タイトル:【TC】後暗き希望マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/09 02:23

●オープニング本文


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 人類の、山梨における反攻――。
 その第一歩となった上野原市に以前バグアが建造していた基地は、今や(無論バグアならではのテクノロジーは駆使出来ないものの)UPC軍の拠点となっていた。
 後方の、というのが大事なところだ。
 上野原の攻略を終えたその勢いのままに、既に大月市も奪還に成功している。
 上野原の時はバグア側から訪れた内通者の情報が力となったが、大月の攻略はそれも必要なかった。大月にいたバグア戦力は、お世辞にも人類からの攻撃に充分に耐えうると言えるものではなかったのだ。
 東京を始めとして人類が押し返していることが影響している、という声も勿論あったが、先の上野原で虎視眈々と再侵攻を狙っていた例もある。防衛戦力を他に回していると考えた方が無難、という意見が軍内でも大きい。
 そういったわけで油断だけはしないようにしつつ、今後は都留市や富士吉田市、そして県の中心である山梨市や甲府市にも歩を進めていこうとしているところだった。

「‥‥地下トンネル?」
「そうだ、都留市と富士吉田市の間に造られている。
 位置的には、ちょうど中央自動車道から都留市街を挟んだ南側だったはず」
 上野原の基地の一室。その中央に置かれたテーブルを挟んで、二人の男が向かい合っていた。
 一人は、UPC軍少佐にして本作戦部隊の総司令でもある榛原・祐一。
 もう一人は、以前単身人類の前に『内通者』として現れた強化人間である。名を中司・冬馬という。年の頃は二十代後半――祐一よりは大分若いが、態度は不遜である。
 上野原攻略の際に施設の情報を人類にもたらした彼は、自身が人類に囲まれた中で抵抗の様子を見せることもなかった。
 その為、常時監視下という条件付きではあるが身柄は拘束されておらず、また彼はその後も細々と情報を話し続けていた。
 今話題に出たのも、そんな情報の中の一つだ。
「何の為にそんなものを?」
「所謂防空壕のため、でもあるけど。
 山梨自体八割が山――つまり道路を作れる場所が限られてくる。
 そうなると、いざ人類の逆襲に遭った時そこを狙われるのはわかりきっているだろ?」
「‥‥まぁそうか。立場が逆でも同じことを狙うだろうし」
 物資の有無は戦争の有無を大分左右する。その輸送を絶ってしまうことが出来るのならそれを考えない手はない。
「都留と富士吉田の間は、まともに輸送を行える道が中央自動車道と国道くらいしかないからな‥‥その対策さ」
 冬馬の言葉に成程、と祐一は胸中で肯く。
 山梨の拠点となりうる地域といえば真っ先に思い浮かべるのは甲府市や山梨市あたりだが、あの辺りは中央自動車道でこそ繋がれていないものの、国道は迂回路を含めれば選択肢が幾つかある。
 そして他に拠点を構える必要があるのなら、規模と地理的には都留と富士吉田は確かに使える。
 なぜなら――その富士吉田の、更に向こうには。
「‥‥樹海ならいくらでも隠れようがあるから、ということか」
 そういうことだ、と冬馬は肯いた。

 それから地下トンネルを襲撃するプランを話し合った後――。
 将校に同行されつつ部屋を出ていく冬馬の背中に、
「一つ訊いていいだろうか」
 祐一は座ったまま声をかけた。
「何?」顔だけを自分に向けた冬馬を見据え、祐一は問いを放つ。
「作戦がこの調子でうまく行けば、山梨からバグアはいなくなる。それは即ち、君の元の居場所もなくなるということだ。
 君の命を奪うことまでは今のところは考えていないが‥‥。
 君は、というか君を内通者に寄越した『上の』バグアは、それでいいと思っているのか?」
「いいと思ってるからやってるんじゃないか」
 何を今更、と言いたげに冬馬は肩を竦めた。
「俺もそうだけど、あの人だって山梨にバグアの未来があるなんてもう思っちゃいない。
 でもって、あの人は元々人として生まれ育った山梨を大事にしたいらしくてさ。
 少しでもその自然を損なうことを抑えられるなら、っていうだけのこと」
「‥‥バグアが、自然を」
「信じてもらおうなんて思ってない。
 ただそういう意味では、こんな状況になる前からあの人はバグアっぽくないといえばなかったな」
 それだけ最後に言って、冬馬は部屋を出ていった。

