タイトル:【RR】絡みつく叛意マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/30 21:33

●オープニング本文



 ロシア某所、バイコヌールへのルート上にその基地はあった。
 山岳部に備えられたそれは採掘と防衛、2つの役割を兼ねている。大量の物資に支えられながら人類の攻略を阻んできた。
 UPCはこの基地攻略指揮官に小林竜冶大佐を任命した。
 その旗下に配属されるのは複数軍からなる混成部隊だ。
 小林大佐は早速基地攻略を開始。
 手始めに基地への空爆を行いその防衛施設を壊滅しようと試みる。が、空爆は所定の効果を発揮することが出来なかった。
「対空能力が侮れませんね。アグリッパなども存在していると考えるべきでしょう」
「それだけではない。基地の大半が地下に埋まっているのが原因だろう」
 UPCロシア軍のアレクセイ・ウラノフ、特殊作戦軍の一之瀬・遥、両大尉は失敗に関してそう分析する。
「まぁ理由はともあれ最初の作戦は失敗だねぇ。まいったまいった‥‥」
 にも関わらず、小林大佐は眠たげに、のんびりとした口調を崩さない。
「中佐、君は今後どうすべきだと思う?」
 そう発言を促されたのは欧州軍オレーグ・シードル中佐。階級からも、実質今作戦における副指揮官である。
「単純に考えれば、空が駄目なら地上からということになるでしょう」
「その意見には賛成です」
 そう同意しながらグリゴリー・アバルキン大尉は続ける。
「こちらにも戦力が揃っていることだし、敵基地を四方から取り囲んで一気に殲滅を‥‥」
「いや、それはダメだ。今のまま三方からの攻撃で行く」
 小林は有無を言わせぬ口調でそれを遮る。
「何故です。それでは敵に逃げる余地を与えることになります」
「いいのさ、逃がして。目的は基地に存在する敵の全滅じゃないだろ?」
 確かに、命令は基地の攻略だ。逃げる余地を残すことで敵に撤退という選択肢を与えてやろうという事だろう。
「‥‥四方を取り囲むことで降伏に至らしめるという手もあると思いますが‥‥」
「そうなりゃ敵さん、自棄になって無茶するだけさ。二千年も前からの定石だよ」
 ウラノフ大尉がそう提案するが、小林大佐はそれも却下する。その理由として、地下の基地がどの程度の規模かは不明である点を挙げた。
「その基地が自爆すれば取り囲んでいる部隊が足元から纏めて吹き飛ばされることもあり得る、と‥‥」
 小林大佐の言葉を反芻するように呟くシードル中佐。そうなれば、現状で取れる手は他に無いか。
「そういうことだね。それでは予定通り、北をシードル中佐、北西をウラノフ大尉、西を俺と一之瀬大尉で攻める。アバルキン大尉は‥‥」
「‥‥今作戦に於いて我々の出番はなさそうなので失礼する」
 小林大佐が何かを言う前に立ち上がるアバルキン大尉。
 何事か独りごちると、その場を後にした。やれやれと肩を竦めながらも小林大佐はそれを咎めなかった。
 結局、全員が全員納得したわけではなかったが、作戦自体は決せられた。


「戦況は膠着か」
 北の指揮車両の中で、オレーグは難しい表情で腕を組んだ。
 膠着、というよりも、動くに動けないといった方が正しい。
 施設破壊を行なっている部隊の作戦がまだ完了しておらず、彼らが脱出するまでは下手に攻めれば被害が大きくなるだけだった。
 ロシア出身であるオレーグにとってはこの中央アジアという戦地には思うところはあるものの、彼はまだ冷静だった。
 しかし――。
「中佐、まだ攻め上がらないですか」
 ジャミングの中、ワイズマンを介して通信が入る。
 ダヴィド中尉。バグアとの長い戦いの中出会った部下<戦友>であり、オレーグ子飼いの中隊の隊長でもある。つまるところ、北に位置する部隊の核を担う人物の一人と言っていい。
 そして彼もまたロシア育ちで、思うところがあるという意味でもオレーグと共通している。
 ただ、
「さっさといつもみたいに命令くれりゃ、あっちの部隊なんて速攻片付けてきますよ」
 ――高揚と、現場の指揮官としてオレーグがいるということで責任感から若干解放されているからか、逸る気持ちを抑えきれずに居るようだ。
 いつものオレーグなら、いっそ暑苦しいと呼べるほどの号令で兵士たちを鼓舞するところだ。だが、ここは。
「まだだ、今回は他の部隊も連動して動いているのだから、事は慎重に運ばなければならない」
 押し黙るような口調だったのが癪に障ったのか、通信越しの部下の声もまた低くなった。
「‥‥あんた、ここに来てからおかしいですよ。弱気ですか?」
「そうではない。今我々の目の前にいる敵勢も、敵の副官が率いる精鋭部隊だぞ。慎重になって何が悪い」
「っていう問答を、もう何度もしてますよ」
 ダヴィドは吐き捨てるように言う。
 そして――。
「もうバグアには後ろ盾はいないんだし、怖いモノなんて何があるっていうんですか。
 ――あんたが動かないなら、俺が動きますよ」
「おい、何を」
「ダヴィド中隊、全隊突撃を開始しろ!」
 オレーグが止める間もなく、よく統率の取れた――取れすぎた中隊は、隊長の命令をきっちりと順守した。
 一つの山が動き出した以上、他の山も動かさざるを得ない。
 こんな時――バグアとの戦争が間もなく終わる今だからこそ、被害を軽減させることが大事だというのに。
 その為に。
 一番軽減出来る方法は、もう取れない。なれば次善策を取るしかなかった。
「全軍、ダヴィド中隊に続いて突撃を開始!」
 オレーグはいつもの様に声を張り上げたが、その表情はどこまでも苦いものだった。

