タイトル:【SV】西瓜がいっぱいマスター:対馬正治

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 18 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/22 15:32

●オープニング本文


『Vacation』
 南半球だったら冬真っ盛りのこの時期であるが、大平洋上を運行する人工島ラスト・ホープには四季らしい四季がない。地球人の住める陸地の大半が北半球に存在する為か、この時期に相応しい長期休暇と言うと夏休みと言う言葉かも知れない。

 夏休みと言う言葉に連想されるイメージは様々である。

 そんな夏の1日。
 あなたは何を体験するのだろう。

●ラスト・ホープ〜未来科学研究所
「あら、これは‥‥? 可愛いですわ♪」
 研究室のPC画面を覗き込み、ナタリア・アルテミエフ(gz0012)は思わず微笑んだ。
 画面に3DCG表示されていたのは、西瓜に目鼻をくりぬいた「オバケ提灯」に水着姿の男の子の体をくっつけた様な、3頭身くらいのデフォルメキャラだった。
「研究所の新しいマスコットですか?」
「いいや。最近出現が報告された新種キメラだよ」
 上司である蜂ノ瀬教授の言葉に、飲みかけの麦茶を思わず吹き出しかけるナタリア。
「‥‥キ、キメラですか!? これが?」
「去年のハロウィンシーズン、世界各地で食料品店を襲った『オレンジ・ジャック』を憶えているかね? どうやらその亜種らしいな。UPCの方では『すいかん』と命名したそうだ」
 研究所内の植物園で栽培された大玉西瓜の四つ切りにかぶりつきながら、世間話のごとく解説する蜂ノ瀬。
「いわれてみれば‥‥」
 カボチャを西瓜に、黒タイツを水泳パンツに置き換えれば、そのまま「オレンジ・ジャック夏仕様」といわれても通用するほどよく似ている。
「もう何か被害が出ているのですか?」
「S市の海水浴場に何匹か出現しておる。現地調査に行った職員の報告によれば、海水浴客の弁当を盗んだり、口から水鉄砲をぶつけたりと、色々悪さしとるらしい‥‥そうそう、キメラにしては珍しく雌雄2タイプがあってな。メスの方は女子用のスクール水着を着て、ゼッケンに『すい子』と書かれてるそうだ」
「‥‥その報告があったのは、いつ頃の話でしょうか?」
「確か、君が九州でグレムリンの調査に行ってる頃だったかな? ‥‥『調査に丸一日かけた』なんぞと言ってたが、しっかり『海の家』で遊んだ領収書を経理の方に提出しておった。全く、近頃の若いもんときたら‥‥」
 そうぼやくと、蜂ノ瀬は西瓜の種を皿の上にぷっ、と吹き落とす。
「‥‥‥‥」
 自分が九州上空で死ぬような目に遭っていた間、同じ給料でこんな他愛もないキメラの調査に行き、ついでに海水浴まで楽しんできた同僚がいる。
(「‥‥理不尽ですわ‥‥」)
 ふいにナタリアは金属バットを振り回し、その辺のものを手当たり次第に叩き壊したい衝動に駆られたが、そこはグッとこらえ、上司に向かい強ばった微笑を浮かべた。
「と、ともかく‥‥見かけが可愛くても、キメラはキメラですから。早速ULTに討伐の依頼を‥‥」
「うむ、当然そうしたい所なんだがなぁ‥‥ひとつ、問題があって」
「と、いいますと?」
 蜂ノ瀬によれば、S市の海水浴場では毎年8月、市を挙げてのイベントとして「西瓜割り大会」が催されるという。
 つまりこの時期、海岸には一般の観光客が押し寄せるうえ、大量に集められた西瓜の中に敵キメラが紛れ込まれたら、それこそ捜し出すのが困難になる。
「市当局に要請して、観光客を避難させては?」
「むろん真っ先に要請したが、断られた。市長いわく『ワシの孫や親戚の子らだって楽しみにしちょるんだよ? 中止になんてできるワケなかろうが、キミぃ』‥‥とのことだ」
(「今すぐリコールするべきですわ! そんなバカ市長!!」)
 ――と叫びたいのを喉元で堪え。
「そ、それは困りましたわね‥‥そんな人混みの中では、下手にSES兵器を振り回すわけにもいきませんし‥‥」
「心配はいらん。実は、ちょうどいいモノがあってな」
 西瓜を食べ終えた蜂ノ瀬は研究室のロッカーへ向かい、1本の金属バットを持って引き返してきた。
「ひいっ!?」
 思わず椅子から飛び退き、後ずさるナタリア。
「ごめんなさいごめんなさいっ!! さっきのは魔が差したんです! チラっと思っただけで、別に本気でやるつもりじゃ――」
「??? 何をいっとるのかね、君は?」
 不思議そうに首を傾げつつ、蜂ノ瀬は金属バットをカツンとデスクに置いた。
「試作型・SES内蔵金属バット。威力不足から少数生産されただけでお蔵入りになった武器だが、この程度のキメラ相手なら充分だろう」
「つまり‥‥そのバットを装備して、一般の海水浴客に紛れてキメラを退治しろと?」
「察しがいいねえ。要するに、会場の西瓜を手当たり次第に割ればいいのだよ。相手が『すいかん』なら倒せるし、普通の西瓜なら割れるだけだからな」
「はあ‥‥」
「ま、こんな依頼だから大した報酬は出せんが‥‥往復の交通費と弁当代くらいは負担しよう。というわけで、ひとつよろしく頼むよ?」