 ■

「今回諸君には、件の地下トンネル内での物資輸送の迎撃を行って欲しい」
 再び傭兵たちを集めたその前で祐一は言う。ちなみにこれ以前に、内通者により地下トンネルの存在と目的が明かされたことは既に話してあった。
「上野原と大月の件があって以降、都留市は急速に要塞化が進んでいるとの報告があった。
 だが、もともとそれほど拠点としては重要視されていなかったこともあり、今ならUPC軍だけでも充分に叩くことが可能だ。
 その為にも、富士吉田――ひいては既に拠点となっている富士山方面からの物資輸送の芽はここで摘んでおかなければならない」
 斥候の報告によれば、最近は一日に一度、富士吉田側から都留に向かって護衛を前にして装甲車が走っているという。そこを狙って叩くことが今回の目的だという。
「なんでわざわざ敵のいるタイミングを狙って?」
「――これも内通者が教えてくれたことなんだが、トンネル内には侵入者排斥用のトラップが仕掛けてあるらしくてな」
 話を聴いていた雄人の疑問に、祐一は答える。
 コンクリで固められた天井は一見何もないように見えるが、周囲にバグアでない者の存在を認めると砲台が出現し、真下の地面に向かってレーザーを放つのだ。
 しかも砲台は役目を終えるとまたすぐに姿を隠す。その後は定期的に姿を見え隠れさせるのだという。
 もし敵の存在がない時に侵入した場合、即座に敵にその存在を知らしめることになるだろう。
 それは敵がいても無論同じことだが――大きな違いが、一つ。迎撃部隊を送るにしても、道があまり広くない故に装甲車が邪魔になってしまうのだ。
 加え、作戦としてはタロスたちはぎりぎり――トンネルの出口から五百メートル付近まで都留側に引き寄せた上で行動を開始する。
 そこまで引き寄せれば、此方が防衛トラップの存在を知らないと思っている筈のバグアは「勢いで突っ切れる」と考えるはずだとの予測だ。
「砲台出現の周期についても分かる範囲で教えてもらったが、如何せん一部はパターンが豊富で内通者も掴みきれないそうだ。
 そこだけは実際行って確かめてもらうことになってしまうのが申し訳ないが、宜しく頼む」

「‥‥内通者のこと、随分信用してるんだな」
「態度こそえらそうだが、今のところ証言に虚偽はないからな。
 それに――こうして内通を行なっていることの真意に、バグアとして勝利を諦めている部分が見えるのもある」
 ブリーフィングが終わった後雄人にかけられた問い掛けに、祐一はそう言って肩を竦めた。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
崔 美鈴(gb3983
17歳・♀・PN
不破 霞(gb8820
20歳・♀・PN
エイラ・リトヴァク(gb9458
16歳・♀・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

「ここがその地下トンネル?
 フン、さすが寄生虫だよね! コソコソしちゃって」
 トンネルの、都留側の出入り口にKVに乗り込んだ傭兵たちはいた。
 崔 美鈴(gb3983)の言葉を受け、「寄生虫‥‥な」雄人が何かを言いかけたが結局それ以上は何も言わず、
「‥‥とにかく、この前の調子で‥‥今回も、行けたらいいね」
 代わりに、リオン=ヴァルツァー(ga8388)がそう言った。
 一方で、
「奪回はうまく行ってるけど、何か躓きそうな気がするんだよね」
 赤崎羽矢子(gb2140)は唸っていた。
 懸念の原因には、何となく心当たりがある。
 内通者という不確定分子を抱えており、現状それが齎す情報に頼らざるを得ないことだ。
 それについては、他にも思う所がある者がいた。
「‥‥」
 羽矢子の呟きを黙って聴いていた不破 霞(gb8820)がまずその一人。
 とりあえずこれまでは上手くいっているが――それでも、完全には信用しきれない。
 もう一人は、ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。此方も呟きに対する言葉での反応はないが――。
(信用できないのも必然。‥‥だったら信じ合えるようになるには――)
 思考しつつ、トンネルの奥の闇を見据えた。

●予期せぬ襲撃
 内通者によると、毎日のトンネル往来は時間が決まっているという。
 トンネル内にバグアを遮る障害物があるわけもなく、となると移動にかかる所要時間も同じ。
 それらの情報から逆算し、敵がある程度近づいた所で傭兵たちはトンネルに足を踏み入れた。

