タイトル:【CO】断罪の壁を穿てマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/21 01:09

●オープニング本文


 ヴァルキリー級参番艦・ジークルーネを始めとした部隊が、ディロロにて戦闘を繰り広げていた頃――。
 アンゴラ−ナミビアの国境では、別の戦火が立ち上ろうとしていた。

 国境線横いっぱいに広がるように布陣された、バグアのワーム群。
 その横線のちょうど中程の地点の空に、灰色のティターンの姿がある。
「そろそろ皆が来る頃かなー」
 ――それを駆るのは、白いロリータ風ドレスを纏う小柄なバグア。
 バグアアフリカ軍司令官補佐・ロアだった。

 アンゴラの防備は全体的にそれほど強固なものでなく、欧州軍は傭兵の力を借りずとも、順調に南下を果たしていた。
 急拵えの防御を敷いたところで、人類の勢いは止められないだろう。総司令官・バリウスの見解にはロアも同意するところだ。
 逆に言えば、その程度で刃の切れ味が鈍る相手なら――。
(きっとルトもラファも、死ぬことなんかなかった)
 そう思うから。

 だからこそ、人類がアンゴラへ進攻し始めた頃からロアはこのラインで布陣を張る準備を行なっていた。
 この動きも、ある程度は人類に悟られているだろう。
 ――勿論、奇策の準備はしてある。
 奇を衒う、秘策を練る。そういったことが、ロアの得意分野なのだ。

(――ルト)
 今は亡きプロトスクエア白虎・ゲルトのことを想う。
 彼が死んだと聞いた時の衝撃は、今でも忘れ得ない。
 地球侵略前からの仲間意識、というのも勿論ある。
 しかしそれ以上に、この身体に憑依してから芽生えた感情がゲルトの死を通じて別の感情をも生み出し、今のロアを衝き動かしている。
 新たに生まれたその衝動の名は――憎しみ。かつてのロアには、なかったものだ。
 でも、とロアは頭を振る。
 死者は戻ってこない。それはバグアも同様だ。そこは最終的に割り切るしかないとしても。
(ルトが遺したモノは、人類を嘲笑うのには十分過ぎる力を持ってるんだ。
 ――それをボクが、証明するから)
 ゲルトの真に恐ろしい性質は、穏健派であるバリウスに忠誠を誓いながらも、自身は強硬派の如く人類を苦しめることに一切の妥協を赦さなかった点である。
 その為には自身のタロスのカスタマイズも怠らず、また兵器の開発も率先して行なっていた。
 いつぞや人類を苦しめた、広範囲にジャミングと高濃度の煙幕をまき散らすキメラもその一環だ。
 ――そして、そのキメラの性質を活かしつつ、もう一つ――彼の生前には人類の前に出すことのなかった『成功作』の兵器がある。

 ■

「むう‥‥」
 防衛網の話を斥候部隊から聞き、欧州軍中佐、イアン・エグバートは表情を険しくした。
 国境線上でバグアの防備を強める動きがあることは、少し前に把握していた。しかし敵が張り巡らせた戦力は予想を超えるものだったと言わざるを得ない。

『――そうか、ならこっちが終わったらジークルーネも国境線に向かわせる。
 それまで兵に無駄死だけはさせんなよ』
「はっ」
 敬礼のポーズのままウルシ・サンズ中将との通信を終えると、イアンはまた一つ溜息を吐き出す。
 ディロロへ向かっているジークルーネも、防後から合流するということになった。
 ただかの戦艦の力に頼るだけでは、バグアの厚い防備は突破出来そうにもない。
 それ自体がK−03ホーミングミサイルという強力な攻撃を持つジークルーネだが、反面積載出来る戦力は他のヴァルキリー級に比べ少ないのだ。
 つまりは、合流までの間にも敵の戦力を漸減させるべく戦え、ということだった。
 その上で「無駄死はさせるな」というのだから、現場の司令として任された責務は重い。

 ここでイアンの下した「もう一度斥候を送る」判断は、当初こそ部下にも弱気と揶揄する声もあったが――。
 その斥候部隊が一人を除いて未帰還という結果になり、少数の犠牲を出したものの批判はなくなるに至った。

