タイトル:細氷の輝き方マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/10 21:32

●オープニング本文


「時期的には‥‥そろそろ考えないと拙いんだが」
 ドイツ・クルメタル社のとある工場。
 その会議室にて、以前傭兵のアイデアを元にディアマントシュタオプの開発に携わった技術者たちが各々に難しい表情を浮かべていた。
 彼らの前にはこのところのUPC軍の動きに加え、他のメガコーポのKV開発及びバージョンアップへ向けた動きが纏められた報告書の束が置かれている。
 KV開発は勿論のこと、特に既存KVのバージョンアップの動きにここ最近拍車がかかってきたのは、人類の目が本格的に宇宙に向き始めたことが要因だろう。
 同社のシュテルンやウーフーと違い、未だバージョンアップが済んでいないDSがその流れに乗り遅れるわけにはいかないのだが‥‥。
 如何せん元から『尖った』機体ゆえに、どういった方向性でバージョンアップ案を軍や傭兵たちに提供するか、技術者たちは目下頭を悩ませているところだった。
 さて、そんな技術者たちは殆どが中高年の男性なのだが、一人だけ三十路少し手前と見える赤髪の女性が混ざっていた。
 女性の名はミーネ・リースフェン。仕事大好き、自宅でも暇さえあれば機械弄りに興ずるといった筋金入りの技術者である。一応様式美とかそういったことには拘るタイプではあるが、その興味が機械以外のことに向く様子は今のところない。
 腕はいいのだが、ある意味では工場内の悩みの種である。化粧っ気がなくとも目鼻立ちが整っているのに勿体無い、とかそういう意味でだ。

「やっぱり実際に使用している人間の意見が聴きたいところだな」
 技術者の一人が言う。
「勿論それ以外のKVの利用者も含め、ね」
 ミーネは腕を組みながら付け足した。
「こういうことを言うのもどうかと思われるかもしれないけど‥‥現実問題、他のKVを出し抜こうとかそういうことを考えてる場合じゃないでしょ。出し抜くどころか出遅れかけてるわけだし」
「‥‥そうだな」
 最初に意見を出した技術者が表情は変えずに肯く。他も、渋々といった表情で同意を示した。
 その時、会議の議長――工場内での技術統括者たる男が口を開いた。
「――それでは、此処で傭兵の意見を募ることが出来るように調整をしよう。当日の意見聴取はリースフェンに任せる」
「え」いきなり役割を押し付けられる格好になりミーネは目を丸くする。
「あたしですか?」
「‥‥外部の者を招いての会議の司会が、いかつい顔の技術者というのも雰囲気としてどうなんだという話だ」
「あー‥‥」
 一理あるし、その意味では今この場に居る中で、傭兵たちの前に姿を見せるとしたら適任はミーネ以外いない。
「‥‥まぁ、それならしょうがないですけど」
 今度はミーネが渋々肯く番だった。
 別に外部の会議に出るのが嫌というわけではないのだ。
 ただ――会議となると。
「人前に姿を出すのだから、身なりはきちんとしていくように」
 とかそういう要求をされるのが面倒くさいだけだった。
 ‥‥実際はきちんと言われたとおりするのだが。

●参加者一覧

時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
エルファブラ・A・A(gb3451
17歳・♀・ER
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
美空・桃2(gb9509
11歳・♀・ER

●リプレイ本文

「もうVUの話が出る時期なのねー。戦場は宇宙に移りつつあるけど、まだまだ使っていける機体にしたいわ」
 と語るのは、DSのそもそもの発案者でもあるフローラ・シュトリエ(gb6204)である。他に同席している傭兵は、三人。
「並みいる中堅機とは違い高級機なのでありますから、VUもきっと一味違うのでありますよ。っつーかそれを期待するであります」
 そのうちの一人、美空・桃2(gb9509)はその横で技術者のハードルを跳ね上げてみせる。
 友人の小隊の隊員が過去にDSに乗っていたり、現役で乗っている友人もいたりするといった理由で参加した時枝・悠(ga8810)や、乗ってこそいないものの今回の案件には興味があるエルファブラ・A・A(gb3451)も、その意味では同感といってもよかった。
「は、はは‥‥それもそうね」
 初っ端飛び出したハードルジャンプアップ発言に、現在会議室にいる唯一の技術者であるミーネは思わず冷や汗を垂らした。
 ちなみにそのミーネ、今日は「ちゃんと」パンツスーツ姿で、薄く化粧もしている。
 尤も、結果的に会場に揃ったのが全員女性だった為意味があったかどうかは不明だが。

