タイトル:力の価値マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/21 02:54

●オープニング本文


 その価値を本当に知っているのは、誰?

 アルマ・インゲブルグには、ハインツ・ライムントという将来を誓い合った者がいる。
 ハインツはUPC軍の兵卒だった。能力者の適性こそないものの、欧州軍の中ではそれなりに腕の立つパイロットだったと聞く。
 アルマが住むドイツの小さな田舎町には風の噂程度にしか流れなかったものの、同じ街の出身者のことだけあり、ハインツを知る者にとっては誇らしく思える話だったし――同時にアルマにとっては、憂鬱の種でもあった。
 彼女にとっても、当然ハインツの活躍は嬉しいことではある。
 ただ本音を言えば、「ハインツが無事に帰ってきてくれればそれで十分」だった。
 活躍をすればするほど、彼の軍内での必要性は上がり――それは同時に、より危険な戦場に向かうことを示している。
 戦争に勝利することは、勿論大事だ。でもアルマにとってはそれよりも大事なことがある。
 名誉の戦死なんてよく言うけれども、考えようによっては生還に勝る名誉もないのだ。

 ――彼女をそう思わせるに至ったのは、久しぶりにハインツが街を訪れた、その理由だった。
 アフリカでの戦闘で重傷を負い、暫くはその身で戦うどころか戦闘機に乗ることすら許されない状態になった彼は、療養の為に街に戻ってきたのだ。
「‥‥格好悪い姿で悪いな」
 帰還した際、車椅子姿で力なく微笑む彼を見てアルマが何を思ったかは、筆舌に尽くしがたいものがある。

 ハインツにはすでに父親が亡く、年老いた母親の手助けだけでは療養生活はままならない。
 だからアルマは、自ら率先して彼を支えた。
 彼の傷は治らないものではなく、目処が立てばいずれまた戦場へ旅立つ。
 失うことへの恐れに気づいたアルマにとってはそのことが正直恐ろしくもあったけれども――。
 何よりもハインツ自身が再び戦場に戻る意思を固めてその為にリハビリに励んでいたのだから。

 そうして何も言えないまま、半年が経過した。

 ハインツの体はだいぶよくなっていた。
 車椅子生活からは脱し、今は弱った体を叩き直す為にトレーニングに励んでいる。
 もう一ヶ月もしないうちに、彼は再び街を離れるだろう。
 このまま何も伝えられずに、彼を見送って本当にいいのだろうか――。
 決して彼には見せられない焦りをアルマが感じ始めた頃、その事件は起こった。

 街にある唯一の教会が、キメラによって襲われたのだ。
 キメラは単体だったから建物そのものはそれほど傷を受けてはいないが――。
 襲撃時に運悪く庭にいた、神父やシスターは‥‥翌日、変わり果てた姿で発見された。

 戦争が終わり、無事にハインツが帰還したなら、そこで結ばれよう。
 ハインツが兵士として旅立つ前から、二人で決めていたことだった。
 集会などもよく開かれていた場所だから、二人を含め神父やシスターをよく知る者は多い。
 それだけに――許せない気持ちは、当然アルマにもある、けれど。
 敵討ちと称して結成された討伐団。そのリーダーがハインツと知った時、アルマの表情は蒼白と化した。

「なんで!? ULTに連絡して、傭兵が来るのを待てばいいじゃない!」
「軍の中にも能力者はいるし、傭兵だってそれなりに信用しているさ。
 ‥‥けど、これは俺達の戦いなんだ。UPCが宇宙にも手を出し始めた今、こんな辺鄙なところに来れるほど傭兵も暇じゃないだろう。
 俺達で、何とかしないと」
 神父らを手にかけた後の数日間だけはキメラは姿を見せなかったものの――その後どうやら教会を住処と定めたらしく、昼間には姿を見かけるようになり、それに伴って周辺の街でも被害が出ているという話も増えてきていた。
 ともあれ、アルマの必死の叫びも、既に瞳に強い意志を固めていたハインツには届かなかった。
 その意思の強さが、アルマを惹きつける理由の一つではある。
 でも。