 ダヴィドがオレーグの部下でいたのは、オレーグのことを信頼していたというだけではない。
 勿論その気持はあるのだが、それ以上に、同郷の士としてバグアに侵略された故郷を憂う気持ちに近しいものを感じていたからだ。
 比較的自分を自由に動かせてくれるのも、それが理由だと思っていた。
 だが、オレーグとダヴィドでは決定的に違っていたものが一つあった。
 バグアへの憎しみ。
 オレーグが事を慎重に運ぶよう指揮した時、ダヴィドは「この人のそれは俺に劣る」と認識した。
 それから芽生えたのは、不信感ではないが或いはそれに近いものだ。
 この人のやり方ではバグアは地球上から何時まで経っても追い出せない――。
 だからダヴィドは、従うことを止めた。

(そうだ、後ろ盾なんかないんだから副官だろうと怖いことなんかあるか)
 そう強く自分に言い聞かせ、ダヴィドは信頼する数名の部下とともに――副官とその側近がいるポイントへ向かっていった。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●突破
(この状況でまだエアマーニェに従わない残党か‥‥死にたいなら勝手に自殺しとけば面倒が減るのに)
 乱戦の中、パピルサグ『フィンスタニス』は至近距離に居たゴーレムを、ナックルフットコートを装着した拳で殴り倒す。そのパピルサグのコックピット内で、ルナフィリア・天剣(ga8313)は人知れず溜息を吐き出した。
 まぁ、どちらでもいい。自分はいつも通りやるべきことをやるだけだ――。
 オレーグから、ダヴィドの独断行動についての連絡が傭兵各位に入ったのは、まさにそんなことを考えた直後だった。
「了解。全速で状況を打破する」
 そうは言っても、流石に一瞬苦い表情にならざるを得なかったが。

 ダヴィドが早まった判断をした理由は、ルナフィリアには分からない。
 けれども一方で、新居・やすかず(ga1891)はある程度理由を絞り込むことは出来ていた。
(祖国解放を目前にして気が急くのか、憎しみに逸ったのか分かりませんが、ここは未だバイコヌールの途上です。
 これでは、本命に参加できなくなってもおかしくないでしょうに)
 やすかずは気を取り直すと煙幕銃のトリガーを絞り、進路周辺に煙幕を発生させるとブーストをかけた。

 周囲には高密度のジャミングが張られており、ワイズマンを介さずの通信はほぼ不可能といっていい状態だった。
 突発的事態に陥った為、傭兵たちの相互通信を行うにも軍のワイズマンを介して行われる形になったが、故に行動開始に若干のタイムラグが生じがちになる。