「前も見えなくなるくらい濃く、しかもジャミング機能のある煙を、吐き出されて‥‥」
 意識はあるものの重傷を負った唯一の生存兵は、ベッドの上でイアンにそう語った。
「煙? ――プロトスクエアのゲルトが使っていたキメラのようなものか?」
「そう、です。ただ‥‥吐き出したのはキメラではありません。灰色のティターンです。
 両肩に小型の筒をつけていたので、おそらくそこから‥‥。広がり方は、前のキメラよりは遅いようでしたが」
「とはいえ、他の戦域に広げられたら攻略もやり難くなるだろう。
 ティターン自体は兎も角、それは率先して破壊するしかないな」
 イアンがいっそう厳しい表情になる一方で、兵士は目を伏せた。
「そのこと、なんですが‥‥もう一つ、報告が」
「なんだ」
「煙の中で、ワームに襲われて全滅したのですが‥‥そのワームが、見たこともないタイプのものでした」
「‥‥何だと?」
「人型の上半身なんですが、腰から下はエイのように細くなってました。‥‥幽霊のように。
 ――もっと言えば、物語に出てくる死神に近いです。
 顔もそれっぽい形をしているし、両手に鎌も持ってましたし‥‥他の兵士は、鎌にKVを両断されて――」
「‥‥もういい、それ以上は言うな。
 そいつは、何体いる?」
 イアンの最後の問いに、兵士は顔を上げた。
「三体、のはずです‥‥。あと、ティターン自身も煙の中から攻撃を仕掛けてくるみたいです。
 ライフルでの砲撃しか、私は確認出来ませんでしたが‥‥」

 ■

 兵士から聴取を行った後、イアンはひとつの決定を下した。
 周囲の戦力は欧州軍で対処するが、およそ非常に強力だと思われるティターン及び『死神』の対処は、傭兵の手に委ねることを。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
美優・H・ライスター(gc8537
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

「嘗て見たあの光景が、もう一度目の前に現れるとは‥‥」
 神棟星嵐(gc1022)は目の前に広がる嫌な光景に思わず目を細めた。
 彼はこれと極めて似た状況を目にし、体験したことがある。
「以前、ゲルトが生きていた時に煙を出すキメラが居ましたが、今回はティターン‥‥。
 ゲルトの残した遺産とでもいうのでしょうか」
 プロトスクエア白虎・ゲルトは死してなお、人類の前に立ち塞がる障害であるらしい。
 『厄介な状況』という認識は、この戦場にいる誰もが共有していた。
「視界がメインの戦闘‥‥かなり怖いですね‥‥」
「こりゃあ、報酬上乗せしてもらわないと割に合いそうにないな?」
 BEATRICE(gc6758)が自機ロングボウ『ミサイルキャリア』のコックピットで呟き、その横を往くニェーバを駆るリック・オルコット(gc4548)は肩を竦める。
 リックにとってみれば、折角ロシャーデ・ルーク(gc1391)――コゼットという本名を持つ恋人と同じ空を飛べると思ったらこんな敵と戦えというのだから、そんな言葉が漏れるのも無理はなかった。
 とはいえ、やらないことには話は始まらない。
「後ろは任せる、ロシャーデ」
「分かったわ」
 ロシャーデ機サイファーE『Elan Vital』はリック機の右斜め後方を航行している。
 そのコックピットで彼女が首肯したことを確認し――。
「さて、それじゃあ始めるとしようか」
 リック機とBEATRICE機が先頭となり、KVは煙の中に潜り込んだ。

 ところで、そのタイミングで煙へ突入したのは全てのKVではなかった。
 リック機らの初期位置から、更に上空――。
「重力に機体が引かれてる‥‥。鬱陶しいな」
 自機ドレイク『タギリヒメ』にて、氷室美優(gc8537)は呟く。
 これまで宇宙を戦場にして戦ってきた彼女にとっては初めての気圏戦。その違和感が、彼女の表情を苦いものにした。
 また、彼女とはまったく別の理由で苦い思いを感じている者がいる。
「ちぃ、他の能力者に頼らなければならないとはね‥‥」
 毒づいたのはドクター・ウェスト(ga0241)。
 もとより彼は、バグアへの憎悪を戦う為の糧としてきた。
 しかしそのバグアと協力しようとする能力者を目にしてから、彼は能力者をも信用できなくなっていた。それ故、『頼る』行為は彼の苛立ちを募らせる。
 さて、その『頼る』とは――。
「‥‥始まった」
 眼下の異変に気付き、美優が言う。
 煙に先に突入したKVが、突入するや否や一斉にミサイルを放ったのだ。

