●リプレイ本文
●空母「サラスワティ」艦内
本物の艦橋をそれらしく飾り付けた「艦内司令所」セット内では、メインキャストとして呼び集められた傭兵達が、やはりエキストラ出演するプリネア側のクルー達と、間もなく始まるクライマックス・シーンの撮影について打ち合わせに入っていた。
「サイズは合ってるかな‥‥?」
UPC軍パイロットでヒロイン役のジーラ(
ga0077)は、同じくパイロット役で共演する緋霧 絢(
ga3668)、アイリス(
ga3942)らと共に、大鏡で撮影用コスチュームの着付け具合をチェックしている。
ちなみに絢の提案により、劇中のパイロットスーツは男女問わず黒をベースにアクセントとして赤を配色した、ボディラインにぴっちりフィットの全身タイツ系。
「スペースオペラという奴ですね。実に良い企画です」
どこか70年代SF映画風味のセットや小道具を見回りながら、斑鳩・八雲(
ga8672)が楽しげに頷く。
司令所オペレータ役を務める御坂 美緒(
ga0466)と急遽艦長役に指名されたマリア・クールマ(gz0092)の衣装は、ミリタリー風の超ミニスカコスである。
「このスカート‥‥ちょっと短い‥‥」
照れくさそうにスカートの裾を押さえるマリアに対し、ミニスカを活かすせくしーな演技と、高飛車な命令口調を指導する美緒。本来なら本物の艦長であるラクスミに頼むつもりだったのだが、その艦長は「大物ゲスト出演の準備」のためメイクスタッフと共に別室へ移動してしまった。
「ラクスミさんの大物役が何なのかも、とても楽しみなのです♪」
「このバグア皇帝の『???』って‥‥‥」
配られたキャスト一覧表を見て首を傾げるのアイリスをよそに、
「マリアさんのミニスカ。うんスゴクイイ」
本編の主役を演じる鈴葉・シロウ(
ga4772)は何やらひどく嬉しそうである。
やがて監督以下の撮影スタッフが現場入りし、いよいよTV映画「宇宙空母サラスワティ」はクライマックスに向けて撮影が始まった――。
●「サラスワティ」艦内司令所
地球を離れ十数万kmの宇宙空間。
「天の光は全て、とはいかないけれど。壮観だね?」
モニターに映し出される満天の星空を眺め、UPCきってのエースパイロットであり、KV部隊リーダーのシロウは口許にクールな微笑を湛えて呟いた。
「司令部より入電。バグア艦隊への先制攻撃は第1艦隊が行うため、『サラスワティ』以下の第2艦隊は別命あるまで後方で待機せよ、とのことです」
オペレーターの美緒が、UPC総本部からの通信内容を復唱する。
「そう。私たちが出る前に決着がつけばいいわね」
艦長・マリアは無表情のまま、静かに答えた。
「――だそうだ。艦長殿の指示があるまで、一服しようじゃないか」
シロウはわざと軽い口調でいうと、仲間達の緊張を解すべく1人1人の肩を叩き、声をかけて回った。
その1人、ジーラ・マールブランシュと顔を合わせた瞬間、2人は何故か気まずそうに互いの目を逸らした。彼女とは日頃ライバル同士として度々衝突する事も多かったが、その一方で、この戦争を通し互いに心惹かれ合う間柄となっていたのだ。
しかし部隊を率いるリーダーとして、今そんな個人的感情を表に出すわけにいかない。
そんなシロウに、久々の再会となる戦友の八雲が握手を求めた。
「こうして集まるのは何年ぶりでしょうね。‥‥作戦が終わったら、再会を祝して乾杯と行きましょう」
愛機ディアブロの機体カラーから「銀色の流星」の二つ名をとる彼は、元テストパイロット上がりのエースである。どんな窮地でも楽しげな微笑で冷静さを崩さない飄々とした性格は、チームのムードメーカーとして大いに頼りになる若者だ。
