タイトル:【叢雲】DeadSpaceDanceマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/06 01:12

●オープニング本文


「ただの調査かと思っていたが、やはりバグアは俺達をそう自由にさせるつもりはないようだな」
 ムラサメの艦長・黛秀雄はそう言って鼻を鳴らす。
 不測の事態。とはいえ彼に焦りはそれほどなかった。
 仮にも艦長たる者、こういった時こそ悠然としていなければ拙い、というのもあるが――それとは別に、心底に沸き立つ感情が裏にある。
 コーディレフスキー雲の調査が平穏無事に終われば、それはそれで良かったのだろう。
 ただもしそれで終わるなら、黛にとっては決して達成感のある任務にはならなかった筈だ。
 そもそも彼は元々、海での戦いに身を置いていた。
 それこそ愛着を持たせるほどの長い間その立場に居させたのは、ひとえに愛するモノがあったからだ。
 人、ではない。こんな自分についてきてくれた妻への愛も感謝もあるが、それと同等な程に、巨艦・大砲を愛していた。
 海という環境は、それらを自分の傍に感じられたものだが――いまその状況が、再現されつつある。
 言うまでもなく、ムラサメというエクスカリバー級巡洋艦は艦船としては巨大だ。
 そしてその艦体には、G光線ブラスター砲とG5弾頭ミサイル――二つの武装が備わっている。
「当艦を含む全艦のクルーに告ぐ! これから行う大型封鎖衛星【デメテル】との交戦にあたり、G光線ブラスター砲の使用を許可する!」
 特に射程こそ短めだが威力は大きいG光線ブラスター砲は、デメテルという強大な相手に使わずしていつ使うというのか。
 とはいえ、だ。射程が短い故に、使用にはリスクが伴う。
 G光線ブラスター砲の射程は、400m。
 その射程内まで詰めなければならないが、当然――そこまでに立ちふさがるキメラやワームという障害は、無数に存在する。
 それでも、これが切り札というのなら――。
 絶好の条件で使う為の方策を、彼は全クルーに授けた。

「時間差とは意外と考えるね、あの人も」
「急にいきいきしちゃってなんなの、とは思うけどー。ま、それはいいとして」
 ムラサメ内のブリーフィングルーム。
 先の任務で結果的にデメテル発見の為に一役買った形となったアイシャ・ローカス中尉と高千穂・慎中尉の姿がそこにはある。
「で、肝心の時間稼ぎだけど‥‥ぶっちゃけ、十中八九乱戦になるわね」
 予め用意されていたディスプレイに、デメテルを示す円と、相対するエクスカリバー級を示す三角が三つ描かれている。他にも無数の小さな光点が灯っていた。敵戦力、ということだろう。
 光点が次々と三角に接近する中、三角のうち一つ――先行するムラサメが、光点の流れに逆行するようにデメテルに向かって接近を始める。
 当然、光点の動きはデメテルに集中する。その場面になったところで慎がPCを操作すると、ディスプレイの動きは止まった。
「まず凌がないといけないポイントがここね。この艦墜とされたらハナシになんないし」
 アイシャがディスプレイを立てた親指で示しながら言う。
 ムラサメが射程距離内に迫るまでに、約一分。
 接近を開始した段階でG光線ブラスター砲の充填を開始し、接近を終えた段階で第一射。そこまではまず確実にムラサメを守りきらなければならない。
 その間他二隻は、宇宙軍の戦力や自前のG5弾頭ミサイル、高分子レーザー砲などで凌ぎきれると思われる。
 だがここまでやりきると、更に難易度が上がると言っていい。
 ディスプレイの映像が再度動き出す。ムラサメへの攻撃は相変わらず続いているが、それと同時に、他二隻もやはりG光線ブラスター砲を撃つために接近を開始した。
 すると当然、この二隻にも――それよりも高い圧力での攻撃が待っていることになる。
「こうなると――っていうかあとの艦のリロード能力とかデメテルの再生能力を考えるとこうせざるを得ないんだけど、今度は全艦を護んないといけないわ」
 リロードが一分で済むムラサメに比べ、他二隻は二分かかる。
 ムラサメの充填完了にあわせて接近すると、接近を終えた段階で他二隻は未だ充填の段階である。
 その段階で密度の高い攻撃を浴びるのは避けたいし、とはいえ他二隻の充填を待ってムラサメの接近を開始するとなると、「接近中=充填中」という状態が三隻ともになる。
 そこで無闇に被弾を受け万一の――撃沈もそうだが、損傷でエネルギーが落ちることもだ――事態は避けたい。
 移動中よりは、接近し終えた艦がいた方がまだやりやすい。そういった判断での作戦だった。
「敵戦力は――正直考えるのが面倒なくらい多種多様ね。キメラは勿論ワームなんかもいるし」
 デメテル以外にも、デメテルの代わりにキメラ等を吐き出す小型衛星の存在もある。
 小型衛星は別の部隊で破壊を行う為直接関わりはしないが、うまく事が運べば作戦が進むにつれ――僅かながらではあるが、此方の作戦が楽になる可能性は、ある。

