タイトル:【AC】FeedBackマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/29 07:35

●オープニング本文


 バグアアフリカ軍が、ついにその重い腰を上げたのは6月の半ばの事だ。人類の攻撃の手がモロッコまで届き、バリウス自らその脅威を確認したゆえのことと思われる。
 その戦力は、エジプトからの部隊と、中部アフリカからの部隊に二分されている。侵攻目標やルート、及び戦力などは一切不明であり、避けえぬ交戦を前に、その調査は必須ともいえた。

 ■

「君たちには中部アフリカ側の様子を見に向かってもらうよ」
 ラスト・ホープ。ULT本部のオペレーティングルームでユネは告げる。傍らに置かれたディスプレイにはアフリカ北部の地図が表示されており、今はそこにそれぞれ中部アフリカとエジプトを起点に、二つの矢印が表示されていた。
 矢印の先端は共にアルジェリアやモロッコ――【RAL】作戦を通じ人類が勢力圏を広めてきた地域にあるように見える。
「全貌を把握しきれていないとはいえ、数が数だっていうのは推測するまでもない話だからね。
 今回はあくまで偵察なんだけど‥‥」
 そこまで言って、彼はコンソールを叩いた。
 ディスプレイ上の画像が切り替わり――『中部アフリカから攻めてくる軍勢がある』という情報が齎された切っ掛けとなったものだろうか、地上を這い進むその軍勢の一部が空から撮影されていた。
 軍勢の先頭らしく、土煙は画像の左側の途中から歪んだ線を描いていた。無論右側の先端は画像には収まりきれていない。
 更に言えば、巻き起こる土煙に紛れていた為に肝心の敵影は黒点ほどにしか見えない。
 それでも高度を下げればもう少し情報を得られたかもしれないが――。
「今のところこれしか情報がないんだよね‥‥この偵察機、帰投していないらしいから」
 ユネが複雑な表情を浮かべたことで、傭兵たちは偵察機、そしてパイロットの身に何があったかを察した。
「ただそれでも、もしかしたら大きな情報を得られる手がかりは作っておいてくれたよ」
 気を取り直すようにユネは再度コンソールを操作。
 ディスプレイ上の画像は本来は動画であったらしい。音声付で動き出したかと思うと、ズームアップがなされた。
 すると軍勢のほぼ先頭のところに、土煙を逃れるように低空を進む機影が幾つも見えた。尤も明らかに土煙より偵察機に近い高さにあるということだけが分かっており、ワームの種別も判断はつけられないが。他にも軍勢の至る所に、比較的大きな機影が映っている。おそらくは輸送用のビッグフィッシュあたりだろうが、点が大きいだけなので断定は出来なかった。
 またもう一つの特徴として、先頭のワーム群は三、四機単位でまとまっているようだということが動画上から判断できた。
 土煙は横幅もかなりある為、いくつかの部隊で先導を行っているのではないかというのがUPCの推測だという。
「で、具体的に君たちにやってもらいたいことは――この軍勢の西側から接近してもらって情報を得ることなんだ」
 UPC軍が察するに、軍勢の西端はニジェールとマリの国境付近らしい。その更に西から接近を図れという。
 情報把握の手段は問わないが、いずれにしても高いリスクが伴うだろう。
「かなり危険が伴う話だけど‥‥この戦いでうまく立ち回る為にも必要な話だしね」
 無責任なことを言うようだけど頑張って欲しい――ユネはそう頭を下げた。

 ■

「やっと出番ですか‥‥」
 中部アフリカから北上する軍勢――の、最西端の先頭。
 愛機のHWを駆り、コックピットの中で少女は呟く。病的なまでに白い肌と服の上からでも華奢だと分かる肉体はとても戦場に似合うものではないが、たおやかな微笑にはどこか獰猛さが滲んでいた。
 少女の名はフィリーネ。プロトスクエアが白虎、ゲルトの配下であり――その肉体はかつて、生前の彼の幼馴染でもあったらしい。幼馴染といっても、歳は六つほど離れていたようだが。
 肉体に宿る記憶を辿れば、幾度となく今より幼い彼の姿が現れる。そして自ずと、生前の『ゲルト』が医者を志した一因はこの肉体の持ち主『フィリーネ』にあることも分かった。
 フィリーネがこの体をヨリシロに選んだのは、ひとえにゲルトに配下として気に入られたかったという思いが強い。
 肉体に宿る記憶を元に、多少は取り立ててくれるのではないかという打算があった。
 だがゲルトはそうしなかった。
 より正確に言えば、彼は自分のどの部下に対しても特別な思い入れを示したことはない。
 それは彼の、ある意味ではバグアらしからぬ思考回路に起因しているということは推測出来た。
 だが――。
「認めてもらうんだ」
 そして、少しでもゲルトに近いところで立つのだ。
 自分に言い聞かせるように呟くその様は奇しくも、『フィリーネ』が『ゲルト』を幼馴染――或いはそれ以上の関係として慕う姿と重なっていた。
 無論、本人は気づいていなかったが。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
M2(ga8024
20歳・♂・AA
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA

