タイトル:愛してるって言ってマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/26 00:24

●オープニング本文


 偶然の積み重ねっていうのは本当に恐ろしい。
 あんな思い込みをさせるなんて。

 ――もっとも、あながち間違いじゃないあたりが何ともはや。

 ■

「これも運命って言うのかもしれないよね」
 呼び出した要件も言わずにそんなことを言い出したユネに、
「何がっていうのをまず言いなさいよ‥‥」
 女性能力者はすかさず突っ込む。
 ユネは軽く流すように「分かったよ」と苦笑した。
 そして要件を切り出す。
「あるところに――も何も君達と同じ傭兵なんだけど、ちょっと変わった体験をしている男性がいるんだ」
「変わった体験?」
「いくつかの依頼で、向かった先で同じ女性にばったり会うらしいんだよね」
「――は?」
 どう反応したものか迷ったらしい。集った能力者の誰もが何とも形容しがたい表情を浮かべる。
「別に僕らオペレーターが彼に何度も同じ場所に行くよう指示したわけじゃないし、依頼内容だって毎回違う。
 なのに何故か、ここ最近は毎回毎回会っちゃうらしいんだ」
「‥‥なんかそれ、怖いわね」
「それは彼自身も言ってた。‥‥噂をすれば、と」
 ユネの視線を追って、能力者たちは背後を振り向く。
 ――部屋の入口のドアに寄りかかるようにして立つ、一人の男性の姿が目に付いた。ユネの言葉からすると、どうやらこの男性が奇妙な経験をしている能力者のようだ。
「今ちょうど君の話をしていたんだ。折角だし、詳しい話は君からしちゃってくれないかな」
 オペレーターから依頼説明を丸投げされた格好になった男性は一瞬たじろいだ。
 が、能力者たちの視線を一身に浴びて何かを諦めたのかとぼとぼとした足取りで歩み、ユネの横に立つ。
「オペレーターの話からもう察しているやつもいるかもしれないけど、今回の依頼は結構俺の個人的な事情も含んでいる」
「結構どころかほとんどそうなんじゃないの?」
 心なしかうんざりした表情で一人の女性能力者が言う。だが男性は首を横に振った。
「まだそこまでは聞いてなかったのか。一応、依頼内容はキメラ退治だぞ」
「‥‥わかった。それに貴方もついてくけど、行った先にまたその女性がいるんじゃないか、と考えてるわけね」
 能力者の指摘に、神妙な面持ちで肯く男性。
「俺だけじゃない、あっちも俺と何度も会ってることに気付いててさ。
 ‥‥それだけならホントにただの偶然なんだけど、そいつ、俺の幼馴染なんだよ」
 何人かの能力者の口が開いたまま塞がらない。偶然すぎる事象にもはや呆れているのだ。
「言いたいことをずばずば言うし、おまけに思い込みが激しくてさ。
 傭兵として再会したら『私のために』とか普通に言うし、何度も顔を合わせたら合わせたで、こないだなんか
『私のこと好きなんでしょ。だから今でもこうやって何度も助けに来てくれるんでしょ』
 とか言うんだ‥‥」
 それはもう自意識過剰なんじゃ。誰かがそんなことを呟いた。
「ところで、実際のところ貴方は彼女のことをどう思ってるの?」
「‥‥それを本人の前で口にできたら苦労しないんだって」
 そっぽを向いて多少顔を赤らめる男性。それが答えらしい。
「――で、結局どうしたいの?」
 女性能力者の口調が少し苛立ちを帯びているのはきっと気のせいではない。
「キメラ退治のついでに‥‥もしあいつがいたら、言ってることは当たってるから、頼むから平気で口にしないでくれって頼んでほしいんだ。
 俺が言ったら言ったで余計に舞い上がりそうだし」

 ――要はあんたが口べたなだけだから人に任せるんでしょ。
 誰かがやはりこっそりと呟いた。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
ルフト・サンドマン(ga7712
38歳・♂・FT
桜塚杜 菊花(ga8970
26歳・♀・EL
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

●甲斐性なしと野次馬たち
 夏と形容するにはまだ程遠いものの、気候は日を追うごとにその暖かさを暑さに変えつつある。
 市街地を外れると、そこはのどかな農村地帯。その中を歩く、九人の能力者の姿があった。
「不思議な縁っていうのもあるものだ。それにそれが幼馴染同士で互いに好意を持っているとくれば、これはもう出来すぎたドラマ級の偶然じゃないか」
 絶対にうまくいくな、という言葉通りに確信をもって木場・純平(ga3277)は肯く。
 勿論今回の目的はキメラの討伐にあるわけだが、若者たちのドラマチックな関係を見守りたいとも彼は思っていた。野次馬根性全開である。
「お互いに想い合っているのですから、アマネさんの為にもきちんと結ばれて欲しいですわね」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)はそう言って目を細める。