「さーて、久々に踊ろっかしら」
「踊る?」
 作戦説明を終えたアイシャの言葉に、傭兵が首を傾げる。
「海戦でもたまーにあったのよね。こういう敵がうじゃうじゃいるシチュエーション。
 最初は狭いその踊場を、自分のステップで無理矢理にでも広げてく‥‥楽しいと思わない?」
 楽しい、とは状況に似つかわしくない言葉だが、ある意味彼女には似合っている。
 お前学生時代ダンスやってたんだっけ、と慎が思い出したように言うと、アイシャは楽しげににやりと笑んだ。

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
リズィー・ヴェクサー(gc6599
14歳・♀・ER
美優・H・ライスター(gc8537
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

「あんなもの‥‥何で今まで気付かなかったのよ」
 ディスプレイ越しのデメテルを睨みつけながら、氷室美優(gc8537)は呟く。
「藪を突いたら蛇は蛇でもコブラが出てきたようなものね」
 一ヶ瀬 蒼子(gc4104)はそれを聴きつつ、呻いた。
 先の戦闘で宇宙での戦いに慣れたとはいえ、今度は敵の数が数だという不安要素がある。
 だが。
「コーディレフスキー雲の調査に行って、まさかあんな物があるとは思いませんでしたね。
 バグアがどの様な意図で、あれを置いているのか、この戦いに勝って見させて頂きましょう」
 隣の神棟星嵐(gc1022)の強気――というより冷静に現実を見ている姿を見、蒼子もまた思い直した。
「人だろうと物だろうと、護衛対象を守りきるのが私の仕事の流儀ってね‥‥!」
 その為にも、自分たちで見つけたものは自分たちで始末をつけなければならない。

「スピードが無くたって、パワーが無くたって‥‥あたしは護ってみせる」
 美優もまた、護ることに強い決意を持つ一人である。
 もう誰かを失うのも、悲しませるのも嫌だから――。
「この作戦を成功させる。誰一人欠かすもんか。
 ――さぁ踊ろうよ、アイシャ」
 そうアイシャに笑いかけると、強気の姿勢を崩さないアイシャは「当然!」ウィンクとともに笑みを返した。
「それも派手に、ね!」

 ブリーフィングルームを出て、各々のKVに乗り込む。
(やっぱり燃費が‥‥まぁやるだけやるか)
 ルナフィリア・天剣(ga8313)は愛機『フィンスタニス』のコックピットで肩を竦めた。
 彼女が駆るパピルサグは、今回の作戦に参加する傭兵中唯一――軍を含めればアイシャもだが――宇宙用機体ではない。
 それでもこの機体で戦うことを選んだのは、彼女自身がこの機体の原案者であるということから生まれる愛着もあるだろう。
 やるからには全力を尽くすまで。それに、不安な要素ばかりでもない。
 知った顔が多い、というのはなんともやりやすい。
「今回も頑張ろうにゃ〜☆」
 と、通信を寄越してきたのはその『知った顔』――寧ろ友人であるリズィー・ヴェクサー(gc6599)だった。

「ボクが宇宙で‥‥何処まで出来るのか、ねっ」
 スピカ・ドゥームと名付けたクルーエルのコックピットからその通信を寄越したリズィーもまた、この戦いにかける思いがあった。
 厳しい戦いになるのは承知。その上で、『誰も死なせたくない』という、己に立てた誓いを成す。
 その為の力として手に入れた愛機、その初陣。
 ――覚醒により生じた、頭上で煌めく円環の炎が、彼女の意思を反映するかのように刹那の間だけ勢いを強め揺らめいた。