「数が多いが突破出来ない程ではないな‥‥。俺が道を開く、皆は一気に抜けてくれ」
 一方、やすかず機が煙幕を張るより少しだけ前、ヘイル(gc4085)機タマモ『セリア』はやすかず機ら三機からは少し離れた場所にいた。そう行動方針を固めたのは直前に、
「右前方が、他の戦域に比べ友軍が多いようです。そこを突破してください」
 という里見・さやか(ga0153)からの通信がワイズマン経由で届いたからだ。味方が多いということはイコール、敵の密度は薄いということだ。
 乱戦の為正確な位置は把握出来ないが、後方には他の傭兵のKVもいるのは周辺の戦況から察しがついている。だからヘイルはそう言ってブーストをかけ、一気に前進を始めた。
 当然、先頭を往くヘイル機へ攻撃が集中し始める。それに対しヘイルは、
「邪魔はさせん。お互い様だろうがな。付き合ってもらおうか!」
 ファランクスで敵群を撹乱し、生み出した僅かな綻びを切り裂くように機槍を前に推し進む。それでも届いた攻撃は、シールドや超伝導RAで被害を軽減させた。
 ただ未だ敵群の妨害は激しく、ヘイル機を追って行動を始めた後方のKVの姿も徐々に大きくなりつつあった。

(上官を弱腰と見た現場の独走ってとこか。中佐も大変だ。
 ダヴィド中尉の気持ちもわからなくもないけど、いつまでも戦争中と同じ考えじゃ‥‥ね)
 オレーグからの要請を受けて、シュテルン・Gのコックピットで赤崎羽矢子(gb2140)がそんなことを考えているとややあって前方のヘイル機からの通信が届いた。
「了解、速攻で終わらせるよ!」
 同じくワイズマンを介して肯きを返すと、盾を構える。
 プラズマライフルと機槍で前方の敵を一掃すると、ブーストをかけて強行突破。ヘイル機が築いたルートに乗ってからも尚、全速で前へと急いだ。

(‥‥やれやれだ)
 同じくヘイル機が作った前方への道を辿りながら、村雨 紫狼(gc7632)は愛機タマモ『超魔導合神ブレイブダイバード』の中で溜息を吐きながら胸中で毒づく。
(後ろ盾がない? 違うね、バグアたちはずっと外宇宙から俺たちを観察してるだろ。
 そして500年後、戻ってくんだ‥‥俺たちは寿命が短いんだぜ)
 考えながらも進む道は、やがて空いた穴を塞ぐかのようにそれまで以上の密度を以てバグアに埋め尽くされようとしていた。
 自分が最後方ならまだしも、そうではないのだからここで道を閉ざされるわけにはいかない。
 紫狼は自身が敵副官の許へ向かうことを、この時点で諦めていた。決心を固めるように、斬機刀を抜く。
「憎しみは憎しみで別、いい歳こいてダダをコネてんじゃねーよ!」
 前方に立ち塞がったHWを、横薙ぎの一閃で吹っ飛ばす。装甲を切り裂かれたHWは、数瞬空中で放物線を描いた後に爆散した。

 やすかず機が張った煙幕を、さやかは自機ウーフー2『Spenta Armaiti』のコックピットで目にした。
 時を同じくし、ヘイル機の吶喊により生じた敵群の乱れも察知する。通信は満足に通じずとも、赤外線探知でデータの収拾は十分に出来た。
 さやか機自身が近いのは、煙幕の方。ただし別方向で築かれたルートもそうは遠くない。ルートの後方に視線を送れば、ちょうど紫狼機が攻撃したHWが爆発したところだった。
 それでもまだ、敵の進路妨害の波は止まないようだった。元の密度が薄いといっても、あくまで一時的なものだ。それを隙と見なされた以上は、長くは保たないだろう。
 さやかはライフルとガトリング砲の掃射にてそれの阻止を行った後、まだ中を覆い隠している煙幕の中に飛び込んだ。
 赤外線探知による視界の補助を得て、やすかず機と、先に煙幕に飛び込んでいたルナフィリア機を追う――。