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 白鐘剣一郎(ga0184) / 弓亜 石榴(ga0468) / 愛紗・ブランネル(ga1001) / ロジー・ビィ(ga1031) / 新条 拓那(ga1294) / 篠原 悠(ga1826) / 潮彩 ろまん(ga3425) / 寿 源次(ga3427) / 野良 希雪(ga4401) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / ハルトマン(ga6603) / 不知火真琴(ga7201) / 神無月 るな(ga9580) / ゴリ嶺汰(gb0130) / 天小路桜子(gb1928) / ヨグ=ニグラス(gb1949) / 各務・翔(gb2025

●リプレイ本文

●8月の熱い浜
 S市海岸はごく平凡な田舎町の海水浴場だが、バグア襲来以来日本でも「安全に泳げる海」はそれだけで貴重な場所であり、近年は特に人気が高まっている。
 傭兵と未来科学研究所のスタッフ達からなる一行が到着した時も、ちょうどお盆明けの日曜、しかも快晴の真夏日とあって、海岸は予想以上の人出だった。

「初期に大暴れした南瓜に続いて今度は西瓜か‥‥ともあれ騒ぎが大きくなる前に片を着けてしまいたい所だな」
 防波堤の上から観光客で賑わう海水浴場をざっと見渡し、白鐘剣一郎(ga0184)が苦笑いする。
 研究所代表として今回のキメラ討伐に参加するナタリア・アルテミエフ(gz0012)から事前に配布された資料を見ても、ターゲット「すいかん」の姿形は怪物というより海水浴場のマスコットキャラにしか見えない。実際、依頼主であるS市市役所の観光課さえ「せめて人畜無害のキメラなら、市のイメージキャラにして観光の目玉にしたかった」と悔しがっているほどだ。
 神話や伝説をモチーフに人間の恐怖心を煽るキメラを大量に生み出する一方で、時折妙に愛嬌のあるキメラを送り込んでくるバグア側の意図も不明だが、まあこれも人類側の戦意を喪失させる心理作戦の一環かもしれない。
(「地球防衛のためとはいえ、こんな可愛いキメラと戦わなければならないなんて‥‥傭兵の皆さんも、きっと心苦しいことでしょうに‥‥」)
 と内心で案じるナタリアだが。

 そんな心配は杞憂に過ぎなかった。

「イヤッホー! 海ですよ海。白い砂浜、青い空、そして波打ち際の水着美人達! いやー、ムラムラ来ますなあ」
 早くも「海の家」でビキニ姿に着替えた弓亜 石榴(ga0468)が、拳を突き上げて浜辺へと走り寄る。
「ちょっとそこのねーちゃん、私とオイルの塗りっこしない?」
 ‥‥これは同性間のナンパというのか?
「ぴこハン日和ですわッv」
 お気に入りのぴこぴこハンマーを握りしめ、ぽやぽやまったりと独特の笑顔を浮かべたロジー・ビィ(ga1031)が瞳を輝かせる。
 一応今回は対すいかん兵器として「試作型SES金属バット」が人数分貸与されているのだが、彼女の場合やはり手元にいつものぴこハンがないと気分がノらないようだ。
 そのロジーと同行する1人、篠原 悠(ga1826)も、
「ふっふっふっふっふ‥‥夏! 海! スイカ割り! しかも割り放題! そしてタダ! 日頃色々と溜まったストレス発散するぞー!!」
 ふんすふんすと鼻息も荒く、気合い充分である。
「うわぁ〜、どこを向いてもあお、青、蒼!これが夏の海かー。絶好の海水浴日和だね。誘ってくれてありがとーだよ、小夜ちゃん♪」
 夏真っ盛りの海岸を見渡して、新条 拓那(ga1294)は大きく伸びをしつつ、相方の石動 小夜子(ga0121)の方へと振り返る。
 普段は楚々とした巫女服でいることが多い小夜子だが、着替えてきた姿は露出の多いかなり大胆なビキニ姿。務めて意識はすまいと思いつつも、つい胸の鼓動が早まってしまう拓那である。
 小夜子は小夜子で、水着姿の拓那の逞しい体にふと見とれてしまい、
(「わ、私ったらはしたないですね‥‥」)
 と1人で頬を赤くしている。
「夏と言えば海水浴にスイカ割りですねっ! あ、勿論仕事もちゃんとやりますよ?」
 白のホルターネック・ワンピース水着に薄い水色のパレオを巻いた出で立ちではしゃぐ不知火真琴(ga7201)を、傍らのアンドレアス・ラーセン(ga6523)がドキドキしながら見つめている。彼は以前真琴に告白済みなのだが、返事はまだ保留中の友人関係という、なかなか微妙な間柄なのだ。
(「もう半歩くらい近くなれたら‥‥」)

