タイトル:【DA】黄昏に潜む灰の瞳マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/16 04:46

●オープニング本文


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「――やあ」
 ULTオペレーター、ユネは柄にもなく憔悴しきった表情で能力者たちを出迎えた。
 どうしたんだ、と尋ねる声に対し、
「ここ数日で、一気にやることが増えてしまってね‥‥正直あまり寝てないんだ」
 という言葉を返すユネ。
「で、今回入った依頼もそれに関連することなんだけど――如何せん人手が足りないものでね」
 そう言ってユネは、能力者たちに人数分の資料を渡す。
 資料には、ここ最近イタリア南部で小規模な事件が頻発しているということが記されていた。
 数ヶ所に及ぶ発電所の故障だとか、山火事。線路事故の多発や、それも含めて運輸ルートが崩壊しているとか。
 加え、それらの事件に関係があるのかは不明だが野良キメラの出没も増えているという。
 一つ一つは些事であっても、ある地域に連続して積み重なればなかなか面倒なもの。これでも全部ではないというから性質が悪い。
 結果として自治体の手だけでは足りず、UPCやULTに御鉢が回り――キメラの存在もあることから、傭兵へ向けた依頼にすることになったのだ。
「君たちに今回やってもらいたいことは、そこに載っている案件に対しての事前、あるいは事後対処だよ」
 出来るだけ多くの案件をどうにかしなければならない――が、必ずしも自分たちの手で全てを行う必要はない。正当な理由であれば人手を回したり借りたりするのもありだ。
 もっとも、回すだけ回してその件は後はほったらかし、とはいかないわけだが。人材を動かしただけの責任がそこにはあるのだ。

「――まぁ、事務的な作業にまで君たちを駆りだすのは正直悪い、とも思う」
 ユネは一つ溜息をついて、眼鏡の縁を軽く上げる。
「‥‥でも、特に運輸ルートが乱れている辺りに引っかかりを感じるんだよね。
 偶然ではなく作為的なものを感じる、というか――あくまで僕自身の推測でしかないから信じなくとも構わないけど」
 ともあれ、今は目の前の案件一つ一つを片づけなければならない。
 手間をかけさせてしまう形になってしまってすまないが、とユネは頭を下げた。

 ■

「‥‥前から思ってましたが、何かを企てる時の貴方は楽しそうですね」
「そうですか?」
「えぇ。――まぁ、整備や改造をしている時ほどではないようですが」
 言って、彼女――イネース・サイフェルは、窓の外の景色を見つめる。
 かく言う自分の楽しい時とはどんな時か――わざわざ考えるまでもなく、答えは決まっている。
 ――ごく普通の人間だった頃からずっとしてきたことなのだから。
 ただ、今は表現の方法が変わっただけ。今の彼女にとっては些細な問題である。
 だから彼女は――形の整った唇を歪めて、

「そろそろ、始めましょうか‥‥」

 そう、愉しげに呟いた。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER

●リプレイ本文

【DA】黄昏に潜む灰の瞳
●吹き抜ける不穏な風
「イタリア‥‥やっぱりまだ、完全に復興してないね‥‥。
 また何だか変な事が起こってるみたいだし‥‥」
 飛行形態のウーフーのコックピットから眼下に広がるイタリアの大地を見下ろしながら、クラウディア・マリウス(ga6559)は呟く。
 彼女にとって祖国であるかの地は、かつて大規模作戦の舞台にもなった場所。
 結果として人類側が勢力を取り戻すに至ったわけだが、彼女の言うように、まだ復興しきったわけではない。
 ――その復興の最中に『変な事』が起きれば、憂うのも当然の話。
 そんな友人の気持ちを考え、
「綺麗な国、ね」
 同じくウーフーを駆っているアグレアーブル(ga0095)はそう語りかけた。