 討伐団の作戦決行は、午後の一時だという。住処と化した庭園を取り囲み、攻撃するのだと。
 ――もはやアルマの言葉は、届かない。
 止めるなら、別の何かが必要だった。

 そうして彼女は、誰にも気付かれないようにULTへの依頼文書を認めた。
 キメラの討伐。そして――出来るなら皆を止めて、と。

●参加者一覧

ソルナ.B.R(gb4449
22歳・♀・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

「守りたい男のために、その男の意に沿わぬと知ってなお俺様達を呼ぶとは‥‥!!
 すばらしい! 熱き魂の萌芽を感じるぞ!!」
「‥‥ねぇ、アルマ様。戦場に行くなと言う事は、その方以外の誰が死んでも構わない。それと同義なのです」
 街に着いた後、最初に赴いたアルマの家にて――。
 ジリオン・L・C(gc1321)の思わぬ熱さに困惑している彼女に対し、メシア・ローザリア(gb6467)は告げた。
 誰かは戦わなければならないけれども、それは自分でなくともいいという人間も勿論いる。
 でもそういった人間ばかりでは、戦わずして死を待つのみだと。
「どうか、斃れた無数の死者を、そして名誉に縋る思いを、無視なさらないで」
 アルマに諭すように言いながら、メシアは自分自身にもその言葉を再度言い聞かせる。
「生き延びよ」と言い残し、永久に自分の前から去った、愛しい人のことを思い出す。
 ただ、本当に「生き延びる」だけでは苦痛を覚えてしまう。
 だからこそ――生き延びる為に、戦う。
 ハインツたちが抱いているだろうその想いに、メシアは異論を唱えようとは思えなかった。
 そのメシアの言葉を聞きながら、エイミー・H・メイヤー(gb5994)もまた、瞑目しつつ、思う。
 能力者になる前は、討伐団の人々と同じ気持ちだった。
 ただアルマの気持ちも、エイミー自身が大切な者を戦場に送り出すときの気持ちにひどく似ている。
 どちらの気持ちも分かるだけに、それらがせめぎ合う街の現状には複雑な気分にならざるを得なかった。