●リプレイ本文

 ニジェール北西部上空――。
「俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ!
 ‥‥未来の! 勇者! だっ!!」
 ジリオン・L・C(gc1321)はコックピットの中で高らかに名乗りを上げる。ちなみに『荒ぶる勇者のポーズ』である。
「今回は俺様のファンから献上されたこの、超! 魁! 未来勇者号! の初実戦!
 くはは! バグアェ‥‥! 俺様の美技に、酔うが良い‥‥!!」
 どちらかというと既に自分に酔っている気がするジリオンが駆る機体はガネットである。尚、引換券が彼のファンから献上されたものかどうかは当方では確認出来ていない。
 やたらテンションの高いジリオンはさておき、
「謎の軍勢が動いている。そして目的が不明となると否が応でも調べざるを得ませんね」
「向こうの戦力も不明なのはちょっと怖いけど‥‥だからこそ偵察に行くんだよな。
 ここは一つ、今後の為に探れるだけ探ってみようか」
 神棟星嵐(gc1022)とM2(ga8024)が口々に言う。
「今回は見目麗しい男の子と一緒なので、お姉ちゃん、それなりに張り切っちゃうわねー♪」
 テンション高めなのがもう一人、樹・籐子(gc0214)である。見目麗しい男の子が誰なのかは一先ずおいておこう。

 さて、肝心の偵察の方法だが――情報収集役を担うのは籐子とM2だ。
 前者はKVに備え付けられている多機能カメラを中心に、後者はそれに加えボイスレコーダーにより音声情報を収集しようとしていた。
「いきましょうか‥‥」
 終夜・無月(ga3084)のその言葉を機に、それまで高高空にいた傭兵たちは下降を開始する。
 高空と一言に言っても地上からの高さはピンきりであり、そして偵察すべき標的の姿は――高空でも下降を続けて暫く経ってから見え始めた。
 既に見た映像に映っているとおり、大きく土煙を上げながら猛進する姿――。
「これだけの軍勢ともなるとヨリシロか強化人間がいてもおかしくはなさそうですね」
 自分の目で改めて見たからこそ抱いた星嵐の感想に、他の傭兵たちもそれぞれのKVのコックピットで肯きを返した。
 ここに来て情報収集役の二機をやや高空に残し、残る四機は更に降下・接近する。
 そして――
「いくわよー」
 複合式ミサイル誘導システムを起動した籐子が、D−03ミサイルポッドの発射ボタンを押す。
 60発ものミサイルが一斉に大地へ降り注ぎ、それが傭兵たちの行動の合図となった。
「よし、制空戦闘開始、敵機確認。これより攻撃を開始する」
 ランディ・ランドルフ(gb2675)はアハトアハトの銃口を、土煙の先頭近くに見えた大きな機影――に向けた。
「EBシステム起動。アハトアハト、ロックオン。目標確定。発射!」
 直後、土煙の進む速度がやや緩んだかと思うと同時に形もやや歪み――。
 再度バグアが進撃を開始したと同時に、傭兵たちは先頭から急速に速度を上げてくる機影を捉えていた。
 数は四。どうやら先頭で構成されているという部隊のひとつが迎撃に転じたらしい。
 下にいるというディスアドバンテージなどないかのように、ワーム部隊の中型HWが、最も接近していた星嵐機に向かってプロトン砲を放つ。
 二撃目以降は通常のレーザーだったが、先制攻撃への反撃はそれでは収まらなかった。無人機か極めて練度の高い有人機かは判別がつかないが、同じ部隊にいた三機の小型HWもそれぞれに展開し、時間差、かつホーミングミサイルで星嵐機を狙い撃ってきたのだ。立て続けの攻勢に対しては星嵐機も避けきれない。
 また小型のうち二機に関しては攻撃の合間にも更に高度を上げ続けていた。遂には無月機と星嵐機と同じ高さにまで至ろうとしていたが――
「勇者ファング!」
 二機より更に高空にいたジリオンが叫ぶ。
 撃ち下ろされた勇者ファング――もといガネットファングはその特性を活かして軌道を変え、高度上昇を止めかけた小型の後背を突いた。
 反撃に対する反撃が始まりかけたが――無月機がちょうど使用する兵装を構えたところで、
「無月、上からくる!」
 M2の警告が耳に届き、直感で機体を横に逃がす。すると、つい先程まで居た場所をプロトン砲が上から下に向け突き抜けていった。
 しかも、幾条も。同じ角度かつ等間隔に、またしても時間差での射撃だった。
「そういうことか‥‥!」
 ほぼ全員が『偵察機が何の連絡も出来ずに消えたこと』に対し警戒と危惧を抱いていたが、その理由を眼前に捉えてジリオンは唸った。
 傭兵たちが――そして恐らく墜とされた偵察機が仕掛けたのは、ともに前方。
 そこに目が向いている間に、後方から上昇してきたワームが更なる高空から大火力の攻撃を放つ。
 地上を偵察している以上――そしてそれを察知されているという可能性がある以上――人間の注意はどうしても地上ないし低空へ向く。その為に高空への反応が遅れたのだろう。対空設備抗戦ないし撤退といった手段を取れなかったのは偵察機自身の脆さもあったろうが、或いはその時は今より苛烈な射撃だったのかもしれない。上空にも注意を向けていたため真っ先に敵影を捉えたM2とジリオンが瞬時に予測したことは、無月への射撃を見る限り正解であるらしかった。
 ちなみに上からプロトン砲を放ったのはいずれも小型HWで、今はランディ機とジリオン機が応戦、序に自衛の為にM2機と籐子機も戦闘に参加している。
 が、どうやら奇襲用とプログラミングされているらしく、それが失敗したとみるや撤退を開始していた。
 その判斷の速さからしてこの辺りは無人機と見ていい――恐らく最初に仕掛けてきた部隊も中型以外は無人だ。
 追撃の手を緩めながらM2は頭の中にそうメモ書きした。