 一応名目はキメラ討伐といえ、「海の家」使用料や食費は研究所持ちとあって、既に傭兵達の脳内では「すいかん退治=西瓜割り=海水浴」が三位一体となって融合し、そこにきて抜けるような青空、真夏の太陽に輝く海、水平線から沸き立つ入道雲がいやが上にも夏気分を盛り上げ、すでに彼ら彼女らのテンションは最高潮に達している。
 ヨグ=ニグラス(gb1949)に至っては、集合時間の朝10時より一足早くバイク形態のAU−KVで海岸に乗り付け、海の家で着替えを済ませた後、
「でもその前にご飯っ」
 朝食代わりの焼きトウモロコシ等を食べつつ、ウキウキしながら待機していた。


 さて、今回の「すいかん」退治にあたってはいくつか問題点があった。
 1つは海水浴場の混雑。まさかこんな人混みの中で、SES武器の刃物や銃を振り回すわけにはいかない。
 そして折悪しく、現地の海岸では市が主催する「西瓜割り大会」の真っ最中。
「大会」といっても特に順位を競うわけでなく、市が無料で提供する西瓜をお客さんに目隠しで割って貰い、うまく割れた西瓜はお持ち帰り自由――というだけの他愛ないイベントなのだが、結果的に海岸の至る所に大玉の西瓜がゴロゴロ転がり、西瓜そっくりの頭部を持つキメラと紛らわしいこと甚だしい。
 また一般の海水浴客が「キメラ出現」の報でパニックに陥る事態を防止するため、傭兵達は各々水着姿に目隠しとSESバット(見かけはただの金属バット)装備で大会会場に潜入、一般参加者を装い密かにすいかんを殲滅していく――というのが基本的な作戦である。
 すいかん退治が早めに終われば、夕方までの時間は自由行動。
 ちなみに研究所筋からの情報によれば、すいかんの頭部は本物の西瓜同様「食用可」とのことである。
「‥‥食えるらしいな」
「雷神」と書かれた褌に着物を羽織ったゴリ嶺太(gb0130)は、しっかり塩を用意してきた。
「キメラとはいえスイカ。おいしいのかな? う〜ん、食べたらわかるよね」
 ワクワクするようにいうのは野良 希雪(ga4401)。
「別に食い意地が張ってる訳ではないですよ? 研究対象として興味があるのです。ほら、品種改良とかに役立つかもしれないですから」
 ‥‥とは本人のコメントであるが、体質的に紫外線に弱い彼女があえて炎天下の海岸に出張っている事からも、すいかん試食に向けての並々ならぬ意欲を感じさせる。

 まずは「西瓜割り大会」運営本部として観光課が設置したテントを活動拠点として、傭兵達のある者は一般参加者に紛れ、またある者はボランティアの運営スタッフ(目印はパーカー&サンバイザー)としてすいかん狩りにあたる段取りとなっている。
 中には寿 源次(ga3427)の様に本部で待機し、実働部隊のバックアップを担当する者も何名かいたが。
「七夕祭を楽しんだ、南の島に行った、花火も堪能した。今年の夏は濃い夏だ。実に良い。‥‥しかし暑いな」
 そういう源次の服装は頭にバンダナ・サングラス・ランニングシャツに水着という南の島ルック。とりあえず本部に詰め、必要があれば現場の見回りにも行く予定だ。

 傭兵達が各々準備を整えている間、本部には海水浴場の各所から早くもすいかんの仕業と思しき被害報告が続々と寄せられていた。

「西瓜のお面被った変な子に、水鉄砲ぶつけられちゃったよぉ〜。ウェーン!」(男性・7歳)
「家族全員分の弁当が食い散らかされた! 畜生っ‥‥海の家は高いから、わざわざ出がけにコンビニで買っといたのに!」(男性・38歳)
「ちょっと目を離した隙にビーチバッグが消えましたの。どうしましょ、高級ブランド品ざますのよ?」(女性・54歳)