 耳を澄ませば、早くもトンネルの奥から駆動音が聴こえるようになっていた。
 九機のKVのうち、前に出たのは五機。
 そのうちの二機、リオン機と霞機が更に歩を進めようとし――。
 刹那、眼前に、上からレーザーが降り注いだ。
「今のだけ‥‥とはいかんだろうな」霞が呟く。
 そこそこ太さのあるレーザーだった。分かっていた攻撃故に咄嗟に防ぐこと自体は造作もなかったものの、それでも少しばかり機体に傷はついた。
『――UPC、だと‥‥!? くそ、こんなところにまで!』
 直後、遠くからそんな叫び声が聴こえた。今の砲撃の正体を察したバグアのものだ。
 厳密に言えば「気づかせた」のだが――ともあれ、それから間もなく、それぞれ前進した両軍は互いをはっきり視界に捉えるに至った。
 敵影はタロスが前に緑と紫、後に黄と茶の二機ずつ、計四機。その間に挟まれる形で三台の装甲車がいた。前に出ていたKV五機は、道の両端に回りこみながらそれらへの接近を図る。
「死ね死ね死ね死ねあははははははは!!」
 後ろの四機はそれを援護すべく、スナイパーライフルやクロスマシンガン等でタロスを迎撃に出る。ちなみに今の壊れた笑いは(ある意味言うまでもないが)美鈴のものである。またエイラ・リトヴァク(gb9458)は手頃な――既に発射口を見定めた天井の砲台に向かってレーザーライフルを構え、それを砲口の内側から破壊した。
 その破壊したものも含め、アルヴァイム(ga5051)はどこに砲台が仕掛けられているか、及びその攻撃パターンといった情報をより完全なものに仕立てていく。尤も砲台はまさに射出した瞬間にしか開かないため、いざ乱戦が始まるとタイミングを見越しての破壊は難しくなりそうだった。
『問題ない、このまま突っ切るぞ!』
 ややあって、そんな思考を知るわけもない緑タロスから男の音声が放たれた。
 迎撃やトラップ破壊を見ても問題ないと判断したのは、交戦に至るまでの間に何度も傭兵たちが――勿論故意にだが――迎撃トラップを発動させていたからだろう。回りこませるまでの暇もなく、残った四機の間など勢いで突破出来ると踏んだ筈だ。
 ――だが。
「一定のタイミングだというのなら、対応は容易‥‥とな」
『な‥‥ッ!』
 突如として進路を変えた藤村 瑠亥(ga3862)機が、緑タロスの前に立ち塞がる。
 戸惑いを見せた男に対し、瑠亥は即座に攻勢に出た。ハイプレッシャーでタロスを壁に叩き付けると、自身もその動きに合わせて機体を横滑りさせる。
 勢いのまま緑タロスを殴り続ける瑠亥機の横を、三台の装甲車が通過していき、それからやや遅れて紫タロスが通過していった。此方の行動が遅れたのは、回りこもうとした羽矢子のシュテルンGの妨害を行おうとした際に、逆に霞のスレイヤーにその行動を阻害されてしまった為だ。
 その霞は瑠亥のような苛烈な攻勢には出ずに、羽矢子機が回りこみに成功するとすぐに後を追い始めた。その刹那に、
「装甲車の乗員。抵抗せずに車から降りて下がれ。――警告は一度だ」
 冷酷なる警告を下す。
 だが、前方の敵の数が減ったことで尚更突破できる公算が高くなったと踏んだのか、どの装甲車も止まる素振りを見せることはなかった。そのまま後方に残っていた四機へ、タロスを伴う形で接近していく。
 すかさず、エイラが動いた。真デアボリングコレダーを装着した腕を全力で地面に叩きつけると、地面にクレーターが生じると同時に破片が周囲へ飛び散った。