「前の依頼で見た時より、まだ規模としては小さいようですから。
 これ以上広がる前に発生元のティターンに損傷を与えたいのですが、どうでしょうか?」
 作戦開始前、そんな提案が星嵐から出たのは、以前にも似た状況を経験したことがある故ともいえる。
 ミサイルの弾道・風圧で煙を切り裂き、敵の居場所を察知しよう、という魂胆である。
 彼の提案を聞きながら、錦織・長郎(ga8268)は思考する。
 『適応進化』というものがある。
 どんなに優位に立つ存在でも、世の趨勢にそぐわなければ過去のガラクタとなり得る。
 いままさに星嵐がした提案など、『煙』がまさにそのような『進化し損ねた』存在であることを告げたようなものだ。
 だからといって油断できるわけでもない。敵が伏せた罠は、それだけではないのだ。
 ――そういうことを仕掛けそうな手合いに、長郎はひとり心当たりがあった。

 星嵐とBEATRICEがK−02、リックがトライデント、ロシャーデがE−C6、そして長郎がMM−20。
 一斉に放たれた無数のミサイルは、狙い通りにその風圧で濃灰色の雲を切り裂いていく。
 前方だけでなく、縦横無尽に放たれたその刃はやがて、三体いるという死神のうち二体の姿を捉えた。ミサイルの直撃こそ避けられたが、何よりも座標の目安をつけることが至上命題な射撃だったのでたいした問題ではない。
 通信を使うのが困難な状況は、自然、KVを大きく二つの班に分けていた。片方はリック、ロシャーデ、星嵐。もう片方はその三人+上空にいるウェスト、美優以外が駆るKVだ。
 捉えた二体の死神のうち、より近い場所にいた方へと駆けるのは前者の班だ。死神は向かって左側、やや高いところに見えたので、自然と三機の高度も上がっていく。星嵐の狙いは本来はティターンだが、まだかの敵の姿は見えない。ここで下手に孤立するよりは死神殲滅に回った方が自身も安全だった。
 その星嵐機リヴァティー『Azurblaue Drache』とリック機が前を往き、最初同様にリック機の右後方にロシャーデ機がつく。
 不意に、リック機の横合いの煙に動きが生じた。
 その刹那に見た赤い色を、ロシャーデは見逃さない。
 通信は届かない。リックへの警告代わりに、即座に光を捉えた方向へガトリングを放つ。
 現れた――タイミング的にも、先ほどのミサイルで捉えられなかった――死神の、リックへの一撃を止めるまでには至らなかったものの、ロシャーデの攻撃の意図を察知したリックは機体を逸らして直撃を避けた。
 反転しカウンターの一撃を見舞いにかかったものの、相手は最初からヒット&アウェイのつもりだったらしくそのまま通過していく。
 軌道の効率の関係か、星嵐機は無視し――もう一つの班へ。