 ――いかに見かけが可愛かろうともキメラはキメラ。人々を脅かす「すいかん」の悪逆非道な行為に、改めて憤りを覚える能力者達であった(ホントかよ)。
 ともあれ準備万端、SESバットを携えた傭兵達は意気揚々とキメラ殲滅に出動していく。
 かくして平和なビーチは血、もとい西瓜汁で真っ赤に染められる事となった――。

●The Great Hunting!
 剣一郎が仲間との連絡用にトランシーバを提げて海岸に出ると、浜辺では既に「西瓜割り大会」が宴たけなわであった。
 砂浜の所々に並べられた西瓜に家族連れや団体客が集まり、スタッフから借りたバットを構えて西瓜割りに興じている。お約束通り直接西瓜を割る者は鉢巻で目隠しする都合上、事故防止のため各所には市の職員やボランティアのスタッフが立って監督にあたっている。
 彼ら大会スタッフには内密にキメラ情報が伝えられているので、傭兵達は他の一般客に悟られずにすいかんを退治していけばいいというわけだ。
 すると会場の一角から、
「おい! この西瓜、バットが命中してるのに割れねーぞ! インチキじゃないか!?」
 と数人の若者達が怒声を上げている。
「事前に見つけられるのが一番良いが‥‥と言っている傍から」
 剣一郎が歩み寄って観察すると、若者達にぼかすかバットで殴られながらもビクともしない大玉西瓜の下で子供のように小さな体が手足を縮めている。フォースフィールドで防御しているのだろうが、真夏の陽射しのため一般人の目にはFFの赤い光がよく見えないようだ。
 しばらくじっと耐えていたすいかんだが、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、やにわに立ち上がると、
 プシューーッ!!
 スプリンクラーのごとく回転しながら水鉄砲を噴射し、若者グループをなぎ倒した。
「痛ててっ‥‥な、なんだぁコイツ!?」
「割れない西瓜か。俺に任せて貰って良いかな」
 代わって進み出た剣一郎が覚醒し、その全身が淡い黄金の輝きに包まれる。
 そのまま走り出そうとするすいかんを狙い、
「逃がさん。天都神影流、斬鋼閃っ!」
 急所突き一発でFFを貫き、すいかんの頭部を破壊する。砕け散ったその中身は、奇妙なことに本物の西瓜と寸分変わらぬ種入りの赤い果肉であった。
「スゲーっ! お兄さん、いったい誰?」
「お騒がせしました。ちょっとした撮影絡みだったもので」
 覚醒を解いた剣一郎が、穏やかに微笑しつつすぐ近くでビデオカメラを構える撮影スタッフを指さす。こんな事もあろうかと、市役所に要請し地元TV局からカメラマンを何名か派遣してもらっていたのだ。
 すぐ近くでは、無線連絡を受けて駆けつけた天小路桜子(gb1928)が、別のすいかん1匹を発見。
 ニッコリ笑顔で近寄るや、
「えいっ」
 間髪入れずに一撃必倒で粉砕する。
 呆気にとられて見つめる家族連れに気づき、やはりTV局から借りた「ドッキリ特番」のプラカードを示すと、
「ごめんあそばせ。バラエティー番組の収録中なのです」
 と笑って誤魔化した。
(「それにしても『すいかん』、妙なキメラでございますわね‥‥」)
 その間、白衣に白マスクで顔を覆った研究所の回収班が素早く駆け寄るや、残ったすいかんの体を黒いビニール製のボディバッグに詰めて風のごとく去っていく。一応「持ち帰ってキメラ研究用のサンプルにする」とのことだが、はたから見ると実に怪しげな集団である。