●邂逅
 副官をはじめとする部隊は、乱戦となっている戦域の最後方で待機していた。
 ――はじめにそこに到達した人類は、ダヴィドが率いる部隊ではなく。

「‥‥いたわね」
 ヘイル機が築いたルートを辿ってきたケイ・リヒャルト(ga0598)機フェニックス『トロイメライ』だった。
 オレーグの想いに気づかないダヴィド――その早まった行動への危惧は、ダヴィドが副官と刃を交える前に到達するという行動を実らせた。続いて、道を築いたヘイル機、羽矢子機と到着し、一方で煙幕側の三機も別方向から乱戦を抜けてきた。
「‥‥村雨さんは?」
「撤退ルートを残しておくから気にすんな、って言ってた」
 やすかずの問いに対し、羽矢子がそう返す。言ったそばから、また後方でHWが宙を舞って爆発した。
 強烈なジャミングの発生源は戦域のまっただ中にいるらしく、この場ではノイズ混じりではあるがワイズマン無しでも通信が出来るようだ。
 だから続いて羽矢子は、副官に向け通信を開いた。
「一応聞くけど降伏する気はない? ここの勝敗は決まった様なものだし、貴方がそうすれば助かる命もあるんじゃないの?」
 ややあって、飄々とした口ぶりの返答が返ってきた。
『そりゃご尤も。ただまぁ‥‥うちにも大将がいるものでね。
 戦う前からそうしてたら、どちらにしろ俺たちは殺される。なら、やるしかないだろう?』
「‥‥中間職っていうのも大変だね」
『素直に下が従ってくれりゃ、そうでもない――行け』
 降伏を拒否するやいなや、最後に凄みを増した命令に押し出されるようにタロスが動き出した。
 対抗して傭兵たちも動き出す――が、うち三機は突っ込んでくるタロスとすれ違うように、ティターンへと吶喊した。流石に予想からは少し外れたのか、タロスも二機がそれを食い止めにかかる。
 吶喊していたうちの一機、ルナフィリア機が見かねて減速、機杖を振るった。
 咄嗟に横に動いてタロスはそれを避け、機杖の間合いよりも内側に入ってきた。
 ――が、それさえもありうることとして読んでいたルナフィリアはブーストをかけ、ナックルフットコートを装着したまま体当たりをかました。
「デカくて重い機体にはこういう使い方もあるっ」
 至近距離でのブーストだったため、タロスは避けようもなく転倒する。倒れたタロスに更に機杖で追撃すると、先にティターンへ迫った二機を追った。

 先に迫った二機――ケイ機と羽矢子機は、共に接近戦を主とする戦い方だった。
 故に近づければ、砲撃重視のティターンに対しては優位を保てるはずだが――問題は、近づけないことだった。
 主な原因は、拡散するフェザー砲にある。人型の両肩に砲口を携えたティターンは、片方はフェザー砲でケイたちを狙いつつも、もう片方のプロトン砲と腕に装備したライフルで、タロスと交戦しているKVを狙っていた。
 ――が、ここにルナフィリア機が参戦したことで事情が変わる。羽矢子は背後からの砲撃という助けを得ると、機槍と盾を構えたまま前進する速度を上げた。
 近づかれ始めたことで、ティターンの注意が羽矢子機に傾くようになると、今度はそれを見計らってケイ機がティターンの側面から後背へ回った。
「まずは厄介なライフルとガトリング‥‥頂くわよ」
 D−02を構えつつ、呟く。その照準は、言葉通りティターンが手にしているライフルだった。
 静かに撃ち放たれた銃弾は、ライフルの腹を叩く。その衝撃にティターンも驚いたようだったが、破壊には至っていないようだった。
 だが、破壊できなかった場合のことも考慮に入れている。
 すぐにレーザーガトリングに装備を切り替えたケイは、ブーストをかけて接近するとゼピュロスブレードでライフルを真っ二つに切り裂いた。