 移動してきたその死神の存在は、もう一つの班にとっても奇襲となった。
 真っ先に狙われたのは、長郎機ペインブラッド『ヨルムンガンド』。
 長郎の狙いは別班の星嵐と同じとあって、まだ反撃はない。死神は勢いよく鎌を振り上げ――その刃にミサイルが直撃する。真っ先に奇襲に気付いたロゼア・ヴァラナウト(gb1055)がUK−10AAEMを放って援護に回ったのだ。
 鎌に与えられた衝撃に死神は逆らわず、半ば吹っ飛ばされるような格好になりつつ空中旋回し――体勢を立て直して今度はそのロゼア機ロビン『鴻鵠【狼火】』へ迫る。
 吹っ飛ばした段階で、誰もが一度死神の存在を見失っていた。その点と、ロゼア機自身が後方にいたのが仇となる。
 大きく下から迂回し、KVの後方に上昇してきた死神はロゼア機の後背を狙う。
 直撃。
 飛行形態の装甲には深い裂傷がつけられ、衝撃に負けた機首が堪らず下を向いた。
 なんとか撃墜は免れたが、もう一撃加わればどうしようもない。しかし加害者は勿論それに構うことはなく刃を翻し――。
 今度はその刃を支える腕を、銃弾が叩いた。
「そう簡単に‥‥やらせはしませんよ‥‥」
 BEATRICE機の真スラスターライフルだった。次いで、
「火力は集中させませんとね?」
 クラーク・エアハルト(ga4961)機スレイヤーのスラスターライフルの弾がもう片方の腕を穿つ。
 二度目の被弾。狙われたのがある意味攻撃の要たる腕のせいか、今度は死神も素直に逃れていく。
 とはいえ、気を抜ける時間は一瞬たりとも存在しなかった。
 戦闘を続ける最中にも傭兵たちは航行を続けている。つまり、本来の標的にも近づいているということだ。
 奇襲を仕掛けてきた死神に気を取られている間に、もう片方――最初に捉えた死神への注意が若干疎かになっていた。
 居場所を暴かれた死神がどこにも動かないという前提は成り立たない。文字通り一度KVを煙に巻いた最初の死神が、まずは隙だらけになったロゼア機に瞳のレーザーで止めを刺し、間髪おかず、今度は同胞を傷つけたBEATRICE機に迫った。
 なんとか鎌の一閃の直撃を避けたものの、反動でBEATRICE機は意図しない錐揉み回転を起こす。その隙だらけの瞬間が狙われないわけもない、のだが。
「捉えた。全力で行きますよ」
 唯一死神の動きに気付けていたクラーク機の銃弾が、死神の額へ直撃した。
 痛いところを突かれたのか、死神が大きくよろめく。更にそこへ、長郎機が真雷光波を浴びせた。

 一方、もう片方の班でも最初の死神との接触が始まっていた。
「現れては消え、とは、また面倒な」
 星嵐が言う。
 死神の狙いははっきりしていた。前衛に立つリック機と星嵐機を、ヒット&アウェイで狙う。一閃の後はその攻撃の効果に関わらずに煙の中へ姿を消すのだ。消してからすぐに機動を変えているらしく、その方向へミサイルを放っても捉え切れなかった。
 それでも、二機にもこれまでのところ大きな被害はない。
 ロシャーデの働きが大きかった。
 先のように警告を出す以前に、彼女の赤い光への注意は全方角へ向けられていた。死神の接近を許す前に曳航弾としてのガトリングを放つ他に、リック機に接近した場合は自身が格闘戦に入り排除に徹するなど、少しでも友軍の損壊を防ぐべく奔走していた。
 ――すると当然、死神も本能で狙うべく標的を考えるようにはなる。
 突如として、死神は標的をロシャーデ機に変えた。大きく迂回した死神の赤い光がレーザーとして迸ったのは、ロシャーデ機の上斜め後方から。
 流石にこれを避けることは出来なかったが、代わりに居場所は分かった。
「ニェーバの弾幕、侮るなよ?」
 先に反転したリックが、リーヴィエニで弾幕を張る。死神の動きが、鈍った。
 標的を変えたのは、無人ワームと思われる死神のAIなりの『適応』だったのだろう。ただしそれは決して『進化』ではなかった。
 弾幕に動きを止められている死神の横合いに、ロシャーデ機が現れる。
 前進しながらプラズマライフルを連射し、命中を確認しつつ死神の横を通過する。その後即座にラージフレアをばら撒き、追撃のレーザーの命中精度が下がっている間に自身は上昇反転、弾幕の方向からリック機の位置を割り出した。
 そして元の位置へ戻り、まだ死神が健在ならば再度――という思いもあったが、
「――死神には地獄へ帰ってもらおう」
 余裕さえ感じるリックの言葉に、その必要はないのだと悟る。
 直後、弾幕を浴び続けたままだった死神の身体が爆散した。
 あと二体、そしてティターン。
 死神は、両方とももう片方の班が交戦中のようだった。
 そしてティターンは――思ったよりも近くにいたことを、唐突に三機全機にめがけて放たれたミサイルで知ることになる。

 煙範囲外の上空にいる二機によるティターンの位置の割出しは、最初のミサイル斉射の段階では失敗していた。
「‥‥敵のこのやり方、感情が乗ってる気がする」
 ミサイルに切り裂かれた灰色の空も、暫くすれば元に戻る。その様を見て、美優は呟いていた。
 今まで目にしてきた、遊び感覚の相手と違う――と、何となく感じる。
 ならば、この空を晴らすにはどうすればよいか。
「台風でも来れば‥‥いや」
 違う、そうじゃない。そんな運に頼る、他力本願では話にならない。
 そう――自分自身が台風になればいいのだ。