●絶望の翼を削ぎ落して
 アルマの家を出た後、能力者たちは二手に別れて行動を開始した。

「なんでわざわざ‥‥。
 軍人さんならキメラに勝てないとわかっているはずなのに」
 アルマさんがかわいそう、というエリーゼ・アレクシア(gc8446)の呟きを、春夏秋冬 立花(gc3009)は横で聴いていた。
 まったくだ、と思う。
 討伐団には討伐団なりに思うところがあるのだろうが、それとこれとは話が別だ。そこのところをはっきりさせる必要がある。
「‥‥来ましたよ」
 思考した矢先、二人が立っている丘の中腹へ向かってくる、十人を超える男たちの姿が視界に飛び込んできた。それぞれに鍬や鎌などの農具や、ハンマー等武器になりそうなものを携えてきている。
 どの人物がハインツかは、すぐに分かった。先頭に立って歩いていることも理由の一つだが、何より戦うことに慣れているだけに纏っている雰囲気が明らかに異質である。
 討伐団も二人の存在に気づいたらしく、近づくにつれ歩を緩め、やがて止まった。
「なんだ、君たちは」
「今回キメラの討伐を受けた者です」
 ハインツの問に立花が答えると、ざわ、とハインツの後ろの男たちの間で小さなざわめきが起こった。
「依頼した覚えはないが‥‥。二人だけか?」
「一緒に来た仲間はもう討伐に向かってます。
 餅は餅屋。ここは私たちに任せてくれませんか?」
「気持ちはありがたいが、断る」
 立花の提案に、ハインツは即答した。
「第三者に守ってもらわなければ保てない、というものは平和と呼べるのか?
 降りかかる火の粉くらい、自分たちで払いたい」
 二人の疑念に答えるかのように、ハインツは言う。
 それから彼は、後ろの男たち――が得物としているモノを一瞥した。
「それに、勝算がないわけでもない。キメラのFFは、有限。
 発生させるだけでもそれなりに強力な攻撃が必要なのも承知しているが、削りきれば勝ちは見えてくる。
 その上で犠牲を伴う可能性があるのは、ここにいる全員が覚悟の上だ」
 これ以上言うことはない、と言わんばかりに歩を再開するハインツ。
 立花はその様子を見、
「だから?」
 それまでの理屈を一蹴する一言を放った。
「別に貴方がたの志が悪いわけではありません」
 溜息をつく。
 平和かどうかを言い争っても意味がない、目的については納得はしないが理解はしたことにして。
「端的に言うと、付いてこられると邪魔なんです。守ることも出来ますし、必要ないと言うかもしれません。でも来ている以上、絶対安全とは言えないんです」
 その上で立花は、率直に『邪魔』という言葉を使った。
「だから、俺達は」
「そうですね。覚悟しているし、いいのかもしれません。貴方たちは」
 ハインツの反論を遮り、立花は言葉を続ける。
「ですが、貴方たちがそうやって怪我したり最悪死んでしまった場合、泣くのは貴方たちじゃなくて貴方を大切に思っている人たちなんですよ?
 勿論、大切な人の涙を考慮してもなお、やらないといけない時はあるでしょう? ですが、それは果たして今ですか?」
「‥‥その『大切に思っている人たち』が今、実際に街で待っているんです」
 ここにきてエリーゼが言葉を継いだ。
「それでもどうしてもと言うのなら」
 そこまで言って、彼女は覚醒する。銀色の粒子が彼女の周囲を舞い始め――。
「この状態の私に、攻撃してみてください。私に傷をつけられないようなら、到底ムリです」
「この、小娘‥‥ッ!」
 激昂したのは、ハインツの後ろにいた男たちのうち一人だ。
 よく見てみればハインツ以外の男たちは、立花やエリーゼくらいの年齢の子供がいてもおかしくない者ばかりだった。
 そんな歳若い二人にここまで言われたのでは、相手が能力者だろうと許せない部分があったらしい。
 けれども、手にした鍬を構えたその男を――前に立っていたハインツが、手で制した。
「ハインツ、何故止める」
「俺達はそんなことの為に武器を持ってきたわけじゃないでしょう」
 ハインツは男を一瞥して冷静に告げると、次に二人に――エリーゼに向き直った。
「君も無闇なことを言うのはやめてくれないか。
 確かに俺達の武器じゃ、君たちにダメージを与えることは出来ないだろう。
 でも『見かけ』の傷はつけることができてしまう。
 俺は戦場で能力者を見たことがあるから知ってるが、もし知らなかったらその傷を見て図に乗っていたところだぞ」
 諭すその表情は相変わらず硬いながらも、口調は先程までより若干穏やかだった。
「‥‥改めて訊きますけど」仕切り直すように、立花は問うた。
「大切な人を泣かす価値があると思うなら止めません。どうぞ、来てください」
「‥‥‥‥」
 今度はハインツは即答せず、瞑目した。
 男たちはそんなハインツを見て困惑し、能力者二人はただひたすら彼の返事を待つ。
 ――やがて瞳を開いたハインツは、溜息をついた。
「一つだけ条件をつけさせてくれ。それがOKなら、最悪皆には街に帰ってもらう」