 芹架・セロリ(ga8801)にとって意外だったのは、デメテルの発見だけではない。
 友人であるルナフィリアや抹竹(gb1405)の参戦も、それに当たる。愛機であるコロナのモニター越しに二人の機体を一瞥していると、
「名物隊長二人の小隊に負けないように、俺たちも頑張るか」
 兄――夜十字・信人(ga8235)のタマモ『Hyperion』から通信が飛んできて我に返った。
「この数が相手では、単騎での戦闘は命取りだ。ロリ、今回は背中を任せる。フロントは任せておけ」
 信人の提案は、意に反するところではない。肯きつつも、
「あんまり無理をしすぎるなというか倒れない程度にしろよ。帰ったらお前は飯を作らないとなんだから」
 そんな皮肉を返してみた。尤もこれも、信頼の表れといえよう。

 そうこうしている間に、ムラサメを含むエクスカリバー級巡洋艦三隻は、デメテルから約ニキロ――作戦宙域に到達しようとしていた。
 既にUPC軍各員のスタンバイも出来ている。
「バグアに目にモノ見せてやる為にも、貴様らは死に物狂いで暴れろ!」
 それは――ムラサメ艦長・黛秀雄からの、全兵士への通信。
 無論傭兵たちにも届いているその通信で、黛は猛々しく声を上げた。

「総員――出撃ッ!!」

●群を成す数多の敵意
 傭兵を含む人類勢力のKVが次々と宇宙空間へ飛び出していくのと比例するかのように、それまで宙に漂っていたキメラやHWがこぞってKVやエクスカリバー級巡洋艦めがけて群がり始めた。
 その中でも、先にデメテルめがけ前進を始めたムラサメへの圧力は特に強い。
 宣言通りそのムラサメの前方に、信人機とセロリ機がいる。更にそこから左――ムラサメから見て斜め左前方には、星嵐機の姿があった。
 フロントに立った人型形態の信人機は手始めに、群がる多種多様なキメラに対してミサイルポッドをばら撒いて牽制をかけた。
 幾らかは直撃し、そうでないモノは他の犠牲を無視して更なる接近を果たそうとしてくる。宇宙という場所故か、キメラにも遠距離攻撃を持つモノも数多い。ムラサメに近づけさせない・被害を与えない為には、そのダメージはある程度KVで肩代わりするしかなかった。
 それを考慮しながらだと、数などもう逐一数える気にもならない。セロリ機がバルカンで足止めをかけた直後――。
「今だっ!」
 それらの敵影を、ムラサメの高分子レーザー砲と、それと火器管制をリンクさせた信人機のアサルトライフルが尽く貫いた。入れ違いに、焼き尽くされたキメラが放っていた光球を信人機が被弾したが、幸いそれ以上の追撃はなく済む。
 尤も、それで戦慄するバグアでもないようだった。肝心のデメテルは高分子レーザーでは効果的なダメージを与えられないこともあるし、何より数では艦内クルーを含めた人類よりも多い。
 頑張って数を減らして圧力を削っても、すぐに復活する。それは分かっていたことだった。
「作戦の第一段階。ムラサメが撃つまで、邪魔はさせません」
 だから星嵐は、敵の妨害に徹した。
 基本的には弾幕を張り続け、それを逃れて接近したモノだけ狙い撃つ。
 敵の数を減らすことではなく、遅滞によって時間を稼ぐのもまた一つの作戦だった。

 今のところムラサメ前方に迫る敵はキメラが殆ど。
 蒼子は逆探知機構でその情報を整理、慎の幻龍を含む宇宙軍の管制機と情報共有を行なっていた。
 無論ムラサメの直衛として、接近するキメラ群に対しイースクラや機関砲の洗礼を浴びせてもいる。
 ただ蒼子機『蒼牙・銀龍』がいる辺りは比較的敵の密度が薄く、また友軍機やムラサメの直掩にあたっている僚機が定期的に飛び交っている為、現状、蒼子機の負担はそれほど重くはない。
 だからこそ。
 蒼子は最も厄介な敵になるであろうタロスやHWの索敵に重点を置いていた。

