‥‥あなたの『待っていて』のメッセージを彼女に届けてあげる為に、私達は来たの」
「‥‥分かった。でも、どうすればいい?」
「彼女宛てに手紙を書いて頂きたいのです」
 そうケイイチに告げたのはジェイだ。
「少なくとも、彼女に一言『待っていて欲しい』と。それは絶対に必要になるかと存じます。
 それと――彼女になにか、贈り物が出来れば、それを心の拠り所に出来るかと。何かあれば、預かりますが如何でしょう?」
「なら、鉢植えはどう?」
 植物に関して詳しいメアリーは、張り切った様子で提案した。
「鉢植え?」
「ええ。長く大切に出来るものがいいと思うの」
 問い返したケイイチに、メアリーは肯いて見せる。
 そして、
「『変わらぬ思い』ローダンゼ、『長く続く愛情』ダイアンサス、『信じあう心』ブルースター、『あなたを大切にします』アイリス――あなたがアマネさんに一番伝えたい思いは、何?
 ご注文頂ければ、配達人として責任を持ってお届けします!」
 笑顔を浮かべ、彼女は叫び。
「――それなら」
 やがてケイイチは、選んだ。

●証明
「さて、一刻も早くアマネさんの元へケイイチさんからの贈り物を届けて差し上げないといけませんわ」
 帰りの高速移動艇に向かう能力者たち。
 そう呟いたクラリッサの手には、ひとつの包みがある。
 中にはまだもう少しの間滞在しなければならないケイイチの手紙と、彼からアマネに贈るプレゼント――。

 ラスト・ホープに帰還した四人を、予め連絡を受けていたミズキとリュイン、そしてアマネは出発時と同じく待合室で待っていた。
 任務のねぎらいをするより先に、アマネに包みを手渡す。

 開けてみる。
 ――アマネにはその花が持つ言葉の意味は分からなかったが、それでも分かったことはひとつだけある。
 それは――。

 自分がケイイチを信じているように、ケイイチも自分を信じてくれていること。
 待っていてくれると、信じてくれているということ。

 その喜びは、彼女が内に秘めた己への不安・不信さえもかき消して。
 決して悲しみから来るものではない涙を浮かべるアマネを、能力者たちは温かい眼差しで見守っていた。