 そんな風にして、海岸の各所では能力者vsすいかんの凄絶なバトルが勃発していた。

「うん、わかった、普通のお客さんにばれないよう、こっそりとスイカ星人やっつけちゃうんだよね‥‥どんな味するのかなぁ?」
 麦わら帽子に白いスクール水姿の潮彩 ろまん(ga3425)はナタリアからの説明を聞くや、SESバットを剣道風に構え、元気いっぱいに本部テントを飛び出した。ちなみに白スク水のゼッケンにはしっかり「ろまん」のネーミング入り。
「さぁ、どこからでもかかってこい、この粉砕ブレード(命名・ろまん)がある限り、スイカ時空も怖くないんだぞっ!」
 スイカ星人、もといすいかんはすぐ見つかった。
 いくら頭部が西瓜そっくりといっても、体と手足があるから一目で分かる。それでもあまり騒ぎにならないのは、一見西瓜マスクを被った子供のような姿が周囲に溶け込み目立たないこと、それに西瓜割り大会参加者の多くが目隠しをしていたからだろう。
 ろまんも自ら目隠しを巻き、大会会場へと乗り込んでいった。
「心眼センサーフルオープン、ボクにはスイカの位置、手に取るようにわかるもん!」
 ‥‥って、しっかり覗き穴開けてるじゃん。
 本当に目を隠し、バットを構えてフラフラすいかんに近づいていく一般客の死角から回り込み、先手を取って西瓜キメラに上段からの一撃。
「えーい、波斬剣!」
 一撃必殺。ぐしゃっ、という音と共に赤い果肉と黒い種が砂浜に飛び散る。
 一匹目を仕留めて間もなく、目の前を西瓜頭からお下げ髪を垂らしたスク水姿のすいかんが通りかかった。
 そう。キメラには珍しく、すいかんには雌雄2タイプが存在するのだ。
「あーっ、鳴門の渦からやってきた、すい子のシンちゃんみーっけ」
 ドカバキグシャァァ! まさに容赦なし。
 叩き割ったすいかん&すい子の果肉を拾い上げ、ろまんは美味そうに頬張った。
 近くで様子を見ていたナタリアと希雪にぶんぶん手招きし、
「こっちこっち‥‥はい、これナタリアさん達の分、美味しいよ」
 にこっ、と笑いながら大きな欠片を差し出す。
「はあ‥‥では、頂きます」
 恐る恐る、口にするナタリア。
「‥‥確かに‥‥西瓜の味ですわね」
 そういう彼女の水着はなぜか紺色の旧タイプスクール水着。石榴の強いお勧めで着てきたものだが、童顔とはいえ今年22歳のナタリアのスク水姿は‥‥。
 ‥‥何というかひじょーに微妙である。
「ん? なかなか甘みがあって、美味しいわね」
 同じくすいかんの果肉を試食しつつ、希雪がウンと頷く。
 ナタリアがすいかんの胴体部分をメスで切ると、切り口からは血でなく無色透明の液体がにじみ出た。人型の様に見えて、実は植物系キメラなのかもしれない。
(「自宅栽培しているスイカに配合してみよう‥‥」)
 希雪はどさくさ紛れにすいかんの「種」を採取、持参したビニールのチャック袋に詰め込んだ。
 首なし○○のごとく砂浜に転がったすいかん2体を、やはり白衣の研究所スタッフたちが影のごとく忍びより、無言のまま回収していった。

 見かけは西瓜マスクを被った子供のような「すいかん」だが、それだけに誤って普通の子供を攻撃しては取り返しが付かない。
 そう考えた神無月 るな(ga9580)は一計を案じた。
 紫色の水着に黒いパレオ、上から白いブラウスを羽織って白いツバ広帽子を被った彼女は、一般客に紛れてさりげなく会場を巡回。すいかん(すい子)らしき姿をみかけたら、とりあえず小石や貝殻を後ろから軽く投げてみる。
 パシッ! ぶつかる寸前にFFで弾かれたら、キメラ確定だ。
「あ、みっちゃんひさしぶりー!」
 とか、適当な大声で呼びかけながら近づき、発見したすい子の手をきゅっと握る。
『???』
 エサでも貰えると思ったのか、意外に素直についてくるすい子を人目につかぬ場所へと連れて行き‥‥。
 グシャドガバキィィ!
 間もなく真っ赤な返り汁(?)塗れになったるなが、金属バット片手に1人でゆら〜、と戻って来た。
「うふ ふ‥‥スイカ頭のスクール水着、見ませんでしたか?」
 ちょっとサイコな笑みを浮かべつつ、周囲の客に尋ねる。
「ママーっ、あのお姉ちゃん怖いよぉ〜!」
「しっ! タケシちゃん、見ちゃダメ!」
「カーァットゥ! 良い映像取れたよ。その驚きの表情いいねぇ!」
 ビビリまくる親子連れの背後で、こんな事もあろうかと巡回していた源次が勢いよくカチンコを鳴らした。
 驚く親子には、「市から許可を貰って自主制作ホラー映画の撮影中」と説明して誤魔化す。我ながらそれはどうだろうと思わなくも無いけど。
 そのさらに背後では、
「んと、割るですっ難しい事は大人に任せて割るですっ!」
 ヨグがバットを振り回し、当たるを幸いすいかん撲殺を続けている。

「一つ割っては父の為‥‥二つ割っては母の為‥‥」
 1匹仕留めるごとに、合掌して念仏を唱えるように呟く石榴。
 まあ「お盆だもの、気分出したいもんね♪」というだけの話だが、賽の河原のごとくすいかんの残骸が累々と重なる砂浜でやられると、誠に辛気くさい光景ではある。