 二人がいるのは、ユネに処理を頼まれた案件の一つ――運輸ルート崩壊の現場だった。
 眼下の大地には土砂崩れが生じており、道路が完全に寸断されてしまっている。
 どうにも上空からではそれ以上の情報は掴めそうにない。二機のウーフーは、慎重な動作で変形してから地上に降り立った。
(「ユネさんの推測、信じるよっ」)
 今のところ手ごたえはないが、それでも数多くの事件を見ているプロが怪しんでいることを無視はできない。
 クラウディアが起動した地殻変化計測器にも、目立った反応はなし。アースクエイクなどがいるわけでもなさそうである。
 これを安全ととった彼女は、KVを下りて大地に降り立つ。アグレアーブルはウーフー内に残った。
「うーん‥‥」
 現場を間近で見てはみるが、結果として土砂崩れになったそれを自然災害か人為的なものか判断するのは難しい。
 事前にアグレアーブルがイタリアの国土管理機関に自然災害が起こりうる可能性を問い合わせていたが、国内の混乱のせいで情報に乱れが生じ、『ない』とは断言できない状態にあるとのことだった。
 現場を見つつ、クラウディアは首を捻った。

●闇の中を手探りで
(「複数の発電所で重大な故障が発生って‥‥露骨に怪しいわねぇ‥‥」)
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)は手にした資料を捲りながら考える。
 彼女が見ている資料は、事前にULTを通じて作成してもらったものである。既に故障が発生した発電所について、ハード的な要因とソフト的な要因とに、発電所ごとにソーティングしてある。

 エリアノーラは調査の手始めに、その中でもハード的な要因が挙げられている発電所に赴いた。
 職員に用件を告げ故障個所付近に案内してもらうと、探査の眼とGooDLuckを同時に発動させる――。

 ■

「面倒臭ぇが‥‥放っとく訳にも、いかねぇしな‥‥」
 玖堂 暁恒(ga6985)はウーフーを駆りながら呟く。
 今彼の機体には、貨物が積載されている。輸送中、というわけだ。
 最初は停電した地域の――特に病院の状況をどうにかしたいと考えていた暁恒だったが、案が思い浮かばないために思考をシフトしたのである。
 もっとも、停電していれば当然交通もままならなくなる。そういった意味でも、KVの面目躍如と言えた。

「慢性的な停電‥‥だとよ。住んでる奴等に何かしてやれるよう俺からも進言しとくよ」
 行動を開始する前、ゼラス(ga2924)はエリアノーラと暁恒に告げ――。
 実際彼は、発電所故障の影響を受けている地域に物資を配る、最悪何らかのフォローを入れることが出来るよう進言した。

 そのゼラスは今、
「さ、俺たちもやれる事からこつこつ行こうか」
 新車のジーザリオを駆り、後部座席に同乗する西島 百白(ga2123)と御崎緋音(ga8646)とともに、一路ナポリへと向かっていた。

 近郊に現れるという猿キメラの殲滅に赴いた彼らは、街に着くとまず情報収集を始めた。
「ULTの傭兵として、警察諸氏にも協力願いたい。キメラの情報と、警戒中に出た時はこの無線周波数へ‥‥」
 ゼラスはそう言って、現地の警察に無線連絡用のメモを渡した。
 それからその警察の情報、或いは主に輸送業を営む一般人から得た情報を元に、予め入手しておいた地図上の出没地点とされる場所に印を記していく。
 ある程度情報を集めたところで、
「んと‥‥ここ、とか?」
 印の数や密集具合、ここ数回の襲撃状況などから推測し、緋音はナポリ南西のある地点を指差した。
 ゼラスや百白から見ても、彼女が示した場所は合点がいくものがある。というわけで、
「ま、新車だが手荒に行くぜ」
 三人は一路、ジーザリオでその地点へと向かった。


「ユネさんがお困りのようでしたから、ね。
 彼と組んでいれば、またあの女に会える気がするのですよ」
 トリストラム(gb0815)は言う。
 彼のいう『あの女』――イネース・サイフェルとの一戦から二か月半が経過している。
 あれ以来、イネースの方も目立ったアクションは起こしていないようだが――だからといって、忘れるわけにはいかない。
「あの屈辱は、あの女のFRを鹵獲する事でのみ雪げるものですよ」
 だから借りを返すまでは――どんなに些細な痕跡も、見逃すわけにはいかないのである。

「ちょちお話をお伺いしたいんっすが、ダイジョブっすかね?」
 線路事故が起こったという近くの駅で、魔宗・琢磨(ga8475)は駅員にそう訊ねた。
 駅員によると、事故の被害が頻発するようになったのはここ一、二か月の間のことらしい。
 他の――発電所停止などの事故と連鎖する形となり、線路事故の有無に関係なくどこの交通網もひどい有様になっているそうだ。
 事の状態は、想像していた以上に悪い。