「――さて、早速それじゃ皆さんの意見を聴きたいわけだけど‥‥」
 四人の傭兵たちが二人ずつ対面に座るテーブルの真奥。一般的な会議で言うところの議長ポジションに立ったミーネは、そう前置きしてテーブルに軽く手を置く。背後にあるホワイトボードに意見を記していくことも考えたが、エルファブラがどうやら議事録を作るつもりで書記をやるというので任せることにしたのだ。
 傭兵たちには事前に、幾つかプランが提示されている。
 だが、会議の口火を切った意見は、それらのどれにも該当しないものだった。
「既出の候補以外を挙げてもいいのなら、私は拡張性の強化を提案させてもらうわ」
 主張したのはフローラだ。
 いきなり思わぬ意見が出た為か、ミーネの口が小さく開きっぱなしになっているのを見ながら彼女は続けた。
「知覚攻撃性能においては今尚トップの性能だから、そこよりは他を伸ばした方が伸ばしやすいかと思って。
 その上で、ただ耐久性能とかを伸ばすよりも拡張性を伸ばした方が色々と融通も利くかしら、と。
 色々と装備してると、後一つ装備したいと思うことも多いしね」
「拡張性‥‥ということは、例えば装備重量の問題とか」
「理想を言えばアクセサリスロットの拡張かな」
 付け加えたのは悠だ。
『コレジャナイ』感のあるVUだけは避けたいし――その為にアクセサリスロットの拡張を主張したのは、もっと切実な理由がある。
「今後は宇宙戦の機会も増えるだろうから、宇宙用フレームや水素カートリッジで枠を食う分、多い方が良いかと」
「本音を言うと副兵装スロットとアクセスロットを両方増やせたら理想的なんだけど、流石に無理でしょうからねー。
 宇宙に行く時なんかはアクセスロットが自動的に一つ埋まるから、その辺りも考えるとアクセスロットが増えた方が嬉しいわ」
「‥‥ふむう」
 再度のフローラの意見を聴いた後、漸く我に返ったミーネは、唇に人差し指の腹を当てて思考の素振りを見せる。言葉を選んでいるようだった。
「意見を持ち帰りはするけど、現実的には厳しいと思うわ。
 既にアクセサリスロットは四つあるし――今他のメガコーポで出ているアクセサリスロットが五つあるKVは、端からその拡張性を強みとして打ち出していて、その為の装備力を持っているものが殆ど。
 DSも重量はそれなりに詰め込める方ではあるけど、前提がそこじゃない以上は、ね」
「なら、副兵装スロットだけならどうだ?」
 切り返したのは、それまで書記に徹していたエルファブラだった。
 後に議事録として纒めるつもりのメモから顔を上げ、言葉を続ける。
「携行数が多い方が取れる行動の幅が増すと思うが」
「そうねー‥‥。副兵装スロットの方が、アクセサリスロットよりも実現できる可能性は高いわ。
 副兵装スロットが四つ、という機体は、今やそこまで珍しくもないしね」
 ミーネが色良い返事を返し、VUにおける一つの方向性が決まった。

 (技術者側としては)思わぬ方向から話が始まったものの、ここで流れは本来想定していたものに戻る。
 即ち、事前に提示していたプラン――スキルないし機体スペックの改良の話である。
 最初に話題に上ったのは、HBフォルムだった。
「燃費を今より良くすることは可能かしら?」
「或いは上げ難い移動を更に強化出来るようにするか、だな」
 フローラとエルファブラの提案に対し、しかしミーネは「うーん」と渋面を作った。
「とりあえず、移動の方は技術的にも限界があって厳しいわね。
 元々そっち系のはワイバーンとかを出している英国工廠のが得意だし、クルメタルでやれることは今くらいが限界よ。
 でもって、燃費の方なんだけど‥‥。こっちは、単体でなら少しは出来るの。
 ただ、元々のスキル自体がかなり行き着いた効率なのもあって‥‥さっきの副兵装スロットの話と合わせると、コストの面で厳しくなっちゃうのよね」
「たとえば、攻撃の数値を落としても?」
「元々DSでは殆ど切り捨てている部分だし、流石にそれだけと引き換えでは賄いきれないわね」
 フローラの提案にも、ミーネは難しい顔をした。つまり言外に、実現は難しいと言っている。
 練力消費の方は副兵装スロットとの取捨選択を迫られた格好だが、フローラもエルファブラも、元よりスキルや能力値よりもスロットの方を優先的にと考えていた。ここは燃費についても諦めざるを得ないだろう。
 一旦話が落ち着いたその時、それまで意見を出さずにいた美空が口を開いた。
「では、練力を発電出来るスキルや固定兵装をつけることは可能でありますか?」
「え?」また思わぬ意見が出てきて、ミーネが目を剥く。
「知覚武器は多かれ少なかれ、機体練力をつぎ込まねばならないものが多いため、常に燃費の悪さに苦しんできたのであります。つまり搭載武装の制限が激しいのです」
 要は、例えばORGEの圧練装甲や発練装甲のようなものがあれば、という提案なのだが‥‥。
 ひと通り話を理解したところで、ミーネは首を横に振った。
「まぁ、アレは物理知覚がどうか以前に練力をやたら消費するスキルがあるORGEだからこその工夫だっていうのもあるけど‥‥それを差し引いても難しいわね。
 あの技術って、カプロイア社の専有技術なのよ。
 それを新規機体じゃないDSに組み込むっていうのは――こう、色々面倒くさいから一言でまとめると、大人の事情的に許可が降りないと思う」
「ですが」美空は更に切り返した。
「それならそれで今後主となる戦場での使用を考えれば、既存機能を高度化しか道はないのであります。
 宇宙向けの簡易ブースト機能を付加させることは無理なのは承知していますが、通常ブーストの燃費を極限までコストカットする事を希望するのであります」
 具体的に言えば、通常ブーストにかかる練力を50から20ないし30前後まで落とせないか、と。
 しかし――これにはミーネは、「無理ね」迷うことなく首を振った。
「そもそもブースト自体がULTの管理技術で、どこのメガコーポでも独自の調整は出来ないんだから」