(「大好きな人と離れてイベント参加してみたけど、やっぱり‥‥」)
 胸の裡に葛藤を抱えつつも、悠はせっせとすいかん狩りに精を出していた。
「ずっと待ってるのかって相当辛いねんからっ!」
 ドガッ!
「もっとぎゅってしてくれても!」
 ザシュッ!
「一方通行がどれだけ辛いかー!」
 パコォーン!!
 はぁはぁはぁ‥‥深呼吸して乱れた呼吸を整え。
「うちかって役に立ちたい!」
 ズコッ!
「やけど依頼に入れへんもん!『ポチ(機体)』で一緒に戦いたいのにっ!」
 ‥‥ぜぇぜぇ‥‥
「信じてるけどっ!」
 ボコッ!
「やっぱ不安やもんっ!」
『キューッ!?』(←すいかんの悲鳴)
「鈍いのは解ってるけどー!」
 ぜひー‥‥ぜひー‥‥
「ちゃんとちゅーしたい!!」
 グシャッ!!
「大好きって言って欲しいー!! うわーん!!」
 ついに堪えきれずマジ泣きを始めた悠の周りで、研究所スタッフ達が相変わらず黙々とすいかんの胴体を回収していく。
 いきなり泣き出した悠に驚いたアンドレアスが、慌てて駆け寄り声をかけた。
「お前、酷い格好だぞ。返り血‥‥じゃない、返り果汁‥‥?」
「ぐすっ‥‥ひっく、ひっく‥‥」
「ま、お前の事情は知らないケドさ。しんどかったら、しんどいって言わないとダメだぞ。心配してるヤツ、きっと近くに居るから。‥‥な?」
 そういって、優しく頭を撫でてやる。
 一緒に戦っていた真琴も、無理に理由は聞かず、なるべく側についていてやった。
「にしても‥‥ったく、フザけたキメラだぜ。バグアも何考えてんだかな」
 いってるそばから、すぐ目の前で手を繋いだすいかんとすい子がランランラン‥‥と楽しげにスキップしながら通過。
「っつーか、キメラのくせにイチャつくんじゃねぇー!」
 ズゴバァーンッッ!!
 自らも目下片想いに悩むアンドレアスは、多少の私怨も込めて怒りの金属バットを振り下ろすのだった。
 ‥‥とまあ青春な苦悩を背負いつつも戦う仲間達の隣で、片手にぴこハン、片手にバットを構えたロジーがきゃっきゃころころと笑いつつ、本物の西瓜もすいかんも分け隔て無く、それはもう楽しげに割って割って割りまくる。
「1等は戴きますわー!」
 何となく、西瓜割りのついでにキメラ退治をやっているように見えるのは気のせいであろうか?
 テンションが上がってくると、いつものクセで周囲の仲間やスタッフの頭もピコピコ叩く。もちろんぴこハンの方で。‥‥間違えたら大惨事であるが。

 紺色スク水&頭に麦藁帽子とゴーグルを被ったハルトマン(ga6603)は、ライフセーバー用の監視台を借り、西瓜をモグモグ食べつつぼーっと海を眺めていた。
 手元のトランシーバからすいかん発見の報せが入れば、即出動だ。
「今度の西瓜はどの位甘いですかね〜」
 クスクス笑いながら監視台から飛び降りる。
 現場に向かうと、前方十数mにすいかん確認。素早く敵の目の前まで接近し、高々とジャンプして直上からの急降下でバットの一撃、キメラの頭を砕き散らす。
 返す刀でバットをドライバーのごとく回転させ、近くにいたすい子の頭部を刺し貫いた。
 倒した敵の果肉を摘み上げてペロリと舐め、
「まぁまぁですね、でもこの程度じゃ、うちは満足できないのです」
 ボソリと呟く。
「もっともっと甘いすいかんはいないのですか〜」
 高笑いを上げつつ、赤く染まったバットをズルズル引きずりながら次なる獲物を探し求めるのであった。