 聞き込みを終えた琢磨とトリストラム、そしてレイヴァー(gb0805)は線路事故の現場に向かった。
 ひしゃげた列車の車両が停車したまま残っており、キメラらしき姿の死骸と、そして死骸から流れ出たであろう大量の血痕が散乱している――。
「現場100回‥‥とは言う物の、何の変哲も無い素朴な線路っすねぇ」
 とりあえず死骸やら血痕やらは無視して、琢磨は周りの風景を見渡しつつそんな感想を漏らす。
 イタリアの列車は、もとよりあまり速度を出さない。そのため旅客車両であった列車の乗客には死者は出なかったらしい。
 が、事故を起こした先頭車両の内部に入り込んでみると、それでももはや列車の車両としては使い物にならないほどに破壊された状態になってしまっているのが分かる。
 外で流れたのはキメラの血。
 だが、この中で血を流した人間もいるはずだ。
 そんな血生臭い事故が起きた時のことを想像し――琢磨は小さく身震いした。
「‥‥そろそろ動きましょうか。
 何かしら居るはずです。この線路事故を起こそうとしている何者かが、ね」
 一通り観察を終えると、トリストラムはそう言って踵を返した。

 確保してあった連絡手段――近くの街の公衆電話から、ULTにあるユネの執務室の電話に繋がる番号をコールする。
「‥‥今はこれだけ、かな。お疲れの所、申し訳無いです」
 現在の調査だけでは目立った異変には気付けていない。申し訳なさそうに言うレイヴァーに、
『いや、気にせずに頑張って』
 電話越しにユネはそう言うのだった。
 次いで、これまでに連絡をしてきた他の班の情報を共有するべくレイヴァーに伝える。
 といっても、こちらも目立った戦果があるわけではなかったが。

●蒼い闇
 アグレアーブルとクラウディアの輸送ルート対処班。
 最初に見てきた場所以外にも数ヶ所、陸路で崩壊している場所を見、またクラウディアが周辺住民に聞き込みを行ったが――抱いた感触は、やはり最初と同じだった。
 相変わらず、何が起こっているのか特定できない。自然災害か、人為的なものか。住民も証拠となり得るような情報は持っていなかった。
 ユネに電話をした際に道路をふさぐ瓦礫の除去作業を進言してはいるし、同時に地盤の緩い箇所に起こりうるであろう二次災害の注意喚起も行っているが――仮に後者だった場合、最悪焼け石に水、もっとひどくなれば効果をなさない可能性もある。
 だが、今思いつく中では他にいい対処方法は思いつかない――。
 二人は一度陸路の調査を打ち切り、本土とシチリアを結ぶ海路へ向かった。

 シチリア島は以前行われた大規模作戦の前後を通じ、人類とバグア軍との競合地域である。今は比較的落ち着いた戦地だが、アフリカとの位置関係上一応最前線といえる。
 その為、配備されているバグアの戦力もそれなりに多いだろうという推測は出来ていたが――アグレアーブルは被害状況などの調査を行った結果、粗方の種類のワームが存在する上に、それぞれ少なくとも五十機前後は存在している、という事実を知る。実際、時間はまだあったのでシチリアに直に調査へ赴こうとした二人を、港の人間は揃って止めた。
 それ故当然船の損害は激しく、また輸送が一切行えない状態であるため――シチリア島の住民及び兵士は、ただでさえ輸送ルートが崩壊している本土以上に物資に困窮している。
 一刻も早く、輸送ルートを確保するための依頼を用意する必要がある――アグレアーブルは急ぎ準備をし始めた。

 ■

 ジーザリオでキメラが出没すると思しき地点へ向かった三人の方はと言えば――。
「戦闘‥‥開始‥‥だな‥‥‥」
「二人とも、お願いしますね♪」
 案の定、南方から現れた猿キメラの群れと遭遇していた。三人はそれぞれに武器を構える。