「前方10時、距離1万kmに敵艦隊を確認!」
オペレータ席から美緒が報告した。
●死闘! 艦隊戦
人類・バグアの戦闘は、双方の宇宙艦隊による砲撃戦で始まった。
UPC艦隊が射程距離に入るや、数十機のギガワームを主力に、その他数知れぬ大型HWで構成されるバグア軍からシャワーのごとくプロトン砲の嵐が浴びせられる。
対するUPC側も宇宙戦艦、巡洋艦、駆逐艦等計80余隻から放つメガビーム砲で応戦、たちまち両者の間に被弾大破、落伍艦が相次ぐ。
「愚かな‥‥あの程度の戦力で我が大バグアに刃向かおうとは」
ギガワーム群の中でも一際巨大な旗艦「グラン・バグア」司令室。大スクリーンに映る艦隊戦の光景を見上げつつ、長い黒マントを羽織った少年がせせら笑った。
バグア親衛艦隊司令官、明星 那由他(
ga4081)。見かけは幼い子供だが、かつてバグアに拉致され洗脳&改造手術を受けた結果、今や全人類を震え上がらせる冷酷非情な侵略者の将軍だ。
「お遊びもここまでとするか‥‥ステアー隊、発進せよ!」
「「了解アル!」」
那由他の背後にいた参謀役の双子、李・海狼、李・海花が声をハモらせて敬礼。
直ちに配下の艦隊に指示を下す。
ギガワームの底部に音もなく穴が開き、内部から量産型ステアーが続々発進した。
過去、ただ1機でUPC軍を圧倒した悪魔の戦闘機が、実に数百機。さらに幾千機とも知れぬ中小型HWの大編隊もその後に続く。
UPC艦隊は混乱に陥った。いかに高性能を誇る新鋭戦艦といえども、四方八方から雲霞のごとく押し寄せる敵機の大群を前にしては為す術もない。
「第1艦隊、通信途絶‥‥ぜ、全滅です‥‥!」
残る戦力は「サラスワティ」の他、わずか10隻の駆逐艦のみ。
恐るべしバグア艦隊! やはり地球人は、奴らの前に屈するしかないのか!?
「美緒、敵艦隊との距離を計測して。それとインドラ砲発射の準備も」
司令所の沈黙を破ったのは、相変わらず淡々としたマリアの言葉だった。
「か、艦長!? しかしあれは、まだ試射さえ済んでいない試作兵器で――」
副長のシンハ中佐が血相を変えた。
対バグア決戦兵器として開発されたものの、予測される威力が大きすぎ地上での実験ができず、試作された1門のみが「サラスワティ」に搭載されたインドラ砲。
「構わないわ。今使わないで、いったいいつ使うの?」
マリアの声はあくまで冷静だ。
「りょ、了解です。インドラ砲、発射スタンバイ――」
気を取り直した美緒の声と共に、艦内に主砲発射を告げるアラート音が鳴り響く。
空母の艦底部分が開き、内部から全長2百mにも及ぶ長大な砲身がせり出した。
「目標まで距離5千km。水平、及び垂直射角調整‥‥」
機関音の高まりと共にモニターに表示されたパワーゲージが高まっていく。ステアー、ワーム群、そしてさらにその先に浮かぶバグア遊星を射線上に捉えた瞬間――。
強大な光の奔流が宇宙空間を貫き、前方のステアー、そしてHW群を一瞬にして消し飛ばした。
「な‥‥何事だっ!?」
ホワイトアウトした大スクリーンを前に、呆然と立ちつくす那由他。
「「て、敵の新兵器アル‥‥ステアー隊全滅。ギガワームも、本艦一隻を残して‥‥」」
レーダーから状況を確認した李兄妹が、ハモりながら恐る恐る報告する。
「うぬぬ‥‥」
『那由他よ。地球人ごときに何を手こずっておる?』
スクリーンの画面が切り替わり、シルエットだけの人影が叱責した。
「へ、陛下!? 誠に申しわけ――」
『もうよいわ。その方らは本星へと戻り、わらわを守るのじゃ』
「ははっ!」
●決戦! バグア遊星