 ■

「‥‥それで結局、あんただけがついてきたってわけかい」
 数分後、ソルナ.B.R(gb4449)は立花やエリーゼと共に合流したハインツを見て呆れたような声を上げた。
 彼女の言うとおり、他の男の姿はない。
『戦うのは、君たちに任せる。
 だけど神父様たちの敵の死に目にも遭えないのは、『他人に守られた平和』という感覚が強くなってしまう。
 ‥‥俺だけでいいから、連れて行ってくれないか』
 それがハインツの出した条件だった。
 護衛対象はひとりでも少ないほうが、能力者としても戦いやすい。結局ハインツだけがこの場にいることになった。渋々街に帰った男たちには、念のため警戒を頼んでおいたが。
 今、能力者たちは散開し、庭園の外周の木々の陰に隠れていた。立花やエリーゼもまた、空いている場所へと向かう。ハインツはジリオンやメシアのいる位置の後ろへと回った。
 ところでキメラの姿は、今は庭園の中にはない。
「でも教会の中から時々物音が聞こえるんです」
 既に覚醒を済ませているエイミーの言葉に、ハインツが苦々しい表情で一つ肯く。
「普段は教会の中を住処としていて、決まった時間になると庭から外に出ていくようなんだ」
「なるほど、それが一時ということだったわけですか」
 道理で、遠くから双眼鏡で見ても姿を捉えられなかったわけである。合点がいったメシアに対し、ハインツはこれもまた短く首肯した。
 ――と。
「出てきました!」
 真っ先にそれに気づいたエリーゼが叫ぶ。
 庭園を眺む教会の窓は既に数枚が破られており――そのうちの一箇所から這出るように、半人半鳥――ハーピーが飛び出してきた。
 一旦庭園に着地し、翼を広げ空に飛び立とうとしたタイミングで――。
「行かせません――」
 呟いた立花の周囲を、白く淡い光が包んだ。同時に、空へ舞い上がろうとしたキメラの動作が一瞬鈍る。
 能力者たちはその機を逃さなかった。エイミーがシエルクラインによる制圧射撃でキメラの脚を更に鈍らせると、ソルナのフォルトゥナ・マヨールーが右の翼を撃ち抜き。
 その反動でキメラは身体の向きが無理やり変わったが、その瞬間に敵の存在――少なくとも立花とエリーゼをはっきりと視認したらしい。
 エリーゼのSMGによる掃射に構うことなく自ら一度身体を仰け反らせると、それを戻らせたと同時に金切り声を上げた。
「‥‥これ、は‥‥ッ!」
 直後、自身の身に起こった思わぬ変化で二人は僅かな誤算に気づく。
 事前情報の限りでは、遠距離攻撃の正体は『風』であると能力者たちは踏んでいた。
 ところが、今二人はともに木の後ろに隠れていたのだ。うっかりキメラに姿を見られたにしても、全身というのはあり得ない。
 だからこそ、おかしい。裂傷が生じた箇所は、立花の左肩とエリーゼの背中――ともに、隠れている筈の場所だ。
 それに今の動作の間、キメラは翼をはためかせている様子はなかった。
 つまり。
「正体は、音です‥‥! 木の存在は盾にもなりません!」
 呪歌を一時中断し、立花は叫ぶ。思わぬ事態に、能力者の間に緊張が走った。木には何の影響もないということは、生体にのみ影響するということらしい。
 だからこそ面倒な問題が一つある。ハインツの存在だ。もしも射程があるようなら、たとえ庭園から放たれようと彼の身が危険に陥る可能性がある。
 過るその不安をあざ笑うかのように、キメラが次に目をつけたのは――メシアとジリオン、そしてハインツだった。
 銃撃と超機械の嵐に構わず、再度モーションを取るキメラ。その際にソルナの銃撃が今度は左の翼を撃ったけれども、今度は動じずにそのまま声を放った。
「うおおお! 見たか! 勇者! シールドをおぉぉぉ!」
 ジリオンは咄嗟に木から踊りでて、ハインツの前に立つ。ボディーガードを多重使用し、ガードの姿勢は万全だった。
 必要以上の裂傷を作りはしたが――その御蔭か、後方のハインツには何の被害もない。即座にメシアから治癒の練力が飛び、ジリオンの傷を癒す。
「主よ、貴方の下さった命で、他者の命が贖えるのならば、と戦うのです。迷える子羊に、貴方の導きを」
 ジリオンの傷が癒えていくのをよそに、向き直ったメシアは呟きながらも超機械の電波を放つ――。