 機が巡ってきたのは、それからやや後になってからだ。
 他のKVは意識する暇もないことだったが、死神との戦闘の間に放たれた攻撃の軌跡も、煙を裂き続けていた。
 KVが前進を続けるうち、その切っ先も煙の奥へと進んでいき――。
 やがて、暗い、けれども明らかに煙の色とは異なる黒の装甲が、煙の隙間に浮き彫りになった。

 先に滑空を開始したのは、ウェスト機。
「違う相手だから、おそらく通用すると思うのだけどね〜」
 呟きつつ、コマンドを叩き込む。
 降下しながらブーストだけでなく、オーバーブーストも併用し、ティターンを射程圏内に捉える。
 そのまま空中変形し、エアロダンサーを起動――。
『――‥‥ッ!?』
 猛烈な勢いに、流石にティターンも気付いたようだった。
 だが、遅い。
「バ〜ニシングナッコォー! グラヴィトンブーストォ!!」
 重力加速度を追加した非常に重い拳が、ティターンの顔面を叩く!
 ティターンが空中で錐揉み回転する。不意打ちかつ全力の一撃は、反撃の元気さえ与えない確かな打撃を与えたようだった。
「科学拳・爆炎重力落としだね〜」
 満足げに言いつつ、ウェスト機は念のためラージフレアをばら撒いてその場を離脱する。
 代わりにティターンへ肉薄したのが、美優機。ウェスト機の背中から飛び出す形になり、
「あああああああッ!」
 ブーストをかけながら、勢いこそ弱くなったが尚も回転を続けるティターンへ迫る。
 ソードウィングの一閃。狙いは肩の煙幕装置にあったが、回転もあってそこまでうまくはいかなかった。
 通り過ぎた先で反転し、二撃目。しかし。
『――あまり舐めないでくれるかなー?』
「――う‥‥ッ!」
 体勢を立て直したティターンが銃口を突きつけ待ち構えていた。回避しようがない一撃が美優機を見舞う。
 今度は美優の方がバランスを崩したが、ティターンが集中できるのもそこまでだった。
 後方から飛来したミサイルが、背中の装甲を叩いたからである。
「流石にこの煙では、肩にはうまく当たりませんね‥‥」
 ティターンにだけ聴こえる星嵐の呟きが、コックピットにいるロアに苛立ちを与える――。

 先んじてティターンからの攻撃を浴びていた星嵐がティターンの位置を捉えたのは、ウェスト機の一撃が決まった瞬間だった。
 ロヴィアタルの残弾を全て叩き出し、放ったその先にティターンの姿を確認する。
 また時を同じくして、長郎機もティターンを見つけていた。
 丁度星嵐のミサイルが放たれたところで、まだティターンは背を向けている。
 そこで長郎も攻勢に出る。ブラックハーツを起動しつつ、ブーストをかける。バレルロールでティターンの背中へ肉薄し――。
『‥‥キミは』
 刹那の前にミサイルが命中したことでティターンが此方を見、コックピットのロアが見覚えのある機体に声を漏らす。
 だが構いはせず、勢いの乗ったソードウィングの一撃―ー『魔狼突撃<ロキ・クリーク>』と名づけたその攻撃は、ティターンの肩の煙幕装置を周囲の装甲ごと破壊した。
 
 更にその直後、周辺の空にそれまでにない大音響の爆音が響いた。
 ――ジークルーネが、戦場に到達したのである。

 かの戦艦の特殊兵装であるミサイルの残弾がどれだけあるか分からないが、仮に残っていた場合それだけで煙をまた切り裂くことが出来るだろう。
『‥‥潮時かなー』
 不服そうだが、仕方がないと言わざるを得ないその声とともに、ティターンが全速で撤退を開始する。まだ残っていた死神一体――もう一体はクラーク機指揮による火力集中により墜とされていた――も同様に逃げていく。
「待って。‥‥あんたは、何の為に戦ってるの」
 ティターンの背に、美優は言葉を投げかける。
 ただ憎むだけでなく、相手をある程度知りたいと思うが故の言葉だった。
『――バグアだって、自分と同じ意思を持つ仲間は大事なんだよ。それだけ』
 本当にそれだけ言葉を返して、ロアが駆る漆黒の機体は南の空へ消えていった。