「偶然かどうかはともかく、きみ自身としてはどう想うの? 彼女のことは。
 はっきり言ってみれば案外自分の気持ちって固まるもんだよ♪」
 新条 拓那(ga1294)はそう笑いながらケイイチの背中をぱしぱしと叩く。
「あいつのこと、かー‥‥」
 いまいち浮かない表情のケイイチは、歩きながらもぼんやりと空を見上げて呟いた。
「好きだよ、好きだ。うん。一緒にいて楽しいと思うのは今でも変わらないし‥‥」
 でも、とケイイチはそこで言葉を切る。それを素直に彼女に伝えることが出来ない自分に悩んだからこそ、彼はこうやって仲間に助力を請うたのだ。
「人伝に伝えられた思いで彼女が本当に喜ぶのか、よく考えてほしい」
 しかし、ルフト・サンドマン(ga7712)は真摯な表情でそんなことを言う。
 彼の言い方に、ケイイチも感づくものがあったに違いない。
「ケイイチ君、彼女には貴方の口から言ってあげないと、意味がありませんよ?
 私たちが彼女に伝えれば喜ぶでしょうが、結局は貴方の言葉を待つのに変わりありませんから」
 ジェイ・ガーランド(ga9899)のこの言葉を受け、何かを諦めたようにがっくりと肩を落とす。
「やっぱりそうなのかな‥‥」
「お互い‥‥好きあってるなら‥‥。何も‥‥問題ないじゃ‥‥ない‥‥?
 あとは‥‥ケイイチさんの‥‥勇気次第‥‥」
 幡多野 克(ga0444)はぽつぽつと、小刻みに言葉を区切りながら語る。
 アマネが何度も「好きなんでしょ」と言ってくるのは何故か。
 ――それは思い込みもあるけれど、つれないケイイチに対して不安を抱いているからだと克は考えているという。
 だから自分の想いが間違っていない事を確かめたくて、何度も聞くのではないか。
 一度きちんと伝えてあげれば、もう人前で「好き」などと口にすることはないのではないか。そう克は思う。
「男なら腹括って『好きだ!』って告白してきなさい!」
 むう、と考え込むケイイチに桜塚杜 菊花(ga8970)がそう檄を飛ばす。
 そんな矢先のことだった。
「あー!」
 どこからかそんな華やいだ女性の声が聞こえたのは。
 声を聞いた瞬間ケイイチの表情が強張ったのを能力者たちは見逃さなかった。まさか――。
「アマネ‥‥」
 見晴らしの良い道路、今歩いている場所の少し先のT字路のところに立ち尽くす女性を見、ケイイチは声を絞り出す。
 一方、彼以外にも他とは違った反応を見せる者がいた。
「久しぶりね」
 シュブニグラス(ga9903)である。彼女は以前別の依頼でアマネと顔を合わせたことがあるらしく、アマネの方も彼女に気づくとあ、という声を上げた。
 一瞬きょとんとした表情を見せたアマネだったが、すぐにケイイチの方を見て表情を輝かせる。
「やっぱり今回も来てくれたのね!」
「やっぱり?」
 能力者たちは――ケイイチも何故か――怪訝な表情を浮かべる。
 それを分かっているのかいないのか、ともかくアマネは能力者たちの方に駆け寄ってきて――。
「っておい、そういうことか!?」
 ケイイチが慌てた声を上げるのも無理はない。
 アマネを追いかけるように、T字路の陰から件の二匹の熊キメラが姿を現したのだ――!

●何はともあれキメラ退治のお時間です
 ともかく、戦わなければ始まらない。
「一度にヤラレに出て来てくれるなんて手間が省けて助かりますね」
 とは菊花の言だ。
 一斉に覚醒を済ませた能力者たちは、アマネを護るように後ろに行かせてからキメラたちへの攻撃を開始した。