「はは、数が多すぎるや。これじゃあ、後方のみんな、まもりきれるかなあ」
 威力偵察を続ける最中、ランディは苦笑いでそう漏らす。
 最初の迎撃+奇襲でKVが全く減らなかったことを憂慮してか、主に土煙の先頭にいたワームが順次空へ舞い上がってきていた。
 その数は既にKVよりも遥かに多い――だが同時にそれほど強いワームも存在していないらしく、ランディ機が放ったGP−7ミサイルポッドの攻撃も十分に敵の殲滅に有効な手段となっていた。
「おっと」だが決して油断が出来ない状況にも変わりはない。ランディ機のすぐ横を、レーザーの光が駆け抜けていく。
「そう易々と落させません!」
 声を上げたのは星嵐だ。ランディ機の後ろにつこうとしていた小型HWに対し、長距離バルカンの銃撃の嵐を見舞った。真スラスターライフルで追撃を入れたところに、無月機が上から滑空しながらレーザーガトリング砲のトリガーを絞り続け、小型が爆散したのを眼前で見届けると急旋回し別のHWに向かっていった。
 その様子を見届けた際に、序に自分たちを無視し更に高い空へ駆け上がっていくHW群の姿を捉え、ランディは思わず叫んだ。
「後方で記録してくれている籐子さんやM2を護らなきゃ、戦略的な意味ないっての! 強行偵察は生きて帰ってナンボなんだから!」
 言うが早く、機首を上へ向ける。自分たちを狙う敵がついてきそうだったのでブーストをかけ引き離した。
 星嵐機も同じくブーストをかけ追走し、追いすがろうとしたHWは無月機がアハトアハトで打撃がてら足を止めた。更に追撃をこのペースで増やすわけにもいかない為、プラズマ弾を地上に投下する。
 地上での炸裂を尻目に、ランディたちは既に情報収集役の援護に向かっているジリオン機の後を追った。