 その蒼子から最初に「そっちにタロスが来てる、頼んだわ」と指示を受けたのはリズィーだった。
 どうやら敵は多数のキメラを引き連れつつ接近しているらしい。となれば、此方も。近くにいたルナフィリア機に呼びかけ、また宇宙軍の有志を加え迎撃に入る。
 タロスを中心に上下に展開したキメラを宇宙軍に任せ、リズィーとルナフィリア機でタロス対応に当たる。
 が、宇宙軍が対応に当たる前に上方のキメラから多数の光弾が降り注いだ。しかも狙いはタロスが接近しようとしていたリズィー機に集中している。
「ごめ‥‥っ、よろしくにゃっ」リズィー機は慌てて旋回し、硬い装甲を持つルナフィリア機に盾となることを依頼する。
「お前ら如きにやらせは‥‥しないっ!」ルナフィリアは光弾をあえて受けつつコックピットでそう声を上げた。
 そうしてやり過ごした頃にやっと宇宙軍が対応にあたり始め、自由になった。
 比較的高速なタロスに対してルナフィリア機がイースクラで援護し、その間に接近を果たしたリズィー機は変形。
「出し惜しみなし‥‥ぶっ潰れろぉぉ!」
 そしてスキルを上乗せした状態で、すれ違い様にレビンを振るう――!
 一瞬の静寂の後、タロスが爆散し、その勢いのままリズィー機もまた次の索敵を始めた。
 
 一方では抹竹機と美優機が、HW三機+それが引き連れてきたキメラと戦闘を繰り広げていた。
「目を瞑ったって当たるよ」
「数が多すぎるというのはそのあたりでは楽ですね‥‥」
 基本的には揃って弾幕を張るスタイルだ。抹竹機の方は死角から狙われにくいように小刻みに動きながら、である。
 それは同時に弾幕の幅の拡大にも役立っていた。それでも撃ち漏らした敵は――、
「‥‥うん、やっぱりあたしはこっちの方が好き、だよ」
 美優が即座に人型形態への変形コマンドを叩き、変形直後に構えたディフェンダーで切り払う。
 どちらかというとひきつけ役になっている為、消耗はやや大きかったが、作業という意味ではかなり効率的に進められた。

 果てしなく長くも感じる、僅か六十秒の移動。
 だがそれには終わりがある。
 ムラサメの前進が止まる直前になって、信人機ら艦前方で戦っていたKVが左右へ展開した。
 そして。

「――第一射、撃てェッ!」

 黛の号令に応じて――。
 艦に据え付けられた砲身から、黒檀の宙を真直ぐに貫く白光が放たれた!

●悪意を貫く光浄の槍
 G光線ブラスター砲が烈しい勢いを保ったまま、デメテルまで届く。
 直後、光を受けた辺りを中心に衛星そのものが激しく揺らぎ、夥しい数のパーツが宇宙に剥がれ落ち始めた。
 それは外観上の話だが、勿論衛星内部にも大きな損害を与えている、筈だ。

 ――尤も、そのまま放っておけばすぐに塞がってしまう傷であることも、人類は過去の大型封鎖衛星との戦いを通じて知っている。

 後方にて一時留まっていた二隻のエクスカリバー級が揃って前進を開始した。
 それに伴い、傭兵たちの動きも変化する。
 特に大きいのは――動き出した巡洋艦への援護にも人員を割いたことだ。

「第二段階に移りましたので、自分はあちらの艦を護衛しに向かいます。高千穂殿とアイシャ殿、無理はしないで下さいね」
「言われなくてもそのつもりよッ!」
「本当かよ‥‥」
 後方に向かう星嵐はそうアイシャと慎に通信を投げる。呆れたようなツッコミは無論慎のものである。
「シン、索敵お願い」
 その慎に向かって、同じく後方援護の遊撃に向かう美優が要請する。「了解」という慎の言葉を背に、美優は遊撃に出た。
 後方の二隻が迫ってくるということは、戦域が徐々に狭まるということだ。
 故に乱戦となるのは想像に難くなかったが――、
「‥‥?」
 美優はコックピットの中で首を傾げた。
 思ったより、敵戦力が少ないのだ。
 理由は一つ、思い当たるところはある。別の依頼で行われている、デメテルの子と呼んでもいい小型衛星の破壊が順調に進んでいる、という点だ。
 作戦推移に伴って生産能力が落ちたことで戦力が減っていてもおかしくはないが――だからといって、三隻のちょうど中間部分があまりにも戦力がまばらではないか。
「どういうこと‥‥?」
 訝しげに呟いた直後、後方二隻のうち左側の艦の側板で小さな光が上がった。どうやら攻撃を受けているらしい。
「バグアはどちらかというと左に偏ってる。間のキメラは無視していいからそのまま突っ込んでくれ」
「わかった、ありがと!」
 慎からの指示にそう返して、美優はそちらへ向かって機首を傾け、先にそちらへ向かった星嵐機の後を追った。