「人の恋路を邪魔するキメラは俺らにやられてお星様になっちゃいな!」
 拓那はそう叫んで超機械を操作する。距離を置いての先制の一撃は、自らの体の一部でしか攻撃できないキメラのうち一匹の動きを止めた。
 動きを止めたキメラには、さらにクラリッサが放った弱体化の練力が命中する。心成しか凶悪な気配も弱まったキメラを、横から衝撃と掬い上げられる感覚が襲った。覚醒したことで肌が変質した純平が、アマレスのタックルの如くキメラの足をつかみ上げたのだ。
 懸命に純平を振り払いながらも、キメラは腹を空へ向けてしまう。その腹を、精度の高い射撃が射抜く。射撃を行ったジェイはそれを見るまでもなく次の射撃体勢に入っている。
 次々と襲う弾丸の雨、それが止んだ次の刹那にキメラの体を貫いた感覚は、
「これで終わりだ」
 死を告げるルフトの斬撃だった。練成弱体を受けていたこともあり、熊特有の分厚い胴の筋肉さえもルフトの刀は真っ二つに切り裂いていく。
 一方もう一匹のキメラは、そう簡単には片付かないようだった。
 能力者の先制攻撃を逃れたキメラは、自分に対して戦闘態勢をとった能力者たちに突進する。
 スピードさえ見切れれば簡単によけられる、とは教えられたものの、一発目からその見切りを成功させることは難しい。
「くはっ」
 狙われたケイイチとシュブニグラスがよけきれずに数歩後退する。幸い二人とも傷は浅く、シュブニグラスに関しては態勢を立て直した勢いでストレートの長髪を靡かせながら再度キメラに接近――砂錐の爪を装備した足でもって突進態勢をやめた直後のキメラの背中を蹴り飛ばす!
 数歩よろけたキメラに対し、今度は克が接近する。
「二人の邪魔はさせない――」
 月詠に平時以上の練力を伝播させ、一撃を見舞う。その一撃は決して綺麗に決まったわけではなかったがキメラの動きを再度止めるには十分で、すぐさま菊花が攻撃を行う隙を生みだした。
「ケイイチさん、貴方がとどめをさして下さい、彼女に良い所をみせなさい」
 一度射撃を終えスコーピオンを構えなおした菊花は、そうケイイチに伝える。
 彼は一瞬逡巡したが、これも能力者たちが自分のためにしてくれている演出の一部だと判断したのだろう。再度菊花が引き金を引いたタイミングで駆けだした。
 こちらのキメラはしぶとく、また能力者の運も決してよくはなかった。クラリッサが弱体の練力をたたきこんでもなかなか致命的な一撃を与えられず、逆に同胞を倒されなりふり構わなくなったキメラに爪を振りまわされる。一対多であることが何よりの幸いで、もっと少ない人数で倒すとなるとそれなりに深い傷を覚悟せざるをえなかっただろう。
 しかし、結局は『一対多』なのだ。もともと群れて行動していた以上、一匹で持ちこたえられている時間には限界がある。
 幾多の攻撃を受け爪は剥がれ、体中に裂傷や銃痕、打撲痕などの傷跡を作り――いよいよ満身創痍というところまでキメラを追い詰めた。
「遊佐殿、今だっ!」
 ルフトの声が飛び、次の瞬間ケイイチはキメラに肉薄。
 そして――最期の一撃でもって、キメラの胴体をぶちぬいた。

●煮え切らない男の一大決心
 思っていたよりも手こずった。が、それは皮肉にもいい雰囲気を作るのに一役買っていた。
「これで彼を診るといいよ」
 拓那はそう言って、アマネに救急セットを渡す。彼とは誰のことかは言うまでもない。
 なぜ拓那が自分にこれを渡したのかアマネが考えたかは分からないが、ともかく小走りに彼女は戦闘の後処理をするケイイチのもとへと走っていった。

 後処理も終わり――。
「‥‥さて、キメラ退治は無事完了。ケイイチ君、後は貴方の独壇場ですよ」
 ジェイはアマネを前にして立ち尽くすケイイチの肩をぽんぽんと叩く。
 あそこに行けば誰にも邪魔されませんよ、と彼が指さした先にあるのは少し遠くに見える小高い丘の上だった。
 え、一人で、という強張った表情でケイイチは能力者たちを振り返る。
 能力者たちは揃って肯く。もちろん一人でです。
「まぁ、はっきり言うのが恥ずかしいってのは俺も経験はあるけどね。
 言うべき時は伝えないと。誰かに取られてからじゃ遅いんだぜ?」
 拓那の言葉に、ケイイチは一瞬硬直した。
 誰かに取られてからでは遅い――。そんな焦燥感が、ケイイチの中で過る。
「自分の本当の気持ちというのは案外気付かないものですわ」
 クラリッサは自らの胸に手を当て、語り始める。
 ただ、こんな時代ですもの、明日がどうなるかなんて誰にも分かりません。特にわたし達能力者は選ばれた者としての責務を果たす為に日夜戦い続けているのですから、もしかしたらもう二度とアマネさんに会えないかも知れません。
 そんなことになった時、本当の気持ちを告げれなかったら悲しいと思いません?」
「‥‥それは」
 さらなる揺さぶりに、ケイイチの表情が揺らぐ。 
「余計な事は言わないで一言でイイんだよ」
 駄目押しの菊花の一言。
 ――未だ逡巡を残しているように見える足取りながらも、ケイイチはアマネに歩み寄り、
「‥‥ちょっと話がある。ここじゃなんだし場所変えよう」
 丘を指し示し、一人で先に歩きだした。
 見るからにテンションの上がったアマネが「待ってよー」と早足で追い付いても、その度にケイイチは更に早足になって引き離す。
 しかしそれは、単なる照れ隠し。若いなあ、と誰かが呟いた。
「それじゃ、俺たちも見守りにいこうか」
 ケイイチとアマネの姿が少しばかり遠ざかった後、拓那はそう言った。