 ちなみに悠はそもそも「スキルはこれ以上手をつける必要はない」と考えていた。EBシステムにしてもHBフォルムにしても長所を伸ばすタイプのスキルである為、基礎スペックの底上げで充分賄えるのではないか、というのがその理由である。
 EBシステムに改良を求む声は最初からなく、これまでの一連のやり取りから、副兵装スロット増加と引き換えにスキルの改良は殆ど見込めない、という結論が出――話題はスペックに移る。
「伸ばすならやはり長所かと」
 悠が思うところを口にする。
 命中・知覚・回避――現状でも最上位に位置するものの、更に他を引き離すことが出来れば売りになるのではないかというのがその主張である。そもそも回避以外の防御面を考える者はこの機体を買わない、というのもあった。
 現状でも知覚と命中で二冠。三つとも更に上げられれば尚いいのだが――。
「三つとも、は厳しいかもしれないわね」腕組みしたミーネはそう答える。
「皆が言ってる通り今でもかなり尖ってるから、更に尖らせるにはそれ相応の対価が伴うし‥‥。
 たとえばさっきちらっと言ってたみたいに攻撃を削れば、っていう話になるけど‥‥それでも知覚と回避の二つ、かしら」
 命中――即ち照準を司るシステムの精度は、今でもかなり限界に近づけているほうだとミーネは言う。
「出来るなら攻撃をとことん落としてでも他のを上げたいけど、高級機である以上攻撃も最低限は、って上がうるさいのよね」と、ここは技術者らしい本音を苦笑いとともに漏らした。
「攻撃性能を削ったら、練力を上げることは可能でありますか?」
 やはり継戦性能にはこだわりたい美空が問うと、
「多分それくらいなら、考慮出来ると思う」
 少し考える素振りを見せてから、ミーネは肯いてみせた。

 拡張性の強化と、長所足りうる能力値の強化――。
 これまでで、大体の方向性は決まったと言っていいだろう。
「そう言えば、VU後の機体名称って決まってるのかしら? シュテルン同様GlantzのGが付くとか?」
 ほぼ本題を終えた会議は終わりに近づき、実戦性能とはあまり関係のない話題へ向かっていく。フローラが思い出したように、VU後の機体名称の話題を出した。
「私は新しいの浮かばなかったから、Gが付くなら賛成だけどねー。元々の機体名称的にも問題ないし」
「もしG以外がつくのなら、いっそ機体名称の最長を目指したら面白そうだな」
 これまた思いついたように悠が言う。続いてエルファブラが口を開いた。
「後これはオマケのようなものだが、巡航速度と最高速度を引き上げられないか?」
「――どっちも、即答は流石にあたし一人じゃできないけど考えておくわ。速度の方は別の技術者に掛けあう必要があるけど」
 ミーネはそう言って、「やっぱり飛ぶのは速くてなんぼよねー‥‥。そうよねー‥‥」唐突に窓の外を眺め遠い目をした。

 それから間もなく会議が終わり、傭兵たちは席を立つ。
 会議室から出る彼らを、ミーネは部屋の中で見送るように立っている。その手にはエルファブラが既に作成した議事録が渡されていた。
 と、「ああそうだ」最後に部屋を出ようとしたそのエルファブラが不意に足を止めて彼女の方を見た。
「担当が誰か判らぬので伝言を頼む。
 ヨロウェルとアッシェンのVUも早めに頼むと担当者へ伝えてくれ」
「‥‥りょーかい。アッシェンプッツェルのは英国工廠にも伝えておかないとかしらね」
 肯いたミーネだったが、エルファブラの方はまだ言いたいことがあった。
「後、DS推奨品の開発者に素晴らしい、ウーフー推奨品の開発者へ最悪だ、とな」
「‥‥そっちも伝えとくけど、ウーフーの方の開発者も多分本人的には頭を捻って考えたんだと思うから、結果は兎も角そこのとこだけは分かってあげて頂戴な」
「‥‥ふむ」
 本日何度目かの苦笑を浮かべるミーネを尻目に、エルファブラもまた会議室を出た。