 横一列とは流石にいかなかったが、装甲車の動きを止めるにはそれで充分だった。破片は、エイラ機の一撃の直前に飛び出していた雄人機とドゥ機がカバーとなって急ブレーキをかけた装甲車に当たることはなかったが、当の二機はそんな衝撃は物ともせずに攻勢に入る。
 ドゥ機は紫タロスへフィロソフィーと、アサルトフォーミュラBを乗せたプラズマリボルバーの一撃を浴びせて距離を取ると、今度はそこへ雄人と美鈴機がそれぞれの攻撃の隙を縫う形で連続射撃を仕掛けた。
 こうして戦闘を行なっている間も尚、上から射撃は降り注ぐ。乱戦となった今はもう、バグアも人類も関係なくなっていた。
「私と雄人さんの愛に勝とうなんて100年と6分早いのよ!」
 上からの邪魔もあってやがて身動きも取れなくなった紫タロスに対し、射撃を続けながら美鈴はそう言い放つ。すると、
「‥‥戦闘中に訊くのも何だが、6分てどこから出てきた?」
 やはり美鈴の攻撃の隙を縫って射撃を仕掛けた雄人は、攻撃しながら問うた。
「2人分のカップヌードルが出来るじゃない? そう、雄人さんと私の分の」
「‥‥それ先に作った方のびるんじゃねーのか」
「夫婦漫才は後にしなよ!」
「してねーよ!?」
 羽矢子の文句にそう切り返しながら雄人は「おっと」自機の脇を抜けようとしていた装甲車の進路を足で遮る。
 横槍を入れた羽矢子はといえば、回りこむと早々に元々バグアがやってきた方向に照明銃を放っていた。その光が届く限りでは、追撃はどうにもないようだ。その様子を確かめた後は、やはり回りこみに成功したリオン機と共に後背から黄と茶のタロスへ向かっていく。
 一歩遅れて完全に回りこんだ霞機は、富士吉田方面の路面や壁、飛び上がって天井を破壊し――瓦礫の山を作る。これで正真正銘、追撃は防げる筈だ。それと同時に万が一今のバグアが逃走を図っても退路を断つことにもなる。そこまで確かめた後、霞機もまた羽矢子機らの後を追った。
「リオン、前方注意を」
 不意にアルヴァイム機からの通信が入った。
 これまでの戦闘で蓄積されたトラップに関するデータに基づく警告に、リオンは半ば本能的に従う。一瞬速度を緩めつつ方向転換をすると、つい先ほどまでの進路上、つまりはすぐ横をレーザーが上から下へ通過していった。
『くそ、読まれているだと‥‥!?』
「黒子の旦那は、スゲェよ‥‥」
 茶タロスのバグアの怨嗟の声を肯定するように、エイラは言う。その矢先、彼女は気づいた。
「っと、くそ、伏兵かよ‥‥、予想外だったぜ」
 瑠亥機がレーザーを避けているうちに、紫タロスは満身創痍ながら戦線へ復帰し装甲車の援護へ回ろうとしていた。
 瑠亥機も勿論後を追っているいるが――雄人機の横を通過し、ドゥ機の射撃を逃れたそれの前に、
「なぁーんてな、逃がしたりしねぇーからな」
 エイラ機は立ちはだかる。
 紫タロスが袈裟懸けに振り下ろした機剣を、その剣筋を機体と平行に反らせ避けると、その流れの勢いのままに空いた脇へヘヴィハルバードを叩き込んだ。タロスがよろめいたところを更にドゥ機の銃撃が襲い、それが止んだかと思うと今度は後ろから再度瑠亥機がハイプレッシャーで叩き潰す。
 もはや再生能力も底をついているのか、今度は前のめりに倒れそうになる紫タロス。だが、正面にいるエイラがそれを許すわけもない。
「決めてやんよ、コレダーガトリングナックルッ!!」
 再度装着した真デアボリングコレダーが、紫の装甲の胴体部分を貫通した。引き抜くと、一瞬遅れて爆発が起こる。
「どうでぇい‥‥、利くだろう、こっちも反動でいてぇぞ‥‥」
 コックピットにいるとはいっても、格闘戦の衝撃は重体の体には堪える。エイラは苦笑い混じりにそう言った。