「シロウ、KV部隊発艦。遊星内部に侵入、動力炉を破壊して」
マリアの指令を受け、既に格納庫で待機していたパイロット達は直ちに各自のKVへと乗り込み、エレベータから飛行甲板へと移動する。
「ユニバーズ01より各機へ、宇宙舞踏の時間だ! 綺麗に決めろよ!」
「ここさえ落とせば‥‥行くよ皆!」
いつもの調子でジーラが返信した後、なぜかプライベート回線に切替え、シロウ1人に語りかけてきた。
「戦いが終わったら話したいことがあるから‥‥絶対に帰ってきて。じゃあ、また後で」
「話‥‥?」
だがその返答を聞く前に通信は切れ、シロウの達のKVは甲板上へ出た。
「機体コンディショングリーン、射出願います」
絢の電子戦機・岩龍改が磁力カタパルトで宇宙へと打ち出されていく。
井出 一真(
ga6977)は発艦の直前、艦橋からじっと見下ろすマリア艦長に敬礼を送った。
「この戦いが終わったら‥‥カズマ機、発進します!」
シロウの雷電がバグア遊星に接近すると、遊星表面の各所から新手のステアー、そしてFR部隊が続々と出現した。
「全機、人類の為とかじゃない。胸の中にあるものの為に戦え!」
僚機に攻撃命令を下すなり、シロウ自身もH−12ミサイルをマルチロックオン。宙戦用に性能アップされた45発のミサイルが各々独自の目標を追尾し、群がるステアー群を宇宙の塵と変えていく。
光学迷彩をまとったFRが忍びより絢機をプロトン砲で狙撃。KVレッドマントで第2射を跳ね返した岩龍改は、星空を過ぎる影から敵の位置を突き止めソードウィングで返り討ちにした。
「装甲表面損傷、このくらいなら心配は無いですね」
だが迎撃機も後から後から際限なく上がってくる。
「数が多すぎですよ〜。このままじゃ、押し負けちゃうですよ」
アイリスの通信もさすがに焦りを帯びてきた。
「スラスターが損傷しました、貴方達は先に‥‥壁役くらいはお任せ下さい」
敵機のミサイルを被弾した絢が、僚機に通信を送る。
「緋霧!? しかし、おまえ1人じゃ‥‥」
「ならおつきあいしましょう。皆さん、ここは僕らに任せて前へ!」
絢と八雲の決意を汲んだシロウ以下のKV部隊は、2人を残しインドラ砲が遊星表面に穿った被弾口より内部に突入した。
遊星内部では無数のゴーレム隊が待ちかまえていた。さらに那由他は李兄妹を引き連れ、鹵獲機体を改造した黒塗りのLM−01で壁際から攻撃してくる。
「この地を貴様らの墓標としてくれるわ!」
「時間をかければ、こちらが不利なのです。一気に行くですよ〜」
アイリス、カズマは遊星中心の動力炉破壊へ。そしてシロウとジーラは、バグア皇帝の居城があると思しき区画へと分かれて向かった。
「こんな所で立ち止まっている時間はないんだ!」
立ちふさがるゴーレムをチェンソーで一刀両断、さらに隔壁にドリルで穴をあけ、カズマはアイリスと共に動力炉目指して突き進む。
妨害する敵機を次々撃破したシロウとジーラは、ついに皇帝の居城へたどりついた。
おどろおどろしくデザインされた宮殿の中央で待ち受けていたのは、陸戦形態シェイドに乗り込んだ大バグア帝国皇帝、ラクスミ・バグアームであった。
「ワハハハ! 地球人の分際でここまで来たのは誉めてやろう。じゃがわらわは」
‥‥とまあ、この後お約束の「ラスボス演説」が延々と続くのだが以下略。
「お前らの言など知ったことか。俺たちの明日への切符は白紙なんだ。明日を夢見て未来に思いを馳せる。だから人生は美しい! とお婆ちゃんが言っていた!」
高笑いして迫るラクスミに、シロウが反駁した。
ジーラの方をちらっと見やり、
「惚れた女を守る! ついでに地球も守る! オマケで人類丸ごと守れれば最高じゃないか!」