 美優の疑問への答えは、もう一つある。
「なるほど‥‥そうきますか」
 呻いたのは抹竹だ。
 その抹竹機とルナフィリア機、蒼子機は今、ムラサメのすぐ後背での迎撃を強いられていた。
 他にもアイシャの小隊を含めた宇宙軍のKVが多く集まっているが、敵の戦力も同程度以上の数はいる。
 理由その二――接近を果たしたムラサメに対し、後背からの集中攻撃が行われていることだ。
 三隻の中間辺りにいたバグアはそれぞれの攻撃へ散ったが、その中でも特にムラサメへの攻撃は苛烈だった。真直ぐムラサメの後部装甲を狙ってくるだけでなく、上下左右と連動してくる。しかも問題となるであろうHWやタロスはそれぞれ正面と上下に分かれている為、なかなか的を絞れなかった。
 ムラサメの前方には信人機とセロリ機、リズィー機がいたものの、此方はデメテルに一番近いだけあり小型衛星の破壊は勢力が弱まる理由になっていない。結局前も後ろも今の戦力で乗り切るしかなかった。
「上の二時方向と下の十字方向からそれぞれタロス接近中! どっちもキメラを多数連れてきてる!」
「下のは任せといて! その代わりタロス絶対墜とすのよ!」
 蒼子の指示に真っ先に応じたアイシャが、小隊員を引き連れて高度を下げた。
「じゃあ上は私がやるか」
 ルナフィリアはそう言って機体の高度を上げる。前方には確かに多数向かってくる敵影があった。
 待っている時間が惜しい。上昇を続けながらも、
「取っておきだ、受けてみろ」
 アサルトフォーミュラBを起動した上で、ラヴィーネを発射する――!
 直後、無数の光が前方に生まれたが、その中でもタロスはなんとか接近を続けようとしていた。
 そこを止めたのが、抹竹機。タロスの目の前に現れると、練機刀「陽」をフェイントに使ってすぐに回りこみ、機刀「陰」でタロスの胴体を切り払った。

 小型衛星はいつの間にか全て潰え、それに伴い後方の敵戦力は激減していた。
 それでもムラサメには相変わらず敵が群がり、時間の感覚などなくなり始めた頃――ついに、三隻のエクスカリバー級は肩を並べた。

「よくやった、流石俺のクルーだ!」
 黛の声は興奮気味だった。以前の戦いを思い出しているのかもしれない。
「――邪魔な衛星なんぞぶち壊してやれッ! 全艦、撃てェッ!!」
 その言葉とともに、今度は三条の光線が宇宙を染め――。

 その槍に貫かれた大型封鎖衛星は――貫通箇所を中心に小規模な爆発を幾重にも繰り返した後、その機動を停止した。

●逃亡者
「残念ねぇ‥‥」
 先程まで人類がデメテルやそれが吐き出すバグアと苛烈な戦闘を繰り広げていた場所から、やや離れた宙域。
 他に護衛となるワームも付けず、佇むフォウン・バウの姿があった。
 それを駆るのは――ゼオン・ジハイドの5、シバリメ。

 実は彼女、先程までデメテルに居たのだ。内部で陣頭指揮を執っていたのである。
 或いは一発目のG光線ブラスター砲を被弾した時点で不利を悟ったのかもしれない。
 エクスカリバー級が三隻ともその最強兵器の射程距離にデメテルを捉えた時、シバリメは既にフォウン・バウにて脱出する準備を整えていた。
 勝利に湧いた後、残存バグアの処理に追われた始めた人類に気づかれる間もなく、彼女は戦闘宙域から離脱したのだった。

 デメテルでの戦いは、完敗といえよう。
 これまでにも何度か人類とは相まみえていることもあるし、一度は自身の本気を出させられたこともある。だから特別、おかしいことだとは思わない。
 とはいえ、だ。
「――『アレ』を見たら人間は、どんな顔をするのかしらねえ‥‥?」
 くすくすと哂いながら、今もなお戦闘が続く宙域から離れていった――。