 一方でタロスの対応に回った三機は、敵の動きが素早いのもあってなかなか捉えきれずにいた。尤も、敵の思惑通りにティターンの射線に入ることもそう多くはなかったが。
 後方からヘイル機とやすかず機の援護をしていたさやかがまたプラズマライフルのトリガーをひこうとした時、
「‥‥もう始まっているのか」
 後方の機体から通信が届いた。
「‥‥来ましたね。中佐から事情は聴いています」
 通信の主の最初の言葉で、誰何を問う必要はなくなっていた。さやかはそう、相手――ダヴィドへと言葉を返す。
「分かっているなら、アレは俺達に任せてくれ」
「お断りします。中佐の指示も、私達に任せる、というものですから」
「な‥‥んだと」
 驚愕と怒気をはらんだ言葉の後、ダヴィド機と思われる機体が後方からさやか機の前へ飛び出した。そのままブーストをかけようとしたが――、
「終戦が近い今、命を一つでも多く活かすことも指揮官の仕事でしょう!? 頭に上った血のままに部下の皆さんまで殺す気ですか!?」
「ぐ‥‥」
 激昂するさやかに、ダヴィドが言葉をつまらせてブーストを止める。
「というわけで、だ。ここは任せて、周りの掃討にあたってくれないか」
 更にたたみかけるようにヘイルが要請したものの――、
「‥‥いや、俺達が居なくとも後ろも問題ないだろう。要はあの頭さえ落とせば――」
 自分がその役目を果たしたい、という気持ちが強いのか抵抗を見せるダヴィド。
 しかしその言葉の先が紡がれることは、なかった。
「ぎゃあぎゃあ騒ぐなバカ軍人ども〜〜!!」
 比較的近い位置にいてジャミングが薄かったため話の一部始終を聴いていた紫狼が、口を挟んだ。
「命令無視の独断突撃、抗命罪って罪は重いんだよなァ!?
 てめーらは生かして返す、後は分かるな?」
「‥‥‥‥」
 拒否権はないらしい、と、『終わった』後の話までされてやっと悟ったらしい。
 不満そうに鼻を鳴らしたものの、ダヴィドは通信を切る代わりにハンドサインで自らの部隊に指示を出す。すると部下たちは周辺の敵戦力へ向かっていき、ダヴィドもまた近くのHWへと攻撃を始めた。
 ――戦域全体に異変を告げる事態が起こったのは、その直後だった。
「‥‥これは‥‥?」
 低く、長い振動。乱戦の中では気づきにくいそれに最初に気づいたのは、副官部隊との戦いが始まってから比較的自機の動きが小さかったさやかだった。
 直後、タロスや副官を含めた全てのバグアの動きが唐突に鈍った。流石に精鋭部隊の中にはいなかったが、乱戦の中には狼狽して動きを完全に止めたモノもいた。
『まいったな‥‥こりゃ』
 ――思わず漏れたらしい副官のつぶやきを聴いた傭兵の全員が確信を抱いた。地下基地の爆破に向かった者たちが任務に成功したのだと。
 そして、副官がいち早く立ち直った一方でまだ緩慢な動きになっているタロスがいたことも、見逃さない。
 ヘイル機の機槍が、がら空きになっていた一機のタロスの横っ腹を貫く。
『‥‥!!』
 パイロットの強化人間が何かを口にする前に貫かれた槍は引きぬかれ、ヘイル機がサイドステップで離れた直後に爆散した。
 それでやっと目が醒めたタロスはようやく本来の行動を起こそうとしたが、
『ばっ――』
 うち一機が見せた動きに、副官の叱責が飛んだ。
 本来であれば、ちょうど副官が放ったばかりのプロトン砲はタロスに迫っていたやすかず機に側面から命中するはずだったのだ。
 ところが、その接近に気づいて動き出したタロスはあろうことかプロトン砲の射線に躍り出た。もはや避ける間もなく、タロスの側面を紫の光条が貫く。貫通性の攻撃である故にやすかず機にも命中はしたが、此方は軽傷で済んだ。
「背後を崩されると、こうも脆いとは‥‥それも今ではバグアらしい、といえるかもしれませんが」
 激しい損傷を受けよろめくタロスを、やすかずはそう呟きながらサンフレーアで撃ちぬいた。
 そのやすかず機の後背に、残る二機のタロスが殺到する。
 が、うち一機の頭部をプラズマライフルのエネルギーが貫いた。放ったのは、さやか。
 牽制にでもなれば儲けもの、というつもりではいたが、やはりどこか冷静になりきれていないタロスには側面からの攻撃は有効だったらしかった。

『あー、こいつぁ拙いな‥‥』
 自身のプロトン砲でタロスを誤射する形になってしまった直後、副官はなおもケイら三機を相手にしつつもそう毒づいた。
 先程までに比べ、羽矢子機もケイ機も接近しやすくなっていた。加えて、ライフルの代わりに構えたガトリングも破壊され、四肢のうち両腕も羽矢子機の電磁ナックルで破壊されている。
 そんな彼へのとどめとなったのは、タロス全滅の報。
「‥‥最後まで、やる?」
『‥‥ま、手駒がなくなった以上、これ以上張らなくて済む意地張る必要もないか』
 羽矢子が問い――諦めたような答が返ってきた後。
 副官機は武装を全て外して、地面に落とした。


 直後に別方面では大将が死亡したとの報告があり、実質的に『頭』となった副官は基地全体のバグアに降伏するよう命令を下した。

「副官とはいえ、その判断は部下の命を無駄に散らせもするし救いもする」
 乱戦の跡を通り抜けながら、羽矢子はそうダヴィドに告げる。
「ロシアの復興に必要なのはあたしみたいな余所者じゃなく、貴方みたいな人じゃないの?
 中佐はそういう人を失いたくないと思ってるんだよ」
「‥‥そうかもな」
 ダヴィドもこれには、表情の読み取れない声で同意を示した。
 戦いの中で紫狼が指摘した通り、命令に背いた以上は何らかの処分は下るだろう。
 ただ、オレーグがそういう思いで下した命令である以上は、ダヴィドにとって厳しいものにはならないかもしれない。
 帰投する途中、傭兵たちはそれぞれの考え方でその行く末を予想していた。