 結論から言ってしまえば。
 猿キメラは数の有利こそあれど単体の能力はそれほど高いわけではないらしく、三人が押され気味だった形勢を覆すのにそれほど時間はかからなかった。
「一発で撃ち抜くっ!」
 先制攻撃は緋音の弓。
 三人の存在に気づき接近しつつあったキメラの群れのうちの一匹の脳天を宣言通り撃ち抜いた。
 仲間がもんどりうって倒れたことに警戒心を抱いたのか、突進と呼ぶべきだったキメラの勢いは緩む。それを機に、ゼラスと百白も動き始めた。
 敵の中に、ボスと呼ぶべき存在は――?
 こちらからキメラとの距離を詰めつつ観察する三人。
 はたして、ボスらしきキメラはいた。他のキメラは全身が黒いのだが、そいつは顔だけは逆に白かったのである。また、図体もひときわ大きい。
 最初の緋音の一撃で動かなくなってしまったことを考えると、決してキメラは強くはない――。
 その余裕もあって戦局を優位に進め、最終的にはボスと手下一匹だけを残した。
 このままでは不利と見たか、二匹は背中を向けて逃げ始める――。
 が、
「‥‥逃がして追うってのも一興だが、今は目先の脅威を減らすのが先決か」
 追撃がないわけもなく、そう呟いたゼラスの鎌と百白の剣が二匹のキメラを同時に切り裂いた。

 ■

「案の定、だな‥‥」
 夕暮れに染まる街。
 物資輸送を終えた暁恒は最後に停まった都市でパトロールを行っていた。
 始めた矢先そう呟いたのは、若い男が二人がかりで路地裏に女性を連れ込もうとしていたのが見えたからである。いくらイタリア人とは言え、女性の抵抗ぶりを見るととても愛を謡おうとしているような雰囲気には見えない。
 場所は閑静な住宅街で、今のところ街自体は清潔さを保っている。
(「それも‥‥時間の問題だろうがな‥‥」)
 そう暁恒が思うのは、やや離れたところから見ても男二人の身なりが決して清潔とは言えなかったからだ。対して女性の方はまだマシと言え、それが男たちが立ちはだかった理由となったのだろう。
 ともあれ、暁恒はすぐさま彼らの後を追い、そして男たちを警察に突き出すのだった。

 ■

「ん‥‥やっぱりここにも」
 数ヶ所目の発電所で、エリアノーラは呟く。
 探査の眼とGooDLuckを駆使して見つけたのは、機器が不自然に破壊された痕跡。
 発電所は当然ながら都市からは離れており、また敷地の周りは厳重なガードが施されている。
 しかし、都市から離れている――即ち人目につきにくい故の綻びというものも存在しないとはいえない。
 その綻びからキメラが侵入し、壊していったのではないか――今いる発電所ではまだ見つけていないが、実際綻びがあった発電所もあるだけにエリアノーラはそう考えざるを得なかった。
 周囲を見渡す。
(「――キメラはいない、か」)
 一度溜息をついてから、今度はどこか外壁に不自然な場所がないか探し始めた。

 ■

 そして――。

●繋がる先は何処
 一日が終わる――。
 各班から何度かユネの部屋に電話が行ったものの、結局目的達成に至った成果といえば――アグレアーブルが行った依頼準備、クラウディアが依頼した瓦礫除去、暁恒の物資輸送、それとエリアノーラが発電所調査で得た情報を元に対応の依頼を行ったこと程度のものだった。
 今回の目的は『調査』ではなく『対処』なのである。
 勿論対処とて調査の上で成り立つものだ。しかしタイムリミットが存在する以上、調査に気を取られ過ぎてはそちらに時間を割く時間が少なくなるのは当然の話だった。猿キメラは確かに撃退されたが、それだけで南部全体におけるキメラの被害が収まるものでもない。住民の不安は残るだろう。

「やっぱり問題は物資か‥‥」
 能力者たちとのやり取りを終えた後、ユネは一人頭を抱える。
 暁恒が物資輸送を行ったことで半島南部の都市にはひとまず物資は行き渡ったが、何せ積載量の問題もある。他の問題が根本的な解決を見ない以上その場しのぎになってしまうだろう。土砂崩れが人為的なものによる可能性が残る以上、瓦礫除去も解決出来たと言えるわけではない。
 発電所停止も、列車を使えなくするという意味では輸送ルート崩壊に一役買ってしまっている。それを踏まえて考えると野良キメラ被害など言わずもがなだ。
 となると、やはり――?
 睡眠不足と疲労のせいか少し朦朧としてきた頭を懸命に働かせ。
 とりあえず海路輸送をどうにかすべく、ユネはアグレアーブルから寄せられた依頼のための情報を整理し始めた。