 他方、対バグアでは優勢な状態が続いていることもあり、アルヴァイムは砲台の破壊にかかっていた。
 回りこみに成功したことで、戦場はバグアにとっては狭い範囲内に限られることになった。
 裏を返せば人類はある程度広く使えるわけだが、今の状況でわざわざバグアに領地を与えてやる必要もない。故に彼が狙いを定めるべき砲台は、回り込んだ三機が、茶と黄のタロスを追い込むその後背に限られつつある。
 逃げるタロス、追うKV。時にはタロスの眼前を、時にはタロスとKVの間をレーザーが通過する。タロスへの『誤爆』はあちらが情報でも握っているのか避けていたが、KV側も先のリオンの例のように警告を出しているため被弾には至っていない。
 そして少し両者の足が止まった所が、アルヴァイムの攻撃の仕掛け時である。黄タロスに機刀の一閃を浴びせようとする霞機の後方上――勿論霞も砲台に気を留めてはいるが――ぎりぎり被弾する可能性のある砲台の蓋が、開く。
 その瞬間までには、既に狙いは定めている。アルヴァイムは即座にギアツィントのトリガーを絞った。

 後方の天井で爆発が起きたのを、霞はエアロサーカスを使っての連続攻撃の最中に気づいた。崩落の影響を避けるべく、すぐさま機体を横滑りさせる。
 勿論その間も攻撃は続いていた。横からはリオン機も黄タロスに接近戦を挑んでいる。
 より厳密に言えば、リオンが黄タロスの動きを完全に封じていた。横から装甲に突き入れた爪は、今やタロスをその場に食い止める楔である。霞機の連続攻撃は勿論、リオン機自身が突き立てる機牙も、タロスの生命力を再生能力など無視して奪っていく。方向転換を終えた霞機の更なる連続攻撃で爆散するのも、必然ではあった。
 その時点で既に緑タロスもドゥ機、雄人機、そして美鈴機の十字砲火気味な連続射撃を浴び、爆散には至らぬものの再起不能になっていた。残った茶タロスの腕を、羽矢子機のスパークワイヤーが絡めとる。
 装甲車は既に後衛に完全に動きを封じられた格好であり、今は瑠亥機がやはり茶タロスの止めを刺しに向かってきている。
 止めはどっちになるのやら、と思いつつ、羽矢子自身はゲイルスケグルでタロスの装甲を貫くべく、空いている方の機体の手を動かした――。

●それぞれの
 装甲車に乗っていた人員は流石に抵抗する気にもならなかったらしく、捕虜として都留で拘束された。
 ただし単なる下っ端だった彼らは、大した情報を持ってはいなかったが。

「雄人さん、帰ったら精のつくもの、沢山作ってあげるね☆ イモリの黒焼き? とか」
「えぇ‥‥?」
「嬉しくないの? ――部屋に来てほしくないのね? 理由は!?」
「何でそうなるんだ‥‥?」
 そんな『夫婦漫才』第二弾が美鈴と雄人によって繰り広げられている中、傭兵たちが大月の前線基地に戻ると、
「司令室で榛原中佐が待っているとのことです」
 格納庫で出迎えた兵士がそう告げた。
 ちょうどよかった、と内心呟くドゥ。少しばかり思うところがあったのだ。
 出来れば内通者と話がしたい、と。

 ――その思惑は、ドゥ自身も思ってもみなかった形で現実となった。
 赴いた司令室には、祐一の他にもう一人、明らかに軍人ではない男がいたのだ。

「一度は諸君の前に出ておく必要があるだろう、と彼自身が言い出したものでな。
 ‥‥彼が『内通者』、中司・冬馬だ」
「どーも」祐一の紹介に続いて、軽く頭を下げる冬馬。その振る舞いに、謙虚さは皆無だったが。
「どういうつもり?」
 内通のこと、そして今目の前に現れた理由――。
 それらを込めた問いを、羽矢子が投げる。
「不信感を拭ってもらおうとか、そういうわけじゃない。
 そりゃ完全に拭えりゃ俺個人は万々歳だけど、そんなのは無理だって自分でも思うし。
 ただまあ、これからする話にはアンタ達にも立ち会って欲しかったんだよ」
「‥‥何故?」今度はアルヴァイムが問うた。
「俺をここに差し向けたのが、バグアの中でどういう立場なのかっていうのを話すからっていうのがまず一点。
 もう一点は‥‥」
 それから冬馬は祐一を一瞥し、すぐに視線を傭兵たちに戻して続けた。
「その話の内容が、事によっちゃこの中佐にとってはショッキングなもんだからさ」

 ■

「都留の地下トンネルも終わった、とのことです」
 甲府市庁、旧市長室。
 目の前の部下の報告に、執務机に座っていた琴原・桜は一つ息を吐いた。
「これで次は樹海か‥‥あるいはもうこっちに向かってくるか、かしら」
「‥‥その榛原という男は、軍を此方に動かすでしょうか?」
 部下の問いに、
「動かすわ、彼なら」桜は肯きを返す。
「だからこそ情報を出来るだけ多く握っている内通者を寄越してまで、攻略を早めてもらっているのだし」
 桜はそう答えたものの、部下はまだ疑問があるといった表情をしていた。
 そしてその疑問は、ある意味で肝要なものだった。


「しかし、冬馬が貴女のことを話しては‥‥『幼馴染である』彼は、苦悩するのでは」

「‥‥そうでしょうね。でもだからこそ、動かさざるを得なくなるはず。
 内通者のことも、いずれはバレてしまう以上はね」
「――母さん、死ぬ気なの?」
 問うたのは、それまで桜の隣で黙ったまま立っていた彼女の息子――琴原・椿だった。
 以前傭兵の前に姿を見せた時に連れていたキメラは、今は流石にいなかったが。
 その愛息に向け、桜は儚げな笑みを見せた。
「そうよ。でもあなただけは絶対に、これから先もずっと、生きてもらうようにするから‥‥」