ラクスミ操るシェイドに、シロウの雷電、ジーラのアンジェリカが戦いを挑む。
だが最強の敵を相手に、ここに来るまで少なからぬ損傷を被っている2人の不利は明らかだ。
「残弾数もエネルギーも少ない‥‥だから次に賭けよう。ボクが装甲に一発デカいのを入れて破る、キミはそこを狙って‥‥二人なら、きっと勝てる!」
ジーラが提案した。弾幕を張りながら近づき、エンハンサーを発動させた雪村で装甲を叩き斬る。そこにシロウの一撃、という作戦である。
「――よし。やってやるぜ!」
シロウは雷電のグングニルを構え直し、残る練力の全てを注ぎ込んだ。
その頃、辛うじて動力室占拠に成功したカズマは、入り口でアイリスが敵軍の猛攻を食い止めている間、動力炉破壊工作を急いでいた。
この時のために時限式スーパーフレア弾を用意してきたのだが、あいにく戦闘中に肝心の時限装置を損傷してしまったのだ。
残る手段は手動爆発のみ。だが表向き何食わぬ顔で、
「準備完了! 急いで退避して下さ――」
その瞬間、ゴーレム部隊の放ったミサイルを受けたアイリス機が爆発と共に倒れた。
「‥‥もう一度、あの空を飛びたかったですよ」
独り残されたカズマは、震える指を爆破スイッチにかける。
「はは‥‥参ったなあ。こんなことならきちんと伝えておけば良かった‥‥」
寂しげに笑う彼の脳裏に「あの人」の面影が浮かぶ。
最後に呟いた名前は、フレア弾の閃光にかき消された。
「ま、まさか‥‥このわらわが‥‥」
黒煙を噴き上げ、ラクスミのシェイドがくずおれる。
だがその一撃と引き替えに、シロウ機もまた大破して倒れていた。
「シロウっ!?」
叫びながらKVで駆け寄るジーラの目に、額から血を流しつつもサムズアップするシロウの姿が映る。
「馬鹿シロウ‥‥君がいなくなったら意味がないんだから心配させないでよ‥‥」
涙を拭いつつもジーラが微笑んだ、その瞬間。
轟音と共に、大きく皇帝の居城が揺らいだ。
動力炉の破壊から連鎖的に爆発が発生し、今や小さな太陽と化したバグア遊星の最期は、「サラスワティ」司令所のモニターからもはっきりと見えた。
人類の勝利――だが払われた代償の大きさに、クルー達の表情は重い。
「‥‥生存者は?」
「緋霧、斑鳩両名は、先ほど駆逐艦に救助されました。ですが、他のパイロットはおそらく‥‥」
マリアの質問に、泣きそうな顔で答える美緒。
「諦めないで。捜索を続行するのよ」
そのとき司令所のレーダースクリーンに、宇宙空間を漂うKVの機影が映った。
「え? アンジェリカ‥‥生命反応確認、しかも2人分です!」
嬉々とした美緒の声に被り、アンジェリカからの通信が飛び込んだ。
『‥‥シロウ。話したいことだけど。ボクは、キミのことが――』
ジーラとシロウの会話。どうやら、回線がオープンなのを忘れているらしい。
司令所の中が、一斉に歓喜と笑いに包まれた。
「バカね‥‥」
ぎこちなく微笑を浮かべたマリアの瞳にも、うっすら涙が浮かぶ。
時に200X年。かくして人類はバグアの侵略を退けた――。
撮影終了後、艦内食堂を会場に撮影スタッフと傭兵、クルー達を交えた打ち上げパーティーが開かれた。
「ううっ、騙された‥‥なぜわらわが悪役なのじゃ」
ジュース片手にがっくり落ち込むラクスミだが、
「お疲れ様でしたですよ〜。王女様のバグア皇帝格好良かったのです」
とアイリスに誉められ、
「うむうむ、そうか? そうであろう♪」
コロっと機嫌を直す。
余談ながら本作のプリネア国内放映時、「あまりに不敬である」との理由から、ラクスミ登場シーンは全て顔にモザイクがかけられていたという。
<了>