 最初の奇襲未遂以後M2と籐子は別の角度からの情報収集に専念していたが、敵の増援が増えるにつれなかなかそれも立ちゆかなくなりつつあった。
 自分たちの役割を察せられたのか、低い空域で戦う傭兵たちを無視して迫ってくるバグアが徐々に増えてきたからである。
 だが同時にわかったこともあった。
 先頭の部隊にいるのは、殆どがHWであるということ。
 寧ろそれ以外に空に来る機体が殆どないことから、土煙の軍勢の大部分が飛行能力を持たない戦力であること。これは無月機が投下したプラズマ弾により――無月の狙い通り――土煙から此方に迎撃する動きが止まったことからも裏付け出来るとM2は考えている。
 また籐子の方はジリオン機が援護に入り余裕が出来、
「やっぱり、さっきのアレが対空のミソだったみたいねー」
 先程の奇襲を思い出して言う。少し余裕が出来たことで、対空装備そのものは地上の軍勢にはないことがわかったのだ。同時に、アグリッパやマルチロックジャマーといった憂慮すべき要素の存在もないことも把握する。
 あと調べたいことは――チェックを入れていると、
『邪魔な方々ですね』
 不意に、聞きなれない少女の声が通信越しに響いた。おそらくはバグアの――ヨリシロないし強化人間のものだろう。
 ついでだ。籐子はこれから少女が何を語るか記録することにする。一方でM2の方はボイスレコーダーのRECボタンを押していた。
 声の主の機体は、最上空の二機から見ても一目瞭然だった。形状自体は中型HWだが、装甲は全体が真っ赤になっている。今傭兵で一番近いところにいるのは無月機だが、既にその高度を追い越している。
『その程度の数で潰せるとでも?』
「俺様の! 技を! 以てすれば!」
「思ってないよ」
「‥‥」
 ジリオンの台詞の間にランディが否定し、コックピットの中で拳を振り上げたままジリオンはちょっとの間硬直することになった。
「ただ‥‥情報が欲しい。それだけです‥‥」
 無論、会話の間にも戦闘は続いている。プラズマ弾の投下後は上空への進撃阻止に徹していた無月がレーザーガトリング砲のトリガーを絞りながら言う。
『これ以上与えてやる情報などありません。此方もゲルト様の元へ急いでいるんです』
「ゲルト?」
 思わぬ単語に反応したのは星嵐だ。彼はゲルト――プロトスクエアの白虎に最も因縁の深い傭兵の一人でもある。
「貴方は彼の部下か何かですかね」
『‥‥そうです。今は、あの人にとっては名前を覚えるまでもない部下の一人に過ぎませんけどね。
 ――そもそもあの人が、部下の名前を覚えているとは思いませんが』
「それは、どういう」
『それを話す意味などありません』
 言うが早いか、いつの間にか一番近くなった星嵐機へガトリングを浴びせてくる。
「名前を覚えられていない」とは言うものの独特のカラーリングをするだけある威力・精度の銃撃を受けたせいか、星嵐の機体が悲鳴を上げ始めた。
 彼だけではない。ひたすら前線に立つ格好になった無月機や、敵の密度に負ける格好で回避性能を生かしきれない状態になったランディ機も危うい状況になりつつある。
「話してくれないのなら、これ以上ここにいる意味もあんまりないのよねー」
 籐子が残念そうに言う。思いがけない情報が手に入りそうだったが、喋ってくれない以上は用がない。
「これ以上の戦闘は無理っぽいかな?
 じゃあ、撤退するけど‥‥みんなも行ける?」
 ランディが問うと、傭兵たちは各々に肯定の意を返した。
 そもそも事前に決めた撤退条件の時点で、逃げるには十分なくらいの余力は残している。
『‥‥逃げる気ですか?』
「そっちも忙しいんだろ。お互いここは損しないと思うけどね」
 訝しげに尋ねた少女に対し、M2が応える。
『そこだけ見ればそうですが――やはり逃がすわけには』
 だが、もはや誰も彼女に興味は抱いていなかった。
 敵の情報――規模、種類、強さ、その他諸々――消耗は決して小さくなかったが、ほしい情報はあらかた入手してある。
 ついでに、ゲルトの元へ急いでいるというから彼がどこにいるかを割り出せばこの軍勢の行き先も明らかになるだろう。
「それじゃあ、とっておきの大技いくか!
 ブースト点火! HBフォルム発動! 急速反転! 離脱だー! 邪魔するなー!」
「俺様の勇者街道はまだ始まったばかり!! ときめきながら待ってろよ! 運命の女神よォォ!!」
 ランディとジリオンが立て続けに叫ぶ。それ以外の傭兵たちも次々とブーストをかけ戦域から離れ始めた。
 更にジリオンが煙幕を張っていったこともあり、唐突な撤退行動に、少女をはじめとしたバグアは追いすがることも出来なかった。
「おぼえてろー!!」
 最後にジリオンの捨て台詞が響き――煙が晴れた後、六機のKVの姿はもう戦域から消えていた。

 その後、持ち帰られた情報から、UPC軍はある推測を立てた。
 ここ最近はモロッコに出突っ張りだったゲルトがアフリカ北東部で目撃されたという情報はない。
 即ちその推測とは、少女の言が素直なものであるならば――軍勢の行き先は、アフリカ北西部だということだった。