 お昼の12時。いったんすいかん狩りを切り上げた傭兵達は、中間報告のため本部へと集合した。
 各自が申告した戦果を合計すると、すいかん22匹、すい子16匹を撃破。
 もっとも一度粉砕してしまったすいかんは本物の西瓜と区別がつかないので、正確な数字は胴体部分を回収した研究所側の発表を待つしかないが。
 報告を終えた後は「海の家」食堂に移動しみんなで昼食。
 定番ともいうべき焼きそばやお好み焼き、カレーやラーメン等を注文してワイワイと食べ始める。
 ‥‥さすがに西瓜を注文する者はいなかったが。
 桜子はイチゴシロップのかき氷を食べながらナタリアと歓談し、ハルトマンは焼きそばをおかずにかき氷とラムネで喉を潤す。
「ナタリアさん、今度お中元にスイカプリン贈りますねっ」
 注文したプリンを食べつつ、ヨグが初対面のナタリアにいった。
「まあ、どんなプリンですの?」
「えと、普通のプリンにイチゴを煮詰めたジュースを加えて、種に似せたチョコレートを添えて完成です」
 プリン大好きの彼は、目下甘い物が苦手な人向けに「辛口プリン」を考案中なのだとか。
 そんな中、各務・翔(gb2025)は自らバイト志願し、休憩時間も海の家で働いていた。
 まだ能力者のドラグーンになって日も浅く、L・Hの軍学校生徒でもある彼は今後の傭兵活動のためにも色々と入り用なのだ。
 それにしてもシーズン真っ盛りの休日、昼食時の混雑はハンパではない。
「海の家でも注目を集めてしまう‥‥これも天才の宿命だな」
 額の汗を拭いつつ、ちょっとナルシスな気分に耽る翔。
 実は以前依頼を共にした小夜子と行動を共にすべく今回のイベントに参加したのだが、あいにく彼女は前々から付き合っている拓那と2人、仲睦まじく昼食を楽しんでいる。
「‥‥また再び、運命が俺達を巡り合わせるだろう」
 何処か遠くを見るような表情で呟くと、翔は食堂の女将のいいつけで、お盆に載せたカレーライスを混雑する客席へと運ぶのであった。

 昼の休憩後、再びキメラ討伐に赴く傭兵達であったが、その頃には西瓜割り大会じたいが既に終了――すなわち、会場に用意された西瓜はほぼ全てが割られていた。
 念のため岩場や海岸の人混みに逃げ込んだ生き残りがいないか、1時間ほど捜索した後――ナタリアの判断により、本日のキメラ討伐任務は無事終了が宣言された。
 待ちに待った自由行動時間である。傭兵達はSESバットや目隠し等の貸与品を研究所スタッフに返却し、S市側のスタッフには「お疲れ様ー!」と挨拶した後、改めて海水浴場へと繰り出した。

●傭兵達の海岸物語
 シャワーでキメラの果汁を綺麗に洗い流した後、拓那と小夜子、嶺太と石榴は誘い合って波打ち際でビーチバレーに興じた。
 拓那&小夜子vs嶺太&石榴というペア対戦である。
「それじゃ、思いっきり遊びましょうか! せーのぉっ、いくよーっ?」
 元々山育ちで、これまで海にあまり縁のなかった拓那は子供のようにはしゃいでいた。
 そのせいか時々こけてザブンと海水に浸かったりするのもご愛敬。
「‥‥っぷはっ! っくぁー、海水しょっぺ〜! あ、うん、大丈夫大丈夫」
 と、照れ笑いして起き上がる。
 小夜子の方は「本気でやるより、皆さんで楽しんで打ち合えれば‥‥」という意見だったが、それだけでは面白くない、ということで一応夕食の奢りをかけた勝負となっている。ついでに嶺太からは「俺たちが勝ったら、新条に褌を履いて貰う」という妙な条件も出されていたが。

 それとは全く関係なく、試合に先立ち石榴から小夜子に対しては、
「前かがみになったりして巨乳を強調するように」
 と密かに指導が入っていた。
「でもそんな、はしたない‥‥」
「ダメダメ! 折角胸あるんだから、最大限に活かさないと! ‥‥それに、新条さんも辛抱たまらんって顔で見てるね、絶対」
「え‥‥‥‥」

 というわけで、石榴のコーチ通り小夜子はおどおどしつつもボールを拾う時などわざとゆっくり前屈みになり、胸の谷間をググっと強調。
(「ビーチバレーで揺れる胸や尻や‥‥うん、これは金を払ってでも見たいシロモノですなあ」)
「弓亜‥‥おまえ、いったい何オヤジ笑いしてるんだ?」
 と、遙かに歳上の嶺太から突っ込まれても石榴は全く気に留めず。
 そして拓那はといえば、やっぱり間近で見える小夜子のセクシーなビキニ姿に気を取られ、とても試合に集中できる状態ではない。
 勝機と見た嶺太&石榴が一気に集中攻撃で畳みかけ、ビーチバレーは年齢差チームの勝利に終わった。