 二人が丘の上のベンチに座っているのを発見し、能力者たちはそれぞれ近くの木々の陰に隠れた。
 克や菊花が頑張ってと念を送り、他の者も固唾を飲んで見守る。
 しかし――しばらく時間が過ぎても。
「‥‥動きがないですねえ」
 ジェイははあ、と溜息をつく。
 ベンチの二人は一向に動く気配がない。というより、ケイイチが何も切り出せていないといった方が正しそうだ。
「こりゃあ最終手段の出番かな」
 拓那はおもむろに、小さな機械を取り出した。
 つまみを調節し、いくつかあるボタンのうちの一つを押す。
 すると――

『偶然かどうかはともかく、きみ自身としてはどう想うの? 彼女のことは。
 はっきり言ってみれば案外自分の気持ちって固まるもんだよ♪』
『あいつのこと、かー‥‥。
 好きだよ、好きだ。うん。一緒にいて楽しいと思うのは今でも変わらないし』

 戦闘前の拓那とケイイチのやりとりが、二人にも聞こえるであろうボリュームで再生された。あの時に録音しておいたのである。
「ちょっ、えー!?」
 思わぬ音声に驚いたケイイチはベンチから立ち上がり、顔を真っ赤にして周囲を見回す。誰の仕業かは彼も分かっているだろうが、みすみす見つかってやるつもりも能力者たちにはない。
 そしてそんなケイイチを、アマネは心底うれしそうな目で見上げていた。
 何度も何度も周囲を見回すケイイチの服の袖を、ぐい、と一度引っ張る。
 ――ケイイチも彼女の方に顔を向ける。ただし照れているのか、視線を合わせようとはしなかったが。
「ねえ」
「‥‥何だ?」
「もう一度‥‥今、目の前にいるケイイチの口から聞きたいな」
 純粋な気持ちのこもった視線が、ケイイチを射抜く。
 ――そもそもここに二人で来た時点で、ケイイチが取るべき行動は決まっていたようなものだ。
 ケイイチはついに観念したらしく、今度はきちんとアマネの瞳を見据えた。

 そして――想いを綴った言葉を紡ぐ。
 それが、彼女に届かないわけがなく。

 ■

「でも‥‥凄い縁だよね‥‥依頼先で必ず会うなんて‥‥。きっと‥‥仲良い夫婦に‥‥って‥‥気が早すぎ‥‥?」
 克の言葉に、ケイイチがはええよ、と顔を赤くして突っ込む。
 告白が終わった後、もういいだろうということで能力者たちも再び二人の前に姿を現した。録音機を携えてきた拓那をケイイチは恨めしそうに見つめたものの、今更どうこうするつもりはないらしく結局は溜息をついただけだ。
 そんな様を見ていた拓那にも去来するものがあった。思えば自分も、相方に告白するまでには彼と同様素直になれなかったものだと過去を思い出し、
(「俺ももう少し素直になれたらなあ‥‥」)
 などと考えた。
「せっかく故郷に来たんじゃ、帰りに二人の思い出の場所にでも寄ってみてはどうかな」
 まだラスト・ホープに帰るまでには多少時間がある。ルフトが放ったこの言葉にケイイチとアマネは顔を見合わせ、どちらからともなく肯く。
 振り返り、能力者たちを残し二人は歩きだす――その最中、不意にアマネは恵一の腕に抱きついた。
「お、おい!?」
 ケイイチは慌てて振りほどこうとするものの、アマネが離れそうな気配はなく――結局ケイイチも諦めて、二人はそのまま丘を下っていく。
 二人の姿が見えなくなるまで、能力者たちは丘の上から彼らの姿を見守っていた。