 それから数度、キメラは自身に浴びせられる攻撃など無視して、攻撃性を伴った声を上げ続けた。
 それにより負う傷は、致命的ではないにしろ練成治療一度で回復するほど浅い傷でもなく、途中までジリオンやメシアは回復とハインツのガードに追われる羽目になった。
 キメラの空高く舞い上がることは立花の呪歌が許さなかったが――やがてついに作戦を切り替えたのか、わずかに浮かせたその身体を、庭園の端へと滑らせた。
 その前方には、ソルナが隠れている木がある。
 狙われた理由は明白だ。ソルナ、そして同じ方向にいるエイミーは常にキメラの翼を狙い続けていた。
「飛ぶ力を奪うのは許せないとでも言うのかい。笑わせるね」
 なら、とソルナは自ら隠れることを止めた。妖刀を構え、向かってくるキメラの爪をその刀身で受ける。
 押し返されて蹈鞴を踏んだキメラの背後に、トニトルスを構えたエリーゼが恐ろしい速度で迫り――目にも留まらぬ一撃で、弱っていたキメラの翼をまとめて刈り取った。
 絶叫が最大の攻撃に代わり、至近にいたソルナとエリーゼは身体のいたるところに深い裂傷を負った。
 だがもはや飛ぶ力を失ったキメラは、鳥の二本足では身体を満足に支えることが出来ずにふらついている。
 その後背に音もなく接近したエイミーが、
「祈りの場を荒らす不届き者には早々にご退場願います」
 蛍火で、キメラの喉を穿った。

●生きること、戦うこと
「いつ迷える子羊が来ても良いように、綺麗にしないとね」
 戦闘で荒れてしまった教会、エイミーはそれを修繕しようとする。
 キメラの声が生体にしか影響しないのもあって、庭園はそれほど荒れていなかったのは救いだ。
 その代わりに住処となっていた教会の中は酷い有り様で、討伐団の出番は別のところであったかもしれなかった。
 
 教会内部の様子に溜息をつきつつエイミーが庭に戻ると、動かなくなったキメラに、ハインツが歩み寄っていた。
 もう息の根は絶ったから問題はないのだが、念のため何人かの能力者がその様子を傍から見守っている。
 ハインツはしばし死体を凝視した後、
「‥‥クソ‥‥ッ」
 肩を震わせ、唇を噛み締めた。
 その怨嗟の対象は、神父を殺した目の前のキメラか。
 或いは、それに対し直接立ち向かう力を持たない自分自身か――。
 どちらかもしれないし、両方かもしれない。
 だけど。
「今一番大事なのは体を万全に戻す事、そしてアルマ嬢を抱きしめる事なんじゃないか?」
 エイミーが放ったその言葉に、ハインツははっと顔を上げた。

 ■

 数十分後――。
 能力者たちがハインツを連れてアルマの家に行くと、彼の無事な姿を見たアルマは思わずその場にへたり込んでしまった。
「‥‥悪かった」歩み寄ったハインツが、そう言って彼女の肩を抱き寄せる。
 その背中に、
「意地でも自分達の手で奴等を葬りたいならアルマも町も捨てな。
 どうせ死ぬのなら他人の方が気楽じゃないかい?」
 あえてソルナは、辛辣な言葉を投げる。
「速断せず迷えるのなら‥‥手を下すだけが信念の示しじゃないさね。
 確実に彼女や町を護れる者に今は頼む、願う‥‥御前が恥をかいてもだ」
「‥‥そうだな」此方の顔を見ぬまま、ハインツはやや俯いた。
「その身が癒えても、だけれどね。
 奴等を葬るだけなら見ての通り私や、他の誰でもできるさね。
 けれど彼女を護れるのは一人だけじゃないかい?」
「‥‥分かってる。泣かせないのも、『護る』うちに入るんだろう?」
 そう呟いて、ハインツはより強くアルマを抱きしめる。
 それでちょうどアルマの顔が見えたので、
「嫌になりますよね。待つしかできないって」
 立花は彼女に向かって口を開いた。
「でも、時々どんな思いをしているか教えてあげたほうがいいですよ。
 殿方は普通の幸せが欲しいって言うのもわからないおバカさんですから」
「‥‥はい」
 微笑みながら言う立花に、アルマも弱々しいながら安堵を湛えた笑みを返すのだった。