 やはりグループで参加していたロジー、アンドレアス、真琴、悠も海岸に出てわいわいきゃっきゃと遊びまくっていた。
 今回の任務に合わせてか、わざわざ西瓜柄のビーチボールにビーチパラソル、浮き輪まで準備するという念の入りようである。
 アンドレアスから水鉄砲で狙われれば隙を見てぴこハンで掌を打って奪取、
「甘い‥‥ッ! ですわ」
 ころころ笑いつつ逆襲に転じる。
 そこへさらに水鉄砲を構えた真琴が乱入。
「ふふふー、隙あり★ですよっ」
 ビーチバレーに水鉄砲合戦。遊び疲れれば浮き輪につかまりぼーっと波間をたゆたったり、海の家でかき氷を食べて休憩し、またまた海へと飛び出していく。
 海外リゾートもいいが、日本の海水浴はやっぱりこれに尽きる。
「皆で遊ぶとやっぱり楽しいですね♪」
 真琴が大はしゃぎで笑った。
 途中、ロジーは悠と語らいアンドレアスと真琴が2人きりになるよう仕向けてみた。
「告白済・保留中」という微妙な関係が少しでも進展すれば‥‥という気配りであるが、今日の所は真琴の意識がすっかり海遊びレジャーモードに入ってしまっているので、残念ながら大きな収穫はなし。以下次号(?)。
 ちょっと落ち込み気味のアンドレアスを内心で応援しつつも、改めて我が身を省みた悠は、
「ううぅ‥‥やっぱ一人は寂しいよ‥‥」
 と思わずしょんぼり涙ぐむ。
 ‥‥何だか判らないけど頑張れ、篠原 悠。

 で、そんな若者達の様子を微笑ましく眺めつつ、海の家で買ったドリンク片手に源次はぶらりと海岸を散策していた。
 賑わう浜辺に、一瞬バグアとの戦争も忘れそうになる。
(「民間の人々には戦争なんて関係無い、そんな空気が似合うのか?」)
 ふと思う。
 この空気を維持する為にも、自分達は励まねばならないのだろう。
「いやいやいや‥‥夏、だなぁ‥‥」

 桜子、ヨグらとビーチボールを打ち合い遊んでいたナタリアを、少し遠くから剣一郎が手招きした。
「あら‥‥ごめんなさい。私は、ちょっと‥‥」
 桜子らに詫びて、ナタリアは剣一郎と共に人混みから離れた静かな岩場に移動した。
「ナタリアもお疲れ様。静かな場所とはいかなかったが、またこうして時間が取れたのは嬉しい事だな」
「いいえ、剣一郎さんこそ‥‥この間の水泳大会ではゆっくりお話できる暇も取れず、失礼しましたわ」
「君がスク水とは‥‥その、ちょっと珍しいな」
「あ、あのこれは‥‥たまたま、知人に勧められましたもので‥‥」
 わざわざサインペンでゼッケンに「なたりあ」と大書した紺スクの端を引っ張り、耳まで赤くなるナタリア。
 剣一郎はコホンと咳払いして気を取り直すと、手元のビーチバッグから綺麗にラッピングされた小箱を取り出した。
「忘れない内に‥‥誕生日おめでとう、ナタリア。良ければこれを受け取って欲しい」
「まあ、ありがとうございます‥‥いったい何でしょう?」
 包みを外し、小箱の中身――8月の誕生石、ペリドットの指輪を目にしたナタリアの瞳が、驚きで大きく見開かれた。
「俺の気持ちだ」
 微笑して告げる剣一郎。
「‥‥インド方面に、あのシェイドが現れたと聞きましたわ‥‥」
「ああ、俺も偵察任務で痛い目に遭ったからな。だが心配ない。前に約束した通り、必ず大切な君を守‥‥」
「そんな事じゃないんです! もっとご自分を大切になさってください!」
 青い瞳一杯に涙を溜め、ナタリアは剣一郎の胸に縋り付いていた。
「大規模戦闘の度、負傷者の中に貴方のお名前を見る度、いつも命が縮むような思いをして‥‥いえ、もちろんエースとして小隊を率いる責任とお立場は解ります。でも、せめて私のように無事なお帰りを祈るしかできない者のためにも‥‥必ず生きて帰って来る‥‥と約束してくださいますか!?」
「‥‥」
 その返答に代えるかのように、剣一郎は彼女を強く抱き寄せ、あの南洋の夜の様に唇を重ね合わせる。
 岩場に打ち付ける波の音も、海水浴客のざわめきも遠ざかり、2人はあたかも別世界にいるような気分で抱擁を交わし合った。


 やがて撤収時間の午後6時が近づき、傭兵達もそれぞれシャワーを浴びたり、水着から着替えて手荷物をまとめたりと、L・Hへの帰り支度を始めていた。
「海水浴が終わったら、ちゃんとシャワーで体を洗わないとね。さあ石動さん、隅々まで私が洗うお手伝いをしてあげる」
 女子シャワー室の一角では、小夜子と共に温水シャワーを浴びる石榴が、ボディシャンプーを両手で泡立て、みょ〜に溌剌とした表情で体のあちこちに付いた砂を洗い落としてやっていた。
「うむうむ、実にけしからんチチですな」
 豊満ボディの石榴にけしからんと誉められるのは悪い気持ちではないが、みょ〜に落ち着かない小夜子であった。

<了>